(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記治具の前記マイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、前記被加工材料の前記垂直な方向の断面外周形状と同じであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の成膜装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した特許文献1に開示された技術では、被加工材料の表面全体に成膜処理される膜は、3次元形状に成膜されるため、被加工材料の処理表面に熱電対を接触させた場合には、熱電対が接触した部分には成膜されなくなる。更に、熱電対に沿ってプラズマが伸長する可能性があり、エネルギーと原料ガスの損失につながる。このため、成膜中における被加工材料の処理表面の表面温度の測定には、熱電対を用いることができず、非接触で表面温度を測定できる放射温度計が用いられることが望ましい。
【0007】
金属等の導電性基材からなる被加工材料の処理表面にダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」という。)膜が成膜される場合には、放射率が小さい金属表面に放射率が大きなDLC膜等の膜が成膜される。このため、放射温度計において測定された赤外線の強度と、予め設定された導電性基材の放射率とに基づき表面温度が算出されると、被加工材料の実際の処理表面の表面温度と差が生じる。これは、成膜処理時間の経過と共に放射温度計において測定されるDLC膜からの赤外線の割合が増え、DLC膜からの赤外線の強度が金属基材の放射率で換算されて、表面温度が算出されるからである。
【0008】
この結果、放射温度計からの出力温度が、被加工材料の実際の処理表面の表面温度よりも高くなる場合は、温度上昇を抑えるため、成膜速度を必要以上に低くして成膜が行われる必要がある。これにより成膜時間が増大し、生産効率が低下する。逆に、放射温度計からの出力温度が、被加工材料の実際の処理表面の表面温度よりも低くなる場合は、この低い出力温度に基づいて成膜処理が行われると、例えば、焼き鈍りによる被加工材料の硬度低下が生じる虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、成膜中における被加工材料の表面温度を、放射温度計を用いて低誤差で測定することが可能となる成膜装置及び治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため請求項1に係る成膜装置は、導電性を有する被加工材料を内部に配置可能な処理容器と、前記処理容器に原料ガスと不活性ガスとを供給するガス供給部と、前記被加工材料の処理表面に沿ってプラズマを生成させるためのマイクロ波を供給するマイクロ波供給部と、前記被加工材料の処理表面に沿うシース層を拡大させる負のバイアス電圧を前記被加工材料に印加する負電圧印加部と、前記マイクロ波供給部から供給されるマイクロ波を拡大された前記シース層へ伝搬させるマイクロ波供給口と、前記負電圧印加部によって印加される負のバイアス電圧を前記被加工材料に印加させる負電極部材と、前記マイクロ波供給口と前記負電極部材との少なくとも一方と、前記被加工材料との間に配置されて、前記被加工材料に取り付けられる治具と、前記処理容器に設けられた窓部の外側に配置された放射温度計と、を備え、前記被加工材料に取り付けられる前記治具のうち、少なくとも一の前記治具は、前記放射温度計によって測定される温度測定領域を有し、前記放射温度計によって測定される前記温度測定領域の測定面は、前記被加工材料の処理表面に成膜される皮膜の放射率、又は前記皮膜の放射率
に対して±0.1内の放射率を有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る成膜装置は、請求項1に記載の成膜装置において、前記温度測定領域は、前記マイクロ波供給口と前記被加工材料との間に配置される前記治具に設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る成膜装置は、請求項1又は請求項2に記載の成膜装置において、前記温度測定領域は、前記被加工材料の延長線上に沿って設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る成膜装置は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の成膜装置において、前記治具の前記マイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、前記被加工材料の前記垂直な方向の断面外周形状と同じであることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る成膜装置は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の成膜装置において、前記温度測定領域は、前記放射温度計の測定方向に対して垂直な平面部を有していることを特徴とする。
【0015】
更に、請求項6に係る成膜装置は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の成膜装置において、前記皮膜は、ダイヤモンドライクカーボン膜であることを特徴とする。
【0017】
また、請求項
7に係る成膜装置は、導電性を有する被加工材料を内部に配置可能な処理容器と、前記処理容器に原料ガスと不活性ガスとを供給するガス供給部と、前記被加工材料の処理表面に沿ってプラズマを生成させるためのマイクロ波を供給するマイクロ波供給部と、前記被加工材料の処理表面に沿うシース層を拡大させる負のバイアス電圧を前記被加工材料に印加する負電圧印加部と、前記マイクロ波供給部から供給されるマイクロ波を拡大された前記シース層へ伝搬させるマイクロ波供給口と、前記負電圧印加部によって印加される負のバイアス電圧を前記被加工材料に印加させる負電極部材と、前記処理容器に設けられた窓部の外側に配置された放射温度計と、を備え、前記負電極部材は、前記放射温度計によって測定される温度測定領域を有し、前記放射温度計によって測定される前記温度測定領域の測定面は、前記被加工材料の処理表面に成膜される皮膜の放射率、又は前記皮膜の放射率
に対して±0.1内の放射率を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に係る成膜装置では、治具は、マイクロ波供給口と負電極部材との少なくとも一方と、被加工材料との間に配置されて、被加工材料に取り付けられる。この治具には、放射温度計によって測定される温度測定領域が設けられている。温度測定領域は、放射温度計によって測定される測定面が、被加工材料の処理表面に成膜される皮膜と同じ放射率、又は
皮膜の放射率に対して±0.1内の放射率を有している。
【0019】
これにより、治具に設けられた温度測定領域を、放射温度計によって温度測定領域の放射率で測定することによって、治具を放射温度計によって治具の放射率で測定した場合よりも低誤差で測定することが可能となる。即ち、成膜処理中における被加工材料の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【0020】
また、請求項2に係る成膜装置では、例えば、マイクロ波を負電圧印加に対して先行するように供給するとき等、マイクロ波供給口の方にマイクロ波が集中する場合は、マイクロ波供給口に近い位置に配置される治具の表面温度の方が、被加工材料の表面温度よりも高くなる。このため、温度測定領域をマイクロ波供給口に近い位置に配置される治具に設けることによって、放射温度計で成膜処理中における被加工材料の表面温度を更に正確に測定をすることができる。
【0021】
また、請求項3に係る成膜装置では、温度測定領域を被加工材料の延長線上に沿って設けることにより、被加工材料の処理表面を通過する表面波と同じ経路上に温度測定領域を配置することができ、被加工材料の表面温度により近い表面温度を測定することができる。
【0022】
また、請求項4に係る成膜装置では、治具のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、被加工材料のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状と同じであるため、マイクロ波供給口から供給されるマイクロ波の表面波が反射、散乱されにくく、治具の表面温度と被加工材料の表面温度とがより同じになりやすい。この結果、放射温度計によって治具の温度測定領域を測定することによって、被加工材料の処理表面の正確な表面温度を測定することができる。
【0023】
また、請求項5に係る成膜装置では、温度測定領域は、放射温度計の測定方向に対して垂直な平面部を有しているため、放射温度計による測定誤差の更なる低減化を図ることができる。
【0024】
更に、請求項6に係る成膜装置では、被加工材料の処理表面に成膜される皮膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜である。従って、被加工材料の処理表面に成膜される皮膜の放射率、又は皮膜の放射率と同等の放射率を有する温度測定領域の測定面は、DLC膜の放射率、又は、DLC膜と同等の放射率を有する。この温度測定領域を、放射温度計によってDLC膜の放射率で測定することによって、成膜処理中における被加工材料の処理表面の表面温度を低誤差で測定をすることができる。
【0027】
請求項
7に係る成膜装置では、負のバイアス電圧を被加工材料に印加させる負電極部材には、放射温度計によって測定される温度測定領域が設けられている。また、温度測定領域は、放射温度計によって測定される測定面が、被加工材料の処理表面に成膜される皮膜と同じ放射率、又は
皮膜の放射率に対して±0.1内の放射率を有している。
【0028】
これにより、負電極部材に設けられた温度測定領域を、放射温度計によって温度測定領域の放射率で測定することによって、負電極部材を放射温度計によって負電極部材の放射率で測定した場合よりも低誤差で測定することが可能となる。即ち、成膜処理中における被加工材料の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る成膜装置について具体化した第1実施形態乃至第3実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、第1実施形態に係る成膜装置1の概略構成について
図1乃至
図6に基づいて説明する。
【0031】
[第1実施形態]
図1に示すように、第1実施形態に係る成膜装置1は、処理容器2、真空ポンプ3、ガス供給部5、及び制御部6等から構成されている。処理容器2は、ステンレス等の金属製であって、気密構造の処理容器である。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。処理容器2の内部には、成膜対象である導電性を有する被加工材料8が、ステンレスや低温焼戻し鋼等で形成された導電性を有する保持治具9により保持されている。保持治具9は本発明の治具の一例である。
【0032】
被加工材料8の材質は、表面が導電性を有していれば、特に限定されるものではないが、第1実施形態では低温焼戻し鋼である。ここで低温焼戻し鋼とは、JIS G4051(機械構造用炭素鋼鋼材)、G4401(炭素工具鋼鋼材)、G44−4(合金工具用鋼材)、又はマルエージング鋼材などの材料である。被加工材料8は、低温焼戻し鋼以外にも、セラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされているものでもよい。
【0033】
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスと不活性ガスとを供給する。具体的には、He、Ne、Ar、Kr、またはXeなどの不活性ガスとCH
4、C
2H
2、又はTMS(テトラメチルシラン)等の原料ガスとが供給される。第1実施形態では、C
2H
2、CH
4、およびTMSの原料ガスにより被加工材料8がDLC成膜処理されるとして説明する。
【0034】
ガス供給部5から供給される原料ガス、および不活性ガスの流量、および圧力が制御部6を介して制御されてもよいし、作業者により制御されてもよい。原料ガスは、アルキン、アルケン、アルカン、芳香族化合物などのCH結合を有する化合物、または炭素が含まれる化合物が含まれるガスであればよい。H
2が原料ガスに含まれてもよい。
【0035】
処理容器2の内部に保持された被加工材料8に対してDLC成膜処理を行うためのプラズマが発生される。このプラズマは、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、負電圧電源15、及び負電圧パルス発生部16により発生される。第1実施形態では、特開2004−47207号公報に開示された方法(以下、「MVP法(Microwave sheath−Voltage combination Plasma法)」という。)により表面波励起プラズマが発生されるとして説明する。以降の記載では、MVP法を説明する。
【0036】
マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、パルス信号を発振し、この発振したパルス信号をマイクロ波発振器12へ供給する。マイクロ波発振器12は、マイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、マイクロ波パルスを発生する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、指示された出力で2.45GHzのマイクロ波を発振するマイクロ波発振器12へ電力を供給する。つまり、マイクロ波発振器12は、2.45GHzのマイクロ波をマイクロ波パルス制御部11からのパルス信号に従って、パルス状のマイクロ波パルスで後述するアイソレータ17に供給する。
【0037】
マイクロ波パルスは、マイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、導波管19から図示されない同軸導波管変換器を介して突設された同軸導波管21、及び石英などのマイクロ波を透過する誘電体等からなるマイクロ波供給口22を経由し、保持治具9及び被加工材料8の処理表面に供給される。アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐものである。チューナー18は、マイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合するものである。
【0038】
マイクロ波供給口22の上端面22Aを除く外周面は、ステンレス等の金属で形成された側面導体23で被覆されている。側面導体23は、処理容器2の内側面にネジ止め等によって固定され、電気的に処理容器2に接続されている。マイクロ波供給口22の中央には同軸導波管21の中心導体が延長されている。また、被加工材料8に効率よく表面波を伝搬させるには、同軸導波管21の中心導体の延長として被加工材料8を配置することが必要となる。このため、保持治具9も同軸導波管21の中心導体の延長上に配置され、保持治具9は、マイクロ波供給口22内では中心導体となる。従って、マイクロ波供給口22の中心導体と側面導体23とで同軸導波管として機能する。
【0039】
このため、マイクロ波供給口22に供給されたマイクロ波パルスによって、保持治具9が設けられた上端面22A付近にマイクロ波が伝搬してプラズマが生成される。マイクロ波供給口22の中心導体と保持治具9との間には、真空を保持するため、これらの間に石英等の誘電体が配置されている。尚、同軸導波管21の中心導体の外周部と石英等の誘電体とが、真空を保つように密着されている場合には、同軸導波管21の中心導体と保持治具9との間が貫通していてもよい。被加工材料8は、例えば棒状であり、マイクロ波供給口22の中心導体の延長線上に配置される。
【0040】
被加工材料8は、被加工材料8を保持する保持治具9からマイクロ波供給口22に対して処理容器2の内側に向かって突出するように配置されている。保持治具9は、マイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、被加工材料8のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状と同じになるように形成されている。マイクロ波の進行方向は、
図1及び
図2に示す上下方向である。マイクロ波の進行方向に垂直な方向は、
図1に示す左右方向である。
【0041】
例えば、
図2乃至
図4に示すように、保持治具9のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状9Aは、被加工材料8のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状8Aにほぼ等しい外径の円形状に形成されている。つまり、保持治具9は、被加工材料8の外径にほぼ等しい外径の円柱状に形成されている。
【0042】
保持治具9は、上端面9Bの中央部に立設された断面円形の細い軸部91が、被加工材料8の下端面の中央部に形成された断面円形の凹部81内に嵌入されることにより、被加工材料8を保持するように構成されている。保持治具9は、マイクロ波供給口22の上端面22Aの中央部に着脱可能に取り付けられている。被加工材料8の上端部には、負のバイアス電圧パルスを印加するための負電極部材の一例としての負電圧電極25が、被加工材料8の上端部に電気的に接続される。
【0043】
負電圧電源15は、制御部6の指示に従い、負電圧パルス発生部16に負のバイアス電圧を供給する。負電圧パルス発生部16は、負電圧電源15から供給された負のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、負電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、負のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及び、デューティ比を制御する処理である。このパルス状の負のバイアス電圧である負のバイアス電圧パルスが、処理容器2の内部に保持された被加工材料8に負電圧電極25を介して印加される。
【0044】
即ち、被加工材料8が、金属基材の場合、またはセラミック、または樹脂に導電性の材料がコーティングされた場合であっても、被加工材料8の少なくとも処理表面全域に負のバイアス電圧パルスが印加される。保持治具9の表面全域にも被加工材料8を介して負のバイアス電圧パルスが印加される。
【0045】
発生されたマイクロ波パルス、および負のバイアス電圧パルスの少なくとも一部が同一時間に印加されるように制御されることにより表面波励起プラズマ28が発生される。マイクロ波は2.45GHzに限らず、0.3GHz〜50GHzの周波数であればよい。負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16が本発明の負電圧印加部の一例である。
【0046】
マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、及び同軸導波管21が本発明のマイクロ波供給部の一例である。尚、成膜装置1は負電圧電源15、および負電圧パルス発生部16を備えたが、更に正電圧電源、および正電圧パルス発生部を備えてもよいし、負電圧パルス発生部16の代わりに、パルス状の負のバイアス電圧でなく、連続する負のバイアス電圧を印加する負電圧発生部を備えてもよい。
【0047】
処理容器2の側壁に設けられた石英窓27の外側近傍の位置に、放射温度計29が配置されている。放射温度計29は、保持治具9の外周面に設けられた温度測定領域92の表面温度を連続的に検出する。放射温度計29は、制御部6に電気的に接続される。放射温度計29は、温度測定領域92からの赤外線を受信し、受信された赤外線の強度を算出する。算出した赤外線の強度から温度測定領域92の表面温度を算出する。放射温度計29は、算出した温度測定領域92の温度情報を制御部6に出力する。これ以外にも、放射温度計29は、温度測定領域92からの赤外線を受信し、受信された赤外線の強度を算出する。放射温度計29は算出された赤外線の強度情報を制御部6に出力する。制御部6は、入力された赤外線の強度情報に基づき、温度測定領域92の表面温度を算出してもよい。
【0048】
制御部6は、放射温度計29が受信した赤外線の強度に従う温度測定領域92の表面温度に基づいて、被加工材料8の成膜処理による硬度低下の有無等を判定して、液晶ディスプレイ(LCD)30に表示する。
【0049】
制御部6は、負電圧電源15とマイクロ波電源13に制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と負電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、負電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力することによって、パルス状の負のバイアス電圧パルスの印加タイミング、供給電圧、及びマイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、及び供給電力を制御する。
【0050】
制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。制御部6は、処理容器2に取り付けられた真空計26から入力される処理容器2内の圧力を表す圧力信号に基づいて、制御信号を圧力調整バルブ7に出力して、処理容器2内の圧力を制御する。
【0051】
[表面波励起プラズマの説明]
通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、これに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、この界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性材料に換えた場合、導電性材料は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
【0052】
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、いわゆるシース層が形成される。物体が、負のバイアス電圧を加えた導電性を有する被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、すなわち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においてはほぼ比誘電率ε≒1の層である。このため、印加する負のバイアス電圧の絶対値を例えば−100Vの絶対値より大きくすることによりシース層のシース厚さを厚くできる。すなわちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。
【0053】
従って、被加工材料8を保持する保持治具9の一端に近接して配置されたマイクロ波供給口22からマイクロ波が供給され、かつ被加工材料8及び保持治具9に負のバイアス電圧が印加されると、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8及び保持治具9の表面に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上述した表面波励起プラズマ28である。
【0054】
このような被加工材料8の表面の近傍での表面波励起による高密度プラズマの電子密度は10
11〜10
12cm
―3に達する。このMVP法を用いたプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合は、通常のプラズマCVDによりDLC成膜処理される場合よりも1桁から2桁高い成膜速度3〜30(ナノm/秒)が得られるので高速成膜が可能である。
【0055】
このMVP法では、金属基材である被加工材料8及び保持治具9の表面近傍に高密度励起プラズマを発生させるので、被加工材料8及び保持治具9の表面温度が上昇しやすい(例えば、約250℃〜約320℃である。)。但し、高速成膜が可能であるため、成膜時間は通常のプラズマCVDの成膜時間の1/10〜1/100となる。即ち、成膜時間を数十秒〜数分に短縮できるので、被加工材料8の表面温度が焼き戻し温度を超えても、被加工材料8の軟化を抑制することができる。このような成膜時間が短い高速成膜において、被加工材料8の処理表面の表面温度を低誤差で測定することが重要となる。
【0056】
ここで、放射温度計29によって表面温度を測定される保持治具9の温度測定領域92について
図2乃至
図6に基づいて説明する。
図2に示すように、温度測定領域92は、保持治具9の外周面に、例えば、正面視略四角形に窪むように形成される。放射温度計29の測定方向93に対して垂直な平面部95が、測定面として正面視略四角形の窪みの底面に形成されている。保持治具9は、被加工材料8の外径とほぼ等しい外径の円柱状に形成されているため、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って設けられている。
【0057】
これにより、被加工材料8の表面に沿って伝搬する表面波と同じ状態の表面波が保持治具9の表面にも伝搬する。即ち、被加工材料8における表面波伝搬特性が維持されたまま延長された位置に温度測定領域92が設けられている。よって、表面波によって励起された高密度プラズマによる温度測定領域92も被加工材料8の表面と同じように加熱される。保持治具9の温度測定領域92と被加工材料8との間の部分に、急激な形状の変化等があると表面波の反射等が生じ、被加工材料8における表面波伝搬特性が保持治具9の温度測定領域92において維持されなくなる。
【0058】
平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、厚さ0.5μm〜1μmの厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成されている。皮膜95Aの厚さを0.5μm以上とすることによって、放射温度計29の温度測定における平面部95の金属基材からの赤外線放射量の影響を抑制することができる。これにより、放射温度計29は、平面部95の放射率を皮膜95Aの放射率、つまり、DLC膜の放射率(例えば、放射率0.9である。)に設定して温度測定することが可能となる。
【0059】
尚、DLC膜に替えて、DLC膜と同等の放射率(例えば、放射率0.8〜1.0である。)を有する皮膜、例えば、炭化ケイ素、NiO、CuO等の皮膜を、厚さ0.5μm以上の厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成するようにしてもよい。これにより、放射温度計29は、平面部95の放射率を皮膜95Aの放射率、つまり、DLC膜の放射率に設定して、低誤差で成膜処理中における温度測定することが可能となる。
【0060】
温度測定領域92の平面部95とほぼ同じ大きさのステンレスや低温焼き戻し鋼等の導電性を有する薄板の表面に、DLC膜の皮膜、又は、DLC膜と同等の放射率(例えば、放射率0.8〜1.0である。)を有する皮膜、例えば、炭化ケイ素、NiO、CuO等の皮膜を、厚さ0.5μm以上の厚さで、全面に渡って予め形成するようにしてもよい。そして、この薄板を保持治具9の温度測定領域92の平面部95上に取り付けるようにしてもよい。
【0061】
ここで、温度測定領域92を配置するマイクロ波供給口22の上端面22Aからの高さについて
図5に基づいて説明する。
図5は、一例として、マイクロ波供給口22の上端面22Aから40mmの高さに設定された保持治具9の上端面9Bに、長さ60mmの被加工材料8を保持した状態で、DLC膜の成膜時における被加工材料8の上端からの各位置における表面温度の測定結果の一例を示す。つまり、
図5の横軸は、被加工材料8の上端からの距離である。尚、被加工材料8及び保持治具9の全表面にDLC膜が成膜された状態で、被加工材料8の上端からの各位置における表面温度を放射温度計29で測定した。
【0062】
図5に示すように、被加工材料8の上端からマイクロ波供給口22の上端面22A側へ約60mmの位置までの被加工材料8の表面温度は、245℃〜255℃でほぼ一定温度である。そして、被加工材料8の上端から約60mmの位置から約80mmまでの保持治具9の表面温度は、255℃から300℃まで上昇している。更に、被加工材料8の上端から約80mmの位置から100mm、つまり、約80mmの位置からマイクロ波供給口22の上端面22Aまでの保持治具9の表面温度は、300℃〜320℃である。
【0063】
マイクロ波を負のバイアス電圧パルスの印加に対して先行するように供給するとき等、マイクロ波供給口22の方にマイクロ波が集中する場合は、マイクロ波供給口22の上端面22Aに近い位置に配置される保持治具9の表面温度の方が、被加工材料8の表面温度よりも高くなる。従って、温度測定領域92は、マイクロ波供給口22と被加工材料8との間に配置される保持治具9に形成されるのが望ましい。更に、温度測定領域92は、マイクロ波供給口22と被加工材料8との間に配置される保持治具9の外周面において、被加工材料8のマイクロ波供給口22側の端面になるべく近い位置に設けることが望ましい。これにより、放射温度計29によって、DLC膜の成膜時における被加工材料8の高温部の表面温度を測定することが可能となる。
【0064】
次に、放射温度計29における測定波長帯の中心波長を4μm、放射率を0.9として、300℃の各種放射率の物体の表面温度を測定する際の、各物体の放射率に対する温度誤差[℃]をシミュレーションした
図6に基づいて説明する。
図6に示すように、放射率が0.2である物体表面の表面温度を測定した場合には、約180℃の温度誤差が生じている。従って、放射温度計29の放射率を0.9に設定して、成膜処理中における保持治具9の温度測定領域92の表面温度を測定する際、温度測定領域92にDLC膜と同等の放射率を有する皮膜が形成されていない場合には、約180度の温度誤差を生じる可能性がある。
【0065】
一方、温度測定領域92の平面部95の放射率が0.9±0.1の場合には、放射温度計29の放射率を0.9に設定して、成膜処理中の表面温度を測定すると、表面温度の温度誤差を10℃以下にすることが可能となる。
従って、温度測定領域92の平面部95に、DLC膜や炭化ケイ素、NiO、CuO等の皮膜を、厚さ0.5μm以上の厚さで、全面に渡って予め形成する。そして、放射温度計29の放射率を0.9に設定して成膜処理中の温度測定領域92の表面温度を測定した場合には、表面温度の温度誤差を10℃以下にすることが可能となる。
【0066】
以上詳細に説明した通り、第1実施形態に係る成膜装置1では、保持治具9には、放射温度計29によって測定される温度測定領域92が設けられている。また、温度測定領域92の平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、厚さ0.5μm以上の厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成されている。これにより、温度測定領域92の平面部95の放射率を被加工材料8の処理表面に成膜されるDLC膜と同じ放射率にすることができる。従って、制御部6は、放射温度計29によって、保持治具9に設けられた温度測定領域92をDLC膜の放射率で測定することにより、保持治具9の金属基材の放射率で測定した場合よりも低誤差で測定することが可能となる。つまり、制御部6は被加工材料8の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【0067】
また、マイクロ波供給口22の方にマイクロ波が集中する場合は、マイクロ波供給口22側の被加工材料8の表面温度の方が、負電圧電極25側の被加工材料8の表面温度よりも高くなる可能性がある。このため、温度測定領域92をマイクロ波供給口22に近い位置に配置される保持治具9に設けることによって、放射温度計29で被加工材料8の成膜処理中における表面温度を正確に測定することができる。
【0068】
また、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って保持治具9に設けられているため、被加工材料8の処理表面に沿って伝搬する表面波が温度測定領域92の表面にも伝搬する。即ち、被加工材料8の表面における表面波伝搬特性で、温度測定領域92を被加工材料8の表面と同じ様に高密度プラズマによって加熱することができるため、放射温度計29によって、被加工材料8の表面温度により近い表面温度を測定することができる。
【0069】
また、保持治具9は、被加工材料8の外径にほぼ等しい外径の円柱状に形成されているため、被加工材料8と保持治具9とは段差を形成しないよう連続的に連結される。これにより、マイクロ波供給口22から供給されるマイクロ波の表面波が反射、散乱されにくく、保持治具9の表面温度と被加工材料8の表面温度とがより同じになりやすい。この結果、放射温度計29によって保持治具9の温度測定領域92を測定することによって、被加工材料8の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【0070】
また、温度測定領域92の平面部95は、放射温度計29の測定方向93に対して垂直なため、放射温度計29による温度測定領域92の温度測定の測定誤差の更なる低減化を図ることができる。
【0071】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る成膜装置41について
図7に基づいて説明する。尚、以下の説明において上記
図1乃至
図6の第1実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一符号は、第1実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
第2実施形態に係る成膜装置41の概略構成は、第1実施形態に係る成膜装置1とほぼ同じ構成である。
【0072】
但し、
図7に示すように、放射温度計29によって表面温度を測定される温度測定領域92が、保持治具9に替えて、負電圧電極25に設けられている。この負電圧電極25に設けられた温度測定領域92は、負電圧電極25の外周面に正面視略四角形に窪むように形成され、放射温度計29の測定方向93に対して垂直な平面部95が、測定面として底面に形成されている。
【0073】
負電圧電極25は、マイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、被加工材料8のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状と同じになるように形成されている。例えば、負電圧電極25は、被加工材料8の外径にほぼ等しい外径の円柱状に形成されている。従って、負電圧電極25は、被加工材料8の外径とほぼ等しい外径の円柱状に形成されているため、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って設けられている。
【0074】
また、平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、厚さ0.5μm以上の厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成されている。これにより、放射温度計29は、平面部95の放射率を皮膜95Aの放射率、つまり、DLC膜の放射率に設定して温度測定をすることが可能となる。
【0075】
以上詳細に説明した通り、第2実施形態に係る成膜装置41では、負電圧電極25には、放射温度計29によって測定される温度測定領域92が設けられている。また、温度測定領域92の平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、平面部95の全面に渡って予め形成されている。
【0076】
これにより、温度測定領域92の平面部95の放射率を被加工材料8の処理表面に成膜されるDLC膜と同じ放射率にすることができる。従って、制御部6は、放射温度計29によって、負電圧電極25に設けられた温度測定領域92をDLC膜の放射率で測定することによって、負電圧電極25の金属基材の放射率で測定した場合よりも低誤差で測定することが可能となる。つまり、制御部6は被加工材料8の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【0077】
また、被加工材料8を不図示の取付治具を介して保持治具9に取り付けた場合には、マイクロ波が負電圧電極25の方に集中して、負電圧電極25側の被加工材料8の表面温度の方が、マイクロ波供給口22側の被加工材料8の表面温度よりも高くなることがある。このような場合には、温度測定領域92を負電圧電極25に設けることによって、放射温度計29で被加工材料8の成膜処理中における表面温度を正確に測定することができる。
【0078】
また、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って負電圧電極25に設けられているため、被加工材料8の処理表面に沿って伝搬する表面波が温度測定領域92の表面にも伝搬する。即ち、被加工材料8の表面における表面波伝搬特性で、温度測定領域92を被加工材料8の表面と同じ様に高密度プラズマによって加熱することができるため、放射温度計29によって、被加工材料8の表面温度により近い表面温度を測定することができる。また、温度測定領域92の平面部95は、放射温度計29の測定方向93に対して垂直なため、放射温度計29による温度測定領域92の温度測定の測定誤差の更なる低減化を図ることができる。
【0079】
尚、温度測定領域92を保持治具9と負電圧電極25のそれぞれの外周面に設け、成膜処理中において、いずれかのうち、表面温度の高くなる方に設けられた温度測定領域92を放射温度計29によって測定するようにしてもよい。これにより、放射温度計29で被加工材料8の成膜処理中における高温部の表面温度を正確に測定することが可能となる。
【0080】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る成膜装置51について
図8に基づいて説明する。尚、以下の説明において上記
図1乃至
図6の第1実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一符号は、第1実施形態に係る成膜装置1の構成等と同一あるいは相当部分を示すものである。
第3実施形態に係る成膜装置51の概略構成は、第1実施形態に係る成膜装置1とほぼ同じ構成である。
【0081】
但し、
図8に示すように、被加工材料8と負電圧電極25との間に、ステンレスや低温焼戻し鋼等で形成された導電性を有する負電圧印加治具52が設けられている。負電圧印加治具52は、被加工材料8に対して処理容器2の内側に向かって突出するように同軸上に配置され、被加工材料8の先端部に着脱可能に取り付けられている。また、負電圧印加治具52は、マイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状が、被加工材料8のマイクロ波の進行方向に垂直な方向の断面外周形状と同じになるように形成されている。負電圧印加治具52は本発明の治具の一例である。
【0082】
具体的には、負電圧印加治具52は、被加工材料8の外径にほぼ等しい外径の円柱状に形成されている。また、負電圧印加治具52は、下端面の中央部に立設された断面円形の細い軸部53が、被加工材料8の上端面の中央部に形成された断面円形の凹部82に嵌入されることにより、着脱可能に取り付けられている。
【0083】
また、負電圧印加治具52の先端部には、負のバイアス電圧パルスを印加するための負電圧電極25が、負電圧印加治具52に対して処理容器2の内側に向かって突出するように同軸上に配置され、負電圧印加治具52の先端部に電気的に接続されている。従って、負電圧印加治具52及び負電圧電極25は、被加工材料8の外径にほぼ等しい外径の円柱状に形成されているため、被加工材料8の先端部に対して段差を形成しないよう連続的に連結される。
【0084】
また、
図8に示すように、放射温度計29によって表面温度を測定される温度測定領域92が、保持治具9に替えて、負電圧印加治具52に設けられている。この負電圧印加治具52に設けられた温度測定領域92は、負電圧印加治具52の外周面に正面視略四角形に窪むように形成され、放射温度計29の測定方向93に対して垂直な平面部95が、測定面として底面に形成されている。また、負電圧印加治具52は、被加工材料8の外径とほぼ等しい外径の円柱状に形成されているため、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って設けられている。
【0085】
また、平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、厚さ0.5μm以上の厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成されている。これにより、放射温度計29は、平面部95の放射率を皮膜95Aの放射率、つまり、DLC膜の放射率に設定して温度測定をすることが可能となる。
【0086】
以上詳細に説明した通り、第3実施形態に係る成膜装置51では、被加工材料8と負電圧電極25との間に配置された負電圧印加治具52には、放射温度計29によって測定される温度測定領域92が設けられている。また、温度測定領域92の平面部95には、DLC膜で形成された皮膜95Aが、厚さ0.5μm以上の厚さで、平面部95の全面に渡って予め形成されている。
【0087】
これにより、温度測定領域92の平面部95の放射率を被加工材料8の処理表面に成膜されるDLC膜と同等の放射率にすることができる。従って、制御部6は、放射温度計29によって、DLC膜の放射率で温度測定領域92を測定することにより、負電圧印加治具52の金属基材の放射率で測定した場合よりも低誤差で測定することが可能となる。つまり、制御部6は被加工材料8の処理表面の正確な温度測定をすることができる。
【0088】
また、被加工材料8を不図示の取付治具を介して保持治具9に取り付けた場合には、マイクロ波が負電圧印加治具52の方に集中して、負電圧印加治具52の表面温度の方が、被加工材料8の表面温度よりも高くなることがある。このような場合には、温度測定領域92を負電圧印加治具52に設けることによって、放射温度計29で被加工材料8の成膜処理中における表面温度を正確に測定することができる。
【0089】
また、温度測定領域92は被加工材料8の延長線上に沿って負電圧印加治具52に設けられているため、被加工材料8の処理表面に沿って伝搬する表面波が温度測定領域92の表面にも伝搬する。即ち、被加工材料8の表面における表面波伝搬特性で、温度測定領域92を被加工材料8の表面と同じ様に高密度プラズマによって加熱することができるため、放射温度計29によって、被加工材料8の表面温度により近い表面温度を測定することができる。また、温度測定領域92の平面部95は、放射温度計29の測定方向93に対して垂直なため、放射温度計29による温度測定領域92の温度測定の測定誤差の更なる低減化を図ることができる。
【0090】
尚、温度測定領域92を保持治具9と負電圧印加治具52のそれぞれの外周面に設け、成膜処理中において、いずれかのうち、表面温度の高くなる方に設けられた温度測定領域92を放射温度計29によって測定するようにしてもよい。これにより、放射温度計29で被加工材料8の成膜処理中における高温部の表面温度を正確に測定することが可能となる。
【0091】
尚、本発明は前記第1実施形態乃至第3実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。例えば、以下のようにしてもよい。
【0092】
(A)例えば、第2実施形態に係る成膜装置41と第3実施形態に係る成膜装置51において、保持治具9の替わりに、被加工材料8の一部が、マイクロ波供給口22内の中心導体の延長線上において、中心導体となるように保持されてもよい。これにより、保持治具9を削除することができ、部品点数の削減化を図ることができる。
【0093】
(B)また、例えば、第1実施形態乃至第3実施形態において、DLC膜で形成された皮膜95Aが、平面部95の全面に渡って予め形成されたがこれに限られない。保持治具9の外周面、負電圧電極25の外周面、または負電圧印加治具52の外周面の全面に渡ってDLC膜で形成された皮膜が予め形成されてもよい。この場合、保持治具9の外周面、負電圧電極25の外周面、または負電圧印加治具52の外周面の全面に渡ってDLC膜で形成された皮膜が温度測定領域である。また、温度測定領域は平面でなくても、任意の形状でよい。