(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アイドル回転数を通常のアイドル運転時よりも高い目標アイドル回転数に制御するアイドルアップ制御が可能なエンジンと、変速機構をニュートラル状態とするニュートラル制御が可能な自動変速機とを有するパワートレインの制御装置であって、
前記エンジンのアイドルアップ制御が必要であるか否かを判断する判断手段と、
車両の減速中で、且つ、前記判断手段によって前記アイドルアップ制御が必要であると判断されている状態で、エンジン回転数が目標アイドル回転数に関連する所定回転数まで低下したとき、又は、車速が前記所定回転数に相当する所定車速まで低下したとき、前記ニュートラル制御を実行すると共に、前記アイドルアップ制御を開始する制御手段と、を備え、
前記自動変速機は、発進変速段を形成する2つの摩擦締結要素のうちの1つとして、クリアランス調整用油圧室への油圧供給時にクラッチクリアランスを小クリアランス状態とするクリアランス調整用ピストンと、締結用油圧室への油圧供給時に摩擦板を押圧する締結用ピストンとを有するブレーキを備え、
前記制御手段は、走行レンジでの車両の減速中に行われる前記ニュートラル制御において、前記2つの摩擦締結要素のうちの前記ブレーキ以外の摩擦締結要素を締結すると共に、前記ブレーキの前記2つの油圧室のうちのクリアランス調整用油圧室にのみ油圧を供給することにより、変速機構をニュートラル状態にすることを特徴とするパワートレインの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の技術も含めて、従来は、停車中において所定のアイドルアップ条件が成立したときにアイドルアップが実行されることで、燃費性能や排気浄化性能等の向上が図られているが、これらの性能を更に高めるべく、アイドルアップ制御技術の更なる改良が要請されている。
【0008】
そこで、本発明は、燃費性能や排気浄化性能等の更なる向上を図るために、アイドルアップが行われる運転領域の拡大を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係るパワートレインの制御装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
アイドル回転数を通常のアイドル運転時よりも高い目標アイドル回転数に制御するアイドルアップ制御が可能なエンジンと、変速機構をニュートラル状態とするニュートラル制御が可能な自動変速機とを有するパワートレインの制御装置であって、
前記エンジンのアイドルアップ制御が必要であるか否かを判断する判断手段と、
車両の減速中で、且つ、前記判断手段によって前記アイドルアップ制御が必要であると判断されている状態で、エンジン回転数が目標アイドル回転数に関連する所定回転数まで低下したとき、又は、車速が前記所定回転数に相当する所定車速まで低下したとき、前記ニュートラル制御を実行すると共に、前記アイドルアップ制御を開始する制御手段と、を備
え、
前記自動変速機は、発進変速段を形成する2つの摩擦締結要素のうちの1つとして、クリアランス調整用油圧室への油圧供給時にクラッチクリアランスを小クリアランス状態とするクリアランス調整用ピストンと、締結用油圧室への油圧供給時に摩擦板を押圧する締結用ピストンとを有するブレーキを備え、
前記制御手段は、走行レンジでの車両の減速中に行われる前記ニュートラル制御において、前記2つの摩擦締結要素のうちの前記ブレーキ以外の摩擦締結要素を締結すると共に、前記ブレーキの前記2つの油圧室のうちのクリアランス調整用油圧室にのみ油圧を供給することにより、変速機構をニュートラル状態にすることを特徴とする。
【0011】
ここでいう「目標アイドル回転数に関連する所定回転数」の具体例としては、目標アイドル回転数が一定である場合における「目標アイドル回転数に所定値を加算した回転数」又は「目標アイドル回転数」等が挙げられ、目標アイドル回転数が車速等に応じて変動する場合における「目標アイドル回転数の初期値に所定値を加算した回転数」又は「目標アイドル回転数の初期値」等が挙げられる。
【0012】
また、ここでいう「所定回転数に相当する所定車速」の具体例としては、「所定回転数と、そのときの変速段とによって決まる車速」、又は、「所定回転数に相当する車速であって、1速にシフトダウンされる車速」等が挙げられる。
【0013】
なお、本明細書において、アイドルアップ制御とは、エンジン回転数を通常のアイドル回転数よりも高い目標アイドル回転数に制御することを意味するものとし、該アイドルアップ制御には、停車中のアイドル回転数を目標アイドル回転数に制御することだけでなく、車両の減速中のエンジン回転数を目標アイドル回転数に制御することも含まれる。
【0015】
さらに、
請求項2に記載の発明は、前記
請求項1に記載の発明において、
車両の減速中における前記目標アイドル回転数を車速の低下に従って低くなるように設定する設定手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
またさらに、
請求項3に記載の発明は、前記
請求項1又は請求項2に記載の発明において、
前記制御手段は、車両の減速中に前記アイドルアップ制御を開始した後、停車しても前記アイドルアップ制御を継続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明に係るパワートレインの制御装置によれば、車両の減速中にアイドルアップ制御が開始されるため、従来のように停車時にのみアイドルアップを行う場合に比べてエンジンの暖機が促進されて、より効果的に燃費性能や排気浄化性能等を高めることができる。
【0018】
また、上記の車両減速中のアイドルアップ制御が行われるとき、ニュートラル制御によって自動変速機がニュートラル状態とされることで、エンジンの動力が駆動輪から切り離されるため、車両の減速に支障を来すことなく、アイドル回転数の高回転化を図ることが可能になり、これにより、効果的なエンジンの暖機を停車前から行うことができる。
【0019】
さらに、エンジン回転数が目標アイドル回転数に関連する所定回転数まで低下したとき、又は、その所定回転数に相当する所定車速まで減速したときに、エンジン回転数が目標アイドル回転数に制御され始めるため、エンジン回転数の急激な変化が生じることなく、これにより、車両走行中にアイドルアップ制御が開始されることによる違和感を抑制できる。
【0020】
また、
請求項1に記載の発明によれば、走行レンジでの車両の減速中に行われる前記ニュートラル制御において、発進変速段を形成するブレーキのクリアランス調整用油圧室及び締結用油圧室のうち、クリアランス調整用油圧室にのみ油圧を供給することで、緻密な油圧制御を必要とするスリップ制御を行うことなく、当該ブレーキを解放してニュートラル状態を実現できる。したがって、エンジンの始動からあまり時間が経過していないときなど、自動変速機の作動油の温度が低く粘性が高い状態でも、精度よくニュートラル制御を行うことができる。
【0021】
さらに、
請求項1に記載の発明によれば、ニュートラル制御中において、当該ブレーキは完全解放状態ではなく小クリアランス状態となっているため、締結用油圧室への油圧供給によって速やかに締結される。したがって、ニュートラル制御が行われていても、車両減速中に加速要求があったとき又は停車中に発進要求があったときなどには、当該ブレーキの迅速な締結によって、加速時又は発進時に良好な応答性を発揮することができる。
【0022】
さらに、
請求項2に記載の発明によれば、車両の減速中におけるアイドルアップ制御において、通常の減速時と同様に、エンジン回転数が車速の低下に従って低下するように制御されるため、減速中のアイドルアップによる乗員の違和感を抑制することができる。
【0023】
また、
請求項3に記載の発明によれば、車両の減速中にアイドルアップ制御が開始された後、該アイドルアップ制御は停車後も継続されるため、エンジンの暖機を早期に完了することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[自動変速機の構成]
図1に骨子を示すように、本発明の実施の形態に係るパワートレインは、エンジン1と、トルクコンバータ3を介してエンジン1の出力軸2に連結された自動変速機4とを備えている。
【0027】
エンジン1としては、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンが用いられるが、本発明において、エンジン1の種類は特に限定されるものでない。
【0028】
トルクコンバータ3は、エンジン出力軸2に連結されたケース3aと該ケース3a内に固設されたポンプ3bと、該ポンプ3bに対向配置されて該ポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、該ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、変速機ケース5にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、該ケース3aを介してエンジン出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとを備えている。そして、タービン3cの回転は、入力軸7を介して自動変速機4に伝達されるようになっている。
【0029】
自動変速機4とトルクコンバータ3との間には、該トルクコンバータ3を介してエンジン1により駆動される機械ポンプ6が配置されており、エンジン1の駆動中において、該機械ポンプ6によって、自動変速機4の油圧回路100(
図2参照)に油圧が供給される。
【0030】
自動変速機4の入力軸7上には、エンジン1側(トルクコンバータ3側)から、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、「第1、第2、第3ギヤセット」という)10,20,30が配置されている。
【0031】
また、入力軸7上には、ギヤセット10,20,30で構成される動力伝達経路を切り換えるための摩擦締結要素として、入力軸7からの動力をギヤセット10,20,30側へ選択的に伝達するロークラッチ40及びハイクラッチ50が配置されている。さらに、入力軸7上には、各ギヤセット10,20,30の所定の回転要素を固定するLR(ローリバース)ブレーキ60、26ブレーキ70、及び、R35ブレーキ80が、エンジン1側からこの順序で配置されている。
【0032】
前記第1〜第3ギヤセット10,20,30のうち、第1ギヤセット10と第2ギヤセット20はシングルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ11,21と、これらのサンギヤ11,21に噛み合った各複数のピニオン12,22と、これらのピニオン12,22をそれぞれ支持するキャリヤ13,23と、ピニオン12,22に噛み合ったリングギヤ14,24とで構成されている。
【0033】
また、第3ギヤセット30はダブルピニオン型のプラネタリギヤセットであって、サンギヤ31と、該サンギヤ31に噛み合った複数の第1ピニオン32aと、該第1ピニオン32aに噛み合った第2ピニオン32bと、これらのピニオン32a,32bを支持するキャリヤ33と、第2ピニオン32bに噛み合ったリングギヤ34とで構成されている。
【0034】
そして、第3ギヤセット30のサンギヤ31には入力軸7が直接連結されている。第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21とは、互いに結合されて、ロークラッチ40の出力部材41に連結されている。第2ギヤセット20のキャリヤ23にはハイクラッチ50の出力部材51が連結されている。
【0035】
また、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とは、互いに結合されており、LRブレーキ60を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のリングギヤ34とは、互いに結合されており、26ブレーキ70を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。第3ギヤセット30のキャリヤ33は、R35ブレーキ80を介して変速機ケース5に断接可能に連結されている。そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13には、自動変速機4の出力を駆動輪(図示せず)側へ出力する出力ギヤ8が連結されている。
【0036】
以上の構成により、自動変速機4は、上記の摩擦締結要素(ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80)の締結状態の組み合わせにより、
図2の締結表に示すように、Dレンジでの1〜6速と、Rレンジでの後退速とが形成されるようになっている。
【0037】
[LRブレーキの構成]
図3に示すように、LRブレーキ60は、締結時の応答性向上のためのクラッチクリアランス調整機能を有する複動式の油圧アクチュエータ61を備えている。油圧アクチュエータ61は、変速機ケース5に設けられたシリンダ5a内に軸方向に移動可能に嵌合されたクリアランス調整用ピストン62と、該クリアランス調整用ピストン62の内側に設けられたシリンダ62a内に該クリアランス調整用ピストン62に対して軸方向に相対移動可能に嵌合された締結用ピストン63とを備えている。
【0038】
変速機ケース5のシリンダ5a内におけるクリアランス調整用ピストン62の背部はクリアランス調整用油圧室(以下、「クリアランス室」という)64とされ、クリアランス調整用ピストン62のシリンダ62a内における締結用ピストン63の背部は締結用油圧室(以下、「締結室」という)65とされている。
【0039】
クリアランス室64及び締結室65に油圧を供給すれば、クリアランス調整用ピストン62がスプリング66の付勢力に抗してストッパ67に当接するまで図の左側にストロークすると共に、該クリアランス調整用ピストン62のシリンダ62a内で締結用ピストン63も図の左側にストロークして、変速機ケース5と被制動回転部材(図示せず)とに交互に係合された複数の摩擦板68を押圧し、変速機ケース5に固定されたリテーナ69と締結用ピストン63との間にこれらの摩擦板68が挟み込まれて相対回転不能となることで、LRブレーキ60が締結されることになる。
【0040】
図3に示す締結状態で締結室65から油圧を排出すると、
図4に示すように、締結用ピストン63が摩擦板68に接したまま、該締結用ピストン63による押圧力が解除されて、LRブレーキ60が解放される。
【0041】
さらに、
図4に示す状態でクリアランス室64からも油圧を排出すると、
図5に示すように、クリアランス調整用ピストン62がスプリング66の付勢力により右側に移動することになる。このとき、シール部材の摩擦等により、締結用ピストン63は、クリアランス調整用ピストン62との位置関係を保持したまま、該クリアランス調整用ピストン62と共に右側に移動する。
【0042】
なお、
図5では、便宜上、最も右側の摩擦板68と締結用ピストン63との間に、LRブレーキ60のクリアランスが集中するように図示されているが、実際には、隣接する摩擦板68間や摩擦板68とリテーナ69との間にもクリアランスは分散される。
【0043】
したがって、次に、LRブレーキ60を締結するときに、まずクリアランス室64に油圧を供給すれば、クリアランス調整用ピストン62及び締結用ピストン63が同じ位置関係を保持して、左側にストロークし、
図4に示す状態と同じ状態となる。このとき、締結用ピストン63は、摩擦板68を押圧することなく該摩擦板68に接した状態もしくはほぼ接した状態、即ち、クラッチクリアランスが小さな小クリアランス状態(締結準備状態)となっている。
【0044】
そして、
図4に示す小クリアランス状態で締結室65に油圧を供給すれば、締結用ピストン63は既に締結のためのストロークがほぼ終了しているから、油圧の供給とほぼ同時に摩擦板68を押圧し、LRブレーキ60が応答性良く締結されることになる。
【0045】
図5に示す解放状態からLRブレーキ60を締結するときは、締結室65よりも先にクリアランス室64に油圧が供給される。また、
図3に示す締結状態からLRブレーキ60を解放するときは、クリアランス室64よりも先に締結室65から油圧が排出される。つまり、締結室65に対する油圧の給排は、
図4に示すようにクリアランス室64に油圧が供給されてクリアランス調整用ピストン62が締結側へストロークされた状態で行われる。
【0046】
[パワートレインの制御システム]
図6に示すように、エンジン1及び自動変速機4の油圧回路100に関する各種制御は、車両に搭載された制御装置200によって行われる。なお、制御装置200は、例えば、エンジン1に搭載されたECU(Engine Control Unit)と、自動変速機4に搭載されたTCM(Transmission Control Module)とで構成される。
【0047】
制御装置200には、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセルセンサ201、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数センサ202、ブレーキペダルの踏み込みを検出するブレーキスイッチ203、運転者によって選択されている自動変速機4のレンジを検出するレンジセンサ204、自動変速機4が搭載された車両の速度を検出する車速センサ205,及び、油圧回路100に設けられた油圧スイッチ220からの信号が入力される。
【0048】
なお、これら以外にも、エンジン1の冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ、エンジン1の排気通路に設置された触媒装置の温度を検出する触媒温度センサ等の各種機器からの信号が制御装置200に入力されるようにしてもよい。
【0049】
制御装置200は、各種入力信号に基づき、エンジン1の燃料供給装置90に制御信号を出力して、エンジン1の回転数を制御する。例えば、燃料供給装置90が吸気量制御バルブを備える場合、該バルブの開度が制御されることで、吸気量と燃料噴射量とが調整され、これにより、エンジン1の回転数が制御される。したがって、アイドルアップ制御が行われる場合は、通常のアイドル運転時に比べて吸気量制御バルブの開度が増大されることで、通常のアイドル運転時よりも高い目標アイドル回転数にエンジン回転数が制御される。
【0050】
また、制御装置200は、各種入力信号に基づき、油圧回路100に設けられた複数のソレノイドバルブ(油圧制御弁)101に制御信号を出力する。これにより、選択されたレンジや車両の走行状態に応じて各ソレノイドバルブ101の開閉ないし出力圧が制御され、各摩擦締結要素40,50,60,70,80への油圧供給が制御されることで、
図2の締結表に従って各変速段が実現されるように変速制御が行われる。
【0051】
[エンジンのアイドルアップ制御]
制御装置200は、エンジン1の駆動中において、所定のアイドルアップ条件の成否によってアイドルアップ制御が必要であるか否かを判断し、アイドルアップ制御が必要であると判断した場合は、停車中であるとき、及び、Dレンジ状態での車両減速中に下記の開始要件が成立したときに、エンジン回転数を目標アイドル回転数に制御するアイドルアップ制御を実行する。
【0052】
アイドルアップ制御において、目標アイドル回転数は、アイドルアップを行わない通常時のアイドル回転数よりも高い回転数に設定される。また、目標アイドル回転数は、一定値に設定されてもよいし、運転状態に応じて変化するように設定されてもよい。目標アイドル回転数の具体的な設定例については、
図8及び
図9に示すタイムチャートを参照しながら後に説明する。
【0053】
アイドルアップ条件としては、例えば、エンジン1の排気通路に設置された触媒装置の温度が所定温度未満であること、エンジン1の冷却水の温度が所定温度未満であること、エンジン1がディーゼルエンジンである場合においてDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)の再生が実行中であること等が挙げられる。制御装置200は、これら複数のアイドルアップ条件のうちいずれか1つが成立したときに、アイドルアップ制御が必要であると判断する。
【0054】
このようなアイドルアップ条件が成立した状況でエンジン1のアイドルアップが行われることによって、例えば、冷間時に、触媒装置を速やかに活性化させることで排気浄化性能が高められたり、油温を上昇させて潤滑油の粘性による回転抵抗を早期に低減させることで燃費性能が高められたり、停車中においてDPFの再生を早期に完了させることでアイドルストップ期間を拡大したりすることができる。
【0055】
本実施形態によれば、停車中だけでなく、Dレンジ状態での車両減速中にも、下記の開始要件が成立したときにアイドルアップ制御が開始されるため、従来のように停車時にのみアイドルアップを行う場合に比べてエンジン1の暖機が促進されて、より効果的に燃費性能や排気浄化性能等を高めることができる。
【0056】
Dレンジ状態での車両減速中にアイドルアップ制御を開始するための開始条件は、車速が、目標アイドル回転数に関連する所定回転数に相当する所定車速まで低下すること、又は、エンジン回転数が、目標アイドル回転数に関連する所定回転数まで低下することである。「目標アイドル回転数に関連する所定回転数」及び「所定回転数に相当する所定車速」の具体例の説明は、後に、制御動作例の説明の中で行う。
【0057】
上記開始条件が成立したとき、エンジン回転数は目標アイドル回転数に関連する回転数となっているため、アイドルアップ制御が開始されても、エンジン回転数の急激な変化が生じることがない。そのため停車前にアイドルアップ制御が開始されることによる違和感を抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、車両減速中において、アイドルアップ制御は、変速機構をニュートラル状態とするニュートラル制御が実行された状態で開始される。ニュートラル状態でアイドルアップ制御を行うことで、車両の減速走行に支障を来すことなく、アイドル回転数の高回転化を図ることが可能になり、これにより、効果的なエンジンの暖機を停車前から行うことができる。ニュートラル制御の具体的な制御動作例の説明は、以下のアイドルアップ制御の制御動作例の説明の中で行う。
【0059】
[アイドルアップ制御に関する制御動作]
図7に示すフローチャートを参照しながら、制御装置200によるアイドルアップ制御に関するエンジン1及び自動変速機4の制御動作の一例について説明する。
【0060】
図7に示す制御動作は、エンジン1の駆動中で且つDレンジが選択された状態で繰り返し実行される。
【0061】
先ず、ステップS1では、上記のアイドルアップ条件の成否によってアイドルアップ制御が必要な状態であるか否かが判定され、ステップS2では、アクセルセンサ201の出力信号に基づいて、アクセルペダルの踏み込みの有無が判定される。
【0062】
ステップS1及びステップS2の判定の結果、アイドルアップ条件が成立していないことによってアイドルアップ制御を行う必要がないと判定された場合、及び、アクセルペダルが踏み込まれている場合、エンジン1及び自動変速機4は、運転状態に応じた通常の制御が行われ(ステップS14)、フラグFは初期値「0」に維持される(ステップS15)。
【0063】
なお、フラグFは、アイドルアップ制御が実行されているときに「1」にセットされるものであり、アイドルアップ制御が終了したときに「0」にリセットされる。
【0064】
一方、ステップS1及びステップS2の判定の結果、アイドルアップ条件が成立していることによってアイドルアップ制御が必要であると判定され、且つ、アクセルペダルが踏み込まれていない場合、次のステップS3において、車速センサ205の出力信号に基づいて、車両が走行中であるか否かが判定される。
【0065】
ステップS3の判定の結果、停車中であれば、ステップS11で、ブレーキスイッチ203の出力信号に基づいて、ブレーキペダルの踏み込みの有無が判定され、ブレーキペダルが踏み込まれている場合は、ステップS12のフラグ判定が行われる。ステップS11及びステップS12の判定の結果、ブレーキペダルが踏み込まれ、フラグFが初期値「0」である停車状態では、ステップS7に進む。
【0066】
一方、ステップS3の判定の結果、走行中であれば、ステップS4で、ブレーキスイッチ203の出力信号に基づいて、ブレーキペダルの踏み込みの有無が判定される。ステップS4の判定の結果、ブレーキペダルが踏み込まれていなければ、通常制御が継続され(ステップS14)、フラグFは初期値「0」に維持される(ステップS15)。一方、ステップS4の判定の結果、ブレーキペダルが踏み込まれている場合、ステップS5に進む。
【0067】
ステップS5では、LRブレーキ60が小クリアランス状態(
図4参照)となるように、自動変速機4の油圧回路100が制御される。具体的に、2〜6速での走行中である場合は、LRブレーキ60の締結室65への給油停止状態を維持しつつ、クリアランス室64に油圧が供給され、1速での走行中である場合は、LRブレーキ60のクリアランス室64への給油状態を維持しつつ、締結室65からの排油を行う。
【0068】
続くステップS6では、車速が所定車速V1以下であるか否かが判定される。ここで、所定車速V1は、例えば、後述のアイドルアップ制御(ステップS9)が開始されるときの目標アイドル回転数(目標アイドル回転数の初期値)に所定値を加算したエンジン回転数Ne1と、そのときの変速段とによって決まる車速(
図8の符号b参照)に設定される。
【0069】
ただし、所定車速V1は、目標アイドル回転数に関連する所定回転数に相当する車速であれば、上記のように設定される車速に限定されるものでない。例えば、所定車速V1は、2速以上の変速段から1速へのシフトダウンが行われるときの車速に設定されてもよい。この場合、1速へのシフトダウンのタイミングで後述のニュートラル制御(ステップS7)が実行されるため、1速へのシフトダウンとニュートラル制御が続けて実行されることを回避でき、これにより、これらが続けて実行されることによる乗員の違和感を抑制できる。
【0070】
ここで、「目標アイドル回転数に関連する所定回転数」は、上記の目標アイドル回転数の初期値に所定値を加算したエンジン回転数Ne1であってもよいし、これ以外にも、例えば、「目標アイドル回転数の初期値」自体であってもよく、また、目標アイドル回転数が一定値である場合は、「目標アイドル回転数に所定値を加算したエンジン回転数」又は「目標アイドル回転数」自体であってもよい。
【0071】
なお、本制御動作例では、車速に基づいてステップS6の判定が行われるが、ステップS6の判定は、エンジン回転数に基づいて行われるようにしてもよい。この場合、ステップS6では、エンジン回転数が、「目標アイドル回転数に関連する所定回転数」以下であるか否かが判定される。
【0072】
ステップS6の判定の結果、車速が所定車速V1よりも大きい場合、ステップS4に戻り、ブレーキペダルが踏み込まれると共に車速が所定車速V1よりも大きい走行状態が続く限り、LRブレーキ60の小クリアランス状態が維持された状態で、ステップS6の判定が繰り返し実行される。
【0073】
ステップS6の判定の結果、車速が所定車速V1まで低下した減速状態である場合、ステップS7に進んで、ニュートラル制御が実行される。
【0074】
ステップS7のニュートラル制御では、発進変速段を形成しないハイクラッチ50、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80を解放し、発進変速段を形成するロークラッチ40及びLRブレーキ60(
図2参照)のうちのロークラッチ40を締結するとともに、LRブレーキ60を小クリアランス状態とすることにより、変速機構をニュートラル状態にする。
【0075】
このとき、現状の変速段が4速以下の変速段であれば、ロークラッチ40は既に締結されている(
図2参照)。また、LRブレーキ60の小クリアランス状態は、上記ステップS5によって既に実現されている。したがって、現状の変速段が4速以下である場合、ステップS7では、現状の変速段を形成するロークラッチ40以外の摩擦締結要素を解放するだけで、速やかにニュートラル制御を完了することができる。
【0076】
なお、現状の変速段が5速又は6速であっても、ハイクラッチ50とR35ブレーキ80又は26ブレーキ70とを解放して、ロークラッチ40を締結することで、ロークラッチ40が締結状態され且つLRブレーキ60が小クリアランス状態とされたニュートラル状態を実現することができる。
【0077】
このようなニュートラル制御によれば、緻密な油圧制御を必要とするスリップ制御を行うことなく、LRブレーキ60の解放状態、ひいては、ニュートラル状態を実現できる。したがって、エンジン1の始動からあまり時間が経過していないときなど、自動変速機4の作動油の温度が低く粘性が高い状態でも、精度よくニュートラル制御を行うことができる。
【0078】
ステップS8では、例えば油圧スイッチ220の出力信号に基づいて、変速機構がニュートラル状態となったか否かが判定される。具体的には、例えば、現状の変速段を形成する2つの摩擦締結要素のうち解放されるべき摩擦締結要素(例えば、4速の場合はハイクラッチ50)への油圧供給経路に油圧スイッチ220を設けて、該油圧スイッチ220のオフによって当該摩擦締結要素の解放が確認されたか否かによって、ステップS8の判定が行われる。
【0079】
ステップS8の判定の結果、ニュートラル状態となったことが確認されると、続くステップS9で、アイドルアップ制御が開始される。これにより、ニュートラル状態の車両減速中において、エンジン回転数が目標アイドル回転数に制御される。
【0080】
アイドルアップ制御が開始されると、続くステップS10で、フラグFが「1」にセットされてリターンされる。
【0081】
このようにして開始されたアイドルアップ制御中において、ステップS3、ステップS11及びステップS12の判定の結果、ブレーキペダルが継続して踏み込まれることにより停車した場合、ステップS13において、停車後も、アイドルアップ制御(ステップS9)及びニュートラル制御(ステップS7)が継続される。これにより、停車後も、ニュートラル状態での高回転でのアイドルアップが継続されることとなるため、エンジン1の暖機を早期に完了することができる。
【0082】
また、車両減速中又は停車中にアイドルアップ制御及びニュートラル制御が実行されている状態において、ステップS1、ステップS2、ステップS4又はステップS11の判定の結果、アイドルアップ条件が解除された場合、アクセルペダルが踏み込まれた場合、又は、ブレーキペダルの踏み込みが解除された場合、ステップS14において、アイドルアップ制御及びニュートラル制御が解除されて、運転状態に応じた通常の制御が再開される。
【0083】
このとき、LRブレーキ60は、上記ニュートラル制御によって完全解放状態ではなく小クリアランス状態となっているため、締結室65への油圧供給によって速やかに締結される。したがって、加速時又は発進時に良好な応答性を発揮することができる。
【0084】
以下、
図8及び
図9に示すタイムチャートを参照しながら、
図7に示す制御動作を行う場合における各要素の経時的変化の具体例について説明する。
【0085】
図8に示す動作例と
図9に示す動作例とを比較すると、アイドルアップ制御中のエンジン回転数(目標アイドル回転数)のみが異なっており、その他の動作は共通している。
【0086】
図8及び
図9の各動作例において、時刻t0の時点では、上記アイドルアップ条件が成立した4速での走行状態となっている。符号aに示すように、時刻t1にブレーキペダルが踏み込まれると、締結室65に油圧供給されることなくクリアランス室64のみに油圧が供給されることでLRブレーキ60が小クリアランス状態とされる(
図7のステップS5)。
【0087】
その後、符号bに示すように、時刻t2に車速が所定車速V1まで低下すると、上記ニュートラル制御(
図7のステップS7)によってハイクラッチ50が解放されることで、符号cに示すように、時刻t3にニュートラル状態が実現される。このとき、符号dに示すように、アイドルアップ制御が開始される。
【0088】
このように、車両減速中にアイドルアップ制御が開始されることで、エンジン1の早期暖機が実現されて、燃費性能や排気浄化性能等の向上を図ることができる。また、ニュートラル状態でアイドルアップが行われるため、車両の減速走行に支障を来すことなく、アイドル回転数の高回転化を実現できる。
【0089】
ニュートラル制御が実行されるときの所定車速V1に対応する所定エンジン回転数Ne1は、符号eに示す目標アイドル回転数の初期値よりも所定値高い回転数である。具体的に、所定回転数Ne1は、エンジン回転数が所定回転数Ne1から目標アイドル回転数の初期値まで低下するのに要する時間と、ニュートラル制御により摩擦締結要素(
図8及び
図9に示す例ではハイクラッチ50)を解放するのに要する時間(t3−t2)とがほぼ等しくなるような回転数に設定することが好ましい。これにより、アイドルアップ制御の初期において、エンジン回転数を迅速且つスムーズに目標アイドル回転数に近づけることができ、エンジン回転数の急激な変化による乗員の違和感を軽減できる。
【0090】
図8に示す動作例において、符号fに示すように、車両減速中における目標アイドル回転数は、車速の低下に従って低くなるように設定されている。これにより、アイドルアップを行わない通常の減速時と同様に、エンジン回転数が車速の低下に従って低下するように制御されるため、減速中にアイドルアップが開始されることによる乗員の違和感を抑制することができる。
【0091】
この場合、
図8の符号gに示すように、時刻t4に停車した後の目標アイドル回転数は、アイドルアップを行わない通常アイドル回転数Ne0よりも高い一定値に設定されることで、停車後もアイドルアップ制御が継続される。
【0092】
一方、
図9に示す動作例では、符号hに示すように、アイドルアップ制御の全期間に亘って目標アイドル回転数が一定値に設定されている。この場合、アイドルアップ制御が行われている間、エンジン回転数を終始高い回転数に制御できるため、より効果的な暖機を実現できる。
【0093】
図8及び
図9の各動作例において、符号iに示すように、アイドルアップ制御が行われている停車状態において、ブレーキペダルの踏み込みが解除されると(
図7のステップS11)、アイドルアップ制御及びニュートラル制御が解除される(
図7のステップS14)。このとき、LRブレーキ60は小クリアランス状態となっているため、締結室65への油圧供給によってLRブレーキ60が速やかに締結されて、応答性に優れた車両の発進を実現できる。
【0094】
また、
図8及び
図9の各動作例において、符号jに示すように、アイドルアップ制御が行われている停車状態において、アイドルアップ条件が解除された場合(
図7のステップS1)も同様に、締結室65への油圧供給によってLRブレーキ60が速やかに締結されることで、応答性に優れた車両の発進を実現できる。
【0095】
なお、
図8及び
図9に示す例では、4速での車両減速中にアイドルアップ制御が開始されているが、本実施形態によれば、例えば2速又は3速等、4速以外の変速段での車両減速中であっても、同様にアイドルアップ制御が開始され得る。
【0096】
また、
図8及び
図9では、時刻t3において、エンジン回転数の傾きが急激に変化するように図示されているが、アイドルアップ制御の初期において、エンジン回転数の傾きが緩やかに変化するように、時間の経過に伴ってエンジン回転数が曲線的に変化するように制御してもよい。
【0097】
さらに、車両減速中のアイドルアップ制御に関して、
図8に示す例では、目標アイドル回転数が徐々に低下するように設定されており、
図9に示す例では、目標アイドル回転数が一定に設定されているが、車両減速中における目標アイドル回転数は、徐々に上昇するように設定されてもよい。
【0098】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0099】
例えば、上述の実施形態では、走行レンジで車両が減速しているときにニュートラル制御及びアイドルアップ制御が実行され、その後も走行レンジが継続される場合について説明したが、本発明は、非走行レンジで車両が減速しているときにニュートラル制御及びアイドルアップ制御を実行する場合、或いは、ニュートラル制御開始後、アイドルアップ制御開始後又は停車後に非走行レンジに切り換えられる場合にも適用可能である。
【0100】
また、上述の実施形態では、ロークラッチ40を締結しつつLRブレーキ60を小クリアランス状態とすることでニュートラル状態を実現するニュートラル制御について説明したが、本発明において、ニュートラル制御は、LRブレーキ60を完全に解放すること、ロークラッチ40を解放すること、又は、ロークラッチ40又はLRブレーキ60のスリップ制御を行うこと等によってニュートラル状態を実現する制御であってもよい。