(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
以下、本発明の好適な第1実施形態について説明する。
【0026】
第1実施形態に係るプリンタ1(本発明の印刷装置)は、記録用紙Pに対する印刷のほか、画像の読み取りなども行うことが可能な、いわゆる複合機である。インクジェットプリンタ1は、印刷部2(
図2参照)、給紙部3、排紙部4、読取部5、操作部6、表示部7などを備えている。また、インクジェットプリンタ1の動作は、制御装置50(
図3参照)によって制御されている。
【0027】
印刷部2は、インクジェットプリンタ1の内部に設けられており、記録用紙Pに対する印刷を行う。印刷部2の詳細な構成については、後程説明する。給紙部3は、印刷部2に供給する記録用紙Pが収容された用紙トレイ等が配置される部分である。排紙部4は、印刷部2により印刷が行われた記録用紙Pが排出される部分である。読取部5は、スキャナなどであって、画像の読み取りを行う部分である。操作部6は、ボタンなどを備えており、ユーザは、操作部6のボタンなどを操作することによって、インクジェットプリンタ1に対して必要な操作を行う。表示部7は液晶ディスプレイなどであって、インクジェットプリンタ1の使用時に必要な情報を表示する。
【0028】
次に、印刷部2について説明する。印刷部2は、
図2に示すように、キャリッジ11、インクジェットヘッド12、搬送ローラ13及びプラテン14を備えている。
【0029】
キャリッジ11は、ガイドレール15に案内されて走査方向に往復移動する。なお、以下では、
図2に示すように走査方向の右側及び左側を定義して説明を行う。インクジェットヘッド12は、キャリッジ11に搭載されており、その下面に形成された複数のノズル10からインクを吐出する。複数のノズル10は、走査方向と直交する搬送方向に長さCにわたって配列されることによって、4つのノズル列9を形成している。4つのノズル列9は走査方向に配列されている。複数のノズル10からは、走査方向の右側のノズル列9を形成するものから順に、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタのインクが吐出される。
【0030】
搬送ローラ13は、搬送方向におけるインクジェットヘッド12の両側に配置され、記録用紙Pを搬送方向に搬送する。プラテン14は、インクジェットヘッド12の下面と対向して配置され、搬送ローラ13によって搬送される記録用紙Pのインクジェットヘッド12と対向する部分を下方から支持する。
【0031】
そして、印刷部2では、搬送ローラ13によって記録用紙Pを間欠的に搬送方向に搬送しつつ、キャリッジ11とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド12からインクを吐出することによって、記録用紙Pに印刷を行う。
【0032】
次に、インクジェットプリンタ1の動作を制御するための制御装置50について説明する。制御装置50は、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)51、R
OM(Read Only Memory)52、RAM(Random Access Memory)53、ASIC54等を備えている。そして、制御装置50では、CPU51とASIC54とが協働して、印刷部2での通常の印刷や後述の検査用画像の印刷、読取部5における画像の読取、画像の読取結果に対する処理など、プリンタ1の動作に必要な制御を行う。これにより、制御装置50は、本発明の濃度取得手段、位置特定手段、傾き検出手段などとして動作する。なお、
図3では、便宜上、CPU51を1つだけ図示しているが、制御装置50がCPU51を1つだけ備え、この1つのCPU51が処理を行ってもよいし、制御装置50が複数のCPU51を備え、これら複数のCPU51が処理を分担して行ってもよい。また、
図3では、便宜上、ASIC54を1つだけ図示しているが、制御装置50がASIC54を1つだけ備え、このASIC54が処理を行ってもよいし、制御装置50が複数のASIC54を備え、複数のASIC54が処理を分担してもよい。
【0033】
第1実施形態では、上述したように、各ノズル列9を形成する複数のノズル10が、搬送方向に配列されている。しかしながら、キャリッジ11やガイドレール15などの製造誤差などにより、キャリッジ11をガイドレール15に組み付けた段階で、ノズル10の配列方向が搬送方向に対して傾いていることがある。そこで、第1実施形態では、以下のような検査を行い、その検査結果に応じてキャリッジ11の向きを調整する。
【0034】
具体的には、まず、
図5(c)に示すような検査用パターン100を印刷する。なお、プリンタ1に検査用パターン100の印刷を行わせるためのプログラムは、制御装置50のROM52などに記憶されている。検査用パターン100の印刷手順について説明すると、最初に、
図4(a)に示すように、キャリッジ11を走査方向に移動させつつ、走査方向の最も右側に位置するノズル列9を形成する複数のノズル10のうち、搬送方向の下流側からM個のノズル10からブラックインクを吐出することにより、記録用紙Pに、M本の第1線パターン111aからなる第1部分パターン111を印刷する。M本の第1線パターン111aは、それぞれが走査方向に延び、搬送方向に等間隔に配列されている。ここで、
図3では、便宜上、上記M個のノズル10のうち2つのみを図示し、上記M本の第1線パターン111aのうち3本のみを図示している。なお、他の図面でも同様である。
【0035】
次に、
図4(b)に示すように、搬送ローラ13により記録用紙Pを微小距離D(本発明の第1オフセット量)だけ搬送する。そして、キャリッジ11を走査方向に移動させつつ、直前の第1部分パターン111の印刷に使用したM個のノズル10の搬送方向上流側に隣接するM個のノズル10からブラックインクを吐出させることにより、記録用紙Pに第1部分パターン111を印刷する。以下、同様にして、搬送ローラ13による記録用紙Pの搬送と、第1部分パターン111の印刷とを繰り返し行うことにより、
図4(c)に示すように、記録用紙Pに、搬送方向に並ぶ[(N+1)/2]個(Nは奇数)の第1部分パターン111を印刷する。
図4(c)では、N=7の場合に、4(=(7+1)/2)個目の第1部分パターン111まで印刷した時点を示している。
【0036】
次に、
図5(a)に示すように、
図4(c)の状態から記録用紙Pを搬送せずに、キャリッジ11を走査方向に移動させつつ、走査方向の最も左側に位置するノズル列9の搬送方向の下流側からM・N個のノズル10からマゼンタインクを吐出させることにより、記録用紙Pに第2パターン102を印刷する。第2パターン102は、M本の第2線パターン112aからなる第2部分パターン112が、搬送方向にN個並んだパターンである。M本の第2線パターン112aは、隣接して配置されたM個のノズル10から吐出されたインクによって形成されるパターンであり、それぞれが走査方向に延び、搬送方向に配列されている。ここで、第1実施形態では、このように、N個の第2部分パターン112を印刷する間に、記録用紙Pが搬送されない。すなわち、第1実施形態では、本発明の第2オフセット量が0となっている。また、このとき、第2線パターン112aを第1線パターン111aに対して走査方向の右側に、線パターン111a、112aの走査方向の長さよりも短い量だけずらして印刷する。
【0037】
次に、上述したのと同様にして、搬送ローラ13による記録用紙Pの微小距離Dの搬送と、第1部分パターン111の印刷とを繰り返し行うことにより、
図5(b)に示すように、記録用紙Pの、上述の[(N+1)/2]個の第1部分パターン111の搬送方向上流側の部分に、搬送方向に並ぶ[(N−1)/2]個の第1部分パターン111を印刷する。これにより、
図5(c)に示すように、記録用紙Pに、第1部分パターン111が搬送方向にN個並ぶことによって形成された第1パターン101が印刷される。
【0038】
以上のようにして第1パターン101と第2パターン102とを印刷することにより、
図5(c)に示すように、記録用紙Pに、第1パターン101と第2パターン102とからなる検査用パターン100が印刷される。検査用パターン100は、重なりパターン部121と、第1単独パターン部122と、第2単独パターン部123とを有している。
【0039】
重なりパターン部121は、検査用パターン100の走査方向の略中央部に位置する、第1パターン101と第2パターン102とが重なった部分である。重なりパターン部121は、搬送方向の下流側からK番目(K=1、2、・・、N)(以下、単にK番目とする)に印刷された第1部分パターン111と、K番目の第2部分パターン112とが重なっている。なお、以下では、重なりパターン部121のうち、K番目の第1部分パターン111と、K番目の第2部分パターン112とが重なっている部分を、K番目の重なり部分121aとして説明を行う。
【0040】
第1単独パターン部122は、重なりパターン部121の走査方向の左側に位置する、第1パターン101のみが形成された部分である。第2単独パターン部123は、重なりパターン部121の走査方向の右側に位置する、第2パターン102のみが形成された部分である。
【0041】
次に、プリンタ1の読取部5で、印刷された検査用パターン100を読み取ることにより、検査用パターン100の、重なりパターン部121及び単独パターン部122、123の各部分の輝度(本発明の濃度情報)を取得する(本発明の読取ステップ)。具体的には、重なりパターン部121を、重なり部分121aが1つだけ配置された複数の領域131に区切り、各領域131の輝度を取得する。また、第1単独パターン部122を、第1部分パターン111が1つだけ配置された複数の領域132に区切り、各領域132の輝度を取得する。また、第2単独パターン部123を、第2部分パターン112が1つだけ配置された複数の領域133に区切り、各領域133の輝度を取得する。ここで、読取部5で検査用パターン100を読み取ることによって取得される輝度は、重なりパターン部121及び単独パターン部122、123の濃度が高い部分ほど低くなる。すなわち、重なりパターン部121及び単独パターン部122、123の輝度を取得することは、重なりパターン部121及び単独パターン部122、123の濃度を取得することと同じことである。
【0042】
次に、重なりパターン部121の各領域131の輝度から、単独パターン部122、123の対応する領域132、133の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部121の各領域131の輝度を補正する(本発明の濃度取得ステップ)。続いて、補正後の重なりパターン部121の各領域131の濃度に基づいて、最も輝度の高い領域131を特定することにより、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が最も大きい重なり部分121aの搬送方向の位置を特定する(本発明の位置特定ステップ)。そして、特定した重なり部分121aの位置に基づいて、ノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きを検出する(傾き検出ステップ)。
【0043】
より詳細に説明すると、第1実施形態では、[(N+1)/2]番目の第1部分パターン111を印刷した後、記録用紙Pを搬送せずに、N個の第2部分パターン112を印刷している。一方、第1実施形態のインクジェットヘッド12では、各ノズル列を構成するノズル10の、搬送方向の位置はどのノズル列9でも同一であるので、ノズル10の配列方向が搬送方向と平行である場合に、
図6(a)に示すように、第1線パターン111aの印刷に用いた最も右側のノズル列9を形成するノズル10と、第2線パターン112aの印刷に用いた最も左側のノズル列9を形成するノズル10とが、走査方向に重なる。したがって、ノズル10の配列方向が搬送方向と平行である場合には、
図6(b)に示すように、[(N+1)/2]番目の重なり部分121aにおいて、第1線パターン111aと第2線パターン112aとがほぼ完全に重なる。そして、[(N+1)/2]番目の重なり部分121aから離れた重なり部分121aほど、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの搬送方向のずれが大きくなる。
【0044】
これに対して、
図6(c)に示すように、ノズル10の配列方向が搬送方向に対して傾いていると、第1線パターン111aの印刷に使用したノズル10と、第2線パターン112aの印刷に使用したノズル10とが、搬送方向にずれる。このとき、ノズル10の配列方向が搬送方向に対する傾きが大きいほど、上記ノズル10のずれ量は大きくなる。また、第1実施形態では、4つのノズル列9のうち走査方向に最も離れた2つのノズル列9を形成するノズル10を用いて、第1線パターン111a及び第2線パターン112aを印刷しているため、上記ノズル10のずれ量が最も大きくなる。
【0045】
したがって、この場合には、
図6(d)に示すように、[(N+1)/2]番目の重なり部分121a以外の重なり部分121aにおいて、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が最も大きくなる。このとき、ノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きが大きいほど、[(N+1)/2]番目の重なり部分121aから離れた重なり部分121aにおいて、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が最も大きくなる。すなわち、検査用パターン100では、どの重なり部分121aにおいて第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が最も大きいかが、ノズル10の配列方向の搬送方向に対してどれだけ傾いているかを示している。
【0046】
一方で、重なり部分121aにおいては、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が大きいほど、第1線パターン111a及び第2線パターン112aの間にできる、記録用紙Pが露出した白地の部分の面積が大きくなる。
【0047】
また、第1実施形態では、第1線パターン111aがブラックインクで印刷され、第2線パターン112aがマゼンタインクで印刷されるが、ブラックインクは他の色のインクよりも濃い。そのため、第1線パターン111aと第2線パターン112aとが重なった部分の色は、ブラックに近い色となる。スキャナによる色濃度の輝度値変換では、ブラックインクを2回重ねたパターンを読み取っても輝度値が半分になるわけではない。したがって、ブラックインクによって形成された第1線パターン111aのみが配置された部分と、ブラックインクによって印刷された第1線パターン111aとマゼンタインクによって印刷された第2線パターン112aとが重なった部分とでは、読取部5が読み取る輝度はほぼ同じとなる。
【0048】
なお、第1線パターン111a及び第2線パターン112aのいずれもがカラーインクで印刷されているとすると、第1線パターン111aと第2線パターン112aとが重なった部分において、第1線パターン111aあるいは第2線パターン112aが単独で配置されている部分よりも濃度が高くなる場合もあり得る。つまり、重なりパターン部121の濃度変動が、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なり程度の変動を示すものとならない虞がある。ここで、重なりパターン部121の濃度変動が、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なり程度の変動を示すものとなるか否かは、読取部5が出力する輝度値の最小値と最大値をどの程度の輝度に対応させるかという調整の仕方によって変わってくる。そのため、例えば、イエロー単独のパターンとイエローとシアンが重なったパターンがほぼ同一の輝度値となるようにスキャナを設定すれば、イエローインクで第1線パターン111aを印刷し、シアンインクで第2線パターン112aを印刷したときに、重なりパターン部121の濃度変動が、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度を示すものとなる。しかしながら、一般に、白い部分と黒い部分になるべく大きく異なる輝度値を対応させるように調整した方が広い濃度範囲で微妙な色の違いを高分解能に検出できる。そのため、第1線パターン111a及び第2線パターン112aのいずれか一方をブラックインクで印刷する方が、上記読取部5における検出精度の点で有利である。
【0049】
以上のように、重なり部分121aでは、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が大きいほど、読取部5が読み取る輝度が高くなる。すなわち、重なり部分121aの輝度が、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度を示すものとなる。したがって、読取部5が読み取る輝度が最も高い(極大となる)重なり部分121aの位置を特定することにより、第1線パターン111aと第2線パターン112aとの重なりの程度が最も大きい重なり部分121aの位置を取得することができる。そして、特定された重なり部分121aの位置から、ノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きを検出することができる。
【0050】
しかしながら、第1実施形態では、第1線パターン111aの印刷に使用されるノズル10が、第1部分パターン111毎に異なる。そのため、ノズル10の目詰まりなどにより一部の第1線パターン111aが印刷されなかったり、インクの吐出速度や体積のばらつきにより第1線パターン111aの太さ(搬送方向の長さ)にばらつきが生じたりすることがある。同様に、一部の第2線パターン112aが印刷されなかったり、第2線パターン112aの太さにばらつきが生じたりすることもある。すなわち、一部の線パターン111a、112aに異常が生じることがある。
【0051】
そして、これらの場合には、一部の重なり部分121aの輝度が、本来得られるべき輝度と異なってしまう虞がある。そこで、第1実施形態では、上述したように、重なりパターン部121の各領域131の輝度から、単独パターン部122、123の対応する領域132、133の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部121の各領域131の輝度を補正する。そして、補正後の重なりパターン部121の各領域131の輝度を用いて、輝度が最も高い重なり部分121aの位置を特定する。そして、特定された重なり部分121aの位置にからノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きを検出する。そして、検出した傾きに応じて、キャリッジ11の向きを、ノズル10の配列方向が搬送方向と平行となるように調整する。
【0052】
一例として、
図7に示すように、ノズル10の配列方向が搬送方向に対して傾いていることにより、線パターン111a、112aに異常がなければ、5番目の重なり部分121aにおいて輝度が最も高くなる場合において、6番目の重なり部分121aの一部の第1線パターン111a、及び、3番目の重なり部分121aの一部の第2線パターン112aが印刷されなかった場合について説明する。この場合には、6番目の重なり部分121aにおいて、一部の第1線パターン111aが印刷されない分、記録用紙Pが露出した部分の面積が大きくなり、取得される輝度が高くなる。また、5番目の重なり部分121aにおいて、一部の第2線パターン112aが印刷されない分、記録用紙Pが露出した部分の面積が大きくなり、取得される輝度が高くなる。その結果、上述したような補正を行わないと、重なりパターン部121においては、本来は5番目の重なり部分121aの輝度が最も高くなるべきところが、3番目あるいは6番目の重なり部分121aの輝度が最も高くなってしまう。
【0053】
一方で、第1単独パターン部122では、6番目の第1部分パターン111において、他の第1部分パターン111よりも輝度が高くなり、第2単独パターン部123では、3番目の第2部分パターン112において他の第2部分パターン112よりも輝度が高くなる。したがって、重なりパターン部121の輝度から単独パターン部122、123の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部121の輝度を補正すれば、補正後の重なりパターン部121におけるN個の重なり部分121aの間での補正後の輝度の大小関係が、線パターン111a、112aに異常がない場合のN個の重なり部分121aの間での輝度の大小関係と同じになる。すなわち、第1パターン101及び第2パターン102の一部に異常がある場合に、重なりパターン部121の輝度から、上記異常による輝度の変化の影響を排除することができる。
【0054】
また、第1実施形態では、第1線パターン111aの印刷と第2線パターン112aの印刷とで、異なるノズル列9を形成するノズル10を使用する。すなわち、第1線パターン111aの印刷と、第2線パターン112aの印刷とで、使用されるノズル10が異なる。そのため、第1線パターンと第2線パターンとを同一のノズル10を用いて印刷する場合(例えば、後述の第3実施形態の検査用パターン300を印刷する場合)と比べて、第1線パターン111a及び第2線パターン112aを印刷する際にノズル10に異常が生じる確率が高い。したがって、上述したように、重なりパターン部121の輝度を、単独パターン部122、123の輝度で補正する意義は大きい。
【0055】
[第2実施形態]
次に、本発明の好適な第2実施形態について説明する。ただし、以下では、主に第1実施形態と異なる部分について説明する。
【0056】
上述の印刷部2では、搬送ローラ13が記録用紙Pを搬送方向に搬送するが、記録用紙Pの搬送量は、搬送ローラ13の径と回転量によって決まる。一方で、印刷部2では、上述したように、搬送ローラ13により記録用紙Pを間欠的に搬送方向に搬送しつつ、インクジェットヘッド12からインクを吐出することによって記録用紙Pに印刷を行う。このとき、記録用紙Pの1回の理想的な搬送量は、搬送方向におけるノズル列9の長さC(
図2参照)によって決まる。
【0057】
ここで、プリンタ1では、製造上発生する誤差の影響などにより、実際の搬送ローラ13の径やノズル列9の長さCにばらつきが生じる。そのため、搬送ローラ13の径及びノズル列9の長さCが設計値であるとして、印刷時に記録用紙Pを搬送するときの搬送ローラ13の回転量を決めると、記録用紙Pの搬送量がノズル列9の長さCに対して適切な搬送量とならず、印刷の品質が悪くなってしまう虞がある。そこで、第2実施形態では、プリンタ1の製造が完了した段階で、以下のような検査を行い、印刷時に記録用紙Pを搬送するときの搬送ローラ13の回転量を補正する。
【0058】
具体的には、まず、
図9(c)に示すような検査用パターン200を印刷する。検査用パターン200の印刷手順について説明すると、最初に、
図8(a)に示すように、最も右側に位置するノズル列9を形成するノズル10のうち、搬送方向上流側のM個のノズル10aからブラックインクを吐出させることにより、記録用紙PにM本の第1線パターン211aからなる第1部分パターン211を印刷する。M本の第1線パターン211aは、それぞれが走査方向に延び、搬送方向に等間隔に配列されている。
【0059】
次に、
図8(b)に示すように、搬送ローラ13により記録用紙Pを所定距離Qだけ搬送してから、上述のM個のノズル10aからブラックインクを吐出させて第1部分パターン211を印刷する。以下、搬送ローラ13による記録用紙Pの搬送と、第1部分パターン211の印刷とを繰り返し行うことにより、
図8(c)に示すように、第1部分パターン211が搬送方向にN個並ぶことによって形成された第1パターン201を印刷する。
【0060】
次に、
図9(a)に示すように、搬送ローラ13により、記録用紙Pを、最初の第1パターン201を印刷したときの位置からの累積の搬送量がL−[(N−1)/2]・Dとなる位置まで搬送し、ノズル10aから搬送方向下流側にLだけ離れたM個のノズル10bからブラックインクを吐出させることにより、M本の第2線パターン212aからなる第2部分パターン212を印刷する。第1実施形態では、第1パターン201を印刷する間に、(N−1)・Qだけ記録用紙Pを搬送しているので、第1パターン201を印刷した後の記録用紙Pの搬送量は、L−[(N−1)/2]・D−(N−1)・Qとなる。ここで、Dは、Lに比べて微小な値(例えば、D=L/100)である。M本の第2線パターン212aは、それぞれが走査方向に延び、搬送方向に等間隔に配列されている。また、このとき、第2線パターン212aを第1線パターン211aに対して走査方向の右側に、線パターン211a、212aの走査方向の長さよりも短い量だけずらして印刷する。
【0061】
次に、
図9(b)搬送ローラ13により記録用紙Pを(Q+D)だけ搬送し、上述のM個のノズル10bからブラックインクを吐出して第2部分パターン212を印刷する。以下、搬送ローラ13による記録用紙Pの搬送と、第2部分パターン212の印刷とを繰り返し行うことにより、
図9(c)に示すように、第2部分パターン212が、搬送方向にN組並んだ第2パターン202を印刷する。
【0062】
以上のようにして第1パターン201と第2パターン202とを印刷することにより、記録用紙Pには、第1パターン201と第2パターン202とからなる検査用パターン200が印刷される。検査用パターン200は、重なりパターン部221と、第1単独パターン部222と、第2単独パターン部223とを有している。
【0063】
重なりパターン部221は、検査用パターン200の走査方向の略中央部に位置する、第1パターン201と第2パターン202とが重なった部分である。重なりパターン部221では、K番目(K=1、2、・・、N)の第1部分パターン211と、K番目の第2部分パターン212とが重なっている。なお、以下では、重なりパターン部221のうち、K番目の第1部分パターン211と、K番目の第2部分パターン212とが重なっている部分を、K番目の重なり部分221aとして説明を行う。
【0064】
第1単独パターン部222は、重なりパターン部221の走査方向の左側に位置する、第1パターン201のみが形成された部分である。第2単独パターン部223は、重なりパターン部221の走査方向の右側に位置する、第2パターン202のみが形成された部分である。
【0065】
次に、印刷された検査用パターン200を読取部5で読み取ることにより、重なりパターン部221及び単独パターン部222、223の各部分の輝度(本発明の濃度情報)を取得する(本発明の読取ステップ)。具体的には、重なりパターン部221を、重なり部分221aが1つだけ配置された複数の領域231に区切り、各領域231の輝度を取得する。また、第1単独パターン部222を、第1部分パターン211が1つだけ配置された複数の領域232に区切り、各領域232の輝度を取得する。また、第2単独パターン部223を、第2部分パターン212が1つだけ配置された複数の領域233に区切り、各領域233の輝度を取得する。
【0066】
次に、重なりパターン部221の各領域231の輝度から、単独パターン部222、223の対応する領域232、233の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部221の各領域231の輝度を補正する(本発明の濃度取得ステップ)。続いて、補正後の重なりパターン部221の各領域231の濃度に基づいて、最も輝度が高い領域231を特定することにより、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの重なりの程度が最も大きい重なり部分221aの搬送方向の位置を特定する(本発明の位置特定ステップ)。そして、特定した重なり部分221aの位置に基づいて、印刷時の搬送ローラ13の回転量を調整する。
【0067】
より詳細に説明すると、搬送ローラ13の径とノズル列9の長さCが設計値通りであれば、記録用紙Pの、K番目の第1部分パターン211を印刷位置から、K番目の第2部分パターン212を印刷位置までの搬送距離がL−[(N+1)/2]・D+K・Dとなる。したがって、K=[(N+1)/2]のときに、記録用紙Pの、第1部分パターン211を印刷した位置から、第2部分パターン212を印刷した位置までの搬送距離がLとなる。ノズル列9の長さCが設計値通りであれば、Lは、ノズル列9の長さCから各部分パターン211、212の印刷に用いたノズル10が配置された範囲の搬送方向の長さFを差し引いた量であるので、[(N+1)/2]番目の重なり部分221aにおいて、第1線パターン211aと第2線パターン212aとが、ほぼ完全に重なる。そして、[(N+1)/2]番目の重なり部分221aから搬送方向に離れた重なり部分221aほど、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの搬送方向のずれが大きくなる。
【0068】
これに対して、搬送ローラ13の径あるいはノズル列9の長さCが設計値からずれている場合には、設計値からのずれ量に応じて、[(N+1)/2]番目以外の重なり部分221aにおいて、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの重なりの程度が最も大きくなる。
【0069】
したがって、第2実施形態では、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの重なりの程度が最も大きい重なり部分221aの位置が、ノズル列9の長さCに対して適切な記録用紙Pの搬送量(搬送ローラ13の回転量)を示している。
【0070】
また、第2実施形態でも、第1実施形態で説明したのと同様、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの重なりの程度が大きいほど、読取部5が読み取る輝度が高くなる。したがって、輝度が最も高い重なり部分221aの位置を取得することによって、第1線パターン211aと第2線パターン212aとの重なりの程度が最も大きい重なり部分221aの位置を取得することができる。なお、重なりパターン部221の輝度の変化は、
図6(b)、(d)に示すのと同様であるので、ここでは図示を省略する。
【0071】
しかしながら、検査用パターン200を印刷するときにも、一部の線パターン211a、212aが印刷されなかったり、線パターン211a、212aの太さにばらつきが生じたりすることがある。例えば、第2実施形態の場合には、長期間印刷が行われていなかったプリンタ1において検査用パターン200を印刷する場合に、インクの増粘により、最初に印刷される第1部分パターン211の印刷時に、2回目以降の第1部分パターン211の印刷時よりも、ノズル10aからインクが吐出されなかったり、ノズル10aから吐出されるインクの体積が小さくなったりしやすい。同様に、最初に印刷される第2部分パターン212の印刷時に、2回目以降の第2部分パターン212の印刷時よりも、ノズル10bからインクが吐出されなかったり、ノズル10bから吐出されるインクの体積が小さくなったりしやすい。そして、これらの場合には、重なりパターン部221において、一部の重なり部分221aの輝度が、本来得られるべき輝度と異なってしまう虞がある。
【0072】
そこで、第2実施形態では、上述したように、重なりパターン部221の各領域231の輝度から単独パターン部222、223の対応する領域232、233の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部221の輝度を補正する。そして、補正後の重なりパターン部221の各領域231の輝度を用いて、輝度が最も低い重なり部分221aの位置を特定する。そして、特定された重なり部分221aの位置に基づいて、搬送ローラ13の回転量を調整する。
【0073】
一例として、
図10に示すように、搬送ローラ13の径あるいはノズル列9の長さCが設計値からずれていることにより、線パターン211a、212aに異常がなければ、5番目の重なり部分221aにおいて輝度が最も高くなる場合において、1番目の第1部分パターン211の一部の第1線パターン211aが印刷されず、1番目の第2部分パターン212の一部の第2線パターン212aが印刷されなかった場合について説明する。この場合には、1番目の重なり部分221aにおいて、一部の第1線パターン211a及び第2線パターン212aが印刷されていない分、輝度が高くなる。その結果、重なりパターン部221において、本来は5番目の重なり部分221aの輝度が最も高くなるべきところが、1番目の重なり部分221aにおいて輝度が最も高くなってしまう。
【0074】
一方で、第1単独パターン部222では、1番目の第1部分パターン211において他の第1部分パターン211よりも輝度が高くなり、第2単独パターン部223では、1番目の第2部分パターン212において他の第2部分パターン212よりも輝度が高くなる。したがって、重なりパターン部221の輝度から単独パターン部222、223の輝度を差し引くことによって、重なりパターン部221の輝度を補正すれば、重なりパターン部221におけるN個の重なり部分221aの間での補正後の輝度の大小関係が、全ての線パターン211a、212aに異常がない場合のN個の重なり部分221aの間での輝度の大小関係と同じになる。すなわち、第1パターン201及び第2パターン202の一部に異常がある場合に、重なりパターン部221の輝度の情報から、上記異常による輝度の変化の影響を排除することができる。
【0075】
また、第2実施形態では、第1線パターン211aの印刷に使用されるノズル10aと、第2線パターン212aの印刷に使用されるノズル10bとが異なる。そのため、第1線パターンと第2線パターンとを同一のノズル10を用いて印刷する場合(例えば、後述の第3実施形態の検査用パターン300を印刷する場合)と比べて、第1線パターン211a及び第2線パターン212aを印刷する際にノズル10に異常が生じる確率が高い。したがって、上述したように、重なりパターン部221の輝度を、単独パターン部222、223の輝度で補正する意義は大きい。
【0076】
[第3実施形態]
次に、本発明の好適な第3実施形態について説明する。ただし、以下では、主に第1、第2実施形態と異なる部分について説明する。
【0077】
第3実施形態では、
図11(a)に示すように、プラテン14の上面に、複数のリブ61が走査方向に間隔をあけて配置されている。また、走査方向における複数のリブ61の間に位置する部分に、記録用紙Pを上方から押さえる複数の押さえ部材62が配置されている。なお、押さえ部材62は、プリンタ1の図示しないフレームなどによって保持されている。そして、これにより、搬送ローラ13によって搬送される記録用紙Pは、複数のリブ61と複数の押さえ部材62とによって曲げられ、走査方向の両端部を除く範囲Rにおいて、上方に突出した山部分Pmと、下方に突出した谷部分Pvとが走査方向に交互に並ぶ波形状となっている。これにより、インクジェットヘッド12のノズル10と、波形状となった記録用紙Pとの距離Gが、走査方向に沿って変動している。
【0078】
ここで、印刷部2では、上述したように、キャリッジ11を走査方向に往復移動させつつ、ノズル10からインクを吐出させることによって印刷を行う。この場合、キャリッジ11を走査方向の右側に移動させるときと、左側に移動させるときとで、記録用紙Pにおけるインクの着弾位置にずれが生じないようするために、ノズル10からのインクの吐出タイミングを調整する必要がある。ノズル10からインクが吐出されてから記録用紙Pに着弾するまでにインクが走査方向に移動する量はインクの飛翔時間によって増減するので、記録用紙Pのある位置にインクを着弾させるためのノズル10からのインクの吐出タイミングは、ノズル10と記録用紙Pの距離によって変わってくる。第3実施形態では、上述の通り、ノズル10と記録用紙Pとの距離が走査方向に沿って変動しているため、ノズル10からのインクの吐出タイミングを決定するためには、ノズル10と記録用紙Pの各部分との距離を取得する必要がある。そこで、第3実施形態、以下のような検査を行い、その検査結果に応じてノズル10と記録用紙Pの各部分との距離を取得する。そして、取得した距離に応じて、ノズル10からのインクの吐出タイミングを調整する。
【0079】
具体的には、まず、
図12(a)に示すような検査用パターン300を印刷する。検査用パターン300の印刷手順について説明すると、キャリッジ11を走査方向の右側に移動させつつ、あるノズル列9(
図1参照)を形成する複数のノズル10からブラックインクを吐出することにより、走査方向に配列された複数の第1パターン301を印刷する。第1パターン301は、搬送方向と平行に直線状に延びたパターンである。より詳細には、第1パターン301は、
図13に示すように、搬送方向と平行に延びた、長さの短い直線状の第1線パターン301aが、搬送方向に複数配列されることによって形成されたパターンである。ただし、
図13では、図面を見やすくするために、第1線パターン301a及び第2線パターン302aを実際よりも太く図示している。また、複数の第1パターン301は、記録用紙Pの波形状となる範囲Rのうち、右端部に位置する範囲R1を除く範囲にわたって印刷される。
【0080】
次に、キャリッジ11を走査方向の左側に移動させつつ、最も右側のノズル列9を形成するノズル10からブラックインクを吐出させることにより、搬送方向に配列された複数の第2パターン302を印刷する。第2パターン302は、階段状のパターンであるが、この階段状パターンの段差は微小であるので、全体としては搬送方向に対して傾いた直線状のパターンに見える。
図12では、第2パターン302は斜線として表現されているが、より詳細には、第2パターン302は、
図13に示すように、搬送方向と平行に延びた、長さの短い直線状の第2線パターン302aが、走査方向にずれて搬送方向に配列されることによって形成されたパターンである。また、第2パターン302は、記録用紙Pの波形状となる範囲Rのうち、左端部に位置する範囲R2を除く範囲にわたって印刷される。また、第2パターン302を印刷するときには、ノズル10と記録用紙Pとの距離がある所定距離であるとした場合に、第1パターン301と第2パターン302との交点Bが、第1パターン301及び第2パターン302の中心部にくるような吐出タイミングで、ノズル10からインクを吐出する。
【0081】
以上のようにして複数の第1パターン301と複数の第2パターン302とを印刷することにより、記録用紙Pには、複数の第1パターン301と複数の第2パターン302とからなる検査用パターン300が印刷される。検査用パターン300は、重なりパターン部321と、第1単独パターン部322と、第2単独パターン部323とを有している。重なりパターン部321は、上記範囲Rのうち範囲R1、R2を除いた範囲に位置する、第1パターン301と第2パターン302とが重なった部分である。重なりパターン部321には、第1パターン301と第2パターン302とが交差した交差パターン310が形成されている。第1単独パターン部322は、上記範囲R2に位置する、第1パターン301のみが形成された部分である。第2単独パターン部323は、上記範囲R1に位置する、第2パターン302のみが形成された部分である。
【0082】
次に、読取部5で検査用パターン300を読み取ることにより、検査用パターン300の各部分の輝度を取得する(本発明の読取ステップ)。より詳細に説明すると、重なりパターン部321を、交差パターン310が所定個数ずつ含まれる複数の輝度取得領域330に区切り、さらに、輝度取得領域330を、搬送方向に並ぶ複数の領域331に区切る。そして、各領域331の輝度を取得する。また、単独パターン部322、323を、それぞれ、搬送方向に並ぶ複数の領域332、333に区切り、各領域332、333の輝度を取得する。
【0083】
次に、各輝度取得領域330の各領域331の輝度から、単独パターン部322、323の対応する領域332、333の輝度を差し引くことによって、各輝度取得領域330の各領域331の輝度を補正する(本発明の濃度取得ステップ)。
【0084】
ここで、交差パターン310においては、第1パターン301と第2パターン302との交点Bにおいて、第1線パターン301aと、第2線パターン302aとがほぼ完全に重なる。そして、交点Bから搬送方向に離れるほど、第1線パターン301aと第2線パターン302aとが走査方向にずれる。これにより、交差パターン310の太さは、交点Bにおいて最も細くなり、交点Bから搬送方向に離れるほど太くなる。したがって、交差パターン310の輝度は、交点Bを含む領域331において最も高くなり、交点Bから搬送方向に離れた領域331ほど低くなる。なお、
図12では、図面をわかりやすくするために、第2線パターン302aの搬送方向に対する傾きを実際よりも大きくしており、第1線パターン301aと第2線パターン302aとが交点B以外の大部分において重なっていないが、実際には、
図13に示すように、第2線パターン302aの搬送方向に対する傾きは、第1線パターン301aと第2線パターン302aとが、その大部分において少なくともその一部分同士が重なるような傾きとなっている。
【0085】
一方で、第3実施形態では、上述したように、ノズル10と記録用紙Pとの距離が上記所定距離である場合に、第1パターン301と第2パターン302との交点Bがこれらの中心部に位置する。そして、ノズル10と記録用紙Pとの距離が上記所定距離からずれていると、第1パターン301の形成位置と、第2パターン302の形成位置とが、走査方向の互いに反対側にずれ、これにより、交点Bが搬送方向にずれる。したがって、所定個数の交差パターン310を含む輝度取得領域330の輝度は、これらの交差パターン310における交点Bの位置を平均した位置において最も高くなる。なお、このとき、交点Bが搬送方向のどちら側にずれるかは、ノズル10と記録用紙Pとの距離が上記所定距離よりも大きいか小さいかによって決まる。また、交点Bのずれ量は、ノズル10と記録用紙Pとの距離の、上記所定距離との差、及び第2パターン302の傾き、キャリッジ11の移動速度、及び、ノズル10から吐出されたインクの飛翔速度によって決まる。一方で、第2パターン302の傾き、キャリッジ11の移動速度、及び、ノズル10から吐出されたインクの飛翔速度は、既知の量に制御されている。したがって、交点Bのずれ量は、ノズル10と記録用紙Pとの距離に対応した量になる。
【0086】
以上のことから、第3実施形態では、各輝度取得領域330における輝度が最も高くなる位置が、ノズル10と記録用紙Pの各輝度取得領域330に対応する部分との距離を示すものとなっている。
【0087】
しかしながら、第3実施形態では、第1パターン301を形成する複数の第1線パターン301aが、異なるノズル10から吐出されたインクによって印刷され、第2パターン302を形成する複数の第2線パターン302aが異なるノズル10から吐出されたインクによって印刷される。そのため、検査用パターン300を印刷するときに、一部のノズル10が目詰まりして、
図12(b)に示すように、線パターン301a、302aの一部が印刷されなかったり、一部のノズル10内のインクが増粘していることで、線パターン301a、302aの間に、太さにばらつきが生じたりすることがある。そして、これらの場合には、取得された輝度取得領域330の輝度のうちの一部が、本来得られるべき輝度と異なってしまう。
【0088】
そこで、第3実施形態では、上述したように、各輝度取得領域330の各領域331における輝度から、単独パターン部322、323の対応する領域332、333部分における輝度を差し引くことによって、各輝度取得領域330の各部分における輝度を補正する。そして、補正後の各輝度取得領域330の輝度を用いて、各輝度取得領域330における輝度が最も高くなる位置を特定する。そして、特定した位置に基づいて、ノズル10と記録用紙Pの各輝度取得領域330に対応する部分との距離を取得する。これにより、ノズル10と記録用紙Pの各部分との距離を精度よく取得することができる。
【0089】
一例として、
図14に示すように、ノズル10と記録用紙Pの当該輝度取得領域330に対応する部分との距離の関係から、ある輝度取得領域330の輝度が、本来、搬送方向上流側から4番目の領域331において最も高くなる場合において、搬送方向上流側から1番目の領域332、333に配置される線パターン301a、302aの一部が印刷されなかった場合について説明する。この場合には、搬送方向上流側から1番目の輝度取得領域330の輝度が最も低くなってしまう。
【0090】
一方で、この場合には、第1単独パターン部322の輝度が、搬送方向上流側から1番目の領域332において他の部分よりも高くなる。また、第2単独パターン部323の輝度が、搬送方向上流側から1番目の領域332において他の部分よりも高くなる。したがって、輝度取得領域330の各領域331の輝度から、単独パターン部322、323の対応する領域332、333における輝度を差し引くことによって、各輝度取得領域330の輝度を補正すれば、補正後の各輝度取得領域330の各領域331の間における輝度の大小関係が、ノズル10から正常にインクが吐出された場合の各輝度取得領域330の各領域331の間における輝度の大小関係と同じになる。すなわち、第1パターン301及び第2パターン302の一部に異常がある場合に、重なりパターン部321の輝度の情報から、上記異常による輝度の変化の影響を排除することができる。
【0091】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成については、適宜その説明を省略する。
【0092】
第1、第2実施形態では、Nが奇数であったが、Nは偶数であってもよい。この場合には、第1実施形態で[(N+1)/2]を[(N/2)+1]に置き換え、[(N−1)/2]を(N/2)に置き換えればよい。また、第2実施形態で[(N+1)/2]を(N/2)に置き換えればよい。
【0093】
第1実施形態では、重なりパターン部121の輝度から、第1単独パターン部122の輝度と、第1単独パターン部122の輝度の両方を差し引くことによって、重なりパターン部121の輝度を補正したが、これには限られない。重なりパターン部121の輝度から、単独パターン部122、123のうち何れか一方の輝度のみを差し引くことによって、重なりパターン部121の輝度を補正してもよい。そして、この場合には、検査用パターン100が、上記2つの単独パターン部122、123のうち、いずれか一方のみを有するものであってもよい。
【0094】
この場合でも、重なりパターン部121の輝度をそのまま用いる場合よりも、ノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きを精度よく検出することができる。ただし、ブラックインクの方がマゼンタインク(カラーインク)よりも濃いため、第1実施形態のように第1線パターン111aをブラックインクで印刷し、第2線パターン112aをマゼンタインク(カラーインク)で形成した場合には、第1線パターン111aの異常の方が、第2線パターン112aの異常よりも、重なりパターン部121の輝度に与える影響が大きい。したがって、重なりパターン部121の輝度から、単独パターン部122、123のうち何れか一方の輝度のみを差し引くことによって、重なりパターン部121の輝度を補正する場合には、重なりパターン部121の輝度から、ブラックのインクで印刷された単独パターン部122の輝度のみを差し引く方が、ノズル10の配列方向の搬送方向に対する傾きを精度よく検出することができる。
【0095】
同様に、第2実施形態において、重なりパターン部221の輝度から、単独パターン部222、223の何れか一方の輝度のみを差し引くことによって、重なりパターン部221の輝度を補正してもよい。また、第3実施形態において、各輝度取得領域320の輝度から、単独パターン部322、323の何れか一方の輝度のみを差し引くことによって、各輝度取得領域320の輝度を補正してもよい。
【0096】
さらには、重なりパターン部の輝度から、単独パターン部の輝度を差し引く以外の方法で、重なりパターン部の輝度を、単独パターン部の輝度を用いて補正してもよい。
【0097】
また、第1〜第3実施形態では、検査用パターンが、輝度が最も高くなる(濃度が最も小さくなる)部分の位置によって、プリンタ1における所定の特性を示すものであったが、これには限られない。検査用パターンは、輝度が最も低くなる(濃度が最も濃くなる)部分の位置によって、プリンタ1における所定の特性を示すものであってもよい。
【0098】
また、第1〜第3実施形態では、検査用パターンを複数の領域に区切り、領域毎の輝度を検出し、その中で最も輝度の高い領域を選択したが、これには限られない。例えば、上記複数の領域の輝度の値を用いて、これら複数の領域における輝度の値の変化にフィットするような近似曲線を算出し、この近似曲線が示す値が極大となる位置を選択するようにしてもよい。この場合には、輝度を取得するために区切った領域の数よりも細かい単位で、輝度が極大となる位置を選択することができる。
【0099】
また、第1実施形態では、第1線パターン111aをブラックインクで印刷し、第2線パターン112aをマゼンタインクで印刷したが、これには限られない。第2線パターン112aをイエローインク又はシアンインクで印刷してもよい。あるいは、第1線パターン111aを何れかの色のカラーインクで印刷し、第2線パターン112aを第1線パターン111aとは異なる色のカラーインクで印刷してもよい。
【0100】
あるいは、第1実施形態において、4つのノズル列9を形成するノズル10が全てブラックインクを吐出するノズルであり、あるノズル列9を形成するノズル10からブラックインクを吐出することで第1線パターン111a印刷し、第1線パターン111aの印刷に使用したのとは異なるノズル列9を形成するノズル10からブラックインクを吐出して、第2線パターン112aを印刷してもよい。
【0101】
また、第1実施形態では、4つのノズル列9のいずれにおいても、ノズル10の搬送方向の位置が同一であったが、ノズル10の搬送方向の位置は、ノズル列9間でずれていてもよい。例えば、マゼンタインクを吐出するノズル列9を形成するノズル10が。ブラックインクを吐出するノズル列9を形成するノズル10に対して、ノズル列9の長さCの整数分の1、あるいはその他の量だけ搬送方向にずれていてもよい。この場合には、そのずれ量を考慮して、理想的な状態で中央のブロックの輝度が極値をとるようにパターンを構成すればよい。
【0102】
また、第1実施形態では、N個の第2部分パターン112を印刷する間に、記録用紙Pを搬送しておらず、本発明の第2オフセット量が0となっていたが、これには限られない。第2部分パターン112を印刷する毎に、記録用紙Pを第1オフセット量(微小距離D)とは異なる第2オフセット量ずつ搬送してもよい。なお、この場合には、N個の第2部分パターン112を印刷する間に記録用紙Pが搬送されるため、N個の第2部分パターン112を印刷した後、[(N−1)/2]個の第1部分パターン111を印刷する前に、記録用紙Pを搬送して位置を調整する必要がある。
【0103】
また、第1〜第3実施形態では、N組の部分パターンの組のうち隣接する部分パターン(第3実施形態では線パターン)の間のずれ量が全て一定で、第1オフセット量及び第2オフセット量は一定の値であったが、第1オフセット量又は第2オフセット量は、隣接する部分パターン毎に異なっていてもよい。例えば、複数の部分パターンのうち、中央付近の部分パターンのオフセット量を小さくし、中央から遠い位置の部分パターンのオフセット量を大きくすれば、最終的に中央の部分パターンの輝度が極値となる状態に装置を調整することによって装置の調整精度を確保しつつも、ずれの大きな装置でもN個の部分パターンのいずれかの輝度が極値を取るようすることができる。すなわち、1つのパターンで調整精度の高さと調整レンジの広さを両立することができる。
【0104】
また、第1〜第3実施形態では、各実施形態に特有の、線パターンに異常が生じる要因について説明したが、線パターンに異常が生じる要因はこれには限られない。例えば、外部の電源からプリンタ1に供給される電圧が一時的に不安定になった場合にも、線パターンに異常が生じることがある。また、プリンタ1が配置された面が検査用パターンの印刷中に大きく振動した場合にも、線パターンに異常が生じることがある。また、キャリッジ11を走査方向に往復移動させつつ、ノズル10からインクを吐出させることによって印刷を行うプリンタ1では、キャリッジ11が右側に移動するときと左側に移動するときとで、キャリッジ11が加減速したときにインクジェットヘッド12内のインクに加わる力の向きが反対向きなる。そして、このインクジェットヘッド12内のインクに加わる力の違いによって、線パターンに異常が生じることがある。なお、これらの要因は第1〜第3実施形態に共通の要因である。
【0105】
また、プリンタ1で印刷する検査用パターンは、第1〜第3実施形態の検査用パターン100、200、300には限られない。検査用パターンは、2つのパターンが重なった重なりパターン部と、これら2つのパターンの一方のみが形成された単独パターンとを含む他のパターンであってもよい。このとき、2つのパターンは、複数の線パターンによって形成されるパターンであることにも限られない。例えば、記録用紙Pのある領域を塗りつぶすパターンなどであってもよい。さらに、このとき、検査用パターンは、第1〜第3実施形態で説明したのとは異なるプリンタ1の特性を示すものであってもよい。
【0106】
この場合には、どのような検査用パターンを印刷するかによって、第1パターンを印刷するときと第2パターンを印刷するときとで、ノズル10からのインクの吐出速度や体積が異なるなど、第1パターンを印刷するときと、第2パターンを印刷するときとで何らかの条件が異なり、その異なった条件間で生じるインク着弾位置ずれを用いてそれらの条件間での差として現れる何らかのプリンタ1の特性に関する情報を取得するようなパターンが構成しうる。そして、いずれの場合にも、上述したような外部の電源からプリンタ1に供給される電圧が一時的に不安定になった場合や、プリンタ1が配置された面が検査用パターンの印刷中に大きく振動した場合などには、第1パターンの一部あるいは第2パターンの一部に異常が生じることがある。したがって、これらの場合でも、重なりパターン部の輝度の情報を単独パターン部の輝度の情報で補正することにより、上記異常に起因する輝度の変化の影響を排除することができる。
【0107】
また、第1〜第3実施形態では、プリンタ1の読取部5で、検査用パターン100、200、300の読取を行ったが、これには限られない。プリンタ1とは別に設けられたスキャナなどによって、検査用パターン100、200、300の読取を行ってもよい。この場合には、例えば、プリンタ1の操作部6を操作することによって、補正後の重なりパターン部の、輝度が最も高い部分の位置の情報をプリンタ1に入力するなどすればよい。
【0108】
また、以上では、キャリッジを走査方向に移動させつつ、ノズルからインクを吐出することによって印刷を行う、いわゆるシリアル式のインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタによって検査用画像を印刷し、印刷した検査用画像を読み取る場合に、本発明を適用した例について説明したが、これには限られない。記録用紙Pの幅方向の全長にわたって延びたいわゆるラインヘッドを備えたインクジェットプリンタによって検査用画像を印刷し、印刷した検査用画像を読み取る場合に本発明を適用することも可能である。さらには、ノズルからインク以外の液体を吐出する産業用のプリンタや、レーザプリンタのようにノズルから液体を吐出する以外の方法で印刷を行う印刷装置など、インクジェットプリンタ以外の印刷装置によって検査用画像を印刷し、印刷した検査用画像を読み取る場合に、本発明を適用することも可能である。