(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1対のディスクと、複数の支持部材と、それぞれがこれら各支持部材と同数のローラ支持軸及びパワーローラと、同じく同数組のラジアルニードル軸受及びスラスト転がり軸受と、押圧装置とを備え、
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持されたものであり、
前記各支持部材は、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸を備えたもので、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向片側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある前記各傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けられており、
前記各ローラ支持軸は、前記各傾転軸の軸方向に関して、前記各支持部材の一部から前記各ディスクの径方向に突出する状態で設けられており、
前記各パワーローラは、円形の中心孔を有する環状に形成されたもので、前記各支持部材の一部で前記各ローラ支持軸の周囲に回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させており、
前記各ラジアルニードル軸受は、複数本のニードルとこれら各ニードルを保持する保持器とを備えたもので、これら各ニードルの転動面を前記各パワーローラの内周面及び前記各ローラ支持軸の外周面に転がり接触させており、
前記各スラスト転がり軸受は、前記各支持部材の内側面に前記各ディスクの軸方向の変位を可能に支持された外輪の内側面に形成した外輪軌道と、前記各パワーローラの外側面に形成した内輪軌道との間に、複数個の転動体を転動可能に設けたものであり、
前記押圧装置は、前記各ディスクを互いに近づく方向に押圧するものであるトロイダル型無段変速機に於いて、
前記各ラジアルニードル軸受を構成する前記各保持器が、それぞれの内周面と前記各ローラ支持軸の外周面とを近接対向させる内輪案内により、それぞれの径方向位置を規制しており、動力の非伝達状態での、前記各パワーローラの中心孔の内径と前記各保持器の外径との差が、動力伝達に基づくこれら各パワーローラの中心孔の変形量の最大値よりも大きい事を特徴とするトロイダル型無段変速機。
前記各ローラ支持軸が、基半部と先半部とを互いに偏心させた偏心軸であり、これら各ローラ支持軸の基半部が前記各支持部材であるトラニオンの中間部に形成された支持孔の内側に、揺動支持用ラジアル軸受を介して揺動変位可能に支持されており、前記各スラスト転がり軸受を構成する外輪が、前記各ローラ支持軸の先半部のうち基端側部分に外嵌支持されており、これら各外輪の外側面と前記各トラニオンの内側面との間に、前記各ディスクの軸方向に関するこれら各外輪の変位を許容する為の第二スラスト軸受が設けられている、請求項1に記載したトロイダル型無段変速機。
【背景技術】
【0002】
自動車用変速装置としてハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用する事が、特許文献1〜4等の多くの刊行物に記載されると共に一部で実施されていて周知である。又、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて変速比の調整幅を広くする構造も、特許文献5等、やはり多くの刊行物に記載されて、従来から広く知られている。
図3〜4は、これら各特許文献に記載されて従来から広く知られているトロイダル型無段変速機の第1例を示している。この従来構造の第1例の場合、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に1対の入力ディスク2、2を、それぞれがトロイド曲面である内側面同士を互いに対向させた状態で、前記入力回転軸1と同期した回転を可能に支持している。又、この入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、この入力回転軸1に対する回転を可能に支持している。又、この出力筒3の外周面には、軸方向中央部に出力歯車4を固設すると共に、軸方向両端部に1対の出力ディスク5、5を、スプライン係合により、前記出力筒3と同期した回転を可能に支持している。又、この状態で、それぞれがトロイド曲面である、前記両出力ディスク5、5の内側面を、前記両入力ディスク2、2の内側面に対向させている。
【0003】
又、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間に、それぞれの周面を部分球状凸面とした複数個のパワーローラ6、6を挟持している。これら各パワーローラ6、6は、それぞれが特許請求の範囲に記載した支持部材であるトラニオン7、7に回転自在に支持されており、これら各トラニオン7、7は、それぞれ前記各ディスク2、5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8、8を中心とする揺動変位自在に支持されている。即ち、これら各トラニオン7、7は、それぞれの軸方向両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8、8と、これら各傾転軸8、8同士の間に存在する支持梁部9、9とを備えており、これら各傾転軸8、8が、支持板10、10に対し、ラジアル軸受11、11を介して枢支されている。
【0004】
又、前記各パワーローラ6、6は、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心したローラ支持軸12、12と、複数の転がり軸受とを介して、これら各ローラ支持軸12、12の先半部回りの回転、及び、これら各ローラ支持軸12、12の基半部を中心とする若干の揺動変位可能に支持されている。
【0005】
先ず、前記各パワーローラ6、6の外側面と、前記各トラニオン7、7を構成する支持梁部9、9の内側面との間には、スラスト玉軸受13、13と、スラストニードル軸受14、14とを、前記各パワーローラ6、6の側から順番に設けている。このうちのスラスト玉軸受13、13は、これら各パワーローラ6、6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ6、6の回転を許容する。前記各スラスト玉軸受13、13は、これら各パワーローラ6、6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に複数個の玉18、18を、転動可能に設けて成る。又、前記各スラストニードル軸受14、14は、前記各パワーローラ6、6から前記各スラスト玉軸受13、13を構成する外輪16、16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これら各外輪16、16及び前記各ローラ支持軸12、12の先半部が、これら各ローラ支持軸12、12の基半部を中心に揺動する事を許容するものである。
【0006】
更に、これら各ローラ支持軸12、12の先端部外周面と前記各パワーローラ6、6の中心孔19、19の内周面との間に、それぞれラジアルニードル軸受20、20を設けている。これら各ラジアルニードル軸受20、20を構成する為に、前記各ローラ支持軸12、12の先端部外周面を内輪軌道21とし、前記各中心孔19、19の内周面を外輪軌道22としている。そして、これら内輪軌道21と外輪軌道22との間にそれぞれ複数本ずつのニードル23、23を、それぞれ保持器24に保持した状態で、転動自在に設けている。
【0007】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸25により一方(
図3の左方)の入力ディスク2を、押圧装置26を介して回転駆動する。この結果、前記入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力ディスク2、2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、この回転が、前記各パワーローラ6、6を介して前記両出力ディスク5、5に伝わり、前記出力歯車4から取り出される。前記入力回転軸1とこの出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ27、27により前記
各トラニオン7、7を前記各傾転軸8、8の軸方向に変位させる。この結果、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する(転がり接触部にサイドスリップが発生する)。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン7、7が、自身の傾転軸8、8を中心に揺動し、前記各パワーローラ6、6の周面と前記各ディスク2、5の内側面との接触位置が変化する。これら各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向外寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、前記各パワーローラ6、6の周面を、前記両入力ディスク2、2の内側面の径方向内寄り部分と、前記両出力ディスク5、5の内側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、前記入力回転軸1と前記出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0008】
上述の様なトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供される各部材、即ち、前記入力、出力各ディスク2、5と前記各パワーローラ6、6とが、前記押圧装置26が発生する押圧力に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、前記入力、出力各ディスク2、5が軸方向に変位する。又、前記押圧装置26が発生する押圧力は、前記トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴って前記各部材2、5、6の弾性変形量も多くなる。従って、前記トルクの変動に拘らず、前記入力、出力各ディスク2、5の内側面と前記各パワーローラ6、6の周面との接触状態を適正に維持する為に、前記各トラニオン7、7に対してこれら各パワーローラ6、6を、前記各ディスク2、5の軸方向に変位させる機構が必要になる。上述した従来構造の第1例の場合には、前記各パワーローラ6、6を支持した前記各ローラ支持軸12、12の先半部を、同じく基半部を中心として揺動変位させる事により、前記各パワーローラ6、6を前記軸方向に変位させる様にしている。
【0009】
又、部品製作、部品管理、組立作業の容易化を図る為の技術として前記特許文献3には、
図5〜10に示す様な構造が記載されている。この従来構造の第2例を構成するトラニオン7aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8a、8bと、これら両傾転軸8a、8b同士の間に存在し、少なくとも入力、出力各ディスク2、5(
図3参照)の径方向(
図6、9、10の上下方向)に関する内側(
図6、9、10の上側)の側面を円筒状凸面28とした、支持梁部29とを備える。前記両傾転軸8a、8bは、それぞれラジアル軸受11a、11aを介して、支持板10、10(
図4参照)に、揺動及び軸方向の変位を可能に支持する。
【0010】
又、前記円筒状凸面28の中心軸イは、
図6、9に示す様に、前記両傾転軸8a、8bの中心軸ロと平行で、これら両傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側(
図6、9、10の下側)に存在する。又、前記支持梁部29とパワーローラ6aの外側面との間に設けるスラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外側面に、部分円筒面状の凹部30を、この外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、この凹部30と、前記支持梁部29の円筒状凸面28とを係合させ、前記トラニオン7aに対して前記外輪16aを、前記各ディスク2、5の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0011】
又、スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの内側面中央部にローラ支持軸12aを、この外輪16aと一体に固設して、前記パワーローラ6aをこのローラ支持軸12aの周囲に、ラジアルニードル軸受20aを介して、回転自在に支持している。更に、前記トラニオン7aの内側面のうち、前記支持梁部29の両端部と1対の傾転軸8a、8bとの連続部に、互いに対向する1対の段差面31、31を設けている。そして、これら両段差面31、31と、前記スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外周面とを、当接若しくは近接対向させて、前記パワーローラ6aからこの外輪16aに加わるトラクション力を、何れかの段差面31、31で支承可能としている。
【0012】
上述の様に構成する従来構造の第2例のトロイダル型無段変速機によれば、前記パワーローラ6aを前記各ディスク2、5の軸方向に変位させて、構成各部材の弾性変形量の変化に拘らず、このパワーローラ6aの周面と前記各ディスク2、5の内側面との接触状態を適正に維持できる構造を、簡単で低コストに構成できる。
即ち、トロイダル型無段変速機の運転時に、入力、出力各ディスク2、5、各パワーローラ6a等の弾性変形に基づき、これら各パワーローラ6aをこれら各ディスク2、5の軸方向に変位させる必要が生じると、これら各パワーローラ6aを回転自在に支持している前記スラスト玉軸受13aの外輪16aが、外側面に設けた部分円筒面状の凹部30と支持梁部29の円筒状凸面28との当接面を滑らせつつ、この円筒状凸面28の中心軸イを中心として揺動変位する。この揺動変位に基づき、前記各パワーローラ6aの周面のうちで、前記各ディスク2、5の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これら各ディスク2、5の軸方向に変位し、前記接触状態を適正に維持する。
【0013】
前述した通り、前記円筒状凸面28の中心軸イは、変速動作の際に各トラニオン7aの揺動中心となる傾転軸8a、8bの中心軸ロよりも、前記各ディスク2、5の径方向に関して外側に存在する。従って、前記円筒状凸面28の中心軸イを中心とする揺動変位の半径は、前記変速動作の際の揺動半径よりも大きく、前記両入力ディスク2、2と前記両出力ディスク5、5との間の変速比の変動に及ぼす影響は少ない(無視できるか、容易に修正できる範囲に留まる)。
【0014】
図3〜4に示した第1例にしても、
図5〜10に示した第2例にしても、従来構造の場合には、前記各ローラ支持軸12、12aの周囲に前記各パワーローラ6、6aを回転自在に支持する為の、前記各ラジアルニードル軸受20、20aの構造に起因して、次の様な問題を生じる可能性がある。即ち、これら各ラジアルニードル軸受20、20aは、前記各パワーローラ6、6aが回転する事に対する抵抗(動トルク)を低く抑える為に、それぞれ複数本ずつのニードル23、23を保持器24、24aにより転動自在に保持して、隣り合うニードル23、23の転動面同士の擦れ合いを防止している。
【0015】
この様な構造を有する前記各ニードル軸受20、20aの運転に伴う振動及び騒音を抑える為には、前記各保持器24、24aの径方向に関する位置決めを図り、前記各パワーローラ6、6aが高速で回転した場合にも、前記各保持器24、24aが径方向に大きく変位しない様にする必要がある。この為に従来は、
図11に示す様に、保持器24の外径Dをパワーローラ6の中心孔19の内径Rよりも僅かに小さくし、この保持器24の外周面と中心孔19の内周面とを、微小隙間32を介して近接対向させる、所謂外輪案内の構造により、前記保持器24の径方向に関する位置決めを図っていた。
【0016】
トロイダル型無段変速機の運転時に於ける、前記パワーローラ6の弾性変形量や温度上昇量が限られていれば(小さければ)、上述の様な外輪案内の構造で前記保持器24の径方向の位置決めを図っても、特に問題を生じる事はない。ところが、トロイダル型無段変速機の運転時に前記パワーローラ6は、押圧装置26(
図3参照)が発生する大きなスラスト荷重に基づき、
図12の(A)に示した停止状態から、同図の(B)に誇張して示した運転状態の様に、軸方向から見た形状が楕円形となる方向に弾性変形する。そして、この様な弾性変形に基づいて、前記保持器24が振れ回ったり、この保持器24の外周面と前記中心孔19の内周面とが強く擦れ合う(衝突する)可能性がある。この様な振れ回りや擦れ合いが発生すると、前記保持器24の回転抵抗、延いては、前記パワーローラ6の動トルクが著しく増大する。この結果、トロイダル型無段変速機の伝達効率が低下するだけでなく、著しい場合には焼き付き等の重大な故障の原因となる。前記振れ回りや擦れ合いを防止する為に、前記保持器24の外径Dと前記中心孔19の内径Rとの差(R−D)を大きくして、トロイダル型無段変速機が大きなトルクを伝達し、前記パワーローラ6が最も大きく弾性変形した状態でも、前記保持器24の外周面と前記中心孔19の内周面とが、全周に亙って隙間を介して対向する様にする事が考えられる。但し、この様な構造を採用すると、前記保持器24の径方向に関する位置決めが必ずしも十分に行われず、トロイダル型無段変速機の運転に伴って前記保持器24が振動し易くなる。
【0017】
又、前記トロイダル型無段変速機の運転時には、前記パワーローラ6の周面と各ディスク2、5(
図3参照)の内側面との転がり接触部(トラクション部)でのトルク伝達に伴って前記パワーローラ6の温度(表面温度)が上昇する。即ち、このパワーローラ6の周面と前記各ディスク2、5の内側面とは、1μm程度の微小隙間を介して近接対向し、この微小隙間にトラクションオイルの薄膜を介し転がり接触させる事で、前記トラクション部としている。前記トロイダル型無段変速機の運転時には、このトラクション部に存在するトラクションオイルの薄膜に発生する剪断力に基づき、前記パワーローラ6の前記各ディスク2、5の軸方向側面との間で大きなトルクを伝達する。この様なトロイダル型無段変速機の運転時に前記各ディスク2、5の回転に伴って前記各トラクション部では、不可避的なスピン滑りが発生し、接触楕円の方向が変化する。この為、前記トロイダル型無段変速機の運転時に前記トラクション部の発熱量が相当に多くなり、前記パワーローラ6の温度上昇も著しくなる。このパワーローラ6の温度上昇に伴い、このパワーローラ6の中心孔19の内周面である外輪軌道22の温度が上昇する。そして、この外輪軌道22の温度が上昇すると、この外輪軌道22と、ローラ支持軸12の外周面である内輪軌道21との間に設けたラジアルニードル軸受20の転がり疲れ寿命を確保し難くなり、前記トロイダル型無段変速機の耐久性確保の面から不利になる。前記外輪軌道22の温度上昇は、前記パワーローラ6の中心孔19に、クーラント(冷却液)として機能するトラクションオイルを流通させる事により、或る程度抑えられる。但し、前記保持器24の径方向位置決めを、
図11に示す様な、この保持器24の外周面と前記外輪軌道22とを、微小隙間32を介して
近接対向させる外輪案内により行った場合、前記中心孔19のうち、前記保持器24の外径側を通過するトラクションオイルの量が、同じく内径側を通過するトラクションオイルの量よりも少なくなり、前記外輪軌道22の冷却を十分に行えない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、各パワーローラを支持する為のラジアルニードル軸受を構成する保持器の径方向に関する位置決めを十分に図れ、しかも、大きなトルクを伝達する際にもこの保持器の回転抵抗の増大を抑えられ、且つ、前記各パワーローラの内周面である、前記各ラジアルニードル軸受の外輪軌道の温度上昇を抑えてトロイダル型無段変速機の耐久性を確保し易い構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のトロイダル型無段変速機は、少なくとも1対のディスクと、複数の支持部材と、それぞれがこれら各支持部材と同数のローラ支持軸及びパワーローラと、同じく同数組のラジアルニードル軸受及びスラスト転がり軸受と、押圧装置とを備える。
このうちの各ディスクは、それぞれが断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持している。
又、前記各支持部材は、それぞれの両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸を備える。そして、軸方向に関して前記各ディスクの軸方向側面同士の間位置の周方向に関して複数箇所に、これら各ディスクの中心軸に対し捩れの位置にある前記各傾転軸を中心とする揺動変位を自在に設けている。
又、前記各ローラ支持軸は、前記各傾転軸の軸方向に関して、前記各
支持部材の中間部から前記各ディスクの径方向に関して内方に向かう方向に突出する状態で設けている。
又、前記各パワーローラは、前記各支持部材の一部で前記各ローラ支持軸の周囲に回転自在に支持され、球状凸面としたそれぞれの周面を、前記各ディスクの軸方向片側面にそれぞれ当接させている。
又、前記各ラジアルニードル軸受は、複数本のニードルとこれら各ニードルを保持する保持器とを備える。そして、これら各ニードルの転動面を、前記各パワーローラの内周面に設けた外輪軌道及び前記各ローラ支持軸の外周面に設けた内輪軌道に転がり接触させている。
又、前記各スラスト転がり軸受は、前記各
支持部材の内側面に前記各ディスクの軸方向の変位を可能に支持された外輪の内側面に形成した外輪軌道と、前記各パワーローラの外側面に形成した内輪軌道との間に、複数個の転動体を転動可能に設けて成る。
更に、前記押圧装置は、前記各ディスクを互いに近づく方向に押圧する。
【0021】
特に、本発明のトロイダル型無段変速機に於いては、前記各ラジアルニードル軸受を構成する前記各保持器を、それぞれの内周面と前記各ローラ支持軸の外周面に設けた内輪軌道とを近接対向させる内輪案内により、それぞれの径方向位置を規制している。更に、動力の非伝達状態での、前記各パワーローラの中心孔の内径と前記各保持器の外径との差を、動力伝達に基づくこれら各パワーローラの中心孔の変形量の最大値よりも大きくしている。
【0022】
又、本発明を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記各ローラ支持軸を、基半部と先半部とを互いに偏心させた偏心軸とする。又、これら各ローラ支持軸の基半部を、前記各
支持部材であるトラニオンの中間部に形成した支持孔の内側に、揺動支持用ラジアル軸受を介して揺動変位可能に支持する。又、前記各スラスト転がり軸受を構成するの外輪を、前記各ローラ支持軸の先半部のうち基端側部分に外嵌支持する。更に、これら各外輪の外側面と前記各トラニオンの内側面との間に、前記各ディスクの軸方向に関するこれら各外輪の変位を許容する為の第二スラスト軸受を設ける。この様な請求項2に記載した発明は、前述の
図3〜4に記載した従来構造の第1例に関して、本発明を適用する場合に相当する。
【0023】
或いは、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記各
支持部材であるトラニオンを、これら各トラニオン毎に1対ずつ設けられた前記各傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記各ディスクの径方向に関する内側の側面を、前記両傾転軸の中心軸と平行でこれら両傾転軸の中心軸よりも前記各ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面とした支持梁部を有するものとする。そして、前記各スラスト転がり軸受を構成する前記各外輪の外側面に設けられた凹部と、前記各支持梁部の円筒状凸面とを係合させる。この様な請求項3に記載した発明は、前述の
図5〜10に記載した従来構造の第2例に関して、本発明を適用する場合に相当する。
【発明の効果】
【0024】
上述の様に構成する本発明のトロイダル型無段変速機によれば、各パワーローラを支持する為の各ラジアルニードル軸受を構成する各保持器の径方向に関する位置決めを十分に図れ、しかも、大きなトルクを伝達する際にもこれら各保持器の回転抵抗の増大を抑えられ、且つ、前記各パワーローラの内周面である、前記各ラジアルニードル軸受の外輪軌道の温度上昇を抑えて、これら各ラジアルニードル軸受の転がり疲れ寿命、延いてはトロイダル型無段変速機の耐久性を確保し易い構造を実現できる。
即ち、トロイダル型無段変速機により大きなトルクを伝達する場合には、押圧装置が大きな力で各ディスクを互いに近づく方向に押圧し、前記各パワーローラが、軸方向に見た形状が楕円形となる状態に弾性変形する。この場合でも、これら各パワーローラの中心孔に挿通された各ローラ支持軸は殆ど弾性変形する事はない。従って、前記各保持器が径方向にがたつくのを十分に抑えるべく、これら各保持器の内径と前記各ローラ支持軸の外径との差を僅少に抑えた場合でも、これら各保持器が振れ回ったり、これら各保持器の内周面とこれら各ローラ支持軸の外周面とが強く擦れ合う事を防止できる。
又、前記各保持器の径方向に関する位置決めの為に、これら各保持器の外周面と前記各パワーローラの中心孔の内周面とを近接させる必要がない。この為、大きなトルク伝達に伴ってこれら各パワーローラの中心孔が弾性変形しても、前記各保持器が振れ回ったり、これら各中心孔の内周面とこれら各保持器の外周面とが擦れ合う事を防止できる。この結果、上述の様に、各保持器の径方向に関する位置決めを十分に図れ、しかも、大きなトルクを伝達する際にもこれら各保持器の回転抵抗の増大を抑えられる。
【0025】
又、前記各中心孔の内周面と、前記各保持器の外周面との間に、径方向に関する幅寸法が大きい環状隙間を介在させられる為、これら各保持器の外径側を通過するトラクションオイルの量を十分確保できる。この結果、前記各中心孔の内周面に設けた前記各ラジアルニードル軸受の外輪軌道の冷却を十分に行え、これら各ラジアルニードル軸受の転がり疲れ寿命、延いては前記トロイダル型無段変速機の耐久性の確保を図り易くできる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1〜2は、本発明の実施の形態の1例を示している。尚、本例を含めて本発明の特徴は、各ローラ支持軸12の周囲に各パワーローラ6を回転自在に支持する為の各ラジアルニードル軸受20bを構成する各保持器24bの径方向に関する位置決めを、内輪案内により図る点にある。その他の部分の構成及び作用は、前述の
図3〜4に示した従来構造の第1例、或いは
図5〜10に示した従来構造の第2例を含め、従来から知られているトロイダル型無段変速機と同様であるから、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0028】
前記各ラジアルニードル軸受20bを構成する前記各保持器24bの径方向位置を、それぞれの内周面と前記各ローラ支持軸12の外周面とを、微小隙間32aを介し近接対向させる、所謂内輪案内により、それぞれ規制している。即ち、前記各保持器24bの内径rを、前記各ローラ支持軸12の外径dよりも僅かに大きく(r>d)する事で、これら各ローラ支持軸12の周囲に前記各保持器24bを、回転自在に、且つ、径方向に関する変位を抑えた状態で配置している。
【0029】
これに対して、前記各パワーローラ6の中心孔19の内径R
1を、前記各保持器24bの外径D
1よりも十分に大きくしている。具体的には、動力の非伝達状態での、前記各パワーローラ6の中心孔19の内径R
1と前記各保持器24bの外径D
1との差「R
1−D
1」を、動力伝達に基づく前記各パワーローラ6の中心孔の変形量δの最大値よりも大きくしている。
【0030】
上述の様に構成する本例のトロイダル型無段変速機によれば、前記各パワーローラ6を前記各ローラ支持軸12の周囲に支持する為の、前記各ラジアルニードル軸受20bを構成する前記各保持器24bの径方向に関する位置決めを十分に図れ、しかも、大きなトルクを伝達する際にも、これら各保持器24bの回転抵抗の増大を抑えられ、且つ、前記各ラジアルニードル軸受20bの外輪軌道
22の温度上昇を抑えて、これら各ラジアルニードル軸受20bの転がり疲れ寿命、延いてはトロイダル型無段変速機の耐久性を確保し易い構造を実現できる。
即ち、トロイダル型無段変速機により大きなトルクを伝達する場合には、押圧装置26が大きな力で各ディスク2、5(
図3参照)を互いに近づく方向に押圧する。この結果、前記各パワーローラ6の中心孔19の端面形状が、トルクの非伝達時には、
図2の(A)に示す様な正円形であったのが、大きなトルク伝達時には、
図2の(B)に示す様な楕円形に、弾性変形する。この場合でも、前記各パワーローラ6の中心孔19に挿通された前記各ローラ支持軸12は殆ど弾性変形する事はない。
【0031】
従って、前記各保持器24bが径方向にがたつくのを十分に抑えるべく、これら各保持器24bの内径rと前記各ローラ支持軸12の外径dとの差「r−d」を僅少に抑えた場合でも、これら各保持器24bが振れ回ったり、前記各ローラ支持軸12の外周面と前記各保持器24bの内周面とが強く擦れ合う事を防止で
きる。
又、前記各保持器24bの径方向に関する位置決めは、前記各保持器24bの内周面と前記各ローラ支持軸12の外周面とを近接対向させる事のみで図れ、これら各保持器24bの外周面と前記各パワーローラ6の中心孔19の内周面とを近接させる必要はない。この為、大きなトルク伝達に伴ってこれら各パワーローラ6の中心孔19が弾性変形しても、前記各保持器24bが振れ回ったり、これら各中心孔19の内周面と前記各保持器24bの外周面とが擦れ合う事はない。
この結果、上述の様に、これら各保持器24bの径方向に関する位置決めを十分に図れ、しかも、大きなトルクを伝達する際にもこれら各保持器24bの回転抵抗の増大を抑えられる。
【0032】
更に、前記各保持器
24bの径方向に関する位置決めを、これら各保持器
24bの内周面と前記各ローラ支持軸12の外周面とを、微小隙間32aを介し近接させる内輪案内により行っている。この為、トロイダル型無段変速機の運転に伴う前記各パワーローラ6の弾性変形に拘らず、これら各パワーローラ6の中心孔19の内周面と前記各保持器24bの外周面との間に、径方向に関する幅寸法が十分に大きな環状隙間を介在させられる。従って、前記各中心孔19のうち、前記各保持器
24bの外径側を通過するトラクションオイルの量を十分確保できて、前記各中心孔19の内周面である外輪軌道22部分の冷却を十分に行える。この結果、前記各外輪軌道22を含む、前記各ラジアルニードル軸受20bの転がり接触部の温度上昇を抑え、これら各ラジアルニードル軸受20bの転がり疲れ寿命を確保し易くでき、前記トロイダル型無段変速機の耐久性を確保し易くできる。