(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記車速検出部で検出された車速が前記制限契機車速から予め定めた速度を減算した解除契機車速未満となった場合に、前記エンジンの最高回転数の制限を解除する請求項1に記載の産業車両の走行制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、車速が零であることを検出すると荷役作業を行う状態であると判定し、エンジンの最高回転数の規制を解除している。換言すれば、車速が零でない場合は、エンジンの最高回転数を規制した状態を維持している。このため、特許文献1では、車速が低中速域である場合、エンジンの最高回転数を規制した状態で荷役作業が行われることになるので、荷役性能を十分に発揮することができない。
【0005】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、最高速度の制限を行いつつ、荷役性能を十分に発揮することができる産業車両の走行制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する産業車両の走行制御装置は、エンジンと、前記エンジンの動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構と、前記エンジンの動力によって作動する荷役装置と、を備えた産業車両の走行制御装置において、前記エンジンの最高回転数を制限することによって車両の最高速度を制御する制御部と、車速を検出する車速検出部と、
前記エンジンの実回転数を検出する回転数検出部と、を備え、前記制御部は、前記車速検出部で検出された車速が前記最高速度から予め定めた速度を減算した制限契機車速以上となった場合に、前記エンジンの最高回転数を制限
し、前記制御部は、前記エンジンの最高回転数を制限する場合、制限後の最高回転数となる目標制限回転数と前記実回転数とを比較し、大きい方の回転数と無負荷状態におけるエンジンの最高回転数とをさらに比較し、小さい方の回転数をもとにエンジン回転数を徐々に変化させる。
【0007】
この構成によれば、車速が制限契機車速以上となった場合にエンジンの最高回転数を制限する。換言すれば、車速が制限契機車速未満の場合には、エンジンの最高回転数に制限が掛からない。このため、制限契機車速以上となった場合にはエンジンの最高回転数を制限することによって最高速度を制限することができる。一方、制限契機車速未満の場合にはエンジンの最高回転数が制限されないので、例えば、低中速域で走行しながら荷役作業を行うときであっても、荷役性能を十分に発揮させることができる。
【0008】
また、この構成によれば、エンジン回転数の急激な変化を抑制できる。
【0009】
また、この構成によれば、実回転数を考慮してエンジン回転数を変化させるので、制限契機車速に達してからのエンジン回転数の上昇を抑えることができる。
【0010】
上記産業車両の走行制御装置において、前記制御部は、前記車速検出部で検出された車速が前記制限契機車速から予め定めた速度を減算した解除契機車速未満となった場合に、前記エンジンの最高回転数の制限を解除すると良い。この構成によれば、解除契機車速が制限契機車速よりも小さい値に設定されるので、最高回転数の制限と解除が頻繁に発生することを抑制することができる。
【0011】
上記産業車両の走行制御装置において、前記制御部は、前記エンジンの最高回転数の制限を解除する場合、エンジン回転数を徐々に変化させると良い。この構成によれば、エンジン回転数の急激な変化を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、最高速度の制限を行いつつ、荷役性能を十分に発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、産業車両の走行制御装置を具体化した一実施形態を
図1及び
図2にしたがって説明する。
図1に示すように、産業車両としてのフォークリフト10の車体には、荷役装置11が装備されている。荷役装置11は、左右一対のアウタマスト12とインナマスト13とからなる多段式のマスト14を備え、アウタマスト12には油圧式のティルトシリンダ15が連結されているとともにインナマスト13には油圧式のリフトシリンダ16が連結されている。マスト14は、ティルトシリンダ15に対する作動油の給排によって車体の前後方向に前傾動作又は後傾動作を行う。インナマスト13は、リフトシリンダ16に対する作動油の給排によって車体の上下方向に昇降動作を行う。また、インナマスト13には、リフトブラケット17を介してフォーク18が設けられている。フォーク18は、リフトシリンダ16の作動によってインナマスト13がアウタマスト12に沿って昇降動作を行うことにより、リフトブラケット17とともに昇降動作を行う。
【0015】
フォークリフト10の車体には、走行動作及び荷役動作の駆動源となるエンジン19と、エンジン19によって駆動される油圧ポンプ20と、油圧ポンプ20から吐出された作動油が供給される油圧機構21と、エンジン19の出力を伝達する動力伝達機構22と、が搭載されている。
【0016】
油圧機構21は、コントロール弁23を有する。コントロール弁23は、ティルトシリンダ15やリフトシリンダ16への作動油の給排を制御する。また、コントロール弁23には、運転者の操作によってティルトシリンダ15やリフトシリンダ16の動作を指示する荷役操作部材24が機械的に連結されている。コントロール弁23は、荷役操作部材24の操作によって開閉状態が切り替わる。油タンク25の作動油は、油圧ポンプ20によって汲み上げられ、油圧機構21を介してティルトシリンダ15やリフトシリンダ16に供給される。また、ティルトシリンダ15やリフトシリンダ16から排出された作動油は、油圧機構21を介して油タンク25に戻される。
【0017】
動力伝達機構22は、トルクコンバータ26や変速機27などの動力を伝達するための機構を有している。エンジン19には、動力伝達機構22とディファレンシャルギア28を介して車軸29が連結されている。車軸29には、駆動輪30が連結されている。エンジン19の出力は、動力伝達機構22と、ディファレンシャルギア28と、車軸29と、を介して駆動輪30に伝達される。なお、トルクコンバータ26には、エンジン19の動力を車軸29に伝達する動力伝達状態と前記動力を車軸29に伝達しない非動力伝達状態とに機械的に切り替えるクラッチを含む。
【0018】
フォークリフト10の運転席には、インチング操作を行うインチングペダル22aが設けられている。インチングペダル22aは、その操作の途中から、運転席に設けられている図示しないブレーキペダルと連動するように構成されている。インチングペダル22aは、インチング領域においてブレーキペダルと独立(非連動)して操作されるが、インチング領域外(ブレーキ領域)においてブレーキペダルと連動する。インチング領域とは、インチングペダル22aを踏込んで前記クラッチが半クラッチ状態となる領域であり、ブレーキ領域とは、車両に制動力が作用する領域である。インチングペダル22aは、例えば荷役作業を行いながら車両の微速走行をマニュアル操作で行う際に、変速機27を構成するクラッチを半クラッチ状態にするために操作される。
【0019】
また、フォークリフト10の車体には、制御部としての車両制御装置31と、エンジン制御装置32と、が搭載されている。エンジン制御装置32は、車両制御装置31に電気的に接続されている。車両制御装置31には、荷役操作部材24の操作状態を検出する検出センサ33と、運転者の操作によってフォークリフト10の加速を指示するアクセル操作部材34の操作量に応じたアクセル開度を検出するアクセルセンサ35と、が電気的に接続されている。また、車両制御装置31には、車速を検出する車速検出部としての車速センサ36が電気的に接続されている。
【0020】
車両制御装置31は、エンジン19の回転数指令をエンジン制御装置32に出力することによってエンジン回転数の制御を行う。エンジン制御装置32は、入力した回転数指令をもとにエンジン19を制御する。エンジン制御装置32は、回転数検出部としての回転数センサ37が検出したエンジン19の実回転数を車両制御装置31に出力する。なお、油圧ポンプ20をエンジン19によって駆動するフォークリフト10では、アクセル操作部材34を踏み込むとともに荷役操作部材24を操作することにより、ティルトシリンダ15やリフトシリンダ16を動作させることができる。
【0021】
以下、
図2(a)〜(c)にしたがって、この実施形態のフォークリフト10における車両の最高速度の制御についてその作用とともに説明する。
図2(a)に示すように、車両制御装置31には、フォークリフト10の最高速度に相当する車速S1(km/h)と、エンジン19の最高回転数を制限する契機となる制限契機車速に相当する車速S2(km/h)と、エンジン19の最高回転数の制限を解除する契機となる解除契機車速に相当する車速S3(km/h)と、が設定されている。
【0022】
車速S1は、フォークリフト10が走行する際に許容する速度の最大値であり、フォークリフト10の使用環境に応じて設計段階時などに予め定めた速度である。車速S2は、車速S1から予め定めた速度としての速度ΔXを減算した速度である。速度ΔXは、可能な限り小さい値が好ましく、例えば1〜3(km/h)程度である。車速S3は、車速S2から予め定めた速度としての速度ΔYを減算した速度である。速度ΔYは、可能な限り小さい値が好ましく、例えば1〜3(km/h)程度である。車速S3は、車速S2よりも小さい速度である。
【0023】
図2(b),(c)の実線は、エンジン19の最高回転数の変遷を示す。最高回転数は、エンジン19の回転数を制限していない場合、最高回転数R1に設定されている。最高回転数R1は、無負荷状態における最高回転数(NMR回転数)である。
【0024】
フォークリフト10は、荷役装置11を作動させる場合、インチングペダル22aが操作されることによって荷役装置11へ動力が伝達される状態で、アクセル操作部材34の操作量(アクセル開度)に応じたエンジン回転数で制御される。これにより、荷役装置11は、アクセル操作部材34の操作量に応じた速度で作動する。そして、
図2(b),(c)に示すように、アクセル操作部材34を目一杯踏み込んだ場合(アクセル全開の場合)のエンジン回転数は、最高回転数R1となる。
【0025】
一方、この実施形態では、エンジン19の最高回転数を制限する場合の回転数として目標制限回転数R2が設定されている。目標制限回転数R2は、エンジン回転数を制限した場合のエンジン19の最高回転数となる。
【0026】
また、
図2(b),(c)に一点鎖線で示すように、エンジン19は、アクセル開度が0%(停車状態)のとき、アイドル回転数R3で制御される。フォークリフト10は、アクセル操作部材34が操作されると、その操作量(アクセル開度)に応じたエンジン回転数で制御され、そのエンジン回転数の増減に応じた車速で走行する。つまり、フォークリフト10は、アクセル開度の増加に伴ってエンジン回転数が増加して加速される一方、アクセル開度の減少に伴ってエンジン回転数が減少して減速される。
【0027】
車両制御装置31は、車速センサ36の検出結果をもとにフォークリフト10の車速を監視する。
車両制御装置31は、エンジン回転数を制限していない状態の車速S2未満の領域T1において、アクセル開度に応じたエンジン回転数を指令する回転数指令を出力し、エンジン19を制御する。このため、領域T1では、エンジン回転数が制限されず、その結果、荷役性能も制限されない。そして、この実施形態のフォークリフト10では、前述したように速度ΔXを車速S1に近い値に設定している。このため、フォークリフト10を低中速域(領域T1)で走行させながら荷役装置11を作動させても、荷役性能は十分に発揮される。
【0028】
そして、車両制御装置31は、エンジン回転数を制限していない状態で車速S2に達すると、エンジン回転数を制限する。つまり、車両制御装置31は、エンジン回転数を予め定めた回転数とするように回転数指令を出力する。この実施形態では、エンジン回転数を制限した場合のエンジン19の最高回転数を、
図2(b),(c)に示す目標制限回転数R2としている。
【0029】
このとき、車両制御装置31は、最高回転数R1と、目標制限回転数R2と、実回転数R4との関係をもとに、エンジン回転数を制御する。実回転数R4は、回転数センサ37によって検出される。
【0030】
エンジン回転数の制御において車両制御装置31は、最初に目標制限回転数R2と実回転数R4とを比較する。次に、車両制御装置31は、目標制限回転数R2と実回転数R4の大きい方の回転数と、最高回転数R1とを比較し、この比較結果から小さい方の回転数を、制限を開始させる時の制限開始回転数として算出する。
【0031】
例えば、車両制御装置31は、制限開始回転数が最高回転数R1となる場合、実回転数R4が既に最高回転数R1に達しているので、その最高回転数R1から目標制限回転数R2に到達するまでの間、エンジン回転数が徐々に変化するように回転数指令を出力する。これにより、エンジン回転数は、時間の経過とともに徐々に減少し、急減な変化が抑制される。また、車両制御装置31は、制限開始回転数が目標制限回転数R2となる場合、実回転数R4が目標制限回転数R2に達していないので、エンジン19の最高回転数を目標制限回転数R2に一気に下げるように回転数指令を出力する。また、車両制御装置31は、制限開始回転数が実回転数R4となる場合、実回転数R4が最高回転数R1未満で、目標制限回転数R2を越えているので、エンジン19の最高回転数を実回転数R4まで一気に下げるように回転数指令を出力する。その後、車両制御装置31は、目標制限回転数R2に到達するまでの間、エンジン回転数が徐々に変化するように回転数指令を出力する。
【0032】
例えば、
図2(b)に示すように、制限開始回転数を実回転数R4とし、最高回転数R1から目標制限回転数R2に向かって徐々に変化させる場合を考える。この場合は、
図2(b)に示す領域T2において、制御処理の関係上、エンジン回転数を制限するまでに時間を要すると、エンジン回転数を制限する条件の成立後であっても、エンジン回転数がさらに上昇する可能性がある。つまり、車両がさらに加速する可能性がある。このため、この実施形態では、
図2(c)に示すように、制限開始回転数を実回転数R4とする場合、エンジン19の最高回転数を実回転数R4まで一気に下げている。これにより、
図2(c)に示す領域T3では、実回転数R4から制限を開始させることで、エンジン回転数の急変を抑制しつつ、エンジン回転数を制限する条件の成立後においてエンジン回転数が上昇することを抑制し得る。
【0033】
一方、車両制御装置31は、エンジン回転数を制限している状態で車速S3に達すると、エンジン回転数を制限している状態を解除する。このとき、車両制御装置31は、
図2(b),(c)に示すように、エンジン19の最高回転数を、目標制限回転数R2から最高回転数R1に向かって徐々に変化させる。これにより、制限を解除した時点においてもエンジン回転数の急変を抑制し得る。
【0034】
したがって、この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)エンジン19の最高回転数を制限する条件を、車速S2(制限契機車速)以上とした。このため、車速S2未満の場合には、エンジン19の最高回転数に制限を掛けない。これにより、車速S2以上の場合にはエンジン19の最高回転数を制限することによって最高速度を制限することができる。一方、車速S2未満の場合にはエンジン19の最高回転数が制限されないので、例えば、フォークリフト10において低中速域で走行しながら荷役作業を行うときであっても、荷役性能を十分に発揮させることができる。
【0035】
(2)また、エンジン19の最高回転数を制限する場合、エンジン回転数を徐々に変化させるので、エンジン回転数の急激な変化を抑制できる。
(3)そして、エンジン19の最高回転数を制限する場合は、実回転数R4を考慮してエンジン回転数を変化させるので、車速S2に達してからのエンジン回転数の上昇を抑えることができる。
【0036】
(4)エンジン19の最高回転数の制限を解除する条件を、車速S2よりも小さい車速S3(解除契機車速)未満とした。つまり、車速S2と車速S3を同値とせずに、異なる値とした。このため、エンジン19の最高回転数の制限と解除が頻繁に発生することを抑制することができる。
【0037】
(5)また、エンジン19の最高回転数の制限を解除する場合、エンジン回転数を徐々に変化させるので、エンジン回転数の急激な変化を抑制できる。
(6)実施形態の制御は、車速を監視する構成や、エンジン回転数を監視する構成を備えることで実現できる。つまり、多くのセンサ類を新たに用意する必要がなく、車両の制御に必要な従前から備えている構成によって実施形態の制御を実現できる。したがって、上記制御の採用によるコストアップを抑制できる。
【0038】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。
○ 産業車両はフォークリフト10に限らず、ショベルローダなどの荷役装置を有するものであればよい。
【0039】
○ 荷役装置の具体的な構成を変更しても良い。例えば、フォークに代えて、アタッチメントを装備する荷役装置でも良い。
○ コントロール弁23を電磁弁とし、その開閉状態を車両制御装置31からの信号によって制御しても良い。
【0040】
○ 動力伝達機構22は、トルクコンバータに代えて、マニュアル式トランスミッションを用いても良い。
○ エンジン回転数を制限する場合において、エンジン19の回転数差が小さく、エンジン回転数の急激な変化を伴わないときには制限開始回転数から目標制限回転数R2へ一気に変化させても良い。なお、エンジン回転数の制限を解除する場合も同様に、エンジン19の回転数差が小さく、エンジン回転数の急激な変化を伴わないときには回転数を一気に変化させても良い。