特許第6222036号(P6222036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222036
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化装置及び浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/94 20060101AFI20171023BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20171023BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20171023BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 29/068 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 29/076 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20171023BHJP
   B01J 29/072 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   B01D53/94 223
   B01D53/94 241
   F01N3/08 BZAB
   F01N3/10 A
   F01N3/24 E
   B01J29/068 A
   B01J29/076 A
   B01J37/02 301L
   B01J29/072 A
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-212810(P2014-212810)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-77975(P2016-77975A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2016年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 知也
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 啓司
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−538736(JP,A)
【文献】 特開2014−100662(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0271426(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/00−53/96
B01J21/00−38/74
F01N3/08
F01N3/10
F01N3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排気ガス中のNOxとパティキュレートの処理が可能な排気ガス浄化装置であって、
上記エンジンの排気ガス通路に、上記パティキュレートを捕集するフィルタが設けられ、該フィルタには、上記NOxを還元剤の存在下で選択的に還元するSCR触媒と、Ce以外の希土類金属とZrとを含み且つCeを含まない複合酸化物とが担持されており、
上記フィルタにはPt及びPdのいずれも担持されていない
ことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記複合酸化物は、Nd、Pr、La、Y、及びYbの群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記排気ガス通路における上記フィルタよりも排気ガス流れ方向の上流側に、酸化触媒が配置されていることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記複合酸化物は、Ndを含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項4において、
上記複合酸化物は、さらにPrを含むことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項6】
請求項3において、
上記フィルタと上記酸化触媒との間に、上記SCR触媒に上記還元剤としてNHを供給するべくNH又はNH前駆体を上記排気ガス通路に注入する注入手段が設けられていることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
上記フィルタにおける排気ガス流れ方向の下流側に、NH及び/又はその誘導体を酸化するためのNH酸化触媒が配置されていることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
上記フィルタにおける排気ガス流れ方向の下流部に、NH及び/又はその誘導体を酸化するためのNH酸化触媒が担持されていることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項9】
エンジンから排出される排気ガス中のNOxとパティキュレートを処理する排気ガス浄化方法であって、
上記エンジンの排気ガス通路には、酸化触媒と、上記NOxを還元する還元剤又は還元剤前駆体を上記排気ガス通路に注入する注入手段と、上記パティキュレートを捕集するフィルタとが、排気ガス流れ方向の上流側から順に設けられており、
上記フィルタには、上記注入手段により注入された還元剤の存在下で上記NOxを選択的に還元するSCR触媒と、Ce以外の希土類金属とZrとを含み且つCeを含まない複合酸化物とが担持され、且つ、Pt及びPdのいずれも担持されておらず、
上記フィルタの再生時においては、
上記エンジンの燃焼室に膨張行程又は排気行程で燃料を噴射供給するポスト噴射を実行して排気ガス中のHC及びCOの量を増大させ、該HC及びCOを上記酸化触媒で酸化させ、その反応熱によって排気ガス温度を昇温させるステップと、
上記昇温させた排気ガスを上記フィルタに流入させるとともに、上記フィルタに担持させた上記複合酸化物から活性な酸素を放出させて上記フィルタに堆積しているパティキュレートを燃焼浄化させるステップと
を含み、
上記フィルタの再生時以外の運転中においては、
上記注入手段によって上記フィルタの上流側から排気ガス通路中に上記還元剤又は還元剤前駆体を注入するステップと、
上記還元剤又は還元剤前駆体を含む排気ガスを上記フィルタに流入させるとともに、上記フィルタに担持させた上記SCR触媒によって排気ガス中のNOxを選択還元させるステップと
を含むことを特徴とする排気ガス浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気ガス浄化装置及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジンから排出される排気ガスにはNOx(窒素酸化物)とパティキュレートが含まれている。このNOx及び/又はパティキュレートを処理するために、従来より種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1にNOxを還元浄化する装置の一例が記載されている。その浄化装置は、触媒から製造された多孔質フィルタを備え、該フィルタに排気ガス流通路が形成されている。還元剤としてNH又は炭化水素が当該フィルタに供給されてNOxが選択還元浄化される。触媒としては、一般式Aをもつスピネルが採用され、このスピネルがPd、Pt、Rh等の触媒活性元素を有することが好ましいとされている。
【0004】
特許文献2には、パティキュレートを捕集するフィルタにパティキュレート酸化触媒を担持することが記載されている。その酸化触媒としては、Ce及びYを除く希土類金属を含有するZr系複合酸化物や、Ceを除く希土類金属又はアルカリ土類金属を含有するCe系複合酸化物が採用される。Zr系複合酸化物及びCe系複合酸化物のいずれにもPtが担持される。特許文献3には、Pt担持アルミナとCeZr系複合酸化物とZrNd系複合酸化物とを含有する触媒付パティキュレートフィルタについて記載されている。特許文献2,3に記載された触媒では、複合酸化物から放出される活性な酸素によって、パティキュレートの燃焼が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−173784号公報
【特許文献2】特開2007−54713号公報
【特許文献3】特開2009−39632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のようにNOxの浄化にNHを還元剤とするSCR触媒を採用するときは、過剰のNHが大気中に排出されることを防止するために、SCR触媒よりも排気ガス流れ方向の下流側にNH酸化触媒が設けられている。そうすると、排気ガス中のNOx及びパティキュレートを処理するためには、触媒付フィルタ、SCR触媒及びNH酸化触媒を排気ガス流れ方向に順に並べる必要がある。そのため、排気ガス浄化装置全体が大掛かりになり、そのレイアウトも難しくなる。
【0007】
また、フィルタを効率良く再生(捕集されたパティキュレートの燃焼除去)するためには、そのフィルタよりも上流側に酸化触媒を設け、この酸化触媒での反応熱を利用してフィルタの温度を上昇させることが望ましい。その場合、排気ガス浄化装置全体がさらに大掛かりになる。
【0008】
そこで、本発明者は、浄化装置の大型化問題に対策するべく、また、SCR触媒をできるだけエンジン排気ガス温度が高い位置で機能させることを目的として、パティキュレートフィルタとSCR触媒の一体化を図ること、つまり、フィルタにSCR触媒を担持させることを検討した。しかし、SCR触媒は還元触媒であるところ、フィルタにはパティキュレートを燃焼させるための酸化触媒も担持させる必要がある。その場合、酸化触媒と還元触媒はその機能が相反することから、パティキュレートの酸化燃焼とNOxの還元浄化の両立性が問題になる。すなわち、SCR触媒に供給されるべきNOx浄化用の還元剤がパティキュレート燃焼用の酸化触媒で酸化されると、SCR触媒によるNOxの選択還元に支障を来す。
【0009】
本発明は、パティキュレートの酸化燃焼とNOxの還元浄化を両立させながら、排気ガス浄化装置のシンプル化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、パティキュレートの燃焼についての実験・検討を加えた結果、特許文献2及び3に記載されているZr系複合酸化物は、PtやPdのような酸化触媒金属を使用しなくても、パティキュレートを燃焼可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、ここに開示する排気ガス浄化装置は、エンジンから排出される排気ガス中のNOxとパティキュレートの処理に適した装置であって、上記エンジンの排気ガス通路に、上記パティキュレートを捕集するフィルタが設けられ、該フィルタには、上記NOxを還元剤の存在下で選択的に還元するSCR触媒と、Ce以外の希土類金属とZrとを含み且つCeを含まない複合酸化物とが担持されており、上記フィルタにはPt及びPdのいずれも担持されていないことを特徴とする。
【0012】
PM燃焼触媒として上記Zr系複合酸化物を採用すると、このZr系複合酸化物から活性な酸素を放出させて上記パティキュレートの燃焼を促進することができる。フィルタ再生時には、この活性な酸素が酸化剤となってフィルタに捕集されているパティキュレートが燃焼する。この場合、活性な酸素の働きによって、PtやPdのような触媒貴金属が存在しなくても、パティキュレートの燃焼が進む。一方、通常運転時には、フィルタに還元剤が供給されると、その還元剤の存在下で排気ガス中のNOxがSCR触媒によって還元浄化される。フィルタに担持されている上記複合酸化物は、上述の如くパティキュレートの燃焼に働くものの、それ自体には還元剤を酸化させるような強い酸化触媒機能はない。従って、フィルタに供給される還元剤は、上記複合酸化物によって酸化されることなく、SCR触媒によるNOxの選択還元に供されることになる。
【0013】
このように、本発明によれば、パティキュレートの燃焼に上記複合酸化物を用いるから、パティキュレートの燃焼とSCR触媒によるNOxの選択還元が両立することになる。そうして、パティキュレート捕集用のフィルタにSCR触媒を担持させた、すなわち、フィルタとSCR触媒を一体化させたから、SCR触媒専用の担体を別途設ける必要がなくなり、排気ガス浄化装置がシンプルになり、排気ガス通路へのレイアウトが容易になる。
【0014】
なお、フィルタに供給される還元剤がSCR触媒によるNOxの選択還元に使われる前に酸化されることがないように、フィルタにはPt及びPdのいずれも担持されていない。
【0015】
好ましい態様では、上記複合酸化物は、Nd、Pr、La、Y、及びYbの群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0016】
また、上記複合酸化物は、Ndを含むことが好ましい。さらに好ましくは、Ndに加え、Prを含むことが好ましい。これにより、より低温でパティキュレートを燃焼させることができ、フィルタの劣化を抑えることができる。
【0017】
なお、Zr系複合酸化物の担持量は、少なすぎるとパティキュレート燃焼機能を果たさず、また、多すぎるとPM燃焼性能は向上するが、フィルタへ担持できるSCR触媒を含めたウォッシュコート量には制約があり、SCR触媒の担持量が少なくなることで、NOx浄化性能が十分に得られなくなる。そのため、上記複合酸化物は、フィルタ担体1Lあたり10g以上60g以下含まれていることが好ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様では、上記排気ガス通路における上記フィルタよりも排気ガス流れ方向の上流側に、酸化触媒が配置されている。
【0019】
フィルタの再生時に、上記エンジン側でポスト噴射を行うことにより排気ガス中にHC及びCOを混合させ、該HC及びCOを上記酸化触媒で酸化させて、このときに発生する酸化反応熱によって排気ガス温度を昇温させることにより、フィルタに流入する排気ガス温度が上昇し、PM燃焼速度が大幅に向上する。
【0020】
本発明の好ましい態様では、上記フィルタと上記酸化触媒との間に、上記SCR触媒に上記還元剤としてNHを供給するべくNH又はNH前駆体を上記排気ガス通路に注入する注入手段が設けられている。これにより、SCR触媒による効率的なNOxの選択還元が可能となる。
【0021】
そして、上記排気ガス通路における上記フィルタよりも排気ガス流れ方向の下流側に、NH及び/又はその誘導体を酸化するためのNH酸化触媒が配置されている。
【0022】
SCR触媒によるNOxの選択還元において、還元剤としてNHを用いたとき、NOxの選択還元に利用されなかったNHが大気中に排出されると異臭を放つ。そこで、フィルタよりも排気ガス流れ方向の下流側にNH酸化触媒を配置し、NH及び/又はその誘導体を酸化するものである。
【0023】
本発明のより好ましい態様では、上記フィルタにおける排気ガス流れ方向の下流部に、NH及び/又はその誘導体を酸化するためのNH酸化触媒が担持されている。
【0024】
すなわち、NH酸化触媒をフィルタにおける排気ガス流れ方向の下流部に担持することにより、NH酸化触媒専用の担体を別途設ける必要がなくなる。これは、いわば、フィルタとSCR触媒とNH酸化触媒を一体化するという構成である。これにより、排気ガス浄化装置がシンプルになり、排気ガス通路へのレイアウトが容易になる。
【0025】
また、ここに開示する排気ガス浄化方法は、エンジンから排出される排気ガス中のNOxとパティキュレートを処理する方法であって、上記エンジンの排気ガス通路には、酸化触媒と、上記NOxを還元する還元剤又は還元剤前駆体を上記排気ガス通路に注入する注入手段と、上記パティキュレートを捕集するフィルタとが、排気ガス流れ方向の上流側から順に設けられており、上記フィルタには、上記注入手段により注入された還元剤の存在下で上記NOxを選択的に還元するSCR触媒と、Ce以外の希土類金属とZrとを含み且つCeを含まない複合酸化物とが担持され、且つ、Pt及びPdのいずれも担持されておらず、上記フィルタの再生時においては、上記エンジンの燃焼室に膨張行程又は排気行程で燃料を噴射供給するポスト噴射を実行して排気ガス中のHC及びCOの量を増大させ、該HC及びCOを上記酸化触媒で酸化させ、その反応熱によって排気ガス温度を昇温させるステップと、上記昇温させた排気ガスを上記フィルタに流入させるとともに、上記フィルタに担持させた上記複合酸化物から活性な酸素を放出させて上記フィルタに堆積しているパティキュレートを燃焼浄化させるステップとを含み、上記フィルタの再生時以外の運転中においては、上記注入手段によって上記フィルタの上流側から排気ガス通路中に上記還元剤又は還元剤前駆体を注入するステップと、上記還元剤又は還元剤前駆体を含む排気ガスを上記フィルタに流入させるとともに、上記フィルタに担持させた上記SCR触媒によって排気ガス中のNOxを選択還元させるステップとを含むことを特徴とする。
【0026】
この方法によれば、パティキュレートの酸化燃焼とNOxの還元浄化を両立させながら、排気ガス浄化装置のシンプル化を図ることができ、さらに、パティキュレートの燃焼促進にも有利になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、パティキュレートを捕集するフィルタに、NOxを還元剤の存在下で選択的に還元するためのSCR触媒と、パティキュレートを燃焼させるためのCe以外の希土類金属とZrとを含む複合酸化物とを担持したから、パティキュレートの酸化燃焼とNOxの還元浄化を両立させながら、排気ガス浄化装置のシンプル化を図ることができ、エンジンの排気ガス通路への排気ガス浄化装置のレイアウトも容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】エンジンの排気ガス浄化装置の構成図。
図2】Zr系複合酸化物とカーボンを混合した試料のDTAピークトップ温度を示すグラフ図。
図3】Zr系複合酸化物のエージング処理前後のカーボン燃焼性能を示すグラフ図。
図4】フィルタ本体に対するSCR触媒とZr系複合酸化物の担持形態を模式的に示す断面図。
図5】フィルタ本体に対するSCR触媒とZr系複合酸化物とNH酸化触媒の担持形態の一例を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0030】
<排気ガス浄化装置の構成>
図1に示す排気ガス浄化装置はリーンバーンエンジンから排出される5%以上の酸素を含む排気ガス中のNOxとパティキュレート(以下、「PM」という。)の処理が可能な装置である。本例のエンジンはディーゼルエンジンであり、その排気ガス通路1に、酸化触媒(DOC)2、還元剤又は還元剤前駆体の注入手段3、ミキサ4、SCR/フィルタ5及びNH酸化触媒6が排気ガス流れ方向の上流側から順に配置されている。本明細書では、「上流側」及び「下流側」は排気ガス流れ方向について使用している。この排気ガス浄化装置は、還元剤又は還元剤前駆体を貯留するタンク及び各種センサを備える。それらセンサの信号に基づいてエンジンの燃料噴射制御及び注入手段3の制御がECU(Engine Control Unit)によって実行される。
【0031】
[酸化触媒について]
酸化触媒2は、排気ガス中のHCをトラップするHCトラップ材と、該HCトラップ材にトラップされたHC、排気ガス中のHC、CO、NOを酸化する触媒成分を含有する。例えば、HCトラップ材としてはゼオライトを採用し、酸化触媒成分としては活性アルミナとOSC材(Ce含有酸化物)の混合物にPt及び/又はPdを担持させた触媒を採用することが好ましい。
【0032】
酸化触媒2は、HCトラップ材を含有するから、排気ガス温度が低いとき(触媒が活性化していないとき)に排気ガス中のHCをトラップしておき、排気ガス温度が高くなったとき(触媒が活性を呈するようになったとき)にHCトラップ材から放出されるHCを酸化浄化することができ、HCが酸化されることなく排出される量を減らすことができる。
【0033】
[SCR/フィルタについて]
SCR/フィルタ5は、排気ガス中のPMを捕集するフィルタ本体に、NOxを還元剤の存在下で選択的に還元浄化するためのSCR触媒と、捕集したPMを燃焼させて除去するためのPM燃焼触媒を担持させたものである。フィルタ本体は、下流端が閉塞された排気ガス流入通路と、上流端が閉塞された排気ガス流出通路が交互に並行に設けられたハニカム構造をなし、排気ガス流入通路に流入した排気ガスが通路隔壁の細孔を通って隣接する排気ガス流出通路に流出するウォールフロータイプである。フィルタ本体は、コージェライト、SiC、Si、サイアロン、AlTiOのような無機多孔質材料から形成される。
【0034】
SCR触媒については、本例では、還元剤となるNHの前駆体として尿素を採用した尿素−SCRを採用している。そのため、タンクには尿素水が貯留される。SCR触媒としては、NHをトラップするゼオライトに、NHを還元剤としてNOxを還元する触媒金属を担持させた触媒成分を採用することが好ましい。NOx還元用の触媒金属としては、Fe、Ti、V、W等が好ましく、NHをNOxに酸化し易いPtやPdの使用は好ましくない。なお、SCR触媒は、フィルタ担体1Lあたり60g以上110g以下含まれていることが好ましい。
【0035】
PM燃焼触媒としては、Zr系複合酸化物を採用することが好ましく、PtやPdのような酸化触媒機能が強い触媒貴金属は含有しない。Zr系複合酸化物は、Zrを主成分として、Ce以外の希土類金属、例えばNd、Pr、La、Ybを含有する複合酸化物である。好ましくは、Zrを主成分として、Ndを含有する複合酸化物であり、特に好ましくは、Ndに加えPrを含有する複合酸化物である。以下、詳述する。
【0036】
(Zr系複合酸化物のカーボン燃焼性能)
Zr酸化物であるZrOにCe以外の希土類金属を含有するZr系複合酸化物について、示差熱分析(DTA熱分析)によりカーボン燃焼性能を評価した。
【0037】
評価方法は以下の通りである。すなわち、まずZr系複合酸化物粉末について、大気中で800℃で24時間保持するエージング処理を施した。次に、エージング後のZr系複合酸化物粉末とカーボンブラックを、めのう乳鉢の自重だけで1分間混合(タイトコンタクト、Zr系複合酸化物粉末:カーボンブラック=4:1(質量比))する。そして、5mg秤量した混合粉末を、アルミナパンを用いてDTA熱分析装置に設置し、20%O/N+500ppmNO気流中(全流量100cc/min)10℃/minにて昇温試験を行った。DTA熱分析におけるリファレンスは市販のα−アルミナ粉末を使用した。カーボン燃焼に伴う発熱ピーク時の温度(DTAピークトップ温度)から、Zr系複合酸化物のPMの燃焼に及ぼす影響を評価した。
【0038】
表1及び図2に、種々のZr系複合酸化物についての組成とDTAピークトップ温度との関係を示す。
【0039】
【表1】
【0040】
供試材1は、添加元素を含有しないZr酸化物、すなわちZrOである。ZrOでは、DTAピークトップ温度は486.5℃であり、図2に示すように、添加元素を含有するZr系複合酸化物よりもDTAピークトップ温度が高いことが判る。
【0041】
ここで、DTAピークトップ温度が高い程、PMの燃焼に高い排気ガス温度が必要になるため、PM燃焼に伴う熱負荷が増大すると共に、フィルタの劣化を早めてしまう。従って、ピークトップ温度が低い程、PM燃焼もより低温で開始することができ、フィルタの劣化を抑える上でも好ましい。
【0042】
供試材1のZrOに対し、Ce以外の希土類金属を含有するZr系複合酸化物(供試材2〜26)は、図2に示すようにDTAピークトップ温度が低くなり、上述の点で好ましいことが判る。この中でも、Ndを含有するもの(供試材2〜15)は特に好ましい。さらにNdに加え、Prを含有するもの(供試材5〜15)、特にNd及びPrをNd及びPr換算で、共に12mol%以上含有するもの(供試材8〜15)が好ましいことが判る。
【0043】
これは、ZrOに比べ、Nd及びPrが添加されることにより、フィルタ再生時に活性な酸素の放出量が多くなるためと考えられる。
【0044】
ここで、表1に示すZr系複合酸化物には、Pt及びPdのいずれも担持されていない。これは、SCR/フィルタ5は、SCR触媒としてNOxの選択還元にも使用されるため、Pt及びPdを担持することが不適切であることによる。しかし、表1に示すZr系複合酸化物は、Pt及びPdを担持していなくても、良好なPM燃焼性能を示すことが上述のごとく明らかとなった。これは、活性な酸素の活性が高いことから、PtやPdのような触媒貴金属が存在しなくても、PM燃焼が進むと考えられる。
【0045】
(Zr系複合酸化物の耐久性)
表1に示す供試材9(ZrO−12mol%Nd−18mol%Pr)について、大気中800℃で24時間のエージング処理を施し、その前後のTG−DTA熱分析結果から、供試材9の熱安定性を評価した。供試材の調整方法及び測定方法は、上述のDTA熱分析と同じであり、カーボン燃焼に伴う評価試料の重量減少速度を調べた。図3に結果を示す。
【0046】
図3において、実線はエージング処理前、破線はエージング処理後の測定結果を示している。図3に示すように、エージング処理前後において、測定結果はほとんど変化がないことが判る。これは、フィルタ再生時に高温の排気ガスを流入させ、PMを燃焼させた場合でも、供試材9はほとんど劣化しないことを意味する。従って、例えば供試材9を担持したフィルタは、PMフィルタとして高い耐久性を示すと考えられる。
【0047】
以上述べたように、本実施形態に係る排気ガス浄化装置は、PMを捕集するフィルタ5に、NOxを還元剤の存在下で選択的に還元するSCR触媒と、Ce以外の希土類金属、特にNd及びPrを含むZr系複合酸化物とが担持され、且つ、Pt及びPdのいずれも担持されていないことを特徴とする。
【0048】
SCR/フィルタ5の再生時には、上述のごとくZr系複合酸化物から放出される活性な酸素の活性が高いことから、PtやPdのような触媒貴金属が存在しなくても、PMの燃焼が進む。
【0049】
また、通常運転時には、SCR/フィルタ5に還元剤が供給されると、その還元剤の存在下で排気ガス中のNOxがSCR触媒によって還元浄化される。SCR/フィルタ5に担持されている上記Zr系複合酸化物は、上述の如くPMの燃焼に働くものの、それ自体には還元剤を酸化させるような強い酸化触媒機能はない。従って、フィルタに供給される還元剤は、上記Zr系複合酸化物によって酸化されることなく、SCR触媒によるNOxの選択還元に供されることになる。
【0050】
このように、本実施形態に係る排気ガス浄化装置によれば、PMの燃焼に上記Zr系複合酸化物を用いるから、PM燃焼とSCR触媒によるNOxの選択還元が両立することになる。
【0051】
そうして、PM捕集用のフィルタにSCR触媒を担持させた、すなわち、フィルタとSCR触媒を一体化させたから、SCR触媒専用の担体を別途設ける必要がなくなり、排気ガス浄化装置がシンプルになり、排気ガス通路1へのレイアウトが容易になる。
【0052】
なお、上記Zr系複合酸化物は、フィルタ担体1Lあたり10g以上60g以下含まれていることが好ましい。
【0053】
また、図2に示すように、Zr系複合酸化物のうち、Ndは含まないが、Prに加え、Y又はYbを含有するもの(供試材25,26)もDTAピークトップ温度が低いことが判る。従って、これらのZr系複合酸化物も好ましくSCR/フィルタ5に担持させることができる。
【0054】
[NH酸化触媒について]
NH酸化触媒6はNOxと反応することなくSCR触媒を通過する(スリップする)NH及びその誘導体をトラップして酸化するものであり、それらNH等のスリップを防止する。NH酸化触媒6としては、NHをトラップするゼオライトにPtを担持させたPt担持ゼオライトとOSC(Oxygen Storage Capacity)材とをハニカム担体のセル壁に担持させた構成とすることが好ましい。
【0055】
[注入手段について]
注入手段3は、タンクの尿素水を酸化触媒2とミキサ4の間の排気ガス通路1に供給する噴射弁によって構成することができる。ミキサ4は、尿素水を排気ガス通路1内において排気ガス中に拡散させるものである。
【0056】
[センサについて]
次に排気ガス通路1に配置されている各種センサについて説明する。ミキサ4とSCR/フィルタ5の間には、SCR/フィルタ5に流入する排気ガス温度を検出する温度センサ11が配置されている。この温度センサ11で検出される排気ガス温度に基づいて、フィルタを再生するためのポスト噴射量が制御される。すなわち、フィルタの温度を確実にPM燃焼が促進する温度に上昇させるために、当該排気ガス温度が予め設定した温度になるようにポスト噴射量が制御される。ポスト噴射量は、SCR触媒のゼオライトの耐熱性を考慮して、SCR/フィルタ5に流入する排気ガス温度が所定温度以上にならないように、例えば、600℃以上にならないように制御される。
【0057】
SCR/フィルタ5よりも上流側と下流側にはSCR/フィルタ5の上流側と下流側の排気ガスの差圧Δを検出するための圧力センサ12,13が配置されている。上流側の圧力センサ12はミキサ4とSCR/フィルタ5の間に配置され、下流側の圧力センサ13はSCR/フィルタ5とNH酸化触媒6の間に配置されている。上記差圧Δに基づいてSCR/フィルタ5のPM捕集量が算出され、該捕集量が所定値に達したときにポスト噴射が所定噴射時期に実行される。
【0058】
酸化触媒2と注入手段3の間にはSCR触媒に流入する排気ガスのNOx濃度を検出する上流側NOxセンサ14が配置されている。SCR/フィルタ5とNH酸化触媒6の間にはSCR触媒から流出する排気ガスのNOx濃度を検出する下流側NOxセンサ15が配置されている。
【0059】
上流側NOxセンサ14で検出されるNOx濃度が所定値以上であること、並びに温度センサ11で検出される排気ガス温度が所定値以上であることが、SCR触媒でNOxを浄化するための注入手段3による尿素水の注入条件となる。
【0060】
尿素水の注入量は、SCR触媒のゼオライトに吸着されているNH量及び下流側NOxセンサ15で検出されるNOx濃度に基づいて、適切な量になるように制御される。ゼオライトに吸着されているNH量は、上流側と下流側のNOxセンサ14,15で検出されるNOx濃度及び尿素注入量の履歴に基づいて推定される。
【0061】
<排気ガスの浄化方法>
本実施形態に係る排気ガス浄化装置を用いた場合の排気ガスの浄化方法について詳述する。
【0062】
[SCR/フィルタ5におけるPM燃焼]
排気ガスの空燃比がリーンであるとき、排気ガス中のPMはSCR/フィルタ5に捕集される。そして、SCR/フィルタ5の上流側と下流側の排気ガスの差圧Δに基づいてフィルタのPM捕集量が所定値に達したことが検出されたときに、SCR/フィルタ5に流入する排気ガス温度に基づいて、エンジン燃焼室に膨張行程又は排気行程で燃料を噴射供給するポスト噴射が実行される。これにより、SCR/フィルタ5に捕集されているPMが燃焼して除去され、該フィルタのPM捕集能が回復する(フィルタの再生)。以下、具体的に説明する。
【0063】
ポスト噴射により、エンジン1から排出される排気ガス中のHC及びCOが多くなる。そのHC及びCOは、酸化触媒2において、排気ガス中の酸素と反応する。これにより、CO及びHOが生成して排出される。このときに発生する酸化反応熱によってSCR/フィルタ5に流入する排気ガス温度が上昇する。
【0064】
昇温させた排気ガスがSCR/フィルタ5に流入すると、SCR/フィルタ5に担持させたZr系複合酸化物から活性な酸素が放出し、この活性な酸素が酸化剤となってSCR/フィルタ5に堆積しているPMの燃焼が進む。PMは活性な酸素との反応によってCOとなって排出され、SCR/フィルタ5のPM捕集能が再生する。
【0065】
[SCR/フィルタ5のSCR触媒によるNOx選択還元]
SCR/フィルタ5の再生時以外の運転中、すなわちフィルタのPM捕集量が所定値に達していないとき、SCR/フィルタ5に流入する排気ガスのNOx濃度が所定値以上であること、並びにSCR/フィルタ5に流入する排気ガス温度が所定値(例えば200℃)以上であることを条件として、必要に応じて、SCR触媒によるNOxの選択還元が実行される。
【0066】
すなわち、まず注入手段3によって還元剤前駆体としての尿素水が排気ガス通路1に注入される。
【0067】
その後、その尿素の熱分解及び加水分解によってNH(還元剤)が生成するとともに、SCR/フィルタ5に流入し、SCR触媒のゼオライトに吸着される。SCR/フィルタ5に流入するNOx(NO,NO)は、ゼオライトに吸着されたNHによってNに還元浄化され、そのときに生成するHOと共に排出される。
【0068】
このように、本実施形態に係る排気ガス浄化方法によれば、PMの酸化燃焼とNOxの還元浄化を両立させながら、排気ガス浄化装置のシンプル化を図ることができ、さらに、PMの燃焼促進にも有利になる。
【0069】
[NH酸化触媒6によるNH等の酸化]
NOxと反応することなくSCR触媒を通過するNH及びその誘導体はNH酸化触媒6のゼオライトにトラップされる。よって、NH及びその誘導体が大気中に排出することが防止される。ゼオライトにトラップされたNH及びその誘導体は、ゼオライトの温度が高くなったときに脱離してPt触媒によって酸化されて排出される。本実施形態では、フィルタ再生時の熱によってNH酸化触媒6のゼオライトの温度が高くなり、NHがゼオライトから脱離する。
【0070】
<フィルタにおけるPM燃焼触媒とSCR触媒の担持形態>
PM燃焼触媒とSCR触媒は、フィルタ本体に対して次のA、B及びCから選ばれる少なくとも一つの形態で担持することができる。
図4(a)及び(b)に示すように、PM燃焼触媒21とSCR触媒22がフィルタ本体23の排気ガス通路(排気ガス流入通路、排気ガス流出通路及び通路隔壁に形成された細孔)を形成する壁面に、一方が排気ガス流れ方向の上流側に、他方が下流側に配置されるように担持されている。
図4(c)及び(d)に示すように、PM燃焼触媒21とSCR触媒22がフィルタ本体23の上記壁面に、一方が他方よりも排気ガスが通る空間側に配置されるように層状に担持されている。
C PM燃焼触媒とSCR触媒が混合してフィルタ本体の上記壁面に担持されている。
【0071】
[担持形態A]
図4(a)に示す担持形態では、PM燃焼触媒21が上流側に、SCR触媒22が下流側に配置されている。同図(b)に示す担持形態では、SCR触媒22が上流側に、PM燃焼触媒21が下流側に配置されている。
【0072】
好ましいのはSCR触媒22を上流側に配置した図4(b)に示す担持形態である。この担持形態であれば、SCR触媒22を担持した上流側では、PM24との反応によるNOの消費がないため、SCR触媒上でのNHによるNOx浄化反応が最も効率的に進むNO:NO=1:1の排気ガス条件に近づきやすく、高いNOx浄化率が期待できる。また、上流側の方が温度が高いため、PM燃焼性能が比較的低いSCR触媒22上においてもPMが燃焼することが期待される。
【0073】
[担持形態B]
図4(c)に示す担持形態では、PM燃焼触媒21が上側、すなわち、排気ガスが通る空間側に、SCR触媒22が下側に配置されている。同図(d)に示す担持形態では、SCR触媒22が上側に、PM燃焼触媒21が下側に配置されている。
【0074】
好ましいのはPM燃焼触媒21を上側に配置した図4(c)に示す担持形態である。この担持形態であれば、PM燃焼触媒21とPM24の接触が良好になり、PMの燃焼が進み易い。また、PM燃焼触媒21上のPM24が燃焼除去され易いため、排気ガス中のNOxが下側のSCR触媒22に拡散し易い。従って、NOxの選択還元に有利になる。
【0075】
<SCR触媒・NH酸化触媒・フィルタ一体型>
上記実施形態は、SCR/フィルタ5とは別個独立のNH酸化触媒6を備えているが、図5に示すように、SCR/フィルタ5の排気ガス流れ方向の下流部にNH酸化触媒25を担持してもよい。これにより、NH酸化触媒専用の担体を別途設ける必要がなくなり、そのため、排気ガス浄化装置がシンプルになり、排気ガス通路へのレイアウトが容易になる。
【0076】
なお、図4(b)の担持形態において、その下流部をPM燃焼触媒とNH酸化触媒の2層構造とし、PM燃焼触媒をNH酸化触媒の上側(排気ガスが通る空間側)に配置するようにしてもよい。或いは、図4(b)の担持形態において、その下流部をPM燃焼触媒とNH酸化触媒の混合層としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 エンジンの排気ガス通路
2 酸化触媒
3 注入手段
4 ミキサ
5 SCR/フィルタ
6 NH酸化触媒
21 PM燃焼触媒
22 SCR触媒
23 フィルタ本体
図1
図2
図3
図4
図5