特許第6222082号(P6222082)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222082曲面形状を有するガラス板の製造方法及び曲面形状を有するガラス板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222082
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】曲面形状を有するガラス板の製造方法及び曲面形状を有するガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/03 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   C03B23/03
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-507268(P2014-507268)
(86)(22)【出願日】2014年2月13日
(86)【国際出願番号】JP2014053254
(87)【国際公開番号】WO2014167894
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-81933(P2013-81933)
(32)【優先日】2013年4月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池本 政幸
(72)【発明者】
【氏名】小谷 修
(72)【発明者】
【氏名】和田 正紀
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526874(JP,A)
【文献】 特開平08−034630(JP,A)
【文献】 特開2010−275187(JP,A)
【文献】 特開2013−136472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/02 − 23/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面形状を有するガラス板を製造する方法であって、
元ガラス板、前記曲面形状に対応する凹部を有する成形型、及び前記元ガラス板を押圧するための成形具を準備する工程と、
前記成形型の前記凹部の上に、前記元ガラス板を載置する工程と、
前記元ガラス板と前記成形型を加熱する工程と、
前記成形型の前記凹部の表面の温度を、前記元ガラス板の温度より低い温度に維持する工程と、
加熱した前記元ガラス板を前記成形具で押圧して前記凹部の表面に前記元ガラス板を接触させながら変形させることにより、前記元ガラス板に前記曲面形状を付与する工程とを備え、
前記成形具が、前記曲面形状の曲率半径より小さい曲率半径を有する凸部を有しており、加熱した前記元ガラス板の中央部を前記凸部で押圧して変形させた後、前記成形具を傾けるように回転させて前記凸部の曲面で前記元ガラス板を押圧して、前記中央部より外側の前記元ガラス板の部分を変形させる、曲面形状を有するガラス板の製造方法
【請求項2】
前記元ガラス板の加熱温度が、前記元ガラス板を構成するガラスのガラス転移点以上であり、前記ガラスの軟化点以下である、請求項1に記載の曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記凹部の表面の温度が、前記元ガラス板を構成するガラスの歪点以上の温度で、かつ前記ガラスのガラス転移点以下の温度に維持されている、請求項1または2に記載の曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項4】
曲面形状を有するガラス板を製造する方法であって、
元ガラス板、前記曲面形状に対応する凹部を有する成形型、及び前記元ガラス板を押圧するための成形具を準備する工程と、
前記成形型の前記凹部の上に、前記元ガラス板を載置する工程と、
前記元ガラス板と前記成形型を加熱する工程と、
前記成形型の前記凹部の表面の温度を、前記元ガラス板の温度より低い温度に維持する工程と、
加熱した前記元ガラス板を前記成形具で押圧して前記凹部の表面に前記元ガラス板を接触させながら変形させることにより、前記元ガラス板に前記曲面形状を付与する工程とを備え、
前記成形具が、棒状の成形具であり、前記元ガラス板に対する位置を移動させながら前記元ガラス板を前記成形具で押圧して前記元ガラス板に前記曲面形状を付与する、曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記成形具が、同じ位置で複数回前記元ガラス板を押圧して前記元ガラス板を変形させる、請求項に記載の曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記成形型に、前記成形型を冷却するためのクーラントが導入されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記成形具にクーラントを導入しながら、前記成形具で前記元ガラス板を押圧して変形させる、請求項1〜のいずれか一項に記載の曲面形状を有するガラス板の製造方法。
【請求項8】
前記曲面形状を有するガラス板が、ディスプレイ用カバーガラスに用いられるガラス板である、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項9】
前記曲面形状を有するガラス板が、モバイル機器用背面カバーガラスに用いられるガラス板である、請求項1〜のいずれか一項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の方法で製造された曲面形状を有するガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面形状を有するガラス板の製造方法及び該製造方法により得られる曲面形状を有するガラス板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、スマートフォン、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレットパーソナルコンピュータなどのディスプレイを備えたモバイル機器が広く用いられるようになってきている。また、カーナビなどの車載用機器にも、ディスプレイが用いられている。
【0003】
上記のモバイル機器や車載用機器に用いるディスプレイには、多くの場合、カバーガラスが用いられている。このようなカバーガラスとしては、平板状のガラス板が一般に用いられている。しかしながら、操作性や美観性等の観点から、カバーガラスとして、曲面形状を有するガラス板が望まれる場合がある。
【0004】
従来、曲面形状を有するガラス板は、特許文献1等に記載されているように、湾曲形状を有する成形型の上に平板状のガラス板を載せ、ガラス板を軟化点以上の温度に加熱してガラス板を軟化させ、ガラス板の自重で成形型の形状に沿うようにガラス板を変形させて製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭35−16443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1等に記載された従来の方法では、成形型の表面形状が、ガラス板に転写されるため、ガラス板の表面精度が低下する。このため、ディスプレイ等のカバーガラスとして用いる場合、ガラス板の表面を研磨しなければならないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、成形後に表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板を製造することができる方法及び該方法により製造されたガラス板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、曲面形状を有するガラス板を製造する方法であって、元ガラス板、曲面形状に対応する凹部を有する成形型、及び元ガラス板を押圧するための成形具を準備する工程と、成形型の凹部の上に元ガラス板を載置する工程と、元ガラス板と成形型を加熱する工程と、成形型の凹部の表面の温度を、元ガラス板の温度より低い温度に維持する工程と、加熱した元ガラス板を成形具で押圧して凹部の表面に元ガラス板を接触させながら変形させることにより、元ガラス板に曲面形状を付与する工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
元ガラス板の加熱温度は、元ガラス板を構成するガラスのガラス転移点以上であり、ガラスの軟化点以下であることが好ましい。
【0010】
凹部の表面の温度は、元ガラス板を構成するガラスの歪点以上の温度で、かつガラスのガラス転移点以下の温度に維持されていることが好ましい。
【0011】
本発明の第1の実施形態では、成形具は、曲面形状に対応する凸部を有しており、加熱した元ガラス板を凸部で押圧して元ガラス板に曲面形状を付与することができる。この場合、凸部で元ガラス板を押圧する回数を1回にすることができる。
【0012】
本発明の第2の実施形態では、成形具は、曲面形状の曲率半径より小さい曲率半径を有する凸部を有しており、加熱した元ガラス板を凸部で押圧して元ガラス板に曲面形状を付与することができる。この場合、凸部で元ガラス板の中央部を押圧して変形させた後、成形具を傾けるように回転(転動)させて凸部の曲面で元ガラス板を押圧して、中央部より外側の元ガラス板の部分を変形させることが好ましい。
【0013】
本発明の第3の実施形態では、成形具は、棒状の成形具であり、元ガラス板に対する位置を移動させながら元ガラス板を成形具で押圧してガラス板に曲面形状を付与することができる。この場合、同じ位置で複数回元ガラス板を押圧してガラス板を変形させることが好ましい。
【0014】
本発明では、成形型を冷却するためのクーラントが成形型に導入されていることが好ましい。これにより、凹部の表面の温度を、元ガラス板の加熱温度より低い温度に容易に維持することができる。その結果、凹部の表面形状が元ガラス板に転写されにくくなり、ガラス板の表面精度を高めることができる。
【0015】
本発明では、成形具にクーラントを導入しながら、成形具でガラス板を押圧して変形させることが好ましい。これにより、成形具の表面形状が元ガラス板に転写されにくくなる。
【0016】
本発明の方法で製造される曲面形状を有するガラス板は、例えば、ディスプレイ用カバーガラスに用いられるガラス板や、モバイル機器用背面カバーガラスに用いられるガラス板である。
【0017】
本発明の曲面形状を有するガラス板は、上記本発明の方法で製造された曲面形状を有するガラス板である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成形後に表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の曲面形状を有するガラス板の一例を示す斜視図である。
図3図3は、本発明における成形前の平板状の元ガラス板及び成形後の曲面形状を有するガラス板の一例を示す側面図である。
図4図4は、本発明の第1〜第3の実施形態における製造工程を示しており、成形型の上に平板状の元ガラス板を載置した状態を示す模式的断面図である。
図5図5は、本発明の第1〜第3の実施形態において用いる成形型を示す模式的平面図である。
図6図6は、本発明の第1〜第3の実施形態における製造工程を示しており、電気炉内において、平板状の元ガラス板が成形型の上に載置された状態を示す模式的断面図である。
図7図7は、本発明の第1の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図8図8は、本発明の第2の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図9図9は、本発明の第2の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図10図10は、本発明の第2の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図11図11は、本発明の第2の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図12図12は、本発明の第3の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
図13図13は、本発明の第3の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0021】
図2は、本発明の曲面形状を有するガラス板の一例を示す斜視図である。図2に示す曲面形状を有するガラス板1は、ガラス板1全体に単一の曲面形状が付与されている。本発明の製造方法は、図2に示すようなガラス板1全体に単一の曲面形状が付与されたガラス板を製造するのに適用することができる。しかしながら、本発明は、このようなガラス板の製造に限定されるものではなく、ガラス板の一部に曲面形状が付与されたもの、1つのガラス板に複数の曲面形状が付与されたものや、1つのガラス板に三次元曲面形状が付与されたものを製造する場合にも適用することができる。
【0022】
図3は、本発明における成形前の平板状の元ガラス板2及び成形後の曲面形状を有するガラス板1の一例を示す側面図である。図3に示すように、平板状の元ガラス板2を曲げ加工することにより、曲面形状を有するガラス板1を製造することができる。
【0023】
(第1の実施形態)
図4は、本発明の第1の実施形態における製造工程を示しており、成形型の上に平板状のガラス板を載置した状態を示す模式的断面図である。
【0024】
図4に示すように、成形型10は、凹部11を有している。凹部11は、元ガラス板2に付与する曲面形状に対応した曲面形状を有している。つまり、凹部11は成形加工後のガラス板1が有する曲面形状の曲率半径と同じ曲率半径の曲面形状を有している。成形型10の内部には、複数のクーラント導入用パイプ12が通されている。
【0025】
図5は、本発明の第1の実施形態において用いる成形型を示す模式的平面図である。図5に示すように、クーラント導入用パイプ12は、成形型10の一方側から成形型10の内部に導入され、成形型10の他方側から導出されている。クーラント導入用パイプ12内に、クーラントを流すことにより成形型10の凹部11の表面を冷却することができる。クーラントとしては、空気などの気体を用いることが好ましい。
【0026】
本実施形態では、成形型10の凹部11の表面を、ガラスクロス、セラミッククロス、カーボンファイバークロスなどの厚み方向に弾性変形可能な耐熱性のクロスで被覆している。
【0027】
本実施形態では、成形型10の凹部11の表面の温度は、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定されている。上記のように、クーラントを成形型10に導入することで、凹部11の表面の温度をこのような温度に維持することが容易になる。
【0028】
図6は、本発明の第1の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。図6に示すように、成形型10の凹部11の上に載置された平板状の元ガラス板2は、電気炉50内に配置されている。電気炉50内には、ヒーター51が設けられている。凹部11の上に載置された元ガラス板2は、ヒーター51によって加熱されている。本実施形態において、元ガラス板2の温度は、元ガラス板2を構成するガラスのガラス転移点以上であり、軟化点以下である。より好ましくは、軟化点より低い温度である。元ガラス板2の温度を、このような温度にすることにより、元ガラス板2の粘度を、弾性変形と塑性変形の両方が生じる粘度にすることができる。
【0029】
以上のようにして、成形型10の凹部11の上に載置した平板状の元ガラス板2を加熱する。
【0030】
また、本実施形態において、元ガラス板2の肉厚は0.2mm〜1.5mmのものを用いることができる。より好ましくは、0.3mm〜1.0mmである。元ガラス板2をこのような肉厚にすることにより、後で述べる成形具20、30及び40で元ガラス板2を押圧する際に、低い荷重で元ガラス板2を変形させることができる。そのため、成形型10や成形具20、30及び40との接触による元ガラス板2の表面の傷の発生を抑えることでき、成形後にガラス板の表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板1を製造することができる。
【0031】
図4図6を参照して説明した本実施形態の構成は、以下に説明する第2の実施形態及び第3の実施形態に共通している。
【0032】
図1は、第1の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。図1に示すように、加熱した元ガラス板2の上方に、本実施形態の成形具20を配置する。成形具20は、図1に示すように、成形型10の凹部11の曲面形状に対応した曲面形状を有する凸部21を有している。したがって、凸部21の曲面形状は、成形加工後の曲面形状を有するガラス板1が有する曲面形状に対応している。つまり、成形具20の凸部21は成形加工後のガラス板1が有する曲面形状の曲率半径と同じ曲率半径の曲面形状を有している。
【0033】
成形具20の内部には、成形型10と同様に、複数本のクーラント導入用パイプ22が通されている。クーラント導入用パイプ22内にクーラントを流すことにより、成形型10の場合と同様にして、成形具20の凸部21の表面を冷却することができる。成形具20の凸部21の表面は、成形型10の凹部11の表面と同様に、厚み方向に弾性変形可能な耐熱性のクロスで被覆されている。
【0034】
成形型10の上方に配置した成形具20を、矢印Aで示す方向、すなわち下方向に移動させると、図1に示すように、成形具20の凸部21が、まず元ガラス板2の中央部2aに当接する。成形具20をさらに下方向に押し下げると、加熱された元ガラス板2は、成形具20の凸部21の曲面に沿って変形するとともに、成形型10の凹部11の表面に近づく。本発明において、成形型10の凹部11の表面の温度は、元ガラス板2の温度より低い温度に維持されている。好ましくは、本実施形態のように、成形型10の凹部11の表面の温度は、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラス歪点〜ガラス転移点−30℃に設定されている。このため、成形型10の凹部11の表面と接触した元ガラス板2の部分においては、元ガラス板2の表面温度が低下しながら、曲げ加工が施される。元ガラス板2の表面温度が低下しているので、元ガラス板2の表面は塑性変形しにくくなっている。したがって、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、本実施形態では、凹部11の表面を冷却しているので、元ガラス板2の表面が凹部11の表面に接着するのを抑制することができる。
【0035】
図7は、本発明の第1の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。図7に示す状態では、成形具20がさらに下方に移動し、元ガラス板2が成形具20の凸部21と成形型10の凹部11の間に挟まれることにより、曲面形状を有するガラス板1が成形される。本実施形態では、上述のように、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制しながら、元ガラス板2に曲面形状を付与することができる。したがって、成形後に、曲面形状を有するガラス板1の表面を研磨する必要がない。したがって、本発明によれば、成形後に表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板1を製造することができる。尚、成形具20をガラス板2に当接させて下方向に押し下げる際は、元ガラス板2の温度が成形具20の凸部21の表面温度に低下する前までに、成形具20の凸部21と成形型10の凹部11の間に元ガラス板2を挟み曲げ加工を施している。
【0036】
本実施形態においては、クーラント導入用パイプ22内に、クーラントを流して成形具20の凸部21の表面を冷却して、凸部21の表面の温度を、元ガラス板2の温度より低い温度、好ましくは、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定している。これにより、成形具20の凸部21の表面形状が、元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、凸部21の表面を冷却しているので、元ガラス板2表面が成形具20の凸部11の表面に接着するのを抑制することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
図8は、本発明の第2の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。本実施形態では、図8に示す成形具30を用いている。成形具30は、成形型10の凹部11の曲面形状の曲率半径より小さい曲率半径を有する凸部31を有している。したがって、凸部31は、成形加工後のガラス板1が有する曲面形状の曲率半径より小さい曲率半径を有している。
【0038】
成形具30の内部には、第1の実施形態の成形具20と同様に、複数本のクーラント導入用パイプ32が通されている。クーラント導入用パイプ32内にクーラントを流すことにより、第1の実施形態の成形具20と同様に、成形具30の凸部31の表面を冷却することができる。成形具30の凸部31の表面は、第1の実施形態の成形具20と同様に、厚み方向に弾性変形可能な耐熱性のクロスで被覆されている。
【0039】
成形型10の上方に配置した成形具30を、矢印Bで示す方向、すなわち下方向に移動させると、図8に示すように、成形具30の凸部31が、まず元ガラス板2の中央部2aに当接する。成形具30をさらに下方向に押し下げると、図9に示すように、加熱され元たガラス板2の中央部2aは、変形しながら、成形型10の凹部11の表面に近づき、凹部11の表面に接触する。本実施形態において、成形型10の凹部11の表面の温度は、元ガラス板2の温度より低い温度、好ましくは、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定されている。このため、成形型10の凹部11の表面に接触した元ガラス板2の中央部2aにおいては、元ガラス板2の温度が低下し、元ガラス板2は塑性変形しにくくなる。
【0040】
次に、図9に示す矢印C方向に、成形具30を傾けて回転(転動)させる。これにより、図10に示すように、凸部31の曲面31aで、元ガラス板2の中央部2aより外側の一方領域2bを押圧して凹部11の表面に接触させる。これにより、元ガラス板2の一方領域2bを凹部11の表面の曲面形状に沿うように変形させるとともに、凹部11の表面に接触した元ガラス板2の温度を低下させ、元ガラス板2の一方領域2bを塑性変形しにくくする。
【0041】
次に、図10に示す矢印D方向に、成形具30を傾けて回転(転動)させる。これにより、図11に示すように、凸部31の曲面31aで、元ガラス板2の中央部2aより外側の他方領域2cを押圧して凹部11の表面に接触させる。これにより、元ガラス板2の他方領域2cを凹部11の表面の曲面形状に沿うように変形させるとともに、凹部11の表面に接触した元ガラス板2の温度を低下させ、元ガラス板2の他方領域2cを塑性変形しにくくする。尚、成形具30を元ガラス板2に当接させて下方向に押し下げる際は、元ガラス板2の温度が成形具30の凸部31の表面温度に低下する前までに、成形型10の凹部11の表面にガラス板2を接触させて、成形具30を回転(転動)させて曲げ加工を施している。
【0042】
以上のようにして、本実施形態では、成形具30の凸部31の曲面31aで、元ガラス板2を押圧して成形型10の凹部11の表面に接触させることにより、元ガラス板2を変形させて曲面形状を付与することができる。上述のように、凹部11の表面に接触した元ガラス板2は、その温度が低下するので、塑性変形しにくくなる。このため、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、本実施形態においても、成形型10にクーラントを導入して凹部11の表面を冷却しているので、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、元ガラス板2が凹部11の表面に接着するのを抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制しながら、元ガラス板2に曲面形状を付与することができる。したがって、成形後に表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板1を製造することができる。
【0044】
本実施形態においても、成形具30にクーラントを導入することで凸部31の表面を冷却することができる。これにより、成形具30の凸部31の表面の温度を、元ガラス板2の温度より低い温度、好ましくは、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定することができ、成形具30の凸部31の表面形状が、元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。
【0045】
(第3の実施形態)
図12は、本発明の第3の実施形態における製造工程を示す模式的断面図である。本実施形態では、図12に示す成形具40を用いている。成形具40は、棒状の成形具であり、その内部にはクーラント導入用貫通孔41が形成されている。したがって、成形具40は、例えば、耐熱性のパイプなどから形成することができる。このような耐熱性のパイプとしては、金属製またはセラミック製のパイプを挙げることができる。
【0046】
クーラント導入用貫通孔41内にクーラントを流すことにより、第1の実施形態の成形具20と同様に、成形具40の表面を冷却することができる。成形具40の表面は、第1の実施形態の成形具20と同様に、厚み方向に弾性変形可能な耐熱性のクロスで被覆されている。
【0047】
図12に示すように、成形型10の凹部11の上に載置された元ガラス板2の上方に、成形具40を配置する。次に、成形具40を、下方向に移動させ、元ガラス板2の中央部2aを押圧して、元ガラス板2を変形させる。次に、図13に示す矢印E方向、すなわち上方向に移動させた後、再び矢印E′方向、すなわち下方向に移動させ、元ガラス板2を押圧して、元ガラス板2を変形させる。このように、成形具40について、矢印E方向の移動と矢印E′方向の移動を複数回繰り返して行うことにより、元ガラス板2を徐々に変形させ、最終的に元ガラス板2を凹部11の表面に接触させる。本実施形態において、成形型10の凹部11の表面の温度は、元ガラス板2の温度より低い温度、好ましくは、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定されている。このため、成形型10の凹部11の表面に接触した元ガラス板2の中央部2aにおいては、ガラス板2の温度が低下し、元ガラス板2は塑性変形しにくくなる。
【0048】
次に、成形具40について、図13に示す矢印F方向の移動と矢印F′方向の移動を複数回繰り返して行う。これにより、成形具40で押圧された元ガラス板2の部分を徐々に変形させ、最終的に元ガラス板2の当該部分を凹部11の表面に接触させる。凹部11の表面に接触した元ガラス板2の当該部分は、元ガラス板2の温度が低下し、元ガラス板2の当該部分は塑性変形しにくくなる。次に、同様にして、成形具40について、図13に示す矢印G方向の移動と矢印G′方向の移動を複数回繰り返し、その後、矢印H方向の移動と矢印H′方向の移動を複数回繰り返し、その後、矢印I方向の移動と矢印I′方向の移動を複数回繰り返しで行う。尚、成形具40を元ガラス板2に当接させて各方向に押圧する際は、元ガラス板2の温度が成形具40の表面温度に達する前までに、成形型10の凹部11の表面に元ガラス板2を接触させて、曲げ加工を施している。
【0049】
以上のようにして、元ガラス板2の所定の部分を成形具40で押圧して変形させることにより、元ガラス板2に曲面形状を付与して、曲面形状を有するガラス板1を製造することができる。凹部11の表面に接触した元ガラス板2の部分は、その温度が低下するので、塑性変形しにくくなる。このため、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、本実施形態においても、成形型10にクーラントを導入して凹部11の表面を冷却しているので、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制することができる。また、元ガラス板2が凹部11の表面に接着するのを抑制することができる。
【0050】
本実施形態では、凹部11の表面形状が元ガラス板2の表面に転写されるのを抑制しながら、元ガラス板2に曲面形状を付与することができる。したがって、成形後に表面を研磨しなくても、高い表面精度で曲面形状を有するガラス板を製造することができる。
【0051】
本実施形態においても、成形具40にクーラントを導入することで成形具40の表面を冷却することができる。これにより、成形具40の表面の温度を、元ガラス板2の温度より低い温度、好ましくは、元ガラス板2を構成するガラスの歪点以上、ガラス転移点以下の温度、より好ましくは、ガラスの歪点〜ガラス転移点−30℃に設定することができ、成形具40の表面形状が、元ガラス板2の表面に転写されるのをさらに抑制することができる。
【0052】
本発明の曲面形状を有するガラス板1は、例えば、携帯電話機、スマートフォン、ノート型パーソナルコンピュータ、タブレットパーソナルコンピュータなどのモバイル機器及びカーナビなどの車載用機器等に用いられるディスプレイ用カバーガラスや、モバイル機器等に用いられる背面用カバーガラスとして用いることができる。ディスプレイ用カバーガラスとして用いる場合、曲面をディスプレイ表示部とすることができる。
【符号の説明】
【0053】
1…曲面形状を有するガラス板
2…元ガラス板
2a…中央部
2b…一方領域
2c…他方領域
10…成形型
11…凹部
12…クーラント導入用パイプ
20…成形具
21…凸部
22…クーラント導入用パイプ
30…成形具
31…凸部
31a…曲面
32…クーラント導入用パイプ
40…成形具
41…クーラント導入用貫通孔
50…電気炉
51…ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13