(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の減速時に車両の駆動輪から入力される動力によって低圧側アキュムレータ内の作動流体を高圧側アキュムレータに圧送して蓄圧すると共に、該高圧側アキュムレータに蓄えられた圧力エネルギーを動力に変換して車両の駆動輪に対して出力する変換装置を備えた車両用減速回生制御装置であって、
上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータからの作動流体によって車両の内燃機関の排熱を回収し、回収した排熱によって発電して電力を蓄電装置に蓄える排熱回収システムと、
作動流体を上記低圧側アキュムレータ又は上記高圧側アキュムレータから上記排熱回収システムに供給すると共に、該排熱回収システムから上記低圧側アキュムレータに戻す、ポンプを含まない循環機構と、をさらに備えることを特徴とする車両用減速回生制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2のエンジン排熱回収システムでは、作動流体を循環させるためのポンプが必要であるため、エネルギーロスの一つであるポンプロスが発生する虞がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジン排熱回収システムにおけるエネルギーロスを減らすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、減速回生時に低圧側アキュムレータから高圧側アキュムレータに蓄圧される作動流体を排熱回収媒体として利用し、低圧側アキュムレータから作動流体を排熱回収システムに直接送る構造としたものである。
【0007】
具体的には、本発明は、車両の減速時に車両の駆動輪から入力される動力によって低圧側アキュムレータ内の作動流体を高圧側アキュムレータに圧送して蓄圧すると共に、該高圧側アキュムレータに蓄えられた圧力エネルギーを動力に変換して車両の駆動輪に対して出力する変換装置を備えた車両用減速回生制御装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0008】
すなわち、第1の発明は、上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータからの作動流体によって車両の内燃機関の排熱を回収し、回収した排熱によって発電して電力を蓄電装置に蓄える排熱回収システムと、作動流体を上記低圧側アキュムレータ又は上記高圧側アキュムレータから上記排熱回収システムに供給すると共に、該排熱回収システムから上記低圧側アキュムレータに戻す、ポンプを含まない循環機構と、をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
第1の発明によれば、ポンプを含まない循環機構によって、低圧側アキュムレータ又は高圧側アキュムレータから作動流体を排熱回収システムに供給すると共に、発電に用いられた作動流体を低圧側アキュムレータに戻しているため、従来の排熱回収のためのポンプが不要となる。したがって、エネルギーロスが低減される。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記排熱回収システムは、上記低圧側アキュムレータ又は高圧側アキュムレータからの作動流体を上記内燃機関の排熱によって蒸発させる排熱回収蒸発器と、該排熱回収蒸発器で蒸発した作動流体を膨張させる膨張器と、該膨張器で膨張した作動流体によって駆動されて発電し、電力を上記蓄電装置に蓄える発電システムと、該膨張器からの作動流体を凝縮して上記低圧側アキュムレータに戻す排熱回収凝縮器と、を有することを特徴とする。
【0011】
第2の発明によれば、排熱回収システムがランキンサイクルを構成しているため、比較的高いエネルギー回収効率を実現することができる。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、上記排熱回収システムは、上記排熱回収凝縮器で凝縮された作動流体を貯留する排熱回収貯留槽と、該排熱回収貯留槽から上記低圧側アキュムレータへ流れる作動流体の流量を調整する排熱回収調整弁と、を有することを特徴とする。
【0013】
第3の発明によれば、排熱回収調整弁によって排熱回収貯留槽から低圧側アキュムレータに流す作動流体の流量を調整するため、低圧側アキュムレータに大きな流体圧が作用するのを防ぐことができる。したがって、低圧側アキュムレータに悪影響を与えるのを回避することができる。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、上記排熱回収調整弁は、上記排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び上記低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて制御されることを特徴とする。
【0015】
第4の発明によれば、ランキンサイクルを構成する排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び該排熱回収蒸発器に作動流体を供給する低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて排熱回収調整弁を制御し、エネルギー回収効率の高い条件で排熱回収蒸発器に作動流体を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0016】
第5の発明は、第
2乃至第4のいずれか1つの発明において、車両には、上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータに接続された圧縮機を有する空調システムが設けられ、車両の高速巡航時、又は、上記高圧側アキュムレータ内の圧力が所定圧以下の場合、上記圧縮機によって作動流体を上記循環機構及び空調システムに供給することを特徴とする。
【0017】
第5の発明によれば、車両の高速巡航時、又は、高圧側アキュムレータにおける作動流体の圧力が所定圧以下の場合には、低圧側アキュムレータ又は高圧側アキュムレータから排熱回収システムへ作動流体を比較的高い圧力で送ることができないものの、空調システムの圧縮機によって排熱回収システムに作動流体を圧送することができるので、排熱回収を高効率で実現することができる。
【0018】
第6の発明は、第5の発明において、上記空調システムは、上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータからの作動流体を蒸発させる空調用蒸発器と、該空調用蒸発器で蒸発した作動流体を圧縮する上記圧縮機と、該圧縮機からの作動流体を凝縮する空調用凝縮器と、該空調用凝縮器で凝縮された作動流体を貯留する空調用貯留槽と、該空調用貯留槽から上記低圧側アキュムレータへ流れる作動流体の流量を調整する空調用調整弁と、を有することを特徴とする。
【0019】
第6の発明によれば、空調用貯留槽から低圧側アキュムレータに流す作動流体の流量を空調用調整弁によって調整するので、低圧側アキュムレータに大きな流体圧が作用するのを防止することができる。したがって、低圧側アキュムレータに悪影響を与えるのを回避することができる。
【0020】
第7の発明は
、第6の発明において、上記空調用調整弁は、上記排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び上記低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて制御されることを特徴とする。
【0021】
第7の発明によれば、排熱回収蒸発器が上述の如くランキンサイクルを構成し、この排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び該排熱回収蒸発器に作動流体を供給する低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて空調用調整弁を制御して、エネルギー回収効率の高い条件で低圧側アキュムレータに作動流体を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0022】
第8の発明は、第2乃
至第7のいずれか1つの発
明において、上記低圧側アキュムレータから排熱回収蒸発器に流れる作動流体の流量を調整する流調弁をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
第8の発明によれば、低圧側アキュムレータから排熱回収蒸発器に流れる作動流体を適切に調整することができる。
【0024】
第9の発明は、第8の発明において、上記流調弁は、上記排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び上記低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて制御されることを特徴とする。
【0025】
第9の発明によれば、排熱回収蒸発器が上述の如くランキンサイクルを構成し、この排熱回収蒸発器内の作動流体の温度及び該排熱回収蒸発器に作動流体を供給する低圧側アキュムレータ内の圧力に基づいて流調弁を制御して、エネルギー回収効率の高い条件で排熱回収蒸発器に作動流体を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0026】
第10の発明は、第1の発明において、車両には、上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータに接続された圧縮機を有する空調システムが設けられ、車両の高速巡航時、又は、上記高圧側アキュムレータ内の圧力が所定圧以下の場合、上記圧縮機によって作動流体を上記循環機構及び空調システムに供給することを特徴とする。
【0027】
第10の発明によれば、車両の高速巡航時、又は、高圧側アキュムレータにおける作動流体の圧力が所定圧以下の場合には、低圧側アキュムレータ又は高圧側アキュムレータから排熱回収システムへ作動流体を比較的高い圧力で送ることができないものの、空調システムの圧縮機によって排熱回収システムに作動流体を圧送することができるので、排熱回収を高効率で実現することができる。
【0028】
第11の発明は、第10の発明において、上記空調システムは、上記低圧側アキュムレータ及び高圧側アキュムレータからの作動流体を蒸発させる空調用蒸発器と、該空調用蒸発器で蒸発した作動流体を圧縮する上記圧縮機と、該圧縮機からの作動流体を凝縮する空調用凝縮器と、該空調用凝縮器で凝縮された作動流体を貯留する空調用貯留槽と、該空調用貯留槽から上記低圧側アキュムレータへ流れる作動流体の流量を調整する空調用調整弁と、を有することを特徴とする。
【0029】
第11の発明によれば、空調用貯留槽から低圧側アキュムレータに流す作動流体の流量を空調用調整弁によって調整するので、低圧側アキュムレータに大きな流体圧が作用するのを防止することができる。したがって、低圧側アキュムレータに悪影響を与えるのを回避することができる。
【0030】
第1
2の発明は、第1乃至第
11のいずれか1つの発明において、上記排熱回収システムは、排熱を回収した作動流体の保有する熱により熱電変換する半導体を有することを特徴とする。
【0031】
第1
2の発明によれば、熱電素子という簡単な構成で効率良くエネルギーを回収することができる。
【発明の効果】
【0032】
以上、本発明によれば、エンジン排熱回収システムにおけるエネルギーロスの減らすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0035】
《発明の第1実施形態》
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用減速回生制御装置1を備えた車両の概略構成を示すブロック図である。
【0036】
上記車両は、走行駆動源として、内燃機関であるエンジン3と、流体圧ポンプモータ(以下、流体圧P/Mという。)5(変換装置)と、を備える。エンジン3の回転軸と流体圧P/M5の回転軸は一体となり(符号7で示す)、この回転軸7が差動装置9を介して車軸11に連結されている。車軸11には、駆動輪13,13が連結されている。回転軸7にはクラッチ15が設けられており、クラッチ15によってエンジン3及び流体圧P/M5と駆動輪13,13とが断続する。なお、
図1では、回転軸7及び車軸11を破線で示している。
【0037】
エンジン3は、多気筒エンジンである。このエンジン3には、吸気通路(図示せず)及び排気通路17が連通している。排気通路17には、排気ガス中のHCやCO、NOxなどの有害成分を浄化するための三元触媒を用いた排気浄化装置19が配設されていると共に、排気浄化装置19の下流側には、排気ガスの爆発音のエネルギーの圧力変動を打ち消し、吸収させて静音化するマフラー21が配設されている。なお、
図1では、排気通路17を一点鎖線で示している。
【0038】
流体圧P/M5は、冷媒流路を構成する回生用冷媒配管23を通じて高圧蓄圧器25(高圧側アキュムレータ)と低圧リザーバ27(低圧側アキュムレータ)に接続されている。冷媒には、例えばR134aフロンガスが用いられる。高圧蓄圧器25は、冷媒を加圧状態で蓄えることができる蓄圧装置の一例である。流体圧P/M5は、車両減速回生時等に車両の駆動輪によって駆動されることにより低圧リザーバ27から冷媒を吸い込んで高圧蓄圧器25に冷媒圧を蓄える流体圧ポンプとして作動すると共に、車両の力行時に高圧蓄圧器25から供給される冷媒圧によって車両の駆動輪を駆動する流体圧モータとして作動する。流体圧P/M5が流体圧ポンプとして作動するか流体圧モータとして作動するかは、後述するVCM73によって切り替えられる。
【0039】
回生用冷媒配管23は、流体圧P/M5の高圧蓄圧器25側の高圧配管29と、低圧リザーバ27側の低圧配管31とによって構成されている。低圧配管31から分岐する低圧分岐管33は、後述する排熱回収システム41の排熱回収エバポ49(排熱回収蒸発器)に繋がっている。高圧配管29から分岐する高圧分岐管35は、低圧分岐管33に繋がっている。高圧配管29と高圧分岐管35との分岐点には、三方弁で構成される蓄圧器バルブ37が設けられている一方、低圧配管31と低圧分岐管33との分岐点には、同じく三方弁で構成されるリザーババルブ39が設けられている。
【0040】
蓄圧器バルブ37によって高圧配管29が開くと共に、リザーババルブ39によって低圧配管31が開いて、回生用冷媒配管23に冷媒が流れると、流体圧P/M5を介して高圧蓄圧器25と低圧リザーバ27との間で冷媒のやり取りが行われる。一方、蓄圧器バルブ37によって高圧配管29が閉じると共に、リザーババルブ39によって低圧配管31が閉じると、回生用冷媒配管23に冷媒が流れず、高圧蓄圧器25に蓄えられた蓄圧エネルギーによって駆動輪13,13が駆動されることも、高圧蓄圧器25に蓄圧されることもない。
【0041】
車両用減速回生制御装置1は、減速回生用の冷媒を利用して、エンジン3で発生する排熱からエネルギーを回収する排熱回収システム41をさらに備えている。
【0042】
排熱回収システム41は、エンジン3の排熱からエネルギーを回収するランキンサイクル43と、ランキンサイクル43で回収されたエネルギーによって発電・蓄電する蓄電システム45と、ランキンサイクル43と高圧蓄圧器25及び低圧リザーバ27との間で冷媒を循環させる、ポンプを含まない循環機構47と、を有している。
【0043】
ランキンサイクル43は、高圧蓄圧器25又は低圧リザーバ27から低圧分岐管33を介して流れる冷媒をエンジン3の排熱によって蒸発させる排熱回収エバポ49と、排熱回収エバポ49の下流側に配置され、蒸発した冷媒を膨張させる膨張器51と、膨張器51の下流側に配置され、膨張した冷媒を冷却して凝縮する排熱回収凝縮器53と、排熱回収凝縮器53の下流側に配置され、凝縮した冷媒を貯留する排熱回収貯留槽55と、を有している。排熱回収エバポ49は、エンジン3内の図示しないウォータジャケットと連通するエンジン冷却水路57を介してエンジン3と繋がっている。エンジン冷却水は、エンジン冷却水路57を循環し、エンジン3から排熱を回収して排熱回収エバポ49に流入し、冷媒を加熱する。これにより、排熱回収エバポ49に流入した冷媒が蒸発する。なお、
図1では、エンジン冷却水路57を二点鎖線で示している。
【0044】
蓄電システム45は、ランキンサイクル43の膨張器51の出力軸59に連結された発電機61と、発電した電力を蓄電するバッテリ63(蓄電装置)と、を有している。発電機61は、膨張器51で蒸発した冷媒によって出力軸59が回転することによって発電する。バッテリ63に蓄えられた電力は、車両の各システムの電源として利用される。なお、
図1では、出力軸59を二重線で示すと共に、発電機61とバッテリ63とを繋ぐ電線を破線で示している。また、バッテリ63は、蓄電装置の一例である。
【0045】
循環機構47は、上記低圧分岐管33と、排熱回収エバポ49、膨張器51、排熱回収凝縮器53及び排熱回収貯留槽55を繋ぐ連結配管65と、排熱回収貯留槽55と低圧リザーバ27とを繋ぐ戻り配管67と、を有する。低圧分岐管33における排熱回収エバポ49の上流側、より具体的には、低圧分岐管33における排熱回収エバポ49と高圧分岐管35との間には、排熱回収エバポ流入バルブ69(流調弁)が設けられている。この排熱回収エバポ流入バルブ69が開くと、高圧蓄圧器25又は低圧リザーバ27からの冷媒が排熱回収エバポ49に流入する一方、排熱回収エバポ流入バルブ69が閉じると、冷媒の流入が停止する。また、戻り配管67は、上流端が排熱回収貯留槽55に繋がる一方、下流端が低圧分岐管33におけるリザーババルブ39と高圧分岐管35の下流端との間に繋がっている。この戻り配管67には、戻りバルブ71が設けられている。この戻りバルブ71が開くと共に、リザーババルブ39が低圧配管31と低圧分岐管33とを連通させると、排熱回収貯留槽55に貯留された冷媒が低圧リザーバ27に戻る。
【0046】
図2は、車両用減速回生制御装置1の制御ブロック図である。車両は、制御装置として車両制御モジュール(以下、VCM(Vehicle Control Module)という。)73を備え、このVCM73が車両用減速回生制御装置1の制御も兼ねている。VCM73には、車両の速度を検出する車速センサ75、車両のブレーキ作動を検出するブレーキセンサ77、流体圧P/M5の回転数を検出する流体圧P/M回転センサ79、高圧蓄圧器25内の圧力を検出する蓄圧器内圧力センサ81、排熱回収エバポ49内の冷媒温度を検出するエバポ温度センサ83、低圧リザーバ27内の圧力を検出するリザーバ内圧力センサ85、及び、排熱回収貯留槽55内の冷媒量を検出する冷媒量センサ87等が接続されている。VCM73は、リザーババルブ39及び蓄圧器バルブ37を制御することによって流体圧P/M5を制御すると共に、排熱回収エバポ流入バルブ69及び戻りバルブ71を制御することによって発電機61の発電量等を制御する。
【0047】
次に、車両用減速回生制御装置1の動作について説明する。
【0048】
先ず、減速回生制御について説明する。車両走行時にブレーキセンサ77がブレーキの作動を検出すると、VCM73は、リザーババルブ39を制御して低圧リザーバ27と流体圧P/M5とを連通させると共に、蓄圧器バルブ37を制御して高圧蓄圧器25と流体圧P/M5とを連通させ、かつ流体圧P/M5を駆動して、低圧リザーバ27に貯留されている冷媒を高圧蓄圧器25に加圧状態で貯留する。このようにしてVCM73は減速回生制御を行う。
【0049】
続いて、エンジン3の排熱を回収して蓄電する排熱回収サイクルについて
図3及び
図4を参照して説明する。
図3及び
図4は、車両用減速回生制御装置1の排熱回収サイクルにおけるフローチャートを示している。なお、車両用減速回生制御装置1は、当該排熱回収サイクルにおいても上記の減速回生制御を並列して行っている。
【0050】
VCM73は、車速センサ75からの信号に基づいて車両走行状態と判断すると、排熱回収サイクルを開始する。先ず、VCM73は、エバポ温度センサ83からの信号に基づいて排熱回収エバポ49内のエンジン冷却水側の温度Tを検出し(ステップS1)、この温度Tが予め設定された設定温度T0以上か否かを判別する(ステップS3)。この設定温度T0は、ランキンサイクル43の実行が可能か否かを判別する基準となる温度である。
【0051】
排熱回収エバポ49内の温度Tが設定温度T0未満の場合(ステップS3でNO)、VCM73は、処理をステップS1に戻す。一方、排熱回収エバポ49内の温度Tが設定温度T0以上の場合(ステップS3でYES)、VCM73は、リザーバ内圧力センサ85からの信号に基づいて低圧リザーバ27内の圧力Pを検出する(ステップS5)。ここで、VCM73にはROM(Read Only Memory)等の記憶媒体が設けられており、当該記憶媒体には
図4に示すモリエ線図における各冷媒温度Tmに応じたランキンサイクルの高圧側の圧力Pmが記憶されている。VCM73は、この記憶媒体を参照して、排熱回収エバポ49内の温度Tに応じた所定圧力P0を取得する。そして、VCM73は、低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0以上か否かを判別する(ステップS7)。
【0052】
低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0未満の場合(ステップS7でNO)、低圧リザーバ27内の冷媒を利用してランキンサイクル43を実行できない。そこで、VCM73は、蓄圧器バルブ37及び排熱回収エバポ流入バルブ69を制御して、高圧蓄圧器25から排熱回収エバポ49に冷媒を供給する(ステップS9)。これにより、高圧蓄圧器25から排熱回収エバポ49に流入した冷媒は、該排熱回収エバポ49でエンジン冷却水と熱交換して蒸発し(例えば、液化している冷媒は、気化し)、膨張器51で膨張して回転軸7を回転させて発電する。そして、排熱回収凝縮器53において冷却されて凝縮し(例えば、気化している冷媒は、液化し)、排熱回収貯留槽55で貯留される。続いて、VCM73は、回生制御の有無を検出する(ステップS13、
図4参照)。
【0053】
一方、低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0以上の場合(ステップS7でYES)、低圧リザーバ27内の冷媒を利用してランキンサイクル43を実行可能である。そこで、VCM73は、リザーババルブ39及び排熱回収エバポ流入バルブ69を制御して、低圧リザーバ27から排熱回収エバポ49に冷媒を供給する。これにより、ステップS9と同様に、ランキンサイクル43によって排熱回収、発電及び蓄電がなされる。そして、VCM73は、回生制御の有無を検出し(ステップS13)、回生制御の有無を判別する(ステップS15、
図4参照)。
【0054】
回生制御中である場合(ステップS15でYES)、VCM73は、戻りバルブ71を開いて冷媒を排熱回収貯留槽55から排熱回収エバポ49へ流し(ステップS17)、ランキンサイクル43を実行しつつ、処理をステップS1に戻す。
【0055】
一方、回生制御中でない場合(ステップS15でNO)、VCM73は、低圧リザーバ27内の圧力Pを検出し(ステップS19)、この圧力Pが所定圧力P0以下か否かを判別する(ステップS21)。
【0056】
圧力Pが所定圧力P0以下の場合(ステップS21でYES)、回生制御に必要な冷媒が不足するため、VCM73は、戻りバルブ71を開いて冷媒を排熱回収貯留槽55から排熱回収エバポ49へ流し(ステップS17)、処理をステップS1に戻す。
【0057】
一方、圧力Pが所定圧力P0より大きい場合(ステップS21でNO)、回生制御に必要な冷媒が低圧リザーバ27に貯留されているため、VCM73は、戻りバルブ71を閉じた状態で所定時間待機する(ステップS23)。所定時間が経過すると、VCM73は、冷媒量センサ87からの信号に基づいて排熱回収貯留槽55内の冷媒量Vを検出し(ステップS25)、この冷媒量Vが設定冷媒量V0以下か否かを判別する(ステップS27)。
【0058】
冷媒量Vが設定冷媒量V0以下の場合(ステップS27でYES)、VCM73は、処理をステップS13に戻す。一方、冷媒量Vが設定冷媒量V0より大きい場合(ステップS27でNO)、VCM73は、回生制御の有無を検出し(ステップS29)、回生制御中か否かを判別する(ステップS31)。
【0059】
回生制御中である場合(ステップS31でYES)、VCM73は、戻りバルブ71を開いて冷媒を排熱回収貯留槽55から排熱回収エバポ49へ流し(ステップS33でNO)、処理をステップS1に戻す。
【0060】
一方、回生制御中でない場合(ステップS31でNO)、VCM73は、低圧リザーバ27内の圧力Pを検出し(ステップS35)、この圧力Pが所定圧力P0以下か否かを判別する(ステップS37)。
【0061】
低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0以下である場合(ステップS37でYES)、VCM73は、戻りバルブ71を開いて冷媒を排熱回収貯留槽55から排熱回収エバポ49へ流し(ステップS33)、処理をステップS1に戻す。
【0062】
一方、低圧リザーバ27内の圧力が所定圧力P0よりも大きい場合(ステップS37でNO)、ランキンサイクル43が作動しないため、VCM73は、排熱回収サイクルを停止する。
【0063】
以下、
図5に示すランキンサイクルによる排熱回収サイクルについて説明する。
【0064】
図中の太実線は、作動媒体の液化/気化の臨界線を示すものであり、太実線よりも低エンタルピ側(図の左側)のA領域は、作動媒体が液化した状態であり、太実線に囲まれたB領域(図の中央)は、作動媒体が液化と気化とが混在した状態であり、太実線よりも高エンタルピ側(図の右側)のC領域は、作動媒体が気化した状態であることを示す。この図中において、ランキンサイクルは、4行程((1)〜(4))よりなる閉サイクルである。(1)は、作動媒体(例えば、冷媒R134a)を蒸発器(エバポレータ)内に送液する行程である。(2)は、蒸発器内で排熱源(エンジン冷却水)により液体の作動媒体を蒸発させて気体とする行程である。(3)は、膨張器により気体の作動媒体を断熱膨張させて機械エネルギー(回転)として取り出す行程であり、この工程で排熱エネルギーが回収される(図中の二重線の矢印で示すエネルギー変化量が、排熱エネルギーとして回収される)。(4)は、膨張器より排出された作動媒体を凝縮器内で外気により冷却して液化する行程である。この図において、従来のように排熱回収のためのポンプを駆動する場合、エネルギーの一部がポンプ駆動のために失われるため、排熱エネルギーとして回収される回収エネルギーが減少する(図中の(2)の矢印長が短くなり、矢印の終端部が図中の左寄りとなり、その結果、回収エネルギーが小さくなる)。
【0065】
−発明の第1実施形態の効果−
上記実施形態によれば、ポンプを含まない循環機構47によって、低圧リザーバ27又は高圧蓄圧器25から冷媒を排熱回収システム41に供給すると共に、発電に用いられた冷媒を低圧リザーバ27に戻しているため、従来の排熱回収のためのポンプが不要となる。したがって、エネルギーロスが低減される。
【0066】
また、上記実施形態によれば、排熱回収システム41がランキンサイクル43を有するため、比較的高いエネルギー回収効率を実現することができる。
【0067】
また、上記実施形態によれば、戻りバルブ71によって排熱回収貯留槽55から低圧リザーバ27に流す冷媒量を調整するため、低圧リザーバ27に大きな流体圧が作用するのを防ぐことができる。したがって、低圧リザーバ27に悪影響を与えるのを回避することができる。
【0068】
さらに、上記実施形態によれば、ランキンサイクル43を構成する排熱回収エバポ49内の冷媒温度T及び排熱回収エバポ49に冷媒を供給する低圧リザーバ27内の圧力Pに基づいて戻りバルブ71を制御し、エネルギー回収効率の高い条件で排熱回収エバポ49に冷媒を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0069】
また、上記実施形態によれば、低圧リザーバ27から排熱回収エバポ49に流れる冷媒を適切に調整することができる。
【0070】
さらに、上記実施形態によれば、排熱回収エバポ49が上述の如くランキンサイクル43を構成し、この排熱回収エバポ49内の冷媒温度T及び排熱回収エバポ49に冷媒を供給する低圧リザーバ27内の圧力に基づいて排熱回収エバポ流入バルブ69を制御して、エネルギー回収効率の高い条件で排熱回収エバポ49に作動流体を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0071】
(発明の第1実施形態の変形例)
図6は、上記実施形態の変形例に係る車両用減速回生制御装置10を備えた車両の概略構成を示す図である。この車両用減速回生制御装置10は、排気通路17に排気熱回収器89が設けられている点で上記の車両用減速回生制御装置1と相違する。その他の構成は、車両用減速回生制御装置1と略同一であるため、ここでは、相違する構成について説明し、その他の構成の説明を省略する。
【0072】
排気熱回収器89は、熱交換器で構成され、排気通路17における排気浄化装置19とマフラー21との間に設けられている。排気熱回収器89は、エンジン3内のウォータジャケットと連通する排気冷却水路91を介してエンジン3と繋がっている。排気冷却水路91を流れる冷却水は、排気熱回収器89において高温の排気によって加熱され、排熱回収エバポ49に流入する。これにより、排気熱が排熱回収エバポ49に伝達される。したがって、高速巡航(例えば時速60km以上の巡航)が多いドライブパターンでは、排気が比較的高温となるため、この排気熱を利用して発電を行うことができる。なお、この変形例に係る車両用減速回生制御装置10におけるVCM73の制御は、上記の車両用減速回生制御装置1と略同一であるため、ここでは、その説明を省略する。
【0073】
《発明の第2実施形態》
図7は、本発明の第2実施形態に係る車両用減速回生制御装置2を備えた車両の概略構成を示す図である。この車両用減速回生制御装置2は空調システム93を備える点で上記の変形例に係る車両用減速回生制御装置10と相違する。ここでは、相違する構成について説明し、その他の構成の説明を省略する。
【0074】
車両用減速回生制御装置2は、空調システム93をさらに備える。本実施形態では、戻りバルブ71が三方弁で構成されている。そして、空調システム93は、空調用冷媒配管95を有し、この空調用冷媒配管95の上流端は、上記戻り配管67における排熱回収凝縮器53の下流側から分岐すると共に、下流端は、戻りバルブ71(空調用調整弁)に繋がっている。戻り配管67における排熱回収凝縮器53と空調用冷媒配管95の上流端との間には、空調用冷媒配管95から排熱回収凝縮器53に冷媒が逆流するのを防止する逆止弁97が設けられている。空調システム93は、上流側から順に、冷媒を蒸発させる空調用エバポ99、蒸発した冷媒を圧送する空調用コンプレッサ101(圧縮機)、圧送された冷媒を凝縮する空調用凝縮器103、及び、凝縮された冷媒を貯留する空調用貯留槽105(空調用貯留槽)を有している。
【0075】
図8は、第2実施形態に係る車両用減速回生制御装置2の制御ブロック図である。本実施形態に係る車両用減速回生制御装置2の制御ブロックは、VCM73に空調用コンプレッサ101も接続されている点で第1実施形態に係る車両用減速回生制御装置1の制御ブロックと異なる。
【0076】
次に、車両用減速回生制御装置2の動作について説明する。先ず、減速回生制御は、第1実施形態と略同一であるため、ここではその説明を省略する。一方、排熱回収サイクル及び空調制御について
図9を参照して説明する。
図9は、車両用減速回生制御装置2の制御を示すフローチャート図である。
【0077】
車速センサ75が車速を検出し、VCM73が車両走行状態と判断すると、VCM73は、排熱回収サイクルを開始する。先ず、VCM73は、エバポ温度センサ83からの信号に基づいて排熱回収エバポ49内のエンジン冷却水側の温度Tを検出し(ステップS1)、この温度Tが予め設定された設定温度T0以上か否かを判別する(ステップS3)。この設定温度T0は、ランキンサイクル43の実行が可能か否かを判別する基準となる温度である。
【0078】
排熱回収エバポ49内の温度Tが設定温度T0未満の場合(ステップS3でNO)、VCM73は、リザーバ内圧力センサ85からの信号に基づいて低圧リザーバ27内の圧力Pを検出する(ステップS39)。そして、VCM73は、上記記憶媒体を参照して、排熱回収エバポ49内の温度Tに応じた所定圧力P0を取得して、低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0以上か否かを判別する(ステップS41)。
【0079】
低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0以上の場合(ステップS41でYES)、低圧リザーバ27に空調システム93を作動させるのに十分な冷媒が貯留されているので、VCM73は、リザーババルブ39及び戻りバルブ71を制御して低圧リザーバ27から空調用エバポ99に冷媒を供給すると共に排熱回収エバポ流入バルブ69を制御して排熱回収エバポ49に冷媒を供給し、かつ空調用コンプレッサ101を駆動して空調システム93を作動させる(ステップS43)。その後、処理をステップS13に進める。
【0080】
一方、低圧リザーバ27内の圧力Pが所定圧力P0未満の場合(ステップS41でNO)、低圧リザーバ27に空調システム93を作動させるのに十分な冷媒が貯留されていないので、VCM73は、蓄圧器バルブ37を制御して高圧蓄圧器25から空調用エバポ99に冷媒を供給すると共に排熱回収エバポ流入バルブ69を制御して排熱回収エバポ49に冷媒を供給し、かつ空調用コンプレッサ101を駆動して空調システム93を作動させる(ステップ45)。これにより、高圧蓄圧器25に貯留されている冷媒を用いて空調システム93を作動させることができる。その後、処理をステップS13に進める。
【0081】
以降の処理は、上記第1実施形態に係る車両用回生制御装置1と同様である。
【0082】
−発明の第2実施形態の効果−
上記実施形態によれば、車両の高速巡航時、又は、高圧蓄圧器25における冷媒の圧力が所定圧以下の場合には、低圧リザーバ27又は高圧蓄圧器25から排熱回収システム41へ冷媒を比較的高い圧力で送ることができないものの、空調用コンプレッサ101によって排熱回収システム41に冷媒を圧送することができるので、排熱回収を高効率で実現することができる。
【0083】
また、上記実施形態によれば、空調用貯留槽105から低圧リザーバ27に流す冷媒の流量を戻りバルブ71によって調整するので、低圧リザーバ27に大きな流体圧が作用するのを防止することができる。したがって、低圧リザーバ27に悪影響を与えるのを回避することができる。
【0084】
さらに、上記実施形態によれば、排熱回収エバポ49が上述の如くランキンサイクル43を構成し、この排熱回収エバポ49内の冷媒温度T及び排熱回収エバポ49に冷媒を供給する低圧リザーバ27内の圧力に基づいて戻りバルブ71制御して、エネルギー回収効率の高い条件で低圧リザーバ27に作動流体を流すので、排熱から高効率でエネルギーを回収することができる。
【0085】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、排熱回収システム41において排熱回収エバポ49で蒸発した冷媒によって発電機61を駆動して電力を得ているが、これに限定されず、例えば、排熱回収エバポ49、膨張器51及び発電機61を熱電素子に置き換えてもよい。これにより、熱電素子という簡単な構成で効率良くエネルギーを回収することができる。