特許第6222076号(P6222076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6222076-吸収性物品用のホルダーパンツ 図000002
  • 特許6222076-吸収性物品用のホルダーパンツ 図000003
  • 特許6222076-吸収性物品用のホルダーパンツ 図000004
  • 特許6222076-吸収性物品用のホルダーパンツ 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222076
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】吸収性物品用のホルダーパンツ
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/72 20060101AFI20171023BHJP
   A41B 9/12 20060101ALI20171023BHJP
   A41B 9/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   A61F13/72
   A41B9/12 E
   A41B9/02 Q
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-264255(P2014-264255)
(22)【出願日】2014年12月26日
(62)【分割の表示】特願2014-60(P2014-60)の分割
【原出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-128587(P2015-128587A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】八倉巻 恭子
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3111541(JP,U)
【文献】 特開平07−305202(JP,A)
【文献】 特開平10−259504(JP,A)
【文献】 特表2002−509584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/15 − 13/84
A61L 15/16 − 15/64
A41B 9/02、9/04、9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の股下に吸収性物品を保持するためのホルダーパンツであって,
前記着用者の鼠径部側を覆う前身頃(1)と,
前記着用者の臀部側を覆う後身頃(2)と,
前記着用者の股下において前記前身頃(1)と前記後身頃(2)を繋ぐ股下部(3)と,
前記着用者の腹周りを周回するように覆うウエスト部(4)と,を有し,
前記後身頃(2)は,
伸長性を有するプレーン部分と,
前記プレーン部分よりも上下方向の伸長性が低いホールド部分と,を有し,
前記ホールド部分は,
前記股下部(3)から前記ウエスト部(4)の左右両脇側に至るように形成された帯状の下側臀部領域(21)と,
前記股下部(3)から前記ウエスト部(4)の背側中央部分に至るように形成された帯状の臀裂領域(22)と,を含み,
前記下側臀部領域(21)と前記臀裂領域(22)は,前記股下部(3)近傍において合流しており,
前記プレーン部分は,
前記下側臀部領域(21)の内側の領域が前記臀裂領域(22)によって左右に区切られることによって形成された左右のヒップ領域(23)と,
前記下側臀部領域(21)の外側の領域であるレッグ領域(24)と,を有する
ホルダーパンツ。
【請求項2】
前記プレーン部分は,さらに,
前記股下部(3)近傍における前記下側臀部領域(21)と前記臀裂領域(22)の合流地点に形成された尾骨領域(25)と,を有する
請求項1に記載のホルダーパンツ。
【請求項3】
前記前身頃(1)は,
伸長性を有するプレーン部分と,
前記プレーン部分よりも上下方向の伸張性が低いホールド部分と,を有し,
前記ホールド部分は,
前記着用者の鼠径部のラインに沿って,前記股下部(3)から前記ウエスト部(4)の左右両脇側に至るように形成された帯状の鼠径領域(11)を有する
請求項1又は請求項2に記載のホルダーパンツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,吸収性物品を着用者の股下に保持するためのホルダーパンツに関するものである。具体的に説明すると,本発明のホルダーパンツは布製の下着であり,着用者が吸収性物品の上から着用するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,使い捨ておむつや吸収パッド(尿パッド)などの吸収性物品が知られている。吸収性物品は,一般的に,液体を吸収し保持するための吸収体を有している。吸収性物品は,着用者の股下に装着されるものであり,着用者が排泄した尿などが漏れ出さないように吸収する機能を持つ。
【0003】
また,従来から,吸収性物品を着用者の股下に保持するためのおむつホルダーが知られている(例えば,特許文献1)。従来のおむつホルダーは,例えば,前身頃と後身頃とが分離するように展開することができるようになっている。従来のおむつホルダーは,例えば,着用者の股下に吸収性物品をあてがった状態で,その吸収性物品をおむつホルダーで覆い,止着テープなどを利用しておむつホルダーを組み立てることで装着させるようにしている。このように,おむつホルダーで吸収性物品を覆うことで,着用者の身体と吸収性物品のフィット性を高めて,尿漏れを防止することができる。
【0004】
また,従来から,おむつホルダーではないが,通常の下着として,着用者の身体とのフィット性を高めたものも知られている(特許文献1,特許文献2)。
例えば,特許文献2には,下腹部を広い範囲に亘って引き締めて腹部のシルエットを美しく補整することができるようにした下半身用衣類が開示されている。特許文献2の下半身用衣類は,前身頃側に,前面中央下部から腹部両側を経て両側ウエスト部まで斜め上に帯状に伸びる略V形帯状領域が形成されている。この略V形帯状領域は,他の領域よりも腹部への引き締め力が大きく設定されている。
また,特許文献3には,骨盤廻りの筋肉に働きかけて姿勢を良くすることができ,しかも取扱が簡便で違和感なく着用することのできるガードルが開示されている。特許文献3のガードルは,後身頃に,着用状態で殿裂の上方から左右の臀部上方を通って左右の大転子近傍に延びる緊締部が形成されている。この緊締部は,緊締部が延在する方向の緊締力が,延在する方向と直交する方向の緊締力より小さくされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−220224号公報
【特許文献2】特開2009−144302号公報
【特許文献3】特開2004−011055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,近年では少子高齢化に伴って,大人用の吸収性物品の需要が伸びつつある。ここで,例えば,介護が必要であり自分では吸収性物品を着用することのできない高齢者にとっては,上記特許文献1に示されたようなおむつホルダーを利用することで,介護を行う者が,その高齢者に対して吸収性物品を着用させ易くなるといえる。
【0007】
しかし,吸収性物品の着用者の中には,自分で吸収性物品を装着することでき,介護を必要としていない者も多く存在している。また,介護が不要な着用者は,外出をするときなどに,吸収性物品を履いていることがなるべく目立たないものを望んでいる。これに対し,上記の特許文献1に示された従来のおむつホルダーは,その構造が複雑であるため,介護が不要な者にとっては却って自分では装着しづらいものとなっている。また,従来のおむつホルダーは,その上からズボンやスラックスの被覆を履くと,おむつホルダーの形状が被覆に表れてしまうため,おむつホルダーを装着していることが目立つものとなっていた。従って,従来のおむつホルダーは,吸収性物品の着用者により嫌厭される傾向にあった。
【0008】
ただし,介護を必要しない者であっても,外出時などに,吸収性物品がずれ落ちたりすることを防止する必要がある。このため,一般的な着用者は,吸収性物品の上に直接ズボンやスラックスなどの被覆を履くのではなく,吸収性物品の上に下着を一枚履いた状態で,その上に被覆を履くこととしている。ここで,吸収性物品の着用者には,一般的なブリーフ型や,ボクサー型などの下着を履く者も多いが,このような一般的な下着では,身体と吸収性物品のフィット性が悪く,効果的に吸収性物品がずれ落ちることを防止することはできない。
【0009】
そこで,例えば,特許文献2や特許文献3に示されたフィット性の高い下着を身につけることも考えられる。しかしながら,特許文献2や特許文献3に開示された下着は,腹部を引き締めてのシルエットを美しく補整するためのものであったり,骨盤廻りの筋肉に働きかけて姿勢を良くするためのものである。このため,特許文献2や特許文献3の下着は,着用者の肌とのフィット性が高いものの,吸収性物品を着用する高齢者にとって腹部や腰部を圧迫し過ぎてしまうという問題がある。特に,特許文献2や特許文献3の下着は,肌の上に直接装着することを意図したものであって,おむつホルダーのように,吸収性物品の上に装着することを前提として設計されていない。このため,特許文献2や特許文献3の下着は,吸収性物品の上から装着したとしても,吸収性物品がずれ落ちることを効果的に防止することができるものではなく,また着用者にとって装着感が優れないものであった。
【0010】
このため,現在では,吸収性物品の上から簡単に装着することのできるパンツ型のおむつホルダー(ホルダーパンツ)であって,身体と吸収性物品のフィット性を高めつつ,吸収性物品がずれ落ちることを効果的に防止することのできるものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで,本発明の発明者は,上記の従来発明の問題点を解決する手段について鋭意検討した結果,ホルダーパンツの後身頃側に,着用者の臀部周りを囲うようにして,上下方向の伸長性が低い領域を形成するという知見を得た。すなわち,ホルダーパンツにおける着用者の臀部周りに,上下方向の伸長性が低い領域を形成することで,吸収性物品が下方にずれ落ちることを効果的に防止しつつ,吸収性物品と身体のフィット性を高めることができる。そして,本発明者は,上記知見に基づけば,従来技術の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。
具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
【0012】
本発明は,着用者の股下に吸収性物品を保持するためのホルダーパンツに関する。ホルダーパンツとは,パンツ型のおむつホルダーである。ホルダーパンツは,ブリーフ型であってもよいし,ボクサー型であってもよい。
ホルダーパンツは,着用者の鼠径部側を覆う前身頃1と,着用者の臀部側を覆う後身頃2と,着用者の股下において前身頃1と後身頃2を繋ぐ股下部3と,着用者の腹周りを周回するように覆うウエスト部4と,を有する。
後身頃2は,プレーン部分と,ホールド部分とを有している。プレーン部分は,通常の下着と同様に,一定の伸長性を有する部分である。他方,ホールド部分は,プレーン部分よりも上下方向の伸長性が低くなっている部分である。なお,「上下方向の伸長性が低い」とは,要するに,上下方向に引張したときに伸び難いことを意味する。
ここで,後身頃側のホールド部分は,下側臀部領域21と,臀裂領域22とを含む。
下側臀部領域21は,着用者の臀部の下側(臀溝)のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の左右両脇側に至るように形成された略U形の帯状の領域である。
臀裂領域22は,着用者の臀部の裂部のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の背側中央部分に至るように形成された略I形の帯状の領域である。
【0013】
上記構成のように,下側臀部領域21における上下方向の伸長性が低いものであることにより,ホールド力が強くなり,着用者の臀部周りに吸収性物品を効果的に保持しておくことができる。さらに,臀裂領域22における上下方向の伸長性が低いものであることにより,着用者の臀部の裂部に沿って吸収性物品をしっかりと保持できるため,吸収性物品が下方にずれ落ちることを防止できる。
【0014】
本発明のホルダーパンツにおいて,下側臀部領域21と臀裂領域22は,股下部3近傍において合流し,境界なく形成されていることが好ましい。
【0015】
上記構成のように,下側臀部領域21と臀裂領域22とが股下部3近傍で合流していることで,特にこの合流地点におけるホールド力が強くなり,吸収性物品のずれ落ちることをより効果的に防止できる。
【0016】
本発明のホルダーパンツにおいて,プレーン部分(伸長性の高い部分)は,ヒップ領域23とレッグ領域24を有することが好ましい。ヒップ領域23は,下側臀部領域21の内側の領域が臀裂領域22によって左右に区切られることによって形成された左右の領域である。レッグ領域24は,下側臀部領域21の外側の領域である。
【0017】
上記構成のように,ヒップ領域23とレッグ領域24において伸長性を高めておくことで,ホルダーパンツ全体のフィット性が高まり,吸収性物品を着用者の肌に密着させることができる。
【0018】
本発明のホルダーパンツにおいて,プレーン部分(伸長性の高い部分)は,さらに,股下部3近傍における下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点に形成された尾骨領域25と,を有することが好ましい。
【0019】
上記構成のように,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点,すなわち着用者の尾骨に相当する位置に,伸長性の高い尾骨領域25を部分的に形成しておくことで,吸収性物品のホールド力とフィット性を両立させることができる。すなわち,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点は,吸収性物品のずれ落ちを防止するための要所であるとともに,吸収性物品を着用者の肌にフィットさせるための要所でもある。このため,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点においては,伸縮性が低くホールド力の高いホールド部分に周囲を囲まれるように,伸縮性が高くフィット性の高いプレーン部分を部分的に形成しておくことで,吸収性物品のホールド力とフィット性を両立させている。
【0020】
本発明のホルダーパンツにおいて,前身頃1は,後身頃2と同様に,伸長性を有するプレーン部分と,このプレーン部分よりも上下方向の伸張性が低いホールド部分と,を有することが好ましい。
ここで,ホールド部分は,着用者の鼠径部のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の左右両脇側に至るように形成された帯状の鼠径領域11を有することが好ましい。
【0021】
上記構成のように,ホルダーパンツの前身頃1においても,略V形の鼠径領域11を形成し,この鼠径領域11における上下方向の伸長性を低くすることで,さらに効果的に吸収性物品がずれ落ちることを防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のホルダーパンツは,身体と吸収性物品のフィット性を高めつつ,吸収性物品がずれ落ちることを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は,着用者が吸収性物品とホルダーパンツを装着する様子を示した概念図である。
図2図2は,本発明のホルダーパンツを前身頃側から見た正面図である。
図3図3は,本発明のホルダーパンツを後身頃から見た背面図である。
図4図4は,プレーン部分とホルダー部分の編み組織の一例を示した記号図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
なお,本願明細書において,「A〜B」とは,A以上B以下であることを意味する。
【0025】
図1は,本発明に係るホルダーパンツの使い方の例を示した模式図である。図1に示されるように,本発明のホルダーパンツ100は,着用者の股下に,吸収パッド(尿パッド)などの吸収性物品200を保持するために着用される布製の下着である。すなわち,図1に示されるように,着用者は,まず自分の股下に吸収性物品200をあてがい,この吸収性物品200の上からホルダーパンツ100を履く。これにより,吸収性物品200が,着用者の股下に密着するようになる。このように,本発明のホルダーパンツ100は,吸収性物品200を着用者の股下に保持する用途において,好適に用いることができる。なお,図1では,吸収性物品200の例として吸収パッドを挙げているが,吸収性物品200は,その他の使い捨ておむつ(パンツ型及びテープ型)や,生理用ナプキン等であってもよい。
【0026】
図1に示されるように,本発明のホルダーパンツ100は,基本的に,上下方向と左右方向の両方向に伸縮可能な布製の下着である。ここにいう「布製」とは,一部又は全部が,繊維を編み込むことにより形成された物品であることを意味する。例えば,ホルダーパンツ100の布材料を構成する繊維としては,ポリオレフィン,ポリエステル,ポリアミド,又はポリウレタン等の合成繊維や,パルプ,綿,又は絹等の天然繊維を用いることができる。本発明のホルダーパンツ100は,これらの繊維を編み込むことで,着用者が容易に装着できるように上下左右方向に一定の伸縮性が付与されている。
【0027】
図2は,ホルダーパンツ100を前身頃側から見た正面図である。また,図3は,ホルダーパンツ100を後身頃側から見た背面図である。
図2及び図3に示された実施形態において,本発明のホルダーパンツ100は,いわゆるボクサーパンツ型に形成されている。ボクサーパンツ型とは,図2及び図3に示されるように,着用者の鼠径部及び臀部を覆う布地に加えて,着用者の脚周り(特に大腿筋周り)を覆う布地を有するタイプである。
【0028】
ただし,本発明のホルダーパンツ100は,図2等に示されたボクサーパンツ型に限定されず,例えばブリーフパンツ型であってもよい。ブリーフパンツ型は,図2等に示したボクサーパンツ型とは異なり,着用者の鼠径部及び臀部を覆う布地を有するものの,着用者の脚周り(特に大腿筋周り)を覆う布地は有しないタイプである。
【0029】
図2及び図3に示されるように,ホルダーパンツ100は,前身頃1と,後身頃2と,股下部3と,ウエスト部4と,レッグ部5とを含む。前身頃1は,着用者の鼠径部側を覆う部分である。後身頃2は,着用者の臀部側を覆う部分である。股下部3は,着用者の股下を覆う部分である。ウエスト部4は,着用者の腹周りを周回するように覆う部分である。レッグ部5は,着用者の左右の両脚部の太腿の付け根辺り(特に大腿筋周り)を覆う部分である。
【0030】
図2及び図3に示されるように,ホルダーパンツ100は,前身頃1と後身頃2が周方向(胴回り方向)に繋がっている。また,着用者の股下に相当する位置において,股下部3は,前身頃1と後身頃2を連結している。また,前身頃1と後身頃2の上縁には,環状のウエスト部4が形成されている。ウエスト部4は,ホルダーパンツ100のウエスト開口部4Aを画定している。さらに,前身頃1と後身頃2の上縁には,左右のそれぞれに,環状のレッグ部5が形成されている。一対のレッグ部5は,左右のレッグ開口部5Aを画定する。このため,着用者は,ウエスト開口部4Aに両足を挿入し,左右のレッグ開口部5Aのそれぞれから,左右の両脚部を出すことで,ホルダーパンツ100を装着することができるようになっている。
【0031】
まず,ホルダーパンツ100の前身頃1及び後身頃2の構成について説明する。
前身頃1及び後身頃2は,その領域を,プレーン部分とホールド部分に分けることができる。図1及び図2において,「プレーン部分」は白色の無地で示した領域であり,「ホールド部分」は縦縞の縞模様で示した領域である。「プレーン部分」とは,通常の下着(パンツ)と同様に,上下方向及び左右方向に一定の伸長性を有する領域である。他方,「ホールド部分」とは,プレーン部分と比較して,上下方向の伸長性が低くなっている領域である。要するに,プレーン部分(白色無地)とホールド部分(縦縞模様)を比較すると,ホールド部分(縦縞模様)の方が上下方向に伸びにくくなっている。このため,前身頃1と後身頃2において,上下方向の伸長性は,プレーン部分>ホールド部分となっている。
なお,左右方向の伸長性に関していえば,プレーン部分とホールド部分は同一の伸長性であってもよいし,プレーン部分の方が高くなっていてもよいし,ホールド部分の方が高くなっていてもよい。
【0032】
ここで,本願明細書において,「伸長性」とは,「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」に準拠して測定される伸び率(伸長率)を意味する。JISで定められた伸び率試験にはA法からD法まで試験方法あるが,本発明の伸び率(伸長性)は,一般的によく用いられるB法(織物の定荷重法)を用いて測定すればよい。
具体的に,JIS L 1096−B法では,以下の条件で伸び率が測定される。
すなわち,幅50mm長さ300mmの試験片を縦方向及び横方向に3枚ずつ調整し,全幅をつかむように引張試験機又はこれと同等の性能を持つ装置にセットした後,200mm間隔(L0)に印を付け14.7Nの荷重を加える。引張試験機は,例えば島津製作所社製のものを用いればよい。そして,1分間保持後の印間の長さ(L1)を測定し,次式によって伸び率(%)を求める。
伸び率(%) = {(L1−L0)/L0}×100
【0033】
例えば,プレーン部分の伸び率を100%としたときに,ホールド部分の伸び率は,5%〜95%であればよく,10%〜90%又は15%〜85%であることが好ましく,10%〜60%又は15%〜50%であることが好ましい。さらに,ホールド部分の伸び率は,プレーン部分の伸び率の半分以下としてもよい。例えば,プレーン部分の伸び率は,プレーン部分の伸び率に対し,5%〜50%,又は10%〜40%であってもよい。
【0034】
このように,本発明のホルダーパンツ100では,特定のホールド部分において,上下方向の伸び率を低下させる,すなわち上下方向に伸びにくくすることにより,ホルダーパンツ100によって保持されている吸収性物品がずれ落ちることを防止している。
つまり,通常の下着であれば,布地の伸長性を一定以上の値として,着用者の肌との密着性を高くしている。しかし,本発明のホルダーパンツ100のように,吸収性物品を着用者の肌に密着させるために用いられる物品の場合,パンツ全体の伸長性を高くしてしまうと,布地がいたずらに伸びてしまい,長時間着用し続けると吸収性物品がずれ落ちてくるという不具合があった。吸収性物品のずれ落ちを防止することは,ホルダーパンツの最も重要な役割であるにも関わらず,従来の下着等は密着性を高めることをばかりを目的としており,吸収性物品のずれ落ちを十分に防止することができなかった。このため,本発明のホルダーパンツ100では,特定の部分(ホールド部分)において上下方向の伸長性をあえて低下させて,密着性を多少犠牲にしつつも,吸収性物品のずれ落ちを効果的に防止することとしている。ただし,本発明のホルダーパンツは,ホールド部分以外のプレーン部分においては,通常の伸長性を有しているため,着用者の肌との密着性も十分に担保されている。
【0035】
なお,プレーン部分とホールド部分の伸長応力(伸長した状態にあるときの応力)は,等しいものであってもよいし,ホールド部分の方が弱いものであってもよい。特に,伸長応力は,プレーン部分のほうが強く,ホールド部分のほうが弱いことが好ましい。プレーン部分の伸長性と伸長応力を高くすることにより,ホルダーパンツ100の密着性を高めることができる。他方,ホールド部分の伸長応力を高くし過ぎると,ホルダーパンツの締付け力が強くなり装着感が損なわれる。ただし,ホールド部分の伸長応力を弱くしても,伸長性を低くしておくことで,吸収性物品のずれ落ちを効果的に防止することができる。
【0036】
続いて,プレーン部分とホールド部分についてより具体的に説明する
まず,前身頃1について説明する。図2に示されるように,前身頃1のホールド部分(縦縞模様)として,鼠径領域11が存在している。鼠径領域11は,着用者の鼠径部のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の左右両脇側に至るように形成された帯状の領域である。鼠径領域11は,左右のそれぞれ一本ずつ形成されている。図2に示された例において,左右の鼠径11は,股下部3を挟んで分離されている。ただし,左右の鼠径11は,股下部3近傍で繋がって略V形をなすものであってもよい。また,図2に示されるように,鼠径領域11は,着用者の鼠径部のラインに沿って,緩やかにカーブしている。さらに,鼠径領域11は,股下部3側からウエスト部4側に向かうにつれて,徐々に幅広となっている。
【0037】
このように,ホルダーパンツ100の前身頃1において,略V形の鼠径領域11を形成し,この鼠径領域11における上下方向の伸長性を低くすることで,前身頃側のホールドが向上し,吸収性物品がずれ落ちることを効果的に防止できるようになる。つまり,この鼠径領域11において,上下方向の伸長性を高くすると,ホルダーパンツ100と着用者の肌の密着性は高まるものの,鼠径領域11が伸びやすくなり,例えば着用者が脚の付け根を動かして歩いているときなどに,吸収性物品のズレが生じる。このため,鼠径領域11の伸長性を高くすることは好ましいものではなく,本発明のように,鼠径領域11の伸長性を低くすることが好ましいといえる。
【0038】
他方,図2に示されるように,前身頃1のプレーン部分(白色無地)として,中央領域12とレッグ領域13が存在している。中央領域12は,左右の鼠径領域11の内側に位置する領域である。また,レッグ領域13は,左右の鼠径領域11の外側に位置する領域である。図1の模式図を参照すれば理解できるように,中央領域12は,直接的に,吸収性物品200を着用者の股下に押し当てる領域となる。このため,本発明では,中央領域12においては,伸長性を下げずに一定以上の伸長性を維持し,着用者の股下に吸収性物品200が密着するようにしている。また,レッグ領域13は,着用者の太腿周りを締め付ける領域となる。このため,本発明では,レッグ領域13における伸長性を一定に維持することで,ホルダーパンツ100の装着感を良好なものに維持している。
【0039】
次に,後身頃2について説明する。図3に示されるように,後身頃2のホールド部分(縦縞模様)として,下側臀部領域21と臀裂領域22とが存在している。下側臀部領域21は,着用者の臀部の下側(臀溝)のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の左右両脇側に至るように形成された略U形の帯状の領域である。また,臀裂領域22は,着用者の臀裂のラインに沿って,股下部3からウエスト部4の背側中央部分に至るように形成された略I形の帯状の領域である。図3に示されるように,下側臀部領域21と臀裂領域22は,股下部3近傍の領域において合流して一つに繋がっていることが好ましい。このため,下側臀部領域21と臀裂領域22を合わせた領域を,略W形の領域と捉えることもできる。また,臀裂領域22は,上下方向の中央部から股下部3側の下端部分に向かうにつれて徐々に幅広になっていると共に,上下方向の中央部からウエスト部4側の上端部分に向かうにつれて徐々に幅広となっている。
【0040】
このように,下側臀部領域21における上下方向の伸長性が低いものであることにより,ホールド力が強くなり,着用者の臀部周りに吸収性物品を効果的に保持しておくことができる。さらに,臀裂領域22における上下方向の伸長性が低いものであることにより,着用者の臀部の裂部に沿って吸収性物品をしっかりと保持できるため,吸収性物品が下方にずれ落ちることを防止できる。つまり,この下側臀部領域21と臀裂領域22において,上下方向の伸長性を高くすると,ホルダーパンツ100と着用者の肌の密着性は高まるものの,各領域21,22が伸びやすくなり,例えば着用者が椅子に座ったときなどに,吸収性物品のズレが生じる。このため,下側臀部領域21と臀裂領域22の伸長性を高くすることは好ましいものではなく,本発明のように,下側臀部領域21と臀裂領域22の伸長性を低くすることが好ましいといえる。
【0041】
他方,図3に示されるように,後身頃2のプレーン部分(白色無地)として,ヒップ領域23と,レッグ領域24と,尾骨領域25が存在している。ヒップ領域23は,下側臀部領域21の内側の領域が臀裂領域22によって左右に区切られることによって形成された左右の領域である。ヒップ領域23は,基本的に,着用者の臀部の膨らみが大きい部分に接触する領域である。図3に示された実施形態において,ヒップ領域23は,略楕円形に形成されている。また,後身頃2のレッグ領域24は,下側臀部領域21の外側の領域である。後身頃2のレッグ領域24は,着用者の太腿周りに接触する部分であり,前身頃1のレッグ領域13と繋がっている。また,尾骨領域25は,股下部3近傍における下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点に形成された領域である。尾骨領域25は,下側臀部領域21と臀裂領域22,又は下側臀部領域21と臀裂領域22と股下部3とによって周囲を囲われた領域である。尾骨領域25は,多角形状であってもよいし円形であってもよい。尾骨領域25は,着用者の尾骨に相当する位置付近に形成された領域である。
【0042】
上記のように,ヒップ領域23とレッグ領域24において伸長性を高めておくことで,ホルダーパンツ全体のフィット性が高まり,吸収性物品を着用者の肌に密着させることができる。また,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点,すなわち着用者の尾骨に相当する位置に,伸長性の高い尾骨領域25を部分的に形成しておくことで,吸収性物品のホールド力とフィット性を両立させることができる。すなわち,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点は,吸収性物品のずれ落ちを防止するための要所であるとともに,吸収性物品を着用者の肌にフィットさせるための要所でもある。このため,下側臀部領域21と臀裂領域22の合流地点においては,伸縮性が低くホールド力の高いホールド部分に周囲を囲まれるように,伸縮性が高くフィット性の高いプレーン部分を部分的に形成しておくことで,吸収性物品のホールド力とフィット性を両立させている。
【0043】
続いて,図4を参照して,プレーン部分とホールド部分を形成するための繊維の編み方の例を説明する。図4は,プレーン部分とホールド部分の組織法の一例を示している。
【0044】
図4に示されるように,プレーン部分は,プレーン編みで形成されていることが好ましい。「プレーン編み」とは,左右方向(ウエール)と上下方向(コース)において,編み目(ニット)が連続する編み方を意味する。このため,プレーン編みによって形成された部分(プレーン部分)は,左右方方向と上下方向に同等に伸縮するようになる。
【0045】
他方,図4に示されるように,ホールド部分は,フロート編みで形成されていることが好ましい。「フロート編み」とは,1ウエールおき又は数ウエールおきに,編み糸を給糸しないで編み目(ニット)を作らないようにした編み方を意味する。フロート編みにおいて,編み目(ニット)が形成されていない箇所を「ミス」という。図4に示された形態において,ホールド部分は,1つのニットに対し2つのミスを連続して形成した1×2フロート編みを含む。また,図4の形態では,上下方向(コース)にみると,プレーン編みとフロート編みが,一つ置きに交互に形成されている。さらに,各フロート編み(B,D,D…)では,ミスが縦方向の同じ位置に形成されている。このように,フロート編みのミスを上下方向に並べることで,ホールド部分は上下方向に伸びにくくなる。これにより,本発明では,ホールド部分における上下方向の伸長性を,プレーン部分の伸長性よりも低くしている。このように,プレーン部分とホールド部分において編み方を変えることで,ホールド部分における上下方向の伸長性を低くすることができる。
【0046】
その他,本発明のホルダーパンツ100は,股下部3の伸長応力を,前身頃1と後身頃2のプレーン部分とホールド部分よりも強くすることが好ましい。例えば,股下部3を構成する繊維を太くすることにより,股下部3における伸長応力を高めることができる。これにより,さらに効果的に吸収性物品のずれ落ちを防止できる。
【0047】
その他,本発明のホルダーパンツ100は,ウエスト部4及びレッグ部5を含む。これらの部分は,公知の下着と同様に,着用者の身体に適切にフィットするものとすればよい。例えば,ウエスト部4及びレッグ部5については,しなやかに伸縮して,締め付け過ぎずに,程良くフィットする編み方で形成すればよい。
【0048】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は,吸収性物品を着用者の股下に保持するためのホルダーパンツに関するものである。従って,本発明は,布製衣類の製造業などにおいて好適に利用し得る。
【符号の説明】
【0050】
1…前身頃 2…後身頃 3…股下部
4…ウエスト部 4A…ウエスト開口部 5…レッグ部
5A…レッグ開口部 11…鼠径領域 12…中央領域
13…レッグ領域(前身頃) 21…下側臀部領域 22…臀裂領域
23…ヒップ領域 24…レッグ領域(後身頃) 25…尾骨領域
100…ホルダーパンツ 200…吸収性物品
白色無地…プレーン部分 縦縞模様…ホールド部分
図1
図2
図3
図4