(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転自在に設けられた入力側ディスクおよび出力側ディスクのうちの一方の前記ディスクと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの間に挟持されるパワーローラと、前記パワーローラを傾転させることにより変速比を変更するための傾転機構とを組み立てた第1アセンブリを備え、
かつ、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクのうちの他方の前記ディスクと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心部を貫通してこれら入力側ディスクおよび出力側ディスクを支持するための軸と、他方の前記ディスクの背面側に油圧室を有し、前記入力側ディスク、前記出力側ディスクおよび前記パワーローラに押し付け力を付与する油圧式押圧装置とを組み立てた第2アセンブリを備え、
前記第2アセンブリの前記軸を略鉛直方向に沿うように下に降ろして、前記第1アセンブリの一方の前記ディスクに前記第2アセンブリの前記軸を貫通させて組み立てられるトロイダル型無段変速機であって、
前記第2アセンブリは、前記軸および/または前記軸に支持される部材と他方の前記ディスクとの間で前記油圧室の油をシールするシール部材を備え、一つ以上の前記シール部材による緊迫力が、前記軸に対して他方の前記ディスクが自重により移動するのを規制できる緊迫力以上であることを特徴とするトロイダル型無段変速機。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、例えば、
図5および
図6に示すように構成されている。ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面)2a,2aと出力側ディスク3,3の内側面(凹面)3a,3aとの間には、パワーローラ11が回転自在に挟持されている。
【0005】
図5中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(
図5の右面)がローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図6は、
図5のA−A線に沿う断面図である。
図6に示すように、ケーシング50の内側には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、
図6においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、支持板部16の長手方向(
図6の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0007】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部23bの周囲には、各パワーローラ11がラジアルニードル軸受35を介して回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0008】
また、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(
図6の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。各ヨーク23A,23Bは鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、ヨーク23A,23Bの幅方向(
図6の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、球面ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持するシリンダボディ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0009】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(
図6で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0010】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受(スラスト軸受)24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(以下、転動体という)26,26と、これら各転動体26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0011】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0012】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(
図6の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(トラニオン軸)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成されたシリンダボディ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33とシリンダボディ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0013】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、入力軸1の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、さらにこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0014】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、
図6の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。
【0015】
その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動する。
【0016】
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0017】
ところで、上述のようなトロイダル型無段変速機においては、ケーシング50内で各部品を順番に組み立てることが行われていたのに対して、例えば、予め、ケーシング50の外側で出力側ディスクの入力軸が貫通する孔内にラジアルニードル軸受を取り付けるとともにこのラジアルニードル軸受を止め輪で止めたアセンブリを作成し、このアセンブリをケース内で他の部品に組み付けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、ディスク回りの組み立て性が向上する。
【0018】
その後の各種開発や改良により、現状では、例えば、
図7および
図8に示すように、トロイダル型無段変速機としてのバリエータをモジュール化した後に、このモジュールをケーシング50内に設置するものが主流にとなってきている。例えば、ケーシング50に収容する前の段階で、前述の入力軸1、入力側ディスク2,2、出力側ディスク3,3、出力歯車4、上下のヨーク23A,23B、トラニオン15、パワーローラ11、駆動装置32、押圧装置12、固定部材52(アッパープレート)等が一体に組み立てられてバリエータモジュール43とされ、このバリエータモジュール43をケーシング50内に収容して取り付けるようになっている。また、バリエータモジュール43を組んだ段階でケーシング50に収容する前に、試験的にバリエータモジュール43を動作(回転)させることが可能になっている。
【0019】
このようなバリエータモジュール43においては、パワーローラ11を支持するトラニオン15は、駆動装置32に支持されている。また、上下の球面ポスト64,68を繋いで形成される柱状ポスト69の上下の中央部分を入力軸1が貫通した状態となっている。また、入力軸1に一対の入力側ディスク2,2、出力側ディスク3,3、出力歯車4、押圧装置12等が支持されている。なお、押圧装置12は、油圧により圧力を付与する油圧式になっている。
【0020】
また、一対の出力側ディスク3,3と出力歯車4は、一対の出力側ディスク3,3の背面同士を接合した状態に、一対の出力側ディスク3,3を一体にするとともに、この一体になった出力側ディスク3,3の外周面に歯41を設けて出力歯車4とした一体型出力側ディスク34が用いられている。
【0021】
また、前記柱状ポスト69は、上側シリンダボディ61の上面に形成され、かつ、柱状ポスト69の下端面に形成された凸部が嵌合する凹部(インロー穴部)と、アッパープレート52の下面に設けられ、柱状ポストの上端面に形成された凸部が嵌合する凹部(インロー穴部)とにより位置決めされる。また、一対の柱状ポスト69は、その上下の球面ポスト64,68が、上下のヨーク23A,23Bの係止孔19に挿入されて嵌合され、これらヨーク23A,23Bにより、一対の柱状ポスト69の間隔が規制されている。
【0022】
また、このような構成のバリエータモジュール43を組み立てる際にも、予め、組み立てられた複数のアセンブリを組み立てることにより、組み立て性の向上が図られている。例えば、
図9に示すように、上述の一体型出力側ディスク34、パワーローラ11およびアッパープレート52を備え、さらに、枢軸14を有するトラニオン15、柱状ポスト69、上下のヨーク23A,23B、駆動装置32(
図8に図示)等からなってパワーローラ11を傾転させる傾転機構を備える第1アセンブリAを組み立てる。また、油圧式押圧装置12、油圧式押圧装置12が取り付けられた一方の入力側ディスク2および入力軸(軸)1とを備える第2アセンブリBを組み立てる。
【0023】
そして、バリエータモジュール43の組み立てに際しては、第1アセンブリAに、第2アセンブリBを組み付けることになる。この際には、押圧装置12に取り付けられた入力側ディスク2から延びる入力軸1を第1アセンブリAの柱状ポスト69、一体型出力側ディスク34の孔に貫通させる。なお、第1アセンブリAの一体型出力側ディスク34は、第2アセンブリBの入力軸1がセットされる前の段階において、一対の柱状ポスト69の間にそれぞれスラスト軸受を介して配置されており、一体型出力側ディスク34とこの一体型出力側ディスク34を間に挟んだ一対の柱状ポスト69に入力軸1を貫通させることになる。
【0024】
また、第1アセンブリAには、パワーローラ11がセットされており、第1アセンブリAに第2アセンブリBを組み付け、さらに他方の入力側ディスク2を第2アセンブリBの入力軸1に取り付けると、2つの入力側ディスク2のそれぞれと一体型出力側ディスク34との間にパワーローラ11が配置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
ところで、入力側ディスク2と出力側ディスク3との間にパワーローラ11を挟んで動力を伝えるトロイダル型無段変速機においては、これらディスク2,3のトラクション面とパワーローラ11のトラクション面とで動力が伝えられる。これらトラクション面は、高精度研磨面であり、トラクション面に傷を生じると、動力伝達能力の低下、耐久性の低下などの問題を引き起こす虞がある。したがって、トロイダル型無段変速機の上述のバリエータモジュール43の組み立てに際しては、トラクション面に傷が付かないように細心の注意を払いながら組み立てを行う必要がある。
【0027】
しかし、上述のバリエータモジュール43の組み立てにおいて、第1アセンブリAに第2アセンブリBを組み付ける際に、第2アセンブリBの入力軸1に入力側ディスク2が固定されておらず、入力軸1に対してその軸方向に入力側ディスクが移動(落下)してしまう虞がある。特に、
図9では入力軸1を略水平にして第2アセンブリBを第1アセンブリAに組み付けているが、作業性を考慮すると、入力軸1を略鉛直方向に沿うようにして、第1アセンブリAの上側から第2アセンブリBを下に降ろして組み付けることになる。この場合に、入力側ディスク2を保持しないと入力側ディスク2が入力軸1に沿って下に落下する。
【0028】
なお、入力側ディスク2は、押圧装置12により入力軸1に対して、対向する出力側ディスク3に向かって押圧される構成であり、入力側ディスク2は、入力軸1に対して、その軸方向に移動自在になっている必要がある。
【0029】
上述のように入力側ディスク2が落下すると、入力側ディスク2とパワーローラ11等とがぶつかり、入力側ディスク2のトラクション面やパワーローラ11のトラクション面や出力側ディスク3を傷つける虞がある。
【0030】
したがって、バリエータモジュール43の組み立て時に、入力側ディスク2が落下しないように保持する必要がある。この場合に、入力側ディスク2のトラクション面の反対側の背面および外周面が油圧式の押圧装置12に覆われた状態であり、入力側ディスクを保持する場合に、トラクション面に接触しない状態とすることが困難であり、トラクション面に接触した状態で入力側ディスク2を保持した場合に、トラクション面に傷が付く虞がある。
【0031】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、第2アセンブリを、第1アセンブリに組み付ける際に、第2アセンブリのディスクを直接保持しなくとも軸に沿ってディスクが自重により落下するのを防止できるトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、それぞれの内側面同士を互いに対向させた状態で互いに同心的にかつ回転自在に設けられた入力側ディスクおよび出力側ディスクのうちの一方の前記ディスクと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの間に挟持されるパワーローラと、前記パワーローラを傾転させることにより変速比を変更するための傾転機構とを組み立てた第1アセンブリを備え、
かつ、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクのうちの他方の前記ディスクと、前記入力側ディスクおよび前記出力側ディスクの中心部を貫通してこれら入力側ディスクおよび出力側ディスクを支持するための軸と、他方の前記ディスクの背面側に油圧室を有し、前記入力側ディスク、前記出力側ディスクおよび前記パワーローラに押し付け力を付与する油圧式押圧装置とを組み立てた第2アセンブリを備え、
前記第2アセンブリの前記軸を略鉛直方向に沿うように下に降ろして、前記第1アセンブリの一方の前記ディスクに前記第2アセンブリの前記軸を貫通させて組み立てられるトロイダル型無段変速機であって、
前記第2アセンブリは、前記軸および/または前記軸に支持される部材と他方の前記ディスクとの間で前記油圧室の油をシールするシール部材を備え、一つ以上の前記シール部材による緊迫力が、前記軸に対して他方の前記ディスクが自重により移動するのを規制できる緊迫力以上であることを特徴とする。
【0033】
本発明においては、前記油圧式押圧装置および前記軸に対して、他方の前記ディスクが固定されていなくとも、前記軸または軸に支持された部材と他方のディスクとの間に配置されるシール部材の緊迫力により、他方のディスクがその自重により軸に沿って落下するのを防止することができる。したがって、パワーローラを有する第1アセンブリの一方のディスクに、第2アセンブリの軸を貫通させる際に、第2アセンブリの他方のディスクが落下して、パワーローラやディスクのトラクション面を傷付けるのを防止することができる。
【0034】
緊迫力は、入力軸1またはそれに支持される部材と他方のディスクとに対するシール部材からの押し付け力であり、これにより、シール部材と他方のディスクとの間に摩擦力が生じ、他方のディスクの落下が防止される。
【0035】
また、第2アセンブリにおいて、他方のディスクの落下を防止できるので、他方のディスクの落下を防止するために、第1アセンブリに第2アセンブリを組み付ける際に、他方のディスクが落下しないように他方のディスクを直接保持する必要がない。したがって、保持のために、他方のディスクのトラクション面が傷付くことを防止できる。
【0036】
また、軸と油圧式押圧装置が取り付けられた他方のディスクとは基本的に一体に回転し、かつ、軸に対する他方のディスクの軸方向に沿った移動量が少ないので、シール部材の緊迫力がオイルシールに必要な緊迫力より大きくなっても、軸、ディスク、シール部材の摩耗や、シール部材の劣化に与える影響は少ないものとなる。
【0037】
なお、前記シール部材はOリングであることが好ましい。
【0038】
このような構成によれば、第2アセンブリを第1アセンブリに組み付ける際に、上述のような緊迫力を有するOリングにより、他方のディスクの落下を防止できるので、他方のディスクの脱落防止のためのコストが高くなるのを防止できる。すなわち、様々なサイズ、様々な材質のOリングが流通され、容易に入手可能であり、適切な緊迫力を生じるOリングを大きなコストをかけることなく入手可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、第1アセンブリに第2アセンブリを組み付ける際に、第2アセンブリのディスクの落下・脱落を防止することにより、バリエータモジュールの組み立て時にトラクション面が傷付くのを防止できる。それにより、バリエータモジュールの組み立てを容易することができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
なお、本実施の形態のトロイダル型無段変速機の特徴は、
図7および
図8に示すバリエータモジュール43を、
図9に示す第1アセンブリAに第2アセンブリBを組み付けて制作する場合に、第2アセンブリBの入力軸1および/またはこの入力軸1に支持される部材と油圧式押圧装置12の油圧室を背面側に有するディスク2との間のシールとして所定以上の緊迫力を有するシール部材を用いることにあるので、以下ではこの点について詳細に説明し、それ以外の部分については、従来と同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0042】
図1から
図3に示すように、第2アセンブリBは、油圧式押圧装置12と、入力軸(軸)1と、油圧式押圧装置12の油圧室(第1油圧室71および第2油圧室72)が背面側に設けられたディスクである一方の入力側ディスク(他方のディスク)2とを備えるものである。なお、
図2では、油圧室が背面側に設けられた一方の入力側ディスク2に加えて、他方の入力側ディスク2が図示されている。なお、他方の入力側ディスク2は、第1アセンブリAに第2アセンブリBを組み付けた後に、入力軸1に取り付けられる。
【0043】
入力軸1の油圧式押圧装置12側の端部(基端部:後端部)は、一方の入力側ディスク2より先端側の径に対して、拡径された大径部81と、この大径部81から基端側に向かって突出する突出部82と、大径部81の先端側に隣接して設けられるとともに径が鍔状に拡げられたフランジ部83と、フランジ部83より先端側で径が縮径されることにより形成された段差部84とを有する。
【0044】
また、入力軸1には、その内部の軸方向に沿って油路85が形成されるとともに、油路85から第1油圧室71に油を供給する油路86と、油路85から第2油圧室72に油を供給する油路87とを備える。また、フランジ部83の外周面には、基端側より先端側の径が小さくされたフランジ段差部88が設けられている。
【0045】
また、入力軸1の一方の入力側ディスク2の貫通孔79内に挿入される部分には、シール溝91が形成され、このシール溝91にシール部材92が配置されている。このシール部材92は、入力軸1の外周面と、一方の入力側ディスク2の中央部の貫通孔の内周面との間に配置されてシールし、入力側ディスク2の背面側の油圧室としての第2油圧室72から油が漏れるのを防止するものである。
【0046】
シール部材92は、後述の必要とされる緊迫力を有するシール部材としてOリングが用いられている。
図4に示すように、シール溝91に入れられたシール部材92の断面は、シール溝91の深さより少し長い径を有するものであり、入力軸1を入力側ディスク2の貫通孔79に挿入した状態で、シール部材92のシール溝91から外側に突出する部分が入力側ディス2クの内周面に押されることによりシール部材92が潰れるように弾性変形して緊迫力が生じるようになっている。この緊迫力に基づいて入力軸1のシール溝91に固定されたシール部材92としてのOリングと、入力側ディスク2の貫通孔79の内周面との間に摩擦力が生じ、この摩擦力により、第2アセンブリBにおいて、入力軸1の先端部を下に向けても、一方の入力側ディスク2の自重による落下が防止される。
【0047】
したがって、緊迫力は、それにより生じる上述の摩擦力(摺動抵抗)が、入力側ディスク2の落下を防止できる大きさ(入力側ディスク2の自重による荷重)以上となるものである必要がある。なお、この実施の形態では、後述のように入力軸1に支持される油圧受板75と、一方の入力側ディスク2の背面円筒部77との間に配置されるシール部材93も、緊迫力を有するOリングとされており、シール部材92とシール部材93とを合わせた緊迫力が一方の入力側ディスク2の落下を防止できるものとなっていればよい。また、一方の入力側ディスク2の自重による落下を防止できる緊迫力は、シール部材92,93の材質、入力軸1、油圧受板75の材質、シール部材の接触面積(軸方向に沿う接触幅)、一方の入力側ディスク2の質量等によって決まることになる。なお、必要な緊迫力を実験により求めてもよい。
【0048】
油圧式押圧装置12は、上述の油路86から油が供給される第1油圧室71と、この第1油圧室71を形成する押圧用シリンダ73と、押圧用シリンダ73内で第1油圧室71に油圧がかけられた際に、入力軸1の軸方向に沿って入力軸1の先端側に押される油圧ピストン74とを備える。第1油圧室71は、有底円筒状の押圧用シリンダ73の内周側に形成された略円板状の油圧ピストン74との間に形成されている。
【0049】
押圧用シリンダ73は、中央部に入力軸1が貫通する貫通孔78を備える。貫通孔78の内周面には、入力軸1のフランジ部83が嵌合するようになっているとともに、フランジ段差部88に対応する段差が設けられ、この段差がフランジ段差部88に係合することにより押圧用シリンダ73に対して入力軸1がその先端側に向かって移動できないように規制されている。したがって、押圧用シリンダ73に嵌合している入力軸1を、その先端側が下を向くように配置した場合に、押圧用シリンダ73から入力軸1が落下しない構造になっている。
【0050】
また、押圧用シリンダ73の先端側の部分の内周面には、入力側ディスク2の外周部が一体的に回転可能に係合され、かつ、入力側ディスク2は、押圧用シリンダ73および入力軸1に、それらの軸方向に移動可能に嵌合されている。したがって、第2アセンブリBにおいて、入力軸1の先端側を下に向けると、後述のようにシール部材92,93として緊迫力のあるものを用いないと、入力側ディスク2が落下する虞がある。
【0051】
また、油圧式押圧装置12は、上述の油路87から油が供給される第2油圧室72と、この第2油圧室72を一方の入力側ディスク2の背面との間に形成する油圧受板75と、油圧ピストン74を入力軸1の軸方向先端側に押圧(予圧)する皿ばね8とを備える。
【0052】
油圧ピストン74は、中央部に貫通孔を有する略円板状の部材であり、中央の貫通孔に入力軸1が貫通している。また、油圧ピストン74は、その外周面が押圧用シリンダ73の基端側の内周面に略当接した状態となっている。油圧ピストン74は、入力軸1および押圧用シリンダ73に対して入力軸1の軸方向に沿って移動自在となっている。また、油圧ピストン74の内周面と入力軸1の外周面との間、油圧ピストン74の外周面と押圧用シリンダ73の内周面との間には、シール部材が設けられている。
【0053】
油圧ピストン74は、その外周部の正面が、一方の入力側ディスク2の背面に突出して設けられている後述の背面円筒部77に当接しており、上述のように油圧が作用した際に、一方の入力側ディスク2を入力軸1および油圧式押圧装置12に対して入力軸1の軸方向に沿って先端側に押すようになっている。
【0054】
油圧受板75は、中央に貫通孔を有する略円板状に形成され、その外周面が入力側ディスク2の背面円筒部77の内周面に略当接し、貫通孔の内周面が入力軸1の段差部84の小径側に隣接する部分の外周面に嵌合しており、油圧受板75は、入力軸1にその軸方向に沿って移動しないように嵌合している。したがって、油圧受板75は、入力軸1に支持されている。また、油圧受板75の外周面と、一方の入力側ディスク2の背面側の背面円筒部77の内周面との間には、シール部材93が設けられている。
【0055】
シール部材93は、油圧受板75の外周面に、周方向に沿って円環状に設けられたシール溝に挿入された状態となっている。シール部材93は、緊迫力を有するOリングとなっている。この構造においても、
図4に示す入力軸1の場合と同様に、シール溝からシール部材93の一部が突出するように、シール溝の深さよりシール部材93としてのOリングの断面の径が長くなっている。また、シール部材93は、シール部材92と合わせて上述のように一方の入力側ディスク2の落下を防止できる緊迫力を有する必要がある。
【0056】
一方の入力側ディスク2の背面側には、上述の第2油圧室72を形成するための背面円筒部77が設けられている。背面円筒部77は、一方の入力側ディスク2の外径より少し狭い外径を有するとともに、入力軸1の背面から入力軸1に沿ってその基端側に突出して設けられている。背面円筒部77の開放側の端面は、上述のように油圧ピストン74の前面に当接している。また、背面円筒部77の内周面には、上述のように、油圧受板75の外周面がシール部材93を介して当接している。
【0057】
このようなトロイダル型無段変速機においては、第2アセンブリBの一方の入力側ディスク2と、入力軸1および入力軸1に固定された部材としての油圧受板75との間に設けられ、第2油圧室72の油をシールするシール部材92およびシール部材93が上述の緊迫力を有するOリングとされていることにより、一方の入力側ディスク2と入力軸1またはそれに固定される油圧受板75との間に摺動抵抗が生じ、入力軸1から入力側ディスク2が落下するのが防止される。
【0058】
これにより、第1アセンブリAに第2アセンブリBを組み付ける際に、入力側ディスク2が落下して、入力側ディスク2、パワーローラ11および一体型出力側ディスク34のトラクション面に傷が付くのを防止できる。また、入力軸1から一方の入力側ディスク2が落下するのを防止できるので、組み立て時に、入力側ディスク2の落下を防止するために入力側ディスク2のトラクション面を保持する必要がなく、保持によりトラクション面が傷付くのを防止できる。
【0059】
なお、上述の実施の形態では、シール部材92、シール部材93の両方を合わせて上述の緊迫力を有するOリングとしたが、シール部材92またはシール部材93のうちの一方だけを一方の入力側ディスク2の落下を規制できる緊迫力以上の緊迫力を有するOリングとし、他方を緊迫力が低いシール部材(Oリングであってもよい)としてもよい。
【0060】
本発明は、シングルキャビティ式やダブルキャビティ式などの様々なハーフトロイダル型無段変速機の他、トラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機にも適用することができる。