特許第6222046号(P6222046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222046
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   G03G15/20 555
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-227117(P2014-227117)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-90889(P2016-90889A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161953
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 敬直
(72)【発明者】
【氏名】山岸 義弘
(72)【発明者】
【氏名】石井 智士
(72)【発明者】
【氏名】榮木 天
(72)【発明者】
【氏名】四辻 剛史
【審査官】 國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−271324(JP,A)
【文献】 特開2009−276570(JP,A)
【文献】 特開2013−250388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の周りを回転可能に設けられる定着ベルトと、
前記定着ベルトに圧接して定着ニップを形成し、回転可能に設けられる加圧部材と、
前記定着ベルトを加熱する熱源と、
前記定着ベルトを前記加圧部材側に向かって押圧する押圧部材と、
前記定着ベルトの外周面と対向し、所定の温度で作動して前記熱源による前記定着ベルトの加熱を停止させる加熱停止装置と、
前記定着ベルトの内周面と対向する変形抑制部材と、を備え、
前記定着ベルトが周方向に破断していない状態では、前記定着ベルトと前記変形抑制部材が間隔を介して設けられ、
前記定着ベルトが周方向に破断すると、前記定着ベルトが変形して前記変形抑制部材に接触し、前記加熱停止装置から離間する側への前記定着ベルトの変形が抑制され
前記定着ベルトは、
前記熱源に最も接近する第1の部分と、
記録媒体の搬送方向において前記第1の部分の両側に設けられる第2の部分と、を備え、
前記変形抑制部材は、
前記第1の部分の内周面とは対向せず、前記第1の部分よりも記録媒体の搬送方向上流側に設けられる前記第2の部分の内周面と対向する上流側部分と、
前記上流側部分とは記録媒体の搬送方向に間隔を介して配置され、前記第1の部分の内周面とは対向せず、前記第1の部分よりも記録媒体の搬送方向下流側に設けられる前記第2の部分の内周面と対向する下流側部分と、を備えていることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記定着ベルトは、
基材層と、
前記基材層に周設される弾性層と、
前記弾性層を被覆する離型層と、を備え、
前記変形抑制部材の熱膨張率は、前記定着ベルトの前記基材層の熱膨張率よりも大きく、
前記定着ベルトが周方向に破断すると、前記変形抑制部材が熱膨張により変形して前記定着ベルトを前記加熱停止装置側に向かって押圧し、前記定着ベルトが前記加熱停止装置に接触することを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項3】
前記変形抑制部材は、前記定着ベルトの前記回転軸方向の全域に亘って設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記熱源は、前記定着ベルトの内径側に配置されると共に、前記回転軸に対して偏った位置に設けられ、
前記加熱停止装置は、前記定着ベルトのうちで前記熱源に最も接近する部分の外周面と対向していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の定着装置を備えていることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体にトナー像を定着させる定着装置と、この定着装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンターなどの電子写真方式の画像形成装置は、用紙などの記録媒体にトナー像を定着させる定着装置を備えている。
【0003】
例えば、定着ベルトと、定着ベルトに圧接して定着ニップを形成する加圧部材と、定着ベルトを加熱する熱源と、定着ベルトの外周面と対向する加熱停止装置と、を備えた定着装置が知られている(特許文献1参照)。このような定着装置では、定着ベルトが過昇温すると、加熱停止装置が作動して、熱源による定着ベルトの加熱が停止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−178472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような定着装置において、定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔が狭すぎると、定着ベルトが過昇温していないにも関わらず加熱停止装置が作動してしまう恐れがある。一方で、定着ベルトが周方向に破断した場合に、定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔が広くなると、加熱停止装置が作動するタイミングが遅くなってしまう恐れがある。
【0006】
そこで、本発明は上記事情を考慮し、定着ベルトが過昇温していないにも関わらず加熱停止装置が作動してしまうのを抑制しつつ、定着ベルトが周方向に破断した場合に加熱停止装置を適切なタイミングで作動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の定着装置は、回転軸の周りを回転可能に設けられる定着ベルトと、前記定着ベルトに圧接して定着ニップを形成し、回転可能に設けられる加圧部材と、前記定着ベルトを加熱する熱源と、前記定着ベルトを前記加圧部材側に向かって押圧する押圧部材と、前記定着ベルトの外周面と対向し、所定の温度で作動して前記熱源による前記定着ベルトの加熱を停止させる加熱停止装置と、前記定着ベルトの内周面と対向する変形抑制部材と、を備え、前記定着ベルトが周方向に破断していない状態では、前記定着ベルトと前記変形抑制部材が間隔を介して設けられ、前記定着ベルトが周方向に破断すると、前記定着ベルトが変形して前記変形抑制部材に接触し、前記加熱停止装置から離間する側への前記定着ベルトの変形が抑制されることを特徴とする。
【0008】
上記のように、定着ベルトが周方向に破断していない状態では、定着ベルトと変形抑制部材が間隔を介して設けられているため、定着ベルトの熱が変形抑制部材に逃げるのを抑制することが可能となる。これに伴って、熱源によって定着ベルトを集中的に加熱することが可能となり、定着ベルトの昇温時間を短縮することができる。
【0009】
また、上記のように、定着ベルトが周方向に破断した場合には、加熱停止装置から離間する側への定着ベルトの変形が抑制されるため、定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔が広くなるのを抑制することが可能となる。これに伴って、加熱停止装置を適切なタイミングで作動させることが可能となる。
【0010】
更に、上記のように、定着ベルトが周方向に破断した場合に加熱停止装置から離間する側への定着ベルトの変形が抑制されるため、定着ベルトが周方向に破断した場合に定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔が広くなりすぎないように予め定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔を狭く設定しておく必要が無い。そのため、定着ベルトと加熱停止装置の対向間隔を広く設定することが可能となり、定着ベルトが過昇温していないにも関わらず加熱停止装置が作動してしまうような事態を回避することが可能となる。
【0011】
前記定着ベルトは、前記熱源に最も接近する第1の部分と、記録媒体の搬送方向において前記第1の部分の両側に設けられる第2の部分と、を備え、前記変形抑制部材は、前記第1の部分の内周面とは対向せず、前記第2の部分の内周面と対向しても良い。
【0012】
上記のように変形抑制部材を定着ベルトの第1の部分の内周面とは対向させないことで、熱源から定着ベルトの第1の部分に向かう輻射熱が変形抑制部材によって遮断されるのを抑制することが可能となる。これに伴って、熱源によって定着ベルトを効率的に加熱することが可能となる。
【0013】
また、上記のように変形抑制部材を定着ベルトの第2の部分の内周面と対向させることで、定着ベルトの変形を抑制する機能を高めることが可能となる。
【0014】
前記定着ベルトは、前記熱源に最も接近する第1の部分と、記録媒体の搬送方向において前記第1の部分の両側に設けられる第2の部分と、を備え、前記変形抑制部材は、前記熱源から放射される輻射熱を透過させる材料で形成されると共に、少なくとも前記第1の部分の内周面と対向しても良い。
【0015】
上記のように熱源から放射される輻射熱を透過させる材料で変形抑制部材を形成することで、変形抑制部材を定着ベルトの第1の部分の内周面と対向させても、熱源から定着ベルトの第1の部分に向かう輻射熱が変形抑制部材によって遮断されなくなる。これに伴って、熱源によって定着ベルトを効率的に加熱することが可能となる。
【0016】
また、上記のように変形抑制部材を少なくとも定着ベルトの第1の部分の内周面と対向させることで、定着ベルトの変形を抑制する機能を高めることが可能となる。
【0017】
前記定着ベルトは、基材層と、前記基材層に周設される弾性層と、前記弾性層を被覆する離型層と、を備え、前記変形抑制部材の熱膨張率は、前記定着ベルトの前記基材層の熱膨張率よりも大きく、前記定着ベルトが周方向に破断すると、前記変形抑制部材が熱膨張により変形して前記定着ベルトを前記加熱停止装置側に向かって押圧し、前記定着ベルトが前記加熱停止装置に接触しても良い。
【0018】
このような構成を採用することで、定着ベルトが周方向に破断した場合に、加熱停止装置を確実に作動させることが可能となる。
【0019】
前記変形抑制部材は、前記定着ベルトの前記回転軸方向の全域に亘って設けられていても良い。
【0020】
このような構成を採用することで、回転軸方向のいずれの位置で定着ベルトが周方向に破断していても、加熱停止装置から離間する側への定着ベルトの変形を確実に抑制することが可能となる。
【0021】
前記熱源は、前記定着ベルトの内径側に配置されると共に、前記回転軸に対して偏った位置に設けられ、前記加熱停止装置は、前記定着ベルトのうちで前記熱源に最も接近する部分の外周面と対向していても良い。
【0022】
定着ベルトのうちで熱源に最も接近する部分は、定着ベルトのうちで最も過昇温しやすい部分である。そのため、上記のように定着ベルトのうちで熱源に最も接近する部分の外周面に加熱停止装置を対向させることで、定着ベルトの過昇温を確実に防止することができる。
【0023】
本発明の画像形成装置は、上記したいずれかの定着装置を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、定着ベルトが過昇温していないにも関わらず加熱停止装置が作動してしまうのを抑制しつつ、定着ベルトが周方向に破断した場合に加熱停止装置を適切なタイミングで作動させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの概略を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る定着装置を示す側面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る定着装置の制御システムを示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態に係る定着装置において、定着ベルトが周方向に破断した状態を示す断面図である。
図6】本発明の他の異なる実施形態に係る定着装置において、定着ベルトが周方向に破断した状態を示す断面図である。
図7】本発明の他の異なる実施形態に係る定着装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、図1を用いて、電子写真方式のプリンター1(画像形成装置)の全体の構成について説明する。以下、図1における紙面手前側を、プリンター1の前側とする。各図に適宜付される矢印Fr、Rr、L、R、U、Loは、それぞれプリンター1の前側、後側、左側、右側、上側、下側を示している。
【0027】
プリンター1は、箱型形状のプリンター本体2を備えており、プリンター本体2の下部には用紙(記録媒体)を収納する給紙カセット3が収容され、プリンター本体2の上面には排紙トレイ4が設けられている。プリンター本体2の上面には、排紙トレイ4の側方に上カバー5が開閉可能に取り付けられ、上カバー5の下方には、トナーコンテナ6が収納されている。
【0028】
プリンター本体2の上部には、排紙トレイ4の下方にレーザー・スキャニング・ユニット(LSU)で構成される露光器7が配置され、露光器7の下方には、画像形成部8が設けられている。画像形成部8には、像担持体である感光体ドラム10が回転可能に設けられており、感光体ドラム10の周囲には、帯電器11と、現像器12と、転写ローラー13と、クリーニング装置14とが、感光体ドラム10の回転方向(図1の矢印X参照)に沿って配置されている。
【0029】
プリンター本体2の内部には、用紙の搬送経路15が設けられている。搬送経路15の上流端には給紙部16が設けられ、搬送経路15の中流部には、感光体ドラム10と転写ローラー13によって構成される転写部17が設けられ、搬送経路15の下流部には定着装置18が設けられ、搬送経路15の下流端には排紙部20が設けられている。搬送経路15の下方には、両面印刷用の反転経路21が形成されている。
【0030】
次に、このような構成を備えたプリンター1の画像形成動作について説明する。
【0031】
プリンター1に電源が投入されると、各種パラメーターが初期化され、定着装置18の温度設定等の初期設定が実行される。そして、プリンター1に接続されたコンピューター等から画像データが入力され、印刷開始の指示がなされると、以下のようにして画像形成動作が実行される。
【0032】
まず、帯電器11によって感光体ドラム10の表面が帯電された後、露光器7からのレーザー光(図1の二点鎖線P参照)により感光体ドラム10に対して画像データに対応した露光が行われ、感光体ドラム10の表面に静電潜像が形成される。次に、この静電潜像を、現像器12がトナーによりトナー像に現像する。
【0033】
一方、給紙部16によって給紙カセット3から取り出された用紙は、上記した画像形成動作とタイミングを合わせて転写部17へと搬送され、転写部17において感光体ドラム10上のトナー像が用紙に転写される。トナー像を転写された用紙は、搬送経路15を下流側へと搬送されて定着装置18に進入し、この定着装置18において用紙にトナー像が定着される。トナー像が定着された用紙は、排紙部20から排紙トレイ4に排出される。なお、感光体ドラム10上に残留したトナーは、クリーニング装置14によって回収される。
【0034】
次に、図2図3を用いて、定着装置18について詳細に説明する。図2の矢印Yは、用紙の搬送方向を示している。図3の矢印Iは前後方向内側を示し、図3の矢印Oは前後方向外側を示している。
【0035】
図2図3等に示されるように、定着装置18は、定着ベルト22と、定着ベルト22の下側(外側)に配置される加圧ローラー23(加圧部材)と、定着ベルト22の内径側に配置されるヒーター24(熱源)と、定着ベルト22の内径側においてヒーター24の下側に配置される反射板25(反射部材)と、定着ベルト22の内径側において反射板25の下側に配置される支持部材26と、定着ベルト22の内径側において支持部材26の下側に配置される押圧部材27と、定着ベルト22の内径側において支持部材26の前後両端部に固定されるカバー部材28と、定着ベルト22の上側(外側)に配置されるサーモカット29(加熱停止装置)と、定着ベルト22の前後両端部に装着される形状規制部材30と、定着ベルト22の内径側においてヒーター24よりも上側に配置される変形抑制部材31と、を備えている。なお、図3においては、定着ベルト22の内部が透視されている。
【0036】
定着ベルト22は、前後方向に長い略円筒状を成している。定着ベルト22は、前後方向に延びる回転軸Aの周りを回転可能に設けられている。つまり、本実施形態では、前後方向が定着ベルト22の回転軸方向である。
【0037】
定着ベルト22は、可撓性を有しており、周方向には無端状である。定着ベルト22は、例えば、基材層35と、この基材層35に周設される弾性層36と、この弾性層36を被覆する離型層37と、を備えている。定着ベルト22の基材層35は、例えばSUSやニッケルなどの金属によって形成されている。なお、定着ベルト22の基材層35は、PI(ポリイミド)などの樹脂によって形成されていても良い。定着ベルト22の弾性層36は、例えばシリコンゴムによって形成されており、定着ベルト22の基材層35よりも熱膨張率が大きい。定着ベルト22の弾性層36の厚みは、例えば270μmである。定着ベルト22の離型層37は、例えばPFAチューブによって形成されている。定着ベルト22の離型層37の厚みは、例えば20μmである。
【0038】
定着ベルト22の上部(加圧ローラー23から離間する側の部分)には、第1の部分P1と、第1の部分P1の左右両側(用紙の搬送方向における両側)に設けられる第2の部分P2と、が形成されている。第1の部分P1は、定着ベルト22の上端部に位置しており、定着ベルト22のうちでヒーター24に最も接近している。各第2の部分P2は、第1の部分P1よりもヒーター24から僅かに離間している。
【0039】
定着ベルト22は、通紙領域R1と、通紙領域R1の前後両側(通紙領域R1の前後方向外側)に設けられる非通紙領域R2と、を備えている。通紙領域R1は、最大サイズの用紙が通過する領域である。非通紙領域R2は、最大サイズの用紙が通過しない領域である。
【0040】
加圧ローラー23は、前後方向に長い略円柱状を成している。加圧ローラー23は、定着ベルト22に圧接しており、定着ベルト22と加圧ローラー23の間には定着ニップ39が形成されている。加圧ローラー23は、回転可能に設けられている。
【0041】
加圧ローラー23は、例えば、円柱状の芯材40と、この芯材40に周設される弾性層41と、この弾性層41を被覆する離型層42と、を備えている。加圧ローラー23の芯材40は、例えば、鉄等の金属によって形成されている。加圧ローラー23の弾性層41は、例えば、シリコンゴムによって形成されている。加圧ローラー23の離型層42は、例えば、PFAチューブによって形成されている。
【0042】
ヒーター24は、例えば、ハロゲンヒーターによって構成されている。ヒーター24は、定着ベルト22の内部空間の上部(加圧ローラー23から離間する側の部分)に配置されており、定着ベルト22の回転軸Aに対して上側(加圧ローラー23から離間する側)に偏った位置に設けられている。
【0043】
反射板25は、前後方向に長い形状を成している。反射板25は、例えば、光輝アルミニウム等の金属によって形成されている。反射板25は、ヒーター24と支持部材26の間に配置されている。反射板25の断面は、上側(加圧ローラー23から離間する側)に向かって凸となるコ字状を成している。
【0044】
反射板25は、略水平に設けられる本体部44と、本体部44の左右両端部(用紙の搬送方向における上流側と下流側の端部)から下方に向かって屈曲されるガイド部45と、を備えている。本体部44の上面は、ヒーター24に対向しており、ヒーター24から放射される輻射熱を定着ベルト22の内周面に向かって反射する反射面(鏡面)である。
【0045】
支持部材26は、前後方向に長い形状を成している。支持部材26の上部は、反射板25の各ガイド部45の間に挿入されている。支持部材26は、スペーサー51を介して反射板25を支持しており、反射板25と直接的には接触していない。支持部材26は、一対のL字状の板金52を組み合わせることで形成されており、略矩形の断面形状を有している。支持部材26の右下隅部には、下方に向かって突出する係合突起53が設けられている。係合突起53は、一方の板金52を下方に延出させることによって形成されている。
【0046】
押圧部材27は、前後方向に長い平板状を成している。押圧部材27は、例えば、LCP(液晶ポリマー)等の耐熱性樹脂によって形成されている。押圧部材27の上面の右端部には、係合凹部55が設けられている。係合凹部55には、支持部材26の係合突起53が係合している。押圧部材27の上面には、複数のボス56が突設されている。各ボス56の上端部は、支持部材26の下面に当接している。以上のような構成により、支持部材26によって押圧部材27が支持されており、押圧部材27の反りが規制されている。
【0047】
押圧部材27の下面の右側部分(用紙の搬送方向下流側の部分)は、左側(用紙の搬送方向上流側)から右側(用紙の搬送方向下流側)に向かって下側(加圧ローラー23側)に傾斜している。押圧部材27の下面は、定着ベルト22を下側(加圧ローラー23側)に向かって押圧している。
【0048】
各カバー部材28は、正面視で略U字状を成している。各カバー部材28は、定着ベルト22の各非通紙領域R2と前後方向の位置が対応しており、ヒーター24から定着ベルト22の各非通紙領域R2に向かう輻射熱を遮断する機能を有している。
【0049】
各カバー部材28は、上方に向かって円弧状に湾曲する湾曲部57と、湾曲部57の左右両端部(用紙の搬送方向における上流側と下流側の端部)から下方に向かって屈曲される取付部58と、を備えている。湾曲部57は、定着ベルト22の内周面に沿って配置されている。各取付部58の下端部は、支持部材26の左右両側面に取り付けられている。
【0050】
サーモカット29は、例えば、バイメタル方式(熱膨張率の異なる2種類の金属によって接点を構成する方式)のサーモスタットである。サーモカット29は、定着ベルト22の第1の部分P1(定着ベルト22のうちでヒーター24に最も接近する部分)の直上に配置されており、定着ベルト22の第1の部分P1の外周面と対向している。サーモカット29は、定着ベルト22の通紙領域R1の前後方向中央部Z(定着ベルト22全体の前後方向中央部にも相当する)と対応する位置に設けられている。
【0051】
各形状規制部材30は、各カバー部材28よりも前後方向外側に配置されている。各形状規制部材30は、規制片60と、規制片60に取り付けられるリング片61と、を備えている。
【0052】
各形状規制部材30の規制片60は、基台部62と、基台部62の前後方向内側の面に突設される規制部63と、を備えている。規制片60には、基台部62と規制部63を貫通する貫通穴64が前後方向に沿って設けられており、この貫通穴64をヒーター24が貫通している。規制部63は、貫通穴64の外周に沿って円弧状に湾曲しており、略下向きC字状を成している。規制部63は、定着ベルト22の前後両端部に挿入されている。これにより、定着ベルト22の形状が規制されている(定着ベルト22の変形が抑制されている)。規制部63の上端部(頂部)は、定着ベルト22の通常使用時(定着ベルト22が周方向に破断していない時)に、定着ベルト22の内周面に当接している。
【0053】
各形状規制部材30のリング片61は、円環状を成している。リング片61は、規制片60の規制部63の外周に装着されている。リング片61は、定着ベルト22の前後両端部の前後方向外側に配置されており、定着ベルト22の蛇行(前後方向外側への移動)を規制している。リング片61は、規制片60の基台部62の前後方向内側に配置されており、これにより、リング片61の前後方向外側への移動が規制されている。
【0054】
変形抑制部材31は、定着ベルト22の回転軸Aよりも上側で、且つ、ヒーター24の直上を除く位置に設けられている。変形抑制部材31は、前後方向に延びており、定着ベルト22の前後方向の全域に亘って設けられている。変形抑制部材31の前後両端部は、各形状規制部材30に固定されているか、又は、各形状規制部材30を保持する定着フレーム(図示せず)に固定されている。変形抑制部材31の熱膨張率は、定着ベルト22の基材層35の熱膨張率以下である。
【0055】
変形抑制部材31は、ヒーター24の左上側に配置される上流側部分67と、上流側部分67とは間隔を介してヒーター24の右上側に配置される下流側部分68と、を備えている。変形抑制部材31の上流側部分67と下流側部分68は、定着ベルト22よりも前後方向外側において接続されていても良いし、接続されていなくても良い。変形抑制部材31の上流側部分67は、定着ベルト22の第1の部分P1の内周面とは対向せず、定着ベルト22の第1の部分P1よりも左側(用紙の搬送方向上流側)に設けられる第2の部分P2(以下、「左側の第2の部分P2」)の内周面と対向している。変形抑制部材31の下流側部分68は、定着ベルト22の第1の部分P1の内周面とは対向せず、定着ベルト22の第1の部分P1よりも右側(用紙の搬送方向下流側)に設けられる第2の部分P2(以下、「右側の第2の部分P2」)の内周面と対向している。
【0056】
次に、定着装置18の制御システムについて、図4を用いて説明する。
【0057】
定着装置18には、制御部71(CPU)が設けられている。制御部71は、ROM、RAM等の記憶装置で構成される記憶部72と接続されており、記憶部72に格納された制御プログラムや制御用データに基づいて、制御部71が定着装置18の各部の制御を行うように構成されている。記憶部72は、サーモカット29の作動温度Tを記憶している。
【0058】
制御部71はモーター等によって構成される駆動源73に接続されており、駆動源73は加圧ローラー23に接続されている。そして、制御部71からの信号に基づいて駆動源73が加圧ローラー23を回転させるようになっている。
【0059】
制御部71は電源74に接続されており、電源74はヒーター24に接続されている。そして、制御部71からの信号に基づいて電源74からヒーター24に電力が供給されることでヒーター24が稼働するようになっている。電源74からヒーター24に至る電力供給経路中には、サーモカット29が設けられている。サーモカット29は、作動温度Tで作動して電源74からヒーター24への電力の供給を遮断し、ヒーター24による定着ベルト22の加熱を停止させるように構成されている。
【0060】
上記のように構成された定着装置18において、用紙にトナー像を定着させる際には、駆動源73によって加圧ローラー23を回転させる(図2の矢印B参照)。このように加圧ローラー23が回転すると、加圧ローラー23に圧接する定着ベルト22が加圧ローラー23とは逆方向に従動回転する(図2の矢印C参照)。このように定着ベルト22が回転すると、定着ベルト22が押圧部材27に対して摺動する。
【0061】
また、用紙にトナー像を定着させる際には、電源74からヒーター24に電力を供給し、ヒーター24を稼働させる。このようにヒーター24が稼働すると、ヒーター24から輻射熱が放射される。ヒーター24から放射された輻射熱の一部は、図2に矢印Dで示されるように、定着ベルト22の内周面に直接照射され、吸収される。また、ヒーター24から放射された輻射熱の別の一部は、図2に矢印Eで示されるように、反射板25の本体部44の上面によって定着ベルト22の内周面に向かって反射され、定着ベルト22の内周面に吸収される。以上のような作用により、ヒーター24によって定着ベルト22が加熱される。この状態で、用紙が定着ニップ39を通過すると、トナー像が加熱されて溶融し、用紙にトナー像が定着される。
【0062】
ところで、上記のように構成された定着装置18においては、定着ベルト22が停止するのに伴ってヒーター24による定着ベルト22に対する加熱が停止された場合であっても、定着ベルト22の第1の部分P1がヒーター24の余熱によって局所的に加熱されてオーバーシュート(温度上昇)することがある。もし定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔が狭すぎると、上記のように定着ベルト22の第1の部分P1がオーバーシュートした場合に、定着ベルト22が過昇温していないにも関わらずサーモカット29が作動してしまう恐れがある。サーモカット29が一度作動すると、サーモカット29を作動前の状態に復元するのは困難であるため、通常は定着装置18全体の交換が必要となる。
【0063】
このような事態を回避するためには、定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔を広くする必要がある。ところが、このように対向間隔を広くすると、今度は、定着ベルト22が過昇温した時にサーモカット29が作動するタイミングが遅くなってしまう恐れがある。特に、本実施形態のように定着ベルト22を平板状の押圧部材27によって下側に押圧する構成を採用する場合、定着ベルト22が周方向に破断した時に定着ベルト22が横長楕円状に変形する恐れがある。このように定着ベルト22が横長楕円状に変形すると、定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔が一層広くなってしまい、サーモカット29が作動するタイミングが一層遅くなってしまう恐れがある。そこで、本実施形態では以下のようにして、定着ベルト22が周方向に破断した時でもサーモカット29を適切なタイミングで作動させている。
【0064】
図2に示されるように、定着ベルト22の通常使用時(定着ベルト22が周方向に破断していない時)には、定着ベルト22の左側の第2の部分P2と変形抑制部材31の上流側部分67が間隔を介して設けられると共に、定着ベルト22の右側の第2の部分P2と変形抑制部材31の下流側部分68が間隔を介して設けられている。そのため、定着ベルト22の熱が変形抑制部材31に逃げるのを抑制することが可能となる。これに伴って、ヒーター24によって定着ベルト22を集中的に加熱することが可能となり、定着ベルト22の昇温時間を短縮することができる。
【0065】
これに対して、定着ベルト22が周方向に破断すると、図5に示されるように、定着ベルト22の上部(加圧ローラー23から離間する側の部分)が下側(サーモカット29から離間する側)に変形する。この変形により、定着ベルト22の左側の第2の部分P2が変形抑制部材31の上流側部分67に接触すると共に、定着ベルト22の右側の第2の部分P2が変形抑制部材31の下流側部分68に接触する。これに伴って、定着ベルト22の上部の下側(サーモカット29から離間する側)への変形が抑制されるため、定着ベルト22は横長楕円状に変形しない。
【0066】
この状態で、ヒーター24が定着ベルト22を加熱し続けると、定着ベルト22の温度が上昇すると共に、定着ベルト22の第1の部分P1の外周面と対向するサーモカット29の温度も上昇する。これに伴って、サーモカット29の温度が作動温度Tに到達し、サーモカット29が作動して、電源74からヒーター24への電力供給が停止される。そのため、ヒーター24による定着ベルト22の加熱も停止される。
【0067】
本実施形態では上記のように、定着ベルト22が周方向に破断した場合に、定着ベルト22の上部の下側(サーモカット29から離間する側)への変形が抑制される。そのため、定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔が広くなるのを抑制することが可能となる。これに伴って、サーモカット29を適切なタイミングで作動させることが可能となる。
【0068】
また、定着ベルト22が周方向に破断した場合には定着ベルト22の上部の下側(サーモカット29から離間する側)への変形が抑制されるため、定着ベルト22が周方向に破断した場合に定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔が広くなりすぎないように予め定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔を狭くしておく必要が無い。従って、定着ベルト22の第1の部分P1とサーモカット29の対向間隔を広く設定することが可能となり、定着ベルト22が過昇温していないにも関わらずサーモカット29が作動してしまうような事態を回避することが可能となる。
【0069】
また、変形抑制部材31の上流側部分67及び下流側部分68は、定着ベルト22の第1の部分P1の内周面とは対向せず、定着ベルト22の各第2の部分P2の内周面とそれぞれ対向している。上記のように変形抑制部材31の上流側部分67及び下流側部分68を定着ベルト22の第1の部分P1の内周面とは対向させないことで、ヒーター24から定着ベルト22の第1の部分P1に向かう輻射熱が変形抑制部材31によって遮断されるのを抑制することが可能となる(図2の矢印D参照)。これに伴って、ヒーター24によって定着ベルト22を効率的に加熱することが可能となる。また、上記のように変形抑制部材31の上流側部分67及び下流側部分68を定着ベルト22の各第2の部分P2の内周面とそれぞれ対向させることで、定着ベルト22の変形を抑制する機能を高めることが可能となる。
【0070】
また、変形抑制部材31は、定着ベルト22の前後方向の全域に亘って設けられている。このような構成を採用することで、前後方向のいずれの位置で定着ベルト22が周方向に破断していても、定着ベルト22の上部の下側(サーモカット29から離間する側)への変形を確実に抑制することが可能となる。
【0071】
また、ヒーター24は、定着ベルト22の内径側に配置されると共に、定着ベルト22の回転軸Aに対して上側(加圧ローラー23から離間する側)に偏った位置に設けられ、サーモカット29は、定着ベルト22の第1の部分P1(定着ベルト22のうちでヒーター24に最も接近する部分)の外周面と対向している。定着ベルト22の第1の部分P1は、定着ベルト22のうちで最も過昇温しやすい部分であるため、上記のように定着ベルト22の第1の部分P1の外周面にサーモカット29を対向させることで、定着ベルト22の過昇温を確実に防止することができる。
【0072】
本実施形態では、変形抑制部材31の熱膨張率が定着ベルト22の基材層35の熱膨張率以下である場合について説明した。一方で、他の異なる実施形態では、変形抑制部材31の熱膨張率が定着ベルト22の基材層35の熱膨張率よりも大きくても良い。このような構成を採用することで、定着ベルト22が周方向に破断した場合に、図6に示されるように、変形抑制部材31の上流側部分67及び下流側部分68が熱膨張により変形して定着ベルト22の各第2の部分P2を上側(サーモカット29側)に向かって押圧することになる。これに伴って、定着ベルト22の第1の部分P1をサーモカット29に接触させ、サーモカット29を確実に作動させることが可能となり、ヒーター24による定着ベルト22の加熱を確実に停止させることができる。なお、変形抑制部材31の熱膨張率を定着ベルト22の基材層35の熱膨張率よりも大きくするためには、例えば、変形抑制部材31をアルミニウムで形成し、定着ベルト22の基材層35をSUSで形成する。
【0073】
また、他の異なる実施形態では、図7に示されるように、定着ベルト22よりも剛性が高く、且つ、ヒーター24から放射される輻射熱(赤外線)を透過させる材料(例えば、石英ガラス)で変形抑制部材31が形成されると共に、定着ベルト22の第1の部分P1及び各第2の部分P2の内周面と変形抑制部材31が対向していても良い。上記のようにヒーター24から放射される輻射熱を透過させる材料で変形抑制部材31を形成することで、変形抑制部材31を定着ベルト22の第1の部分P1の内周面と対向させても、ヒーター24から定着ベルト22の第1の部分P1に向かう輻射熱(図7の矢印F参照)が変形抑制部材31によって遮断されなくなる。同様に、変形抑制部材31を定着ベルト22の第2の部分P2の内周面と対向させても、ヒーター24から定着ベルト22の第2の部分P2に向かう輻射熱(図7の矢印G参照)が変形抑制部材31によって遮断されなくなる。これに伴って、ヒーター24によって定着ベルト22を効率的に加熱することが可能となる。また、上記のように変形抑制部材31を定着ベルト22の第1の部分P1及び各第2の部分P2の内周面と対向させることで、定着ベルト22の変形を抑制する機能を高めることが可能となる。
【0074】
なお、上記のようにヒーター24から放射される輻射熱を透過させる材料で変形抑制部材31が形成される場合には、図7に示されるように定着ベルト22の第1の部分P1及び各第2の部分P2の内周面と変形抑制部材31が対向していても良いし、定着ベルト22の第1の部分P1のみに変形抑制部材31が対向していても良い。即ち、少なくとも定着ベルト22の第1の部分P1に変形抑制部材31が対向していれば、定着ベルト22の変形を抑制する機能を高めることが可能となる。
【0075】
本実施形態では、ハロゲンヒーターをヒーター24として用いる場合について説明したが、他の異なる実施形態では、セラミックヒーターなどをヒーターとして用いても良い。
【0076】
本実施形態では、プリンター1に本発明の構成を適用する場合について説明したが、他の異なる実施形態では、複写機、ファクシミリ、複合機等の他の画像形成装置に本発明の構成を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 プリンター(画像形成装置)
18 定着装置
22 定着ベルト
23 加圧ローラー(加圧部材)
24 ヒーター(熱源)
27 押圧部材
29 サーモカット(加熱停止装置)
31 変形抑制部材
35 (定着ベルトの)基材層
36 (定着ベルトの)弾性層
37 (定着ベルトの)離型層
39 定着ニップ
A (定着ベルトの)回転軸
P1 (定着ベルトの)第1の部分(ヒーターに最も接近する部分)
P2 (定着ベルトの)第2の部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7