特許第6221697号(P6221697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221697電圧差補正装置、電圧差補正プログラムならびに方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221697
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】電圧差補正装置、電圧差補正プログラムならびに方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20171023BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H02J7/02 H
   H01M10/48 P
   H01M10/44 P
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-248864(P2013-248864)
(22)【出願日】2013年12月2日
(65)【公開番号】特開2015-107009(P2015-107009A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100124154
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 直樹
(72)【発明者】
【氏名】舘野 浩三
【審査官】 緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−123344(JP,A)
【文献】 特開2013−220009(JP,A)
【文献】 特開平08−140206(JP,A)
【文献】 特開2009−159794(JP,A)
【文献】 特開2009−124933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00−7/12,7/34−7/36
H01M 10/42−10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を低減するよう補正部を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消するよう前記補正部を制御し、前記電圧差が前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消するよう前記補正部を制御する、電圧差補正装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記電圧差が、前記閾値より低い第2の閾値以上で前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を継続した状態で、前記電圧差を解消するよう前記補正部を制御する、請求項1に記載の電圧差補正装置。
【請求項3】
前記電池モジュールが、前記第2の閾値以上で前記閾値より小さい電圧差を有する第1のセルと、前記閾値以上の電圧差を有する第2のセルとを含む場合、前記制御手段は前記第2のセルの電圧差を補正した後、前記第1のセルの電圧差を補正するよう前記補正部を制御する請求項2に記載の電圧差補正装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記電圧差が、前記閾値より高い第3の閾値以上であると判断した場合、前記補正部が停止するよう制御する、請求項1乃至3いずれか一項に記載の電圧差補正装置。
【請求項5】
前記補正部を搭載した基板は、前記制御手段とは別体である請求項1乃至4いずれか一項に記載の電圧差補正装置。
【請求項6】
自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消するよう補正部を制御し、
前記電圧差を前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消するよう補正部を制御する、
制御処理を、コンピュータに実行させる電圧差補正プログラム。
【請求項7】
前記電圧差が、前記閾値より低い第2の閾値以上で前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を継続した状態で、前記電圧差を解消する、前記制御処理を前記コンピュータに実行させる請求項6に記載の電圧差補正プログラム。
【請求項8】
前記電池モジュールが、前記第2の閾値以上で前記閾値より小さい電圧差を有する第1のセルと、前記閾値以上の電圧差を有する第2のセルとを含む場合、前記第2のセルの電圧差を補正した後、前記第1のセルの電圧差を補正する前記制御処理を前記コンピュータに実行させる請求項7に記載の電圧差補正プログラム。
【請求項9】
自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消し、前記電圧差を前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消する、電圧差補正方法。
【請求項10】
前記電圧差が、前記閾値より低い第2の閾値以上で前記閾値より小さい場合、前記電池モジュールの充放電の状態を継続した状態で、前記電圧差を解消する、請求項9に記載の電圧差補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池を構成する複数のセルの電圧差を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電システムの大容量化及び高電圧化に伴い、今後複数の蓄電池(セル)が直列に接続されたセルモジュールの台数が増加することが予想される。直列接続されたセルの電圧バランスを制御するための回路は、直列接続された複数のセルを1単位として監視する必要があるため、接続数分の回路をBattery Management Unit(以降BMUと記す)に搭載している。電圧バランス(「セルバランス」とも言う)の制御とは各セル間の起電力(「電圧」とも呼ぶ)の差を蓄電システムの駆動に支障のないレベルに抑制することを云う。
【0003】
蓄電システムは、長期の使用によりセルバランスが崩れる可能性がある。すなわち異なるセル同士の無負荷状態における電圧差ΔVが次第に大きくなる。ΔVが大きくなると、電池特性に悪影響を及ぼすことから、BMUにはセルバランスを制御することによって電圧差を解消する機能を持たせることが一般的に行われている。しかし、BMUにおけるセルバランスを制御する回路(このような回路は「バランス回路」、または「セルバランス回路」とも呼ばれている)がその回路全体の面積に占める割合は大きい。その理由の一つは、バランス回路に用いられている部品である1W級の抵抗や、FET(Field Effect Transistor)の実装面積が大きいからである。これらは、セルバランスを制御する際に流れる比較的大きな電流を、支障なく受容するために必要な部品である。これらは、BMUの小型化のためには好ましくない。
【0004】
一方、セルバランスの制御方式として、パッシブ方式およびアクティブ方式がある。パッシブ方式とは、他のセルと比べて高い起電力を有するセル(以下「高電圧セル」と呼ぶ)の起電力を、バランス抵抗と呼ばれる負荷にこのセルを接続することによって放電する方式である。高電圧セルの起電力は、この放電によって、他のセルの起電力のレベルまで下げられ、セル間のバランスが図られる。この方式のバランス回路は構成が簡易であるという利点がある一方、バランス抵抗による放電で熱エネルギーとして損失が発生する欠点がある。また、アクティブ方式とは、高電圧セルから一時的に電荷をコンデンサに蓄積し、このコンデンサから電荷を、他の起電力が低いセルに再配分する方式である。この方式は、エネルギーを無駄に消費しないという利点がある一方、バランス回路の構成が複雑であるという欠点を持つ。
【0005】
上記のいずれの方式を用いたとしても、セルバランスの制御の際の発熱を避けるために、BMUとセルとの間を断熱すること、または放熱性を高い電池筐体を用いることが必要である。特にパッシブ方式において発熱は大きくなりやすいことから発熱対策は重要になるが、これはコストアップにつながるため好ましくない。そこで、出願人はセルとBMUを別体とするシステムを新しく提案している。
【0006】
セルとBMUを別体とするシステムでは、セルバランスのずれを適切に補正する必要がある。セルバランスのずれとは、各セル間の起電力差(電圧差とも呼ぶ)が、所定の範囲を超えることを云う。複数のセルを直列に接続したセルモジュールの充放電と同時に、セルバランスの補正を行う場合、正確なずれの見積もりが困難となる。そのため、補正に多くの時間が費やされることがある。しかし、正確を期すために補正を行う度にセルモジュールの充放電を停止すると、蓄電システムの使い勝手に大きく影響し、可用性を損なう可能性がある。
【0007】
特許文献1は、電圧監視モジュールにおいて、電圧測定回路の制御回路が、放充電指令によりセルバランス回路を制御し、電池セル群を放充電することを開示している。
【0008】
特許文献2は、BMUが組電池から電圧のデータを受信して、SOC(State
of Charge)を算出することを開示している。
【0009】
特許文献3は、電池セル群の中で一番低いセル電圧値(以下、「最小電圧値Vm」という)及び最小電圧値を持つ電池セルを特定し、他の電池セルのセルバランス回路をオンすることにより、各セル電圧値を次第に最小電圧値Vmに近づけるというセルバランスの方法を開示している。
【0010】
特許文献4は故障診断部が電池の電圧が過充電検出電圧または、過放電検出電圧になった場合、充放電の許可命令または禁止命令を送ることで過充電および過放電を防止することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−105451
【特許文献2】特開2013−029445
【特許文献3】特開2012−122872
【特許文献4】特開2008−005593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1は、セルバランス回路についての開示はあるが、セルバランスのずれの度合いについての言及はない。
【0013】
特許文献2は、電池の充電状況を算出する方法について開示されているが、セルバランスの補正において、充電の程度を考慮する旨の言及はない。
【0014】
特許文献3は、セルバランス補正の方法について開示されているが、セルバランスのずれの度合いに応じて、補正の方法を変更する旨の記載はない。
【0015】
特許文献4は、故障診断により過充電、過放電を防止する方法は開示しているが、セルバランスの補正に関する言及はない。したがって、特許文献1〜4のいずれの方法でも、セルバランスのずれの大きさに応じた、セルバランスの補正の最適化を実現することはできない。
【0016】
本発明の主たる目的の一つは、可用性と精度をともに満たす、セルバランス補正を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一つの見地は、自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を低減するよう補正部を制御する制御手段を有し、
前記制御手段は、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消するよう前記補正部を制御し、前記電圧差が前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消するよう前記補正部を制御し、電圧差補正装置である。
【0018】
本発明による他の見地は、自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消するよう補正部を制御し、前記電圧差を前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消するよう補正部を制御する、制御処理を、コンピュータに実行させる電圧差補正プログラムである。
【0019】
本発明による別の他の見地は、自装置に接続された電池モジュールを構成する複数のセルの電圧を測定する測定部が測定した前記電圧の値を用いて、前記複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、前記電圧差を所定の閾値と比較し、前記電圧差を前記閾値以上であると判断した場合、前記電池モジュールの充放電を停止した状態で、前記電圧差を解消し、前記電圧差を前記閾値より小さいと判断した場合、前記電池モジュールの充放電の状態を保持した状態で、前記電圧差を解消する、電圧差補正方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、可用性と精度をともに満たす、電圧差補正が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態に係る蓄電システムの機能ブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る蓄電システムの各部の配置図である。
図3】パッシブ方式による電圧差補正の説明図である。
図4】第1の実施形態の動作モードを示す図である。
図5】第1の実施形態の処理を表すフローチャートである。
図6】第2の実施形態の処理を表すフローチャートである。
図7】第3の実施形態の動作モードを示す図である。
図8】第3の実施形態の処理を表すフローチャートである。
図9】第4の実施形態の構成を示すブロック図である。
図10】本発明をコンピュータプログラムで実行することが可能な情報処理装置の構成を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る機能を表すブロック図である。
【0023】
蓄電システム100は、電池モジュール7と、電圧差補正装置1と、充放電部2と、記憶部4とを備えている。
【0024】
電圧差補正装置1は監視部3と補正部12とを備えている。なお、電圧差補正装置1はバランス補正部、電圧差補正部と呼ぶこともある。また、起電力補正はバランス補正またはバランス制御と呼ぶこともある。充放電部2は電池モジュール7の充放電を制御する。記憶部4は、後述する最小電圧値Vm、セル番号、電圧差ΔVの閾値Level1、Level2、Level3を格納する。
【0025】
監視部3は測定部14と制御部16を備えている。制御部16は計算部11と判断部12とを備えている。
【0026】
図2は、各部の具体的な配置の一例を表す図である。補正部13によって発生する熱の影響を抑えるため、図2に示すように、補正部13はその他の各部とは別体で、バランス基板9上に配置されている。バランス基板9は端子C10を備える。監視部3、記憶部4、充放電部2はBMU基板8に搭載されている。BMU基板8は、端子A5、端子B6を備える。BMU基板8はバランス基板9からの熱伝導の影響を受けないよう、バランス基板9から離して配置することによって断熱されている。
【0027】
電池モジュール7は複数のセル(電池)を直列に接続したものである。電池モジュール7はBMU基板8に端子A5を介して電気的に接続される。また、図3に示したように、電池モジュール7は端子A5、端子D9、端子C10を介して、バランス基板15にも、電気的に接続される。
【0028】
電池モジュール7の個々のセルの起電力は、監視部3の測定部14で監視される。また、監視部3の計算部11は、各セル間の起電力差(ΔVもしくは電圧差とも呼ぶ)を計算する。判断部12は、計算部11で計算した起電力差が、所定の閾値(Level1)と比べて大きいか小さいかを判断する。本実施形態において所定の閾値とは、起電力差の補正すなわちセルバランスの制御が必要な起電力差である。一例として、Level1は、その起電力差の影響で電池容量が初期値より5%下がる起電力差であるとする。判断部12は、あるセルの起電力差が閾値を越える場合、補正部13に対してそのセルの起電力を補正するよう指示する。
【0029】
補正部13は、判断部12から起電力の補正に関する命令を受信するのに応じて、起電力差を解消するため、起電力差の補正(すなわちセルバランスの制御)を実施する。セルバランスの制御の一つであるパッシブバランス(受動型)を本実施形態に適用する場合について、図3を用いて具体的に説明する。まず、測定部14は図示しない電圧センサによりセル群(セル21〜セル28)の起電力を測定する。次に測定部14は、各セルの中で一番、起電力が低いセルを特定し、このセルの起電力を最小電圧値Vmとする。この例では、セル21が最小電圧値Vmを出力するセルであるとする。次に、計算部11が、セル21以外のセルの起電力と最小電圧値Vmとの差分を計算する。判断部12はこの差分が所定の閾値を越えるか否かを判断する。判断部12は閾値を越えるセルのバランス回路を駆動する(スイッチをオンする)よう、補正部13に指令を出す。バランス回路31、バランス回路32及びバランス回路38はそれぞれ、セル21、セル22及びセル28のバランス補正を行う。この例では、セル22とセル28の起電力と、セル21の起電力との差分が閾値を越えるものとする。補正部13は、セル22のバランス回路32とセル28のバランス回路38のスイッチを入れ、これらのセルを放電する。判断部12は、セル22とセル28の起電力値と最小電圧値Vmとの差分が閾値以下になった時点で、補正部13にバランス回路32とバランス回路38の駆動を停止する(スイッチをオフする)よう指令を出す。冒頭でも説明したように、セルバランス制御の方式には、ほかにアクティブバランス(能動型)方式がある。この方式は高い起電力のセルから一時電荷を蓄積し、定電圧セルにこれを充電することにより再分配する方法であり、受動型と同様に本実施形態に適用することができる。
【0030】
充放電部2は、充放電スイッチ15がオンとなった場合、電池モジュール7の充電または放電を行う。電池モジュール7が充電、または放電されていると、測定部14が各セルの起電力を測定する精度は、充放電されていない場合に比べて、低下する。したがって、バランス回路駆動中の起電力の測定精度も低下する。その度合いは充放電電流が大きいほど大きい。すなわち、セルバランスの補正を精度よく行うには、判断部12は、充放電スイッチ15を切った状態で、補正部13にバランス回路を駆動することを命じることが望ましい。しかし、十分に低いΔVの場合は、充放電が測定精度にほとんど影響しないことがありえる。そこで、所定の閾値(Level2)以上のΔVの場合、判断部12は充放電部2に充放電スイッチ15の開放を指示した状態で、補正部13にバランス回路32、バランス回路38の駆動を命じる。Level2より小さいΔVの場合、判断部12は充放電部2に充放電スイッチ15の開放を指示することなく、補正部13にバランス回路32、バランス回路38の駆動を命じる。一例としてLevel2として、ΔVの影響で電池容量が10%低減するΔVが選択されてもよい。
【0031】
測定部14、計算部11、判断部12並びに補正部13は、論理素子を組み合わせて実現するハードウェアで実施されてもよいし、図示されていないメモリに格納されているプログラムを、後述する図10に示す情報処理装置1000の記憶装置1300に格納されたプログラムをCPU1100(CPU:Central Processor Unit)が実行することで実現されてもよい。
次に本実施形態における、セルバランス制御の動作について説明する。本実施形態における動作モードは、図4の表に示す3つである。
【0032】
モード0は、ΔV<Level1で、バランス制御を不要とする動作モードである。
【0033】
モード1は、Level≦ΔV<Level2で、バランス制御は必要だが、充放電を停止する必要はない動作モードである。
【0034】
モード2は、Level2≦ΔVで、充放電を停止した上で、バランス制御を行うことが必要な動作モードである。
【0035】
図5は、本実施形態の動作を表すフローチャートである。監視部3の測定部14は電池モジュール7の各セルの起電力を測定し、最小電圧値Vmと、それを起電力として有するセル(Vmセル)を特定する。また測定部14は、各セルの起電力値を各セルの識別子に対応づけて記憶部4に格納する(ステップS−1)。計算部11は記憶部4に格納された起電力値を読み込み、各セルの起電力と最小電圧値Vmとの差異であるΔVを算出する(ステップS−2)。判断部12は、記憶部3に格納された第1の閾値Level1を読み出し、Level1と比べたΔVの大小を判定する(ステップS−3)。判定結果がLevel1未満の場合には(ステップS−3にてNO)、判定部12は、補正部13に補正を命じない。したがって、電池モジュール7にバランス補正は行われない。電池モジュール7はそれまでに行われていた通常動作を継続的に行う(ステップS−4)。Level1以上(ステップS−3にてYES)の場合、判断部12は引き続いて、記憶部3に格納された第2の閾値Level2を読み出し、Level2と比べたΔVの大小を判定する(ステップS−5)。判定結果がLevel2未満の場合には(ステップS−3にてYES)、判断部12は、補正部13にバランス制御を指示する。この際、判断部12は、充放電の指示を充放電部2に出すことが可能である。また、充放電の指示が既に出ている場合は、判断部12はこれを継続するよう指示する(ステップS−6)。判定結果がLevel2より大きい場合(ステップS−3にてNO)、判断部12は、補正部13にバランス制御を指示する。この際、判断部12は、充放電の指示を充放電部2に同時あるいは略同時には出さないこととする。電部2の充電スイッチ15がONである場合は、これをOFFする(ステップS−7)。
【0036】
蓄電システム100においては、ΔVの大きさに応じて、充放電と並行してバランス制御が可能なモードと、充放電を停止してバランス制御を行うモードとに、動作モードを変更できるので、ユーザの利便性を保持しつつ、十分なバランス制御を行うことができる。
【0037】
なお、電圧差補正装置1は必ずしも測定部14を備える必要はない。計算部11が、装置外部のセンサからで電圧測定データを受信してもよい。
本実施形態では、Level1を電池容量が初期値より5%下がる起電力差、Level2を電池容量が初期値より10%下がる起電力差としたが、必ずしもこの設定である必要はない。個々の蓄電システムに応じて、最適な閾値を設定することができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、ステップS−6において、判断部12が充放電部2に充放電の指示を出す場合を中心に説明がなされた。充放電の指示は、不要であれば出す必要はない。なお、本発明で用いる「充放電の状態」とは、充放電が生じている状態と、充放電が生じていない状態の両方を含む。また、「充放電が生じている状態が継続する状態」と、「充放電が生じていない状態が継続する状態」とは、いずれも、充放電の状態が継続することを意味するものとする。また、「充放電の状態を保持する」とは、充放電が生じている状態か、または充放電が生じていない状態のいずれかの状態を継続することを意味するものとする。
(第2の実施形態)
第1の実施形態は、電池モジュール7を構成する複数のセルのΔVを、判断部12が個々に判定し、補正部13が判定の都度補正を実行する形態である。第2の実施形態は、ΔVのレベルに応じて、補正実行のタイミングを変える形態である。第2の実施形態を構成する各部は第1の実施形態と同じである。図6に第2の実施形態を実行するフローチャートを示した。本実施形態は、電池モジュール7が有するセルの個数をN+1とする。また、後述するように本実施形態において測定部14は、各セルに番号Iを割り当て、最小電圧値Vmを有するセル番号を0とし、その他を1、2、3・・・Nとする。
第1の実施形態のステップS−1と同様、監視部3の測定部14は電池モジュールの各セルの起電力を測定し、最小電圧値Vmと、それを起電力として有するセルを特定する。測定部14は、特定されたセルのセル番号を0として、他のセルのセル番号を0以外の連続する番号で採番して、記憶部4にその起電力に関連づけて格納する(ステップS−10)。計算部11は、セル番号1のセルを選択し(ステップS−11)、その起電力を記憶部4から読み出して、ΔVを算出する(ステップS−12)。
判断部12は、ΔVの大きさをLevel1と比較して、ΔVがLevel1より小さい場合(ステップS−13にてNO)、セル番号がセル番号0以外のセルの個数Nであるか否かを判断する(ステップS−17)。セル番号がNである場合、判断部12は補正部13に指令を出し、補正部13は記憶部2に格納されたセル番号のセルの補正を実施する。この際、判断部12は、必要に応じて充放電部2に充放電の開始を指令する(ステップS−19)。後述するように、記憶部2に格納されたセル番号とは、ΔVがLevel1以上で且つLevel2より小さいセルの番号である。これらのセルは第1の実施形態および図4で説明したように、バランス補正は必要であるが、バランス補正の際に充放電が許可されるセルである。セル番号がNではない場合、計算部11は、そのセル番号に1を加えたセル番号のセルを選択し(ステップS−18)、S−12からのステップを繰り返す。
判断部12は、ΔVの大きさをLevel1と比較して、ΔVがLevel1より大きいかまたは等しい場合(ステップS−13にてYES)、引き続いて、ΔVの大きさをLevel2と比較する(ステップS−14)。判断部12は、ΔVがLevel2より小さい場合(ステップS−14にてNO)、記憶部2にそのセル番号Iを格納する(ステップS−15)。以降、S−17からのステップが実行される。
【0039】
判断部12はΔVがLevel2より大きいか、または等しい場合(ステップS−14にてYES)、充放電部2に対して充放電を止める指令を出し、充放電を止めた後にそのセルのバランス補正を実行する。以降、S−17からのステップが実行される。
第2の実施形態では、バランス補正時に充放電が許可されるΔVのレベルを有するセルのバランス補正を、バランス補正時に充放電が禁じられるΔVのレベルを有するセルのバランス補正の後にまとめて行うので、充放電のON/OFFの回数が最小限で済む。したがって、第1の実施形態に比べて、ユーザの使い勝手が向上し、充放電部2に与える負担も小さくて済む。
なお、この実施形態では、ΔVの計算と判断、補正を繰り返すが、ΔVの計算を最初にまとめて行ない、ΔVの大きさでグループ分けをして、各グループに対して、充放電を並行して行うグループと行わないグループとに分け、一括してバランス補正を行なう方式をとることもできる。
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、ΔVに関してLevel1とLevel2の2段階の閾値を設定した。過度なバランス補正は電池セル自体の劣化等により、本来排除されるべき電池セルの強制使用を促進させる方向にしてしまう可能性がある。このような現象が起きると、蓄電システムの安全性が損なわれる結果となる。そこで、第3の実施形態では、バランス補正の限界値としての電圧差として、Level1及びLevel2に加えて、Level3が設定される。一例として、Level3は電池容量が初期値の約30%に低下するΔVとする。図7に第3の実施形態における4種類の動作モードを示す。
【0040】
本実施形態に係る蓄電システムの構成は、第1及び第2の実施形態と同じであるので説明を省略する。図8は、第3の実施形態に係る蓄電システムが実行する起電力補正処理のフローチャートを示す。S21〜S26は第1の実施形態のS1〜S6に相当する。ステップS−25で判断部12が、ΔVがLevel2以上であると判定した場合、引き続いて、判断部12はΔVがLevel3より小さいか否かを判断する(ステップS−27)。ΔVがLevel3より小さい場合(ステップS−27にてYES)、判断部12は、充放電部2に充放電を停止することを指示し、補正部13にバランス補正を指示する。
ΔVがLevel3より大きいかまたは等しい場合(ステップS−27にてNO)、判断部12は、充放電部2に充放電を停止することを指示し、補正部13にはバランス補正を指示しない。
【0041】
第3の実施形態では、バランス補正を不可とするレベルのΔVを閾値に加えているので、蓄電システム100を、より安全に制御することが可能である。
【0042】
本実施形態では、Level3を電池容量が初期値より30%下がる起電力差としたが、必ずしもこの設定である必要はない。個々の蓄電システムに応じて、最適な閾値を設定することができる。
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態について、図9を参照して説明する。本発明の第4の実施形態に係る電圧差補正装置1は、自装置に接続された電池モジュール7を構成する複数のセルの電圧を測定する測定部11が測定した電圧の値を用いて、それら複数のセルの電圧のうち最小の電圧と、その最小の電圧のセル以外の各セルの電圧との電圧差を算出し、電圧差を所定の閾値と比較し、電圧差を低減するよう補正部13を制御する制御部16を有し、
制御部16は、電圧差を閾値以上であると判断した場合、電池モジュール7の充放電を停止した状態で、電圧差を充電または放電により解消するよう補正部13を制御し、電圧差が閾値より小さいと判断した場合、電池モジュール7の充放電の状態を保持した状態で、電圧差を充電または放電により解消するよう補正部13を制御する電圧差補正装置1である。
【0043】
本発明によれば、可用性と精度をともに満たす、電圧差補正が実現する。
【0044】
上述した第1乃至第4の実施形態を例に説明した本発明は、当該実施形態の説明において参照したフローチャート(図5図6図8)の機能、或いは少なくとも図1図9に示したブロック図における制御部16を実現可能なプログラムを図10に示す情報処理装置1000に対して供給した後、そのプログラムをCPU1100に対して実行することによって達成される。また、情報処理装置1000内に供給されたプログラムは、読み書き可能な一時記憶メモリ1200またはハードディスクドライブ等の不揮発性の記憶装置1300に格納すればよい。
【符号の説明】
【0045】
1 電圧差補正装置
2 充放電部
3 監視部
4 記憶部
5 端子A
6 端子B
7 電池モジュール
8 BMU基板
9 端子D
10 端子C
11 計算部
12 判断部
13 補正部
14 測定部
15 充放電スイッチ
16 制御部
21 セル
22 セル
28 セル
31 バランス回路
32 バランス回路
38 バランス回路
100 蓄電システム
1000 情報処理装置
1100 CPU
1200 一時記憶メモリ
1300 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10