特許第6221634号(P6221634)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221634樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物および基板
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  • 特許6221634-樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物および基板 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221634
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物および基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20171023BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20171023BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20171023BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20171023BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20171023BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20171023BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08K5/053
   C08K5/18
   C08G59/40
   C08G59/50
   C08G59/62
   H05K1/03
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-225170(P2013-225170)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-86278(P2015-86278A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉山 強
(72)【発明者】
【氏名】首藤 広志
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第93/014140(WO,A1)
【文献】 特表平07−507163(JP,A)
【文献】 特表平07−503717(JP,A)
【文献】 特開2011−202107(JP,A)
【文献】 特開平05−009284(JP,A)
【文献】 米国特許第05300559(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00−13/08
C08G 59/00−59/72
H05K 1/03
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンから選ばれる硬化剤を含む樹脂組成物において、前記硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が前記樹脂組成物中の全有機物中の15質量%以上50質量%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を含む樹脂シート。
【請求項3】
請求項1に記載の樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物。
【請求項4】
請求項2に記載の樹脂シートを1枚または複数枚積層して成形硬化することにより得られる基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂シート、樹脂硬化物および基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の動力の電力化、半導体の高集積化、LED照明の普及の流れを受けて、接着剤、注型剤、封止剤、成形剤、積層板および基板などに用いられる、熱硬化性樹脂を主とした有機絶縁材料は、放熱を意図して、例えば0.3W/(m・K)以上の高熱伝導率化が望まれている。
【0003】
高熱伝導率を有する熱硬化性の樹脂としては、メソゲン骨格を有するエポキシ樹脂が知られている。例えば、特許文献1には、メソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマーを含む樹脂組成物の開示がある。これらの樹脂組成物により高熱伝導率を有する樹脂硬化物を得ることはできるが、一般にメソゲン骨格を有する樹脂は高融点であり、成形時の取り扱いが非常に困難となる課題がある。
【0004】
特許文献2には、樹脂組成物の融点を200℃以下に低融点化するため、融点が280℃を超える4,4’−ジヒドロキシビフェニルのエポキシ化をあらかじめ行う技術が開示されている。これにより、成形時の取り扱いにおいては、加工性が向上するものの、このエポキシ化技術は、複数のメソゲンを柔軟性のある結合で直線的に配列するものであり、架橋点が離れることにより、樹脂硬化物の架橋密度が下がってしまい、樹脂硬化物の耐熱性が低下してしまう課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−323162号公報
【特許文献2】特開2004−002573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、成形に適する溶融温度を有する樹脂組成物、この樹脂組成物を含む樹脂シート、熱伝導性および耐熱性に優れる樹脂硬化物ならびに基板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンから選ばれる硬化剤を組み合わせて用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明における樹脂組成物はエポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンから選ばれる硬化剤を含む樹脂組成物において、前記硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が前記樹脂組成物中の全有機物中の15質量%以上50質量%以下であることを特徴とする。
【0009】
1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンは主骨格の1,3,5−トリスフェニルベンゼンの分子構造が剛直で高い熱伝導性を有する。このため、エポキシ化合物と混合した樹脂組成物の硬化物である樹脂硬化物および樹脂組成物を含む樹脂シートを硬化した基板についても、高熱伝導性が得られる。溶融温度については主骨格の1,3,5−トリスフェニルベンゼンの融点が180℃以下と低いため、樹脂組成物および樹脂組成物を含む樹脂シートは低い溶融温度となる。また耐熱性についてはエポキシ化合物と反応する架橋点を分子内に3つ以上有し、反応により3次元的に架橋が進むため、高い耐熱性を有する樹脂硬化物ならびに基板を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成形に適する溶融温度を有する樹脂組成物、樹脂シートおよび高熱伝導性と高い耐熱性を有する樹脂硬化物、ならびに基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係わる樹脂シートの斜視断面図である。
図2】本実施形態に係わる基板の斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、この実施の形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。
【0013】
本実施形態における樹脂組成物とは、エポキシ化合物と、このエポキシ化合物と反応しうる硬化剤を含む混合物である。
【0014】
本実施形態におけるエポキシ化合物は、グリシジルエーテル類やグリシジルエステル類、グリシジルアミン類等特に制限なく使用でき、複数のエポキシ化合物を使用できる。より高い熱伝導率を得るためには、エポキシ化合物の分子内にビフェニル骨格やターフェニル骨格などを有するメソゲン骨格が導入されたものがより好ましい。これによりメソゲン骨格を有するエポキシ化合物同士またはメソゲン骨格を有するエポキシ化合物と硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンとの間でベンゼン環の積み重なり性がより密になる、すなわちベンゼン環同士の距離が小さくなる。この積み重なり性の向上は、密度の向上につながり、また、樹脂硬化物における熱伝導率の低下の原因となる分子の格子振動の散乱を抑制する作用があるため、高熱伝導率を得る点でより好ましい。
【0015】
エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンから選ばれる硬化剤を含む樹脂組成物において、前記硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率を樹脂組成物中の全有機物中の15質量%以上50質量%以下の範囲とする。この範囲であると、エポキシ化合物と硬化剤が低い溶融温度で均一に溶融でき、高熱伝導性と高い耐熱性を有する硬化物が得られる。
【0016】
エポキシ基との反応においては通常エポキシ基1つに対してアミノ基または水酸基の活性水素1つが反応する。このためエポキシ化合物におけるエポキシ基と活性水素の数の比は100:100が好ましい。
【0017】
本実施形態における樹脂組成物のエポキシ化合物の硬化剤には、主骨格が1,3,5−トリスフェニルベンゼンを含まないフェノール、アミン、酸無水物などを併用することもできる。
【0018】
また、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば、ホスフィン類やイミダゾール(2−エチル−4−メチルイミダゾール等)類等の硬化触媒(硬化促進剤)を添加することにより、樹脂組成物の硬化時間の短縮や硬化性を上げることができる。
【0019】
また、本実施形態における樹脂組成物にシランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤を添加することにより樹脂組成物と混合する無機フィラーの分散性を向上させたり、樹脂組成物が硬化した樹脂硬化物の機械強度を向上させたり、することができる。
【0020】
ハロゲンやリン化合物等の難燃剤、希釈剤、可塑剤、滑剤等も本実施形態における樹脂組成物に添加することができる。これらを添加することにより、樹脂硬化物の難燃性や樹脂組成物の流動性、可撓性あるいは、潤滑性などの特性を高めることができる。
【0021】
前述のエポキシ化合物と硬化剤を混合する混合工程を経て、樹脂組成物が得られる。エポキシ化合物および硬化剤それぞれが固形である場合、粉体状に粉砕して混合し粉体状の樹脂組成物得ることができる。また、樹脂組成物に溶剤や無機フィラーを加えミキサーなどの撹拌装置にて撹拌し均一に混合したワニス状の樹脂組成物とすることもできる。
【0022】
樹脂組成物に溶剤を加え、ワニス状の樹脂組成物とする場合、用いる溶剤は、エポキシ化合物、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンを溶解または分散可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メチルエチルケトン、メチルセロソルブ、メチルイソブチルケトン、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、キシレン、アセトン、N−メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン等およびこれらの混合溶剤を用いることができる。
【0023】
樹脂組成物に無機フィラーを加える場合、無機フィラーとして、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウムやシリカ等の非導電性充填剤を使用すれば、非導電性のより高放熱の樹脂硬化物として得ることができる。また、金、銀、銅、ニッケル、スズなどの導電性充填剤を使用すれば導電性のより高放熱の樹脂硬化物を得ることができる。これらは、球状、不定形、繊維状など特に制限なく適宜選択して用いることができる。
【0024】
樹脂シートは、織布や不織布などの形状をした繊維などの芯材またはPETフィルムのような基材に溶剤などで溶解または溶融した樹脂組成物を、含浸もしくは被覆したシート状の樹脂組成物を指す。
【0025】
エポキシ化合物および硬化剤それぞれが固形である場合、粉体状に粉砕して混合し粉体状の樹脂組成物を加熱、溶融させて、溶融した樹脂組成物中に芯材または基材を含浸させるか、もしくは、芯材または基材の一面または両面に溶融した樹脂組成物を塗布などにより表面に塗り広げ、その後、放冷または冷却することにより、樹脂シートを得ることができる。
【0026】
樹脂組成物に溶剤を加えてワニス状の樹脂組成物とした場合は、ワニス状の樹脂組成物中に芯材または基材を含浸させるか、もしくは、芯材または基材の一面または両面に溶剤に溶解した樹脂組成物を塗布などにより表面に塗り広げ、その後、乾燥により溶剤分を除去し、樹脂組成物を固化させる。このときの固化とは、流動性を有する液状物が自立可能な状態の固体状態に変化することを指す。一般的な半硬化状態も固化状態にとして含むことができる。例えば、60〜150℃で1〜120分程度、好ましくは70〜120℃で3〜90分程度の条件下で固化させることができる。
【0027】
図1は、樹脂シート10の一構成例であり、芯材(織布)2の両面に樹脂組成物1を塗布などにより被覆したものである。
【0028】
樹脂シート10において用いられる芯材2としては、各種公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、天然繊維、合成繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維等から得られる織布又は不織布等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの芯材2は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、芯材2の厚さは、樹脂シート10又は基板100の厚さや、所望の機械的強度及び寸法安定性等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、通常、0.03〜0.20mm程度である。
【0029】
樹脂組成物や樹脂シート10を成形工程で加熱、硬化させて樹脂組成物が硬化した樹脂硬化物や図2に示すように、樹脂シート10を積層した基板100を得る。 この成形工程では、樹脂組成物や樹脂シート10を所定形状の金型内に保持した状態で熱を加え、樹脂組成物や樹脂シート10を所望する形状に成形するとともに、エポキシ化合物と硬化剤を反応させることで硬化させる。
一般的な基板の金型については最高温度が250℃程度のものが多いため、樹脂組成物の溶融温度は200℃以下であることが好ましい。本実施形態における溶融温度とは2つ以上の化合物で構成される樹脂組成物が溶融し混合できる温度をいう。溶融温度の測定は、例えば、樹脂組成物の一部をホットプレート上で、ヘラ等で混ぜあわせて溶融し始める最低の温度を目視で確認し、その温度を溶融温度とすることができる。
溶融温度よりもおよそ50℃程度高い100〜250℃の金型温度で1〜300分程度加熱することで均一な樹脂硬化物が得られる。このとき、成形工程は、必要に応じて樹脂組成物や樹脂シート10への加圧および雰囲気の気圧の加圧、減圧を行ってもよい。
複数枚の樹脂シート10を重ね合わせ、加熱および加圧することで基板100が得られる。基板100は、樹脂シート10を積層し、100〜250℃で1〜300分程度、0.5〜8MPa程度、加熱および加圧する成形工程で作製することができる。なお、樹脂シート10を1枚のみ用いて、基板100としてもよい。
【0030】
これら基板100を作る際に、基板100の片面もしくは両面に金属箔または金属板を配置することで金属張り基板となる。
【0031】
金属張り基板において用いられる金属箔または金属板には、各種公知のものを適宜選択して用いることができ、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属箔や金属板が挙げられるが、これらに特に限定されない。なお、金属箔または金属板の厚みは、特に限定されるものではないが、通常、3〜150μm程度である。
【0032】
さらに、前述の金属張り基板は必要に応じてエッチングや穴開け加工しても良く、さらに複数枚用いて多層基板としても良い。
【0033】
基板に使用する無機フィラーを除いた樹脂組成物の硬化後の熱伝導率、すなわち樹脂硬化物の熱伝導率は0.3W/(m・K)以上であることが好ましい。基板を作る際に無機フィラーを添加して熱伝導率を向上させるが、樹脂硬化物の熱伝導率が0.3W/(m・K)未満だと得られる基板の熱伝導率において好ましい1.5W/(m・K)を得ることが困難になる。基板の熱伝導率が、1.5W/(m・K)以下であるとLED用基板などの放熱用途において十分な放熱性が得られない。また、車載用のコンバーターなどでは基板の熱伝導率が2.0W/(m・K)以上であるのが好ましい。
熱伝導率は、例えばレーザーフラッシュ法により測定できる。
【0034】
高耐熱性とは、樹脂硬化物を備える基板等において、その使用が期待される環境温度よりも、高い温度で強度を維持する耐性が必要とされることである。この耐熱性の評価としては、樹脂硬化物のガラス転移点を評価することで把握することができる。一般に基板等の基材に要求される使用環境の温度は、使用される部品および使用用途により異なるが、搭載される部品の耐熱性と同等以上である必要があるとの観点から120℃程度とされている。このため耐熱性の指標であるガラス転移点は、その温度より高い必要がある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
(実施例1)
3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビス(グリシジルオキシ)−1,1’−ビフェニル50質量部と、4,4’−ビフェニルジイルビス(グリシジルエーテル)50質量部のエポキシ化合物として平均エポキシ当量175の混合物A(以下混合物Aとする)を用意した。
【0037】
次に、エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼン(東京化成工業株式会社製、分子量351)のアミノ基の活性水素の数が60となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼン20質量部とをすり鉢で攪拌粉砕し、粉体状の混合物を調製した。そして、この混合物に対して、硬化触媒2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成株式会社製 2E4MZ)1質量部をさらに混ぜ合わせ、すり鉢にて攪拌混合し紛体状の樹脂組成物を得た。
【0038】
この樹脂組成物をあらかじめ200℃に加熱していた円筒形の金型に入れて溶融させ、さらに2時間200℃の温度で保持することで成形硬化し、実施例1の樹脂硬化物を得た。
【0039】
(実施例2〜7)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数が80、100、200、250、320、400となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンをそれぞれ、27、33、67、84、107、134質量部添加してすり鉢で攪拌混合した以外は実施例1と同様にして実施例2〜7の樹脂硬化物を得た。
【0040】
(実施例8)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼン(分子量354)のヒドロキシ基の活性水素の数が100となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼン67質量部を添加しすり鉢にて攪拌混合した以外は実施例1と同様にして実施例8の樹脂硬化物を得た。
【0041】
(実施例9)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数が100となるように、エポキシ化合物のN,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンを100質量部と、硬化剤としての1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼン50質量部添加しすり鉢で攪拌混合し、混合物を調整した。そして、この混合物に対して、硬化触媒2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成株式会社製 2E4MZ)1質量部をさらに混ぜ合わせ、すり鉢にて攪拌混合し樹脂組成物を得た。
【0042】
次に混合工程で得られた樹脂組成物をあらかじめ200℃に加熱していた円筒形の金型に入れて溶融させ、さらに2時間200℃の温度で保持することで成形硬化し、実施例9の樹脂硬化物を得た。
【0043】
(実施例10)
実施例3の硬化前の樹脂組成物134質量部をメチルエチルケトンと混合し固形分が20質量%の液状の樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物に対してアルミナビーズ(電気化学工業社製 商品名DAW−7)350質量部を加え、せん断型撹拌機で撹拌し分散させ、樹脂−フィラー分散液を作製した。さらに乾燥工程では、この樹脂−フィラー溶液を厚さ0.05mm、布重量50g/mのガラス繊維織布に含浸し、100℃にて加熱乾燥して布重量が350g/m樹脂シートを得た。
【0044】
次に成形工程では、得られた樹脂シートを6枚重ねて温度170℃、1MPaの条件で平板によるプレスにて20分、加熱、加圧後、さらに200℃、4MPaにて1時間、加熱、加圧を行い、厚さ0.9mmの基板を得た。
【0045】
(比較例1〜2)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンのアミノ基の活性水素の数が40および450となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンを13質量部および151質量部添加して攪拌混合した以外は実施例1と同様にして樹脂硬化物を得た。
【0046】
(比較例3)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニルのアミノ基の活性水素の数が100となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニル(東京化成工業株式会社製、分子量260)37質量部を攪拌混合した以外は、実施例1と同様の条件として樹脂組成物の試作を行った。
【0047】
(比較例4)
エポキシ化合物のエポキシ基の数100に対して、4,4’’−ジヒドロキシ−3−メチル−p−ターフェニルのヒドロキシ基の活性水素の数が100となるように、エポキシ化合物の混合物Aを100質量部と、硬化剤としての4,4’’−ジヒドロキシ−3−メチル−p−ターフェニル(本州化学工業株式会社製、分子量276)79質量部とを攪拌混合した以外は、実施例1と同様の条件として樹脂組成物の試作を行った。
【0048】
(比較例5)
混合物A100質量部に4,4’−ジヒドロキシビフェニル(水酸基当量93)28質量部を仕込み、165℃にて10時間加熱して融解させ、三つ口フラスコにて撹拌しながら反応させた後、室温に冷却しプレポリマーAを作成した。 このプレポリマーAのエポキシ基の数100に対して、活性水素の数の比を100となるように、プレポリマーA、100質量部と1,5−ジアミノナフタレン(活性水素当量79、融点=187℃)8質量部をすり鉢にて攪拌混合し混合物を作成した以外は、実施例1と同様にして比較例5の樹脂硬化物を得た。
【0049】
(比較例6)
比較例5の硬化前の樹脂組成物109質量部をメチルエチルケトンと混合し固形分が20質量%の液状の樹脂組成物を作製した。この樹脂組成物に対する質量比率が実施例10と同じとなるようにアルミナビーズ(電気化学工業社製 商品名DAW−7)284質量部を加え、せん断型撹拌機で撹拌し分散させ、樹脂−フィラー分散液を作製した。さらに乾燥工程では、この樹脂−フィラー溶液を厚さ0.05mm、布重量50g/mのガラス繊維織布に含浸し、100℃にて加熱乾燥して布重量が350g/m樹脂シートを得た。
【0050】
次に成形工程では、得られた樹脂シートを6枚重ねて温度170℃、1MPaの条件で平板によるプレスにて20分加熱加圧後、さらに200℃、4MPaにて1時間、加熱、加圧を行い、厚さ0.9mmの基板を得た。
【0051】
実施例および比較例の各サンプルについて樹脂組成物の溶融温度および樹脂硬化物および基板の熱伝導率、ガラス転移点を測定した。結果は表1に示す。各評価方法は、以下の通りである。
【0052】
(溶融温度の評価)
溶融温度の評価は、樹脂組成物をホットプレート上でヘラで混合して、目視において混合物が溶融する最低温度を溶融温度とした。
【0053】
(熱伝導率の評価)
樹脂硬化物および基板の熱伝導率測定を、熱伝導性の評価として実施した。樹脂硬化物および基板を直径10mm、厚さ0.9mmの円盤状に加工し、測定用サンプルを作成した。得られた測定用サンプルを、熱伝導率測定装置(アルバック理工社製 TCシリーズ)を用いて、熱拡散係数α(cm/s)の測定を行った。比熱Cp(J/g・K)は、サファイアを標準サンプルとして示差熱分析(DSC)にて測定を行った。密度r(g/cm)は、アルキメデス法を用いて測定した。
下記式(1)に得られた測定値を用い、熱伝導率λ(W/(m・K))を算出した。
λ=α・Cp・r …式(1)
α:熱拡散率(cm/s)
Cp:比熱(J/g・K)
r:密度(g/cm
【0054】
(ガラス転移点の評価)
樹脂硬化物および基板の耐熱特性の評価には、DMA法を用いてガラス転移点の評価を行い判断した。ここで、ガラス転移点が120℃以上を示したサンプルは、十分な耐熱特性が得られると判断した。
【0055】
(DMA法)
樹脂硬化物および基板を3mm×25mmに切りだしサンプルを作製した。そして、動的粘弾性測定装置(レオロジー株式会社製、DVE−V4型)を用いて、昇温速度5℃/minで25℃から300℃の雰囲気で、貯蔵弾性率を測定し、貯蔵弾性率の変曲点をガラス転移点(Tg)とした。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1〜7および実施例9の結果から、エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンを硬化剤として含む樹脂組成物において、硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が樹脂組成物中の全有機物中の15質量%以上50質量%以下の範囲とすることで樹脂組成物の溶融温度が200℃以下であり樹脂硬化物のガラス転移点が120℃以上かつ熱伝導率も0.3W/(m・K)以上となることを確認できた。
【0058】
また、実施例8の結果から、エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンを硬化剤とした樹脂組成物において、硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が樹脂組成物中の全有機物中の35質量%で樹脂組成物の溶融温度が200℃以下で樹脂硬化物のガラス転移点が120℃以上かつ熱伝導率も0.3W/(m・K)以上となることを確認できた。
【0059】
また、実施例3および10の結果から、エポキシ化合物と1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンを硬化剤とした樹脂組成物において、樹脂硬化物の熱伝導率は0.32W/(m・K)であり、無機フィラーとしてアルミナビーズを添加して作製した基板の熱伝導率は、2.6W/(m・K)であり、基板の熱伝導率において好ましい1.5W/(m・K)以上となり、十分な熱伝導性を示すことが確認できた。
【0060】
比較例1では、エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンを硬化剤として含む樹脂組成物において、硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が樹脂組成物中の全有機物中の10質量%であり、樹脂硬化物の熱伝導率が0.3W/(m・K)を満たさない結果となった。
【0061】
比較例2では、エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンを硬化剤として含む樹脂組成物において、硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率が樹脂組成物中の全有機物中の52.5質量%であり、樹脂硬化物の熱伝導率が0.3W/(m・K)を満たさない結果となった。
【0062】
比較例3および比較例4では、硬化剤の主骨格として1,3,5−トリスフェニルベンゼンを有しない硬化剤を用いたので樹脂組成物の溶融温度が高く、あらかじめ200℃に加熱していた円筒形の金型に入れて溶融させようとしたが、溶融しなかった。
【0063】
比較例5では、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのエポキシ化により、樹脂組成物の溶融温度が200℃以下になることは確認できたが、樹脂硬化物のガラス転移点が110℃と樹脂硬化物を備える基板において、その使用が期待される環境温度である120℃を下回り、また、樹脂硬化物の熱伝導率が0.3W/(m・K)を満たさない結果となった。
【0064】
比較例5および6の結果から、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのエポキシ化により、樹脂組成物の溶融温度が200℃以下になることは確認できたが、樹脂硬化物のガラス転移点が110℃と樹脂硬化物を備える基板等において、その使用が期待される環境温度である120℃を下回り、また、樹脂硬化物の熱伝導率が0.3W/(m・K)を満たさないため、無機フィラーとしてアルミナビーズを添加して作製した基板の熱伝導率は、1.4W/(m・K)であり、基板の熱伝導率において好ましい1.5W/(m・K)を満たさなかった。
【0065】
以上の結果より、エポキシ化合物と、1,3,5−トリス(4―アミノフェニル)ベンゼンおよび1,3,5−トリス(4―ヒドロキシフェニル)ベンゼンから選ばれる硬化剤を含む樹脂組成物において、硬化剤の主骨格となる1,3,5−トリスフェニルベンゼンの含有率を樹脂組成物中の全有機物中の15質量%以上50質量%以下とすることで、樹脂組成物の溶融温度を成形に適する200℃以下とすることができる。また、これらの樹脂組成物を硬化することにより、高い耐熱性を有する樹脂硬化物を得ることができる。さらにまた、これらの樹脂組成物を含む樹脂シートは、樹脂組成物の溶融温度が200℃以下であり、優れた成形性を有し、この樹脂シートを複数枚積層して成形硬化すれば、高熱伝導性と高耐熱性を有する基板を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係わる樹脂組成物は溶融性に優れるともに、樹脂組成物を硬化して得られる樹脂硬化物ならびに樹脂組成物を含む樹脂シートを成形硬化することにより得られる基板は、熱伝導性および耐熱性に優れるので、高熱伝導性が要求される電子機器材料の分野において、電子部品搭載基板、放熱シート、絶縁材料等のモジュール及び電子部品として、広く且つ有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 樹脂組成物
2 芯材(織布)
10 樹脂シート
100 基板

図1
図2