【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明についてより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(焼却灰)
焼却灰としては、製紙スラッジ焼却灰(以下、PS灰と略記)を使用した。試験に供したPS灰の特性を表1に示す。表1の化学成分は以下の方法によって測定された値である。
(i)CaO、SiO
2、Al
2O
3及びSO
3含有量の測定
CaO、SiO
2、Al
2O
3、SO
3含有量は、JIS M 8853「セラミックス用アルミのけい酸質原料の化学分析方法」に準拠して行った。
(ii)F含有量の測定
F含有量は、自動燃焼装置(三菱化学(株)製、AQF−100)を用いて燃焼させ、燃焼ガスを吸収装置(三菱化学(株)製、GA−100)にて吸収液に吸収させ、吸着させたものを検液とし、JIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定を行った。
(iii)f.CaO含有量の測定
f.CaO含有量は、セメント協会標準試験方法のJCAS I−01:1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。
(iv)未燃C含有量の測定
PS灰2gに(1+1)HCl(濃度35%)溶液を30ml添加し、蒸留水で200mLにフィルアップした後、30分間攪拌した。攪拌後の溶液はメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過し、フィルター上の残渣を105℃、1時間乾燥し、高周波燃焼−赤外吸光法による炭素硫黄同時分析装置(LECO製、CS−400型)を用いて未燃Cを定量した。
(v)pHの測定
PS灰を環境省告示第46号法(平成10年)に準拠して溶出試験を行い、検液を作製した。その検液のpHをJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。
表1に示すとおり、f.CaO量が多く、溶出液のpHが12.4と高アルカリ性のPS灰を使用した。
【表1】
【0035】
<試験例1>
フッ素不溶化効果に及ぼす配合割合の影響を確認するため、以下の試験を実施した。
【0036】
(不溶化剤)
不溶化剤には、高炉セメントB種、無水石膏、硫酸アルミニウム14水和物を所定の割合で混合したものを使用した。試験に供した不溶化剤の配合割合を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
(実施例1〜8)
PS灰100質量部に対して不溶化剤A〜Hをそれぞれ5質量部添加し、ベンチニーダーで攪拌混合した後、蒸留水65質量部を添加して3分間混練した。混練物をミンチミキサーに投入し、押出造粒することで直径約2mmの円柱状造粒物を作製した。作製した造粒物を1日又は3日養生した後、1日風乾した。風乾後の造粒物を2mm以下に粉砕し、フッ素溶出試験に供した。フッ素溶出試験は、環境省告示第46号法(平成10年)に準拠して行い、検液を作製した。その検液のフッ素濃度およびpHをJIS K 0102「工場排水試験方法」に準拠して測定した。結果を表3に示す。
【0039】
(比較例1)
PS灰に不溶化剤を添加しなかったことの他は、実施例1〜8と同様にして造粒物を作製し、フッ素溶出試験を行った。すなわち、PS灰100質量部に対して蒸留水65質量部を添加して3分間混練した。混練物をミンチミキサーに投入し、押出造粒することで直径約2mmの円柱状造粒物を作製した。作製した造粒物を1日又は3日養生した後、1日風乾した。風乾後の造粒物を2mm以下に粉砕し、フッ素溶出試験に供した。フッ素溶出試験は、環境省告示第46号法(平成10年)に準拠して行い、検液を作製した。その検液のフッ素濃度およびpHを測定した。結果を表3に示す。
【0040】
(比較例2)
PS灰に不溶化剤Iを添加したことの他は、実施例1〜8と同様にして造粒物を作製し、フッ素溶出試験を行った。結果を表3に示す。
【0041】
(比較例3)
PS灰に不溶化剤Jを添加したことの他は、実施例1〜8と同様にして造粒物を作製し、フッ素溶出試験を行った。結果を表3に示す。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例1〜8と比較例1〜3より、不溶化剤を添加しない場合はフッ素溶出量が土壌環境基準(0.8mg/L)を超過していたのに対し、高炉セメントと無水石膏及び硫酸アルミニウム14水和物を混合した不溶化剤を添加することで、フッ素溶出量を土壌環境基準以下に低減できた。高炉セメント20質量%、無水石膏50質量%、硫酸アルミニウム14水和物30質量%の配合において最も高い不溶化効果が得られた。一方、無水石膏を添加していない比較例2では、フッ素溶出量が養生3日において土壌環境基準を超過した。また、高炉セメントを60%配合した比較例3では養生期間1日および3日ともに土壌環境基準を上回る値となった。
【0044】
<試験例2>
フッ素不溶化効果に及ぼす添加量の影響を確認するため、以下の試験を実施した。
【0045】
(実施例9〜11)
不溶化剤として、高炉セメントB種:無水石膏:硫酸アルミニウム14水和物=20:40:40の質量割合で混合した不溶化剤を用い、PS灰100質量部に対して不溶化剤を3〜15質量部添加した以外は実施例1〜8と同様にして造粒物を作製し試験を行った。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
実施例9(添加量3質量部)においてもフッ素を土壌環境基準以下に不溶化可能であった。添加量を増加させるほどフッ素溶出量は低くなった。
【0048】
<試験例3>
以下のとおり、フッ素不溶化効果の長期安定性試験を実施した。
【0049】
(実施例12)
養生日数を1〜91日とした以外は実施例10と同様の試験を行った。結果を表5に示す。
【0050】
(比較例4)
不溶化剤として、普通セメント:高炉スラグ:硫酸アルミニウム14水和物=24:16:60の質量割合で混合した不溶化剤を用いた以外は実施例12と同様にして試験を行った。結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】
実施例12と比較例4より、従来法の不溶化剤に、更に石膏を所定量配合することで、短期から長期にかけて安定的にフッ素を不溶化可能であった。
【0053】
<試験例4>
以下のとおり、フッ素及び/又は鉛の不溶化試験を実施した。焼却灰AはPS灰であり、焼却灰Bはバイオマスボイラ灰である。焼却灰A、Bのフッ素溶出量、鉛溶出量、pHを表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
(実施例13〜14)
高炉セメントB種:無水石膏:硫酸アルミニウム14水和物=20:40:40(試験例2と同じ)の質量割合で混合した不溶化剤を焼却灰Aに対して内割で5質量%添加し、また焼却灰Bに対して内割で10質量%添加し、環境省告示第46号に基づく溶出試験方法に準拠し、フッ素、鉛の溶出量、pHを測定した。結果を表7に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
実施例13〜14より、本不溶化剤を添加することで鉛を不溶化できること、またフッ素及び鉛を同時に土壌環境基準以下に不溶化できることがわかった。
【0058】
<試験例5>
(参考例1〜4)
フッ素不溶化効果とpHの関係を確認するため、以下の試験を実施した。模擬廃棄物として、フッ化ナトリウム水溶液(フッ素濃度8mg/L)にPS灰のf.CaO相当(4.55%)のCa(OH)
2を添加した溶液を用いた。この模擬廃棄物300gに対して、硫酸アルミニウム14水和物を1.8g添加し、硝酸を用いてpHを8.6〜12.5に調整して6時間振盪後に固液分離して検液と固形分を得た。得られた検液のフッ素濃度、pHを測定した。固形分中の生成化合物をX線回折装置(RIGAKU社製RINT2500)を用いて分析した。結果を表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
参考例1〜4より、エトリンガイトはpH9.6〜12.5の範囲で安定であり、この範囲ではpHが低いほどフッ素濃度は低かった。
【0061】
<試験例6>
PS灰に本発明の不溶化剤に含まれる各材料をそれぞれ添加した場合の液相中のSO
42−/Al
3+モル比及び不溶化処理物中のエトリンガイト生成量を確認するため、以下の試験を実施した。PS灰28.2gに無水石膏、高炉セメント、硫酸アルミニウム14水和物をそれぞれ1.8g添加して混合した後、混合物を固液比1:10となるように蒸留水300gに添加して所定時間振盪した。振盪後の溶液を固液分離して検液と固形分を得た。得られた検液のSO
42−濃度、Al
3+濃度をICP発光分析装置(SIIナノテクノロジー製SPS3000)を用いて分析した。固形分中のエトリンガイトの生成量をX線回折装置(RIGAKU社製RINT2500)を用いて分析した。測定したSO
42−濃度、Al
3+濃度から検液中のSO
42−/Al
3+モル比を算出し、振盪時間に対してプロットしたものを
図1に示す。また、XRDで測定したエトリンガイトの第一ピーク(2θ=9.1°)のピーク強度を振盪時間に対してプロットしたものを
図2に示す。
【0062】
図1より、SO
42−/Al
3+モル比が経時的に変化しており、硫酸アルミニウムを添加した場合はSO
42−/Al
3+モル比が非常に小さく、高炉セメントを添加した場合では180分以降小さくなる傾向にあることがわかる。一方、石膏を添加した場合ではSO
42−/Al
3+モル比が360分後の時点で最も大きく、その後更に大きくなる傾向にあることがわかる。
【0063】
図2より、いずれの場合もエトリンガイトが生成していたが、硫酸アルミニウム14水和物や高炉セメントを添加した場合は初期にエトリンガイトが生成した後、360分後までその生成量はほとんど変化がなかった。一方、無水石膏を添加した場合では、初期のエトリンガイト生成量は硫酸アルミニウムを添加した場合に比べ少ないが、エトリンガイトが360分後まで経時的に増加しており、エトリンガイトの生成時期が遅れていることがわかる。