(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、特許文献2の車両では、エンジンを自動停止させる所定の条件が成立すると、燃料供給および点火を停止してエンジン回転数を低下させつつ、吸気弁を上記ロック機構により保持される時期に向けて移動させており、エンジン回転数の低下と吸気弁の移動とが同時に行われる。
【0010】
そのため、吸気弁の開弁時期がロック機構により保持される時期に移行するまでにエンジンが停止してしまい、吸気弁の開弁時期が保持されていない状態でエンジンが再始動される結果、再始動時に吸気弁の開弁時期が不安定になるおそれがある。
【0011】
具体的には、上記のようにエンジンの回転に伴って油圧を発生するポンプから油圧の供給を受けて吸気弁の開弁時期を変更する装置では、エンジンの回転が低下すると吸気開弁時期を変更することができなくなる。そのため、上記特許文献2のように、エンジン回転数の低下と吸気弁の移動とを同時に開始したのでは、エンジン回転数の低下に伴って吸気弁の開弁時期を変更する装置に供給される油圧が低下し、吸気弁の開弁時期の変更が不能となって吸気弁の開弁時期をロック機構により保持される時期にまで移行できなくなってしまう。
【0012】
これを解決するために、例えば、吸気弁の開弁時期を予め制限しておくことが考えられるが、これではエンジン性能の低下を招くことになる。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンの自動停止時に吸気弁の開弁開始時期を所定の時期に移行させて、エンジンの再始動時においてエンジン挙動が不安定になるのをより確実に回避することのできるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンを自動停止および自動再始動させる自動停止制御手段と、エンジンの回転に伴って油圧を発生する油圧発生手段と、上記油圧発生手段から油圧の供給を受けてエンジンに設けられた吸気弁の開弁開始時期を変更する機構、および、吸気弁の開弁開始時期を所定の基準時期に保持するロック機構を含む油圧式の吸気開弁時期変更手段と、上記吸気開弁時期変更手段に供給される油圧を制御する油圧制御手段と、エンジンを自動停止させる条件である自動停止条件が成立したか否かを判定する自動停止判定手段と、上記ロック機構によって吸気弁が上記基準時期に保持可能な状態になったか否かを判定するロック状態判定手段とを備え、上記油圧制御手段は、上記自動停止条件が成立したと判定されると、上記吸気弁の開弁開始時期を上記基準時期にするための油圧を上記吸気開弁時期変更手段に供給し、上記自動停止手段は、上記自動停止条件が成立し、かつ、上記ロック状態判定手段により吸気弁が上記基準時期に保持可能な状態になったと判定された後に、エンジンの自動停止を開始
し、上記ロック状態判定手段は、吸気弁の開弁開始時期と上記基準時期との差が、予め設定された判定値以下であれば、吸気弁が上記基準時期に保持可能な状態になったと判定し、上記判定値は、上記自動停止条件が成立したと判定されたときのエンジン回転数が高いほど大きい値に設定されることを特徴とするものである(請求項1)。
【0015】
本発明によれば、エンジンを自動停止する条件である自動停止条件が成立した場合であっても、ロック機構によって吸気弁の開弁開始時期が基準時期に保持される状態となった後に、エンジンの自動停止が開始されるので、エンジンの自動停止中に吸気弁の開弁開始時期を基準時期により確実に保持することができ、これにより、再始動時において吸気弁の開弁開始時期ひいてはエンジンの挙動を安定させることができる。また、吸気弁の開弁時期を予め制限することがないためエンジン性能を確保できる。
【0016】
本発明において、運転条件に応じて、吸気弁の開弁開始時期の目標値である目標吸気開弁時期を決定する目標吸気開弁時期決定手段を備え、上記ロック状態判定手段は、決定された上記目標吸気開弁時期と上記基準時期との差、および、吸気弁の開弁開始時期と上記基準時期との差が、いずれも、予め設定された判定値以下であれば、吸気弁が上記基準時期に保持される状態になったと判定するのが好ましい(請求項2)。
【0017】
このようにすれば、より早期にエンジンを自動停止させることができ、燃費性能を高めることができる。
【0018】
ここで、本発明は、上記基準時期が、上記吸気開弁時期変更手段によって変更される吸気弁の開弁開始時期の範囲のうち最も遅角側の時期に設定されており、エンジン回転数が所定の第1回転数以上第2回転数以下、かつ、エンジン負荷が所定の第1負荷以上第2負荷以下の領域に設定された中回転中負荷領域の領域において、吸気弁の開弁開始時期が、上記基準時期よりも予め設定された所定時期以上進角側に設定されている場合において特に有効である(請求項3)。
【0019】
すなわち、本発明では、吸気弁の開弁開始時期が基準時期に保持される状態になった後にエンジンが自動停止されるため、エンジンの自動停止が行われる低回転低負荷領域に近い中回転中負荷領域において、吸気弁の開弁開始時期が基準時期よりも所定時期以上進角側の時期とされ、その後の負荷および回転の低下に伴って吸気弁の開弁開始時期を基準時期まで移行させるのに必要な時間が長くなる場合であっても、エンジンの自動停止時に吸気弁の開弁開始時期をより確実に基準時期に移行させることができ、再始動時においてエンジン挙動を安定させることができる。
【0020】
また、本発明は、上記吸気開弁時期変更手段は、運転条件に応じて、吸気弁の開弁開始時期を50クランク角以上の範囲にわたって変更し、上記基準時期は、上記吸気開弁時期変更手段によって変更される吸気弁の開弁開始時期の範囲のうち最も遅角側の時期に設定されている場合においても有効である(請求項4)。
【0021】
すなわち、本発明によれば、エンジンの自動停止時において吸気弁の開弁時期をより確実に基準時期に保持することができるため、吸気弁の開弁開始時期が50クランク角以上の広い範囲で変更され、かつ、基準時期が最遅角側の時期に設定されている場合であっても、再始動時にエンジン挙動を安定させることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明のエンジンの制御装置によれば、エンジンの自動停止時に吸気弁の開弁開始時期を所定の時期に移行、保持させて、エンジンの再始動時においてエンジン挙動が不安定になるのをより確実に回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(1)エンジンシステムの全体構成
図1は、本発明の制御装置が適用されるエンジンシステムの一実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルの多気筒ガソリンエンジンである。具体的に、このエンジンは、複数の気筒2(
図1では、1つのみを示している)を有するエンジン本体1と、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排気ガスを排出するための排気通路39とを備えている。
【0025】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上側に設けられたシリンダヘッド4と、シリンダヘッド4の上側に設けられたカムキャップ5と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン11とを有している。
【0026】
ピストン11の上方には燃焼室10が形成されており、燃焼室10には、後述するインジェクタ12(
図2参照)から噴射されるガソリンを主成分とする燃料が供給される。そして、供給された燃料が燃焼室10で燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン11が上下方向に往復運動するようになっている。
【0027】
ピストン11は、エンジン本体1の出力軸であるクランクシャフト15とコネクティングロッド14を介して連結されており、上記ピストン11の往復運動に応じてクランクシャフト15が中心軸回りに回転するようになっている。
【0028】
クランクシャフト15には、オイルポンプ(油圧発生手段)40が連結されている。このオイルポンプ40は、後述する吸気VVT29等に油圧を供給するためのものである。オイルポンプ40は、クランクシャフト15の回転すなわちエンジン本体1の回転に伴って駆動され、この回転量に応じた油圧を発生する。オイルポンプ40と吸気VVT29との間には、油圧を調整する調整バルブ41(以下、OCV(Oil Control Valve)という)が設けられており、このOCV41により、吸気VVT29に供給される最終的な油圧が、オイルポンプ40の吐出圧以下の範囲で変更される。
【0029】
シリンダヘッド4には、気筒2の燃焼室10に向けて燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ12と、インジェクタ12から噴射された燃料と空気との混合気に対し火花放電による点火エネルギーを供給する点火プラグ13とが設けられている。
【0030】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を各気筒2の燃焼室10に導入するための吸気ポート6と、各気筒2の燃焼室10で生成された排気ガスを排気通路39に導出するための排気ポート7と、吸気ポート6を通じた吸気の導入を制御するために吸気ポート6の燃焼室10側の開口を開閉する吸気弁8と、排気ポート7からのガス排出を制御するために排気ポート7の燃焼室10側の開口を開閉する排気弁9とが設けられている。なお、当実施形態では、各気筒2に対してそれぞれ2つの吸気ポート6および吸気弁8が設けられるとともに、同じく各気筒2に対してそれぞれ2つの排気ポート7および排気弁9が設けられている。
【0031】
吸気通路30は、各気筒2の2つの吸気ポート6とそれぞれ連通する独立吸気通路31と、各独立吸気通路31の上流端部(吸気の流れ方向上流側の端部)に共通に接続されたサージタンク32と、サージタンク32から上流側に延びる1本の吸気管33とを有している。
【0032】
吸気管33の途中部には、エンジン本体1に導入される吸気の流量を調節する開閉可能なスロットルバルブ34aが設けられている。吸気管33には、スロットルバルブ34aを駆動するためのバルブアクチュエータ34bが設けられており、スロットルバルブ34aは、バルブアクチュエータ34bにより開閉される。吸気管33のうちスロットルバルブ34aよりも上流側の部分には、エアクリーナ35が設けられている。
【0033】
(2)吸気弁の駆動機構
次に、吸気弁8を開閉させるための機構について、説明する。
【0034】
シリンダヘッド4には、吸気弁8を開閉させるための吸気カムシャフト28aと、この吸気カムシャフト28aと一体に回転するように設けられた吸気カム部(不図示)とを含む吸気側動弁機構28が設けられている。吸気カムシャフト28aは、クランクシャフト15の回転に連動して回転するよう構成されており、吸気弁8は、クランクシャフト15の回転に伴い吸気カムシャフト28aが回転すると吸気カム部によって周期的に下方に押圧されて、開閉する。
【0035】
本実施形態では、上記吸気側動弁機構28に、吸気バルブタイミング可変機構29(吸気開弁時期変更手段、以下、吸気VVT(Variable Valve Timing)という)が設けられており、この吸気VVT29により吸気弁8の開弁開始時期(以下、適宜、吸気開弁時期という)が変更される。なお、本実施形態では、吸気VVT29は、吸気弁8の開弁期間を一定に保持した状態で吸気開弁開始時期を変更する。
【0036】
吸気VVT29は、油圧式であって、油圧ポンプ40から所定の基準油圧Poil_min以上の油圧が供給されることで駆動し、この供給された油圧に応じて吸気開弁開始時期を変更する。また、吸気VVT29には、吸気開弁時期を保持するロック機構が設けられている。
【0037】
このような吸気VVT29としては、例えば、特開平9−60508号公報に開示されているものを適用すればよく、ここでは、その構造について簡単な説明のみを行う。
【0038】
吸気VVT29は、チェーンおよびチェーンスプロケットを介してクランクシャフトと一体に回転するハウジング部材と、このハウジング部材の内側に配置されてカムシャフトと一体に回転するベーンロータとを備える。ハウジング部材には、ベーンロータとその回転方向において対向するシューが設けられており、シューとベーンロータとの間には、作動油が供給される油圧室が区画されている。ベーンロータは、この油圧室に供給される作動油の油圧に応じてシューおよびシューハウジングに対して回転し、これによりクランクシャフトとベーンロータすなわちカムシャフトのとの位相が変更される。
【0039】
吸気VVT29には、ロック機構として、シューハウジングに形成されたロック孔に嵌合してベーンロータを所定の位置(吸気開弁時期が基準時期となる位置)で固定(ロック)するロックピンと、このロックピンをロック孔に嵌合する方向に付勢するばね部材とが設けられている。このロック機構では、所定圧以上の油圧が供給されることで、ばね部材の付勢力に抗してロックピンがロック孔から抜け出し、ベーンロータの移動が可能となる。
【0040】
このロック機構は、始動時等のエンジン回転数が低い運転条件下において、ベーンロータがハウジング部材にぶつかり騒音が発生するという問題、また、吸気開弁時期が安定しないという問題が生じるのを回避するためのものである。すなわち、ロック機構が設けられていない場合には、エンジン回転数が低い運転条件下では油圧ポンプ40から供給される油圧が低いことに伴い、ベーンロータの動きが安定せず、上記のようにベーンロータがハウジング部材にぶつかる、また、吸気開弁時期が安定せず燃焼が不安定なるおそれがあるという問題が生じるが、上記ロック機構が設けられていれば、ベーンロータをハウジング部材に固定することができ、上記問題を回避することができる。
【0041】
吸気開弁時期の固定時期である上記基準時期は、始動性等に応じて適宜設定されればよい。すなわち、始動時には、ロック機構により吸気開弁時期がこの基準時期に固定されるため、この基準時期として、始動性を確保できる時期に設定されればよい。本実施形態では、この基準時期は、吸気VVT29によって変更可能な吸気開弁時期のうち最も遅角側の時期に設定されている。
【0042】
(3)制御系統
次に、エンジンの制御系統について説明する。当実施形態のエンジンは、その各部が
図1および
図2に示されるECU(エンジン制御ユニット)50によって統括的に制御される。ECU50は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0043】
エンジンおよび車両には、その各部の状態量を検出するための複数のセンサが設けられており、各センサからの情報がECU50に入力されるようになっている。
【0044】
例えば、シリンダブロック3には、クランクシャフト15の回転角度(クランク角)および回転速度を検出するクランク角センサSN1が設けられている。このクランク角センサSN1は、クランクシャフト15と一体に回転するクランクプレートの回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランクシャフト15の回転角度および回転速度すなわちエンジン回転数が特定されるようになっている。
【0045】
カムキャップ5にはカム角センサSN2が設けられている。カム角センサSN2は、吸気カムシャフト28aと一体に回転するシグナルプレートの歯の通過に応じてパルス信号を出力するものであり、吸気カムシャフト28aとクランクシャフトとの位相差を検出する。この検出信号により、吸気開弁時期が特定されるとともに、この検出信号とクランク角センサSN1からのパルス信号とに基づいて、どの気筒が何行程にあるかという気筒判別情報が特定される。
【0046】
吸気通路30のうちエアクリーナ35とスロットルバルブ34aとの間には、各気筒2に導入される空気量を検出する吸気量センサSN3が設けられている。
【0047】
エンジン本体には、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSN4(
図2参照)が設けられている。
【0048】
車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN5(
図2参照)、車速を検出する車速センサSN6(
図2参照)等が設けられている。
【0049】
ECU50は、これらのセンサSN1〜SN6と電気的に接続されており、それぞれのセンサから入力される信号に基づいて、上述した各種情報(エンジン回転数、吸気開弁時期および気筒情報、吸気量、水温、アクセル開度、車速)を取得する。
【0050】
そして、ECU50は、上記各センサSN1〜SN6からの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、ECU50は、インジェクタ12、点火プラグ13、スロットルバルブ34a、吸気VVT29(OCV)と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
【0051】
(4)自動停止制御
本実施形態に係る車両は、燃費性能の向上等を目的としてエンジンが自動停止される(いわゆるアイドルストップされる)ように構成されている。すなわち、所定の条件となると、運転者の操作(イグニッションキーをオフにする操作等)によらず、各気筒での燃焼が停止されてエンジンが自動的に停止する自動停止が行われる。
【0052】
ECU50は、このエンジンの自動停止制御に係る機能的要素として、自動停止判定部(自動停止判定手段)51、ロック状態判定部(ロック状態判定手段)52、自動停止部(自動停止手段)53を有している。
【0053】
また、ECU50は、吸気弁の制御に関する機能的要素として、目標吸気開弁時期決定部(目標吸気開弁時期決定手段)54と、吸気開弁時期変更部(油圧制御手段)55とを有している。
【0054】
目標吸気開弁時期決定部54は、吸気開弁時期(吸気弁の開弁開始時期)の目標値である目標吸気開弁時期を決定するものである。
【0055】
目標吸気開弁時期決定部54は、後述する自動停止条件が成立していない通常運転時は、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて目標吸気開弁時期を決定する。具体的には、目標吸気開弁時期決定部54は、予め設定されたエンジン回転数とエンジン負荷とに対する目標吸気開弁時期をマップで記憶しており、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じて、このマップから目標吸気開弁時期を抽出する。本実施形態では、目標吸気開弁時期は、
図3に示すように、エンジン回転数が第1回転数N1以上第2回転数N2以下、かつ、エンジン負荷が所定の第1負荷Ce1以上第2負荷Ce2以下の領域に設定された中回転中負荷領域A1において最も進角側となり、この領域A1からエンジン回転数およびエンジン負荷が小さくなるほど、また、大きくなるほど、遅角側になるように設定されている。そして、最遅角側の時期と最進角側の時期との差が約50°CAと比較的広い範囲に設定されている。すなわち、中回転中負荷領域A1における吸気弁の開弁開始時期が最遅角時期である基準時期よりも約50°CA以上進角側に設定されている。
【0056】
一方、目標吸気開弁時期決定部54は、後述する自動停止条件が成立すると、目標吸気開弁時期を上記ロック機構により保持される基準時期(最遅角時期)に決定する。すなわち、本実施形態では、エンジンが自動停止すると吸気開弁時期を上記基準時期にして、ロック機構によって吸気開弁時期をこの基準時期に保持させる。これは、始動時と同様にエンジンの自動停止後の再始動時においても、上記のようにベーンロータがハウジング部材にぶつかり騒音が発生するという問題、また、吸気開弁時期が安定しないという問題が生じるおそれがあるためであり、本実施形態では、この問題を回避するべく再始動時においてもロック機構によりベーンロータをハウジング部材に固定して吸気開弁時期を基準時期に保持する。
【0057】
吸気開弁時期変更部55は、吸気開弁時期が上記目標吸気開弁時期となるように、吸気VVT29を制御するものである。本実施形態では、上記のように、OCVによって吸気開弁時期が変更されるよう構成されており、吸気開弁時期変更部55は、目標吸気開弁時期が実現される油圧が吸気VVT29に供給されるようにOCVを制御する。
【0058】
自動停止判定部51は、エンジンを自動停止させる条件である自動停止条件が成立したか否かを判定するものである。本実施形態では、自動停止判定部51は、エンジン水温が所定温度以上であってエンジンが暖機状態であり、アクセル開度が全閉であり、車速が所定値(例えば4km/h)以下である等の条件が全て成立した場合に、自動停止条件が成立したと判定する。
【0059】
ロック状態判定部52は、吸気VVT29のロック機構によって吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあるか否かを判定するものである。
【0060】
ここで、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあるとは、ベーンロータがハウジング部材に完全に固定、保持された状態のみをいうのではなく、まだ完全に固定、保持されてはいないがその後自然に固定、保持されることが確実な状態を含む。すなわち、本実施形態では、上記のように、ロック機構の上記ロックピンがロック孔に嵌合することでベーンロータの固定および吸気開弁時期の保持が行われるよう構成されており、このロックピンがある程度ロック孔に近づくと、ばね部材の付勢力および慣性によってロックピンは確実にロック孔に嵌合する。そこで、本実施形態では、このように、ベーンロータとロック孔との距離が近くなった状態、すなわち、吸気開弁時期が基準時期に近くなった状態も、ベーンロータがハウジング部材に固定される状態および吸気開弁時期が基準時期に保持される状態に含める。
【0061】
具体的には、ロック状態判定部52は、吸気開弁時期と基準時期との差が予め設定された判定時期(判定値)以下となると、ベーンロータをハウジング部材に固定可能な状態、すなわち、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあると判定する。上記判定時期は、例えば、およそ3°CAに設定される。上記吸気開弁時期は、上記のとおり、カム角センサSN2の検出値に基づいて特定される。
【0062】
自動停止部53は、エンジンを自動停止させるための制御を実施するものである。自動停止部53は、インジェクタ12からの燃料噴射を停止し、点火プラグ13による点火を停止することで、エンジンを自動停止させる。
【0063】
ここで、本実施形態では、自動停止部53は、上記自動停止条件が成立しただけでは、エンジンの自動停止を開始せず、自動停止条件が成立し、かつ、ロック状態判定部52によって、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあると判定された場合にのみ、エンジンを自動停止させる。すなわち、自動停止部53は、自動停止条件が成立する一方吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態になっていないと判定された場合には、インジェクタ12からの燃料噴射を継続するとともに点火プラグ13による点火を維持する。そして、吸気開弁時期が基準時期に保持される状態にあると判定されるのを待って、インジェクタ12からの燃料噴射を停止し、点火プラグ13による点火を停止する。
【0064】
ECU50により実施される。上記のエンジンを自動停止させるための制御の流れを
図4に示す。
【0065】
まず、ステップS1にて、水温センサSN4、アクセル開度センサSN5、車速センサSN6の検出値である水温(エンジン冷却水温度)、アクセル開度、車速等を読み込む。
【0066】
次にステップS2にて、自動停止条件が成立したか否かを判定する。この判定がNOであれば、ステップS1に戻る。一方、この判定がYESであれば、ステップS3に進む。
【0067】
ステップS3では、目標吸気開弁時期を基準時期に設定するとともに、吸気開弁時期がこの基準時期となるようにOCVに指令を出す。
【0068】
ステップS3の後に進むステップS4では、ベーンロータがハウジング部材に固定される状態および吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態になったか否かの判定を行う。上記のとおり、本実施形態では、目標吸気開弁時期および実吸気開弁開始時期と基準時期との差が、上記判定時期以下であれば、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態になったと判定する。
【0069】
ステップS4の判定がNOであれば、ステップS3に戻り、吸気開弁時期を基準時期に向けて遅角させる。
【0070】
一方、ステップS4の判定がYESであって目標吸気開弁時期および実吸気開弁開始時期と基準時期との差が上記判定時期以下となれば、ステップS5に進む。ステップS5では、エンジンが自動停止される。すなわち、インジェクタ12からの燃料噴射を停止し、点火プラグ13による点火を停止する。
【0071】
(5)作用等
以上のように、本実施形態では、エンジンを自動停止する条件である自動停止条件が成立した場合であっても、吸気VVT29のロック機構によってベーンロータをハウジング部材に固定可能となり吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態になった後に、はじめてエンジンの自動停止が開始されるので、エンジンの自動停止中に、ロック機構によってベーンロータをハウジング部材により確実に固定し、かつ、吸気開弁開始時期を基準時期により確実に保持することができる。そのため、再始動時においてベーンロータの挙動および吸気開弁開始時期を安定させることができ、ベーンロータがハウジング部材にぶつかって振動が生じるのを回避すること、および、燃焼が不安定になってエンジン挙動が不安定になるのを回避することができる。
【0072】
図5、
図6を用いて具体的に説明する。
図5および
図6は、エンジンが所定の運転条件から自動停止し、その後再始動する際の各パラメータの時間変化を示した図である。これら
図5および
図6において、自動停止フラグは、自動停止条件が成立している場合に1となり、自動停止条件が成立していない場合には0となるフラグである。また、
図5においてロック判定フラグは、吸気VVT29のロック機構によって吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態になった場合に1となり、それ以外の場合には0となるフラグである。
図5は、本実施形態に係る制御を実施した場合の図であり、
図6は、従来の制御を実施した場合、すなわち、自動停止条件が成立するとすぐさまエンジンの自動停止を開始した場合の図である。
【0073】
図6では、時刻t1において自動停止条件が成立するとほぼ同時にエンジンの自動停止が開始される。そのため、時刻t1からエンジン回転数が低下し始め、同様に、吸気VVT29に供給される油圧が時刻t1から低下し始める。ここで、時刻t1にて自動停止条件が成立すると、吸気VVT29は、ロック機構によりベーンロータをハウジング部材に固定して吸気開弁時期を最遅角時期(基準時期)に保持させるべく、吸気開弁時期を最遅角時期(基準時期)に向けて変化させ始める。しかしながら、この
図6に示した場合では、上述のように、時刻t1にてエンジンの自動停止が開始されるのに伴い吸気VVT29に供給される油圧が時刻t1から低下し始める。そのため、吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)に到達するまでの時刻t21にて、吸気VVT29に供給される油圧が吸気VVT29を作動させることが可能な所定の基準油圧Poil_minより低くなってしまい、時刻t21以後、吸気開弁時期を変更することができなくなる。従って、この
図6に示した場合では、ロック機構によって吸気弁開始時期が最遅角時期(基準時期)に保持されずベーンロータがハウジング部材に固定されていない状態でエンジンが自動停止する。
【0074】
このようにしてエンジンが自動停止すると、
図6に示すように、時刻t3にてエンジンが再始動されてから、エンジン回転数が所定の回転数に到達して吸気VVT29に供給される油圧が上記基準油圧Poil_minに到達する時刻t22までの間、ベーンロータの動きが安定せず、吸気開弁時期が変動する。そして、このように吸気開弁時期が変動すると、各気筒2に吸入される空気量が安定せず燃焼が不安定となる。
【0075】
なお、
図6において、再始動後時刻t4まではアイドル運転がなされており、時刻t22以後時刻t4までは、吸気VVT29に供給される油圧が確保されることで吸気開弁時期は最遅角時期(基準時期)に変更される。そして、時刻t4以後は、吸気開弁時期は運転条件に応じて設定された時期に変更される。
【0076】
これに対して、
図5に示すように、本実施形態では、時刻t1において自動停止条件が成立してもエンジンの自動停止は開始されず、まず、吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)に変更される。この変更は時刻t1から開始され、時刻t1にて目標吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)に変更され、この目標吸気開弁時期となるように吸気VVT29が吸気開弁時期の変更を開始する。そして、時刻t2にて、実際の吸気開弁時期と最遅角時期(基準時期)との差が上記判定時期となり、ロック判定フラグが1となってから、エンジンの自動停止が開始される。すなわち、時刻t2以後において初めてエンジン回転数および吸気VVT29に供給される油圧が低下し始める。
【0077】
従って、本実施形態では、時刻t3の再始動時において、ロック機構によってベーンロータをハウジング部材に固定して吸気開弁時期を最遅角時期(基準時期)に保持した状態で、時刻t3において再始動することができ、再始動時であって吸気VVT29に供給される油圧が低い状態においても、ベーンロータが振動するのを回避することができるとともに、吸気開弁時期を最遅角時期(基準時期)に維持して各気筒2に吸入される空気量および各気筒2内での燃焼を安定させることができる。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、目標吸気開弁時期と最遅角時期(基準時期)との差および実際の吸気開弁時期と最遅角時期(基準時期)との差が0より大きい値に設定された上記判定時期以下になると、吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)に保持可能な状態になったと判定してエンジンの自動停止を開始している。そのため、吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)に移行させつつ、より早期にエンジンの自動停止を開始させることができ、燃費性能を高めることができる。
【0079】
ここで、吸気VVT29により変更される吸気開弁時期の範囲すなわち最遅角側の時期と最進角側の時期との差は、約50°CAに限らない。ただし、本実施形態では、自動停止条件成立時の吸気開弁時期と基準時期との差の大小によらずエンジンの自動停止時において確実に吸気開弁時期を基準時期に保持させることができる。そのため、このように吸気開弁時期の範囲を少なくとも30°CA以上とすれば、エンジンの自動停止時に吸気開弁時期を基準時期に保持させて再始動時の燃焼安定性の悪化を抑制しつつ、吸気開弁時期を運転条件に応じてより適正に制御してエンジン性能を高めることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、基準時期を最遅角時期とし、中回転中負荷領域A1にて吸気開弁時期が最進角時期に設定される場合について説明したが、基準時期および各領域での具体的な吸気開弁時期はこれに限らない。ただし、各時期が上記のように設定されている場合において本実施形態に係る構成を適用すれば、より効果的に再始動時のエンジン挙動を安定させることができる。
【0081】
具体的には、上記実施形態では、基本的には、低回転低負荷領域(エンジン回転数およびエンジン負荷がそれぞれ所定の値よりも低い運転領域)でエンジンの自動停止が実施されることが多いが、例えば、エアコンなどの外部負荷が大きく、走行途中にエンジンの自動停止を行う場合などには、中回転中負荷領域A1でエンジンの自動停止が実施されることがある。そのため、各時期が上記のように設定されており、かつ、中回転中負荷領域A1にてエンジンの自動停止が行われる場合において、
図6に示した従来の制御(エンジンの自動停止と吸気開弁時期の基準時期への変更を同時に開始する制御)が実施されると、吸気開弁時期が基準時期に到達せず再始動時にエンジン挙動が不安定となる可能性が高い。これに対して、本実施形態に係る構成であれば、各時期が上記のように設定されており、かつ、中回転中負荷領域A1にてエンジンの自動停止が行われる場合であっても、吸気開弁時期を基準時期に到達させることができるので、再始動時のエンジン挙動を安定させることができる。
【0082】
ここで、上述のように、また、
図3に示したように、上記実施形態において、吸気開弁時期は、上記領域A1からエンジン回転数およびエンジン負荷が小さくなるほど、また、大きくなるほど、遅角側になるように設定されており、この領域A1の周囲の運転領域においても、吸気開弁時期は最遅角時期よりも所定時期以上進角側の時期となる。そのため、上記領域A1においてエンジンの自動停止が実施される場合に限らず、領域A1の周囲の領域でエンジンの自動停止が実施される場合においても、もちろん、本実施形態が適用されることで、再始動時のエンジン挙動を安定させることができる。すなわち、本発明は、中回転中負荷領域A1において吸気開弁時期が最進角時期に設定されている場合に限らず、中回転中負荷領域A1において吸気開弁時期が最遅角時期(基準時期)よりも所定時期以上進角側に設定されたものにおいても有効であり、中回転中負荷領域A1における吸気開弁時期がこのように設定されてもよい。なお、この場合には、所定時期は少なくとも上記判定時期よりも長く設定される。
【0083】
また、上記実施形態では、吸気開弁時期と基準時期との差が予め設定された判定時期以下となると、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあると、判定する場合について説明したが、その他の手順、例えば、吸気開弁時期の実値が所定時期以下(所定時期よりも遅角側)となった時に吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあると判定する手順を採用してもよい。
【0084】
また、上記判定時期、あるいは、吸気開弁時期の実値と比較する上記所定時期を、エンジンの自動停止前(例えば、自動停止条件が成立した時点)のエンジン回転数に応じて上記判定時期を変化させてもよい。すなわち、エンジン回転数が高いほど吸気VVT29に供給されている油圧は高く、この油圧が基準油圧Poil_minに低下するまでの時間、すなわち、エンジンを停止してから吸気VVT29による吸気開弁時期の変更が不可能となるまでの時間、換言すると、エンジン停止後であっても吸気開弁時期を基準時期に移動させることが可能な時間、は長くなる。そのため、エンジンの自動停止前のエンジン回転数が高いほど、上記判定時期が進角側になるように設定してもよい。このようにすれば、吸気開弁時期が基準時期に保持可能な状態にあるとの判定をより迅速に行うことができ、より早期にエンジンを自動停止させて、燃費性能を高めることができる。