(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吐出ワイプ動作における前記ワイパーの移動速度は、前記インク拭き取り動作における前記ワイパーの移動速度よりも遅いことを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッドの回復システム。
前記吐出ワイプ動作と前記インク拭き取り動作とを1回ずつ実行する場合を1サイクルとして、前記吐出ワイプ動作と前記インク拭き取り動作とを2サイクル以上実行することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録ヘッドの回復システム。
前記吐出ワイプ動作は、前記拭き取り開始位置から前記ノズル領域側に向かう第1の方向に前記ワイパーを移動させることによって実行され、前記インク拭き取り動作は、前記吐出ワイプ動作の実行後、前記第1の方向と反対方向である第2の方向に前記ワイパーを移動させることによって実行されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の記録ヘッドの回復システム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置100の概略構成を示す図であり、
図2は、
図1に示すインクジェット記録装置100の第1搬送ユニット5及び記録部9を上方から見た図、
図3は、記録部9を斜め上方から見た図、
図4は、記録部9のラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cの図、
図5は、記録ヘッド17a〜17cをインク吐出面F側から見た図、
図6は、記録ヘッド17a〜17cのドット形成部の構成を示す図である。なお、
図3は記録部9を
図1の奥側(
図2の上側)から見た状態を示しており、ラインヘッド11C〜11Kの並びは
図1及び
図2とは逆になっている。また、記録ヘッド17a〜17cは同一の形状及び構成であるため、
図4〜
図6では記録ヘッド17a〜17cを一つの図で示している。
【0017】
図1に示すように、インクジェット記録装置100の左側部には用紙Sを収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された用紙Sを、最上位の用紙Sから順に一枚ずつ後述する第1搬送ユニット5へと搬送給紙するための給紙ローラー3と、給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4とが設けられている。
【0018】
用紙搬送方向(矢印X方向)に対し給紙ローラー3及び従動ローラー4の下流側(
図1の右側)には、第1搬送ユニット5及び記録部9が配置されている。第1搬送ユニット5は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第1駆動ローラー6と、上流側に配置された第1従動ローラー7と、第1駆動ローラー6及び第1従動ローラー7に掛け渡された第1搬送ベルト8とを含む構成であり、インクジェット記録装置100の制御部110からの制御信号により第1駆動ローラー6が時計回り方向に回転駆動されることにより、第1搬送ベルト8に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0019】
ここで、用紙搬送方向の下流側に第1駆動ローラー6を配置したことにより、第1搬送ベルト8の搬送面(
図1の上側面)は第1駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、第1搬送ベルト8の搬送面のテンションを高めることができ、安定した用紙Sの搬送が可能となる。なお、第1搬送ベルト8には誘電体樹脂製のシートが用いられ、主として継ぎ目を有しない(シームレス)ベルトが用いられる。
【0020】
記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、及び11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、
図2に示すように、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(
図2の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a〜17cが千鳥状に配列されている。ラインヘッド11C〜11Kは、搬送される用紙Sの最大幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト8上を搬送される用紙Sに対して、印字位置に対応したインク吐出ノズル18からインクを吐出できるようになっている。
【0021】
図4及び
図5に示すように、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fにはインク吐出ノズル18が多数配列されたノズル領域Rが設けられている。また、
図2及び
図3に示すように、同一のラインヘッド11C〜11Kを構成する3個の記録ヘッド17a〜17cは、各記録ヘッド17a〜17cに設けられたインク吐出ノズル18の一部が用紙搬送方向に重複するように端部をオーバーラップさせて配置されている。
【0022】
図6に示すように、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fには、インク吐出ノズル18の開口部である微小径を有する吐出口18aが、インク吐出面Fの長手方向(主走査方向)において少なくとも印字領域の最大幅に亘って複数設けられている。
【0023】
また、記録ヘッド17a〜17cは、インク吐出面Fの吐出口18a以外の部分を覆う撥水膜73と、吐出口18aに対して1つずつ設けられた加圧室75と、加圧室75とインク吐出ノズル18を連通するノズル流路76と、インクを貯留するインクタンク20(
図7参照)から複数の加圧室75にインクを供給する共通流路77とを備える。加圧室75と共通流路77とは供給孔79で連通されており、この供給孔79を介して共通流路77から加圧室75にインクが供給される。インク吐出ノズル18はノズル流路76を介して加圧室75内から吐出口18aまで連続している。加圧室75の壁のうちインク吐出面Fと逆側の壁は振動板80で構成されている。振動板80は複数の加圧室75に亘って連続して形成されており、振動板80には同様に複数の加圧室75に亘って連続して形成された共通電極81が積層されている。共通電極81上には、加圧室75毎に別個の圧電素子71が設けられており、共通電極81と共に圧電素子71を挟むように、加圧室75毎に別個の個別電極83が設けられる。
【0024】
ヘッド駆動部の駆動パルス発生部(図示せず)で生成された駆動パルスが個別電極83に印加されることで、各圧電素子71は個別に駆動される。この駆動による圧電素子71の変形が振動板80に伝達され、振動板80の変形によって加圧室75が圧縮される。その結果、加圧室75内のインクに圧力が加わり、ノズル流路76及びインク吐出ノズル18を通過したインクが吐出口18aからインク滴となって用紙上に吐出される(画像形成動作)。なお、インク滴が吐出されない間も、インク吐出ノズル18内にはインクが入っており、インク吐出ノズル18内でインクはメニスカス面Mを形成している。
【0025】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cには、それぞれインクタンク20(
図7参照)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。
【0026】
各記録ヘッド17a〜17cは、制御部110(
図1参照)からの制御信号により外部コンピューター等から受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Sに向かってインク吐出ノズル18からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Sにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0027】
また、記録ヘッド17a〜17cの乾燥や目詰まりによるインクの吐出不良を防止するために、長期間停止後の印字開始時は全ての記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18からインクを押し出すパージ動作を、また印字動作の合間にはインク吐出量が規定値以下の記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から、ノズル内の粘度が高くなったインクを吐出する空打ちを実行して、次の印字動作に備える。
【0028】
なお、記録ヘッド17a〜17cからのインクの吐出方式としては、例えば、図示しないピエゾ素子を用いてインクを押し出すピエゾ方式や、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインクを吐出するサーマルインクジェット方式など、各種方式を適用することができる。
【0029】
図1に戻って、用紙搬送方向に対し第1搬送ユニット5の下流側(
図1の右側)には第2搬送ユニット12が配置されている。第2搬送ユニット12は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第2駆動ローラー13と、上流側に配置された第2従動ローラー14と、第2駆動ローラー13及び第2従動ローラー14に掛け渡された第2搬送ベルト15とを含む構成であり、第2駆動ローラー13が時計回り方向に回転駆動されることにより、第2搬送ベルト15に保持された用紙Sが矢印X方向に搬送される。
【0030】
記録部9にてインク画像が記録された用紙Sは第1搬送ユニット8から第2搬送ユニット12へと送られ、第2搬送ユニット12を通過する間に用紙S表面に吐出されたインクが乾燥される。また、第2搬送ユニット12の下方にはメンテナンスユニット19及びキャップユニット90が配置されている。メンテナンスユニット19は、上述したパージを実行する際に記録部9の下方に移動し、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から押し出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。キャップユニット90は、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面F(
図4参照)をキャッピングする際に記録部9の下方に水平移動し、さらに上方に移動して記録ヘッド17a〜17cの下面に装着される。なお、メンテナンスユニット19の詳細な構成については後述する。
【0031】
また、用紙搬送方向に対し第2搬送ユニット12の下流側には、画像が記録された用紙Sを装置本体外へと排出する排出ローラー対16が設けられており、排出ローラー対16の下流側には、装置本体外へと排出された用紙Sが積載される排出トレイ(図示せず)が設けられている。
【0032】
続いて、印字時におけるインクタンク20から記録ヘッド17a〜17cへのインクの供給、及びパージ時における記録ヘッド17a〜17cからのインクの押し出しについて説明する。
図7は、本発明のインクジェット記録装置100のインクタンク20から記録ヘッド17a〜17cまでのインク流路を示す図である。なお、各色のインクタンク20と記録ヘッド17a〜17cとの間に、それぞれ
図7に示すインク流路が設けられているが、ここでは任意の1色におけるインク流路について説明する。
【0033】
図7に示すように、インクタンク20と記録ヘッド17a〜17cとの間には、シリンジポンプ21が配置されている。インクタンク20とシリンジポンプ21とはチューブ部材から成る第1供給路23によって連結され、シリンジポンプ21と記録ヘッド17a〜17c内の共通流路77(
図6参照)とはチューブ部材から成る第2供給路25によって連結されている。
【0034】
第1供給路23には流入側弁27が設けられており、第2供給路25には流出側弁29が設けられている。流入側弁27を開閉することにより第1供給路23内のインクの移動が許容または規制され、流出側弁29を開閉することにより第2供給路25内のインクの移動が許容または規制される。
【0035】
シリンジポンプ21は、シリンダー21aとピストン21bとを備えている。シリンダー21aは、第1供給路23及び第2供給路25と接続されており、第1供給路23を通じてインクタンク20内のインク22がシリンダー21aに流入するようになっている。また、シリンダー21aから第2供給路25を通じてインクが排出され、排出されたインクは記録ヘッド17a〜17cに供給され、インク吐出ノズル18を介してインク吐出面Fのノズル領域Rに配置されたインク吐出口18aから吐出されるようになっている。
【0036】
ピストン21bは、駆動装置(図示せず)によって上下に移動可能となっている。ピストン21bの外周には、Oリング等のパッキン(不図示)が装着されており、シリンダー21aからのインクの漏れを防ぐと共に、ピストン21bがシリンダー21aの内周面に沿って滑らかに摺動できるようになっている。
【0037】
通常時(印字時)は、
図7に示すように、流入側弁27及び流出側弁29は共に開放状態であり、ピストン21bを予め設定された位置で停止させておくことにより、シリンダー21a内には略一定量のインクが充填されている。そして、シリンダー21aと記録ヘッド17a〜17cとの間の表面張力(メニスカス)によって、インク22がシリンダー21aから記録ヘッド17a〜17cへと供給される。
【0038】
図8は、メンテナンスユニット19に搭載されるワイピング機構30を示す図である。ワイピング機構30は、複数のワイパー35a〜35c(
図9参照)が固定された略矩形状のキャリッジ31と、キャリッジ31を支持する支持フレーム40とで構成されている。支持フレーム40の上面の対向する端縁にはレール部41a、41bが形成されており、キャリッジ31の四隅に設けられた摺動コロ36がレール部41a、41bに当接することで、キャリッジ31は支持フレーム40に対し矢印AA′方向に摺動可能に支持される。
【0039】
図9は、
図8に示したワイピング機構30を構成するキャリッジ31の図であり、
図10は、
図8に示したワイピング機構30を構成する支持フレーム40の図である。
図9に示すように、キャリッジ31は、支持フレーム40のレール部41a、41bに摺動コロ36を介して摺動可能に係合する第1ステー32a、32bと、第1ステー32a、32bの間に橋渡し状に固定された第2ステー33a、33b、33cとで枠体状に形成されている。
【0040】
第1ステー32aには、支持フレーム40に保持された入力ギア43(
図8参照)に噛み合うラック歯38が形成されている。入力ギア43が正逆方向に回転すると、キャリッジ31は支持フレーム40に沿って水平方向(
図8の矢印AA′方向)に往復移動する。
【0041】
ワイパー35a〜35cは、各記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18から押し出されたインクを拭き取るための部材である。ワイパー35a〜35cは、インク吐出ノズル18のノズル面が露出するノズル領域R(
図5参照)の外側の拭き取り開始位置に略垂直方向から圧接され、キャリッジ31の移動によりノズル領域Rを含むインク吐出面Fを所定方向(
図8の矢印A方向)に拭き取る。
【0042】
第2ステー33aには4枚のワイパー35aが略等間隔で固定されており、同様に、第2ステー33bには4枚のワイパー35bが、第2ステー33cには4枚のワイパー35cが略等間隔で固定されている。ワイパー35a、35cは、それぞれ各ラインヘッド11C〜11Kを構成する左右の記録ヘッド17a、17c(
図3参照)に対応する位置に配置されている。また、ワイパー35bは、各ラインヘッド11C〜11Kを構成する中央の記録ヘッド17b(
図3参照)に対応する位置に配置されており、ワイパー35a、35cに対しキャリッジ31の移動方向(
図8の矢印AA′方向)と直交する方向に所定距離だけずらして配置されている。
【0043】
第2ステー33a、33cの上面の4箇所にはギャップコロ37が設けられている。ギャップコロ37は、ワイパー35a〜35cによる記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの拭き取り動作を行うためにワイピング機構30を記録部9側に上昇させたとき、記録部9のヘッドハウジング10に当接することでワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとの接触状態を一定に保持する。
【0044】
図10に示すように、支持フレーム40の上面には、ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られた廃インクを回収するためのインク回収トレイ44が配置されている。インク回収トレイ44の略中央部には、第2ステー33a〜33cの延在方向に沿って溝部44aが形成されており、溝部44aを挟んで両側のトレイ面44b、44cは、溝部44aに向かって下り勾配となっている。溝部44a内にはインク排出孔44dが設けられており、溝部44aの底面はインク排出孔44dに向かって下り勾配となっている。
【0045】
ワイパー35a〜35cによってインク吐出面Fから拭き取られ、トレイ面44b、44cに落下した廃インクは溝部44aに集められ、さらに溝部44a内をインク排出孔44dに向かって流れる。その後、廃インクはインク排出孔44dに連結されたインク回収路(図示せず)を通って廃インク回収タンク(図示せず)に回収される。
【0046】
次に、本実施形態のワイピング機構30を昇降させるための昇降機構50について説明する。
図11は、メンテナンスユニット19のユニット筐体45(
図8に示すキャリッジ31の下方に配置)からワイピング機構30を取り外した状態を示す図であり、
図12及び
図13は、ユニット筐体45に配置される昇降機構50の図である。ユニット筐体45の底面45aには、2個のリフト部材50aがシャフト50bの両端に固定された昇降機構50が、キャリッジ31の移動方向(
図8の矢印AA′方向)に対向する側面45b、45cに沿って一対配置されている。即ち、昇降機構50は、記録部9のヘッドハウジング10の幅方向両端(
図2の上下両端部)に対向する位置に配置される。なお、
図11では側面45c側の昇降機構50の記載を省略している。また、ユニット筐体45の側面45b、45cに隣接する側面45dには、モーター47と、モーター47の回転駆動力をシャフト50bに伝達する駆動伝達軸48とが付設されている。
【0047】
図14は、昇降機構50を構成するリフト部材50aの斜視図である。リフト部材50aの下端部はシャフト50bに固定されており、リフト部材50aの上端部には押し上げコロ53が回転自在に付設されている。押し上げコロ53は支持フレーム40の下端部に形成されたガイド部(図示せず)に沿って回転移動可能となっている。従って、昇降機構50を作動させる際の支持フレーム40とリフト部材50aとの摩擦が押し上げコロ53の回転により低減されるため、円滑な昇降動作が可能となる。また、押し上げコロ53は、コイルバネ55によってシャフト50bから離間する方向(
図14では上方向)に付勢されている。
【0048】
図12の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に回転すると、ユニット筐体45の内側に倒れ込んだリフト部材50aが外側方向(矢印B方向)に立ち上がり、押し上げコロ53がガイド部の一端側まで移動する。これにより、リフト部材50aは水平状態から起立状態(
図13の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を上昇させる。
【0049】
一方、
図13の状態から、右側の昇降機構50のシャフト50bを反時計回り方向に、左側の昇降機構50のシャフト50bを時計回り方向に回転すると、リフト部材50aがユニット筐体45の内側方向(矢印B′方向)に倒れ込み、押し上げコロ53がガイド部の他端側まで移動する。これにより、リフト部材50aは起立状態から水平状態(
図12の状態)に切り替えられ、支持フレーム40と共にキャリッジ31を下降させる。
【0050】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置100における、ワイピング機構30を用いた記録ヘッド17a〜17cの回復動作について説明する。
図15は、メンテナンスユニット19を記録部9の下方に配置した状態を示す図、
図16は、ワイピング動作開始時における記録ヘッド17a〜17cとワイパー35a〜35cとの位置関係を示す図である。なお、
図16及び後述する
図17、
図18、
図23〜
図25では、記録部9及びメンテナンスユニット19を用紙搬送方向下流側(
図15の左側)から見た状態を示している。また、支持フレーム40は簡略化して板状に記載しており、ユニット筐体45は底面45aのみを記載している。また、以下で説明する記録ヘッド17a〜17cの回復動作は、制御部110(
図1参照)からの制御信号に基づいて記録ヘッド17a〜17c、ワイピング機構30、昇降機構50の動作を制御することによって実行される。
【0051】
記録ヘッド17a〜17cの回復動作を行う場合、先ず、
図15に示すように、記録部9の下方に位置する第1搬送ユニット5を下降させる。そして、第2搬送ユニット12の下方に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置する。この状態では、
図16に示すように、昇降機構50のリフト部材50aは水平状態にあり、キャリッジ31に固定されたワイパー35a〜35cは記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから離間している。
【0052】
(パージインク付着動作)
ワイピング動作に先立って、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの、ノズル領域Rの端部近傍である停止位置P(拭き取り開始位置)に所定の圧力で接触させる。具体的には、
図17に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B方向に起立させることにより、支持フレーム40及びキャリッジ31を持ち上げる。このとき、リフト部材50aのコイルバネ55(
図14参照)の付勢力によってキャリッジ31に設けられたギャップコロ37がヘッドハウジング10の下面に押し当てられるため、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに対し常に一定の圧力で圧接させることができる。
【0053】
次に、流入側弁27(
図7参照)を閉じ、シリンジポンプ21(
図7参照)を加圧する(ピストン21bを
図7の状態から押し下げる)ことにより、シリンダー21a内のインク22が第2供給路25を通って記録ヘッド17a〜17cに供給される。供給されたインク22はインク吐出ノズル18から強制的に押し出される(パージ動作)。このパージ動作により、インク吐出ノズル18内の増粘インク、異物や気泡が排出され、記録ヘッド17a〜17cを回復することができる。
【0054】
図18及び
図19は、それぞれワイパー35a〜35cをノズル領域Rの端部近傍に対向させた状態でインク22をインク吐出ノズル18から押し出した状態を示す記録ヘッド17a〜17cの側面図及び平面図である。
図18に示すように、ワイパー35a〜35cはインク吐出ノズル18から押し出されたパージインク22aの端部(
図18及び
図19の左端)近傍に、先端が撓んだ状態で圧接されている。また、
図19に示すように、パージインク22aはインク吐出ノズル18の存在するノズル領域Rの形状に沿ってインク吐出面Fに押し出される。
【0055】
(吐出ワイプ動作)
図18及び
図19の状態から、入力ギア43(
図8参照)を正回転させてキャリッジ31を
図17の矢印A方向に移動させることにより、キャリッジ31に支持されたワイパー35a〜35cもインク吐出面Fに沿ってノズル領域Rの方向(
図18、
図19の左から右方向、以下、第1の方向という)に移動する。支持フレーム40には昇降機構50によって上方向の力が作用しているため、キャリッジ31はギャップコロ37がヘッドハウジング10に押し当てられた状態を維持しながら矢印A方向に移動する。
【0056】
このとき、ワイパー35a〜35cがインク吐出ノズル18(ノズル領域R)を順次通過していくが、ワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からインク吐出を行う。そして、ワイパー35a〜35cが通過するタイミングに合わせて順次インク吐出を行いながら、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fの端縁(
図18、
図19の右端縁)まで移動させる。
【0057】
図20は、ワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18周辺の図であり、
図21は、
図20においてワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からインク吐出が行われる様子を示す図である。
図20に示すように、インク吐出面Fに圧接されたワイパー35a〜35cは、インク吐出面Fに押し出されたパージインク22aを移動方向下流側のエッジ部60で拭き取りながら第1の方向(矢印方向)に移動する。
【0058】
そして、
図21に示すように、ワイパー35a〜35cがインク吐出ノズル18を通過するタイミング(より詳しくは、エッジ部60がインク吐出ノズル18を通過した直後)で、インク吐出ノズル18からインク吐出を行う。これにより、ワイパー35a〜35cの上端面61とインク吐出面Fとの隙間にインク溜まり22bが形成される。
【0059】
図21の状態でワイパー35a〜35cがインク吐出面Fに沿って移動することによってインク溜まり22bが引き伸ばされるため、
図22及び
図23に示すように、ワイパー35a〜35cがインク吐出面Fの端縁(
図22、
図23の右端縁)まで移動したとき、ノズル領域Rを含むインク吐出面F全域に亘ってインク22が均一に塗り広げられる。
【0060】
(インク拭き取り動作)
その後、インク吐出面Fに塗り広げられたインク22を拭き取るワイピング動作を行う。具体的には、
図22及び
図23の状態から入力ギア43(
図8参照)を逆回転させてキャリッジ31を
図17の矢印Aと反対方向(
図8の矢印A′方向)に移動させることにより、
図24に示すように、キャリッジ31に支持されたワイパー35a〜35cもインク吐出面Fに圧接された状態で、インク吐出面Fに沿ってノズル領域Rの方向(
図24の右から左方向、以下、第2の方向という)に移動する。これにより、インク吐出面F全域に塗り広げられたインク22が拭き取られる。ワイパー35a〜35cによって拭き取られた廃インクはインク回収トレイ44(
図10参照)に回収される。
【0061】
ワイパー35a〜35cが、それぞれ記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fの端縁(
図24の左端縁)まで移動した後、
図25に示すように、昇降機構50のシャフト50bを回転させてリフト部材50aを矢印B′方向に倒伏させることにより、ワイパー35a〜35cを、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fから下方に退避させてメンテナンスユニット19を
図16の状態に戻す。最後に、記録部9と第1搬送ユニット5との間に配置されたメンテナンスユニット19を水平移動させて第2搬送ユニット12の下方に配置し、第1搬送ユニット5を所定の位置まで上昇させて記録ヘッド17a〜17cの回復動作を終了する。
【0062】
記録ヘッド17a〜17cにキャップユニット90を装着する場合は、先ず、
図15に示すように、記録部9の下面に対向配置されている第1ベルト搬送部5を下降させる。そして、第2ベルト搬送部12の下方に配置されたキャップユニット90を記録部9と第1ベルト搬送部5との間に水平移動させて記録部9に対向する位置に配置する。
【0063】
次いで、第1ベルト搬送部5を上昇させることにより、キャップユニット90が押し上げられる。そして、キャップユニット90が記録ヘッド17a〜17cに密着した時点で第1ベルト搬送部5の上昇を停止させることにより、キャップユニット90の記録ヘッド17a〜17cへの装着を完了する。
【0064】
本実施形態の構成では、パージインク付着動作の後、インク吐出面Fにワイパー35a〜35cを圧接させた状態でワイパー35a〜35cをインク吐出面Fの端縁まで移動させるとともに、ワイパー35a〜35cが通過するタイミングに合わせてインク吐出ノズル18から順次インク吐出を行う吐出ワイプ動作を実行することにより、インク吐出面F全域にインク22が塗り広げられる。従って、インク吐出面Fが高撥水性の材料で形成されている場合であってもインク22をインク吐出面Fに塗り広げることができ、ノズル領域R以外の部分に付着して乾燥したミストや紙粉等の異物を吐出直後のインク22に再分散させることができる。
【0065】
さらに、ワイパー35a〜35cをインク吐出面Fに沿って第1の方向と第2の方向とに往復移動させるだけで吐出ワイプ動作とインク拭き取り動作とを実行可能であるため、インク吐出面Fにインクを塗り広げるための塗布部材や、塗布部材の駆動機構を別途設ける必要がない。従って、ワイピング機構30の構成を複雑化することなくインク吐出面Fに付着したミストや紙粉等の異物を効果的に除去することができる。
【0066】
吐出ワイプ動作では、ワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとの隙間に形成されるインク溜まり22bをインク吐出面Fになるべく長時間接触させることで、インク吐出面Fに付着したミストや紙粉等の異物をインク22に十分に再分散させることができる。そのため、インク溜まり22bを形成する際のインク吐出量を多くするか、或いは吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの移動速度を遅くすることが好ましい。
【0067】
インク吐出量及びワイパー35a〜35cの移動速度は、使用するインク22やワイパー35a〜35c、インク吐出面Fの物性や、記録ヘッド17の回復動作の頻度に応じて適宜設定すれば良いが、インク吐出量を多くすると、画像記録以外に使用するインク量が増加し、インクジェット記録装置100のメンテナンスコストが上昇する。そのため、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの移動速度を遅くする方がより好ましい。例えば、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの移動速度をインク拭き取り動作におけるワイパー35a〜35cの移動速度よりも遅くすることが好ましい。
【0068】
また、パージインク付着動作を行う際の押し出されるインク22の流速が遅い場合、ノズル領域Rのうち吐出され易い(増粘インクによる詰まりのない)インク吐出ノズル18のみからインク22が押し出されてしまい、ノズル領域R内の全てのインク吐出ノズル18からインク22が押し出されないおそれがある。そのため、ノズル領域Rの全域からインク22が均一に押し出される程度の流速(例えば0.15cc/sec以上、好ましくは0.20cc/sec以上)でインク22を吐出することが好ましい。
【0069】
また、ミストや紙粉等の異物がインク吐出面Fに多量に付着している場合、吐出ワイプ動作を複数回繰り返して実行した後、インク拭き取り動作を実行するか、或いは吐出ワイプ動作とインク拭き取り動作を1回ずつ行う場合を1サイクルとして、吐出ワイプ動作とインク拭き取り動作を2サイクル以上行うことで、異物の再分散時間を確保することができ、より高い異物除去効果が期待できる。
【0070】
その他、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、ワイパー35a〜35cを第1の方向と第2の方向とに往復移動させて吐出ワイプ動作とインク拭き取り動作とを実行しているが、吐出ワイプ動作の終了後、インク吐出面Fからワイパー35a〜35cを離間させてキャリッジ31を矢印A′方向に移動させた後、ワイパー35a〜35cを再び停止位置Pに圧接した状態で第1の方向に移動させてインク拭き取り動作を実行してもよい。
【0071】
また、ラック歯38と入力ギア43、及び昇降機構50で構成されるキャリッジ31の駆動機構についても、従来公知の他の駆動機構を用いることができる。記録ヘッド17a〜17cのインク吐出ノズル18の個数やノズル間隔等もインクジェット記録装置100の仕様に応じて適宜設定することができる。また、記録ヘッドの数も特に限定されるものではなく、例えば各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17を1個、2個、或いは4個以上配置することもできる。
【0072】
また、本発明は、ラインヘッド11C〜11Kのうちいずれか1つのみを備えた単色印刷用のインクジェット記録装置にも適用できる。その場合、記録ヘッド17a〜17cは1つずつ設けられるため、記録ヘッド17a〜17cに対応するワイパー35a〜35cもキャリッジ31に1枚ずつ固定すれば良い。以下、実施例により本発明の効果を更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0073】
本実施形態の記録ヘッド17a〜17cの回復動作を行う場合の、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの線速(移動速度)及びワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からのインク吐出量を変化させたときの、インクの引き伸ばし効果の違いについて調査した。先ず、記録ヘッド17a〜17cのインク吐出面Fに沿って往復移動するとともにインク吐出面Fに対し接近または離間する方向に移動するキャリッジ31に、ワイパー35a〜35cとして幅30mm、高さ(突き出し量)7mm、厚み1.5mmのEPDM製(アスカー硬度60、反発弾性約60%)のゴムブレードを装着した試験機を作製した。
【0074】
記録ヘッド17a〜17cのドット形成部は
図6に示した構造を有し、加圧室75の面積を0.2mm
2、幅200μm、深さ100μm、ノズル流路76の直径を200μm、長さ800μm、供給孔79の直径を30μm、長さ40μm、インク吐出ノズル18の長さを30μm、吐出口18aの形状を半径10μmの円形とした。上記構成のドット形成部がインク吐出面F上に1列で166個、全体(4列)で664個配列された記録ヘッドを用意した。同一列内のインク吐出ノズル18のピッチは150dpiとし、また隣り合う各列を1/4ピッチずつずらすことで、全体として600dpiとした。
【0075】
また、使用するインク22は表1に示すような組成の水性インクとし、各成分を十分に攪拌した後に、孔径5μmのフィルターにて加圧ろ過し、インク22とした。
【0076】
【表1】
【0077】
そして、ワイパー35a〜35cとインク吐出面Fとのオーバーラップ量を1mmとして高撥水性のインク吐出面Fに圧接し、ワイパー35a〜35cの線速、及びワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からのインク吐出量を変化させて吐出ワイプ動作を実行したときの、ワイパー35a〜35cの後端におけるインク22の引き伸ばし効果を目視により観察した。結果を表2に示す。表2において、ワイパー35a〜35cの後端にインク22の引き伸ばしが発生した場合を○、インク22の引き伸ばしが発生しなかった場合を×とした。
【0078】
【表2】
【0079】
表2から明らかなように、ワイパー35a〜35cの線速が10mm/sec、20mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が7.0×10
−4cc以上で引き伸ばし効果が認められた。また、ワイパー35a〜35cの線速が30mm/sec、50mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が10.0×10
−4cc以上で引き伸ばし効果が認められ、ワイパー35a〜35cの線速が100mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が20.0×10
−4ccで引き伸ばし効果が認められた。即ち、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの線速が遅くなるほど、インク22の吐出量が多くなるほどインク22の引き伸ばし効果が高くなることがわかる。
【実施例2】
【0080】
本実施形態の記録ヘッド17a〜17cの回復動作を行う場合の、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの線速(移動速度)及びワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からのインク吐出量を変化させたときの、ミストの除去効果の違いについて調査した。記録ヘッド17a〜17c及びワイパー35a〜35cの構成、インク22の組成については実施例1と同様とした。
【0081】
試験方法としては、高撥水性のインク吐出面Fに予めミストを付着させて乾燥した後、ワイパー35a〜35cの線速、及びワイパー35a〜35cが通過中のインク吐出ノズル18からのインク吐出量を変化させて吐出ワイプ動作、及びインク拭き取り動作を実行したときの、インク吐出面Fに付着したミストの払拭度合いについて観察した。評価方法は、吐出ワイプ動作、及びインク拭き取り動作を1回ずつ実行する場合を1サイクルとし、ミストが1サイクルで払拭された場合を○、ミストが2サイクルで払拭された場合を△、ミストの払拭に3サイクル以上を要した残留場合を×とした。結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
表3から明らかなように、ワイパー35a〜35cの線速が10mm/sec、20mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が7.0×10
−4cc以上でミストが1サイクルで払拭された。また、ワイパー35a〜35cの線速が30mm/sec、50mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が10.0×10
−4cc以上でミストが1サイクルで払拭され、ワイパー35a〜35cの線速が100mm/secのときは、インク吐出ノズル1個当たりのインク吐出量が20.0×10
−4ccでミストが1サイクルで払拭された。即ち、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの線速が遅くなるほど、インク22の吐出量が多くなるほどミストの払拭効果が高くなることがわかる。
【0084】
以上の結果より、インク消費量を極力抑えつつ安定したミスト除去効果を得るためには、吐出ワイプ動作におけるワイパー35a〜35cの線速をなるべく遅くすることが好ましいことが確認された。