(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の4輪駆動車のクラッチ制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施の形態1に基づいて説明する。
(実施の形態1)
まず、構成を説明する。
実施の形態1における前輪駆動ベースの4輪駆動車(4輪駆動車の一例)のクラッチ制御装置の構成を、「4輪駆動車の駆動系構成」、「4輪駆動車の制御系構成」、「駆動モード切替構成」、「クラッチ制御構成」に分けて説明する。
【0010】
[4輪駆動車の駆動系構成]
図1は、実施の形態1のクラッチ制御装置が適用された前輪駆動ベースの4輪駆動車の駆動系構成を示す。以下、
図1に基づき、4輪駆動車の駆動系構成を説明する。
【0011】
前記4輪駆動車の前輪駆動系は、
図1に示すように、横置きエンジン1(駆動源)と、変速機2と、フロントデファレンシャル3と、左前輪ドライブシャフト4と、右前輪ドライブシャフト5と、左前輪6(主駆動輪)と、右前輪7(主駆動輪)と、を備えている。すなわち、横置きエンジン1及び変速機2を経過した駆動力は、フロントデファレンシャル3を介して左右前輪ドライブシャフト4,5に伝達され、差動を許容しながら左右前輪6,7を常時駆動する。
【0012】
前記4輪駆動車の後輪駆動系は、
図1に示すように、ドグクラッチ8(噛み合いクラッチ)と、ベベルギア9と、出力ピニオン10と、後輪出力軸11と、プロペラシャフト12と、を備えている。そして、ドライブピニオン13と、リングギア14と、リアデファレンシャル15と、電制カップリング16(摩擦クラッチ)と、左後輪ドライブシャフト17と、右後輪ドライブシャフト18と、左後輪19(副駆動輪)と、右後輪20(副駆動輪)と、を備えている。なお、
図1中、21は自在継手である。
【0013】
すなわち、4輪駆動車の駆動系は、ドグクラッチ8と電制カップリング16を共に解放する2WD駆動モード(=ディスコネクト2輪駆動モード)を選択することが可能な駆動系構成としている。前記ドグクラッチ8及び電制カップリング16の解放状態では、後輪駆動系のべベルギア9からリングギア14の間の回転が停止することで、フリクション損失やオイル攪拌損失などが抑えられ、燃費向上が達成される。
【0014】
前記ドグクラッチ8は、左右前輪6,7から左右後輪19,20への駆動分岐位置に設けられ、クラッチ解放により左右後輪19,20への駆動力伝達系を、左右前輪6,7への駆動力伝達系から切り離す噛み合いクラッチである。
図2に示すドグクラッチ8の入力側噛み合い部材8aは、フロントデファレンシャル3のデフケース3aに連結され、ドグクラッチ8の出力側噛み合い部材8bは、ベベルギア9に連結されている。
【0015】
図1に戻り、ドグクラッチ8とベベルギア9と出力ピニオン10と後輪出力軸11の一部は、フロントデフハウジング22の隣接位置に固定されたトランスファケース23に内蔵されている。このドグクラッチ8としては、例えば、一対の噛み合い部材8a,8b(
図2参照)のうち一方を固定部材、他方を可動部材とし、両部材間に締結方向に付勢するバネを設け、可動部材の外周にソレノイドピンと嵌合可能なネジ溝が形成されたものを用いる。ドグクラッチ8の解放時は、ネジ溝に対しソレノイドピンを突出させて嵌合すると、可動部材が回転しながら解放方向にストロークし、ストローク量が所定量を超えると噛み合い締結を解放する。一方、ドグクラッチ8の締結時は、ネジ溝に対するソレノイドピンの嵌合を解除すると、バネ付勢力により固定部材に向かって可動部材が締結方向にストロークし、両者8a,8bの歯部が噛み合って締結する。
【0016】
前記電制カップリング16は、ドグクラッチ8よりも下流位置に設けられ、クラッチ締結容量に応じて横置きエンジン1からの駆動力の一部を左右後輪19,20へ配分する摩擦クラッチである。電制カップリング16の入力側クラッチプレートは、リアデファレンシャル15の左サイドギアに連結され、出力側クラッチプレートは、左後輪ドライブシャフト17に連結されている。
また、電制カップリング16は、リアデフハウジング24の隣接位置に固定されたカップリングケース25に内蔵されている。この電制カップリング16としては、例えば、入力側と出力側のプレートを交互に複数配置した多板摩擦クラッチと、対向するカム面を有する固定カムピストン(図示省略)及び可動カムピストン(図示省略)と、対向するカム面間に介装されたカム部材(図示省略)と、を有するものを用いる。
【0017】
電制カップリング16の締結は、可動カムピストン(図示省略)を電動モータ(
図2に示す電制カップリングアクチュエータ49)により、所定の締結方向に回転させることにより行う。これにより、ピストン間隔を拡大するカム作用により可動カムピストン(図示省略)が回転角に応じてクラッチ締結方向にストロークし、多板摩擦クラッチの摩擦締結力を増す。電制カップリング16の解放は、可動カムピストン(図示省略)を電動モータ(
図2に示す電制カップリングアクチュエータ49)により締結方向とは逆方向に回転させることにより行う。これにより、ピストン間隔を縮小するカム作用により可動カムピストン(図示省略)が回転角に応じてクラッチ解放方向にストロークし、多板摩擦クラッチの摩擦締結力を減じる。
【0018】
[4輪駆動車の制御系構成]
図2は、実施の形態1のクラッチ制御装置が適用された前輪駆動ベースの4輪駆動車の制御系構成を示す。以下、
図2に基づき、4輪駆動車の制御系構成を説明する。
【0019】
前記4輪駆動車の制御系は、
図2に示すように、エンジンコントロールモジュール31と、変速機コントロールモジュール32と、ABSアクチュエータコントロールユニット33と、4WDコントロールユニット34と、を備えている。なお、各コントロールモジュールおよびコントロールユニット31〜34は、いわゆるコンピュータなどの演算処理装置により構成される。
【0020】
前記エンジンコントロールモジュール31は、横置きエンジン1の制御ディバイスであり、車両状態検出装置としてのエンジン回転数センサ35やアクセル開度センサ36等からの検出信号を入力する。このエンジンコントロールモジュール31からは、CAN通信線37を介して4WDコントロールユニット34に対し、エンジン回転数情報やアクセル開度情報(ACC情報)が入力される。
【0021】
前記変速機コントロールモジュール32は、変速機2の制御ディバイスであり、車両状態検出装置としての変速機入力回転数センサ38や変速機出力回転数センサ39等からの検出信号を入力する。この変速機コントロールモジュール32からは、CAN通信線37を介して4WDコントロールユニット34に対し、ギアレシオ情報(ギア比情報)が入力される。
【0022】
前記ABSアクチュエータコントロールユニット33は、各輪のブレーキ液圧を制御するABSアクチュエータの制御ディバイスであり、車両状態検出装置としてのヨーレートセンサ40や横Gセンサ41や前後Gセンサ42や車輪速センサ43,44,45,46等からの検出信号を入力する。このABSアクチュエータコントロールユニット33からは、CAN通信線37を介して4WDコントロールユニット34に対し、ヨーレート情報や横G情報や前後G情報や各輪の車輪速情報が入力される。なお、上記情報以外に、ステアリング舵角センサ47から舵角情報が、CAN通信線37を介して4WDコントロールユニット34に対し入力される。
【0023】
前記4WDコントロールユニット(クラッチコントロールユニット)34は、ドグクラッチ8と電制カップリング16の締結/解放制御ディバイスであり、車両状態検出装置としての各センサからの各種入力情報に基づいて演算処理を行う。そして、ドグクラッチアクチュエータ48(ソレノイド)と電制カップリングアクチュエータ49(電動モータ)に駆動制御指令を出力する。ここで、CAN通信線37以外からの入力情報源として、駆動モード選択スイッチ50、ブレーキ操作の有無を検出するブレーキスイッチ51、リングギア回転数センサ52、ドグクラッチストロークセンサ53、モータ回転角度センサ54、シフトポジションスイッチ55などを有する。
【0024】
前記駆動モード選択スイッチ50は、「2WDモード」と「ロックモード」と「オートモード」をドライバーが切り替え選択するスイッチである。
「2WDモード」が選択されると、ドグクラッチ8と電制カップリング16を解放した前輪駆動の2WD状態が維持される。
「ロックモード」が選択されると、ドグクラッチ8と電制カップリング16を締結した完全4WD状態が維持される。
【0025】
さらに、「オートモード」が選択されると、車両状態(車速VSP、アクセル開度ACC)に応じてドグクラッチ8と電制カップリング16の締結/解放が自動制御される。なお、車速VSPは、本実施の形態1では、基本的には、副駆動輪としての左右後輪19,20の車輪速度から演算する。
【0026】
また、「オートモード」には、「エコオートモード」と「スポーツオートモード」の選択肢があり、ドグクラッチ8を締結し、電制カップリング16を解放するスタンバイ2輪駆動モードが選択モードにより異なる。つまり、「エコオートモード」の選択時には、電制カップリング16を完全解放状態にして待機するが、「スポーツオートモード」の選択時には、電制カップリング16を締結直前の解放状態にして待機する。
【0027】
前記リングギア回転数センサ52は、ドグクラッチ8の出力回転数情報を取得するためのセンサであり、リングギア回転数検出値に、リア側ギア比とフロント側ギア比を演算に考慮することで、ドグクラッチ8の出力回転数を演算する。なお、ドグクラッチ8の入力回転数情報は、左右前輪速度の平均値により取得する。
【0028】
[駆動モード切替構成]
図3は、「オートモード」が選択されたときのクラッチ制御で用いられる車速VSPとアクセル開度ACCに応じた駆動モード切り替えマップを示し、
図4は、駆動モード(ディスコネクト2輪駆動モード・スタンバイ2輪駆動モード・コネクト4輪駆動モード)の切り替え遷移を示す。以下、
図3及び
図4に基づき、駆動モード切替構成を説明する。
【0029】
前記駆動モード切替マップは、
図3に示すように、車速VSPとアクセル開度ACCに応じて、ディスコネクト2輪駆動モードへの制御領域である差回転制御領域(Disconnect)と、スタンバイ2輪駆動モードへの制御領域である差回転制御領域(Stand-by)と、コネクト4輪駆動モードへの制御領域である駆動力配分領域(Connect)と、を分けた設定としている。この3つの領域は、アクセル開度ゼロ(零)で設定車速VSP0の基点aから車速VSPの上昇に比例してアクセル開度ACCが上昇する領域区分線Aと、領域区分線Aとの交点bから高車速側に引いた設定開度ACC0で一定開度の領域区分線Bと、により分けている。
【0030】
ディスコネクト2輪駆動モードへの制御領域である差回転制御領域(Disconnect)は、アクセル開度ACCが設定開度ACC0以下であって、アクセル開度ACCがゼロの車速軸線と領域区分線Aと領域区分線Bにより囲まれる領域に設定している。すなわち、アクセル開度ACCが設定開度ACC0以下であるため、駆動スリップによる左右前輪6,7と左右後輪19,20の差回転発生頻度が極めて小さいと共に、駆動スリップが発生してもスリップが緩増する4WD要求の低い領域に設定している。
【0031】
スタンバイ2輪駆動モードへの制御領域である差回転制御領域(Stand-by)は、アクセル開度ACCが設定開度ACC0超えていて、領域区分線Aと領域区分線Bにより規定される領域に設定している。つまり、アクセル開度ACCが設定開度ACC0を超えているが車速VSPが高車速域であるため、4WD要求が低いものの、駆動スリップにより左右前輪6,7と左右後輪19,20の差回転が発生すると、スリップが急増する可能性が高い領域に設定している。
【0032】
コネクト4輪駆動モードへの制御領域である駆動力配分領域(Connect)は、車速VSPがゼロのアクセル開度軸線と、アクセル開度ACCがゼロの車速軸線と、領域区分線Aと、により囲まれる領域に設定している。つまり、発進時や車速VSPが低いもののアクセル開度ACCが高い高負荷走行等のように、4WD要求が高い領域に設定している。
【0033】
前記ディスコネクト2輪駆動モード(Disconnect)が選択されると、
図4の枠線C内に示すように、ドグクラッチ8と電制カップリング16が共に解放された2WD走行(Disconnect)になる。このディスコネクト2輪駆動モードでは、基本的に左右前輪6,7にのみ駆動力を伝達しての前輪駆動の2WD走行(Disconnect)が維持される。しかし、前輪駆動の2WD走行中に左右前輪6,7に駆動スリップが発生し、駆動スリップ量(又は駆動スリップ率)が閾値を超えると、電制カップリング16を摩擦締結する。その後、回転同期状態が判定されるとドグクラッチ8を噛み合い締結し、左右後輪19,20に駆動力を配分することで、駆動スリップを抑える差回転制御が行われる。
【0034】
前記スタンバイ2輪駆動モード(Stand-by)が選択されると、
図4の枠線D内に示すように、ドグクラッチ8を締結し、電制カップリング16を解放する2WD走行(Stand-by)になる。このスタンバイ2輪駆動モードでは、基本的に左右前輪6,7にのみ駆動力を伝達しての前輪駆動の2WD走行(Stand-by)が維持される。しかし、前輪駆動の2WD走行中に左右前輪6,7に駆動スリップが発生し、駆動スリップ量(又は駆動スリップ率)が閾値を超えると、予めドグクラッチ8が噛み合い締結されているため、電制カップリング16の摩擦締結のみを行う。この電制カップリング16の摩擦締結により、応答良く左右後輪19,20に駆動力を配分することで、駆動スリップを抑える差回転制御が行われる。
【0035】
前記コネクト4輪駆動モード(Connect)が選択されると、
図4の枠線E内に示すように、ドグクラッチ8と電制カップリング16が共に締結された4WD走行(Connect)になる。このコネクト4輪駆動モード(Connect)では、基本的に左右前輪6,7と左右後輪19,20に対して路面状況に合わせた最適の駆動力配分(例えば、発進時の前後輪等配分制御)とする駆動力配分制御が行われる。但し、4WD走行中に、ステアリング舵角センサ47やヨーレートセンサ40や横Gセンサ41や前後Gセンサ42からの情報により、車両の旋回状態が判断されると、電制カップリング16の締結容量を低下させてタイトコーナーブレーキング現象を抑える制御が行われる。
【0036】
前記2WD走行(Disconnect)と2WD走行(Stand-by)と4WD走行(Connect)の切り替え遷移は、車速VSPとアクセル開度ACCにより決まる動作点が、
図3に示す領域区分線Aや領域区分線Bを横切るときに出力される切り替え要求により行われる。各駆動モードの切り替え遷移速度については、4WD要求に応える駆動モードへの遷移速度を、燃費要求に応えるディスコネクト2輪駆動モードへの遷移速度に対して優先するように決めている。すなわち、2WD走行(Disconnect)→2WD走行(Stand-by)の切り替え遷移速度(
図4の矢印F)を速くし、2WD走行(Stand-by)→2WD走行(Disconnect)の切り替え遷移速度(
図4の矢印G)を遅くしている。同様に、2WD走行(Disconnect)→4WD走行(Connect)の切り替え遷移速度(
図4の矢印H)を速くし、4WD走行(Connect)→2WD走行(Disconnect)の切り替え遷移速度(
図4の矢印I)を遅くしている。これに対し、2WD走行(Stand-by)→4WD走行(Connect)の切り替え遷移速度(
図4の矢印J)と、4WD走行(Connect)→2WD走行(Stand-by)の切り替え遷移速度(
図4の矢印K)は、同じ速い速度にしている。
【0037】
[クラッチ制御構成]
図5は、4WDコントロールユニット34にて実行されるクラッチ制御の処理の流れを示す。以下、クラッチ制御構成をあらわす
図5の各ステップについて説明する。
【0038】
ステップS1では、ドグクラッチ8に対し締結要求があるか否か判定し、この締結要求がある場合はステップS2に進み、締結要求が無い場合は1回の処理を終了する。なお、このドグクラッチ8に対する締結要求は、コネクト4輪駆動モードとスタンバイ2輪駆動モードとのいずれかへのモード遷移要求がある場合に成される。
【0039】
ドグクラッチ8の締結要求がある場合に進むステップS2では、電制カップリング16の締結指令出力を行った後、ステップS3に進む。
続くステップS3では、ドグクラッチ8の入出力側噛み合い部材8a,8bの差回転ΔNの演算を行った後、ステップS4に進む。
【0040】
ステップS4では、ステップS3にて演算した差回転ΔNが予め設定された同期判定閾値α以下となったか否か、すなわち、ドグクラッチ8が同期状態となったか否か判定する。そして、ΔN≦α(ドグクラッチ同期)の場合ステップS5に進み、ΔN>α(ドグクラッチ非同期)の場合、ステップS2に戻る。
【0041】
ドグクラッチ8が同期判定された場合に進むステップS5では、ドグクラッチ8の締結指令出力を行った後、次のステップS6に進む。
ステップS6では、ドグクラッチ8の締結が完了したか否か判定し、締結完了の場合はステップS7に進み、締結未完了の場合はステップS5に戻る。なお、この締結完了判定は、ドグクラッチストロークセンサ53の検出に基づいて、可動部材の設定量を超えるストロークを検出した場合に締結完了と判定する。
【0042】
ドグクラッチ8の締結完了時に進むステップS7では、
図3の駆動モード切替マップに基づく駆動モード遷移がコネクト4輪駆動モードへの遷移であるか否か判定し、コネクト4輪駆動モードへの遷移の場合は、1回の制御を終了する。また、ステップS7において、コネクト4輪駆動モードへの遷移ではない場合、すなわち、スタンバイ2輪駆動モードへの遷移の場合は、ステップS8に進んで、電制カップリング16の解放指令出力を行う。
【0043】
(エンジンブレーキ増加要求時制御)
次に、クラッチ制御において、エンジンブレーキ増加要求の有無に応じた制御処理について説明する。
すなわち、本実施の形態1では、ディスコネクト2輪駆動モードに制御している際に、エンジンブレーキの増加要求がある場合には、スタンバイ2輪駆動モードに切り替える制御を実行する。以下、このディスコネクト2輪駆動モード時モード切替制御について、
図6のフローチャートにより説明する。
【0044】
このディスコネクト2輪駆動モード時モード切替制御は、
図3の駆動モード切替マップによりディスコネクト2輪駆動モードが選択されると開始され、ディスコネクト2輪駆動モード以外が選択されると停止される。したがって、このディスコネクト2輪駆動モード時モード切替制御は、
図3の領域区分線Aよりも高車速領域で実行される。また、ディスコネクト2輪駆動モード時モード切替制御は、ディスコネクト2輪駆動モードが選択されている間、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0045】
最初のステップS101では、エンジンブレーキ増加要求有りと判定されているか否か判定し、増加要求が無い場合はステップS102に進み、増加要求が有る場合は、ステップS103に進む。なお、エンジンブレーキ増加要求の有無の判定については後述する。
【0046】
ステップS101においてエンジンブレーキ増加要求が無い場合に進むステップS102では、ディスコネクト2輪駆動モードを維持し、1周期の処理を終了する。
一方、ステップS101においてエンジンブレーキ増加要求有りと判定した場合に進むステップS103では、スタンバイ2輪駆動モードに切り替えて、1周期の処理を終了する。
【0047】
次に、
図7のフローチャートに基づいてエンジンブレーキ増加要求判定について説明する。このエンジンブレーキ増加要求判定は、
図2に示す4WDコントロールユニット34に含まれるエンジンブレーキ増加要求判定部100により行われる。また、このエンジンブレーキ増加要求判定は、本実施の形態1では、変速機2のシフトポジションを手動によりLレンジとした場合、及び下り坂でのコースト走行(アクセル開度ACCをゼロとした惰性走行)時に、エンジンブレーキ増加要求と判定する。
【0048】
このエンジンブレーキ増加要求判定は図外のイグニッションスイッチのONの間、あるいは、ディスコネクト2輪駆動モード選択時に、所定の周期で実行される。
最初のステップS201では、シフトポジションスイッチ55の出力に基づいて、シフトポジションがLレンジであるか否か判定し、Lレンジの場合はステップS202に進み、Lレンジ以外でステップS203に進む。なお、変速機2のシフトポジションとしては、周知のようにパーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジに加え、手動により1速〜3速などの低速段を選択するLレンジが設定されている。
ステップS201においてLレンジの場合に進むステップS202では、エンジンブレーキ増加要求有りと判定した後、1周期の処理を終える。
【0049】
ステップS201においてLレンジが選択されていない場合に進むステップS203では、現在の走行状態が、アクセル開度ACC=0、かつ、車速VSPの増加が設定時間ta継続したか否か判定する。そして、アクセル開度ACC=0、かつ、車速VSPの増加が設定時間ta継続した場合はステップS202に進み、それ以外の場合はステップS204に進んで、エンジンブレーキ増加要求無しと判定する。なお、ステップS203における、車速VSPの増加の継続は、下り坂走行の検出を行っている。この下り坂走行の検出は、この他にも、前後方向の傾斜を検出する傾斜センサの検出に基づいて行ったり、車速から演算した車両加速度と前後Gセンサの出力との差分に基づいて判定したりすることも可能である。
【0050】
以上の処理に基づいて、シフトポジションがLレンジ時と、下り坂でのコースト走行時と、のいずれかの場合に、エンジンブレーキ増加要求有りと判定する。
【0051】
(実施の形態1の作用)
次に、実施の形態1の作用を、
図8のタイムチャートに基づいて説明する。
図8は、ディスコネクト2輪駆動モードでの下り坂走行時に、アクセル開度ACCをゼロとしたコースト走行(惰性走行)時の動作例を示している。
すなわち、t0の時点では、ドグクラッチ8及び電制カップリング16を解放したディスコネクト2輪駆動モードで走行している。この場合、ドグクラッチ8よりも後輪駆動側の駆動系は、前輪側の駆動系から切り離されており、フリクションロスの少ない走行を行っている。
【0052】
この状態から、t1の時点で、運転者は図外のアクセルペダルから足を離し、アクセル開度ACC=0のコースト走行となっている。このとき、下り坂を走行しているため、コースト走行であるにも関わらず、車速VSPが増加している。そこで、この車速VSPの増加が設定時間taを越えて継続した場合、エンジンブレーキ増加要求有りと判定される(ステップS201→S203→S202の処理)。
【0053】
したがって、t2時点で、駆動モードが、現在のディスコネクト2輪駆動モードから、スタンバイ2輪駆動モードに切り替えられる(ステップS101→S103の処理)。これにより、ドグクラッチ8が締結されると、それまで停止状態であった、後輪駆動系のべベルギア9からリングギア14の間が左右前輪6,7と共に回転し、フリクションが増し、エンジンブレーキによる制動力が増加する。
このため、t2の時点より以前では、プラス側であった前後Gが、減少し、車速VSPも低下している。
【0054】
以上、
図8に基づいて、下り坂走行時について説明してきたが、平坦路あるいは登坂路でのディスコネクト2輪駆動モード走行時に、運転者がシフトポジションを手動によりLレンジに切り替えた場合も、エンジンブレーキ増加要求有りと判定される(S201→S202の処理)。よって、この場合も、ディスコネクト2輪駆動モードからスタンバイ2輪駆動モードに切り替えられ、ディスコネクト2輪駆動モードを維持する場合よりも、エンジンブレーキ(制動力)を増加させることができる。
【0055】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置の効果を作用と共に列挙する。
1)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
左右前輪6,7と左右後輪19,20のうち、一方である左右前輪6,7を駆動源としてのエンジン1に接続される主駆動輪とし、他方である左右後輪19,20をエンジン1にクラッチを介して接続される副駆動輪とし、
前記左右前輪6,7から前記左右後輪19,20への駆動分岐位置に設けられ、クラッチ解放により前記左右後輪19,20への駆動力伝達系を、前記左右前輪6,7への駆動力伝達系から切り離す噛み合いクラッチとしてのドグクラッチ8と、
前記ドグクラッチ8よりも下流位置に設けられ、クラッチ締結容量に応じて前記エンジン1からの駆動力の一部を前記左右後輪19,20へ配分する摩擦クラッチとしての電制カップリング16と、
車両状態検出装置としての各センサ類35,36,38〜47、50〜55が検出する車両状態に応じて、前記ドグクラッチ8の締結/解放制御と前記電制カップリング16の締結/解放制御とを行って、前記左右前輪6,7のみを駆動させる2輪駆動モードと、前記左右前輪6,7及び前記左右後輪19,20を駆動させる4輪駆動モードとに切替可能なクラッチコントロールユニットとしての4WDコントロールユニット34と、
を備えた4輪駆動車のクラッチ制御装置であって、
前記4WDコントロールユニット34は、前記2輪駆動モードとして、ドグクラッチ8及び電制カップリング16を解放したディスコネクト2輪駆動モードを有し、
かつ、前記車両状態検出装置の検出に基づいて車両がエンジンブレーキ増加要求状態であるか否かを判定し、前記ディスコネクト2輪駆動モード時に前記エンジンブレーキ増加要求判定があった場合には、前記ドグクラッチ8を締結させることを特徴とする。
したがって、ディスコネクト2輪駆動モードに制御時には、ドグクラッチ8よりも左右後輪19,20側のフリクションを軽減して、燃費に有利な走行を行うことができる。しかも、このディスコネクト2輪駆動モードによる走行時に、エンジンブレーキ増加要求判定時には、ドグクラッチ8を締結させる。これにより、ドグクラッチ8よりも左右後輪19,20側の駆動系のフリクションを加え、ディスコネクト2輪駆動モードのままでのエンジンブレーキよりも制動力を増加できる。
【0056】
2)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34は、前記2輪駆動モードとして、前記ドグクラッチ8を締結し前記電制カップリング16を解放したスタンバイ2輪駆動モードと、を有し、
かつ、前記エンジンブレーキ増加要求判定があって前記ドグクラッチ8を締結させる際には、前記スタンバイ2輪駆動モードに制御することを特徴とする。
したがって、制動力として、ドグクラッチ8と電制カップリング16の間の駆動系のフリクションが加わる。よって、4輪駆動モードよりも燃費に優れる2輪駆動状態を維持したままで、制動力を増加することができる。
加えて、エンジンブレーキ増加要求時に、駆動モードを、スタンバイ2輪駆動モードとすることにより、下り坂のように、車輪の転がり力がエンジン1側に入力される状況では、4輪駆動状態よりも、高い制動力を確保可能である。
【0057】
3)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34のエンジンブレーキ増加要求判定部100は、下り坂での惰性走行状態を検出した場合に前記エンジンブレーキ増加要求と判定することを特徴とする。
したがって、ディスコネクト2輪駆動モードでの走行時に、下り坂での惰性走行時には、自動的にスタンバイ2輪駆動モードに切り替えてエンジンブレーキによる制動力を増加させ、走行安定性を高めることができる。
【0058】
4)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34のエンジンブレーキ増加要求判定部100は、アクセル開度ACCと車速VSPとに基づいて、アクセル開度零での車速増加検出時に、前記下り坂での惰性走行状態検出とすることを特徴とする。
したがって、車両に傾斜センサなどを追加することなく、既存のアクセル開度センサ36及び車速センサあるいは車輪速センサ43〜46により、下り坂の判定を行うことができ、製造コスト低減を図ることができる。
【0059】
5)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34のエンジンブレーキ増加要求判定部100は、手動により変速機2の低速段であるLレンジの選択がなされた場合に、前記エンジンブレーキ増加要求と判定することを特徴とする。
したがって、ディスコネクト2輪駆動モードでの走行時に、運転者が、エンジンブレーキをより強く得たいがために、手動によりLレンジを選択した場合には、スタンバイ2輪駆動モードに自動的に切り替える。これにより、エンジンブレーキによる制動力を、ディスコネクト2輪駆動モードを維持した場合よりも増加させることができ、運転者の操作に応じた制動力を得ることができる。
【0060】
6)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34のエンジンブレーキ増加要求判定部100は、前記エンジンブレーキ増加要求の判定を、予め設定された車速よりも高車速の場合に行うことを特徴とする。
すなわち、エンジンブレーキの増加要求は、低車速時と比較して高車速時に、より要求度が高くなる。したがって、設定車速よりも高車速時にエンジンブレーキ増加要求判定を行うことで、より精度の高い、エンジンブレーキ増加要求判定を行うことができる。なお、実施の形態1では、ディスコネクト2輪駆動モードへの制御時にエンジンブレーキ増加要求判定を行うことにより、設定車速VSP0よりも高速域での判定を行うようにしている。
【0061】
7)実施の形態1の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、
前記4WDコントロールユニット34は、アクセル開度ACCと車速VSPとに応じて前記ディスコネクト2輪駆動モードと前記4輪駆動モードとが設定された駆動モード切替マップに基づいて前記モードの切替を行い、かつ、前記駆動モード切替マップは、予め設定された設定車速VSP0から立ち上がる領域区分線Aよりも低車速域にコネクト4輪駆動モードに制御する駆動力配分領域(Connect)を設定し、前記予め設定された設定車速VSP0から立ち上がる領域区分線Aよりも高車速域に前記ディスコネクト2輪駆動モードに制御する差回転制御領域(Disconnect)を設定していることを特徴とする。
したがって、高車速域でディスコネクト2輪駆動モードに制御することにより、停車速域でディスコネクト2輪駆動モードとするより燃費を向上させることができる。
一方、低車速域でコネクト4輪駆動モードに制御することにより、発進加速性能及び発進時の走行安定性能の向上を図ることができる。
【0062】
(他の実施の形態)
次に、他の実施の形態の4輪駆動車のクラッチ制御装置について説明する。
なお、他の実施の形態を説明するのにあたり、実施の形態1と共通する構成には実施の形態1と同じ符号を付して説明を省略し、実施の形態1との相違点のみ説明する。
【0063】
(実施の形態2)
実施の形態2の4輪駆動車のクラッチ制御装置は、2輪駆動モード時には、常に、ディスコネクト2輪駆動モードとして、より燃費向上を図るようにした例である。
そこで、実施の形態2では、駆動モード切替マップとして、
図9に示すマップを用いるようにしている。すなわち、実施の形態2では、領域区分線Aよりも高速領域の全域をディスコネクト2輪駆動領域としている。
したがって、実施の形態2にあっては、燃費に優れるディスコネクト2輪駆動モードに制御する領域が広がり、より燃費性能を向上させることができる。
そして、このようにディスコネクト2輪駆動モードに制御する領域を広げながら、エンジンブレーキ増加要求時には、制動力を増加することで、運転者にエンジンブレーキの制動力不足感を与えることを抑制できる。
【0064】
以上、本発明の4輪駆動車のクラッチ制御装置を実施の形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0065】
実施の形態では、駆動源としてエンジンが搭載された前輪駆動ベースの4輪駆動車(4WDエンジン車)に適用する例を示した。しかし、本発明のクラッチ制御装置は、主駆動輪を左右後輪とする後輪駆動ベースの4輪駆動車に対しても適用することができる。又、4WDエンジン車以外に駆動源としてエンジンとモータが搭載された4WDハイブリッド車、駆動源としてモータが搭載された4WD電気自動車に対しても適用することができる。
また、実施の形態では、ディスコネクト2輪駆動モードから噛み合いクラッチを締結した際には、スタンバイ2輪駆動モードとする例を示したが、コネクト4輪駆動モードとすることも可能である。
【0066】
また、実施の形態2では、高速域にディスコネクト2輪駆動モードに制御する領域を設定した例を示したが、
図10に示すように、アクセル開度及び車速により設定される領域の全域をディスコネクト2輪駆動モードに制御する2WD差回転制御領域(Disconnect)領域としてもよい。これにより、一層、燃費の向上を図ることができる。
また、このように全領域でディスコネクト2輪駆動モードとした場合に、
図7において示したフローチャートのステップS201の前に、車速が設定車速(例えば、設定車速VSP0)よりも高車速か否か判定し、高車速の場合にステップS201に進み、
低車速の場合はステップS204に進んでエンジンブレーキ増加要求無しと判定するようにしてもよい。