(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平板形状のセラミック基板と、該セラミック基板の上面に接合された上部回路金属板と、前記セラミック基板の下面に接合され低熱膨張高弾性金属層を少なくとも1層備えた下部回路金属板と、を含む絶縁基板と、
金属製の冷却器と、
融点または固相線温度が600℃以上であり、前記下部回路金属板と前記冷却器とを接合し、且つ、平面視の面積が前記下部回路金属板よりも小さい超高温接合層と、を有し、
前記冷却器の、前記超高温接合層との接合面に、該超高温接合層の周囲に沿った枠体が形成され、
前記枠体は、前記超高温接合層が、前記下部回路金属板に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、前記超高温接合層の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされていることを特徴とする絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記枠体は、切削、またはエッチング加工で形成された溝枠体であり、前記冷却器の溝枠体の内部形状と、前記下部回路金属板とが、等角写像的関係を保ちつつ前記超高温接合層を介して接合されていることを特徴とする請求項1記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記枠体は、塗布で形成されたレジスト膜であり、前記冷却器のレジスト膜の内部形状と、前記下部回路金属板とが、等角写像的関係を保ちつつ前記超高温接合層を介して接合されていることを特徴とする請求項1記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記枠体は、表面粗度の粗い粗面部であり、前記冷却器の粗面部の内部形状と、前記下部回路金属板とが、等角写像的関係を保ちつつ前記超高温接合層を介して接合されていることを特徴とする請求項1記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記低熱膨張高弾性金属層は、Mo、W、CuW、CuMo、Kovar、Alloy4、64Fe−36Ni合金、63Fe−32Ni−5Co合金、36.5Fe−54Co−9.5Cr合金、の何れかの金属材料から選ばれた1層以上の板材で形成されることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記セラミック基板は、窒化珪素(SiN)、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、ベリリア(BeO)から選ばれた1つであることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
前記冷却器は、瞬時耐熱600℃以上で、且つ、高延性の金属材料からなることを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の絶縁基板と冷却器の接合構造体。
平板形状のセラミック基板、該セラミック基板の上面に接合された上部回路金属板、及び、前記セラミック基板の下面に接合された下部回路金属板からなる絶縁基板と、金属製の冷却器と、を独立に準備する準備工程と、
前記冷却器の、前記下部回路金属板との接触面に、該下部回路金属板よりも狭い面積を囲む枠体を形成する枠体形成工程と、
前記絶縁基板と前記冷却器を、超高温接合剤を介在させて重ね合わせる重ね合わせ工程と、
重ね合わせた絶縁基板と冷却器を加圧した状態で、不活性ガス雰囲気、或いは真空雰囲気で前記超高温接合剤の融点よりも30℃以上高い温度まで上昇させ、その後、徐々に冷却する接合工程と、を備え、
前記枠体形成工程は、枠体の形状を、前記超高温接合剤により形成される超高温接合層が、前記下部回路金属板に対して平面視で縮小相似形状となるように、前記超高温接合層の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状としたこと
を特徴とする絶縁基板と冷却器の接合構造体の製造方法。
前記パワー半導体装置チップは、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド(C)、酸化ガリウム(Ga2O3)の少なくとも一つを主材料とすることを特徴とする請求項16に記載のパワー半導体モジュール。
前記耐熱接合層は、融点、固相線温度、接合プロセス温度、のうちの少なくとも一つが、パワー半導体装置チップの最大作動温度よりも30℃以上高く、且つ、パワー半導体装置チップのアセンブリプロセス耐熱温度以下である金属、または合金を原料として形成されることを特徴とする請求項16または請求項17に記載のパワー半導体モジュール。
前記空間結線手段は、ボンディングワイヤ、ボンディングリボン、及びクリップリードから選ばれた1つであることを特徴とする請求項16〜請求項19のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
前記空間結線手段の材料は、AlまたはAlの合金、或いは、Cu母材の外周をAl膜で被覆したAlクラッドCu、のいずれかであることを特徴とする請求項16〜請求項20のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
前記空間結線手段は、ボンディングワイヤであり、該ボンディングワイヤの直径は、50μm〜600μmの範囲であることを特徴とする請求項16〜請求項21のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
前記絶縁基板と冷却器の接合構造体の、上部回路金属板の表面は、Niめっきで覆われていることを特徴とする請求項16〜請求項22のいずれか1項に記載のパワー半導体モジュール。
平板形状のセラミック基板、該セラミック基板の上面に接合された上部回路金属板、及び、前記セラミック基板の下面に接合された下部回路金属板からなる絶縁基板と、金属製の冷却器と、を独立に準備する準備工程と、
前記冷却器の、前記下部回路金属板との接触面に、該下部回路金属板よりも狭い面積を囲む枠体を形成する枠体形成工程と、
前記絶縁基板と前記冷却器を、超高温接合剤を介在させて重ね合わせる重ね合わせ工程と、
重ね合わせた絶縁基板と冷却器を加圧した状態で、不活性ガス雰囲気、或いは真空雰囲気で前記超高温接合剤の融点よりも30℃以上高い温度まで上昇させ、その後、徐々に冷却する接合工程と、を備え、
前記枠体形成工程は、枠体の形状を、前記超高温接合剤により形成される超高温接合層が、前記下部回路金属板に対して平面視で縮小相似形状となるように、前記超高温接合層の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とすることにより、絶縁基板と冷却器の接合構造体を作製し、
更に、前記絶縁基板と冷却器の接合構造体の金属部分にNiめっきを被覆する被覆工程と、
前記Niめっきで被覆した、絶縁基板と冷却器の接合構造体の上部回路金属板の一の要素の上面に耐熱接合材料を用いてパワー半導体装置チップを、熱プロセスで接合するリフロー工程と、
接合したパワー半導体装置チップの上面と、前記上部回路金属板の他の要素を空間結線手段で電気的に接続する電気接続工程と、
を備えたことを特徴とするパワー半導体モジュールの製造方法。
前記リフロー工程は、耐熱接合材料の融点よりも30℃以上高く、且つ、パワー半導体装置チップの瞬時耐熱温度よりも低い温度領域で実施されることを特徴とする請求項25に記載のパワー半導体モジュールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に示す絶縁基板と冷却器の接合構造体、及びこれを用いたパワー半導体モジュールの断面図において、各層の厚さは理解を促進するために誇張して記載している。
【0016】
[第1実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体]
図1は、本発明の第1実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体1000(以下、単に「接合構造体1000」と略す)の構成を示す断面図である。第1実施形態に係る接合構造体1000は、金属製の冷却器100と、絶縁基板200と、冷却器100と絶縁基板200とを接合する超高温接合層10と、から構成されている。超高温接合層10は、AgとCuを基材とし、600℃以上に融点または固相線温度(溶け始める温度)を有する合金接合材(純Agも含む)を融解して形成した接合層である。超高温接合層10を形成する接合材としては、基材にInを添加した、Ag−24%、Cu−15%In合金や、基材にSnを添加した、Au−30%、Cu−10%Sn合金(mass%、以下同様)が挙げられる。なお、これ以外の組成比の合金、これ以外の元素を添加した合金を用いることも可能である。
【0017】
冷却器100は、空冷、水冷の冷却方式を問わない。即ち、
図1のような冷却フィン構造のものでも、また、前述した特許文献1に開示されている水冷ジャケット構造でも良い。材質は、上記した超高温接合層10の接合作業温度にて融解、変形せずに、且つ、延性が高く(高延性であり)、加工性の高い金属材料が望ましい。また、瞬時耐熱600℃以上の金属材料からなることが望ましい。製造原価が廉価で、この要件に最も適合するものとして、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)を挙げることができる。
【0018】
冷却器100の上面には、上記の超高温接合層10が設けられ、該超高温接合層10の周囲には、溝枠体17(枠体)が形成されている。即ち、超高温接合層10が接する冷却器100上面の周囲には、一定の深さを有し矩形状をなす溝枠体17が形成されている。そして、冷却器100の、溝枠体17内面側となる部分、即ち、
図1に示す台座部17aの形状(内部形状)は、下部回路金属板12の形状に対して、平面視した際に縮小相似形状とされている。更に、台座部17a及び下部回路金属板12の重心と中心線が一致するように(換言すれば、等角写像的関係に)突き合わされて、超高温接合層10によって強固に接合されている。
【0019】
即ち、冷却器100の、超高温接合層10との接合面には、超高温接合層10の周囲に沿った溝枠体17(枠体)が形成されている。そして、該溝枠体17は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。
【0020】
また、
図1に示す符号16は、溝枠体17により形成される台座部17aと接合しない下部回路金属板12の非接合領域を示している。上面から見た場合の(平面視した場合の)非接合領域16の形状は、等幅の帯状となる。従って、非接合領域16は、下部回路金属板12の周囲に亘って等幅に形成されている。この際、非接合領域16の幅は、下部回路金属板12の厚みを基準として、±0.2mmの範囲であることが望ましい。
【0021】
絶縁基板200は、平板形状をなすセラミック基板11と、該セラミック基板11の下面に、周知のダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された下部回路金属板12と、セラミック基板11の上面に、やはりダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された上部回路金属板13と、を有する構造をなしている。この接合層(図示省略)の融点は、前述の超高温接合層10よりも、30℃以上高いことを要件とする。ダイレクトボンド法や活性金属接合法で接合した接合層は、一般的にはこの要件を満足する。
【0022】
本発明のセラミック基板11として、靭性が高い窒化珪素(SiN)が推奨される。また、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)、ベリリア(BeO)を用いることもできる。セラミック基板11の厚みは、0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、実用的には0.31mm程度の厚さにするのが好適である。なお、セラミック基板11は、複数枚重ねて設けられる場合もある。
【0023】
下部回路金属板12は、融点が1350℃以上、且つ、低熱膨張を呈する高弾性金属層(低熱膨張高弾性金属層)を少なくとも1層含む単層または多層に構成されている。ここで、低熱膨張高弾性とは、室温における合成線熱膨張係数が8ppm/℃以下である金属板と定義する。下部回路金属板12に適した材料としては、単体元素材料としてMoやWが挙げられる。単体合金材料としては、CuW(焼結)やCuMo(焼結)の板材ほか、KovarやAlloy42などの板材も適している。64Fe−36Ni合金、63Fe−32Ni−5Co合金、36.5Fe−54Co−9.5Cr合金等の、超低熱膨張合金板の両面に冶金学的方法でCu板を接合させて形成したクラッド板材も下部回路金属板12として好適である。
【0024】
また、前述した単体元素材料板材(MoやW)や単体合金材料板材(CuWなど)の両面に薄いCu板を冶金学的に接合させたクラッド板材も適用することができる。下部回路金属板12の厚みは実用上0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、0.2mm〜1mmの範囲であることがより望ましい。
【0025】
一方、上部回路金属板13として、通常のCu板を用いることができる。しかし、絶縁基板200を作製するときに生産性の向上を図る観点と、作製後に反りが発生するという問題を軽減する観点から、上部回路金属板13は下部回路金属板12と同じ構造、且つ、同じ厚みにするのが好ましい。なお、上部回路金属板13は用途に応じてパターニングされているものとする。
【0026】
次に、第1実施形態に係る接合構造体1000の製造方法について説明する。初めに、冷却器100と絶縁基板200をそれぞれ独立に準備する(準備工程)。
【0027】
一例として、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)で冷却器100を作製する場合で説明すると、切削、鋳造、圧延する等の周知の加工法を用いてCuまたはその合金を加工し、
図1に示す如くの上面に溝枠体17が形成されたフィン構造の冷却器100を作製する。また、溝枠体17は、エッチング加工により形成することも可能である。溝枠体17を形成する工程は、冷却器100の、下部回路金属板12との接触面に、該下部回路金属板12よりも狭い面積となる領域を囲むように、溝を形成する(枠体形成工程)。
【0028】
一方、絶縁基板200を作製するためには、所定の材質、層構造、厚みを有する下部回路金属板12と上部回路金属板13との間に、所定の厚み、材質を有するセラミック基板11を挟持し、且つ加圧したところで、周知のダイレクトボンド法(DCB法)または活性金属接合法でセラミック基板11と下部回路金属板12、上部回路金属板13とを接合させ、これを絶縁基板200とする。
【0029】
活性金属接合法を用いて接合する場合には、セラミック基板11と各回路金属板12,13との間に、接合処理前にTi−Cu−Ag等の活性金属接合材を介在させるものとする。また、ダイレクトボンド法が適用できるのは、接合面がCu箔で覆われているクラッド材回路金属板に限られる。
【0030】
その後、冷却器100と絶縁基板200を十分に有機洗浄し、その後、冷却器100または絶縁基板200の接合予定部分に超高温接合剤(Ag−24%、Cu−15%In合金など)をスクリーン印刷して、オーブンで乾燥させる。即時に超高温接合剤を介在させるように、冷却器100と絶縁基板200を重ね合わせる(重ね合わせ工程)。その後、加圧した状態で、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気で、超高温接合剤の融点よりも30℃以上高い温度まで上昇させる。その後、徐々に冷却すると、強固な超高温接合層10が形成され、
図1に示した構造の接合構造体1000が完成する(接合工程)。
【0031】
この際、溝枠体17が存在することにより、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりが抑制されるので、超高温接合層10は、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状となるように形成されることとなる。
【0032】
次に、上述した第1実施形態に係る接合構造体の作用について説明する。一般に、セラミック基板11と、これよりも小さい寸法の回路金属板(下部回路金属板12、上部回路金属板13)との接合部において、最も破断しやすい位置は、回路金属板の周縁である。また一般に、膨張率の小さなセラミック基板と膨張率の大きなバルク金属基板とを、両基板より面積が小さく、且つ、両基板膨張率の間の合成膨張率を有する薄い金属板片を介して接合したとき、各温度において最も応力が大きくなる位置は、薄い金属板片周縁の接合界面付近である。
【0033】
このように、第1実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体1000では、冷却器100の上面に溝枠体17を形成することにより、超高温接合層10が下部回路金属板12よりも小面積となるようにしている。このため、上記の熱応力が集中し易い位置は、溝枠体17の周縁部である。また、セラミック基板11の接合部が最も破断し易い位置である下部回路金属板12の周縁部が、熱応力の最も集中しやすい溝枠体17の周縁部と、非接合領域16の幅だけ離れる構造になっている。このため、下部回路金属板12の周縁部に生じる熱応力が相対的に弱まり、結果として、当該部位での熱疲労の進行が遅くなり、クラックの発生が抑制される。このため、冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることができる。
【0034】
即ち、第1実施形態に係る接合構造体1000では、冷却器100の、超高温接合層10との接合面に、該超高温接合層10の周囲に沿った溝枠体17を形成し、この溝枠体17は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。従って、熱応力が集中する位置と、セラミック基板11の接合部が破断し易い位置とを離間させることができるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、高い耐性を有する接合構造体を提供することができる。
【0035】
また、冷却器100と下部回路金属板12とを接合させた際に、下部回路金属板12の周囲に生じる非接合領域16は、下部回路金属板12の周囲に亘って等幅であり、非接合領域16の幅は、下部回路金属板12の厚みを基準として±0.2mm以内の範囲であるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0036】
また、下部回路金属板12は、合成線熱膨張係数が8ppm/℃以下である材料を用いるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。更に、低熱膨張高弾性金属層は、Mo、W、CuW、CuMo、Kovar、Alloy4、64Fe−36Ni合金、63Fe−32Ni−5Co合金、36.5Fe−54Co−9.5Cr合金、の何れかの金属材料から選ばれた1層以上の板材で形成されるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0037】
また、下部回路金属板12の厚みが、0.1mm〜2mmの範囲であるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。更に、超高温接合層10として、AgとCuを基材する合金、またはAgを用いることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0038】
また、超高温接合層10として、Agを24%、Cuを15%含むIn合金、及び、Auを30%、Cuを10%含むSn合金、のうちのいずれかを用いることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。更に、セラミック基板11を、窒化珪素(SiN)、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、ベリリア(BeO)から選ばれた1つとすることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0039】
また、セラミック基板11の厚みを、0.1mm〜2mmの範囲とすることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。更に、冷却器100として、瞬時耐熱600℃以上で、且つ、高延性の金属材料を用いることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0040】
また、冷却器100として、CuまたはCuを基材とする合金を用いることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、より一層耐性を高めることが可能となる。
【0041】
[第2実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体]
図2は、本発明の第2実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体2000の構成を示す断面図である。第2実施形態に係る接合構造体2000は、前述した第1実施形態と同様に、金属製の冷却器100と、絶縁基板200と、冷却器100と絶縁基板200とを接合する超高温接合層10と、から構成されている。超高温接合層10は、AgとCuを基材とし、600℃以上に融点または固相線温度(溶け始める温度)を有する合金接合材(純Agも含む)を融解して形成した接合層である。超高温接合層10を形成する接合材としては、基材にInを添加した、Ag−24%、Cu−15%In合金や、基材にSnを添加した、Au−30%、Cu−10%Sn合金(mass%、以下同様)が挙げられる。なお、これ以外の組成比の合金、これ以外の元素を添加した合金を用いることも可能である。
【0042】
冷却器100は、空冷、水冷の冷却方式を問わない。即ち、
図2のような冷却フィン構造のものでも、また、前述した特許文献1に開示されている水冷ジャケット構造でも良い。材質は、上記した超高温接合層10の接合作業温度にて融解、変形せずに、且つ、延性が高く(高延性であり)、加工性の高い金属材料が望ましい。また、瞬時耐熱600℃以上の金属材料からなることが望ましい。製造原価が廉価で、この要件に最も適合するものとして、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)を挙げることができる。
【0043】
冷却器100の上面には、上記の超高温接合層10が設けられ、該超高温接合層10は下部回路金属板12よりも平面視した際の面積が小さくなっている。更に、冷却器100上面の、超高温接合層10の周囲部となる領域には、レジスト枠体18が設けられている。該レジスト枠体18は、例えば、塗布により形成されたレジスト膜である。そして、冷却器100の、レジスト枠体18の内面側となる領域、即ち、
図2に示すレジスト枠体18の内部となる内面領域18aの形状(内部形状)は、下部回路金属板12の形状に対して、平面視した際に縮小相似形状とされている。更に、内面領域18a及び下部回路金属板12の重心と中心線が一致するように(換言すれば、等角写像的関係に)突き合わされて、超高温接合層10によって強固に接合されている。
【0044】
即ち、冷却器100の、超高温接合層10との接合面には、超高温接合層10の周囲に沿ったレジスト枠体18(枠体)が形成されている。そして、該レジスト枠体18は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。
【0045】
また、
図2に示す符号16は、レジスト枠体18により形成される内面領域18aと接合しない下部回路金属板12の非接合領域を示している。上面から見た場合の(平面視した場合の)非接合領域16の形状は等幅の帯状となる。この際、非接合領域16の幅は、前述した第1実施形態と同様に、下部回路金属板12の厚みを基準として、±0.2mmの範囲であることが望ましい。
【0046】
絶縁基板200は、平板形状をなすセラミック基板11と、該セラミック基板11の下面に、周知のダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された下部回路金属板12と、セラミック基板11の上面に、やはりダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された上部回路金属板13と、を有する構造をなしている。この接合層(図示省略)の融点は、前述の超高温接合層10よりも、30℃以上高いことを要件とする。ダイレクトボンド法や活性金属接合法で接合した接合層は、一般的にはこの要件を満足する。
【0047】
本発明のセラミック基板11として、靭性が高い窒化珪素(SiN)が推奨される。また、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)、ベリリア(BeO)を用いることもできる。セラミック基板11の厚みは、0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、実用的には0.31mm程度の厚さにするのが好適である。なお、セラミック基板11は、複数枚重ねて設けられる場合もある。
【0048】
下部回路金属板12は、融点が1350℃以上、且つ、低熱膨張を呈する高弾性金属層(低熱膨張高弾性金属層)を少なくとも1層含む単層または多層に構成されている。ここで、低熱膨張高弾性とは、室温における合成線熱膨張係数が8ppm/℃以下である金属板と定義する。下部回路金属板12に適した材料としては、単体元素材料としてMoやWが挙げられる。単体合金材料としては、CuW(焼結)やCuMo(焼結)の板材ほか、KovarやAlloy42などの板材も適している。64Fe−36Ni合金、63Fe−32Ni−5Co合金、36.5Fe−54Co−9.5Cr合金等の、超低熱膨張合金板の両面に冶金学的方法でCu板を接合させて形成したクラッド板材も下部回路金属板12として好適である。
【0049】
また、前述した単体元素材料板材(MoやW)や単体合金材料板材(CuWなど)の両面に薄いCu板を冶金学的に接合させたクラッド板材も適用することができる。下部回路金属板12の厚みは実用上0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、0.2mm〜1mmの範囲であることがより望ましい。
【0050】
一方、上部回路金属板13として、通常のCu板を用いることができる。しかし、絶縁基板200を作製するときに生産性の向上を図る観点と、作製後に反りが発生するという問題を軽減する観点から、上部回路金属板13は下部回路金属板12と同じ構造、且つ、同じ厚みにするのが好ましい。なお、上部回路金属板13は用途に応じてパターニングされているものとする。
【0051】
次に、第2実施形態に係る接合構造体2000の製造方法について説明する。初めに、冷却器100と絶縁基板200をそれぞれ独立に準備する(準備工程)。
【0052】
一例として、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)で冷却器100を作製する場合で説明すると、切削、鋳造、圧延する等の周知の加工法を用いてCuまたはその合金を加工し、
図2に示す如くの、上面にレジスト枠体18が形成されたフィン構造の冷却器100を作製する。レジスト枠体18は、レジスト膜を塗布することにより、形成することができる(枠体形成工程)。レジスト枠体18を形成する工程は、冷却器100の、下部回路金属板12との接触面に、該下部回路金属板12よりも狭い面積となる領域を囲むように、レジスト膜を塗布する。
【0053】
一方、絶縁基板200を作製するためには、所定の材質、層構造、厚みを有する下部回路金属板12と上部回路金属板13との間に、所定の厚み、材質を有するセラミック基板11を挟持し、且つ加圧したところで、周知のダイレクトボンド法(DCB法)または活性金属接合法でセラミック基板11と下部回路金属板12、上部回路金属板13とを接合させ、これを絶縁基板200とする。
【0054】
活性金属接合法を用いて接合する場合には、セラミック基板11と各回路金属板12,13との間に、接合処理前にTi−Cu−Ag等の活性金属接合材を介在させるものとする。また、ダイレクトボンド法が適用できるのは、接合面がCu箔で覆われているクラッド材回路金属板に限られる。
【0055】
次いで、冷却器100と絶縁基板200を準備する準備工程が終了すると、冷却器100と絶縁基板200を十分に有機洗浄し、その後、冷却器100または絶縁基板200の接合予定部分に超高温接合剤(Ag−24%、Cu−15%In合金など)をスクリーン印刷して、オーブンで乾燥させる。即時に超高温接合剤を介在させるように、冷却器100と絶縁基板200を重ね合わせる(重ね合わせ工程)。その後、加圧した状態で、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気で、超高温接合剤の融点よりも30℃以上高い温度まで上昇させる。その後、徐々に冷却すると、強固な超高温接合層10が形成され、
図2に示した構造の接合構造体2000が完成する(接合工程)。
【0056】
この際、レジスト枠体18が存在することにより、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりが抑制されるので、超高温接合層10は、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状となるように形成されることとなる。
【0057】
次に、上述した第2実施形態に係る接合構造体の作用について説明する。一般に、セラミック基板11と、これよりも小さい寸法の回路金属板(下部回路金属板12、上部回路金属板13)との接合部において、最も破断しやすい位置は、回路金属板の周縁である。また一般に、膨張率の小さなセラミック基板と膨張率の大きなバルク金属基板とを、両基板より面積が小さく、且つ、両基板膨張率の間の合成膨張率を有する薄い金属板片を介して接合したとき、各温度において最も応力が大きくなる位置は、薄い金属板片周縁の接合界面付近である。
【0058】
第2実施形態に係る絶縁基板と冷却器との接合構造体では、冷却器100の上面にレジスト枠体18を形成することにより、超高温接合層10が下部回路金属板12よりも小面積となるようにしている。このため、上記の熱応力が集中し易い位置は、レジスト枠体18の周縁部である。また、セラミック基板11の接合部が最も破断し易い位置である下部回路金属板12の周縁部が、熱応力の最も集中しやすいレジスト枠体18の周縁部と、非接合領域16の幅だけ離れる構造になっている。このため、下部回路金属板12の周縁部に生じる熱応力が相対的に弱まり、結果として、当該部位での熱疲労の進行が遅くなり、クラックの発生が抑制される。このため、冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることができる。
【0059】
即ち、第2実施形態に係る接合構造体では、冷却器100の、超高温接合層10との接合面に、該超高温接合層10の周囲に沿ったレジスト枠体18を形成し、このレジスト枠体18は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。従って、熱応力が集中する位置と、セラミック基板11の接合部が破断し易い位置とを離間させることができるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、高い耐性を有する接合構造体を提供することができる。
【0060】
[第3実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体]
図3は、本発明の第3実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体3000の構成を示す断面図である。第3実施形態に係る接合構造体3000は、前述した第1、第2実施形態と同様に、金属製の冷却器100と、絶縁基板200と、冷却器100と絶縁基板200とを接合する超高温接合層10と、から構成されている。超高温接合層10は、AgとCuを基材とし、600℃以上に融点または固相線温度(溶け始める温度)を有する合金接合材(純Agも含む)を融解して形成した接合層である。超高温接合層10を形成する接合材としては、基材にInを添加した、Ag−24%、Cu−15%In合金や、基材にSnを添加した、Au−30%、Cu−10%Sn合金(mass%、以下同様)が挙げられる。なお、これ以外の組成比の合金、これ以外の元素を添加した合金を用いることも可能である。
【0061】
冷却器100は、空冷、水冷の冷却方式を問わない。即ち、
図3のような冷却フィン構造のものでも、また、前述した特許文献1に開示されている水冷ジャケット構造でも良い。材質は、上記した超高温接合層10の接合作業温度にて融解、変形せずに、且つ、延性が高く(高延性であり)、加工性の高い金属材料が望ましい。また、瞬時耐熱600℃以上の金属材料からなることが望ましい。製造原価が廉価で、この要件に最も適合するものとして、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)を挙げることができる。
【0062】
冷却器100の上面には、上記の超高温接合層10が設けられ、該超高温接合層10は下部回路金属板12よりも平面視した際の面積が小さくなっている。更に、冷却器100上面の、超高温接合層10の周囲部となる領域には、粗面枠体19が設けられている。そして、冷却器100の、粗面枠体19の内面側(枠体内部)となる領域、即ち、
図3に示す内面領域19aの形状(内面形状)は、下部回路金属板12の形状に対して、平面視した際に縮小相似形状とされている。更に、内面領域19a及び下部回路金属板12の重心と中心線が一致するように(換言すれば、等角写像的関係に)突き合わされて、超高温接合層10によって強固に接合されている。
【0063】
即ち、冷却器100の、超高温接合層10との接合面には、超高温接合層10の周囲に沿った粗面枠体19(枠体)が形成されている。粗面枠体19は、表面粗度が粗い帯からなる粗面部である。そして、該粗面枠体19は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。
【0064】
また、
図3に示す符号16は、粗面枠体19により形成される内面領域19aと接合しない下部回路金属板12の非接合領域を示している。上面から見た場合の(平面視した場合の)非接合領域16の形状は等幅の帯状となる。この際、非接合領域16の幅は、前述した第1、第2実施形態と同様に、下部回路金属板12の厚みを基準として、±0.2mmの範囲であることが望ましい。
【0065】
絶縁基板200は、平板形状をなすセラミック基板11と、該セラミック基板11の下面に、周知のダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された下部回路金属板12と、セラミック基板11の上面に、やはりダイレクトボンド法、或いは、活性金属接合法で接合された上部回路金属板13と、を有する構造をなしている。この接合層(図示省略)の融点は、前述の超高温接合層10よりも、30℃以上高いことを要件とする。ダイレクトボンド法や活性金属接合法で接合した接合層は、一般的にはこの要件を満足する。
【0066】
本発明のセラミック基板11として、靭性が高い窒化珪素(SiN)が推奨される。また、アルミナ(Al2O3)や窒化アルミニウム(AlN)、ベリリア(BeO)を用いることもできる。セラミック基板11の厚みは、0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、実用的には0.31mm程度の厚さにするのが好適である。なお、セラミック基板11は、複数枚重ねて設けられる場合もある。
【0067】
下部回路金属板12は、融点が1350℃以上、且つ、低熱膨張を呈する高弾性金属層(低熱膨張高弾性金属層)を少なくとも1層含む単層または多層に構成されている。ここで、低熱膨張高弾性とは、室温における合成線熱膨張係数が8ppm/℃以下である金属板と定義する。下部回路金属板12に適した材料としては、単体元素材料としてMoやWが挙げられる。単体合金材料としては、CuW(焼結)やCuMo(焼結)の板材ほか、KovarやAlloy42などの板材も適している。64Fe−36Ni合金、63Fe−32Ni−5Co合金、36.5Fe−54Co−9.5Cr合金等の、超低熱膨張合金板の両面に冶金学的方法でCu板を接合させて形成したクラッド板材も下部回路金属板12として好適である。
【0068】
また、前述した単体元素材料板材(MoやW)や単体合金材料板材(CuWなど)の両面に薄いCu板を冶金学的に接合させたクラッド板材も適用することができる。下部回路金属板12の厚みは実用上0.1mm〜2mmの範囲であることが望ましく、0.2mm〜1mmの範囲であることがより望ましい。
【0069】
一方、上部回路金属板13として、通常のCu板を用いることができる。しかし、絶縁基板200を作製するときに生産性の向上を図る観点と、作製後に反りが発生するという問題を軽減する観点から、上部回路金属板13は下部回路金属板12と同じ構造、且つ、同じ厚みにするのが好ましい。なお、上部回路金属板13は用途に応じてパターニングされているものとする。
【0070】
次に、第3実施形態に係る接合構造体3000の製造方法について説明する。初めに、冷却器100と絶縁基板200をそれぞれ独立に準備する(準備工程)。
【0071】
一例として、CuまたはCuを基材とする合金(真鍮など)で冷却器100を作製する場合で説明すると、切削、鋳造、圧延する等の周知の加工法を用いてCuまたはその合金を加工し、
図3に示す如くの上面に粗面枠体19が形成されたフィン構造の冷却器100を作製する。粗面枠体19を形成する工程は、冷却器100の、下部回路金属板12との接触面に、該下部回路金属板12よりも狭い面積となる領域を囲むように、表面粗度の粗い帯を形成する(枠体形成工程)。
【0072】
一方、絶縁基板200を作製するためには、所定の材質、層構造、厚みを有する下部回路金属板12と上部回路金属板13との間に、所定の厚み、材質を有するセラミック基板11を挟持し、且つ加圧したところで、周知のダイレクトボンド法(DCB法)または活性金属接合法でセラミック基板11と下部回路金属板12、上部回路金属板13とを接合させ、これを絶縁基板200とする。
【0073】
活性金属接合法を用いて接合する場合には、セラミック基板11と各回路金属板12,13との間に、接合処理前にTi−Cu−Ag等の活性金属接合材を介在させるものとする。また、ダイレクトボンド法が適用できるのは、接合面がCu箔で覆われているクラッド材回路金属板に限られる。
【0074】
次いで、冷却器100と絶縁基板200を準備する準備工程が終了すると、冷却器100と絶縁基板200を十分に有機洗浄し、その後、冷却器100または絶縁基板200の接合予定部分に超高温接合剤(Ag−24%、Cu−15%In合金など)をスクリーン印刷して、オーブンで乾燥させる。即時に超高温接合剤を介在させるように、冷却器100と絶縁基板200を重ね合わせる(重ね合わせ工程)。その後、加圧した状態で、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気で、超高温接合剤の融点よりも30℃以上高い温度まで上昇させる。その後、徐々に冷却すると、強固な超高温接合層10が形成され、
図3に示した構造の接合構造体3000が完成する(接合工程)。
【0075】
この際、粗面枠体19が存在することにより、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりが抑制され、超高温接合層10は、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状となるように形成されることとなる。
【0076】
次に、上述した第3実施形態に係る接合構造体の作用について説明する。一般に、セラミック基板11と、これよりも小さい寸法の回路金属板(下部回路金属板12、上部回路金属板13)との接合部において、最も破断しやすい位置は、回路金属板の周縁である。また一般に、膨張率の小さなセラミック基板と膨張率の大きなバルク金属基板とを、両基板より面積が小さく、且つ、両基板膨張率の間の合成膨張率を有する薄い金属板片を介して接合したとき、各温度において最も応力が大きくなる位置は、薄い金属板片周縁の接合界面付近である。
【0077】
第3本実施形態に係る絶縁基板と冷却器の接合構造体では、冷却器100の上面に粗面枠体19を形成することにより、超高温接合層10が下部回路金属板12よりも小面積となるようにしている。このため、上記の熱応力が集中し易い位置は、粗面枠体19の周縁部である。また、セラミック基板11の接合部が最も破断し易い位置である下部回路金属板12の周縁部が、熱応力の最も集中しやすい粗面枠体19の周縁部と、非接合領域16の幅だけ離れる構造になっている。このため、下部回路金属板12の周縁部に生じる熱応力が相対的に弱まり、結果として、当該部位での熱疲労の進行が遅くなり、クラックの発生が抑制される。このため、冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることができる。
【0078】
即ち、第3実施形態に係る接合構造体では、冷却器100の、超高温接合層10との接合面に、該超高温接合層10の周囲に沿った粗面枠体19を形成し、この粗面枠体19は、超高温接合層10が、下部回路金属板12に対して平面視で縮小相似形状に形成されるように、超高温接合層10の形成時に生じる濡れ拡がりを抑制する形状とされている。従って、熱応力が集中する位置と、セラミック基板11の接合部が破断し易い位置とを離間させることができるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、高い耐性を有する接合構造体を提供することができる。また、粗面枠体19は、第2実施形態で示したレジスト枠体18よりも安価であるので、コストダウンを図ることができる。
【0079】
[第4実施形態に係るパワー半導体モジュール]
図4は、本発明の第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000の構成を示す要部断面図である。第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000は、前述した第1実施形態に係る接合構造体1000を備える。更に、該接合構造体1000の上部回路金属板13の上に載置され、且つ、耐熱接合層20を介して上部回路金属板13の一の要素の上面に電気的、熱的、機械的に接合されたワイドバンドギャップ半導体を用いたパワー半導体装置チップ21を備える。また、該パワー半導体装置チップ21の上部電極(図示省略)と、上部回路金属板13の他の要素を電気的に接続するボンディングワイヤ22(空間結線手段)を備えている。
【0080】
空間接合手段としては、ボンディングワイヤ22以外に、ボンディングリボン、クリップリードを用いることもできる。
図4に示す接合構造体1000は第1実施形態に示した接合構造体1000と同一であるので、説明を省略する。
【0081】
パワー半導体装置チップ21としては、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド(C)、酸化ガリウム(Ga2O3)等のワイドバンドギャップ半導体を主材料として用いることができる。但し、これらに限定されるものではない。パワー半導体装置チップ21の表面には、ワイヤボンドを可能とする厚いAl膜(Alパッド、図示省略)が形成され、裏面には、金属接合を可能とするTi/Ni/Agなどの実装電極(図示省略)が形成されている。
【0082】
耐熱接合層20の接合材料は、融点、固相線温度、及び接合プロセス温度のうちの少なくとも1つが、Tjmax(パワー半導体装置チップ21の最大作動温度)よりも30℃以上高く、且つ、パワー半導体装置チップ21のアセンブリプロセス耐熱温度(瞬時耐熱温度)Tpmax以下である金属または合金材料を用いることが望ましい。いま、Tjmax=250℃、Tpmax=450℃とすると、この要件に適合する材料として、例えば、Au−Snはんだ、Au−Geはんだ、Au−Siはんだ、Zn−Alはんだ、AgやAu、Cuなどのナノ粒子(またはナノロッド、ナノフレーク)材などが挙げられる。しかし、前記条件を満たせば、これ以外の材料を使用することも可能である。
【0083】
ボンディングワイヤ22は、周知のSiパワー半導体モジュールのワイヤと同じAlワイヤ(合金を含む)を用いることができる。Cuワイヤの外周を厚いAl膜で被覆したAlクラッドCuワイヤも用いることができる。Auワイヤは高温でAlパッドと反応してパープルプラーク不良を短時間に発生するので、その使用は望ましくない。ワイヤの径は、50μm〜600μmの範囲であることが望ましく、100μm〜350μmの範囲であることがより望ましい。
【0084】
第1実施形態にて示した接合構造体1000の上部回路金属板13の表面には、厚いNiめっき(図示省略)が施されている。Niめっきの上に薄いAuめっき(図示省略)を施すのが望ましい。Niめっきの役割は、高温雰囲気から起こる上部回路金属板13の表面の激しい酸化を防ぐことと、高温はんだなどでパワー半導体装置チップ21を接合するとき(耐熱接合層20を形成するとき)接合材の濡れ性を良くすることと、サービス期間中に耐熱接合層20と上部回路金属板13基材との間で起こる反応を抑止することが目的である。薄いAuめっきの役割は、耐熱接合層20形成までの暫時、Niめっき表面が酸化するのを防止すること、耐熱接合層20形成のときに接合材の濡れ性を促進することが目的である。
【0085】
次に、第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000の製造方法について説明する。初めに、第1実施形態にて示した製造方法で説明した通りの製造工程で、接合構造体1000を作製する。
【0086】
次いで、接合構造体1000をきれいに洗浄し、該接合構造体1000の金属部分表面に形成された自然酸化膜を酸で除去する。更に、金属部分表面に無電解めっき法ではじめにNiめっき(詳細には、Ni−Pめっき、またはNi−Bめっき)を被覆する(被覆工程)。次いで、Auめっきを被覆する。ここで金属部分とは、上部回路金属板13及び冷却器100のことである。Niめっきの厚みは、0.5μm〜15μmの間が望ましく、3μm〜7μmの範囲がより望ましい。Auめっきの厚みは0.01μm以上であればよい。本実施形態において、Ni/Auめっきが必須なのは絶縁基板200の上部回路金属板13の表面だけであるから、めっきの材料コストを下げる観点から冷却器100の表面に付着しないようにして、Ni/Auめっきをしてもよい。
【0087】
Ni/Auめっきが終了したところで、ワイドバンドギャップのパワー半導体装置チップ21と接合構造体1000をアセトン、イソプロピルアルコール等の有機溶剤で超音波洗浄し、これらの部品の表面に付着している汚染物を除去する。また、耐熱接合層20を形成するもとになる接合材料が板状の固体である場合には、該接合材料も同様にして洗浄する。
【0088】
その後、減圧リフロー装置のリフロー台に、接合構造体1000を設置し、上部回路金属板13の所定の位置に、耐熱接合層20を形成するための耐熱接合材料、例えば、共晶Au−Ge高温はんだを載置する。もし、耐熱接合材料がペースト状のものである場合は、シリンジ等を利用して所定の位置にはんだペーストを滴下する。そして、耐熱接合材料の上にパワー半導体装置チップ21を置き、静止させる。
【0089】
ここで、上部回路金属板13の接合させるべき位置に耐熱接合材料とパワー半導体装置チップ21を正確に載置すると共に、リフロープロセス(熱プロセス)中のパワー半導体装置チップ21の位置ずれを防止するために、テンプレート式カーボン治具を使用することが望ましい。
【0090】
上記準備が終了したならば、リフロー工程を実行する。初めに、減圧リフロー装置の扉を閉鎖し、試料室の排気を行う。試料室内の圧力が5ミリバール以下になったら、不活性ガスを導入する。この操作を数回行い、試料室内の空気を不活性ガスで置換する。これにより、試料室は不活性ガスで充満することになる。
【0091】
そして、リフロー台、或いは試料室全体を加熱して、上記各部品の温度を概ね200℃に昇温し、約2分間この温度を保持する。このとき、蟻酸蒸気を含む不活性ガスを導入して汚染有機物の除去を促進してもよい。
【0092】
その後、不活性ガス導入を停止し、排気を再開して試料室を5ミリバール以下に減圧すると共に、リフロー台(または試料室全体)を更に加熱して、接合構造体1000と耐熱接合材料とパワー半導体装置チップ21を耐熱接合材料の融点より約30℃高い温度(共晶Au−Ge高温はんだの場合は約400℃)まで昇温させ、リフローさせる。この温度は、パワー半導体装置チップ21の瞬時耐熱温度よりも低い温度領域とする。保持時間は約1分である。
【0093】
リフローが終了したら、試料室に不活性ガスを導入し降温を開始する。チャンバ内部の温度が十分低い温度まで下がったところで、完成品、即ち、第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000をリフロー装置から取り出す。
【0094】
最後にワイヤボンダーを用いて、ボンディングワイヤ22(Alワイヤなど)でパワー半導体装置チップ21のAlパッドと上部回路金属板13(或いは、モジュール外のリード端子など)の所定の位置を電気的に結合する(電気接続工程)。その結果、第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000が完成する。
【0095】
このようにして、第4実施形態に係るパワー半導体モジュール4000では、接合構造体として、第1実施形態に示した接合構造体1000を用いている。前述したように、接合構造体1000は、下部回路金属板12に、低熱膨張高弾性金属層を少なくとも1層備え、且つ、接合層として、融点または固相線温度が600℃以上である超高温接合層を用いているので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0096】
また、パワー半導体装置チップ21は、炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド(C)、酸化ガリウム(Ga2O3)の少なくとも一つを主材料とするので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0097】
更に、耐熱接合層20は、融点、固相線温度、接合プロセス温度、のうちの少なくとも一つが、パワー半導体装置チップ21の最大作動温度よりも30℃以上高く、且つ、パワー半導体装置チップ21のアセンブリプロセス耐熱温度以下である金属、または合金を原料として形成されるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0098】
また、耐熱接合層20は、Au−Snはんだ、Au−Geはんだ、Au−Siはんだ、Zn−Alはんだ、から選ばれた1つ、または、AgまたはAuまたはCuのナノ粒子、またはナノロッド、またはナノフレーク材から選ばれた1つ、を原料として形成された層であるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0099】
更に、空間結線手段は、ボンディングワイヤ、ボンディングリボン、及びクリップリードから選ばれた1つであるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。また、空間結線手段の材料は、AlまたはAlの合金、或いは、Cu母材の外周をAl膜で被覆したAlクラッドCu、のいずれかであるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0100】
更に、ボンディングワイヤの直径を、50μm〜600μmの範囲とすることにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。また、絶縁基板と冷却器の接合構造体の、上部回路金属板の表面は、Niめっきで覆われるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0101】
更に、Niめっきの厚みを0.5μm〜15μmの範囲することにより、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。また、リフロー工程は、耐熱接合材料の融点よりも30℃以上高く、且つ、パワー半導体装置チップ21の瞬時耐熱温度よりも低い温度領域で実施されるので、温度差が大きい冷熱サイクルストレスに対して、耐性を高めることが可能となる。
【0102】
[第5実施形態に係るパワー半導体モジュール]
図5は、本発明の第5実施形態に係るパワー半導体モジュール5000の要部断面図である。第5実施形態に係るパワー半導体モジュール5000は、前述した第2実施形態に係る接合構造体2000と、該接合構造体2000の上部回路金属板13の上に載置され、且つ、耐熱接合層20を介して該上部回路金属板13に電気的、熱的、機械的に接合されたワイドバンドギャップ半導体を用いたパワー半導体装置チップ21と、該パワー半導体装置チップ21の上部電極(図示省略)と他の上部回路金属板13の要素を電気的に接続するボンディングワイヤ22とから構成される。
【0103】
そして、接合構造体2000の構成、及びその製造方法については、第2実施形態で説明しており、更に、接合構造体2000以外の構成、及び製造方法は、上述の第4実施形態で説明しているので、詳細な説明を省略する。第5実施形態に係るパワー半導体モジュールについても、前述した第4実施形態と同様の効果を達成することができる。
【0104】
[第6実施形態に係るパワー半導体モジュール]
図6は、本発明の第6実施形態に係るパワー半導体モジュール6000の要部断面図である。第6実施形態に係るパワー半導体モジュール6000は、前述した第3実施形態に係る接合構造体3000と、該接合構造体3000の上部回路金属板13の上に載置され、且つ、耐熱接合層20を介して該上部回路金属板13に電気的、熱的、機械的に接合されたワイドバンドギャップ半導体を用いたパワー半導体装置チップ21と、該パワー半導体装置チップ21の上部電極(図示省略)と他の上部回路金属板13の要素を電気的に接続するボンディングワイヤ22とから構成される。
【0105】
そして、接合構造体3000の構成、及びその製造方法については、第3実施形態で説明しており、更に、接合構造体3000以外の構成、及び製造方法は、上述の第4実施形態で説明しているので、詳細な説明を省略する。第6実施形態に係るパワー半導体モジュールについても、前述した第4、第5実施形態と同様の効果を達成することができる。
【0106】
以上、本発明の絶縁基板と冷却器の接合構造体、その製造方法、パワー半導体モジュール、及びその製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。