特許第6221907号(P6221907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6221907
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/667 20060101AFI20171023BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20171023BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20171023BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20171023BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20171023BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   G11B5/667
   G11B5/738
   G11B5/65
   G11B5/64
   G11B5/78
   G11B5/851
【請求項の数】17
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-74953(P2014-74953)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-197937(P2015-197937A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】関口 昇
(72)【発明者】
【氏名】立花 淳一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 知恵
(72)【発明者】
【氏名】照井 輝
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−353256(JP,A)
【文献】 特開2008−034060(JP,A)
【文献】 特開2010−257567(JP,A)
【文献】 特開2013−157071(JP,A)
【文献】 特開2009−059431(JP,A)
【文献】 特開2007−179598(JP,A)
【文献】 特開2006−185566(JP,A)
【文献】 特開平09−091699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/667
G11B 5/64
G11B 5/65
G11B 5/738
G11B 5/78
G11B 5/851
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する長尺状の基材と、
下地層と、
記録層と
上記基材と上記下地層の間に設けられた軟磁性裏打ち層と、
上記基材と上記軟磁性裏打ち層の間に設けられた、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層と
を備え、
X線回折ピークの中で、上記記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、5°以上10°未満であり、
上記下地層が、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層を備える磁気記録媒体。
【請求項2】
可撓性を有する長尺状の基材と、下地層と、記録層とを備え、
X線回折ピークの中で、上記記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、°以上10°未満であり、
上記下地層が、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層を備える磁気記録媒体。
【請求項3】
上記下地層が、上記TiおよびCrを含む層上に設けられ、NiおよびWを含む層をさらに備える請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記TiおよびCrを含む層は、さらにO(酸素)を含む請求項1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記基材と上記下地層の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である請求項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
記軟磁性裏打ち層と上記下地層の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である請求項に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記軟磁性裏打ち層が、APC構造を有する請求項に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
上記下地層と上記記録層の間に設けられた中間層をさらに備え、
X線回折ピークの中で、上記中間層に含まれる原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、4°以上9°以下である請求項1から7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記中間層は、組成が同一で、成膜条件が異なる複数の層を備える請求項8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
上記中間層が、Ruを含んでいる請求項8または9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
上記記録層の平均厚みが、10nm以上である請求項1から10のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
上記記録層は、垂直記録層である請求項1から11のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
上記記録層が、グラニュラ構造を有している請求項1から12のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
上記記録層が、Co、CrおよびPtを含む合金と、Siを含む酸化物とを含んでいる請求項1から13のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
上記記録層に含まれる結晶粒子の平均粒径が、6nm以上8nm以下である請求項1から14のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
CAP層をさらに備える請求項1から15のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
抗磁力Hcが、3000Oe以上5500Oe以下であり、
角型比Rsが、85%以上である請求項1から16のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、可撓性を有する基材を用いる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ(以下「HDD」という。)に用いられる磁気記録媒体は、記録磁化の配置の仕方により面内磁気記録媒体と垂直磁気記録媒体に大別される。高記録密度化の観点からすると、垂直磁気記録媒体が面内磁気記録媒体に比して有利である。
【0003】
垂直磁気記録媒体では、記録層内の磁性体微結晶の磁化容易軸が基板に対して垂直になるように配向される。高記録密度化のためには、磁性体微結晶の磁化容易軸を垂直方向にきちんと揃うように配向させることが重要となる。
【0004】
特許文献1では、HDD用の磁気記録媒体において、垂直記録層における磁性体微結晶の磁化容易軸の配向分散を抑制して、配向分散の指標であるΔθ50を3度程度に抑えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−287808号公報(段落[0054]参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本技術の目的は、記録再生特性と信頼性を両立できる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本技術は、可撓性を有する長尺状の基材と、下地層と、記録層、基材と下地層の間に設けられた軟磁性裏打ち層と、基材と軟磁性裏打ち層の間に設けられた、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層とを備え、X線回折ピークの中で、記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、5°以上10°未満であり、下地層が、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層を備える磁気記録媒体である。
また、本技術は、可撓性を有する長尺状の基材と、下地層と、記録層とを備え、X線回折ピークの中で、記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、7°以上10°未満であり、下地層が、アモルファス状態を有し、TiおよびCrを含む層を備える磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本技術によれば、記録再生特性と信頼性を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造に用いられるスパッタ装置の構成の一例を示す概略図である。
図3図3Aは、本技術の第1の実施形態の変形例1に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。図3Bは、本技術の第1の実施形態の変形例2に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、本技術の第1の実施形態の変形例3に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図5図5は、本技術の第1の実施形態の変形例4に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図6図6は、本技術の第2の実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図7図7は、本技術の第3の実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
磁気記録媒体は、ガラス基板や合金基板などの剛性基材を用いる磁気記録媒体(いわゆるHDDに用いられる磁気記録媒体)と、高分子フィルムなどの可撓性基材を用いる磁気記録媒体(いわゆる磁気テープ)とに大別される。両媒体は、製造工程および記録再生システムにおいて以下の相違点を有する。
【0011】
・製造工程に関する相違点
剛性基材を用いる磁気記録媒体では、上述したようにガラス基板や合金基板などが用いられるため、基材を加熱することが可能である。したがって、表面性が悪い基材上に薄膜を成膜する場合であっても、基材を加熱しながら薄膜を成膜などすれば、薄膜の膜質はその成膜面の状態に大きな影響を受けずに済む。つまり、成膜面の状態に関わらず、比較的望ましい膜質の薄膜を成膜でき、比較的良好な記録再生特性を得ることができる。
【0012】
一方、可撓性基材を用いる磁気記録媒体では、上述したように高分子フィルムなどが用いられるため、基材を加熱することは困難である。したがって、薄膜の成膜面の状態が、薄膜の膜質に大きく影響することになる。つまり、望ましい薄膜の膜質を成膜し、良好な記録再生特性を得るためには、成膜面の状態が重要となる。
【0013】
・記録再生システムに関する相違点
剛性基材を用いる磁気記録媒体の記録再生システムでは、浮動ヘッド(flying head)が用いられるため、媒体とヘッドは通常摺動することはない。したがって、この記録媒体では、摺動性を考慮する必要がないから、下地層の膜質向上の観点から、下地層の成膜面は、平滑であればあるほど望ましいということになる。
【0014】
一方、可撓性基材を用いる磁気記録媒体の記録再生システムでは、媒体とヘッドとの摺動が前提となる。このため、過度な表面性向上は、摩擦の増大を生じさせ、摺動性能が低下する。このように摺動性が低下すると、磁気記録媒体の信頼性の低下を招くこととなる。
【0015】
上述した両媒体の相違点から、可撓性基材を用いる磁気記録媒体において特有な以下の問題が明らかになる。可撓性基材を用いる磁気記録媒体では、優れた記録再生特性を実現すべく、下地層の成膜面を平滑にすると、摺動性能の低下を招く、すなわち、信頼性の低下を招くことになる。これとは逆に、摺動性能を向上すべく、すなわち優れた信頼性を得るべく、下地層の成膜面の平滑性を低下させると、記録再生特性の低下を招くことになる。すなわち、可撓性基材を用いる磁気記録媒体には、記録再生特性と信頼性を両立することが困難であるという問題がある。
【0016】
そこで、本発明者らは、可撓性基材を用いる磁気記録媒体において、記録再生特性と信頼性を両立すべく、鋭意検討を行った。その結果、記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にすることで、記録再生特性と信頼性を両立できることを見出した。
【0017】
Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法としては、例えば、記録層に含まれる磁性結晶の配向と密接な関係を持った下地層の下の層の表面性、例えば基材または軟磁性裏打ち層の表面性を調整する方法が挙げられる。但し、Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法はこれに限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。
【0018】
本技術において、下地層と記録層との間に設けられた中間層をさらに備えることが好ましい。また、記録層の表面に隣接して設けられたCAP層をさらに備えることが好ましい。
【0019】
本技術において、下地層、中間層および記録層の各層は、単層構造および多層構造のいずれであってもよい。磁気記録媒体の記録再生特性などの向上の観点からすると、多層構造を採用することが好ましい。製造効率を考慮すると、多層構造のうちでも2層構造を採用することが好ましい。
【0020】
本技術において、磁気記録媒体が基材と下地層との間に、または下地層と記録層との間に設けられた軟磁性層をさらに備えることが好ましい。磁気記録媒体が下地層と記録層との間に中間層を備える場合には、下地層と中間層との間に軟磁性層をさらに備えるようにしてもよい。軟磁性層の構造としては、単層構造および多層構造のいずれを用いてもよいが、記録再生特性の向上の観点からすると、多層構造を用いることが好ましい。多層構造を有する軟磁性層としては、第1の軟磁性層と中間層と第2の軟磁性層とを備え、中間層が第1の軟磁性層と第2の軟磁性層との間に設けられているものが好ましい。磁気記録媒体が軟磁性層を備える場合、基材と軟磁性層との間、および軟磁性層と記録層との間のうちの少なくとも一方に、下地層を備えることが好ましい。
【0021】
本技術において、中間層はRuを含んでいることが好ましい。Ruは、Ru単体、Ru合金またはRu酸化物の形態で含まれていることが好ましいが、特にこれらの形態に限定されるものではない。下地層はTiまたはNiを含んでいることが好ましい。このような構成を有する下地層としては、Ti合金を含む単一層、Ni合金を含む単一層、またはそれらの積層膜が挙げられるが、特にこれらの構成に限定されるものではない。
【0022】
本技術において、生産性向上の観点から、下地層および記録層は、Roll to Roll法により連続成膜されていることが好ましい。磁気記録媒体が、中間層、下地層およびCAP層のうちの少なくとも1種を備える場合には、その層も下地層および記録層とともにRoll to Roll法により連続成膜されていることが好ましい。成膜方法としては、スパッタリング法などの物理的堆積法を用いることが好ましい。
【0023】
本技術の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
1.第1の実施形態(磁気記録媒体の例)
1.1 磁気記録媒体の構成
1.2 スパッタ装置の構成
1.3 磁気記録媒体の製造方法
1.4 効果
1.5 変形例
2.第2の実施形態(磁気記録媒体の例)
2.1 磁気記録媒体の構成
2.2 効果
2.3 変形例
3.第3の実施形態(磁気記録媒体の例)
3.1 磁気記録媒体の構成
3.2 効果
3.3 変形例
【0024】
<1.第1の実施形態>
第1の実施形態では、下地層の下の層が基材であり、この基材表面の算術平均粗さRa、すなわち基材−下地層の界面の算術平均粗さRaを調整することで、記録層の配向強度Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内とした磁気記録媒体を例として説明する。
【0025】
[1.1 磁気記録媒体の構成]
図1に示すように、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体は、いわゆる単層垂直磁気記録媒体であり、基材11と、基材11の表面に設けられた下地層12と、下地層12の表面に設けられた記録層13とを備える。この磁気記録媒体は、必要に応じて、記録層13の表面に設けられた保護層14と、保護層14の表面に設けられたトップコート層15とをさらに備えるようにしてもよい。
【0026】
下地層12および記録層13は、例えば物理的堆積法により成膜されている。物理的堆積法としては、生産性などの観点から、スパッタリング法が好ましい。下地層12および記録層13は、Roll to Roll法により連続成膜されていることが好ましい。なお、本明細書では、軟磁性裏打ち層を持たない磁気記録媒体を「単層垂直磁気記録媒体」と称し、軟磁性裏打ち層を有する磁気記録媒体を「二層垂直磁気記録媒体」と称する。
【0027】
この磁気記録媒体は、今後ますます需要が高まることが期待されるデータアーカイブ用ストレージメディアとして用いて好適なものである。この磁気記録媒体は、例えば、現在のストレージ用塗布型磁気テープの10倍以上の面記録密度、すなわち50Gb/in2の面記録密度を実現することが可能である。このような面記録密度を有する磁気記録媒体を用いて、一般のリニア記録方式のデータカートリッジを構成した場合には、データカートリッジ1巻当たり50TB以上の大容量記録が可能になる。この磁気記録媒体は、リング型の記録ヘッドと巨大磁気抵抗効果(Giant Magnetoresistive:GMR)型の再生ヘッドを用いる記録再生装置に用いて好適なものである。
【0028】
Kerr効果を用いて測定した磁気記録媒体の垂直方向の磁気特性Hc(保持力)が、3000Oe以上5500Oe以下であり、かつ垂直方向の磁気特性Rs(角型比)が85%以上であることが好ましい。磁気特性Hcおよび磁気特性Rsがこの範囲にあることで、良好な記録再生特性を得ることができる。
【0029】
(基材)
支持体となる基材11は、例えば、長尺状のフィルムであり、長手方向(MD方向)および短手方向(TD方向)を持つ表面を有している。基材11としては、可撓性を有する非磁性基材を用いることが好ましい。非磁性基材の材料としては、例えば、通常の磁気記録媒体に用いられる可撓性の高分子樹脂材料を用いることができる。このような高分子材料の具体例としては、ポリエステル類、ポリオレフィン類、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、ポリイミド類、ポリアミド類またはポリカーボネートなどが挙げられる。
【0030】
基材11は、微細凹凸を持った凹凸面を有していることが好ましい。下地層12および記録層13などの各層は、この凹凸面に倣った形状を有していることが好ましい。基材11と下地層12とが隣接して設けられ、下地層12の下の層となる基材11の表面(成膜面)の算術平均粗さRa、すなわち基材11−下地層12の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下であることが好ましい。これにより、磁気記録媒体のX線回折ピークの中で、記録層13に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値を、5°以上10°未満の範囲内にできる。但し、Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法は、上述した基材11の表面性の調整する方法に限定されるものではなく、これ以外の方法を用いてもよい。
【0031】
(下地層)
下地層12は、基材11と記録層13との間に設けられている。下地層12は、TiまたはNiの合金を含んでいることが好ましく、例えばTi合金を含む単一層、Ni合金を含む単一層、またはそれらが積層された積層膜である。
【0032】
Ti合金を含む下地層12としては、TiおよびCrを含む合金を含み、アモルファス状態を有しているものが好ましい。また、この合金には、O(酸素)がさらに含まれていてもよい。この酸素は、例えば、スパッタリング法などの成膜法で下地層12を成膜する際に、下地層12内に微量に含まれる不純物酸素である。ここで、「合金」とは、TiおよびCrを含む固溶体、共晶体、および金属間化合物などの少なくとも一種を意味する。「アモルファス状態」とは、電子線回折法により、ハローが観測され、結晶構造を特定できないことを意味する。
【0033】
TiおよびCrを含む合金を含み、アモルファス状態を有する下地層12には、基材11に吸着したO2ガスやH2Oなどの影響を抑制するとともに、基材11の表面の凹凸を緩和して基材11の表面に金属性の平滑面を形成する作用がある。この作用により、記録層13の垂直配向性が向上する。なお、下地層12の状態を結晶状態にすると、結晶成長に伴うカラム形状が明瞭となり、基材11の表面の凹凸が強調され、記録層13の結晶配向が悪化する虞がある。
【0034】
下地層12に含まれるTi、CrおよびO(酸素)の総量に対するOの割合は、好ましくは15原子%(atomic%:at%)以下、より好ましくは10原子%以下である。酸素の割合が15原子%を超えると、TiO2結晶が生成することにより、下地層12の表面に形成される記録層13の結晶核形成に影響を与えるようになり、記録層13の配向性が低下する虞がある。
【0035】
下地層12に含まれるTiおよびCrの総量に対するTiの割合は、好ましくは30原子%以上100原子%以下、より好ましくは50原子%以上100原子%以下の範囲内である。Tiの比率が30%未満であると、Crの体心立方格子(Body-Centered Cubic lattice:bcc)構造の(100)面が配向するようになり、下地層12の表面に形成される記録層13の配向性が低下する虞がある。
【0036】
なお、上記元素の割合は次のようにして求めることができる。磁気記録媒体のトップコート層15側からイオンビームによるエッチングを行い、エッチングされた下地層12の最表面についてオージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率を上記元素の割合とする。具体的には、Ti、CrおよびOの3元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定する。
【0037】
下地層12に含まれる合金が、TiおよびCr以外の元素を添加元素としてさらに含んでいてもよい。この添加元素としては、例えば、Nb、Ni、Mo、AlおよびWなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。
【0038】
Ni合金を含む下地層12としては、NiおよびWを含む合金を含んでいるものが好ましい。この場合、下地層12がアモルファル状態を有していてもよい。
【0039】
(記録層)
磁気記録媒体のX線回折ピークの中で、磁性層である記録層13に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、5°以上10°未満である。5°未満であると、摺動性能が低下するため、信頼性が低下する。一方、10°以上であると、記録層13に含まれる結晶粒子の配向性が低下するため、記録再生特性が低下する
【0040】
Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法としては、例えば磁性結晶粒子の配向と密接な関係を持った下地層12の下の層となる基材11の表面の算術平均粗さRa、すなわち基材11−下地層12の界面の算術平均粗さRaを調整する方法が挙げられる。但し、Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法は、上述した基材11の表面性の調整する方法に限定されるものではなく、これ以外の方法を用いてもよい。
【0041】
記録層13の平均厚みは、好ましくは10nm以上、より好ましくは10nm以上30nmである。平均厚みが10nm未満であると、磁性粒子のサイズが小さくなることにより、熱擾乱の影響が大きくなり、記録磁化の保持が困難となる。一方、平均厚みが30nmを超えると、ノイズの増大によりSNRが低下する。
【0042】
記録層13は、記録密度向上の観点から、垂直記録層であることが好ましい。垂直記録層は、Co系合金を含むグラニュラ磁性層であることが好ましい。このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含む強磁性結晶粒子と、この強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界(非磁性体)とから構成されている。より具体的には、このグラニュラ磁性層は、Co系合金を含むカラム(柱状結晶)と、このカラムを取り囲み、それぞれのカラムを磁気的に分離する非磁性粒界(例えばSiO2などの酸化物)とから構成されている。この構造では、それぞれのカラムが磁気的に分離した構造を有する記録層13を構成することができる。
【0043】
Co系合金は、六方細密充填(hcp)構造を有し、そのc軸が膜面に対して垂直方向(膜厚方向)に配向している。Co系合金としては、少なくともCo、CrおよびPtを含有するCoCrPt系合金を用いることが好ましい。CoCrPt系合金は、特に限定されるものではなく、CoCrPt合金がさらに添加元素を含んでいてもよい。添加元素としては、例えば、NiおよびTaなどからなる群より選ばれる1種以上の元素が挙げられる。
【0044】
強磁性結晶粒子を取り巻く非磁性粒界は、非磁性金属材料を含んでいる。ここで、金属には半金属を含むものとする。非磁性金属材料としては、例えば、金属酸化物および金属窒化物のうちの少なくとも一方を用いることができ、グラニュラ構造をより安定に維持する観点からすると、金属酸化物を用いることが好ましい。金属酸化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、YおよびHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属酸化物が挙げられ、少なくともSi酸化物(すなわちSiO2)を含んでいる金属酸化物が好ましい。その具体例としては、SiO2、Cr23、CoO、Al23、TiO2、Ta25、ZrO2またはHfO2などが挙げられる。金属窒化物としては、Si、Cr、Co、Al、Ti、Ta、Zr、Ce、YおよびHfなどからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む金属窒化物が挙げられる。その具体例としては、SiN、TiNまたはAlNなどが挙げられる。グラニュラ構造をより安定に維持するためには、非磁性粒界が金属窒化物および金属酸化物のうち金属酸化物を含んでいることが好ましい。
【0045】
SNR(Signal-Noise Ratio)の更なる向上を実現する観点からすると、記録層13は、以下の式に示す平均組成を有していることが好ましい。反磁界の影響を抑え、かつ、十分な再生出力を確保できる飽和磁化量Msを実現でき、これにより、高いSNRを確保できるからである。
(CoxPtyCr100-x-y100-z−(SiO2z
(但し、式中において、x、y、zはそれぞれ、69≦X≦72、12≦y≦16、9≦Z≦12の範囲内の値である。)
【0046】
なお、上記組成は次のようにして求めることができる。磁気記録媒体のトップコート層15側からイオンビームによるエッチングを行い、エッチングされた記録層13の最表面についてオージェ電子分光法による解析を実施し、膜厚に対する平均の原子数比率を上記組成として求める。具体的には、Co、Pt、Cr、SiおよびOの5元素について解析を行い、その百分率比率による元素量を同定する。
【0047】
記録層13に含まれる結晶粒子の平均粒径が、6nm以上8nm以下であることが好ましい。平均粒径が6nm未満であると、熱擾乱の影響が大きくなり、記録磁化の保持が困難となる。一方、平均粒径が8nmを超えると、グレイン間の間隔が狭くなることにより、交換相互作用が強くなり、ノイズが増大する。
【0048】
本実施形態に係る磁気記録媒体は、軟磁性材料を含む裏打ち層(軟磁性裏打ち層)を有さない単層磁気記録媒体であるが、この種の磁気記録媒体では、記録層13に起因する垂直方向への反磁界の影響が大きいと、垂直方向への十分な記録が困難となる傾向がある。反磁界は、記録層13の飽和磁化量Msに比例して大きくなるので、反磁界を抑えるためには飽和磁化量Msを小さくすることが望ましい。しかしながら、飽和磁化量Msが小さくなると、残留磁化量Mrが小さくなり、再生出力が低下する。したがって、記録層13に含まれる材料は、反磁界の影響の抑制(すなわち飽和磁化量Msの低減)と、十分な再生出力を確保できる残留磁化量Mrとを両立する観点から選択することが好ましい。上記式の平均組成においては、これらの特性を両立し、高いSNRを確保できる。
【0049】
(保護層)
保護層14は、例えば、炭素材料または二酸化ケイ素(SiO2)を含み、保護層14の膜強度の観点からすると、炭素材料を含んでいることが好ましい。炭素材料としては、例えば、グラファイト、ダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)またはダイヤモンドなどが挙げられる。
【0050】
(トップコート層)
トップコート層15は、例えば潤滑剤を含んでいる。潤滑剤としては、例えば、シリコーン系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤またはフッ素化炭化水素系潤滑剤などを用いることができる。
【0051】
[1.2 スパッタ装置の構成]
図2は、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体の製造に用いられるスパッタ装置の構成の一例を示す概略図である。このスパッタ装置は、下地層12および記録層13の成膜に用いられる連続巻取式スパッタ装置であり、図2に示すように、成膜室21と、金属キャン(回転体)であるドラム22と、カソード23a、23bと、供給リール24と、巻き取りリール25と、複数のガイドロール27、28とを備える。スパッタ装置は、例えばDC(直流)マグネトロンスパッタリング方式の装置であるが、スパッタリング方式はこの方式に限定されるものではない。
【0052】
成膜室21は、排気口26を介して図示しない真空ポンプに接続され、この真空ポンプにより成膜室21内の雰囲気が所定の真空度に設定される。成膜室21の内部には、回転可能な構成を有するドラム22、供給リール24および巻き取りリール25が配置されている。成膜室21の内部には、供給リール24とドラム22との間における基材11の搬送をガイドするための複数のガイドロール27が設けられていると共に、ドラム22と巻き取りリール25との間における基材11の搬送をガイドするための複数のガイドロール28が設けられている。スパッタ時には、供給リール24から巻き出された基材11が、ガイドロール27、ドラム22およびガイドロール28を介して巻き取りリール25に巻き取られる。ドラム22は円柱状の形状を有し、細長い矩形状の基材11はドラム22の円柱面状の周面に沿わせて搬送される。ドラム22には、図示しない冷却機構が設けられており、スパッタ時には、例えば−20℃程度に冷却される。成膜室21の内部には、ドラム22の周面に対向して複数のカソード23a、23bが配置されている。これらのカソード23a、23bにはそれぞれターゲットがセットされている。具体的には、カソード23a、23bにはそれぞれ、下地層12、記録層13を成膜するためのターゲットがセットされている。これらのカソード23a、23bにより複数の種類の膜、すなわち下地層12および記録層13が、基材11の1回の搬送で同時に成膜される。
【0053】
スパッタ時の成膜室21の雰囲気は、例えば、1×10-5Pa〜5×10-5Pa程度に設定される。下地層12および記録層13の膜厚および特性(例えば磁気特性)は、基材11を巻き取るテープライン速度、スパッタ時に導入するArガスの圧力(スパッタガス圧)、および投入電力などを調整することにより制御可能である。テープライン速度は、1m/min〜10m/min程度の範囲内であることが好ましい。スパッタガス圧は、0.1Pa〜5Pa程度の範囲内であることが好ましい。投入電力量は、30mW/mm2〜150mW/mm2程度の範囲内であることが好ましい。
【0054】
上述の構成を有するスパッタ装置では、下地層12、および磁気記録層13をRoll to Roll法により連続成膜することができる。
【0055】
[1.3 磁気記録媒体の製造方法]
本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0056】
まず、図2に示したスパッタ装置を用いて、下地層12および記録層13を基材11の上に形成する。具体的には以下のようにして成膜する。まず、成膜室21を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、成膜室21内にArガスなどのプロセスガスを導入しながら、カソード23a、23bにセットされたターゲットをスパッタして、走行する基材11の表面に下地層12および記録層13を順次成膜する。
【0057】
なお、供給リール24から基材11を巻き出し、ドラム22を介して巻き取りリール25に巻き取る1回の工程で、下地層12のみを成膜し、再度巻き取りリール25から基材11を巻き出し、供給リール24に巻き取る更なる工程で、記録層13を成膜するようにしてもよい。但し、このように下地層12および記録層13を別々の走行工程で成膜すると、膜の表面状態に変質を招く虞があるため、上述したように1回の走行工程で下地層12および記録層13を同時に成膜することが好ましい。
【0058】
次に、記録層13の表面に保護層14を形成する。保護層14の形成方法としては、例えば化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法または物理蒸着(physical vapor deposition:PVD)法を用いることができる。
【0059】
次に、例えば潤滑剤を保護層14の表面に塗布し、トップコート層15を形成する。潤滑剤の塗布方法はとしては、例えば、グラビアコーティング、ディップコーティングなどの各種塗布方法を用いることができる。
以上により、図1に示した磁気記録媒体が得られる。
【0060】
[1.4 効果]
第1の実施形態に係る磁気記録媒体では、可撓性を有する基材11の表面の算術平均粗さRa、すなわち基材11−下地層12の界面の算術平均粗さRaを調整することで、Δθ50の値を5°以上10°未満にしている。したがって、記録再生特性と信頼性を両立できる。
【0061】
[1.5 変形例]
上述の第1の実施形態では、基材11の表面に、下地層12、記録層13を順次積層した構成について説明した。しかしながら、磁気記録媒体の層構成はこれに限定されるものではなく、基材11の表面の算術平均粗さRa、すなわち基材11−下地層12の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下となっていれば、他の層構成を採用してもよい。以下に、他の層構成について説明する。
【0062】
(変形例1)
図3Aに示すように、磁気記録媒体が、下地層12と記録層13との間に、中間層16をさらに備えるようにしてもよい。中間層16は、記録層13と同様の結晶構造を有していることが好ましい。記録層13がCo系合金を含んでいる場合には、中間層16は、Co系合金と同様の六方細密充填(hcp)構造を有する材料を含み、その構造のc軸が膜面に対して垂直方向(すなわち膜厚方向)に配向していることが好ましい。記録層13の配向性を高め、かつ、中間層16と記録層13との格子定数のマッチングを比較的良好にできるからである。六方細密充填(hcp)構造を有する材料としては、Ruを含む材料を用いることが好ましく、具体的にはRu単体、Ru合金またはRu酸化物が好ましい。Ru酸化物としては、例えば、Ru−SiO2、Ru−TiO2またはRu−ZrO2などのRu合金酸化物が挙げられる。
【0063】
なお、中間層16は単層構造に限定されるものではなく、2層以上の多層構造であってもよい。中間層16が多層構造を有する場合、それらの複数の中間層は、組成が同一であるが、スパッタ条件などの成膜条件が異なっているものが用いられる。例えば中間層16が2層構造を有する場合、中間層16は、第1の中間層(下側中間層)および第2の中間層(上側中間層)を備える。第1の中間層が下地層12の側に設けられ、第2の中間層が記録層13の側に設けられる。
【0064】
第1、第2の中間層の材料としては、例えば、上述した中間層16と同様のものを用いることができる。しかしながら、第1、第2の中間層それぞれにおいて目的とする効果が異なっており、それ故にそれぞれの成膜条件は異なるものとなる。すなわち、第1の中間層については結晶配向性の高い膜構造とすることが好ましく、第2の中間層についてはその上層となる記録層13のグラニュラ構造を促進する膜構造とすることが好ましい。
【0065】
磁気記録媒体のX線回折ピークの中で、中間層16に含まれる原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、4°以上9°以下であることが好ましい。これにより、中間層16上に設けられる記録層13のΔθ50の値を5°以上10°未満にできる。すなわち、記録再生特性と信頼性を両立できる。
【0066】
(変形例2)
図3Bに示すように、磁気記録媒体が、記録層13と保護層14との間に、CAP層(スタック層)17をさらに備えるようにしてもよい。グラニュラ構造を有する記録層13と、この記録層13に隣接して設けられたCAP層17とからなる積層構造は、一般にCoupled Granular Continuous(CGC)と呼ばれている。CAP層17の膜厚は、4nm以上12nm以下であることが好ましい。CAP層17の膜厚を4nm以上12nm以下の範囲内に選択することで、より良好な記録再生特性を得ることができる。CAP層17は、CoCrPt系材料を含んでいることが好ましい。CoCrPt系材料としては、例えば、CoCrPt、CoCrPtB、これら材料に金属酸化物をさらに添加した材料(CoCrPt−金属酸化物、CoCrPtB−金属酸化物)などが挙げられる。添加する金属酸化物としては、例えば、Si、Ti、Mg、TaおよびCrなどからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。その具体例としては、SiO2、TiO2、MgO、Ta25、Cr23、それらの2種以上の混合体などが挙げられる。
【0067】
グラニュラ構造を有する記録層13上にCAP層17を設けた構造を採用した場合には、これらの記録層13とCAP層17との間で交換相互作用による磁気的結合を発生させ、その効果により、Hc近傍でのM−Hループの傾きを急峻とすることで、記録を容易とすることができる。通常、記録層13のみでM−Hループの傾きを急峻とした場合、ノイズの増大が観察されるが、この構造の場合には、ノイズを発生する記録の構造は低ノイズ構造を維持できるため、低ノイズでかつ記録が容易となる構造を実現できる。
【0068】
(変形例3)
図4に示すように、磁気記録媒体が、いわゆる二層垂直磁気記録媒体であり、下地層12と記録層13との間に、単層構造の軟磁性裏打ち層(Soft magnetic underlayer、以下「SUL」という。)18をさらに備えるようにしてもよい。この磁気記録媒体は、単磁極型(Single Pole Type:SPT)の記録ヘッドとトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistive:TMR)型の再生ヘッドを用いる記録再生装置に用いて好適なものである。
【0069】
SUL18の膜厚は、好ましくは40nm以上、より好ましくは40nm以上140nm以下である。40nm未満であると、記録再生特性が低下する傾向がある。一方、140nmを超えると、SUL18の結晶粒の粗大化による記録層13の結晶配向性の低下が顕著となるとともに、SUL18の成膜時間が長くなり、生産性の低下を招く虞がある。SUL18は、アモルファス状態の軟磁性材料を含んでいる。軟磁性材料としては、例えば、Co系材料またはFe系材料などを用いることができる。Co系材料としては、例えば、CoZrNb、CoZrTa、CoZrTaNbなどが挙げられる。Fe系材料としては、例えば、FeCoB、FeCoZr、FeCoTaなどが挙げられる。
【0070】
SUL18はアモルファス状態を有するため、SUL18上に形成される層のエピタキシャル成長を促す役割を担わないが、SUL18の上に形成される記録層13の結晶配向を乱さないことが求められる。そのためには、軟磁性材料がカラムを形成しない微細な構造を有していることが必要となるが、基材11からの水分などのデガスの影響が大きい場合、軟磁性材料が粗大化し、SUL18上に形成される記録層13の結晶配向を乱してしまう虞がある。下地層12を基材11の表面に設けることで、それらの影響を抑えることができる。特に、水分や酸素などの気体の吸着の多い、高分子材料のフィルムを基材11として用いる場合、それらの影響を抑えるために下地層12を設けることが望ましい。
【0071】
この磁気記録媒体では、垂直磁性層である記録層13の下にSUL18を設けることで、記録層13の表層に発生する磁極の発生を減磁界を抑えるとともに、ヘッド磁束をSUL18中に誘導することにより、鋭いヘッド磁界の発生を助ける役割を果たす。また、基材11とSUL18との間に下地層12を設けているので、SUL18に含まれる軟磁性材料の粗大化を抑制することができる。すなわち、下地層12における結晶配向の乱れを抑制することができる。したがって、高い面記録密度を有する磁気記録媒体において、良好な記録再生特性を実現することができる。
【0072】
(変形例4)
図5に示すように、磁気記録媒体は、図4に示した単層構造の軟磁性裏打ち層18に代えて、多層構造の軟磁性裏打ち層であるAntiparallel Coupled SUL(以下「APC−SUL」という。)19を備えるようにしてもよい。
【0073】
APC−SUL19は、薄い中間層19bを介して2つの軟磁性層19a、19cを積層し、中間層19bを介した交換結合を利用して積極的に磁化を反平行に結合させた構造を有している。軟磁性層19a、19cの膜厚は略同一であることが好ましい。軟磁性層19a、19cのトータルの膜厚は、好ましくは40nm以上、より好ましくは40nm以上70nm以下である。40nm未満であると、記録再生特性が低下する傾向がある。一方、70nmを超えると、APC−SUL19の成膜時間が長くなり、生産性の低下を招く虞がある。軟磁性層19a、19cの材料は同一の材料であることが好ましく、その材料としては、変形例3におけるSUL18と同様の材料を用いることができる。中間層19bの膜厚は、例えば0.8nm以上1.4nm以下、好ましくは0.9nm以上1.3nm以下、より好ましくは1.1nm程度である。中間層19bの膜厚を0.9nm以上1.3nm以下の範囲内に選択することで、より良好な記録再生特性を得ることができる。中間層19bの材料としては、V、Cr、Mo、Cu、Ru、Rh、およびReなどが挙げられ、特に、Ruを含んでいることが好ましい。
【0074】
この磁気記録媒体では、APC−SUL19を用いているので、上層部である軟磁性層19aと下層部である軟磁性層19cとが反平行に交換結合し、残留磁化状態で上下層トータルの磁化量はゼロなる。これにより、APC−SUL19中の磁区が動いた場合に発生する、スパイク状のノイズの発生を抑えることができる。したがって、記録再生特性を更に向上することができる。
【0075】
<2.第2の実施形態>
第2の実施形態では、下地層の下の層がSULであり、このSUL表面の算術平均粗さRa、すなわちSUL−下地層の界面の算術平均粗さRaを調整することで、記録層の配向強度Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内とした磁気記録媒体を例として説明する。
【0076】
[2.1 磁気記録媒体の構成]
図6に示すように、本技術の第2の実施形態に係る磁気記録媒体は、いわゆる二層垂直磁気記録媒体であり、基材11と下地層12との間に、SUL18を備える点において、第1の実施形態に係る磁気記録媒体とは異なっている。
【0077】
SUL18と下地層12とが隣接して設けられ、このSUL18の表面(成膜面)の算術平均粗さRa、すなわちSUL18−下地層12の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である。これにより、磁気記録媒体のX線回折ピークの中で、記録層13に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値を、5°以上10°未満の範囲内にできる。但し、Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内にする方法は、上述したSUL18の表面性の調整する方法に限定されるものではなく、これ以外の方法を用いてもよい。
【0078】
第2の実施形態では、SUL18−下地層12の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下であればよく、基材11の表面の算術平均粗さRaは0.4nm以上1.0nm以下の範囲内に設定されていなくてもよい。
【0079】
SUL18の表面性の調整方法としては、(1)非磁性支持体である基材11の表面性を調整する方法、(2)SUL18の成膜時の投入スパッタ電力を調整する方法が挙げられる。これらは、スパッタ粒子が基材11に到達後、その運動エネルギーにより基材11上を動き回る現象(マイグレーション)に関係があり、マイグレーション現象が大きいほど平滑で結晶性の高い膜が形成されることが知られている。基材11の表面性が粗い場合、表面の凹凸の影響により、スパッタ粒子の運動エネルギーが減衰し、十分なマイグレーションが得られなくなる。また、投入スパッタ電力が小さい場合も、同様にスパッタ粒子の運動エネルギーが小さくなることにより、スパッタ粒子の十分なマイグレーションが得られなくなる。これらのパラメータをコントロールすることにより、スパッタ膜の表面性を変化させることが可能となる。
【0080】
この第2の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
【0081】
[2.2 効果]
第2の実施形態に係る磁気記録媒体では、SUL18−下地層12の界面の算術平均粗さRaを0.4nm以上1.0nm以下に調整することで、Δθ50の値を5°以上10°未満にしている。したがって、記録再生特性と信頼性を両立できる。
【0082】
[2.3 変形例]
上述の第2の実施形態では、基材11の表面に、SUL13、下地層12、記録層13を順次積層した構成について説明した。しかしながら、磁気記録媒体の層構成はこれに限定されるものではなく、SUL18−下地層12の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下となっていれば、磁気記録媒体の層構成はこれに限定されるものではなく、他の層構成を採用してもよい。以下に、他の層構成について説明する。
【0083】
磁気記録媒体が、下地層12と記録層13との間に、中間層をさらに備えるようにしてもよい。磁気記録媒体が、記録層13と保護層14との間に、CAP層(スタック層)をさらに備えるようにしてもよい。中間層およびCAP層はそれぞれ、第1の実施形態の変形例1、2におけるものと同様である。
【0084】
磁気記録媒体は、図6に示した単層構造の軟磁性裏打ち層18に代えて、多層構造の軟磁性裏打ち層であるAPC−SULを備えるようにしてもよい。このAPC−SULの表面(成膜面)の算術平均粗さRa、すなわちAPC−SUL−下地層12の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である。APC−SULは、これ以外の点では、第1の実施形態の変形例4におけるものと同様である。
【0085】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態では、第1、第2の下地層を設け、第1の下地層の下の層が基材であり、第2の下地層の下の層がSULであり、SUL−第2の下地層の界面の算術平均粗さRaを調整することで、Δθ50の値を5°以上10°未満の範囲内とした磁気記録媒体を例として説明する。
【0086】
[3.1 磁気記録媒体の構成]
図7に示すように、本技術の第3の実施形態に係る磁気記録媒体は、いわゆる二層垂直磁気記録媒体であり、下地層12と記録層13との間に、SUL18および下地層20をさらに備える点において、第1の実施形態に係る磁気記録媒体とは異なっている。SUL18が下地層12の側に設けられ、下地層20が記録層13の側に設けられている。
【0087】
SUL18−下地層20の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である。下地層20は、第1の実施形態における下地層12と同様である。
【0088】
この第3の実施形態において、上記以外のことは、第1の実施形態と同様である。
【0089】
[3.2 効果]
第3の実施形態では、SUL18−下地層20の界面の算術平均粗さRaを、0.4nm以上1.0nm以下に調整することで、Δθ50の値を5°以上10°未満にしている。したがって、記録再生特性と信頼性を両立できる。
【0090】
[3.3 変形例]
上述の第3の実施形態では、基材11の表面に、下地層12、SUL18、下地層20b、記録層13を順次積層した構成について説明した。しかしながら、磁気記録媒体の層構成はこれに限定されるものではなく、SUL18−下地層20の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下となっていれば、磁気記録媒体の層構成はこれに限定されるものではなく、他の層構成を採用してもよい。以下に、他の層構成について説明する。
【0091】
磁気記録媒体が、下地層20と記録層13との間に、中間層をさらに備えるようにしてもよい。磁気記録媒体が、記録層13と保護層14との間に、CAP層(スタック層)をさらに備えるようにしてもよい。中間層およびCAP層はそれぞれ、第1の実施形態の変形例1、2におけるものと同様である。
【0092】
磁気記録媒体は、図7に示した単層構造のSUL18に代えて、多層構造の軟磁性裏打ち層であるAPC−SULを備えるようにしてもよい。APC−SULは、このAPC−SULと下地層20との界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下となっている以外の点では、第1の実施形態の変形例4におけるものと同様である。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
本実施例において、“記録層の平均厚み”、および“結晶粒子の平均粒径”は以下のようにして求めた。
【0095】
(記録層の平均厚み)
記録層の平均厚みは以下のようにして求めた。磁気テープの断面TEM像を撮影し、この断面TEM像から、100nm長において、20点のポイントで記録層の厚みを求めてその平均(算術平均)を求めた。
【0096】
(結晶粒子の平均粒径)
記録層(グラニュラ記録層)に含まれる結晶粒子の平均粒径は、以下のようにして求めた。まず、磁気テープの平面TEM像(200万倍)を撮影し、この平面TEM像から記録層に含まれる複数のカラム(結晶粒子)の粒径をそれぞれ求めた。次に、求めた複数の粒径を単純に平均(算術平均)して結晶粒子の平均粒径を求めた。個数は100個以上とした。
【0097】
本技術の実施例について以下の順序で説明する。
i.基材表面の凹凸−配向強度Δθ50の関係
ii.SUL表面の凹凸−配向強度Δθ50の関係
iii.層構造−各種特性の関係
【0098】
<i.基材表面の凹凸−配向強度Δθ50の関係>
(実施例1−1、比較例1−2、1−2)
(基材の準備工程)
まず、可撓性を有する非磁性基材として、表面粗さが異なる3種類の高分子フィルムを準備した。
【0099】
(下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、高分子フィルム上にTiCr層(下地層)を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ti30Cr70ターゲット
到達真空度:5×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.25Pa
【0100】
(記録層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、TiCr層(下地層)上に(CoCrPt)−(SiO2)層(記録層)を14nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:(Co75Cr10Pt1590−(SiO210ターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.0Pa
【0101】
(保護層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、(CoCrPt)−(SiO2)層(記録層)上にカーボン層(保護層)を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:カーボンターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.0Pa
【0102】
(トップコート層の成膜工程)
次に、潤滑剤を保護層上に塗布し、保護層上にトップコート層を成膜した。
以上により、垂直磁気記録媒体である磁気テープを得た。
【0103】
<ii.SUL表面の凹凸−配向強度Δθ50の関係>
(実施例2−1、2−2、比較例2−1、2−2)
(基材の準備工程)
まず、可撓性を有する非磁性基材として、表面粗さが異なる4種類の高分子フィルムを準備した。
【0104】
(SULの成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、高分子フィルム上に単層構造のSULとしてCoZrNb層を80nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:CoZrNbターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.1Pa
投入電力:96mW/mm2
【0105】
(下地層の成膜工程)
次に、CoZrNb層(SUL)上に、TiCr層(下地層)、(CoCrPt)−(SiO2)層(記録層)、カーボン層(保護層)、トップコート層を実施例1−1と同様にして積層した。
【0106】
(実施例2−3)
単層構造のSULに代えて、APC−SULを成膜する以外は、実施例2−1と同様にして磁気テープを得た。以下に、APC−SULを構成する各層の成膜工程について説明する。
【0107】
(第1の軟磁性層)
まず、以下の成膜条件にて、TiCr層(下地層)上に第1の軟磁性層としてCoZrNb層を40nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:CoZrNbターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.1Pa
投入電力:96mW/mm2
【0108】
(Ru中間層)
次に、以下の成膜条件にて、CoZrNb層上にRu層(中間層)を、0.8nm〜1.1nmの範囲で成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.3Pa
【0109】
(第2の軟磁性層)
次に、以下の成膜条件にて、Ru層(中間層)上に第2の軟磁性層としてCoZrNb層を40nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:CoZrNbターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.1Pa
投入電力:96mW/mm2
【0110】
(実施例2−4)
高分子フィルムの準備工程後、SULの成膜工程前に、以下の下地層の成膜工程をさらに備える以外は実施例2−3と同様にして磁気テープを得た。
【0111】
(下地層の成膜工程)
以下の成膜条件にて、高分子フィルム上にTiCr層を5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ti30Cr70ターゲット
到達真空度:5×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.25Pa
【0112】
(比較例2−3)
第1の軟磁性層の工程、および第2の軟磁性層の工程における投入電力を55mW/mm2に変更すること以外は実施例2−4と同様にして、磁気テープを得た。
【0113】
<iii.層構造−各種特性の関係>
(実施例3−1)
下地層の成膜工程後、記録層の成膜工程前に、以下の中間層の成膜工程をさらに備える以外は実施例2−4と同様にして磁気テープを得た。
【0114】
(中間層の成膜工程)
以下の成膜条件にて、TiCr層(下地層)上にRu層(中間層)を20nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.6Pa
【0115】
(実施例3−2)
下地層の成膜工程におけるガス圧を1.00Paに変更すると共に、中間層の成膜工程におけるガス圧を0.5Paに変更する以外は実施例3−1と同様にして磁気テープを得た。
【0116】
(実施例4−1)
単層構造の中間層に代えて、2層構造の中間層を成膜する以外は、実施例3−1と同様にして磁気テープを得た。以下に、2層構造を有する中間層の成膜工程について説明する。
【0117】
(第1の中間層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、TiCr層(下地層)上に第1の中間層としてRu層を10nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0118】
(第2の中間層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、Ru層(第1の中間層)上に第2の中間層としてRu層を20nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ruターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.6Pa
【0119】
(実施例5−1)
単層構造の下地層に代えて、2層構造の下地層を成膜する以外は、実施例4−1と同様にして磁気テープを得た。以下に、2層構造を有する下地層の成膜工程について説明する。
【0120】
(第1の下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、CoZrNb層(第2の軟磁性層)上にTiCr層(第1の下地層)を2.5nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:Ti50Cr50ターゲット
到達真空度:5×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.5Pa
【0121】
(第2の下地層の成膜工程)
次に、以下の成膜条件にて、TiCr層上にNiW層(第2の下地層)を10nm成膜した。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:NiWターゲット
到達真空度:5×10-5Pa
ガス種:Ar
ガス圧:0.25Pa
【0122】
(比較例5−1)
第1の軟磁性層の工程、および第2の軟磁性層の工程における投入電力を55mW/mm2に変更すること以外は実施例5−1と同様にして、磁気テープを得た。
【0123】
(実施例5−2)
(CoCrPt)−(SiO2)層(記録層)の平均厚みを10nmに変更すること以外は実施例5−1と同様にして、磁気テープを得た。
【0124】
(実施例5−3、5−4)
記録層の成膜工程におけるガス圧を0.8Pa、1.2Paに変更すること以外は実施例5−1と同様にして、磁気テープを得た。
【0125】
(実施例6−1)
記録層の成膜工程後、保護層の成膜工程前に、以下のCAP層の成膜工程をさらに備える以外は実施例2−4と同様にして磁気テープを得た。
【0126】
(CAP層の成膜工程)
以下の成膜条件にて、記録層と保護層との間にCoPtCrB層(CAP層)を8nm成膜すること以外は、実施例5−1と同様にして磁気テープを得た。
スパッタリング方式:DCマグネトロンスパッタリング方式
ターゲット:CoPtCrBターゲット
ガス種:Ar
ガス圧:1.5Pa
【0127】
(実施例6−2、6−3)
中間層の成膜工程におけるガス圧を1.2Pa、2.0Paに変更すること以外は、実施例6−1と同様にして磁気テープを得た。
【0128】
[評価]
上述のようにして得られた磁気テープについて、以下の評価を行った。
【0129】
(高分子フィルム表面の算術平均粗さRa)
磁気テープの断面TEM像(200万倍で、長手方向に100nm長さ以上の像)を撮影した。この断面TEM像から、高分子フィルムとその表面に隣接して設けられ上層との界面の凹凸を、100nm長の間で200個所(望ましくは0.5nmずつおおよそ等間隔)測定し、その算術平均粗さを求めた。
算術平均粗さRa(nm)の定義は、以下に記載する通りである。
Z(i):各測定点での測定値(nm)
i:測定点番号i=1〜200点
Z_ave:平均中心線=(Z(1)+Z(2)+・・・+Z(200))/200
Z”(i):各測定点での平均中心線からの偏差=Z(i)−Z_ave
Ra(nm)=(Z”(1)+Z”(2)+・・・+Z”(200))/200
【0130】
(SUL−下地層の界面の算術平均粗さRa)
磁気テープの断面TEM像(200万倍で、長手方向に100nm長さ以上の像)を撮影した。この断面TEM像から、SUL−下地層の界面の凹凸を、100nm長の間で200個所(望ましくは0.5nmずつおおよそ等間隔)測定し、その算術平均粗さを求めた。なお、算術平均粗さRa(nm)の定義は、上述した通りである。
【0131】
(記録層の配向強度Δθ50
ロッキングカーブ法により、記録層に含まれる磁性原子の回折ピークを計測することによりΔθ50を求めた。
【0132】
(中間層の配向強度Δθ50
ロッキングカーブ法により、中間層に含まれる原子の回折ピークを計測することによりΔθ50を求めた。
【0133】
(記録層の磁気特性)
記録層の垂直方向の磁気特性(Hc、Rs)を振動試料磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)にて調べた。
【0134】
(記録再生特性の評価)
下地層を有していない単層垂直磁気テープ(実施例1−1、1−2、比較例1−1〜1−3)の記録再生特性を以下のようにして評価した。まず、ループテスター(Microphysics社製)を用いて、磁気テープの再生信号を取得した。以下に、再生信号の取得条件について示す。
head:GMR head
speed:2m/s
signal:単一記録周波数(10MHz)
記録電流:最適記録電流
【0135】
次に、再生信号をスペクトラムアナライザ(spectrum analyze)によりスパン(SPAN)0〜20MHz(resolution band width = 100kHz, VBW = 30kHz)で取り込んだ。次に、取り込んだスペクトルのピークを信号量Sとすると共に、ピークを除いたfloor noiseを積算して雑音量Nとし、信号量Sと雑音量Nの比S/NをSNR(Signal-to-Noise Ratio)として求めた。次に、求めたSNRを、リファレンスメディアとしての比較例1−1のSNRを基準とした相対値(dB)に変換した。
【0136】
下地層を有している二層垂直磁気テープ(実施例2−1〜6−3、比較例2−1〜5−1)の記録再生特性を以下のようにして評価した。まず、Single Pole型の記録ヘッドとトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistive:TMR)型の再生ヘッドを用い、ピエゾステージによりこのヘッドを往復振動させることにより記録再生を行う、所謂、ドラッグテスタにて測定を行った。100Gb/in2を超える高記録密度記録領域では、垂直磁気記録媒体であっても主に記録の問題で、十分な記録再生特性を実現することが難しく、垂直方向に急峻な磁界を発生できる単磁極(Single Pole Type:SPT)ヘッドと軟磁性裏打ち層(SUL)を有する2層垂直記録媒体の組み合わせが必要である。また、巨大磁気抵抗ヘッドに比べて磁気抵抗変化率が大きく再生感度の高いトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistive:TMR)型の再生ヘッドも必要と思われる。そのような理由から、ここでは、SPT記録ヘッドとTMR再生ヘッドによる評価を実施した。ここで、再生ヘッドのリードトラック幅は75nmとした。次に、記録波長を300kFCI(kilo Flux Changes per Inch)とし、SNRを、再生波形のピーク・トゥ・ピーク電圧と、ノズスペクトラムを0kFCI〜600kFCIの帯域で積分した値から求めた電圧との比により計算して求めた。次に、求めたSNRを、リファレンスメディアとしての比較例1−1のSNRを基準とした相対値(dB)に変換した。
【0137】
実施例1−1、1−2、比較例1−1〜1−3の磁気テープの成膜条件を示す。
【表1】
【0138】
実施例1−1、1−2、比較例1−1〜1−3の磁気テープの評価結果を示す。
【表2】
【0139】
実施例2−1、2−4、比較例2−1〜2−3の磁気テープの成膜条件を示す。
【表3】
但し、表3中、“Pow.”は製膜時の投入スパッタ電力、“SL”は単層(Single Layer)構造のSUL、“APC”はAntiparallel Coupled構造のSULを示している。
【0140】
実施例2−1、2−4、比較例2−1〜2−3の磁気テープの評価結果を示す。
【表4】
【0141】
実施例3−1〜6−3、比較例5−1の磁気テープの成膜条件を示す。
【表5】
但し、表5中、“Pow.”は製膜時の投入スパッタ電力、“SL”は単層(Single Layer)構造のSUL、“APC”はAntiparallel Coupled構造のSULを示している。
【0142】
実施例3−1〜6−3、比較例5−1の磁気テープの評価結果を示す。
【表6】
【0143】
表1、表2から以下のことがわかる。
実施例1−1では、高分子フィルム表面の算術平均粗さRa(すなわち、高分子フィルム−下地層の界面の算術平均粗さRa)が0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にあるため、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内にある。したがって、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制されている。
比較例1−1では、高分子フィルム表面の算術平均粗さRa(すなわち、高分子フィルム−下地層の界面の算術平均粗さRa)が1.0nmを超えているため、記録層のΔθ50が10°以上である。したがって、摩擦の増加が抑制されるが、SNRが低下してしまう。
比較例1−2では、高分子フィルム表面の算術平均粗さRa(すなわち、高分子フィルム−下地層の界面の算術平均粗さRa)が0.4nm未満であるため、記録層のΔθ50が5°未満となっている。したがって、良好なSNRが得られるが、磁気テープとヘッドとの間に貼り付きが発生してしまっている。
【0144】
表3、表4から以下のことがわかる。
実施例2−1、2−2では、基材と下地層との間にSULを設け、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaを0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にしているため、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内にある。したがって、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制されている。
比較例2−1では、基材と下地層との間にSULを設け、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaを1.0nmを超えて大きくしているため、記録層のΔθ50が10°を超えている。したがって、摩擦の増加が抑制されるが、SNRが低下してしまっている。
比較例2−2では、基材と下地層との間にSULを設け、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaを0.4nm未満にしているため、記録層のΔθ50が5°未満となっている。したがって、良好なSNRが得られるが、磁気テープとヘッドとの間に貼り付きが発生してしまっている。
実施例2−3、2−4では、SULがAPC構造を有している。この構成の場合にも、SULが単層構造を有する場合と同様に、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にあると、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内となる。したがって、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制される。
比較例2−3では、SULをAPC構造にしている。この構成の場合にも、SULが単層構造を有する場合と同様に、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが1.0nmを超えていると、記録層のΔθ50が10°を超えてしまう。したがって、摩擦の増加が抑制されるが、SNRが低下してしまう。
【0145】
表5、表6から以下のことがわかる。
実施例3−1、3−2では、下地層と記録層との間に単層構造の中間層を設けている。この構成の場合、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にあると、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内となり、かつ、中間層のΔθ50が4°以上9°以下となり、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制される。
実施例4−1では、中間層の構造を2層構造にしている。この構成の場合、単層構造の中間層の場合と同様に、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にあると、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内となり、かつ、中間層のΔθ50が4°以上9°以下となり、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制される。
【0146】
実施例5−1〜5−4では、下地層を2層構造にしている。この構成の場合にも、単層構造の中間層の場合と同様に、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが0.4nm以上1.0nm以下の範囲内にあると、記録層のΔθ50が5°以上10°未満の範囲内となり、かつ、中間層のΔθ50が4°以上9°以下となり、良好なSNRが得られ、かつ摩擦の増加が抑制される。
比較例5−1では、下地層を2層構造にしている。この構成の場合にも、SULが単層構造を有する場合と同様に、SUL−下地層の界面の算術平均粗さRaが1.0nmを超えていると、記録層のΔθ50が10°を超えてしまう。また、中間層のΔθ50が9°を超えてしまう。したがって、摩擦の増加が抑制されるが、SNRが低下してしまう。
【0147】
以上、本技術の実施形態およびその変形例、ならびに実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0148】
例えば、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0149】
また、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0150】
また、本技術は以下の構成を採用することもできる。
(1)
可撓性を有する基材と、下地層と、記録層とを備え、
X線回折ピークの中で、上記記録層に含まれる磁性原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、5°以上10°未満である磁気記録媒体。
(2)
上記基材と上記下地層の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
上記基材と上記下地層の間に設けられた軟磁性裏打ち層をさらに備え、
上記軟磁性裏打ち層と上記下地層の界面の算術平均粗さRaが、0.4nm以上1.0nm以下である(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
上記軟磁性裏打ち層が、APC構造を有する(3)に記載の磁気記録媒体。
(5)
上記基材と上記軟磁性裏打ち層の間に設けられた、Ti合金を含む層をさらに備える(3)または(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)
上記下地層と上記記録層の間に設けられた中間層をさらに備え、
X線回折ピークの中で、上記中間層に含まれる原子の回折ピークをロッキングカーブ法で計測したΔθ50の値が、4°以上9°以下である(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
上記中間層は、組成が同一で、成膜条件が異なる複数の層を備える(6)に記載の磁気記録媒体。
(8)
上記中間層が、Ruを含んでいる(6)または(7)に記載の磁気記録媒体。
(9)
上記下地層が、TiまたはNiを含んでいる(1)から(8)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
上記記録層の平均厚みが、10nm以上である(1)から(9)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(11)
上記記録層は、垂直記録層である(1)から(10)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(12)
上記記録層が、グラニュラ構造を有している(1)から(11)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(13)
上記記録層が、Co、CrおよびPtを含む合金と、Siを含む酸化物とを含んでいる(1)から(12)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(14)
上記記録層に含まれる結晶粒子の平均粒径が、6nm以上8nm以下である(1)から(13)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(15)
CAP層をさらに備える(1)から(14)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(16)
抗磁力Hcが、3000Oe以上5500Oe以下であり、
角型比Rsが、85%以上である(1)から(15)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(17)
上記下地層および上記記録層が、スパッタリング法により成膜されている(1)から(16)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(18)
上記下地層および上記記録層が、Roll to Roll法により成膜されている(1)から(17)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0151】
11 基体
12 下地層
13 記録層
14 保護層
15 トップコート層
16 中間層
17 CAP層
18 SUL
19 APC−SUL
20a 第1の下地層
20b 第2の下地層
21 成膜室
22 ドラム
23a、23b カソード
24 供給リール
25 巻き取りリール
26 排気口
27、28 ガイドロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7