特許第6221617号(P6221617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221617
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ドラム
(51)【国際特許分類】
   G10D 13/00 20060101AFI20171023BHJP
   G10D 13/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G10D13/00 160
   G10D13/02 100
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-217049(P2013-217049)
(22)【出願日】2013年10月18日
(65)【公開番号】特開2015-79172(P2015-79172A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111763
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 隆
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆二
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋平
【審査官】 鈴木 圭一郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07476794(US,B2)
【文献】 実開昭62−158493(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 13/00
G10D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシェルと、
前記シェルの一方の開口に取り付けられたドラムヘッドとを有し、
前記ドラムヘッドの裏面の有効可動部の全面または一部に、弾性を備えたシートからなる質量付与部材を設置し、
固定部材により局所的に圧力を与えて前記質量付与部材および前記ドラムヘッドを挟み込むことにより、前記質量付与部材を前記ドラムヘッドに固定したことを特徴とするドラム。
【請求項2】
前記固定部材として、前記質量付与部材および前記ドラムヘッドの両方を貫通する留め具を用いたことを特徴とする請求項1に記載のドラム。
【請求項3】
前記固定部材を、前記ドラムヘッドの外周側領域に設置したことを特徴とする請求項1または2に記載のドラム。
【請求項4】
筒状のシェルの一方の開口に取り付けられるドラムヘッドにおいて、
前記ドラムヘッドの裏面の有効可動部の全面または一部に、弾性を備えたシートからなる質量付与部材を設置して、
固定部材により局所的に圧力を与えて前記質量付与部材および前記ドラムヘッドを挟み込むことにより、前記質量付与部材を前記ドラムヘッドに固定したことを特徴とするドラムヘッド。
【請求項5】
前記シェルの他方の開口に取り付けられたフロントヘッドを有し、
質量付与部材を前記フロントヘッドに固定したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載のドラム。
【請求項6】
前記フロントヘッドがエアホールを有することを特徴とする請求項5に記載のドラム。
【請求項7】
前記固定部材を、前記ドラムヘッドの中央部に設置したことを特徴とする請求項1〜3、5、6のいずれか1の請求項に記載のドラム。
【請求項8】
前記固定部材として、前記質量付与部材および前記ドラムヘッドの両方を貫通する留め具を用いたことを特徴とする請求項4に記載のドラムヘッド。
【請求項9】
前記固定部材を、前記ドラムヘッドの外周側領域および中央領域に設置したことを特徴とする請求項4または8に記載のドラムヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムの音質改善に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラムセットは、バスドラムやタムタム、スネアドラムなど複数種のドラムにより構成されている。これら複数種のドラムのうちバスドラムについては、その打撃音に力強い低音感とビータによるアタック音の両方が必要とされる。そして、力強い低音感を得るために、より大型のバスドラムを用いたり、ドラムヘッドにジェルやスポンジリングを貼り付けたりして低音を強調することが行われている。このようなバスドラムの中に、ヘッド部材に振動吸収材を貼り付けることによって、打撃音を変化させたバスドラムもある(例えば、特許文献1参照)。このドラムでは、ドラム胴の一方の開口にドラムフープを介してドラムヘッドが取り付けられている。そして、ドラムヘッドの打撃面の裏側には、薄いシート状のゴムまたはプラスチックからなる振動吸収材が貼り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3004768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述したドラムでは、振動吸収材をドラムヘッドの全面に貼り付けて固定しているため、ドラムヘッドの可動損失が増大して、打撃音がこもった音になる。このドラムにおいては、振動吸収材としてゴムシートを用いることも考慮されているが、このようなゴムシートからなる振動吸収材の全面をドラムヘッドに固定した場合には、バスドラムの低音感は得られるものの、ドラムヘッドの損失は非常に大きいものとなり、アタック音が目立つ打撃音を発生させることができなくなる。このように、バスドラムの打撃音にアタック音が欠如すると拍がとれず正確なリズムが刻めなくなるため、他の楽器の演奏者も含め、演奏性の悪化を招く。
【0005】
この発明は、前述した問題に対処するためになされたもので、その目的は、低音感がありながら、アタック音が目立つ打撃音を発生することができるドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、筒状のシェルと、前記シェルの一方の開口に取り付けられたドラムヘッドとを有し、前記ドラムヘッドの裏面の有効可動部の全面または一部に、弾性を備えたシートからなる質量付与部材を設置し、固定部材により局所的に前記質量付与部材および前記ドラムヘッドを挟み込むことにより、前記質量付与部材を前記ドラムヘッドに固定したことを特徴とするドラムを提供する。
【0007】
かかるバスドラムによれば、ドラムヘッドの裏面に、質量付与部材を固定部材によりドラムヘッドに固定している。このように、本発明におけるドラムは、質量付与部材および固定部材を用いてドラムヘッドを重くすることにより、打撃音の周波数を大きく低下させることができ、これによって、低音を強調した打撃音を発生することができる。
【0008】
また、質量付与部材が局所的にドラムヘッドに固定されているため、打撃された際に、ドラムヘッドと質量付与部材とは全体的には一体として振動するが、局部的、瞬間的には別々の挙動を生じるようになる。このドラムヘッドと質量付与部材の相互作用によって、アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。
【0009】
さらに、固定部材により質量付与部材とドラムヘッドとを挟むので、ドラムヘッドにおける高調波(詳しくは曲げ波の高周波成分)は、固定部材により反射される。また、この発明では、固定部材により質量付与部材とドラムヘッドとを局所的に挟むので、高調波は損失することなく効率よく反射される。従って、質量付与部材を粘着物等でドラムヘッドに固定する場合に比べ、打撃時に発生する振動の高調波成分のエネルギーが失われず、アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。
【0010】
さらに、質量付与部材はドラムヘッドの裏面に固定されているため、ビータが直接質量付与部材に接触することがなく、ビータの打撃によって質量付与部材の耐久性が低下することはない。
【0011】
好ましい態様において、固定部材は、リベットやボルトとそれに螺合するナット、固定用の針等のように、質量付与部材およびドラムヘッドの固定部に貫通孔を設けて、貫通させて固定するものや、磁石等のように貫通させずに固定するもので構成することができる。また、固定部材を構成する材料としては、金属やプラスチック、磁性体等を用いることができる。すなわち、固定部材として用いられるものは、質量付与部材およびドラムヘッドを挟み込み、局所的に圧力を与えることができるものであればよく、限定解釈されるものではない。
【0012】
また、質量付与部材は、天然ゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等の各種のゴムや、エラストマー等で構成することができる。また、質量付与部材を構成する材料としては、ドラムヘッドを構成する材料よりも剛性が低く比重が大きな材料を用いることが好ましい。また、本発明において、有効可動部とは、ドラムヘッドにおける打面を形成する領域であり、フープ等によって表面から隠れた領域は除いた範囲になる。
【0013】
さらに、質量付与部材が貼り付けられたドラムヘッドは、交換可能にシェルに組み付けるようにしてもよいし、質量付与部材は、交換可能にドラムヘッドに組み付けるようにしてもよい。質量付与部材が貼り付けられたドラムヘッドを交換可能にする場合は、ドラムヘッドに対する質量付与部材の固定領域が異なる複数の組付体を準備して、使用に応じて、適宜任意の組付体を選択する。また、質量付与部材を交換可能にする場合には、ドラムヘッドに固定される領域に、リベット等を取り付けた質量付与部材を複数準備して、使用に応じて、適宜任意の質量付与部材を選択してドラムヘッドに固定する。
【0014】
他の好ましい態様では、ドラムにおけるシェルの他方の開口にフロントヘッドを取り付ける。そして、前記フロントヘッドの表面および裏面の少なくとも一方の有効可動部全面に、弾性を備えたシートからなるフロント側質量付与部材を設置して、前記フロント側質量付与部材の少なくとも一部を前記フロントヘッドに固定し、前記フロントヘッドおよび前記フロント側質量付与部材に空気抜き穴を設ける。
【0015】
この態様では、フロントヘッドを設けることによって、低音を強調することができる。また、フロントヘッドに空気抜き穴を設けたことによって打撃音の減衰が早くなるため、打撃音がタイト(しまったよう)になる。なお、フロントヘッドは、ビータで、直接打撃される面ではないため、フロント側質量付与部材は、フロントヘッドの裏面に限らず表面に設けてもよい。また、フロントヘッドには、ビータとの相互作用は存在しないため、フロント側質量付与部材の全面をフロントヘッドに固定してもよいし、フロント側質量付与部材の一部だけをフロントヘッドに固定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態であるバスドラムの構成を示す背面図および断面図である。
図2】同実施形態における打面側質量付与部材のドラムヘッドへの固定態様を示す図である。
図3】本発明の第2実施形態であるバスドラムの構成を示す背面図、断面図および正面図である。
図4】本発明の第3実施形態であるバスドラムの構成を示す背面図、断面図および正面図である。
図5】同バスドラムの打撃音の大きさの時間変化を比較例と対比して示すグラフである。
図6】同バスドラムの打撃音の周波数に対する音圧の大きさを比較例と対比して示すグラフである。
図7】本発明の他の実施形態であるバスドラムの構成を示す背面図、断面図および正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
図1(a)および(b)は、この発明の第1実施形態であるバスドラム10の構成を示す図である。ここで、図1(b)は、図1(a)のI−I’線断面図であり、図1(a)は図1(b)におけるバスドラム10を矢印A方向から見た背面図である。また、図2(a)は、本実施形態における打面側質量付与部材13のドラムヘッド12への固定態様を示す斜視図である。図2(b)は、打面側質量付与部材13のドラムヘッド12への固定態様を示す断面図である。以下の説明においては、バスドラム10における打面側を背面(後方)、背面と反対側を正面(前方)とする。
【0018】
図1(a)および(b)に示すように、バスドラム10は、胴部を構成する円筒状のシェル11と、シェル11の後部開口に取り付けられた円形のドラムヘッド12とを備えている。この例では、シェル11の口径は12インチ、奥行きは11インチである。そして、ドラムヘッド12の裏面(内面)には打面側質量付与部材13が固定されている。
【0019】
シェル11は、木材(バーチ材)で構成されており、振動が発生したときに、シェル11の内部の空気を効率よく前方に伝えたり、振動を内部で反響させたりする機能を備えている。ドラムヘッド12は、PET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムからなる円形のヘッド部12aと、金属製のリングからなるフレッシュフープ12bとで構成されている。図2(a)に示すように、ヘッド部12aは、外周縁部がフレッシュフープ12bに連結されることにより円形に保持されている。このヘッド部12aは、厚みが250μmであり、直径がシェル11の後部開口の直径よりも少し長い。
【0020】
打面側質量付与部材13は、厚みが1mm、直径が290mmで、ショア硬度が50度のニトリルゴムからなるシートで構成されている。本実施形態の特徴は、この打面側質量付与部材13のヘッド部12aの裏面への固定態様にある。本実施形態において打面側質量付与部材13は、ヘッド部12aの裏面の有効可動部の全面を覆っている。ここで、有効可動部とは、ヘッド部12aの裏面において、シェル11の後部開口内に属する領域をいう。そして、本実施形態では、図1(a)に示すように、打面側質量付与部材13およびヘッド部12aの外周側領域の周方向に間隔を保った複数の固定部(図1(a)に示す例では6個所の固定部)において、固定部材により、局所的に圧力を与えて打面側質量付与部材13およびヘッド部12aを挟み込み、打面側質量付与部材13をヘッド部12aに固定している。具体的には本実施形態では、図1(a)および図2(a)に示すように、打面側質量付与部材13をヘッド部12aに固定する固定部材として、打面側質量付与部材13およびヘッド部12aの両方を貫通する留め具であるリベット13aを使用し、このリベット13aとワッシャ13bにより打面側質量付与部材13をヘッド部12aに局所的に与圧固定している。なお、ワッシャ13bは打面側質量付与部材13およびドラムヘッド12が四散しないよう固定するために用いられており、図2(a)に示すようにヘッド部12aの裏側のみに設置されている。ここで、固定部において局所的に圧力を与えるとは、固定部のみに圧力を与え、固定部以外の領域には殆ど圧力を与えないという意味である。また、固定部とは、局所的な圧力が与えられる領域であり、この例では打面側質量付与部材13およびヘッド部12aにおいてリベット13aの下面とワッシャ13bとが重複した領域である。
【0021】
打面側質量付与部材13が固定されたドラムヘッド12は、ラグ14と張設部15とによってシェル11の後部開口に着脱可能に取り付けられる。そして、ヘッド部12aと打面側質量付与部材13とが重なった領域によって打面が構成される。なお、フレッシュフープ12bの内径は、シェル11の外径よりも僅かに大きい。そして、フレッシュフープ12bの内部側にシェル11の後部を入れたときに、ヘッド部12aの外周側領域と、打面側質量付与部材13の外周縁部とがシェル11の後部開口の周縁部に押し付けられる。
【0022】
ラグ14は、平面状に形成された後面から前部側に行くほど徐々に先細りになった部材で構成されており、後面から内部前部側に向かってシェル11の外周面に平行して延びるねじ穴が形成されている。また、ラグ14の内面はシェル11の外周面に沿える曲面に形成されており、ラグ14は、シェル11の外周面における前後方向の中央よりもやや後方に、シェル11の外周面に沿って固定されている。このラグ14は、シェル11の周方向に一定間隔を保って6個設けられている。
【0023】
張設部15は、フープ15aと、チューニングピン15bとで構成されている。フープ15aは、後部よりも前部の方が直径が長くなった段違いのリング状に形成されており、前部側領域はフレッシュフープ12bの外周面と後面とを覆うことのできる大きさに形成され、後部側領域の内径はフレッシュフープ12bの内径と略同じである。また、フープ15aの大径になった前部側領域の外周後部には、ピン挿通穴を備えた係合突起15cが、ラグ14と同じ数だけ周方向に一定間隔を保って形成されている。チューニングピン15bは、係合突起15cのピン挿通穴に挿通できるとともに、ラグ14のねじ穴に螺合できるねじ部と、直径が係合突起15cのピン挿通穴の直径よりも長くなって係合突起15cのピン挿通穴を挿通できない頭部とからなっておりラグ14と同じ数だけ備わっている。
【0024】
このため、シェル11の後部開口に、打面側質量付与部材13が固定されたドラムヘッド12を組み付けて、係合突起15cとラグ14とをそれぞれ対向させた状態で、フレッシュフープ12bの後部にフープ15aを合わせ、各チューニングピン15bのねじ部を、順次係合突起15cのピン挿通穴に通してラグ14のねじ穴に螺合させることにより、ドラムヘッド12をシェル11に固定できる。そのときのチューニングピン15bの締め具合を変更することにより、ドラムヘッド12および打面側質量付与部材13のテンションを調節できる。この場合、フープ15aの後部は、ドラムヘッド12よりも後方に突出している。また、図示は省略しているが、ドラムヘッド12の後方には、ビータを備えたフッドペダルが設置されており、演奏者が足でフッドペダルを操作することによりビータがドラムヘッド12を打撃する。
【0025】
以上のように構成されたバスドラム10のドラムヘッド12をビータで打撃すると、ドラムヘッド12は打面側質量付与部材13とともに変位する。この場合、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13とは、全体としては一体として振動するが、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13には、個々に張力がかかっており、これらは局部的、瞬間的には別々に挙動する。そして、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13との変位によって、シェル11内の空気は圧縮されて前方に移動していく。その後、ドラムヘッド12と打面側質量付与部材13の変形が繰り返されて振動となり、その振動から生まれる空気の振動が打撃音となって響くようになる。この際、バスドラム10は、打面側質量付与部材13を設けたことにより、従来のバスドラムとは異なる周波数を備えた打撃音を発生するようになる。
【0026】
また、ドラムヘッド12および打面側質量付与部材13は、図2(b)に示すように、リベット13aおよびワッシャ13bによって表裏両面から挟み込まれ、さらに局所的に圧力が与えられる。さらにドラムヘッド12および打面側質量付与部材13の固定部をリベット13aが貫通している。このため、ドラムヘッド12における高調波(詳しくは曲げ波の高周波成分)は、固定部材であるリベット13aおよびワッシャ13bにより反射される。また、固定部材であるリベット13aおよびワッシャ13bによりドラムヘッド12および打面側質量付与部材13を局所的に挟むので、高調波は損失することなく効率よく反射される。従って、打面側質量付与部材13とドラムヘッド12とを粘着物等により固定した場合に比べ、打撃時に発生する振動の高調波成分のエネルギーが失われず、アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。従って、本実施形態では、ビータ打撃時に発生する音波の高調波成分の損失を防止することができ、アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。また、本実施形態では、打面側質量付与部材13に固定される金属製のリベット13aおよびワッシャ13bの質量がドラムの打撃音の周波数を低下させる。従って、より低音感のある音を発生することができる。
【0027】
<第2実施形態>
図3(a)〜(c)は、この発明の第2実施形態であるバスドラム20の構成を示す図である。ここで、図3(b)は、図3(a)のI−I’線断面図、図3(a)は図3(b)におけるバスドラム20を矢印A方向から見た背面図、図3(c)は図3(b)におけるバスドラム20を矢印B方向から見た正面図である。このバスドラム20は、胴部を構成する円筒状のシェル21と、シェル21の後部開口に取り付けられた円形のドラムヘッド22と、シェル21の前部開口に取り付けられた円形のフロントヘッド26とを備えている。ドラムヘッド22は、ヘッド部22aとフレッシュフープ22bとで構成されている。また、ヘッド部22aの裏面には打面側質量付与部材23がリベット23aおよびワッシャ23bにより固定されている。そして、ドラムヘッド22は、シェル21の外周面に設けられた6個のラグ24と、係合突起25cを含むフープ25aとチューニングピン25bとからなる張設部25とによってシェル21の後部開口に取り付けられている。
【0028】
前述した各部材のうち、シェル21、ドラムヘッド22、打面側質量付与部材23、リベット23a、ワッシャ23b、ラグ24および張設部25は、前述した第1実施形態におけるシェル11、ドラムヘッド12、打面側質量付与部材13、リベット13a、ワッシャ13b、ラグ14および張設部15とそれぞれ同一の部材で構成されている。すなわち、バスドラム20は、フロントヘッド26を除けば、上記第1実施形態のバスドラム10と同様のものになる。そして、フロントヘッド26は、ヘッド部22aと同じPETのフィルムからなる円形のヘッド部26aと、フレッシュフープ22bと同じ金属製のリングからなるフレッシュフープ26bとで構成されている。
【0029】
このフロントヘッド26は、6個のラグ27と張設部28とを介して、ドラムヘッド22と前後の方向を変えて同様の方法により、シェル21の前部開口に着脱可能に取り付けられる。この場合も、張設部28に備わっているチューニングピン28bのねじ部を、フープ28aに形成された係合突起28cのピン挿通穴に通してラグ27のねじ穴に螺合させる。その際に、チューニングピン28bの締め具合を変更することにより、フロントヘッド26のテンションを調節できる。なお、図3(a),(c)は、ラグ24,27および張設部25,28を除いた状態を示している。
【0030】
また、フロントヘッド26におけるヘッド部26aの裏面(内面)にフロント側質量付与部材29が貼り付けられており、そのヘッド部26aとフロント側質量付与部材29とに前後に貫通するエアホール26cが形成されている。このフロント側質量付与部材29は、前述した打面側質量付与部材13と同一のもので構成されており、その全面が両面テープによってフロントヘッド26に固定されている。また、このエアホール26cは、ヘッド部26aおよびフロント側質量付与部材29の中心から56mmずれたところに設けられ、直径は100mmである。なお、エアホール26cの位置や大きさは一例であり、任意に定めてよい。このバスドラム20のそれ以外の部分の構成については、前述したバスドラム10と同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0031】
このように構成されたバスドラム20の打面をビータで打撃すると、ドラムヘッド22は打面側質量付与部材23とともに変位する。この場合、ドラムヘッド22および打面側質量付与部材23は、前述したドラムヘッド12および打面側質量付与部材13と同様に振動する。そして、ドラムヘッド22および打面側質量付与部材23の変位によって、シェル21内の空気は圧縮され、圧縮された空気はフロントヘッド26を前方に押して変形させる。その後、ドラムヘッド22と打面側質量付与部材23およびフロントヘッド26の変形が繰り返されて振動となり、その振動から生まれる空気の振動が打撃音となって響くようになる。その際、発生する打撃音は、前述したバスドラム10の打撃音よりも低音が強調されたものとなる。
【0032】
また、ヘッド部26aおよびフロント側質量付与部材29にエアホール26cを形成したことにより、内部の空気がエアホール26cからも外部に抜け出るようになり、打撃音の減衰が早くなる。これによって、エアホール26cがないバスドラムの打撃音と比較してよりタイトな打撃音になる。このバスドラム20のそれ以外の作用効果については、前述した第1実施形態のバスドラム10と同様である。
【0033】
なお、フロントヘッド26は、ビータによって直接打撃される面ではないため、フロント側質量付与部材29は、フロントヘッド26の裏面でなく表面に設けてもよい。また、フロントヘッド26には、ビータとの相互作用は存在しないため、フロント側質量付与部29の全面をフロントヘッド26に固定してもよい。また、フロント側質量付与部29は、外周部のみを固定してもよいし、一部をランダムに固定してもよい。
【0034】
<第3実施形態>
図4(a)〜(c)は、この発明の第3実施形態であるバスドラム30の構成を示す図である。ここで、図4(b)は、図4(a)のI−I’線断面図、図4(a)は図4(b)におけるバスドラム30を矢印A方向から見た背面図、図4(c)は図4(b)におけるバスドラム30を矢印B方向から見た正面図である。このバスドラム30では、ドラムヘッド32におけるヘッド部32aと打面側質量付与部材33との固定部が、外周側領域の周方向に間隔を保った複数個所と、中央部の周方向に間隔を保った複数個所とで構成されている。このバスドラム30のそれ以外の部分の構成については、前述したバスドラム20と同一である。従って、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0035】
このバスドラム30によると、打面側質量付与部材33の外周側領域に加えて、ビータで打撃される中央部にも固定部が配置されたことにより、ビータ打撃時のビータとドラムヘッド32の衝突、およびドラムヘッド32と打面側質量付与部材33の衝突の頻度が増す。これによって、ビータとドラムヘッド32の相互作用、およびドラムヘッド32と打面側質量付与部材33の相互作用が増大するため、バスドラム30は、より一層アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。
【0036】
本願発明者らは、このバスドラム30の打撃音と、比較例のバスドラムの打撃音とを測定して比較する実験を行った。比較例のバスドラムには、バスドラム30で用いられているものと同一のドラムヘッドを用い、その裏面に、打面側質量付与部材33と同一のゴムシートを設置し、バスドラム30と同様の固定位置において、打面側質量付与部材33をアクリル系粘着剤と不敷布とからなる両面テープによってヘッド部32aに固定した。このとき、固定領域の幅(両面テープの幅)は10mmとした。比較例のそれ以外の部分の構成については、バスドラム30と同一とした。
【0037】
測定には、シェルの口径が13インチである13インチバスドラムを用いた。また、同じ演奏者が各バスドラムに対して同じフットペダルを用いて打撃操作し、そのときの打撃は、やや強く(メゾフォルテ)なるようにした。そして、演奏者の耳の位置近傍に測定用マイクを設置して、打撃音を収音し、時間波形と周波数波形との分析結果をそれぞれ比較した。
【0038】
図5(a)および(b)は、バスドラム30の打撃音の大きさの時間変化を比較例と対比して示すものであり、図5(a)は比較例の打撃音の時間波形、図5(b)はバスドラム30の打撃音の時間波形を示している。図5(a)および(b)によると、比較例およびバスドラム30のいずれにおいても、打撃音の時間波形の周期は長く、ゴムシートをドラムヘッド32に固定した効果が認められる。
【0039】
一方、バスドラム30の打撃音は、打撃直後の初期波形に細かな起伏が発生し、アタック音が比較例よりもより一層発生していることが認められる。
【0040】
図6はバスドラム30の打撃音の周波数に対する音圧の大きさを比較例と対比して示す図である。この図6において、実線aは比較例のバスドラムの打撃音のスペクトル分布を示し、破線bはバスドラム30の打撃音のスペクトル分布を示している。実線aと破線bとを比較すると、周波数が0Hzから1000Hzでは、ともに相対音圧レベルが大きく低音が強調されていることが認められる。一方、1000Hzを超えた領域では、破線bは実線aよりも相対音圧レベルが大きく、高調波の音圧レベルが大きいことがわかる。すなわち、バスドラム30では、比較例と異なり、高調波成分の損失が少なく、アタック音が目立つ打撃音が発生していることが分かる。
【0041】
<第4実施形態>
図7(a)〜(c)は、この発明の第4の実施形態であるバスドラム40の構成を示す図である。ここで、図7(b)は、図7(a)のI−I’線断面図、図7(a)は図7(b)におけるバスドラム40を矢印A方向から見た背面図、図7(c)は図7(b)におけるバスドラム40を矢印B方向から見た正面図である。このバスドラム40では、シェル41の内周面の一部に吸音部材410が取り付けられている。この吸音部材410は、厚みが40mm、前後方向の長さが150mm、シェル41の内周面の周方向に沿った長さが200mmで、密度が20kg/m3の発泡ウレタンフォームで構成されており、シェル41の内周面における前後方向の中央に接着剤により貼り付けられている。このバスドラム40のそれ以外の部分の構成については、前述したバスドラム30と同一である。従って、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。吸音部材410は第1実施形態および第2実施形態のバスドラム10およびバスドラム20において用いてもよい。
【0042】
このバスドラム40によると、シェルの内周面に吸音部材410を配置することにより、ドラムヘッドの振動を損失させることなく、シェルの内部共鳴音だけを低減することができる。これによって、バスドラム40は心地の良い打撃音を発生することができる。
【0043】
本実施形態は、特に、小型のバスドラムの場合に大きな効果を発揮する。小型のバスドラムの場合、シェルの容積が小さいため、シェルの内部共鳴音がより高い周波数で共鳴するが、本実施形態によると、この内部共鳴音を効率よく低減させることができる。この吸音部材410としては、スポンジやウレタンフォーム等を用いることができる。このバスドラム40のそれ以外の作用効果については、前述した第3実施形態のバスドラム30と同様である。なお、この場合も、フロント側質量付与部材29は、フロントヘッド26の裏面でなく表面に設けてもよいし、フロント側質量付与部材29の一部をフロントヘッド26に固定してもよい。
【0044】
また、本実施形態におけるバスドラムは、前述した各実施形態や各変形例に限定するものではなく、さらに変更して実施できる。例えば、第1〜第3実施形態では、ドラムヘッド12,22等におけるヘッド部12a,22a等と打面側質量付与部材13,23等との固定部が、外周側領域および中央部で周方向に間隔を保った複数個所で構成されているが、周方向に限定せず局所的な配置としてもよい。これは、固定部の位置に関わらず、ドラムヘッドと打面側質量付与部材の間には相互作用が発生するためである。ただし、固定部は、一部領域に集中的に配置するのではなく、周方向もしくは平均的に配置することが好ましい。これにより、効率よくバスドラムを振動させることができ、アタック音が目立つ打撃音を発生することができる。
【0045】
<他の実施形態>
以上、本発明の第1〜第4実施形態を説明したが、本発明には他にも実施形態があり得る。例えば、第1〜第4実施形態では、本発明を円筒状のシェル11、21または41を有するドラムに適用したが、シェルの形状は円筒以外の筒状であってもよい。また、第1〜第4実施形態では、固定部材として、リベット13a,23a等およびワッシャ13b,23b等を用い、打面側質量付与部材13,23等およびドラムヘッド12,22等の固定部に貫通孔を設け、固定部を貫通する固定部材によって打面側質量付与部材13,23等およびドラムヘッド12,22等を固定した。このように、固定部材は、貫通孔を設けて固定するものに限定されず、貫通孔を設けずに固定するものであってもよい。例えば、固定部材として、強力な永久磁石と強磁性体の組を用い、この両者により、打面側質量付与部材とドラムヘッドとを挟み込み、局所的に圧力を加えてもよい。この態様においても、上記第1〜第4実施形態と同様な効果が得られる。
【0046】
さらに、第1〜第4実施形態は、貫通孔を設けて用いる固定部材として、リベット13a,23a等およびワッシャ13b,23b等のような留め具を用いているが、留め具はこれに限定されるものではない。例えば、ボルトおよびそれに螺合するナット等で構成してもよい。また、その材質も金属製材料に限定されるものではなく、プラスチック等の、材質や密度の異なるものを用いてもよい。留め具を用いることで、挟み込み時の圧力を変化させることにより、より一層アタック音が目立つ打撃音が発生することも考えられる。一方で、留め具を用いる代わりに、ステープラーの針等の固定部材を用いて固定してもよい。これらの態様においても上記第1〜第4実施形態と同様な効果が得られる。
【0047】
また、打面側質量付与部材13,23等やフロント側質量付与部材29は、一枚のものでなく複数枚のものを重ねて使用してもよい。また、打面側質量付与部材13,23等やフロント側質量付与部材29を構成する材料は、ニトリルゴムに限らず、他のゴムやエラストマー等で構成することができる。要は、弾性や可撓性を備えたシート材料であって、ヘッド部12a,22a等の振動を阻害することなく質量を増加できるものであればよい。
【0048】
さらに、フロント側質量付与部材29のヘッド部26aへの固定方法は、両面テープ等を用いた粘着に限らず、接着剤を用いて固定してもよい。また、リベットやステープラーの針等の固定部材を用いて固定することもできる。さらに、ヘッド部12a,22a等を構成する材料としては、PETフィルムに限らず、PETフィルムと同様の性質を持つ他の高分子フィルムを用いてもよい。また、吸音部材410としては、発泡ウレタンフォームの他、グラスウール等繊維系の材料やスポンジ等を用いることができる。
【0049】
さらに、打面側質量付与部材13,23等が貼り付けられたドラムヘッド12,22等は、予めバスドラムに組み込まれたものでなく、別途組み込みが可能にして用いることができる。この場合、複数種類のドラムヘッドを準備して、任意のものを使用に応じて用いることが好ましい。また、打面側質量付与部材13,23等についても、ドラムヘッドに固定される領域に、リベット等の留め具を取り付けた打面側質量付与部材を複数準備して、使用に応じて、任意の打面側質量付与部材を選択してドラムヘッドに固定することができる。
【0050】
さらに上記各実施形態では、円状のドラムヘッドに円状の質量付与部材を固定したが、例えば円状のドラムヘッドに半分の面積の半月状の質量付与部材を固定してもよい。また、質量付与部材は、ドラムヘッドに固定可能な範囲で任意の面積のものを用いればよい。
【0051】
なお、前述した各実施形態では、12インチの小型バスドラムを中心に説明したが、本発明におけるバスドラムは、小型のバスドラムから大型のバスドラムまで各種のサイズのバスドラムに適用できることはいうまでもない。また、この発明は、バスドラムの他にも、タムタムやスネアドラムなど複数種のドラムにも適用できる。さらに、バスドラム10等のそれ以外の部分の構成についても、本発明の技術的範囲内で、適宜、変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10,20,30,40…バスドラム、11,21,41…シェル、12,22,32…ドラムヘッド、12a,22a,32a…ヘッド部、12b,22b…フレッシュフープ、13,23,33…打面側質量付与部材、13a,23a,33a…リベット、13b,23b,33b…ワッシャ、14,24…ラグ、15,25…張設部、15a,25a…フープ、15b,25b…チューニングピン、15c,25c…係合突起、26…フロントヘッド、26a…ヘッド部、26b…フレッシュフープ、26c…エアホール、27…ラグ、28…張設部、28a…フープ、28b…チューニングピン、28c…係合突起、29…フロント側質量付与部材、410…吸音部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7