(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
すべての上記外周刃の上記直線部の上記軸線方向における長さが、上記ラフィング部における波形のピッチの2倍以下であることを特徴とする請求項1に記載のラフィングエンドミル。
すべての上記外周刃の上記ラフィング部における最先端以外の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点の上記軸線からの半径は、最先端の凸部の上記頂点の上記軸線からの半径と等しいか、または最先端の凸部の上記頂点の上記軸線からの半径よりも0.04mmまでの範囲で小さくされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のラフィングエンドミル。
上記外周刃の上記直線部における逃げ角は、上記ラフィング部における逃げ角と等しいか、または該ラフィング部における逃げ角よりも2°までの範囲で小さくされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のラフィングエンドミル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなラフィングエンドミルによって例えば金型に碗状の傾斜した内壁面を有する凹所を形成するような場合には、まずエンドミル本体を螺旋状に旋回させながら被削材を掘り下げるヘリカル加工により金型の凹所の底となる位置まで穴を形成し、次いでこの穴の内径を広げながら凹所の傾斜した内壁面に沿って階段状にエンドミル本体を駆け上がらせるように専ら波形の外周刃によって粗加工を施し、最後に凹所の等高線に沿ってエンドミル本体を周回させつつ専ら凸曲したコーナ刃によって傾斜した凹所内面を仕上げ加工することが行われる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたラフィングエンドミルでは、外周刃の波形に凹凸する部分と凸曲したコーナ刃とが交差してその交点に鋭利な角部が形成されており、このように交差した外周刃とコーナ刃の角部において、特に粗加工の際に欠損が生じ易くなる。さらに、最後の仕上げ加工においても、この角部によって加工面が傷つけられてしまって良好な仕上げ面精度を得ることができなくなるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のように金型に碗状の凹所を形成する加工でも、エンドミル本体に欠損等を生じることが無く、また良好な仕上げ面精度を得ることが可能なラフィングエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるエンドミル本体の先端部外周に上記軸線方向に延びる複数条の切屑排出溝が周方向に間隔をあけて形成され、これらの切屑排出溝のエンドミル回転方向を向く壁面の外周側辺稜部に外周刃が形成されるとともに、上記壁面の先端側辺稜部には底刃が形成され、上記外周刃と底刃とが交差するコーナ部には、上記エンドミル本体の先端外周側に凸となる凸曲線状のコーナ刃が形成されており、上記外周刃には、上記エンドミル回転方向から見て波形に凹凸するラフィング部が、周方向に隣接する外周刃同士で凹凸の位相をずらすようにして形成されていて、上記外周刃のうち上記ラフィング部の最先端の凸部が最も上記軸線方向先端側に位置する外周刃は、この最先端の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点が、上記コーナ刃の径方向の頂点と一致させられ、または上記コーナ刃の径方向の頂点と上記エンドミル回転方向から見て直線状に延びる直線部によって結ばれるとともに、他の外周刃は、上記ラフィング部の最先端の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点が、上記コーナ刃の径方向の頂点と上記エンドミル回転方向から見て直線状に延びる直線部によって結ばれていることを特徴とする。
【0008】
従って、このように構成されたラフィングエンドミルにおいては、外周刃のうちラフィング部の最先端の凸部が最も軸線方向先端側に位置する外周刃は、この最先端の凸部の径方向の頂点がコーナ刃の径方向の頂点と一致させられ、またはコーナ刃の径方向の頂点と直線部によって結ばれるとともに、他の外周刃は最先端の凸部の頂点とコーナ刃の頂点とが直線部によって結ばれているので、外周刃のラフィング部とコーナ刃とが交差して鋭利な角部が形成されることがない。このため、上述のように金型に碗状の凹所を形成するような場合でも、粗加工の際にこのような角部に欠損が生じることはなく、また仕上げ加工の際に角部によって加工面が傷つけられることもなく、1つのラフィングエンドミルによって連続して加工を行うことができて効率的である。
【0009】
ここで、すべての外周刃の上記直線部の上記軸線方向における長さは、上記ラフィング部における波形のピッチの2倍以下であるのが望ましい。直線部の軸線方向の長さがラフィング部の波形のピッチの2倍を超えるほど長い外周刃が形成されていると、粗加工時のラフィング部による振動抑制効果が損なわれて面精度が悪化し、結果的に仕上げ面精度も悪化してしまうおそれがある。なお、外周刃のうち上記ラフィング部の最先端の凸部が最も上記軸線方向先端側に位置する外周刃において、この最先端の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点がコーナ刃の径方向の頂点と一致させられている場合には、直線部の長さは0となる。
【0010】
また、すべての外周刃の上記ラフィング部における最先端以外の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点の上記軸線からの半径は、最先端の凸部の上記頂点の上記軸線からの半径と等しいか、または最先端の凸部の上記頂点の上記軸線からの半径よりも0.04mmまでの範囲で小さくされているのが望ましい。ラフィング部における最先端以外の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点の上記軸線からの半径が、最先端の凸部の頂点の半径よりも大きくて、すなわち最先端以外の凸部が最先端の凸部よりも外周側に突出していると、仕上げ加工時にラフィング部の最先端以外の凸部が加工面に干渉して仕上げ面精度が損なわれる一方、最先端の凸部の頂点の半径より0.04mmを超えるほど小さいと、逆に最先端の凸部およびコーナ刃が突出しすぎてしまって粗加工時に大きな削り残しが生じ、仕上げ加工の際の削り代が増えて効率的な加工を妨げたり仕上げ面精度を劣化させたりするおそれがある。
【0011】
さらに、上記外周刃の上記直線部における逃げ角は、上記ラフィング部における逃げ角と等しいか、または該ラフィング部における逃げ角よりも2°までの範囲で小さくされているのが望ましい。外周刃の直線部は、特に上述のようにラフィング部における最先端以外の凸部の頂点の軸線からの半径が最先端の凸部の頂点の半径よりも小さくされていると粗加工での削り代が大きくなり、また仕上げ加工ではコーナ刃に連なって切削に使用される部分であることから、この直線部の損傷がエンドミル寿命を左右することになるため、この直線部の逃げ角を少なくともラフィング部と同等か、あるいは小さくすることによって刃物角を大きくして切刃強度を確保するのが望ましい。ただし、ラフィング部の逃げ角より2°を超えて小さくなりすぎると、却って摩耗等による損傷を生じ易くなるおそれがある。
【0012】
さらにまた、上記外周刃のうち上記ラフィング部の最先端の凸部が最も上記軸線方向先端側に位置する外周刃は、この最先端の凸部の上記軸線に対する径方向の頂点において、上記コーナ刃の径方向の頂点と一致させられていて、上記エンドミル回転方向から見て該コーナ刃の径方向における頂点の接線と角度をもって交差させられていたり、または上記コーナ刃の径方向の頂点と上記エンドミル回転方向から見て直線状に延びる上記直線部によって結ばれて、該直線部と角度をもって交差させられていたりしても、上記コーナ刃の径方向における頂点の接線に対する傾斜角や上記直線部に対する傾斜角が10°以下であれば、角部が鋭利となるのを防いで欠損等が発生するのを防止することができる。勿論、凸部が凸曲線をなしており、その頂点でコーナ刃や直線部と接していて、上記傾斜角が0°であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、エンドミル本体の欠損や仕上げ面精度の劣化を招くことなく、傾斜した内壁面を有する碗状の凹所を金型に形成するような加工を、1つのラフィングエンドミルによって効率的に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図4は、本発明の第1の実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料により形成されて軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、その後端部(
図1において右上部分。
図2においては上側部分)は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端部(
図1において左下部分。
図2においては下側部分)は切刃部3とされる。このようなラフィングエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、軸線Oに垂直な方向や該軸線Oに対して斜めに送り出されて、金型等の切削加工を行う。
【0016】
切刃部3の外周には、エンドミル本体1の先端から後端側に向けて複数条(第1の実施形態では4条)の切屑排出溝4が周方向に間隔をあけて形成されており、これらの切屑排出溝4は、エンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tの後方側に向かうように捩れた螺旋状に形成されている。各切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面の外周側辺稜部には、この壁面をすくい面とする外周刃5がそれぞれ形成されている。従って、これらの外周刃5も、エンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tの後方側に向かうように捩れた螺旋状に形成される。
【0017】
また、これらの切屑排出溝4の先端部には、該切屑排出溝4をエンドミル本体1の内周側に切り欠くようにして凹溝状のギャッシュ6がそれぞれ切屑排出溝4に連通するように形成されている。切屑排出溝4の上記壁面に連なるこれらのギャッシュ6のエンドミル回転方向Tを向く壁面の先端側辺稜部には、エンドミル本体1の先端内周側から外周側に向けて延びる底刃7がそれぞれ形成されている。さらに、これらの底刃7と上記外周刃5とが交差するコーナ部には、エンドミル回転方向T側から見て
図4に示すようにエンドミル本体1の先端外周側に凸となる1/4円弧等の凸曲線状をなすコーナ刃8が、底刃7の外周端から外周刃5の先端を滑らかにつなぐように形成されている。
【0018】
なお、本実施形態では、底刃7は、
図3に示すように軸線Oの近傍からエンドミル本体1の外周側に延びる長底刃7A、7Cと、これら長底刃7A、7Cよりは軸線Oと外周側に間隔をあけた位置から延びる短底刃7B、7Dとが周方向に交互に形成されている。長底刃7A、7Cとそのエンドミル回転方向T側に隣接する短底刃7B、7Dとの周方向の間隔は、短底刃7B、7Dとそのエンドミル回転方向T側に隣接する長底刃7C、7Aとの間隔よりも大きくされており、長底刃7A、7Cが形成されたギャッシュ6は、エンドミル本体1を先端側から見た底面視において軸線Oを越えて互いに行き違うように形成されて、エンドミル回転方向T側に隣接する短底刃7B、7Dの内周端に交差し、これら短底刃7B、7Dのギャッシュ6に連通している。
【0019】
また、4つずつ形成される底刃7とコーナ刃8は、軸線O回りの回転軌跡がそれぞれ一致するように形成されている。このうち、底刃7の回転軌跡は、軸線Oに垂直な1つの平面をなすか、またはエンドミル本体1の内周側に向かうに従い僅かに後端側に向かうように凹んだ凹円錐面をなすようにされている。さらに、本実施形態では、ギャッシュ6および底刃7は、エンドミル本体1を軸線O回りに180°回転させたときの形状が元の位置にあったエンドミル本体1の形状と一致する180°回転対称に形成されている。
【0020】
一方、外周刃5には、
図4に示すようにエンドミル回転方向Tから見て波形に凹凸するラフィング部9が、周方向に隣接する外周刃5同士で凹凸の位相をずらすようにして形成されている。このラフィング部9は、外周刃5のすくい面とされる切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面と交差する外周刃5の逃げ面が軸線O方向に向けてエンドミル本体1の内外周に波形に凹凸することにより形成されたものであり、本実施形態では、エンドミル本体1の外周側に凸となる凸曲線状の凸部9Aと、この凸部9Aに接して内周側に凹となる凹曲線状の凹部9Bとが、交互に一定のピッチPで連続するように形成されていて、複数の外周刃5のラフィング部9同士で凸部9Aおよび凹部9Bの形状、大きさとピッチPは互いに同じとされている。
【0021】
なお、本実施形態におけるラフィング部9の凸部9Aがなす凸曲線は、エンドミル回転方向T側から見て軸線Oに対する径方向に最も突出したその頂点9Cからエンドミル本体1の先端側に延びる部分が、この頂点9Cから後端側に延びる部分より大きな曲率半径をなすように形成されていて、この頂点9Cに関して非対称な形状とされている。4つの外周刃5が形成される本実施形態のラフィングエンドミルでは、このような凸部9Aが、1つの外周刃5からエンドミル回転方向T側に隣接する外周刃5に向けて
図4(a)〜(d)で示す順に、上記ピッチPを刃数で除したP/4ずつ、その頂点9Cをエンドミル本体1の後端側にずらすように各外周刃5のラフィング部9の位相が設定されている。
【0022】
さらに、これらの外周刃5のうち、上記ラフィング部9の最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃(
図4(a)に示す外周刃)5は、この最先端の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の上記頂点9Cが、本実施形態では該外周刃5の先端側に連なるコーナ刃8の径方向に最も突出した頂点8Aとエンドミル回転方向Tから見て直線状に延びる直線部10によって結ばれている。また、他の外周刃(
図4(b)〜(d)に示す外周刃)5も、そのラフィング部9の最先端の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cが、これら他の外周刃5のそれぞれ先端側に連なるコーナ刃8の径方向の頂点8Aと、エンドミル回転方向Tから見て直線状に延びる直線部10によって結ばれている。
【0023】
ここで、本実施形態では、各外周刃5の最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとは、軸線Oからの半径が互いに等しくされており、各外周刃5の直線部10は、これら凸部9Aとコーナ刃8とがなす凸曲線に上記頂点9C、8Aでそれぞれ接する接線となるように形成されて、軸線O回りの回転軌跡において該軸線Oを中心とした1つの円筒面をなしている。また、本実施形態では、すべての外周刃5のラフィング部9における最先端以外の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cの軸線Oからの半径も、最先端の凸部9Aの頂点9Cおよびコーナ刃8の頂点8Aの半径と等しくされており、すなわち本実施形態では、直線部10の軸線O回りの回転軌跡がなす上記1つの円筒面上に、すべての外周刃5のラフィング部9における凸部9Aの頂点9Cが位置することになる。
【0024】
また、すべての外周刃5の上記直線部10の軸線O方向における長さLは、ラフィング部9における波形のピッチPの2倍以下とされている。特に、本実施形態では、
図4(d)に示した外周刃5の最も軸線O方向の長さLの長い直線部10でも、ラフィング部9のピッチPと等しくなるようにされており、すなわちすべての外周刃5の直線部10の軸線O方向における長さLが、ラフィング部9における波形のピッチP以下とされている。
【0025】
このように構成されたラフィングエンドミルでは、外周刃5のうちラフィング部9の最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃5が、この最先端の凸部9Aの径方向の頂点9Cがコーナ刃8の径方向の頂点8Aと直線部10によって結ばれるとともに、他の外周刃5もそれぞれのラフィング部9の最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとが直線部10によって結ばれている。このため、すべての外周刃5に、そのラフィング部9の凹部9Bがコーナ刃8と交差して角部が形成されることがない。
【0026】
従って、上述のように金型等の被削材に傾斜した内壁面を有する碗状の凹所を形成するような場合に、凹所の底面から傾斜した内壁面に沿ってエンドミル本体1を周回しつつ階段状に駆け上がらせて専らラフィング部9により粗加工を行うときに、このような角部に欠損等が生じるのを防ぐことができる。また、このような階段状の粗加工を行った後に、凹所の等高線に沿ってエンドミル本体を周回させつつ専ら凸曲したコーナ刃によって凹所内壁面を仕上げ加工するときでも、滑らかに仕上げられるべき内壁面が角部によって傷つけられて仕上げ面精度の劣化を招くこともなく、このような凹所の加工を1つのラフィングエンドミルによって連続して効率的に行うことができる。
【0027】
また、本実施形態においては、すべての外周刃5の直線部10の軸線O方向における長さLが、ラフィング部9における波形のピッチPの2倍以下とされており、波形に凹凸するラフィング部9が必要以上に短くなることがないので、上述した粗加工の際のラフィング部9による切屑分断生成に伴う振動抑制効果を十分に発揮することができ、粗加工の加工面精度の向上を図って結果的に良好な仕上げ面精度を得ることができる。すなわち、ラフィング部9のピッチPの2倍を超える長さLの直線部10が形成されていると、この直線部10が被削材に食い付いた際に大きな衝撃が作用することによりエンドミル本体に振動が発生して粗加工面精度を劣化させるおそれがある。
【0028】
ところで、本実施形態ではこのように最も長い直線部10の長さLをピッチPの2倍以下としているが、最も短い直線部10の長さLは0であってもよい。すなわち、複数の外周刃5のうち、ラフィング部9の最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃5においては、この最先端の凸部9Aの軸線Oに対して最も径方向外周側に突出する頂点9Cが、この外周刃5の先端側に連なるコーナ刃8の最も径方向外周側に突出した頂点8Aと一致させられていて、凸部9Aとコーナ刃8とがなす凸曲線がこれらの頂点9C、8Aで接するようにされていてもよい。この場合でも、角部が形成されることはないので、上述の効果を奏することができる。
【0029】
また、本実施形態では、すべての外周刃5のラフィング部9における最先端以外の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cの軸線Oからの半径が、最先端の凸部9Aの頂点9Cの軸線Oからの半径と等しくされており、これにより、粗加工時の際の削り残しを少なくして効率的な仕上げ加工を促すことができる一方で、この仕上げ加工においてもラフィング部9の最先端の凸部9A以外の凸部9Aが加工面と干渉するのを抑えて、良好な仕上げ面精度を得ることができる。
【0030】
すなわち、最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径より大きいと、仕上げ加工時に特に最先端の凸部9Aの次に先端側に位置する凸部9Aの頂点9Cが仕上げ面に干渉して面精度を損なうおそれがある。その一方で、逆に最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が小さすぎると、階段状に粗加工を施す際にラフィング部9を軸線Oに対する径方向に大きく切り込ませることができなくなって削り残しが大きくなり、仕上げ加工の際の削り代が大きくなって加工効率の低下を招いたり、大きな削り代を一度で仕上げようとして仕上げ面精度の劣化を招くおそれがある。
【0031】
なお、本実施形態では、このようにすべての外周刃5のラフィング部9における最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径と等しくされて、すなわち軸線O回りの回転軌跡において直線部10がなす1つの円筒面上にすべての凸部9Aの頂点9Cが位置するようにされているが、例えば
図5に示す第1の実施形態の変形例のように、最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.04mmまでの範囲Mであれば、最先端の凸部9Aの頂点9Cの軸線Oからの半径よりも小さくされていてもよい。この範囲Mを越えて最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が小さくなると、上述のように仕上げ加工時の削り代の増大による加工効率の低下や仕上げ面精度の劣化を招くおそれがあるが、0.04mmまでの小さな範囲Mであれば必要以上に大きな削り残しが生じるのを抑えることができる。
【0032】
また、外周刃5の上記直線部10における逃げ角は、上記ラフィング部9における逃げ角と等しいか、またはラフィング部9における逃げ角よりも2°までの範囲で小さくされているのが望ましく、本実施形態では直線部10とラフィング部9とで逃げ角が等しくされている。直線部10は仕上げ加工の際にコーナ刃8に連なって切削に使用されることになるとともに、特に
図5に示した変形例のようにラフィング部9の最先端以外の凸部9Aよりも突出していると粗加工の際の削り代が大きくなるため、そのような直線部10の逃げ角がラフィング部9より大きいと、直線部10における外周刃5の刃物角が小さくなって切刃強度が低下し、損傷が生じ易くなってエンドミル寿命が短縮されるおそれがある。ただし、直線部10の逃げ角が2°を超えてラフィング部9の逃げ角より小さくなると、逃げ面摩耗が促進されて却ってその寿命が短縮されるおそれがある。なお、直線部10の逃げ面は、該直線部10における外周刃の外径と等しい外径の円筒面状をなし、この円筒面の中心線が軸線Oと平行に該軸線Oから偏心させられていることにより逃げ角が与えられる、いわゆる偏心逃げ面(二番面)であってもよい。
【0033】
さらに、本実施形態では、各外周刃5のラフィング部9における最先端の凸部9Aが凸曲線状に形成されていて、その軸線Oに対する径方向の頂点9Cにおいて直線部10と接するようにされており、この頂点9Cにおける凸部9Aがなす凸曲線の直線部10に対する傾斜角は0°とされているが、特許文献1に記載されたラフィングエンドミルのようにラフィング部の凹部がコーナ刃と交差して鋭利な角部が形成されるようなことがなければ、上記
図5に示した変形例のように最先端の凸部9Aが直線部10に角度をもって交差していたり、あるいは外周刃5のうちラフィング部9の最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃5が、この最先端の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cにおいて、コーナ刃8の径方向の頂点8Aと一致させられていて、エンドミル回転方向Tから見てこのコーナ刃8の径方向における頂点8Aの接線と角度をもって交差させられていたりしてもよい。ただし、こうして最先端の凸部9Aが直線部10やコーナ刃8の径方向における頂点8Aの接線に角度をもって交差する場合でも、この最先端の凸部9Aの径方向の頂点9Cすなわち直線部10との交点における直線部10に対する傾斜角θ、あるいはコーナ刃8の径方向における頂点8Aの接線に対する傾斜角θが大きすぎると、特に粗加工の際に欠損等が生じ易くなるので、この傾斜角θは、10°以下とされるのが望ましい。
【0034】
次に、
図6は、本発明の第2の実施形態を示すものであって、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。第1の実施形態ではエンドミル本体1の切刃部3にそれぞれ4つずつの外周刃5、底刃7、およびコーナ刃8が形成されていたのに対し、この第2の実施形態では外周刃5、底刃7、およびコーナ刃8が3つずつとされた3枚刃のラフィングエンドミルとされており、外周刃5のラフィング部9における凸部9Aは、1つの外周刃5からエンドミル回転方向T側に隣接する外周刃5に向けて
図6(a)〜(c)で示す順に、上記ピッチPを刃数で除したP/3ずつ、その頂点9Cをエンドミル本体1の後端側にずらすように位相が設定されている。また、この第2の実施形態では、凸部9Aの形状が、第1の実施形態のように頂点9Cのエンドミル本体1先端側と後端側とで非対称ではなく、エンドミル回転方向T側から見て対称形状となる凸曲線状に形成されている。
【0035】
このような第2の実施形態のラフィングエンドミルにおいても、外周刃5のうちラフィング部9の最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃(
図6(a)に示す外周刃)5は、この最先端の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cが、コーナ刃8の径方向の頂点8Aとエンドミル回転方向Tから見て直線状に延びる直線部10によって結ばれるとともに、他の外周刃(
図6(b)、(c)に示す外周刃)5も、そのラフィング部9の最先端の凸部9Aの径方向の頂点9Cが、コーナ刃8の径方向の頂点8Aと直線部10によって結ばれていて、ラフィング部9の凹部9Bがコーナ刃8と交差して角部が形成されることがないので、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。勿論、この第2の実施形態において、最先端の凸部9Aが最も軸線O方向先端側に位置する外周刃5の該最先端の凸部9Aの頂点9Cが、コーナ刃8の頂点8Aと一致させられていてもよい。
【0036】
さらに、これら第1、第2の実施形態のようなラフィングエンドミルにおいては、螺旋状に捩れた複数の外周刃5のうち少なくとも1つの捩れ角を他の外周刃5と異なる角度とすることにより、これらの外周刃5の間で被削材に食い付く際の振動が打ち消し合って、共振により激しい振動が生じるのを防ぐことができる。第1、第2の実施形態において複数の外周刃5の捩れ角をすべて異なるものとしてもよく、また偶数の外周刃5が形成された第1の実施形態では、周方向に隣接する外周刃5の捩れ角を異なるものとする一方、周方向に一つおきの外周刃5の捩れ角は等しくしてもよい。なお、波形に凹凸する外周刃5のラフィング部9においては、凸部9Aの頂点9Cを結んだ捩れ線の軸線Oに対する角度を捩れ角とすればよい。
【実施例】
【0037】
次に、上記の実施の形態で説明したうちの外周刃5の直線部10の軸線O方向における長さLについて、実施例を挙げてその効果を説明する。この実施例では、本発明の第1の実施形態に基づき、ただし外周刃5の直線部10の軸線O方向における長さLを種々に設定した実施例と比較例のラフィングエンドミルにより、上述したような金型に碗状の凹所を形成する切削試験を行い、その際のラフィングエンドミルの損傷の有無と仕上げ面粗度を測定した。本実施例および比較例に用いたラフィングエンドミルは、共通の諸元として外周刃5の外径が10mm、刃数4枚、捩れ角は45°で等しい捩れ角であり、刃長は22mm、逃げ角9°、ラフィング部9の波形のピッチPは1.2mmであって、コーナ刃8の半径が0.5mm、エンドミル本体1の材質は超硬合金であり、その表面に(Al,Cr)Nよりなる硬質皮膜を平均膜厚3μmで被覆したものである。
【0038】
また、被削材の材質はSUS420J2材(硬さ52HRC)であり、粗加工では回転数3200min
−1、送り速度640mm/minで、軸線O方向(Z軸方向)のピッチを10mm、軸線Oに垂直な方向(XY方向)のピッチを3mmを上限として上述のようにエンドミル本体を階段状に駆け上げらせる切削加工を行い、仕上げ加工では回転数6400min
−1、送り速度2400mm/minで、軸線O方向(Z軸方向)のピッチを0.05mmとして凹所の等高線に沿ってエンドミル本体1を周回しつつ傾斜した内壁面に沿って切削加工を行って、1つのラフィングエンドミルにより、底面の内径が50mm、開口部の内径が50.2mm、深さが18mmの碗状の凹所を形成した。
【0039】
本発明の実施例のラフィングエンドミルとしては、4つの外周刃5のラフィング部9のうち最先端の凸部9Aが最も先端側に位置するラフィング部9の該最先端の凸部9Aの径方向の頂点9Cがコーナ刃8の径方向の頂点8Aと一致していて、他の外周刃5のラフィング部9のうち最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとの間には直線部10が形成されており、そのうち最も長い直線部10の長さLが0.9mmとなるもの(実施例1)、すべての外周刃5のラフィング部9における最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとの間に直線部10が形成されていて、第1の実施形態と同じく最も長い直線部10の長さLが1.2mm(ピッチP相当)のもの(実施例2)、および同じくすべての外周刃5のラフィング部9における最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとの間に直線部10が形成されていて、最も長い直線部10の長さLが2.4mm(ピッチPの2倍)のもの(実施例3)を用意した。
【0040】
また、比較例としては、1つの外周刃5のラフィング部9のうち最先端の凸部9Aが最も先端側に位置するラフィング部9の該最先端の凸部9Aの径方向の頂点9Cは実施例1と同じくコーナ刃8の径方向の頂点8Aと一致しているものの、他の外周刃5のラフィング部9は直線部10を有することなく波形に凹凸したままコーナ刃8に交差していて凹部9Bとの交点に角部が形成されているもの(比較例1)、および実施例2、3と同じくすべての外周刃5のラフィング部9における最先端の凸部9Aの頂点9Cとコーナ刃8の頂点8Aとの間に直線部10が形成されているものの、最も長い直線部10の長さLが3.5mmのもの(比較例2)と、最も長い直線部10の長さLが5.0mmのもの(比較例3)とを用意した。
【0041】
これらの実施例1〜3と比較例1〜3のラフィングエンドミルにより上述の条件で切削試験を行ったところ、比較例1では粗加工においてコーナ刃8とラフィング部9の凹部9Bとの交点における角部に欠損が発生し、その時点で試験を終了せざるを得なかった。また、比較例2、3では、欠損は生じなかったものの、粗加工においてエンドミル本体1に振動が発生し、その結果として仕上げ面粗度が比較例2ではJIS B 0601:2001における最大高さRzが30.7μm、比較例3では最大高さRzが51.3μmという結果となった。これら比較例1〜3に対して、本発明に係わる実施例1〜3では、エンドミル本体1に欠損等の損傷や振動が生じることもなく、また仕上げ面粗度も実施例1では最大高さRzが1.38μm、実施例2では最大高さRzが1.71μm、実施例3でも最大高さRzが2.20μmという良好な結果を得ることができた。
【0042】
次いで、やはり上記の実施の形態で説明したうちの、すべての外周刃5のラフィング部9における最先端以外の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cの軸線Oからの半径と、最先端の凸部9Aの頂点9Cの軸線Oからの半径との関係について、同じく実施例を挙げてその効果を説明する。この実施例では、やはり本発明の第1の実施形態に基づき、上述した共通の諸元で、ただしすべての外周刃5のラフィング部9における最先端以外の凸部9Aの軸線Oに対する径方向の頂点9Cの軸線Oからの半径を、最先端の凸部9Aの頂点9Cの軸線Oからの半径に対して種々に設定した実施例と比較例のラフィングエンドミルにより、上記と同じ条件で切削試験を行い、仕上げ面粗度を測定した。なお、これら最先端とそれ以外の凸部9Aの頂点9Cの半径以外の諸元は、実施例および比較例ともに第1の実施形態と同じである。
【0043】
このうち本発明の実施例においては、第1の実施形態と同じく最先端とそれ以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が等しいもの(実施例4)、最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.02mm小さいもの(実施例5)、および最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.04mm小さいもの(実施例6)を用意した。また、比較例としては、最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.01mm大きいもの(比較例4)、最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.08mm小さいもの(比較例5)、および最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が0.15mm小さいもの(比較例6)を用意した。
【0044】
この結果、比較例4では、最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が、最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して大きく、すなわち直線部10やコーナ刃8の頂点8Aの半径よりも大きいため、ラフィング部9の最先端以外の凸部9Aによって仕上げ加工面が傷つけられてしまい、仕上げ面粗度がJIS B 0601:2001における最大高さRzで5.79μmとなった。また、最先端以外の凸部9Aの頂点9Cの半径が最先端の凸部9Aの頂点9Cの半径に対して小さすぎる比較例5、6では、いずれも仕上げ加工の際の削り代が大きくなり、これを1回の切り込みで切削しようとしたために振動が生じて、比較例5では仕上げ面粗度が最大高さRzで3.71μm、比較例6では仕上げ面粗度が最大高さRzで5.21μmとなった。
【0045】
これらの比較例4〜6に対して、実施例4〜6では、仕上げ加工面が傷つけられたり削り代の増大による振動が生じたりすることがなく、仕上げ面粗度も実施例4では最大高さRzで1.71μm、実施例5では最大高さRzで1.80μm、実施例6では最大高さRzで2.15μmと良好な結果を得ることができた。なお、仕上げ加工時の削り代は、実施例1で0.1mm、実施例2で0.12mm、実施例3で0.14mm、比較例4では0.1mm、比較例5では0.18mm、比較例6では0.25mmであった。