特許第6221853号(P6221853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6221853電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221853
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/14 20060101AFI20171023BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G03G5/14 101E
   G03G5/06 312
   G03G5/06 313
   G03G5/06 371
   G03G5/06 372
   G03G5/06 373
   G03G5/14 101F
【請求項の数】4
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-48140(P2014-48140)
(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2015-172643(P2015-172643A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】山野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】是永 次郎
【審査官】 本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−231867(JP,A)
【文献】 特開2013−231866(JP,A)
【文献】 特開2013−200528(JP,A)
【文献】 特開2013−225095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00 − 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、金属酸化物粒子と結着樹脂とを含む下引層と、
前記下引層上に設けられた単層型の感光層であって、結着樹脂とヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種の電荷発生材料と下記一般式(1)で表される正孔輸送材料と下記一般式(2)で表される電子輸送材料とを含む感光層と、
を有し、
前記下引層のフェルミエネルギーEfUCLと前記感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たす電子写真感光体。
式(1): 0.50eV≧|EfSPL|−|EfUCL|≧0.20eV
【化1】

(一般式(1)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、低級アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、又は、低級アルキル基、低級アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有していてもよいフェニル基を示す。m及びnは、各々独立に0又は1を示す。)
【化2】

(一般式(2)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を示す。R18は、炭素数5以上10以下の直鎖状のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記下引層が、ヒドロキシアントラキノン骨格を有する電子受容性化合物を更に含む請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子写真方式の画像形成装置においては、帯電、露光、現像、転写のプロセスを通じて電子写真感光体の表面上に形成したトナー像を被記録媒体に転写させる。
【0003】
このような電子写真方式の画像形成装置に利用する電子写真感光体の感光層には、電荷輸送能が高められた電荷輸送材料を用いることが知られている。
例えば、特定の分子構造を持たせ、電子輸送性を向上させ、感度を高めた電子輸送材料が知られている(特許文献1〜2参照)。また、特定の分子構造を持たせ、正孔輸送性を向上させた正孔輸送材料も知られている(特許文献3参照)。その他、電荷輸送材料としては、種々の材料が知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−123981号公報
【特許文献2】特開2005−215677号公報
【特許文献3】特開平8−295655号公報
【特許文献4】特開2008−15208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、連続で画像を出力したとき、前の画像形成サイクルの履歴が次の画像形成サイクルに画像として顕在化する残像現象(以下「連続プリントゴースト」と称する)、及び画像の点欠陥の発生を抑制する電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
請求項1に係る発明は、
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられ、結着樹脂、及び金属酸化物粒子を含む下引層と、
前記下引層上に設けられた単層型の感光層であって、結着樹脂とヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種の電荷発生材料と下記一般式(1)で表される正孔輸送材料と下記一般式(2)で表される電子輸送材料とを含む感光層と、
を有し、
前記下引層のフェルミエネルギーEfUCLと前記感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たす電子写真感光体。
式(1): 0.50eV≧|EfSPL|−|EfUCL|≧0.20eV
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(1)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、低級アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、又は、低級アルキル基、低級アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有していてもよいフェニル基を示す。m及びnは、各々独立に0又は1を示す。)
【0010】
【化2】
【0011】
(一般式(2)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を示す。R18は、炭素数5以上10以下の直鎖状のアルキル基を示す。)
【0012】
請求項2に係る発明は、
前記下引層が、ヒドロキシアントラキノン骨格を有する電子受容性化合物を更に含む請求項1に記載の電子写真感光体。
【0013】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
【0014】
請求項4に係る発明は、
請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、下引層のフェルミエネルギーEfUCLと感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たさない場合に比べ、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生を抑制する電子写真感光体が提供される。
請求項2に係る発明によれば、下引層に電子受容性化合物としてアリザリンを含む場合に比べ、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生を抑制する電子写真感光体が提供される。
【0016】
請求項3、又は4に係る発明によれば、下引層のフェルミエネルギーEfUCLと感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たさない電子写真感光体を備える場合に比べ、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生を抑制するプロセスカートリッジ、又は画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
図2】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
図3】他の本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0019】
<電子写真感光体>
本実施形態に係る電子写真感光体は、導電性基体と、導電性基体上に設けられた下引層と、導電性基体上に設けられた単層型の感光層と、を有する正帯電有機感光体(以下、「単層型感光体」と称することがある)である。
下引層は、結着樹脂、及び金属酸化物粒子を含む。一方、単層型の感光層は、結着樹脂と、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種の電荷発生材料と、一般式(1)で表される正孔輸送材料と、一般式(2)で表される電子輸送材料と、を含む。
なお、単層型の感光層とは、電荷発生能と共に、正孔輸送性及び電子輸送性を持つ感光層である。
【0020】
そして、本実施形態に係る電子写真感光体は、下引層のフェルミエネルギーEfUCLと感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たす。
式(1): 0.50eV≧|EfSPL|−|EfUCL|≧0.20eV
【0021】
本実施形態に係る電子写真感光体では、上記構成により、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生が抑制される。この理由は定かではないが、以下に示す理由によるものと推測される。
【0022】
まず、単層型感光体は、その単層型の感光層内に、電荷発生材料と正孔輸送材料と電子輸送材料とを含有する構成のため、積層型の感光層を有する有機感光体ほどの感度が得られず、更なる高感度化が求められている。
しかしながら、単層型感光体において、感度を獲得するために、単に、高い電荷輸送性を持つ正孔輸送性物質及び電子輸送性物質を用いても、高感度化は実現されるものの、画像の点欠陥が発生する現象が生じる。これは、電荷輸送材料以外の構成材料である電荷発生材料との相互作用により、電荷発生材料の分散性が悪化し、電荷発生材料の凝集が発生するためと考えられる。
【0023】
これに対して、上記特定の組み合わせで、電荷発生材料、正孔輸送材料、及び電子輸送材料を単層型の感光層に含ませると、高感度で、且つ画像の点欠陥が抑制される。この理由は定かではないが、上記特定の構造を持つ正孔輸送材料及び電子輸送材料が電荷輸送性が高いことに加え、上記特定の組み合わせにより、電荷発生材料とその他材料との相互作用である濡れ性の均衡が保たれ、電荷発生材料の分散性が向上するためと考えられる。
【0024】
一方で、単層型感光体は、単層型の感光層を直接導電性基体の表面に設けると、導電性基体の表面の酸化を起因として、感光層に亀裂が入り、その部分が画像の点欠陥として顕在化する場合がある。この感光層への亀裂の現象は、特に連続で画像を出力した後に発生しやすい。
この点、樹脂及び金属酸化物粒子を含む下引層を、導電性基体と感光層の間に設けると、感光層の亀裂が抑えられ、それを起因とする画像の点欠陥が抑制される。
【0025】
しかし、下引層を設けた場合、下引層と感光層の界面に蓄積する電荷の影響で、連続で画像を出力すると、連続プリントゴーストが発生しやすくなる。また、画像の点欠陥も発生し易くなる。
ここで、「ゴースト」とは、電子写真感光体の前の画像形成サイクルの履歴が次の画像形成サイクルに画像として顕在化する現象で、「連続プリントゴースト」とは、ゴーストの現象である前サイクルの履歴を含む連続的な負荷が印加されたときに発生するゴーストである。つまり、「連続プリントゴースト」とは、連続で画像を出力したとき、前の画像形成サイクルの履歴が次の画像形成サイクルに画像として顕在化する残像現象である。
【0026】
特に、上記特定の組み合わせで、電荷発生材料、正孔輸送材料、及び電子輸送材料を含ませて、電荷発生材料の分散性を高め、高感度化した単層型の感光層を有する単層型感光体において、これら連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥が発生し易いことがわかった。
これは、次にように考えられるためである。まず、下引層と感光層とのフェルミエネルギー差が大きい場合、下引層と電荷発生層を接合したときに両層のHOMOレベルの差すなわちホールの障壁も大きくなる。それにより下引層と感光層との界面にホールが局所的に蓄積し、暗減衰の増大を起因とする連続プリントゴーストの悪化が発生すると考えられる。一方で、下引層と感光層とのフェルミエネルギー差を小さくしてHOMOレベルの差を小さくしすぎてしまった場合は、逆に下引層のブロッキング機能が低下してしまう。それにより、画像の点欠陥が発生し易くなると考えられる。そして、単層型の感光層において、電荷発生材料の分散性を高め、高感度化すると、これら現象が下引層との間に顕著に生じ易くなると考えられる。
【0027】
そこで、下引層のフェルミエネルギーEfUCLと感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係が下記式(1)を満たすようにする。これにより、下引層と感光層とのフェルミエネルギー差が適度な範囲となり、下引層のブロッキング機能が確保されつつ、下引層と感光層との界面にホールが局所的に蓄積することが抑制される。
【0028】
以上から、本実施形態に係る電子写真感光体では、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生が抑制されると推測される。
【0029】
なお、下引層のフェルミエネルギーEfUCLと感光層のフェルミエネルギーEfSPLとの関係は、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生を抑制する点から、好ましくは下記式(2)、より好ましくは下記式(2)を満たすことである。
式(2): 0.40eV≧|EfSPL|−|EfUCL|≧0.20eV
式(3): 0.30eV≧|EfSPL|−|EfUCL|≧0.21eV
【0030】
ここで、下引層及び単層型の感光層のフェルミエネルギーの測定法について説明する。
−測定試料の準備−
電子写真感光体から、フェルミエネルギー測定用の下引層試料および最下層感光層試料を作製する方法は、以下の通りである。例えば、下引層を被覆している電荷発生層、電荷輸送層等の塗膜をアセトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール等の溶媒を用いて除去した後、導電性基体から下引層を採取することで、フェルミエネルギー測定用の下引層試料とする。
一方、電子写真感光体から、単層型の感光層のみを採取し、フェルミエネルギー測定用の最下層感光層試料とする。
なお、各層形成用の塗布液を準備し、この塗布液を用いて、測定用の試料を作製してもよい。
【0031】
−フェルミエネルギーの測定方法−
フェルミエネルギーの測定は、ケルビンプローブ法に基づき実施する。参照電極を測定試料上で振動させた際に発生する誘導電流を検出し、その誘導電流が0になるよう外部から印加する電圧を読み取ることで測定試料のフェルミエネルギーを測定する。
【0032】
−フェルミエネルギーの調整方法−
下引層のフェルミエネルギーは、例えば、金属酸化物粒子の表面をカップリング処理する際のカップリング剤の種類及び量によって調整される。また、下引層のフェルミエネルギーは、例えば、下引層に電子受容性化合物を含ませて、調整してもよい。
一方、単層型のフェルミエネルギーは、例えば、電荷発生材料、正孔輸送材料、及び電子輸送材料の種類並びに量によって調整される。
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る電子写真感光体を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る電子写真感光体10の一部の断面を概略的に示している。
図1に示した電子写真感光体10は、例えば、導電性基体4を備え、導電性基体4上に、下引層1、単層型の感光層2、及び保護層3がこの順で設けられて構成されている。
なお、保護層3は、必要に応じて、設けられる層である。
【0034】
以下、電子写真感光体10の各要素について説明する。なお、符号は省略して説明する。
【0035】
(導電性基体)
導電性基体としては、例えば、金属(アルミニウム、銅、亜鉛、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等)又は合金(ステンレス鋼等)を含む金属板、金属ドラム、及び金属ベルト等が挙げられる。また、導電性基体としては、例えば、導電性化合物(例えば導電性ポリマー、酸化インジウム等)、金属(例えばアルミニウム、パラジウム、金等)又は合金を塗布、蒸着又はラミネートした紙、樹脂フィルム、ベルト等も挙げられる。ここで、「導電性」とは体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
【0036】
導電性基体の表面は、電子写真感光体がレーザプリンタに使用される場合、レーザ光を照射する際に生じる干渉縞を抑制する目的で、中心線平均粗さRaで0.04μm以上0.5μm以下に粗面化されていることが好ましい。なお、非干渉光を光源に用いる場合、干渉縞防止の粗面化は、特に必要ないが、導電性基体の表面の凹凸による欠陥の発生を抑制するため、より長寿命化に適する。
【0037】
粗面化の方法としては、例えば、研磨剤を水に懸濁させて支持体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、回転する砥石に導電性基体を圧接し、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が挙げられる。
【0038】
粗面化の方法としては、導電性基体の表面を粗面化することなく、導電性又は半導電性粉体を樹脂中に分散させて、導電性基体の表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も挙げられる。
【0039】
陽極酸化による粗面化処理は、金属製(例えばアルミニウム製)の導電性基体を陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することにより導電性基体の表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、例えば、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であり、汚染され易く、環境による抵抗変動も大きい。そこで、多孔質陽極酸化膜に対して、酸化膜の微細孔を加圧水蒸気又は沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より安定な水和酸化物に変える封孔処理を行うことが好ましい。
【0040】
陽極酸化膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上15μm以下が好ましい。この膜厚が上記範囲内にあると、注入に対するバリア性が発揮される傾向があり、また繰り返し使用による残留電位の上昇が抑えられる傾向にある。
【0041】
導電性基体には、酸性処理液による処理又はベーマイト処理を施してもよい。
酸性処理液による処理は、例えば、以下のようにして実施される。先ず、リン酸、クロム酸及びフッ酸を含む酸性処理液を調製する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸及びフッ酸の配合割合は、例えば、リン酸が10質量%以上11質量%以下の範囲、クロム酸が3質量%以上5質量%以下の範囲、フッ酸が0.5質量%以上2質量%以下の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5質量%以上18質量%以下の範囲がよい。処理温度は例えば42℃以上48℃以下が好ましい。被膜の膜厚は、0.3μm以上15μm以下が好ましい。
【0042】
ベーマイト処理は、例えば90℃以上100℃以下の純水中に5分から60分間浸漬すること、又は90℃以上120℃以下の加熱水蒸気に5分から60分間接触させて行う。被膜の膜厚は、0.1μm以上5μm以下が好ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の被膜溶解性の低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
【0043】
(下引層)
下引層は、金属酸化物粒子、及び結着樹脂を含む。下引層は、更に、電子受容性化合物等のその他の材料を含んでもよい。下引層としては、例えば、金属酸化物粒子と、必要に応じて、電子受容性化合物のその他の材料とを結着樹脂中に分散して形成されたものが挙げられる。
【0044】
−結着樹脂−
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の公知の高分子化合物;
電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂:導電性樹脂(例えばポリアニリン等)等が挙げられる。
【0045】
下引層に用いる結着樹脂としては、上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好適であり、特に、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と硬化剤との反応により得られる樹脂も挙げられる。
【0046】
下引層に用いる結着樹脂を2種以上併用してもよく、その混合割合は、必要に応じて設定される。
【0047】
下引層に用いる結着樹脂の含有量としては、例えば、下引層全体に対し、5質量%以上60質量%以下の範囲がよく、10質量%以上55質量%以下が好ましく、30質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0048】
−金属酸化物粒子−
金属酸化物粒子としては、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛等の粒子が挙げられる。これらの中でも、金属酸化物粒子としては、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛の粒子がよい。
金属酸化物粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0049】
金属酸化物粒子の体積平均粒径は、例えば、50nm以上200nm以下がよい。
金属酸化物粒子の体積平均粒径の測定は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置(LA−700:堀場製作所製)を用いて測定を行う。測定法としては、分散液となっている状態の試料を固形分で2gになるように調整し、これにイオン交換水を添加して、40mlにする。これをセルに適当な濃度になるまで投入し、2分待ったところで測定する。得られたチャンネルごとの体積平均粒径を小さい方から累積し、累積50%になったところを体積平均粒径とする。
【0050】
金属酸化物粒子は、10Ω・cm以上1010Ω・cm以下の粉体抵抗とすることが望ましい。これにより、下引層は、電子写真プロセス速度に対応した周波数で適切なインピーダンスを得ることが実現され易くなる。
【0051】
金属酸化物粒子の含有量は、例えば、下引層全体に対し、2.5質量%以上がよく、10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。
【0052】
金属酸化物粒子は、表面処理剤によって表面処理されたものでもよい。
金属酸化物粒子の表面処理に用いる表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性剤などが挙げられる。特に、抵抗を調整することでかぶりが抑制される表面処理剤として、シランカップリング剤が挙げられる。
【0053】
シランカップリング剤は、有機シラン化合物(珪素原子を含有する有機化合物)であり、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
表面処理の方法は、特に限定されないが、例えば、乾式法又は湿式法が挙げられる。
乾式法にて表面処理を施す場合には、例えば、金属酸化物粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接表面処理剤を滴下するか、又は有機溶媒に溶解させた表面処理剤を滴下し、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させる。表面処理剤の滴下又は噴霧は、例えば溶剤の沸点以下の温度で行われる。表面処理剤滴下又は噴霧の後、さらに100℃以上に加熱して焼き付けを行ってもよい。
【0055】
湿式法にて表面処理を施す場合には、例えば、金属酸化物粒子を溶剤中で攪拌し、超音波、サンドミルやアトライター、ボールミルなどを用いて分散し、表面処理剤溶液を添加し攪拌又は分散したのち、溶剤を除去する。溶剤除去方法としては、例えば、ろ過又は蒸留が挙げられる。溶剤除去後には、さらに100℃以上で焼き付けを行ってもよい。
湿式法においては表面処理剤を添加する前に金属酸化物粒子含有水分を除去してもよく、その例としては、例えば、前記表面処理剤溶液に用いる溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、又は前記溶剤と共沸させて除去する方法が挙げられる。
【0056】
金属酸化物粒子100質量部の表面に付着する表面処理剤の量は、例えば0.5質量部以上1.25質量部以下がよく、1.25質量部以上2.00質量部以下が好ましい。なお、0.5質量部未満であってもよい。
【0057】
−電子受容性化合物−
電子受容性化合物は、下引層中に金属酸化物粒子と共に分散して含まれていてもよいし、金属酸化物粒子の表面に付着した状態で含まれていてもよい。電子受容性化合物が金属酸化物粒子の表面に付着した状態で含まれる場合、電子受容性化合物は、金属酸化物粒子の表面と化学反応する材料、又は金属酸化物粒子の表面に吸着する材料であることが好ましく、金属酸化物粒子の表面に選択的に存在し得る。
【0058】
電子受容性化合物としては、例えば、キノン骨格、アントラキノン骨格、クマリン骨格、フタロシアニン骨格、トリフェニルメタン骨格、アントシアニン骨格、フラボン骨格、フラーレン骨格、ルテニウム錯体骨格、キサンテン骨格、ベンゾキサジン骨格、ポルフィリン骨格等を有する電子受容性化合物が挙げられる。
なお、電子受容性化合物は、これら骨格に、酸性基(例えば、水酸基、カルボキシル基、スルホニル基等)、アリール基、アミノ基等の置換基で置換された化合物であってもよい。
【0059】
特に、電子受容性化合物としては、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の発生を抑制する点から、アントラキノン骨格を有する電子受容性化合物が好ましく、ヒドロキシアントラキノン骨格(水酸基を持つアントラキノン骨格)を有する電子受容性化合物がより好ましい。
【0060】
ヒドロキシアントラキノン骨格を有する電子受容性化合物として具体的には、例えば、下記一般式(AQ1)で示される化合物が挙げられる。
【0061】
【化3】
【0062】
一般式(1)中、AQn1及AQn2は、各々独立に0以上3以下の整数を表す。但し、AQn1及AQn2の少なくとも一方は、1以上3以下の整数を表す(つまり、AQn1及びAQn2が同時に0を表さない)。AQm1及びAQm2は、各々独立に0又は1の整数を示す。RAQ1及びRAQ2は、各々独立に炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数1以上10以下のアルコキシ基、アリール基、又はアミノ基を表す。
【0063】
また、ヒドロキシアントラキノン骨格を有する電子受容性化合物として具体的には、下記一般式(AQ2)で表される化合物も挙げられる。
【0064】
【化4】
【0065】
一般式(2)中、AQn11、AQn12、AQn13、及びAQn14は、各々独立に0以上3以下の整数を表す。但し、AQn11及AQn12の少なくとも一方は、1以上3以下の整数を表す(つまり、n1及びn2が同時に0を表さない)。また、AQn13及AQn14の少なくとも一方は、1以上3以下の整数を表す(つまり、n3及びn4が同時に0を表さない)。AQm11及びAQm12は、各々独立に0又は1の整数を示す。AQrは2以上10以下の整数を示す。RAQ11及びRAQ12は、各々独立に炭素数1以上10以下のアルキル基、炭素数1以上10以下のアルコキシ基、アリール基、又はアミノ基を表す。
【0066】
ここで、一般式(1)及び(2)中、RAQ1、RAQ2、RAQ11、及びRAQ12が表す炭素数1以上10以下のアルキル基としては、直鎖状、又は分岐状のいずれでもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。炭素数1以上10以下のアルキル基としては、望ましくは1以上8以下のアルキル基、より望ましくは1以上6以下のアルキル基である。
AQ1、RAQ2、RAQ11、及びRAQ12が表す炭素数1以上10以下のアルコキシ基(アルコキシル基)としては、直鎖状、又は分岐状のいずれでもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。炭素数1以上10以下のアルコキシ基としては、望ましくは1以上8以下のアルコキシ基、より望ましくは1以上6以下のアルコキシ基である。
AQ1、RAQ2、RAQ11、及びRAQ12が表すアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0067】
ヒドロキシアントラキノン骨格を有する電子受容性化合物の具体例としては、例えば、プルプリン、アリザリン、キニザリン、ヒドロキシメトキシメチルアントラキノン、アミノヒドロキシアントラキノン等が挙げられる。但し、これらに限られるわけではない。
【0068】
電子受容性化合物の含有量は、化学反応又は吸着する相手である金属酸化物粒子の金属酸化物粒子の表面積及び含有量と、各材料の電子輸送能力から決められるが、通常は0.01質量%以上20質量%以下がよく、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0069】
−その他添加物−
下引層には、表面粗さ調整のために樹脂粒子を添加してもよい。樹脂粒子としては、例えば、シリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメチルメタアクリレート(PMMA)樹脂粒子等が挙げられる。
また、表面粗さ調整のために下引層の表面を研磨してもよい。研磨方法としては、例えば、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウエットホーニング、研削処理等が挙げられる。
【0070】
−下引層の形成−
下引層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた下引層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。
【0071】
下引層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、公知の有機溶剤、例えば、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤、ケトン系溶剤、ケトンアルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
これらの溶剤として具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が挙げられる。
【0072】
下引層形成用塗布液を調製するときの無機粒子の分散方法としては、例えば、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等の公知の方法が挙げられる。
【0073】
下引層形成用塗布液を導電性基体上に塗布する方法としては、例えば、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0074】
下引層の膜厚は、例えば、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上50μm以下の範囲内に設定される。
【0075】
(中間層)
図示は省略するが、下引き層と感光層との間に中間層をさらに設けてもよい。
中間層は、例えば、樹脂を含む層である。中間層に用いる樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
中間層は、有機金属化合物を含む層であってもよい。中間層に用いる有機金属化合物としては、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、ケイ素等の金属原子を含有する有機金属化合物等が挙げられる。
これらの中間層に用いる化合物は、単独で又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
【0076】
これらの中でも、中間層は、ジルコニウム原子又はケイ素原子を含有する有機金属化合物を含む層であることが好ましい。
【0077】
中間層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた中間層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。
中間層を形成する塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0078】
中間層の膜厚は、例えば、好ましくは0.1μm以上3μm以下の範囲に設定される。なお、中間層を下引層として使用してもよい。
【0079】
(単層型の感光層)
単層型の感光層は、結着樹脂と、電荷発生材料と、正孔輸送材料と、電子輸送材料と、必要に応じて、その他添加剤と、を含んで構成される。
【0080】
−結着樹脂−
結着樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独又は2種以上混合して用いてもよい。
これらの結着樹脂の中でも、特に、感光層の成膜性の観点から、例えば、粘度平均分子量30000以上80000以下のポリカーボネート樹脂がよい。
【0081】
結着樹脂の感光層の全固形分に対する含有量は、35質量%以上60質量%以下であることがよく、好ましくは20質量%以上35質量%以下である。
【0082】
−電荷発生材料−
電荷発生材料としては、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種が適用される。
電荷発生材料としては、これら顔料を単独で用いてもよいが、必要に応じて併用してもよい。そして、電荷発生材料としては、感光体の高感度化、及び画像の点欠陥抑制の観点から、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がよい。
【0083】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料としては、特に制限はないが、V型のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がよい。
特に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料としては、例えば、600nm以上900nm以下の波長域での分光吸収スペクトルにおいて、810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がより優れた分散性が得られる観点から好ましい。電子写真感光体の材料として用いた場合に、優れた分散性と、十分な感度、帯電性及び暗減衰特性とが得られ易くなる。
【0084】
また、上記の810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が特定の範囲であり、且つ、BET比表面積が特定の範囲であることが好ましい。具体的には、平均粒径が0.20μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.15μm以下であることがより好ましく、一方、BET比表面積が45m/g以上であることが好ましく、50m/g以上であることがより好ましく、55m/g以上120m/g以下であることが特に好ましい。平均粒径は、体積平均粒径(d50平均粒径)でレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA−700、堀場製作所社製)にて測定した値である。また、BET式比表面積測定器(島津製作所製:フローソープII2300)を用い窒素置換法にて測定した値である。
ここで、平均粒径が0.20μmより大きい場合、又は比表面積値が45m/g未満である場合は、顔料粒子が粗大化しているか、又は顔料粒子の凝集体が形成される傾向があり、分散性や、感度、帯電性及び暗減衰特性といった特性に欠陥が生じやすい傾向にあり、それにより画質欠陥を生じ易くなることがある。
【0085】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の最大粒径(一次粒子径の最大値)は、1.2μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、より好ましくは0.3μm以下である。かかる最大粒径が上記範囲を超えると、黒点が発生しやすい傾向にある。
【0086】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、感光体が蛍光灯などに暴露されたことに起因する濃度ムラを抑制する観点から、平均粒径が0.2μm以下、最大粒径が1.2μm以下であり、且つ、比表面積値が45m2/g以上であることが好ましい。
【0087】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3゜,16.0゜,24.9゜,28.0゜に回折ピークを有するV型であることが好ましい。
【0088】
一方、クロロガリウムフタロシアニン顔料としては、特に制限はないが、 電子写真感光体材料として優れた感度が得られる、ブラッグ角度(2θ±0.2°)7.4°、16.6°、25.5°及び28.3°に回折ピークを有するものであることが好ましい。
クロロガリウムフタロシアニン顔料の好適な分光吸収スペクトルの最大ピーク波長、平均粒径、最大粒径、及び比表面積値は、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料と同様である。
【0089】
電荷発生材料の感光層の全固形分に対する含有量は、1質量%以上5質量%以下がよく、望ましくは1.2質量%以上4.5質量%以下である。
【0090】
−正孔輸送材料−
正孔輸送材料としては、一般式(1)で表される正孔輸送材料が適用される。
【化5】
【0091】
一般式(1)中、R、R、R、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、低級アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、ハロゲン原子、又は、低級アルキル基、低級アルコキシ基及びハロゲン原子から選ばれる置換基を有していてもよいフェニル基を示す。m及びnは。各々独立に、0又は1を示す。
【0092】
一般式(1)中、R〜Rが示す低級アルキル基としては、例えば、直鎖状又は分岐状で、炭素数1以上4以下のアルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
これらの中でも、低級アルキル基としては、メチル基、エチル基が好ましい。
【0093】
一般式(1)中、R〜Rが示すアルコキシ基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0094】
一般式(1)中、R〜Rが示すハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0095】
一般式(1)中、R〜Rが示すフェニル基としては、例えば、未置換のフェニル基;p−トリル基、2,4−ジメチルフェニル基等の低級アルキル基置換のフェニル基;p−メトキシフェニル基等の低級アルコキシ基置換のフェニル基;p−クロロフェニル基等のハロゲン原子置換のフェニル基等が挙げられる。
なお、フェニル基に置換し得る置換基としては、例えば、R〜Rが示す低級アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0096】
一般式(1)で表される正孔輸送材料として、高感度化、及び画像の点欠陥抑制の観点から、m及びnが1を示す正孔輸送材料がよく、特に、R〜Rが各々独立に、水素原子、低級アルキル基、又はアルコキシ基を示し、m及びnが1を示す正孔輸送材料が好ましい。
【0097】
以下、一般式(1)で表される正孔輸送材料の例示化合物を示すがこれに限定されるわけではない。なお、以下の例示化合物番号は、例示化合物(1−番号)と以下表記する。具体的には、例えば、例示化合物15は、「例示化合物(1−15)」と以下表記する。
【0098】
【化6】
【0099】
【化7】
【0100】
【化8】
【0101】
【化9】
【0102】
なお、上記例示化合物中の略記号は、以下の意味を示す。
・4−Me:フェニル基の4−位に置換するメチル基
・3−Me:フェニル基の3−位に置換するメチル基
・4−Cl:フェニル基の4−位に置換する塩素原子
・4−MeO:フェニル基の4−位に置換するメトキシ基
・4−F:フェニル基の4−位に置換するフッ素原子
・4−Pr:フェニル基の4−位に置換するプロピル基
・4−PhO:フェニル基の4−位に置換するフェノキシ基
【0103】
正孔輸送材料の感光層の全固形分に対する含有量は、10質量%以上40質量%以下がよく、望ましくは20質量%以上35質量%以下である。
なお、この正孔輸送材料の含有量は、一般式(1)で表される正孔輸送材料と他の正孔輸送材料を併用した場合、その正孔輸送材料全体の含有量である。
【0104】
−電子輸送材料−
電子輸送材料としては、一般式(2)で表される電子輸送材料が適用される。
【0105】
【化10】
【0106】
一般式(2)中、R11、R12.R13.R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、又はアリール基を示す。R18は、炭素数5以上10以下の直鎖状のアルキル基を示す。
【0107】
一般式(2)中、R11〜R17が示すハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0108】
一般式(2)中、R11〜R17が示すアルキル基としては、例えば、直鎖状又は分岐状で、炭素数1以上4以下(好ましくは1以上3以下)のアルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0109】
一般式(2)中、R11〜R17が示すアルコキシ基としては、例えば、炭素数1以上4以下(好ましくは1以上3以下)のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0110】
一般式(2)中、R11〜R17が示すアリール基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基等が挙げられる。
これらの中でも、フェニル基が好ましい。
【0111】
一般式(2)で表される電子輸送材料として、高感度化、及び画像の点欠陥抑制の観点から、特に、R11〜R17が各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基を示し、R18が炭素数5以上10以下の直鎖状のアルキル基を示す電子輸送材料が好ましい。
【0112】
以下、一般式(2)で表される電子輸送材料の例示化合物を示すがこれに限定されるわけではない。なお、以下の例示化合物番号は、例示化合物(2−番号)と以下表記する。具体的には、例えば、例示化合物15は、「例示化合物(2−15)」と以下表記する。
【0113】
【化11】
【0114】
電子輸送材料の感光層の全固形分に対する含有量は、7質量%以上22質量%以下がよく、望ましくは10質量%以上16質量%以下である。
なお、この電子輸送材料の含有量は、一般式(2)で表される電子輸送材料と他の電子輸送材料を併用した場合、その電子輸送材料全体の含有量である。
【0115】
−その他電荷輸送材料−
上記特定の正孔輸送材料及び電子輸送材料以外にも、機能を損ねない範囲で、他の電荷輸送材料(他の正孔輸送材料、他の電子輸送材料)を併用してもよい。但し、他の電荷輸送材料は、正孔輸送材料及び電子輸送材料全体に対して60質量%以下で併用することがよい。
【0116】
他の電荷輸送材料としては、例えば、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子輸送性化合物;トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物などの正孔輸送性化合物が挙げられる。これらの他の電荷輸送材料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0117】
他の電荷輸送材料としては、電荷移動度の観点から、下記構造式(B−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、および下記構造式(B−2)で示されるベンジジン誘導体が好ましい。
【0118】
【化12】
【0119】
構造式(B−1)中、RB1は、水素原子またはメチル基を示す。n11は1または2を示す。ArB1およびArB2は各々独立に置換若しくは未置換のアリール基、−C−C(RB3)=C(RB4)(RB5)、または−C−CH=CH−CH=C(RB6)(RB7)を示し、RB3乃至RB7はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。置換基としてはハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、または炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基を示す。
【0120】
【化13】
【0121】
(構造式(B−2)中、RB8およびRB8’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、を示す。RB9、RB9’、RB10、およびRB10’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは未置換のアリール基、−C(RB11)=C(RB12)(RB13)、または−CH=CH−CH=C(RB14)(RB15)を示し、RB11乃至RB15は各々独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。m12、m13、n12およびn13は各々独立に0以上2以下の整数を示す。)
【0122】
ここで、構造式(B−1)で示されるトリアリールアミン誘導体、および構造式(B−2)で示されるベンジジン誘導体のうち、特に、「−C−CH=CH−CH=C(RB6)(RB7)」を有するトリアリールアミン誘導体、および「−CH=CH−CH=C(RB14)(RB15)」を有するベンジジン誘導体が好ましい。
【0123】
−正孔輸送材料と電子輸送材料との質量比−
正孔輸送材料と電子輸送材料との比率は、質量比(正孔輸送材料/電子輸送材料)で、50/50以上90/10以下が好ましく、より好ましくは60/40以上80/20以下である。
なお、本比率は、他の電荷輸送材料を併用した場合、その合計での比率である。
【0124】
−その他添加剤−
単層型の感光層には、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤等の周知のその他添加剤を含んでいてもよい。また、単層型の感光層が表面層となる場合、フッ素樹脂粒子、シリコーンオイル等を含んでいてもよい。
【0125】
−単層型の感光層の形成−
単層型の感光層は、上記成分を溶剤に加えた感光層形成用塗布液を用いて形成される。
溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状もしくは直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤が挙げられる。これら溶剤は単独又は2種以上混合して用いる。
【0126】
感光層形成用塗布液中に粒子(例えば電荷発生材料)を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0127】
感光層形成用塗布液を下引層上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
【0128】
単層型の感光層の膜厚は、好ましくは5μm以上60μm以下、より好ましくは10μm以上50μm以下の範囲に設定される。
【0129】
(保護層)
保護層は、必要に応じて感光層上に設けられる。保護層は、例えば、帯電時の感光層の化学的変化を防止したり、感光層の機械的強度をさらに改善する目的で設けられる。
そのため、保護層は、硬化膜(架橋膜)で構成された層を適用することがよい。これら層としては、例えば、下記1)又は2)に示す層が挙げられる。
【0130】
1)反応性基及び電荷輸送性骨格を同一分子内に有する反応性基含有電荷輸送材料を含む組成物の硬化膜で構成された層(つまり当該反応性基含有電荷輸送材料の重合体又は架橋体を含む層)
2)非反応性の電荷輸送材料と、電荷輸送性骨格を有さず、反応性基を有する反応性基含有非電荷輸送材料と、を含む組成物の硬化膜で構成された層(つまり、非反応性の電荷輸送材料と、当該反応性基含有非電荷輸送材料の重合体又は架橋体と、を含む層)
【0131】
反応性基含有電荷輸送材料の反応性基としては、連鎖重合性基、エポキシ基、−OH、−OR[但し、Rはアルキル基を示す]、−NH、−SH、−COOH、−SiRQ13−Qn(ORQ2Qn[但し、RQ1は水素原子、アルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表し、RQ2は水素原子、アルキル基、トリアルキルシリル基を表す。Qnは1〜3の整数を表す]等の周知の反応性基が挙げられる。
【0132】
連鎖重合性基としては、ラジカル重合しうる官能基であれば特に限定されるものではなく、例えば、少なくとも炭素二重結合を含有する基を有する官能基である。具体的には、ビニル基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つを含有する基等が挙げられる。なかでも、その反応性に優れることから、連鎖重合性基としては、ビニル基、スチリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つを含有する基であることが好ましい。
【0133】
反応性基含有電荷輸送材料の電荷輸送性骨格としては、電子写真感光体における公知の構造であれば特に限定されるものではなく、例えば、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の含窒素の正孔輸送性化合物に由来する骨格であって、窒素原子と共役している構造が挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン骨格が好ましい。
【0134】
これら反応性基及び電荷輸送性骨格を有する反応性基含有電荷輸送材料、非反応性の電荷輸送材料、反応性基含有非電荷輸送材料は、周知の材料から選択すればよい。
【0135】
保護層には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
【0136】
保護層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた保護層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱等の硬化処理することで行う。
【0137】
保護層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル等のセロソルブ系溶剤;イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶剤等が挙げられる。これら溶剤は、単独で又は2種以上混合して用いる。
なお、保護層形成用塗布液は、無溶剤の塗布液であってもよい。
【0138】
保護層形成用塗布液を感光層(例えば電荷輸送層)上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0139】
保護層の膜厚は、例えば、好ましくは1μm以上20μm以下、より好ましくは2μm以上10μm以下の範囲内に設定される。
【0140】
[画像形成装置・プロセスカートリッジ]
本実施形態に係る画像形成装置は、電子写真感光体と、電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、電子写真感光体の表面に形成された前記トナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の転写手段と、を備える。そして、電子写真感光体として、上記本実施形態に係る電子写真感光体が適用される。
【0141】
本実施形態に係る画像形成装置は、記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着手段を備える装置:トナー像の転写後、帯電前の電子写真感光体の表面をクリーニングするクリーニング手段を備えた装置;トナー像の転写後、帯電前に像保持体の表面に除電光を照射して除電する除電手段を備える装置;電子写真感光体の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための電子写真感光体加熱部材を備える装置等の周知の画像形成装置が適用される。
【0142】
本実施形態に係る画像形成装置は、乾式現像方式の画像形成装置、湿式現像方式(液体現像剤を利用した現像方式)の画像形成装置のいずれであってもよい。
【0143】
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、例えば、電子写真感光体を備える部分が、画像形成装置に対して脱着されるカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。プロセスカートリッジとしては、例えば、本実施形態に係る電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジが好適に用いられる。なお、プロセスカートリッジには、電子写真感光体以外に、例えば、帯電手段、静電潜像形成手段、現像手段、転写手段からなる群から選択される少なくとも一つを備えてもよい。
【0144】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る画像形成装置を詳細に説明する。
【0145】
図2は、本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
本実施形態に係る画像形成装置101は、図2に示すように、例えば、矢印Aで示すように、時計回り方向に回転する電子写真感光体10と、電子写真感光体10の上方に、電子写真感光体10に相対して設けられ、電子写真感光体10の表面を帯電させる帯電装置20(帯電手段の一例)と、帯電装置20により帯電した電子写真感光体10の表面に露光して、静電潜像を形成する露光装置30(静電潜像形成手段の一例)と、露光装置30により形成された静電潜像に現像剤に含まれるトナーを付着させて電子写真感光体10の表面にトナー像を形成する現像装置40(現像手段の一例)と、記録紙P(記録媒体の一例)をトナーの帯電極性とは異なる極性に帯電させて記録紙Pに電子写真感光体10上のトナー像を転写させる転写装置50と、電子写真感光体10の表面をクリーニングするクリーニング装置70(クリーニング手段の一例)と、を備える。そして、本実施形態に係る画像形成装置101は、トナー像が形成された記録紙Pを搬送しつつ、トナー像を定着させる定着装置60を備える。
【0146】
以下、本実施形態に係る画像形成装置101における主な構成部材の詳細について説明する。
【0147】
[帯電装置]
帯電装置20としては、例えば、導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が挙げられる。また、帯電装置20としては、例えば、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も挙げられる。帯電装置20としては、接触型帯電器がよい。
【0148】
[露光装置]
露光装置30としては、例えば、電子写真感光体10表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は電子写真感光体10の分光感度領域にあるものがよい。半導体レーザの波長としては、例えば、780nm前後に発振波長を有する近赤外がよい。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザや青色レーザとして400nm以上450nm以下に発振波長を有するレーザも利用してもよい。また、露光装置30としては、例えばカラー画像形成のためにはマルチビーム出力するタイプの面発光型のレーザ光源も有効である。
【0149】
[現像装置]
現像装置40は、例えば、トナー及びキャリアからなる2成分現像剤を収容する容器内に、現像領域で電子写真感光体10に対向して配置された現像ロール41が備えられた構成が挙げられる。現像装置40としては、2成分現像剤により現像する装置であれば、特に制限はなく、周知の構成が採用される。
【0150】
ここで、現像装置40に使用される現像剤は、トナーからなる一成分現像剤であってもよいし、トナーとキャリアを含む二成分系現像剤であってもよい。
【0151】
[転写装置]
転写装置50としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
【0152】
[クリーニング装置]
クリーニング装置70は、例えば、筐体71と、クリーニングブレード72と、クリーニングブレード72の電子写真感光体10回転方向下流側に配置されるクリーニングブラシ73と、を含んで構成されている。また、クリーニングブラシ73には、例えば、固形状の潤滑剤74が接触して配置されている。
【0153】
以下、本実施形態に係る画像形成装置101の動作について説明する。まず、電子写真感光体10が矢印aで示される方向に沿って回転すると同時に、帯電装置20により負に帯電する。
【0154】
帯電装置20によって表面が負に帯電した電子写真感光体10は、露光装置30により露光され、表面に潜像が形成される。
【0155】
電子写真感光体10における潜像の形成された部分が現像装置40に近づくと、現像装置40(現像ロール41)により、潜像にトナーが付着し、トナー像が形成される。
【0156】
トナー像が形成された電子写真感光体10が矢印aに方向にさらに回転すると、転写装置50によりトナー像は記録紙Pに転写される。これにより、記録紙Pにトナー像が形成される。
その後、クリーニング装置70により電子写真感光体10の表面をクリーニングされる。そして、再び、帯電装置20によって、帯電がなされて、次のサイクル(画像プロセス)が行われる。
【0157】
画像が形成された記録紙Pは、定着装置60でトナー像が定着される。
【0158】
なお、本実施形態に係る画像形成装置101は、例えば、図3に示すように、筐体11内に、電子写真感光体10、帯電装置20、露光装置30、現像装置40、及びクリーニング装置70を一体に収容させたプロセスカートリッジ101Aを備えた形態であってもよい。このプロセスカートリッジ101Aは、複数の部材を一体的に収容し、画像形成装置101に脱着させるものである。
プロセスカートリッジ101Aの構成は、これに限られず、例えば、少なくとも、電子写真感光体10を備えてえればよく、その他、例えば、帯電装置20、露光装置30、現像装置40、転写装置50、及びクリーニング装置70から選択される少なくとも一つを備えていてもよい。
【0159】
また、本実施形態に係る画像形成装置101は、上記構成に限られず、例えば、電子写真感光体10の周囲であって、転写装置50よりも電子写真感光体10の回転方向下流側でクリーニング装置70よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、残留したトナーの極性を揃え、クリーニングブラシで除去しやすくするための第1除電装置を設けた形態であってもよいし、クリーニング装置70よりも電子写真感光体の回転方向下流側で帯電装置20よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、電子写真感光体10の表面を除電する第2除電装置を設けた形態であってもよい。
【実施例】
【0160】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0161】
<実施例1>
−下引層の形成−
酸化亜鉛(平均粒子径70nm:テイカ(株)製:比表面積値15m2/g)100質量部をテトラヒドロフラン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBM603:信越化学工業(株)製)0.8質量部を添加し、2時間攪拌した。その後テトラヒドロフランを減圧蒸留にて留去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛を得た。
シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛60質量部と硬化剤(ブロック化イソシアネート スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部とブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学工業(株)製)15質量部をメチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部とメチルエチルケトン25質量部とを混合し、1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて2時間の分散して分散液を得た。
得られた分散液に触媒としてジオクチルスズジラウレート:0.005質量部、シリコーン樹脂粒子(トスパール145、GE東芝シリコーン社製):40質量部を添加し、下引層形成用塗布液を得た。この塗布液を浸漬塗布法にて直径30mm、長さ245mmのアルミニウム基材上に塗布し、170℃、40分の乾燥硬化を行い厚さ19μmの下引層を形成した。
【0162】
−感光層の形成−
電荷発生材料としてCukα特性X線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3゜,16.0゜,24.9゜,28.0゜の位置に回折ピークを有するV型のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料 3質量部と、結着樹脂としてビスフェノールZポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:5万)47質量部と、電子輸送材料として一般式(2)で示される電子輸送材料の例示化合物(2−1) 13質量部と、正孔輸送材料として一般式(1)で示される正孔輸送材料の例示化合物(1−1) 14質量部及びN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下「化合物A」と言う) 38質量部と、溶剤としてテトラヒドロフラン250質量部と、からなる混合物を、直径1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散し、感光層形成用塗布液を得た。
この感光層形成用塗布液を浸漬塗布法にて、直径30mm、長さ244.5mmのアルミニウム基材上に塗布し、140℃、30分の乾燥硬化を行い、厚さ30μmの単層型の感光層を形成した。
以上の工程を経て、電子写真感光体を作製した。
【0163】
<実施例2>
下引層の形成において、分散液に電子受容性化合物としてアントラキノンを1.0質量部添加した以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0164】
<実施例3>
下引層の形成において、シランカップリング剤の添加量を1.0質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0165】
<実施例4>
単層型の感光層の形成において、化合物Aの添加量を36質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0166】
<実施例5>
下引層の形成において、電子受容性化合物をアリザリンとした以外は実施例2と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0167】
<比較例1>
下引層の形成において、シランカップリング剤の添加量を0.2質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0168】
<比較例2>
下引層の形成において、分散液に電子受容性化合物としてアントラキノンを2.0質量部添加した以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0169】
<比較例3>
単層型の感光層の形成において、化合物Aの添加量を34質量部とした以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0170】
<比較例4>
下記下引層の形成に従って、下引層を形成した以外は実施例1と同様の方法で、電子写真感光体を作製した。
【0171】
−下引層の形成−
酸化亜鉛(平均粒子径70nm:テイカ社製:比表面積値15m2/g)100質量部をテトラヒドロフラン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBM503:信越化学工業(株)製)1.3質量部を添加し、2時間攪拌した。その後テトラヒドロフランを減圧蒸留にて留去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤表面処理酸化亜鉛を得た。
表面処理を施した酸化亜鉛110質量部を500質量部のテトラヒドロフランと攪拌混合し、アリザリン0.6質量部を50質量部のテトラヒドロフランに溶解させた溶液を添加し、50℃にて5時間攪拌した。その後、減圧ろ過にてアリザリンを付与させた酸化亜鉛をろ別し、さらに60℃で減圧乾燥を行いアリザリン付与酸化亜鉛を得た。
このアリザリン付与酸化亜鉛60質量部と硬化剤(ブロック化イソシアネート スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部とブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学工業(株)製)15質量部をメチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部とメチルエチルケトン25質量部とを混合し、1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて2時間の分散を行い分散液を得た。
得られた分散液に触媒としてジオクチルスズジラウレート:0.005質量部、シリコーン樹脂粒子(トスパール145、GE東芝シリコーン社製):40質量部を添加し、下引層塗布液を得た。この塗布液を浸漬塗布法にて直径30mm、長さ245mmのアルミニウム基材上に塗布し、170℃、40分の乾燥硬化を行い厚さ19μmの下引層を形成した。
【0172】
<評価>
各例で得られた電子写真感光体について、次の評価を行った。
【0173】
(下引層及び単層型の感光層のフェルミエネルギーの測定)
各例の電子写真感光体を作製する際に用いた下引層形成用塗布液をそれぞれアルミプレート上にブレード塗布法により塗布、各々の各例と同様の条件で乾燥硬化し、フェルミエネルギー測定用の試料とした。単層型の感光層も同様に、感光層形成用塗布液をアルミプレート上にブレード塗布法により塗布し、フェルミエネルギー測定用の試料とした。
そして、下引層のフェルミエネルギー(表1中「EfUCL」と表記)、及び単層型の感光層のフェルミエネルギー(表1中「EfSPL」と表記)を表1に示す。
【0174】
(画質欠陥の評価)
各例の電子写真感光体を、DocuCentre505aの改造機(DC接触帯電方式、除電器なし)に搭載した。
この改造機により、高温高湿環境(室温28℃、湿度85%環境)の条件下にて全面30%ハーフトーン画像を10000枚連続で出力し、その後、電子写真感光体円周分の周期でベタ文字と全面30%ハーフトーン画像が連続する画像を出力し、連続プリントゴースト評価用の画像とした。
更にその後、全面30%ハーフトーン画像を出力し、画像の点欠陥評価用の画像とした。
以上で得た連続プリントゴースト評価用と画像の点欠陥評価用の画像をそれぞれ目視により観察し、限度見本を用いて下記基準により評価を行った。
【0175】
−連続プリントゴースト評価の評価基準−
0:連続プリントゴースト発生無し
1:軽微な連続プリントゴースト発生
2:1と3の間のレベルの連続プリントゴースト発生
3:連続プリントゴースト発生
4:3と5の間のレベルの連続プリントゴースト発生
5:顕著な連続プリントゴースト発生
(尚、3以上で実使用上問題あり、Pはポジゴースト、Nはネガゴーストを表す)
【0176】
−画像の点欠陥−
0:画像の点欠陥発生無し
1:軽微な画像の点欠陥発生
2:1と3の間のレベルの画像の点欠陥発生
3:画像の点欠陥発生
4:3と5の間のレベルの画像の点欠陥発生
5:顕著な画像の点欠陥発生
(尚、3以上で実使用上問題あり)
【0177】
【表1】
【0178】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、連続プリントゴースト、及び画像の点欠陥の各評価が共に良好な結果が得られたことがわかる。
【符号の説明】
【0179】
1 下引層、2 単層型の感光層、3 保護層、4 導電性基体、10 電子写真感光体、11 筐体、20 帯電装置、30 露光装置、40 現像装置、41 現像ロール、50 転写装置、60 定着装置、70 クリーニング装置、71 筐体、72 クリーニングブレード、72A 支持部材、73 クリーニングブラシ、74 潤滑剤、101A プロセスカートリッジ、101 画像形成装置
図1
図2
図3