(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222119
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】スナウト内アッシュ堆積抑制装置
(51)【国際特許分類】
C23C 2/00 20060101AFI20171023BHJP
B22D 43/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
C23C2/00
B22D43/00 E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-4066(P2015-4066)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-130333(P2016-130333A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2016年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岩根 啓介
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−187855(JP,A)
【文献】
特開平07−316760(JP,A)
【文献】
特開平11−100650(JP,A)
【文献】
特開2003−328098(JP,A)
【文献】
特開2002−275612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00− 2/40
B22D 33/00−47/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スナウト内にドロス吸引口を備える連続溶融金属めっき設備に配置されるスナウト内アッシュ堆積抑制装置であって、
前記スナウト内において前記ドロス吸引口の上方に設けられ、金属蒸気を凝固させ凝固物として回収する金属蒸気回収部と、
前記金属蒸気回収部に回収された凝固物の落下を促す落下補助部と、を有し、
前記スナウトの側壁面には、ガス吸引口及びガス排気口が形成され、
さらに、前記ガス吸引口に一端が接続し、前記ガス排気口に他端が接続したダクトと、
前記ガス吸引口からスナウト内の雰囲気ガスを吸引させ、吸引した前記雰囲気ガスを前記ダクトを介して前記排気口から排気させるエジェクターと、を有し、
前記ガス吸引口は、スナウト内の前記金属蒸気回収部の近傍に存在し、前記ガス吸引口と前記ガス排気口は、前記鋼帯の幅方向に前記鋼帯を挟むように、対向する側壁面にそれぞれ形成され、前記スナウトはスナウト下部に膨らみ部を有し、該膨らみ部は、前記鋼帯の幅方向の両端に一対形成され、該膨らみ部内の空間は前記スナウト本体内の空間と繋がり、前記スナウト内には1つの閉じた空間が形成され、なおかつ、前記一対の膨らみ部の一方の膨らみ部内に、前記金属回収部が形成されることを特徴とするスナウト内アッシュ堆積抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続溶融金属めっき設備において、連続焼鈍炉と溶融金属めっき浴間に設けられたスナウト内でアッシュが堆積することを抑制するスナウト内アッシュ堆積抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍炉にて熱処理を行った鋼帯を溶融金属めっき浴に浸漬させて引き出し鋼帯表面に連続的に金属めっきを行う連続溶融金属めっき方法では、鋼帯を還元雰囲気で熱処理するため、焼鈍炉内には窒素と水素の混合ガスが雰囲気ガスとして吹き込まれている。
【0003】
また、外部空気による鋼帯の酸化を抑制するため、焼鈍炉からめっき浴の間には、断面矩形形状のスナウトが配設されている。外部空気と炉内雰囲気ガスを遮断することで、鋼帯表面には、無酸化のまま金属めっき浴にてめっきが施され、めっきが施された鋼帯は後工程へと送られる。
【0004】
このスナウトの下部はめっき浴面に浸かっているため、スナウト内には溶融金属の蒸気が発生し、この蒸気は、比較的低温なスナウト内壁や前段の炉内構造物およびロール等に凝固付着し堆積する。この凝固物は一般的にアッシュと呼ばれる。アッシュが鋼帯や浴面上に落下すると不めっき等の品質欠陥となって製品の歩留りが低下する。
【0005】
ところで、一般的な連続溶融金属めっき設備には、スナウト内におけるめっき浴の浴面上の異物、浮遊金属ドロス等をスナウト外へ排出するために、スナウト内浴面上に鋼帯の幅方向に沿って浴流れを形成する噴流ポンプや排出ポンプ、ドロス吸引口が配設されている。これにより、品質欠陥の防止を図れるものの、この従来方法はアッシュへの対策が不十分であるため、浴面上に落下した上記アッシュが浴内に引き込まれて鋼帯に付着してしまいアッシュ性の製品欠陥を解決できていない場合がある。また、このような品質欠陥が生じた場合には生産ラインを停止しスナウト内の清掃を行う必要があり生産性が低下する問題がある。
【0006】
これらの問題に鑑み、特許文献1には、鋼帯の上面に対向するスナウトの下部に吸入口と上部に給気口を持ちダクトで接続する途中にエジェクターを配設して吸入口から給気口に向かう雰囲気ガス流れを形成せしめ、エジェクター上流側に配設したセパレーター(回収装置)にて金属蒸気を凝固させるアッシュ付着抑制方法が提案されている。ここで、特許文献1で提案された方法の実施形態を
図3に示す。
図3の連続溶融金属めっき設備6において、61はめっき浴、Sはめっき浴61から連続的に引き上げられる鋼帯、614は吸入口で鋼帯上面に対向するスナウト壁面に配設される。また、吸入口の近傍にはヒーター612が配設される。また、上部で鋼帯を避けた位置には給気口615が配設される。吸入口614と給気口615はダクト66で接続され雰囲気ガスを導くエジェクター610が吸入口614から給気口615に噴流が生じるよう接続されスナウト62内雰囲気ガス流れをダクト内に生じさせる。エジェクター610の上流には、冷媒613が内部を循環するセパレーター67bを配設し通過する雰囲気ガス中の金属蒸気を凝固させるようになっている。セパレーター67bにはバイブレーター68が取り付けられ振動によりアッシュを落下させ、さらに落下したアッシュを外部に取り出すための仕切弁69およびアッシュ除去カバー611が配設され運転中のアッシュ回収が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−187855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、特許文献1で提案された方法によると、スナウト62内の金属蒸気をセパレーター67bによって凝固回収することが可能であり、生産性の向上を期待できる。しかしながら、特許文献1で提案された方法では、ダクト66およびセパレーター67b等の装置一式をスナウト62に配設する必要があるため装置全体が大きくなってしまい設備費用が大きくなる。
【0009】
また、特許文献1で提案された方法によると、アッシュ回収により作業が煩雑になり好ましくない。仕切弁69およびアッシュ除去カバー611により運転中のアッシュ回収が可能であるが溶融金属浴面上あるいは浴近傍での回収作業となり安全上の問題も存在する。
【0010】
また、特許文献1で提案された方法によると、セパレーター67bに金属蒸気が達する前に吸入口614周辺やダクト66内で金属蒸気が凝固し管路が閉塞したり、アッシュが鋼帯Sに落下したりする可能性があるため、
図3のようにスナウト内ヒーター612やダクト66の加熱、保温が必要となりエネルギー原単位を悪化させる懸念もある。
【0011】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、簡易かつ低コストで、スナウト内におけるアッシュの堆積を抑制できるスナウト内アッシュ堆積抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1)スナウト内にドロス吸引口を備える連続溶融金属めっき設備に配置されるスナウト内アッシュ堆積抑制装置であって、前記スナウト内において前記ドロス吸引口の上方に設けられ、金属蒸気を凝固させ凝固物として回収する金属蒸気回収部と、前記金属蒸気回収部に回収された凝固物の落下を促す落下補助部と、を有することを特徴とするスナウト内アッシュ堆積抑制装置。
【0014】
(2)前記スナウトの側壁面には、ガス吸引口及びガス排気口が形成され、さらに、前記ガス吸引口に一端が接続し、前記ガス排気口に他端が接続したダクトと、前記ガス吸引口からスナウト内の雰囲気ガスを吸引させ、吸引した前記雰囲気ガスを前記ダクトを介して前記排気口から排気させるエジェクターと、を有し、前記ガス吸引口は、スナウト内の前記金属蒸気回収部の近傍に存在することを特徴とする(1)に記載のスナウト内アッシュ堆積抑制装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、煩雑なアッシュ回収作業を回避しながら、連続溶融金属めっき設備における上記アッシュによる問題を抑制することができる。つまり、本発明によれば容易且つ低コストでアッシュ回収作業を行える。よって、本発明によれば、高品質な鋼帯を、生産性を低下させることなく工業的に安定して生産することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】スナウト内に配置されたスナウト内アッシュ堆積抑制装置の正面模式図である。
【
図2】スナウト内に配置されたスナウト内アッシュ堆積抑制装置の側面模式図である。
【
図3】従来のスナウト内のアッシュ堆積抑制装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0018】
図1は、スナウト内に配置されたスナウト内アッシュ堆積抑制装置の正面模式図であり、
図2は、スナウト内に配置されたスナウト内アッシュ堆積抑制装置の側面模式図である。
【0019】
本発明のスナウト内アッシュ堆積抑制装置1は、めっき浴3と接するスナウト2の下部に配置される。先ず、本発明が配置される連続溶融金属めっき設備(以下、設備という場合がある)について簡単に説明する。
【0020】
図1、2に示すスナウト2においては、下部の側壁面にガス吸引口20とガス排気口21が形成されている。ガス吸引口20とガス排気口21は、鋼帯Sの幅方向に鋼帯Sを挟むように、対向する側壁面にそれぞれ形成される。また、ガス排気口21は、ガス吸引口20よりも上部に形成される。また、ガス排気口21は同じ側壁面の2箇所に設けられ、ガス排気口21からの排気が鋼帯Sの上面上、下面上の両方を流れるようになっている。
【0021】
また、
図1、2に示すスナウト2はスナウト下部に膨らみ部22を有する。この膨らみ部22は、鋼帯Sの幅方向の両端に一対形成されている。膨らみ部22内の空間はスナウト2本体内の空間と繋がっており、スナウト2内には1つの大きな閉じた空間が形成されている。
【0022】
スナウト2内のめっき浴3の浴面には、ドロス吸引口4が存在し、ドロス吸引ポンプ4aにより、上記ドロス吸引口4からドロス吸引配管4bを介して、ドロスをスナウト外に排出できるようになっている(図中の矢印がドロスの流れを表す。)。
【0023】
図1に示す設備においては、スナウト内に噴流口5が設けられ、この噴流口5と噴流配管5bを介して接続する噴流ポンプ5aにより、スナウト内浴面上に鋼帯の幅方向に沿った浴流れが形成される。そして、この浴流れの方向は、噴流口5からドロス吸引口4に向かう方向である(図中の矢印を参照)。
【0024】
次いで、本発明のスナウト内アッシュ堆積抑制装置1について説明する。本発明のスナウト内アッシュ堆積抑制装置1は、金属蒸気回収部10と、落下補助部11と、ダクト12と、エジェクター13とを有する。
【0025】
金属蒸気回収部10は、スナウト2内においてドロス吸引口4の上方に設けられる。
図1に示す設備においては、一方の膨らみ部22内に、金属蒸気回収部10が設けられている。
【0026】
図1、2に示す金属蒸気回収部10は冷媒100を有する。この冷媒100により、金属蒸気回収部10が冷却され、この冷却により金属蒸気回収部100の付近に存在する金属蒸気が凝固し金属蒸気回収部10に付着する。
【0027】
落下補助部11は、金属蒸気回収部10に回収された凝固物の落下を促すためのものであり、例えば、金属蒸気回収部10に接するバイブレーターである。バイブレーター等のように、金属蒸気回収部10に直接振動を伝えることができれば、凝固物であるアッシュの落下を容易に促進できる。
【0028】
ダクト12は、
図1、2に示す通り、一端がガス吸引口20接続され、他端がガス排気口21に接続されている。
図1、2に示すスナウト内アッシュ堆積抑制装置1ではスナウト2が2つのガス排気口21を有し、この2つのガス排気口21に接続するためにダクト12の他端は枝分れ状になっている。なお、本発明において、ガス吸引口20、ガス排気口21のそれぞれの個数は特に限定されないが、複数の場合には上記のように、ダクト12の端部を枝分れ状として、全てと接続する必要がある。
【0029】
エジェクター13は、ガス吸引口20からスナウト2内の雰囲気ガスを吸引させ、吸引した雰囲気ガスをダクト12を介して排気口21から排気させる。
【0030】
図1に示す通り、ガス吸引口20の位置が金属蒸気回収部10の近傍であるため、スナウト内アッシュ堆積抑制装置1においては、ガス排気口21から排気される雰囲気ガスの排気方向が、金属蒸気回収部10に向かう方向である。また、
図1、2に示す設備では、鋼帯Sの上面に沿って金属蒸気回収部10に向かう排気と、鋼帯Sの下面に沿って金属蒸気回収部10に向かう排気がある。
【0031】
また、ガス排気口21から排気される雰囲気ガスの排気方向と、金属蒸気回収部10を通る水平面との成す角θは0〜60°であることが好ましい。
【0032】
なお、本発明において、ダクト12とエジェクター13は無くてもよい。
【0033】
次いで、本発明のスナウト内アッシュ堆積抑制装置1の効果について説明する。
【0034】
本発明のスナウト内アッシュ堆積抑制装置1においては、金属蒸気回収部10がドロス吸引口4の上方に設けられ、金属蒸気回収部10に凝固付着した凝固物(アッシュ)が落下補助部11によって落下し、落下した凝固物がドロス吸引口4から吸引され、ドロス吸引ポンプ4aにより、ドロス吸引配管4bを通って、スナウト2外へ排出される。ドロス吸引口4を利用することで、アッシュのスナウト2外への排出を容易に行うことができる。
【0035】
上記の通り、ドロス吸引口4の上方に金属蒸気回収部10が設けられることで、落下した凝固物がスナウト2内のめっき浴面をほとんど移動することなくスナウト2外へ排出される。
【0036】
図1、2に示すように金属蒸気回収部10が、ドロス回収口4の直上にあれば、落下した凝固物が直ちにドロス吸引口4に吸引されるため好ましいが、ドロス吸引ポンプ4aにより、ドロス吸引口4付近ではドロス吸引口4に向かう流れが発生するため、「直上」でなくても上方であれば本発明の効果が得られる。
【0037】
図1、2に示すように、スナウト2が下部に膨らみ部22を有することで、金属蒸気回収部10を、容易にスナウト2内に設けることができる。
【0038】
図1、2に示すスナウト内アッシュ堆積抑制装置1のように、ガス排気口21から排気される雰囲気ガスの排気方向が金属蒸気回収部10に向かう方向であれば、金属蒸気10は効率良く金属蒸気回収部10に向かうため、アッシュのスナウト2外への排出をさらに促進でき、アッシュによる問題をより抑えることができる。
【0039】
図1、2に示すスナウト内アッシュ堆積抑制装置1のように、ガス吸引口20とガス排気口21が、鋼帯Sの幅方向に鋼帯Sを挟むように、対向する側壁面にそれぞれ形成されることで、鋼帯Sの表面に雰囲気ガスや金属蒸気の流れが生じ、鋼帯Sの表面にアッシュが付着する等の問題が起こりにくい。ガス排気口21からの排気が鋼帯Sの上面上、下面上の両方を流れることで、この効果をさらに高めることができる。
【0040】
また、膨らみ部22を有するスナウト2を用いることで、スナウト内アッシュ堆積抑制装置1の設置が容易になる。
【0041】
ガス排気口21から排気される雰囲気ガスの排気方向と、金属蒸気回収部10を通る水平面との成す角θは0〜60°であることで、金属蒸気を効率良く金属蒸気回収部10へ移動させることができる。
【実施例】
【0042】
図1、2に示すスナウト内アッシュ堆積抑制装置1を用いて、鋼帯に溶融亜鉛めっき処理を施した。
【0043】
冷媒を窒素ガスとし、ダクトに流れる雰囲気ガスの流量をエジェクターで調整し30Nm
3/hrとし、角度θを30°とし、溶融亜鉛温度を460℃として、本発明の装置を用いた。
【0044】
溶融亜鉛めっき処理を施した鋼帯から溶融亜鉛めっき鋼板製品を採取して、採取した鋼板製品中の不良品数を数え、不良品の割合(不良品数/製品数 × 100(%))を算出した。
【0045】
本発明の装置を用いずに、鋼帯に溶融亜鉛めっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板製品を採取した。そして、上記不良品割合を算出した。
【0046】
本発明の装置を用いた場合の不良品割合は、本発明を用いない場合と比較して、0.04%低かった。
【符号の説明】
【0047】
1 スナウト内アッシュ堆積抑制装置
10 金属蒸気回収部
11 落下補助部
12 ダクト
13 エジェクター
2 スナウト
20 ガス吸引口
21 ガス排気口
22 膨らみ部
3 めっき浴
4 ドロス吸引口
4a ドロス吸引ポンプ
4b ドロス吸引配管
5 噴流口
5a 噴流ポンプ
5b 噴流配管