(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222061
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20171023BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20171023BHJP
F04C 29/06 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
F04C18/02 311P
F04C18/02 311B
F04C29/00 B
F04C29/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-242555(P2014-242555)
(22)【出願日】2014年11月28日
(65)【公開番号】特開2016-102487(P2016-102487A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大野 真実
(72)【発明者】
【氏名】鴻村 哲志
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 暁生
(72)【発明者】
【氏名】麻生 伸介
【審査官】
北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0200466(US,A1)
【文献】
特開2012−189043(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/016690(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結された複数のハウジング構成部材を有するハウジングと、
固定側渦巻壁を有し、前記ハウジングに一体化された固定スクロールと、
前記固定スクロールに対して公転運動するとともに可動側渦巻壁を有する可動スクロールと、
前記ハウジングの一部を構成し、かつ、前記固定側渦巻壁を外周側から覆う筒部と、
前記筒部を有するハウジング構成部材とは異なるハウジング構成部材に設けられ、取付対象と連結する取付脚と、を備え、
前記筒部は、前記ハウジングの外面を構成する外周面を有し、
前記取付脚は、前記筒部の軸方向に対して径方向外側まで延在し、前記筒部の外周面に対して間隔を空けて対向しており、
前記取付脚は、互いに対向する壁部であって取付ボルトが挿通される貫通孔が形成された第1壁部及び第2壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部を繋ぐ第3壁部と、を有し、
前記筒部の外周面と前記取付脚との間には、前記第1壁部、前記第2壁部及び前記第3壁部によって囲まれ且つ前記筒部に向けて開口した領域を含む空間が形成されているスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記取付脚は、前記筒部を介して、前記固定側渦巻壁の外周側の面に対向する請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロールと可動スクロールを有するスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール型圧縮機としては、例えば、特許文献1に記載されたものが挙げられる。特許文献1に記載のスクロール型圧縮機は、ハウジング内に固定された固定スクロールと、この固定スクロールに対して公転運動する可動スクロールとを有する。固定スクロールは、固定側基板と、固定側基板から立設された固定側渦巻壁とを有するとともに、可動スクロールは、可動側基板と、可動側基板から立設された可動側渦巻壁とを有する。そして、固定側渦巻壁と可動側渦巻壁とが互いに噛み合わされることで、可動スクロールの公転運動に基づいて容積減少して冷媒を圧縮する圧縮室が区画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−327436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、可動スクロールが公転する際には、可動スクロールの公転に伴う振動がハウジングに伝わり、ハウジングの表面から放射音が生じる。この放射音がスクロール型圧縮機の騒音となる。
【0005】
本発明の目的は、騒音を低減させることができるスクロール型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するスクロール型圧縮機は、連結された複数のハウジング構成部材を有するハウジングと、固定側渦巻壁を有し、前記ハウジングに一体化された固定スクロールと、前記固定スクロールに対して公転運動するとともに可動側渦巻壁を有する可動スクロールと、前記ハウジングの一部を構成し、かつ、前記固定側渦巻壁を外周側から覆う筒部と、前記筒部を有するハウジング構成部材とは異なるハウジング構成部材に設けられ
、取付対象
と連結する取付脚と、を備え、
前記筒部は、前記ハウジングの外面を構成する外周面を有し、前記取付脚は
、前記筒部の軸方向に対して径方向外側まで延在し、前記筒部の外周面に対して間隔を空けて対向
しており、前記取付脚は、互いに対向する壁部であって取付ボルトが挿通される貫通孔が形成された第1壁部及び第2壁部と、前記第1壁部及び前記第2壁部を繋ぐ第3壁部と、を有し、前記筒部の外周面と前記取付脚との間には、前記第1壁部、前記第2壁部及び前記第3壁部によって囲まれ且つ前記筒部に向けて開口した領域を含む空間が形成されている。
【0007】
これによれば、可動スクロールが公転運動すると、可動スクロールの公転運動に伴う振動がハウジングに伝わり、ハウジングの外面(表面)からはハウジングの外部に放射音が伝搬する。特に、
固定側渦巻壁を外周側から覆っている筒部の振動は大きく、筒部の外周面から生じる放射音は大きくなる。取付脚は、筒部を有するハウジング構成部材とは異なるハウジング構成部材に設けられているため、取付脚には可動スクロールの公転運動に伴う振動が伝わりにくい。更に、取付脚は、
ハウジングの外面を構成する筒部の外周面に対して間隔を空けて対向しているため、可動スクロールの公転運動に伴う振動は筒部から取付脚に伝わりにくく、取付脚自体からの放射音は生じない、あるいは、生じたとしても筒部に生じる放射音に比べて軽微である。また、筒部の外周面から外部に伝搬した放射音は、取付脚に伝搬する前に空間で減衰し、更に、取付脚を伝搬することで減衰する。このため、取付脚は、外部に伝わる騒音を小さくする静音壁として機能し、騒音を低減させることができる。
【0008】
上記スクロール型圧縮機について、前記取付脚は、
前記筒部を介して、前記固定側渦巻壁の外周側の面に対向することが好ましい。
これによれば、固定側渦巻壁と可動側渦巻壁との接触による振動によって生じる放射音を適切に減衰させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、騒音を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態のスクロール型圧縮機を示す断面図。
【
図2】実施形態のセンターハウジングとフロントハウジングとの取付態様を拡大して示す断面図。
【
図3】実施形態のスクロール型圧縮機を示す
図1の3−3線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、スクロール型圧縮機の一実施形態について説明する。
図1に示すように、スクロール型圧縮機10のハウジング11は、有底円筒状であるセンターハウジング(シェル)12の一端に有蓋円筒状のフロントハウジング21が連結されるとともに、センターハウジング12の他端に有蓋円筒状のリヤハウジング60が連結されて構成されている。センターハウジング12、フロントハウジング21、及びリヤハウジング60のそれぞれは、ハウジング11を構成するハウジング構成部材である。
【0012】
センターハウジング12は、フロントハウジング21側に開口しており、その内部に固定スクロール13が一体形成されている。固定スクロール13は、センターハウジング12の底壁を形成する円板状の固定側基板13aと、固定側基板13aからフロントハウジング21に向けて立設された固定側渦巻壁13bとから構成されている。固定側基板13aの外周部からは、固定側渦巻壁13bの立設方向と同一方向に向けて筒部12bが立設されている。筒部12bは、固定側渦巻壁13bを外周側から覆っている。筒部12bは、ハウジング11の一部を構成している。詳細には、筒部12bは、ハウジング11の周壁のうち、フロントハウジング21とリヤハウジング60の間に位置した部分を構成している。
【0013】
図2及び
図3に示すように、センターハウジング12の外周面におけるフロントハウジング21側の端部には、ハウジング11の径方向に沿ってセンターハウジング12の外周面から離れる方向に突出する第1フランジ14が設けられている。
【0014】
図1及び
図4に示すように、フロントハウジング21の外周面におけるセンターハウジング12側の端部には、ハウジング11の径方向に沿ってフロントハウジング21の外周面から離れる方向に突出する第2フランジ22及び取付脚25が設けられている。
【0015】
取付脚25は、フロントハウジング21の径方向に沿ってフロントハウジング21の外周面から離れる方向に延びる支持部26に支持されている。取付脚25は、フロントハウジング21の軸方向に沿って、フロントハウジング21から離れるように立設している。取付脚25は、フロントハウジング21の軸方向に沿ってリヤハウジング60から見てU字状である。取付脚25は、U字のうち互いに対向する部位を形成する第1壁部29及び第2壁部30と、それらを繋ぐ部位を形成する第3壁部31とを有する。取付脚25において、第1壁部29及び第2壁部30は、第3壁部31からフロントハウジング21の軸線に向けて延びる。第1壁部29、第2壁部30及び第3壁部31に囲まれる領域32内には、第3壁部31に沿って第4壁部33が立設している。第4壁部33は、第3壁部31に比べて、立設方向の寸法が短く、これにより、領域32内には、段差が形成されている。
【0016】
第1壁部29及び第2壁部30には、互いに対向する方向に貫通する貫通孔34が設けられている。貫通孔34は、第4壁部33と対向しない位置に設けられている。この貫通孔34には、図示しない取付ボルトが挿通され、この取付ボルトによって取付脚25が取付対象(例えば、車両のエンジンなど)に連結され、これにより取付対象とハウジング11が連結される。
【0017】
図1及び
図3に示すように、センターハウジング12と、フロントハウジング21とは、第1フランジ14と第2フランジ22、及び、第1フランジ14と支持部26とをボルト41及びピン(平行ピン)42によって一体に固定することで連結されている。
【0018】
取付脚25は、フロントハウジング21からセンターハウジング12の筒部12bの外周面と対向する位置まで延在している。本実施形態において、取付脚25は、筒部12bを介して、固定側渦巻壁13bの外周側の面(最外周面)に対向している。取付脚25は、筒部12bの外周面に接触せず、筒部12bの外周面に対して間隔を空けて対向している。すなわち、取付脚25と筒部12bの外周面との間には空間35が存在している。本実施形態において、取付脚25における筒部12bとの対向面の全面が筒部12bと接触していない。
【0019】
リヤハウジング60は、センターハウジング12側の端部とは反対側の端部の端面から挿通された固定ボルトB1が、センターハウジング12に螺合されることでセンターハウジング12と連結されている。
【0020】
図1に示すように、センターハウジング12内には、可動スクロール51が収容されている。可動スクロール51は、円板状をなす可動側基板51aと、可動側基板51aから固定側基板13aへ向かって立設される可動側渦巻壁51bとから構成されている。固定スクロール13と可動スクロール51とは対向配置されている。固定側渦巻壁13bと可動側渦巻壁51bとは互いに噛み合わされている。固定側渦巻壁13bの先端面は可動側基板51aに接触しているとともに、可動側渦巻壁51bの先端面は固定側基板13aに接触している。そして、固定側基板13a及び固定側渦巻壁13bと、可動側基板51a及び可動側渦巻壁51bとによって圧縮室15が区画されている。本実施形態において、固定スクロール13及び可動スクロール51によって、冷媒ガスを圧縮するスクロール型の圧縮部Cが構成されている。圧縮部Cは、筒部12b内に位置している。
【0021】
フロントハウジング21には、回転軸52の大径部52aがラジアルベアリング53を介して回転可能に支持されている。回転軸52の小径部52bの先端には、動力伝達機構PTを介して外部駆動源としての車両のエンジンEが作動連結されている。回転軸52の大径部52aにおいて、可動スクロール51側の端面52cには、回転軸52の回転軸線に対して偏心した位置から可動スクロール51に向けて突出する偏心軸54が一体形成されている。
【0022】
偏心軸54にはバランスウエイト55及びブッシュ56が相対回転可能に支持されている。ブッシュ56には、可動スクロール51が固定スクロール13と対向するようにベアリング57を介して相対回転可能に支持されている。
【0023】
固定側基板13aには、吐出ポート13cが形成されるとともに、吐出ポート13cは圧縮室15に連通している。この吐出ポート13cは、固定側基板13aに固定された吐出弁58によって開閉されるとともに、吐出弁58は固定側基板13aに固定されたリテーナ59によって開度が規制される。
【0024】
吐出ポート13cは、センターハウジング12とリヤハウジング60によって区画された吐出室61に連通している。センターハウジング12の外周壁と可動スクロール51の可動側渦巻壁51bの最外周部との間には、圧縮部Cの吸入側となる吸入室62が区画形成されている。すなわち、ハウジング11内では、吸入室62は、圧縮部Cの外周側に配置されている。また、センターハウジング12の外周壁には、吸入室62に連通する吸入口12aが形成されている。
【0025】
可動側基板51aとフロントハウジング21との間には、自転阻止機構63が配設されている。自転阻止機構63は、可動側基板51aにおける可動側渦巻壁51bとは反対側の端面の外周部に複数設けられた円孔状の凹部51cと、フロントハウジング21における可動側基板51aと対向する側の端面の外周部に突設された自転阻止ピン64と、各凹部51cに嵌着されたリング部材65とから構成されている。各リング部材65内には自転阻止ピン64が挿入されている。そして、回転軸52及び偏心軸54の回転に伴い、可動スクロール51が公転し、吸入口12aから吸入室62に吸入された冷媒は、固定側基板13aと可動側基板51aとの間へ流入する。可動スクロール51の公転に伴い、自転阻止ピン64の周面がリング部材65の内周面に沿って摺接し、可動スクロール51は、自転することなく公転する。圧縮室15は、可動スクロール51の公転に伴って容積減少しつつ両スクロール13,51の渦巻壁13b,51bの内終端部間に向けて収束していく。圧縮室15の容積減少によって圧縮された冷媒ガスは、吐出ポート13cから吐出室61へ吐出される。
【0026】
次に、本実施形態のスクロール型圧縮機10の作用について説明する。
可動スクロール51が公転運動すると、固定スクロール13との接触などに伴い、ハウジング11に振動が伝わる。筒部12bの内側には、固定スクロール13及び可動スクロール51が収容されている。すなわち、筒部12bは、可動スクロール51の公転軌跡の外側に位置しているため、可動スクロール51の公転運動に伴う振動は、他の部分に比べて、筒部12bに多く伝わる。振動が伝わることで、筒部12bの外周面からは放射音が生じる。筒部12bの外周面から生じた放射音は、空気中を放射状に伝搬(空気伝搬音)していき、この放射音が騒音となる。このとき、一部の放射音は、筒部12bと取付脚25との間の空間35を伝搬する。筒部12bと取付脚25との間の空間35を伝搬した放射音の一部は、取付脚25の表面で反射され、一部は振動として取付脚25を伝搬する(固体伝搬音)。取付脚25を伝搬する放射音は、取付脚25を伝搬していくことで減衰していく。
【0027】
したがって、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)ハウジング11の外面のうち、他の部分に比べて大きな放射音が生じる筒部12bの外周面の一部と間隔を空けて対向するようにフロントハウジング21に設けられた取付脚25を配置している。筒部12bを有するセンターハウジング12とは異なるフロントハウジング21に取付脚25を設けることで、筒部12bから取付脚25に振動が伝わりにくい。更に、筒部12bの外周面と間隔を空けて取付脚25を設けることで、筒部12bの振動が取付脚25に伝わりにくく、取付脚25自身からの放射音を抑制することができる。また、筒部12bの外周面と取付脚25との間の空間35及び取付脚25を伝搬した放射音は、空間35及び取付脚25で減衰されてからスクロール型圧縮機10の外部に伝搬されるため、取付脚25を設けない場合に比べて、騒音を低減させることができる。
【0028】
(2)取付脚25は、固定側渦巻壁13bの外周側の面と対向している。固定側渦巻壁13bと可動側渦巻壁51bとの接触によって生じる放射音は、可動スクロール51の公転方向の外側に向けて伝搬していく。このため、取付脚25を固定側渦巻壁13bの外周側の面と対向させることで、固定側渦巻壁13bと可動側渦巻壁51bとの接触によって生じる放射音を適切に減衰させることができる。
【0029】
なお、実施形態は以下のように変更してもよい。
○取付脚25は、平板状など実施形態とは異なる形状であってもよい。すなわち、取付脚25の形状は、スクロール型圧縮機10を取付対象に取り付けることができればどのような構造でもよく、実施形態の形状に限られない。
【0030】
○取付脚25は、筒部12bの外周面と対向する位置にまで延在されていればよく、固定側渦巻壁13bと対向していなくてもよい。
○取付脚25は、リヤハウジング60に設けられていてもよい。
【0031】
○取付脚25の一部は、筒部12bと接触してもよい。この場合であっても、取付脚25における筒部12bとの対向面の全面が取付脚25に接触する場合に比べて、取付脚25に伝わる振動を抑制することができ、騒音を低減させることができる。
【0032】
○センターハウジング12とフロントハウジング21とは、どのような態様で連結されてもよい。例えば、フロントハウジング21のセンターハウジング12側の端面とは反対側の端面から挿通されたボルトをセンターハウジング12に螺合することでセンターハウジング12とフロントハウジング21を連結してもよい。
【0033】
○取付脚25の個数は、適宜変更してもよい。
○電動モータの駆動力によって回転軸52を回転駆動させるようにしてもよい。
○各ハウジング構成部材は、筒状であればよく、四角筒状などでもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…スクロール型圧縮機、11…ハウジング、12…センターハウジング、12b…筒部、13…固定スクロール、13b…固定側渦巻壁、21…フロントハウジング、51…可動スクロール、51b…可動側渦巻壁。