(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タッチパネル式の操作パネルを備え、ユーザによる前記操作パネルの操作に応じて位置が移動する可能性のある端末装置との間で通信が可能に構成された文書処理装置であって、
前記端末装置との間で電波を送受信して通信を行う通信部と、
前記通信部において受信した前記端末装置の通信強度を検出する通信強度検出部と、
前記操作パネルへの入力操作があったときにその操作内容を示す操作情報を検出する操作情報検出部と、
前記通信強度検出部により検出された通信強度と前記操作情報検出部により検出された操作情報とに基づいて、前記端末装置と前記通信部との間の通信におけるデータ転送量を制御するデータ転送量制御部と、
を有することを特徴とする文書処理装置。
前記データ転送量制御部は、前記操作情報が示す座標位置とジェスチャー操作の種類とに基づいて、前記端末装置が通信範囲から外れるまでの距離を予測して求め、求めた距離に応じて前記データ転送量を制御する、
請求項1記載の文書処理装置。
前記操作情報検出部が、前記操作情報として一定方向への移動をともなう操作を検出したときに、前記データ転送量制御部は、前記通信強度がしきい値以下となっている場合には前記データ転送量を少なくし、前記通信強度が前記しきい値を越えている場合には前記データ転送量を多くする、
請求項1記載の文書処理装置。
タッチパネル式の操作パネルを備え、ユーザによる前記操作パネルの操作に応じて位置が移動する可能性のある端末装置との間で通信が可能に構成された文書処理装置における通信制御方法であって、
前記端末装置からの電波の通信強度と、前記操作パネルへの入力操作により検出された操作情報とに基づいて、前記端末装置との間の通信におけるデータ転送量を制御する、
ことを特徴とする文書処理装置における通信制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1には本発明の一実施形態に係る文書処理装置1およびユーザ3が装着した端末装置2の例が示されている。
【0021】
文書処理装置1は、コピー機、プリンタ、ファクシミリ機、およびスキャナなどの機能を集約したMFPである。文書処理装置1は、印刷、外部装置への送信、保存(記憶)、データ化(スキャン)など、文書(画像を含む)に関わる各種の処理を実行することができる。
【0022】
文書処理装置1は、タッチパネル式の操作パネル12を備え、ユーザ3による操作パネル12の操作に応じて位置が移動する可能性のある端末装置2との間で電波による無線の通信が可能に構成されている。端末装置2として、種々のウエアラブルコンピュータ、スマートフォン、PDA(Personal Digital Assistant)などの可搬型の情報機器を用いることができる。つまり、端末装置2は、ユーザの手や指などの身体に装着され、またはユーザが手に持ったり衣服に保持されることにより、ユーザが操作パネル12を操作したときにその操作の動作とともに移動する可能性がある。また、ユーザが携帯してきた端末装置2をユーザが操作パネル12の近傍に載置することがあるが、この場合も、ユーザの操作の動作とともに移動する可能性がある。
図1に示される端末装置2は、腕輪型のウエアラブルコンピュータであるが、これに限ることなく、例えば後で述べる指輪型のもの、手袋型のもの、衣服などに縫い付けたものなど、他の種々のウエアラブル端末であってもよい。
【0023】
なお、1人のユーザ3だけでなく、他のユーザも端末装置2を所持している場合が想定される。この場合には、複数の端末装置2のうち、文書処理装置1の近くで操作パネル12を操作可能な位置に居るユーザ3の所持する端末装置2が通信の対象となり、後で述べる条件が満たされた場合に通信が実行される。
【0024】
文書処理装置1には、端末装置2を利用した便利な機能がある。例えば、文書データ自動転送機能では、予めユーザ3が端末装置2に文書データを予め記憶させておくことにより、その文書データを端末装置2から文書処理装置1へ自動的に転送し、それを文書処理装置1が印刷したり保存したりすることができる。また、自動ログイン機能では、文書処理装置1へのログインの際に、ユーザ3がそのための特別の操作を行うことなく、ログインに必要な認証データを端末装置2から文書処理装置1へ自動的に送信し、ログインを自動的に行うことができる。
【0025】
文書データ自動転送機能による場合には、用紙サイズ、印刷部数、および印刷色といった印刷条件を指定する操作をユーザ3が行っている間に、文書データを自動的に転送することによって、ユーザ3が印刷条件の指定を終えて印刷の開始を指示した後に転送を行うのと比べて印刷の実行が早くなり、ユーザ3は早く印刷物を得ることができる。つまり、ユーザ3にとっての作業効率が向上する。
【0026】
自動ログイン機能による場合には、ユーザ3が文書処理装置1に実行させたい処理(ジョブ)を指定する操作を行っている間に、端末装置2が文書処理装置1に認証データを自動的に転送することによって認証に要する時間が短くなり、ユーザが認証データを入力したり認証の完了を待ってジョブを指定するのと比べて、ユーザ3にとっての作業効率が向上する。
【0027】
このように端末装置2との間でデータの転送を行う場合に、外部への情報の漏洩および端末装置2以外の機器との誤接続を防ぐために、通信範囲(通信圏)を文書処理装置1の近傍に限定するのが効果的である。通信範囲とは、ジョブの処理の対象となるデータである文書データを転送する通信が行われる距離範囲(空間的範囲)である。また、通信範囲は、文書処理装置1へのログインのための認証データを端末装置2から文書処理装置1へ転送する通信が行われる距離範囲でもある。つまり、通信範囲は、所定の条件の下で、文書データや認証データの転送を許可する距離範囲であるといえる。なお、文書データや認証データの転送は、端末装置2から文書処理装置1への転送およびその逆の転送のいずれについて行うことでもよい。
【0028】
以下において、文書データまたはログインのための認証データを転送する通信を、「文書データ通信」ということがある。文書データ通信は、文書処理装置1と端末装置2との接続( 通信)が確立した状態において行われる。
【0029】
図2には文書処理装置1と端末装置2との無線の通信が行われる通信範囲50,51の例が示されている。
図2(A)は、操作パネル12の上面と平行なXY平面上の通信範囲50,51を、
図2(B)は、操作パネル12の厚さ方向の断面と平行なXZ平面上の通信範囲50,51をそれぞれ示す。
【0030】
文書処理装置1において、通信範囲50,51は、アンテナに指向性がなくかつ障害物がなければ全方位についてほぼ均等であるから、操作パネル12の右隅部の通信基点P1を中心とする半径r0,r1の球状となる。通信基点P1は、操作パネル12の内部に配置された無線通信ユニット10pのアンテナの位置、またはその付近の位置である。
【0031】
このうち、通信範囲50は、暫定的な通信範囲として設定される。つまり、通信基点P1からの距離が所定値(半径r0)よりも小さい三次元空間が、通信範囲50として暫定的に設定される。半径r0は、例えば20〜100センチメートル程度に設定される。端末装置2が通信範囲50に入いった場合に、その端末装置2は操作パネル12を操作しようとするユーザが所持するものである可能性が高いので、文書処理装置1は、その端末装置2を通信相手として暫定的に選択する。
【0032】
通信範囲50において、文書処理装置1は端末装置2との間で接続を確立することなく、端末装置2の電波強度および操作パネル12の状態などについて推移を監視することとしてよい。また、通信範囲50において、文書処理装置1は端末装置2との間で接続を確立し、接続を確立した状態で、文書データ通信を実行するための条件が満たされるかどうかを監視することとしてもよい。
【0033】
他方、通信範囲51は、確定的な通信範囲として設定される。通信範囲51は通信範囲50よりも狭い範囲である。通信範囲51の半径r1は、例えば10センチメートルに設定される。端末装置2が通信範囲51に入いった場合に、その端末装置2は操作パネル12を操作するユーザが所持するものである可能性が極めて高くなるので、文書処理装置1は、その端末装置2を通信相手として確定的に選択する。
【0034】
通信範囲51において、文書処理装置1は端末装置2との間で接続を確立し、文書データ通信を実行することとしてよい。また、端末装置2との間で既に接続が確立しているときは、通信範囲51に入ったときに文書データ通信を実行することとしてよい。
【0035】
なお、文書処理装置1は、端末装置2との接続を確立した後において、必要な文書データ通信を完了した場合、端末装置2との距離が所定距離よりも大きくなったときなど、所定の状態になったときに接続の開放(通信の切断)を行えばよい。この場合に、文書データ通信の安定性などを考慮するのが好ましい。
【0036】
図3には通信範囲50,51と通信強度TKとの関係が示されている。
【0037】
図3において、端末装置2が発する電波の強度DKについての等高線の例が示されている。端末装置2のアンテナに指向性がなくかつ障害物がなければ、電波の強度DKは全方位についてほぼ均等であるから、端末装置2を中心とする半径r10,r11の球状となる。つまり、電波の強度DKは、端末装置2からの距離が大きくなるにつれて小さくなる。
【0038】
端末装置2を中心とする同心円のうち、半径r10の円が暫定強度円60として示されている。暫定強度円60は、暫定的な通信範囲50に対応した円であり、本実施形態においてr10はr0に等しい。
【0039】
つまり、遠方にあった端末装置2が操作パネル12に近づいてきて、暫定強度円60に通信基点P1が丁度入ったときに、端末装置2は文書処理装置1における暫定的な通信範囲50に入ったこととなる。このとき、通信基点P1における端末装置2の電波の強度DKが、文書データ通信を許可することが可能なしきい値th0に達したといえる。
【0040】
したがって、端末装置2から半径r10だけ離れた位置における電波の強度DKを、文書処理装置1における通信強度TKのしきい値th0として設定しておくことによって、暫定的な通信範囲50が設定されることとなる。つまり、文書処理装置1において、電波の強度DKがしきい値th0を越えたことによって、端末装置2が暫定的な通信範囲50に入ったと認識することとなる。このように、電波の強度DKは通信強度TKの一例である。
【0041】
また、端末装置2を中心とした半径r11の円が確定強度円61として示されている。確定強度円61は、確定的な通信範囲51に対応した円であり、本実施形態においてr11はr1に等しい。
【0042】
つまり、端末装置2が操作パネル12にさらに近づいてきて、確定強度円61に通信基点P1が丁度入ったときに、端末装置2は文書処理装置1における確定的な通信範囲51に入ったこととなる。このとき、通信基点P1における端末装置2による電波の強度DKが、文書データ通信を強制的に実行するためのしきい値th1に達したといえる。
【0043】
したがって、端末装置2から半径r11だけ離れた位置における電波の強度DKを、文書処理装置1における通信強度TKのしきい値th1として設定しておくことによって、確定的な通信範囲51が設定されることとなる。つまり、文書処理装置1において、電波の強度DKがしきい値th1を越えたことによって、端末装置2が確定的な通信範囲51に入ったと認識することとなる。
【0044】
つまり、通信強度TKまたは電波の強度DKのしきい値th0,th1は、通信基点P1と端末装置2との間の距離Lのしきい値Lth0,Lth1に対応したものであり、しきい値th0,th1に代えて距離Lのしきい値Lth0,Lth1を設定してもよい。この意味において、しきい値th0,th1は距離のしきい値Lth0,Lth1と等価であるといえる。
【0045】
なお、これらのしきい値th0,th1,Lth0,Lth1は、実験またはシミュレーションなどにより得られるデータに基づいて決定することができる。その場合に、端末装置2の出力電力やアンテナの能率などに応じてしきい値は変更されるので、端末装置2の出力電力や機種などに対応した値を、これらしきい値th0,th1,Lth0,Lth1を示すテーブルとして文書処理装置1に格納しておいてもよい。
【0046】
図4には通信範囲51と端末装置2との位置関係の例が示されている。
【0047】
本実施形態の文書処理装置1では、通信範囲51が操作パネル12の全体を包含しない範囲に設定されている。このため、ユーザ3が操作パネル12を操作しているにもかかわらず、端末装置2が通信範囲51に入っていないことが起こり得る。
【0048】
図4(A)において、ユーザ3は指輪型の端末装置2を装着した手で操作パネル12上の1つの操作キー33を操作している。操作キー33は通信基点P1の近傍に配置されている。この場合、端末装置2は通信範囲51に入っている。
【0049】
これに対して、
図4(B)では、ユーザ3は操作キー33と比べて通信基点P1から遠い1つの操作キー34を操作している。この場合には、端末装置2は通信範囲51に入っていない。
【0050】
文書データ通信が完了するまでの所要時間は、転送するデータのデータ量に依存する。データ量が大きい場合には所要時間が数秒以上になることがある。そのため、文書データ通信を行っている途中で、ユーザ3による操作に応じて端末装置2の位置が移動する可能性がある。
【0051】
文書データ通信の実行中に端末装置2が通信範囲51の内から外へ移動すると、文書データ通信が途切れるおそれがある。文書データ通信が途切れると、最初から文書データ通信をやり直すことになる。このため、途切れる以前の通信に費やした時間の分だけ、通信の完了が遅れる。何回も途切れてその度にやり直す場合には、通信の完了がさらに遅れる。したがって、ユーザ3にとっての作業効率を向上させる上で、文書データ通信を途切れさせることなく、最小限の時間で終えるのが好ましい。
【0052】
そこで、文書処理装置1には、通信が途切れたりする可能性をできるだけ小さくするために、検出された通信強度と操作情報とに基づいて、端末装置2と文書処理装置1との間の通信におけるデータ転送量を制御するという、通信制御機能が備わっている。
【0053】
次に、この通信制御機能に関わる構成および動作を順次説明する。
【0054】
図5には文書処理装置1のハードウェア構成の例が示されている。
【0055】
文書処理装置1は、CPU(Central Processing Unit )10a、RAM(Random Access Memory)10b、ROM(Read Only Memory)10c、補助記憶装置10d、タッチパネルディスプレイ10e、操作キー群10f、NIC(Network Interface Card)10g、モデム10h、スキャナ10i、プリンタ10j、認証制御部10k、および無線通信ユニット10pなどによって構成される。
【0056】
タッチパネルディスプレイ10eおよび操作キー群10fは、操作パネル12に備わっている。タッチパネルディスプレイ10eは、ユーザに対するメッセージを示す画面、ユーザがコマンドまたは情報を入力するための画面、およびCPU10aが実行した処理の結果を示す画面などを表示する。また、タッチパネルディスプレイ10eは、タッチされた座標位置を示す信号をCPU10aへ送る。操作キー群10fは、スタートキー121(
図2参照)および他のハードウェアキーによって構成される。
【0057】
NIC10gは、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol )などのプロトコルによって外部の装置と通信する。
【0058】
モデム10hは、ファクシミリ端末との間でG3などのプロトコルでファクシミリ・データフォーマットの文書データをやり取りする。
【0059】
スキャナ10iは、プラテンガラスの上にセットされたシート(原稿)に記されている画像を読み取って画像データフォーマットなどの文書データを生成する。
【0060】
プリンタ10jは、スキャナ10iによって読み取られた画像を印刷する。また、ネットワークプリントを行う。つまり、パーソナルコンピュータなどからNIC10gによって受信されたデータ、またはファックス端末からモデム10hによって受信されたデータなどに基づいて、画像を用紙に印刷する。さらに、端末装置2から無線通信ユニット10pによって受信された文書データに基づいて画像を用紙に印刷する。
【0061】
認証制御部10kは、端末装置2から無線通信ユニット10pによって受信された認証データなどに基づいて、ユーザ認証のための処理を行う。また、認証制御部10kは、通信相手である端末装置2を認証し、ペアリングなど接続の確立のための処理を行う。
【0062】
無線通信ユニット10pは、操作パネル12上の位置を通信基点P1として、端末装置2との間で電波を送受信して通信を行う。無線通信ユニット10pのアンテナのみを通信基点P1に配置してもよい。無線通信ユニット10pは、本発明における「通信部」の例である。無線通信ユニット10pは、例えばBluetooth(登録商標)またはBluetooth(登録商標)Low Energyの規格に準拠したプロトコル(プロファイル)によって端末装置2と通信する。
【0063】
ROM10cまたは補助記憶装置10dには、コピー機、プリンタ、ファクシミリ機、およびスキャナなどとして文書処理装置1を動作させるためのプログラムが記憶されている。さらに、上述の文書データ通信に関わる機能を実現するための作業効率化用プログラムが記憶されている。
【0064】
これらのプログラムは、必要に応じてRAM10bにロードされ、CPU10aによって実行される。補助記憶装置10dとして、ハードディスクドライブまたはSSD(Solid State Drive )などが用いられる。
【0065】
図6には端末装置2のハードウェア構成の例が示されている。
【0066】
端末装置2は、CPU20a、RAM20b、ROM20c、フラッシュメモリ20d、操作キー群20e、表示部20f、認証制御部20k、および無線通信ユニット20pなどによって構成される。
【0067】
操作キー群20eは、端末装置2の操作に必要な各種の操作キーによって構成される。
【0068】
表示部20fは、端末装置2の状態を表示するディスプレイまたはランプなどを有する。表示部20fは、各種の画面を表示するタッチパネルディスプレイを有していてもよい。
【0069】
認証制御部20kは、ユーザ3が文書処理装置1にログインするのに必要な認証データを文書処理装置1に送信する処理を行う。認証データは、予め認証制御部20kに入力されたユーザIDおよびパスワードであってもよい。認証制御部20kは、端末装置2がウエアラブル型である場合、端末装置2を身に付けたユーザ3の生体情報(例えば脈波)を検出し、その検出データを認証データとして送信するものであってよい。
【0070】
また、認証制御部20kは、通信相手である文書処理装置1を認証し、ペアリングなど接続の確立のための処理を行う。
【0071】
無線通信ユニット20pは、文書処理装置1の無線通信ユニット10pとの間で電波を送受信して通信を行う。無線通信ユニット20pにはアンテナが含まれる。
【0072】
図7には文書処理装置1の機能的構成の例が示されている。
【0073】
図7において、文書処理装置1には、通信制御部101、通信強度検出部102、操作情報検出部103、通信実行判断部104、データ転送量制御部105、およびデータ取得部107などが設けられる。これらの機能は、上に述べたハードウェア構成により、および上に述べた作業効率化用プログラムなどがCPU10aによって実行されることにより実現される。
【0074】
通信制御部101は、無線通信ユニット10pによる端末装置2との通信を制御し、接続の確立に必要な処理を行う。また、通信制御部101は、端末装置2の無線通信ユニット20pとの通信の状況を示す通信状況データD101を生成する。通信状況データD101に、その時々の電波の受信状況を示す情報と共に、端末装置2の無線通信ユニット20pの仕様で決まる出力電力またはクラスなどを示す情報を含ませることができる。これらの情報は、例えば端末装置2との間で接続を確立する前にまたは接続を確立する際に、端末装置2から取得すればよい。または、接続を確立する際に端末装置2を特定する識別情報(例えば、MACアドレス)を取得し、各種機器の仕様のデータベースを検索してこれらの情報を取得してもよい。
【0075】
通信強度検出部102は、例えば通信状況データD101に含まれる受信状況を示す情報に基づいて、無線通信ユニット10pにおいて受信した端末装置2の通信強度TKを検出する。
【0076】
操作情報検出部103は、操作パネル12への入力操作があったときにその座標位置(タッチ座標)を含む操作情報S12を検出する。入力操作には、タッチパネルディスプレイ10eへのタッチおよび種々のジェスチャー操作、および操作キー群10fのハード操作キーの押下が含まれる。ジェスチャー操作には、タップ操作、スワイプ操作、ドラッグ操作、フリック操作、ホールド操作、およびピンチ操作などがある。
【0077】
通信実行判断部104は、通信強度TKに基づいて、端末装置2との間で通信(文書データ通信)を実行するか否かを判断する。すなわち、通信実行判断部104は、通信強度TKがしきい値thを越えているときに、端末装置2が通信範囲内にあるとして端末装置2との間で通信を実行すると判断する。このときのしきい値thとして、例えば、確定的な通信範囲51であるしきい値th1、暫定的な通信範囲50であるしきい値th0、その他のしきい値thを用いることができる。
【0078】
上に述べたように、端末装置2からの電波の強度DKは、端末装置2の出力電力に依存するので、通信相手となった端末装置2の出力電力に応じてしきい値thを決定すればよい。また、出力電力に応じてしきい値thを変えるのではなく、出力電力に応じた係数を電波の強度DKに乗じるなどして正規化してもよい。この場合に、電波の強度DKを正規化したものを通信強度TKとして用いることができる。
【0079】
また、接続の確立の際に、ユーザ3が端末装置2を操作パネル12の表面の通信基点P1を示すマークに接触させ、文書処理装置1がそのときの電波の強度DKを測定してキャリブレーションを行うようにしてもよい。
【0080】
先に述べたように、しきい値thを用いて通信強度に基づいて通信を実行するか否かを判断することは、文書処理装置1と端末装置2との間の距離Lに基づいて判断するのと同等である。したがって、通信実行判断部104は、無線通信ユニット10pにより検出された通信強度TKに基づいて得られる端末装置2との間の距離Lが所定のしきい値(通信範囲の半径rに相当する値)Lth以下となったときに、端末装置2との間で通信を実行すると判断する、ように構成してもよい。
【0081】
また、通信実行判断部104は、操作情報S12に基づいて入力操作があったか否かを判別し、入力操作があったときに端末装置2との間で通信を実行すると判断することも可能である。この場合に、端末装置2が所定の通信範囲に入っていること、つまり通信強度TKが所定のしきい値th以上であることを前提条件とすることが好ましい。この場合の所定の通信範囲として、例えば暫定的な通信範囲50を用いることができる。
【0082】
通信実行判断部104による判断の結果D104は、データ転送量制御部105およびデータ取得部107などに通知される。
【0083】
通信実行判断部104によって通信を実行すると判断されたときに、データ取得部107は、通信制御部101と連携して、端末装置2のデータ保存部202に保存されている文書データDDを端末装置2から文書処理装置1へ転送させる。このとき、次に述べるデータ転送量制御部105によって、通信におけるデータ転送量DTが制御される。
【0084】
データ取得部107は、転送された文書データDDを例えば補助記憶装置10dに格納する。その後、ユーザ3によって印刷の開始が指示されると、文書データDDがプリンタ10jによって印刷される。印刷が完了して不要になった文書データDDは削除される。
【0085】
データ転送量制御部105は、通信強度検出部102により検出された通信強度TKと操作情報検出部103により検出された操作情報S12とに基づいて、端末装置2と通信制御部101との間の通信におけるデータ転送量DTを制御する。つまり、データ転送量制御部105は、通信強度TKと操作情報S12とに基づいて、通信が途切れないであろう範囲内で一度にできるだけ多くのデータを転送することができるように、データ転送量DTを変更する。
【0086】
例えば、データ転送量制御部105は、通信強度TKがしきい値th2よりも大きいときに、データ転送量DTを多くし、通信強度TKがしきい値th2よりも小さいときに、データ転送量DTを少なくする。
【0087】
また、データ転送量制御部105は、操作情報S12が操作有りを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも大きいときに、データ転送量DTを多くし、操作情報S12が操作有りを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも小さいときに、データ転送量DTを少なくし、操作情報S12が操作無しを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも大きいときに、データ転送量DTを多くし、操作情報S12が操作無しを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも小さいときに、データ転送量DTを0にする。
【0088】
また、データ転送量制御部105は、操作情報S12が示すジェスチャー操作の種類に応じてデータ転送量DTを制御する。
【0089】
例えば、操作情報S12が示すジェスチャー操作の種類が、タップ操作、スワイプ操作、ドラッグ操作、またはフリック操作の場合に、データ転送量DTを少なくし、操作情報S12が示すジェスチャー操作の種類がホールド操作またはピンチ操作の場合に、データ転送量DTを多くする。
【0090】
また、データ転送量制御部105は、操作情報S12が示す座標位置とジェスチャー操作の種類とに基づいて、端末装置2が通信範囲51から外れるまでの距離を予測して求め、求めた距離に応じてデータ転送量DTを制御する。
【0091】
また、操作情報検出部103が、操作情報S12として一定方向への移動をともなう操作(スワイプ、ドラッグなど)を検出したときに、データ転送量制御部105は、通信強度TKがしきい値th4以下となっている場合にはデータ転送量DTを少なくし、通信強度TKがしきい値th4を越えている場合にはデータ転送量DTを多くする。
【0092】
また、データ転送量制御部105は、操作情報S12が示す座標位置の移動速度MVがしきい値Mth1よりも大きい場合に、データ転送量DTを少なくする。
【0093】
また、データ転送量制御部105は、操作パネル12への入力操作の時間間隔JKがしきい値Jth1よりも長い場合に、データ転送量DTを少なくする。
【0094】
また、データ転送量制御部105は、操作パネル12上で階層化された操作キーに対する入力操作があった場合に、データ転送量DTを多くする。
【0095】
また、データ転送量制御部105は、操作情報S12が示す座標位置と通信強度TKとに基づいて、端末装置2が通信範囲51から外れるまでの距離を予測して求め、求めた距離に応じてデータ転送量DTを制御する。
【0096】
また、認証モードである場合に、データ転送量制御部105は、通信強度TKの大きさに応じて端末装置2と通信制御部101との間の通信におけるデータ転送量DTを制御し、通信制御部101は、認証が完了した後に端末装置2との間の通信を終了する。
【0097】
また、データ転送量制御部105は、通信強度TKの大きさに応じて端末装置2と通信制御部101との間の通信におけるデータ転送量DTを制御し、通信制御部101が通信を実行して端末装置2に文書データが記憶されている場合に当該文書データを受信し、通信制御部101は、文書データの受信が完了した後に端末装置2との間の通信を終了する。
【0098】
なお、本実施形態において、データ転送量DTとして、端末装置2から通信制御部101へのデータ(文書データDD)の送信単位USが用いられる。この場合に、データ転送量制御部105は、1回で送信するデータの送信単位USを大きくしたり小さくしたり可変するよう制御する。例えば、全部で1ページ分のデータを転送する場合に、そのデータを送信単位USが同じかまたは異なる複数のブロックに分割する。
【0099】
送信単位USを小さくするほど、1回の送信(1つのブロックの送信)の所要時間が短くなり、送信中に端末装置2が通信範囲51から外れるなどして通信が途切れることが起こりにくくなる。また、仮に送信の終了間際で通信が途切れたとしても、途切れることで無駄になる送信に費やされた時間は、送信単位USが大きい送信がその終了間際で途切れた場合よりも短い。
【0100】
反面、ブロックの送信単位USを小さくするほど、文書データDDの分割数が多くなる。ブロックを送信するごとに、送信側ではヘッダーおよびフッターをブロックに付して転送ビット列を生成するなどの処理(送信の準備)を行う必要があり、受信側では受信した転送ビット列からブロックを抽出するなどの復元処理を行う必要がある。このため、送信単位USを小さくするほど、文書データDDの転送(送受信)に伴う処理の量が増える。また、文書データDDの全体の転送に要する合計の時間が長くなるあおそれがある。
【0101】
したがって、文書データDDを効率的に転送するには、通信が途切れないであろう範囲内で、送信単位USをできるだけ多くするように制御するのが好ましい。
【0102】
図8には、文書データDD1の分割の例が、
図9には、通信強度TKの変化およびそれに応じた送信単位USの制御の例が、それぞれ示されている。
図9は
図8の例に対応している。
【0103】
図8に示す例では、1ページ分の文書データDD1が、種々の大きさの送信単位US1,US2,US3,…,US7のブロックに分割されている。送信単位USとして、文書データDD1を構成する複数分のラインデータが割り当てられる。
【0104】
例えば、文書データDD1が、A4サイズの原稿を300dpiでスキャンして得たデータであったとすると、全体で約3500ラインとなる。これを10分割したとすると、1つの区分は350ラインとなる。そこで、例えば、350ラインを送信単位USの最大値USmaxとし、最大値USmaxに1以下の係数kを乗じたものを1回の送信の送信単位USとする。なお、350ラインの送信に0.5秒を要するとすると、0.5秒の間においてはユーザの手がほぼ静止した状態を維持している、または大きくは移動しない可能性が高いので、この間に1回の送信を完了できる可能性は充分にあると考えられる。
【0105】
この場合に、係数kが1であれば送信単位USは350ライン、係数kが0.5、0.25、0・1、0.95であれば、送信単位USは175ライン、88ライン、35ライン、30ラインなどとなる。
【0106】
図8において、6番目および7番目の各ブロックの送信単位US6,US7は、最大値USmaxとなっている。1番目、2番目および5番目の各ブロックの送信単位US1,US2,US5は、最大値USmaxの50%、3番目および4番目の各ブロックの送信単位US3,US4は、最大値USmaxの25%となっている。
【0107】
つまり、
図8の例は、文書データDD1を次のように7つのブロックに分割して順次に転送したことを示している。
【0108】
図9をも参照して、文書データDD1の転送を開始する時点t11では図中に太い実線で示すように通信強度TKが60%程度であって余り強くなかったので、送信単位US1を50%として1番目のブロックの送信を行った。2番目の送信に際しても通信強度TKが余り強くなかったので送信単位US2を50%とした。3番目および4番目の送信に際しては、通信強度TKが低下したので送信単位US3,US4を25%とした。5番目の送信に際しては、通信強度TKが少し強くなったので送信単位US5を50%として送信し、通信強度TKがさらに強くなって安定したので6番目および7番目の送信に際しては、送信単位US6,US7を100%とした。1番目から7番目までの送信によって、文書データDD1をすべて転送した。
【0109】
なお、文書データDDとして、スキャンや撮影などによって得られた生のデータ、圧縮などの処理を施した中間データ、写真領域、文字領域、線画領域などの領域ごとに区画された合成データまたはそれぞれの領域のデータ、電子的に作成したデータ、その他のデータを用いることが可能である。
【0110】
また、データ転送量DTとして、データの転送速度DVを用いてもよい。この場合に、データ転送量制御部105は、データの転送速度DVを、例えば50kbps、100kbps、0.4Mbps、または0.7Mbpsなどのように設定し、または変更することとなる。
【0111】
以下、ユーザ3が予め端末装置2に保存した文書を文書処理装置1に印刷させる場合を例として、文書処理装置1および端末装置2それぞれの動作を説明する。
【0112】
ユーザ3は、端末装置2を身に付けた状態で操作パネル12のタッチパネルディスプレイ10eを操作し、印刷すべき文書の選択を含む印刷条件の指定などを行う。印刷条件の指定が終わると、ユーザ3はスタートキー121を押下して印刷の開始を指示する。
【0113】
ユーザ3がタッチパネルディスプレイ10eを操作するとき、例えば
図4(A)に示すように端末装置2が通信範囲51に入る。端末装置2が通信範囲51に入った場合に、ユーザ3によるスタートキー121の押下を待つことなく、文書データ通信を開始して、印刷すべき文書の文書データDDを端末装置2から取り込む。
【0114】
再び
図9を参照して、ユーザ3が文書処理装置1に近づくにつれて、ユーザ3の所持する端末装置2が通信基点P1に近づく。端末装置2が通信基点P1に近づくと、通信強度TKが増大する。
【0115】
通信強度TKは、しきい値th0よりも小さい値から増大し、時点t0でしきい値th0を越え、時点t1でしきい値th1を越える。
【0116】
通信強度TKがしきい値th1を越えたタイミングで、つまり端末装置2が通信範囲51に入ったタイミングで、通信実行判断部104が端末装置2との間で文書データ通信を実行すると判断する。この判断を契機として、通信制御部101が端末装置2との間で接続を確立し、データ取得部107が端末装置2から文書データDDを次のようにして取得する。
【0117】
データ取得部107は、文書データDDの転送を要求し、文書データDDのデータ量を端末装置2に問い合わせる。文書データDDのデータ量が送信単位USの最大値USmaxよりも多い場合、文書データDDを複数に分割して順次に転送することになる。
【0118】
データ取得部107は、データ転送量制御部105によって設定された送信単位US(データ転送量DT)を、通信制御部101を介して端末装置2に通知する。
【0119】
端末装置2の通信制御部201は、文書データDDからその一部を1番目のブロックとして抽出し、ヘッダーおよびフッターを付して文書処理装置1へ送信する。1番目の送信では、文書データDDの先頭からデータ量が送信単位USとなるまでの部分を送信すべきブロックとする。
【0120】
文書処理装置1のデータ取得部107は、送信されてきた1番目のブロックを受信する。ヘッダーからフッターまで途切れずに受信すると、ブロックの受信に成功したことになる。
【0121】
1番目のブロックの受信が完了した後、または受信中に、データ転送量制御部105は、最新の操作情報S12および最新の通信強度TKに基づいて、新たに送信単位USを設定する。データ取得部107は、新たに設定された送信単位USを端末装置2に通知する。
【0122】
端末装置2の通信制御部201は、新たに送信単位USが通知されると、文書データDDから2番目のブロックを抽出し、それを送信する準備を行う。2番目のブロックは、文書データDDのうちの、1番目のブロックに続く部分であって、データ量が新たに通知された送信単位USとなる部分である。
【0123】
通信制御部201は、1番目のブロックの送信が終了した後に、2番目のブロックを送信し、データ取得部107は、送信されてきた2番目のブロックを受信する。
【0124】
以降において、文書データDDの全体の転送が完了するまで、文書処理装置1および端末装置2は、2番目のブロックの転送時と同様の処理を行う。すなわち、データ転送量制御部105は、ブロックの受信が完了した後にまたは受信中に、次のブロックの転送に適用するべき送信単位USを設定する。端末装置2の通信制御部201は、データ量が新たに設定された送信単位USのブロックを文書データDDから抽出して送信する。抽出するブロックは、文書データDDのうちの前のブロックに続く未抽出の部分である。データ取得部107は、送信されてきたブロックを受信する。
【0125】
データ取得部107は、受信した1番目から最終番目までのブロックを連結することによって、文書データDDを復元する。
【0126】
なお、必ずしも各ブロックのデータ量は送信単位USと完全に一致する必要はなく、送信単位USに近い値であればよい。例えば、文書データDDが複数のラインから構成される画像データである場合、文書データDDをライン単位でブロックに分割してもよい。この場合、設定された送信単位USと抽出されるブロックのデータ量との差は、最大で1ライン分となる。
【0127】
このように、文書データDDを複数のブロックに分割して転送しかつブロックごとに送信単位USを設定することによって、各ブロックの転送が途切れることなくかつ文書データDDの転送の所要時間をできるだけ短くすることが可能になる。
【0128】
以下、フローチャートを参照して、文書処理装置1の動作を説明する。
【0129】
図10には文書処理装置1における全体的な処理の流れの例が示されている。
【0130】
文書処理装置1は、端末装置2を探索する(#10)。例えば、無線通信ユニット10pが受信した1つまたは複数の端末装置2の電波から、それらの通信強度TKなどを取得し、最寄りの端末装置2を認識する。そして、暫定的な通信範囲51に入った端末装置2を、文書データ通信の相手として許可する端末装置2として認識する(#11)。
【0131】
文書処理装置1は、通信強度TKがしきい値th1以上となったときに(#12でYES)、端末装置2が確定的な通信範囲51に入ったとして文書データ通信を実行すると判断し(#13)、端末装置2との間で転送すべき文書データDDが有るか否かをチェックする(#14)。ステップ#12またはステップ#14でNOの場合には、
図10のフローの処理を終了する。
【0132】
文書データDDが有る場合に(#14でYES)、データ転送量制御を行い(#15)、制御されたデータ転送量DTに基づいて文書データ通信を実行する(#16)。データ転送量制御では、例えば上に述べたように送信単位USを制御したり、データの転送速度DVを制御したりする。データ転送量制御については、後で
図11、
図12、
図14、および
図16〜
図19のフローチャートに基づいて説明する。
【0133】
文書データ通信が終了した後(#17でYES)、操作情報S12に基づいて文書データDDを処理するためのジョブがあるか否かをチェックする(#18)。
【0134】
ステップ#18でYESの場合には、
図10のフローの処理を終了する。この場合に、文書処理装置1は、当該ジョブの実行開始を指示する入力操作に呼応して、文書データDDを処理するジョブを実行する。例えば、与えられたジョブが印刷ジョブであれば、文書データDDに対応する文書を印刷する。ファクシミリ送信ジョブであれば、文書データDDをユーザ3の指定した送信先へ送信する。保存ジョブであれば、文書データDDをユーザ3の指定した保存先へ格納する。
【0135】
ステップ#18でNOの場合には、一時記憶されている文書データDDを削除する(#19)。これにより、ユーザ3が保存を指示していないにもかかわらず端末装置2内の文書データDDが文書処理装置1に保存されてしまうのを防ぐことができる。
【0136】
以下、ステップ#15のデータ転送量制御の処理の例を説明する。
【0137】
図11には、データ転送量制御の処理の第1例が示されている。
【0138】
図11において、操作情報S12が操作有りを示すか否かのチェック(#521)、および通信強度TKがしきい値th3よりも大きいか否かのチェック(#522、#525)を行う。
【0139】
操作情報S12が操作ありを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも大きいときには(#521でYESかつ#522でYES)、データ転送量DTを多くする(#523)。これは、ユーザ3が、操作パネル12上の通信基点P1に近い位置において操作を行っている状態であるとの予測に基づく。この場合には、例えば、ユーザ3はジョブ設定をしながら手を頻繁に動かしているが、電波の強度DKは大きいため通信範囲51から外れる可能性は低い、と予測されるのである。したがって、例えば、文書データDDを細かく分割することなく、送信単位USを大きくし、データ転送の時間をできるだけ短縮する。この場合は、データ転送を優先する転送優先モードであるともいえる。
【0140】
操作情報S12が操作有りを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも小さいときには(#521でYESかつ#522でNO)、データ転送量DTを少なくする(#524)。これは、ユーザ3が、操作パネル12上の通信基点P1から離れた位置において操作を行っている状態であるとの予測に基づく。この場合には、例えば、ユーザ3はジョブ設定をしながら手を頻繁に動かしているために通信範囲51から外れて通信が途切れる可能性が高い、と予測されるのである。したがって、例えば、文書データDDを細かく分割して送信単位USを小さくし、転送失敗によるやり直しを起こり難くする。これは操作優先モードであるともいえる。
【0141】
操作情報S12が操作無しを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも大きいときに(#521でNOかつ#525でYES)、データ転送量DTを多くする(#526)。これは、ユーザ3が、ジョブ設定などの操作を行うことなく、手を通信基点P1に近づけた状態で文書データDDの転送や認証が完了するのを待っている状態であるとの予測に基づく。この場合に、データ転送が完了するまでに手を通信基点P1から遠ざける可能性は低く、通信強度TKは最も安定した状態であると予測される。したがって、例えば、文書データDDを小さく分割することなく、送信単位USを最大とし、全体のデータ転送の時間を短縮する。これは転送優先モードであるともいえる。
【0142】
操作情報S12が操作無しを示しかつ通信強度TKがしきい値th3よりも小さいときに(#521でNOかつ#525でNO)、データ転送量DTを0にする(#527)。これは、ユーザ3が、操作パネル12の操作を行うことなく、端末装置2も通信基点P1から離れている状態であるとの予測に基づく。この場合に、ユーザ3は、印刷済みの用紙または原稿を取りにきただけであると予測される。したがって、データの転送は不要であり、データ転送量DTを0にする。
【0143】
なお、ここで用いるしきい値th3は、しきい値th1と同じにしてもよく、またはしきい値th0と同じにしてもよい。また、しきい値th3を、しきい値th1としきい値th0との中間としてもよく、または、しきい値th1より大きい値またはしきい値th0よりも小さい値を用いてもよい。
【0144】
図12にはデータ転送量制御の処理の第3例が、
図13にはタップ操作に伴う端末装置2の移動の例が、それぞれ示されている。
【0145】
文書処理装置1は、操作情報S12が示すジェスチャー操作の種類に応じてデータ転送量DTを制御する。
【0146】
すなわち、操作情報S12が示すジェスチャー操作の種類が、タップ操作、スワイプ操作、ドラッグ操作、またはフリック操作の場合に(#531でYES)、データ転送量DTを少なくする(#532)。これは、これらのジェスチャー操作が行われるときには、ユーザ3の手が広範囲に動くため、通信範囲51から外れて通信が途切れる可能性が高い、との予測に基づく。
【0147】
例えば、タップ操作では、タッチパネルディスプレイ10eにタッチするユーザ3の指は、タッチ面に垂直な方向(Z方向)に移動する。
図13に示すように、タッチ位置P2に応じて、通信範囲51の外までの距離Lzが異なる。そのため、タッチ位置P2が通信基点P1から遠い場合には、指をタッチ面から離すときに通信範囲51から外れるおそれがある。
【0148】
これに対して、ジェスチャー操作の種類がホールド操作またはピンチ操作の場合には(#533)、データ転送量DTを多くする(#534)。これは、ホールド操作では指は移動することなく、ピンチ操作では指は移動するが腕は動かないので、端末装置2が通信範囲51の外に出るおそれが小さい、との予測に基づく。
【0149】
また、ジェスチャー操作の種類が、タップ操作、スワイプ操作、ドラッグ操作、フリック操作、ホールド操作およびピンチ操作のいずれでもない場合(#531でNOかつ#533でNO)、他の条件に基づいてデータ転送量DTを制御する(#535)。
【0150】
図14にはデータ転送量制御の処理の第3例が、
図15には最短離脱距離Lminの例が、それぞれ示されている。
【0151】
図14において、操作情報S12からXY座標におけるタッチ位置(つまり座標位置)とジェスチャー操作の種類とを抽出する(#541)
ジェスチャー操作の種類がホールド操作またはピンチ操作である場合(#542でYES)、すなわち、端末装置2が通信範囲51の外に出るおそれが小さいと予測される場合、データ転送量DTを多くする(#546)。
【0152】
ジェスチャー操作の種類がホールド操作またはピンチ操作ではない場合(#542でNO)、端末装置2から通信範囲51の端縁までの距離である最短離脱距離Lminを予測する(#543)。
【0153】
最短離脱距離Lminは、端末装置2が移動して通信範囲51から外れる場合の経路のうちの最も短い経路の長さである。通信範囲51が球状であることから、最短離脱距離Lminは、通信基点P1から端末装置2に向かう方向(
図15中に破線の矢印の方向)における、端末装置2と通信範囲51の端縁との距離である。
【0154】
図15(A)および(B)の例では、タッチ操作があったときの端末装置2の現在位置はタッチ位置P2から真上(Z方向)に10mmだけ離れた位置であるものとして、最短離脱距離Lminを予測する。すなわち、通信基点P1を原点としたXYZ座標空間において、タッチ位置P2の座標を(x,y,0)とし、端末装置2の座標を(x,y,10)として最短離脱距離Lminを計算する。座標成分の単位は1ミリメートルとする。
【0155】
詳しくは、まず、通信基点P1から端末装置2までの距離Lを、公知の三平方の定理に基づいて計算する。次に、通信基点P1と通信範囲51の端縁との既知の距離(半径r1)から距離Lを差し引く。これにより最短離脱距離Lminが求まる。
【0156】
例えば、端末装置2の座標が(−30,0,10)である場合、半径r1を100として計算すると、距離Lは31.6と求まり、最短離脱距離Lminは68.4となる。端末装置2の座標が(−90,0,10)である場合、距離Lは91.5と求まり、最短離脱距離Lminは9.5となる。
【0157】
求められた最短離脱距離Lminがしきい値Lth(例えば50)以下であるときに(#544でYES)、データ転送量DTを少なくする(#545)。例えば、データ転送量DTとして、上に述べたような送信単位USにおける50%未満の値を設定する。このとき、最短離脱距離Lminが小さいほど、小さい値を設定することができる。例えば、最短離脱距離Lminを係数kとして最大量に乗じた量をデータ転送量DTとしてもよい。この場合に、例えば最短離脱距離Lminが9.5であれば、データ転送量DTを最大値の9.5%と設定する。
【0158】
求めた最短離脱距離Lminがしきい値Lthよりも大きいときには(#544でNO)、ステップ#546へ進んでデータ転送量DTを多くする。
【0159】
なお、ステップ#546においては、ステップ#542でYESの場合もステップ#544でNOの場合も同じ量をデータ転送量DTとして設定してもよいし、これらの場合の間で異なる量をデータ転送量DTとして設定してもよい。例えば、いずれの場合も最大量としたり、ステップ#542でYESの場合が最大量としてステップ#544でNOの場合は最大量よりも少ない量としたりすることができる。
【0160】
図16には、データ転送量制御の処理の第4例が示されている。
【0161】
図16において、スワイプ操作のようにタッチ面と平行な一定方向への移動をともなう操作を操作情報S12として検出したときに(#550でYES)、その操作が通信基点P1にタッチ位置P2が近づく移動をともなうものか否かをチェックする(#552)。
【0162】
このチェックでYESの場合、すなわち端末装置2が通信範囲51から外れる可能性が小さい場合に、データ転送量DTを多くする(#553)。例えば、データ転送量DTとして最大量(100%)またはそれに近い量を設定する。
【0163】
ステップ#552のチェックでNOの場合、ステップ#550で検出した操作のために画面に配置された入力領域の全体が、通信範囲51の中に入っているか否かをチェックする(#554)。入力領域は、操作に応じて画面の全体または一部を移動させる処理が対応づけられた領域であり、操作キー、スライドバー、画面の背景部、画像を表示する領域など様々である。予め、入力領域と通信範囲51との位置関係を調べて、入力領域が通信範囲51に収まるか否かを示す情報を用意しておくと、ステップ#554のチェックは簡単になる。
【0164】
ステップ#554のチェックでNOの場合、すなわち操作にともなう移動が通信範囲51内での移動となって端末装置2が通信範囲51から外れるおそれの小さい場合に、データ転送量DTを多くする(#555)。例えば、データ転送量DTとして50%以上の量を設定する。ただし、タッチ位置P2が通信基点P1に近づく場合よりも、端末装置2が通信範囲51から外れるおそれが大きいので、ステップ#555では、ステップ#553で設定する量よりも少なくするのが好ましい。
【0165】
一方、ステップ#554のチェックである場合には、通信強度TKがしきい値th4以下になっているか否かをチェックする(#556)
通信強度TKがしきい値th4以下となっている場合には(#556でYES)、データ転送量DTを少なくする(#557)。例えば、データ転送量DTとして5〜50%の範囲内の量を設定する。
【0166】
通信強度TKがしきい値th4を越えている場合には(#556でNO)、最短離脱距離Lminを計算する(#558)。
【0167】
最短離脱距離Lminがしきい値Lth以下である場合に(#559でYES) 、上述のステップ557へ進んでデータ転送量DTを少なくする。また、最短離脱距離Lminがしきい値Lthを超えている場合に(#559でNO)、データ転送量DTを多くする(#560)。例えば、データ転送量DTとして50%以上の量を設定する。
【0168】
ステップ#550でNOの場合、他の条件に基づいてデータ転送量DTを制御する(#551)。
【0169】
図17には、データ転送量制御の処理の第5例が示されている。
【0170】
図17において、周期的に操作情報S12を取得して操作情報S12が示す座標位置の移動速度MVを検出する(#561)。
【0171】
移動速度MVがしきい値Mth1よりも大きい場合に(#562でYES)、すなわち短時間のうちに端末装置2が通信範囲51から外れるおそれが大きいと考えられる場合に、データ転送量DTを少なくする(#563)。例えば、データ転送量DTとして50%未満の量を設定する。
【0172】
移動速度MVがしきい値Mth1よりも大きくない場合(#562でNO)、データ転送量DTを多くする(#563)。例えば、データ転送量DTとして50%以上の量を設定する。
【0173】
図18には、データ転送量制御の処理の第6例が示されている。
【0174】
図18において、周期的に操作情報S12を取得して操作パネル12への入力操作の時間間隔JKを検出する(#571)。
【0175】
時間間隔JKがしきい値Jth1よりも大きい場合に(#572でYES)、すなわちユーザ3が操作に迷って不規則な動きをし、このために端末装置2が急に通信範囲51から外れるおそれが大きいと予測される場合、データ転送量DTを少なくする(#573)。例えば、データ転送量DTとして5〜30%の範囲内の量を設定する。
【0176】
時間間隔JKがしきい値Jth1よりも大きくない場合(#572でNO)、データ転送量DTを多くする(#574)。例えば、データ転送量DTとして50%以上の量を設定する。
【0177】
図19には、データ転送量制御の処理の第7例が示されている。
【0178】
図19に示す第7例は、階層化された複数の画面による操作に応じてデータ転送量DTを制御する例である。階層化された複数の画面による操作は、最上位(第1位)の画面から必要に応じて第2位以下の画面を呼び出す手順で進められる。ユーザ3が第2位以下の画面を呼び出した場合、それよりも下位または上位の画面を呼び出すことが多い。つまり、他の画面を呼び出すまで引き続き通信範囲51内に手を入れていることが多い。したがって、この場合には、端末装置2が短時間のうちに通信範囲51から外れるおそれが小さい。
【0179】
操作情報S12が操作有りを示す場合に(#581でYES)、階層化された操作キーに対する入力操作があったか否かをチェックする(#582)。階層化された操作キーは、階層化の第2位以下の画面に配置された操作キーである。
【0180】
ステップ#582でYESの場合、データ転送量DTを多くする(#583)。例えば、データ転送量DTとして50%以上の量を設定する。
【0181】
階層化された操作キーに対する入力操作以外の操作があったときには(#582でNO)、データ転送量DTを少なくする。例えば、データ転送量DTとして50%未満の量を設定する。
【0182】
また、操作情報S12が操作無しを示しかつ通信強度TKがしきい値th2よりも大きいときに(#581でNOかつ#585でYES)、上述のステップ#583へ進んでデータ転送量DTを多くする。通信強度TKがしきい値th2よりも大きくないとき(#585でNO)、ステップ#584へ進んでデータ転送量DTを少なくする。
【0183】
以上、文書データDDを転送する文書データ通信においてデータ転送量DTを制御する例を説明した。文書データDDの転送に限らず、認証データDAを転送するデータ通信が実行されているときに、データ転送量DTを制御するようにしてもよい。例えば、上述した脈波などの生体情報を認証データDAとして転送する場合、ユーザIDおよびパスワードといった認証データを転送する場合と比べて、転送の所要時間が長くなる。認証データDAの転送を途切れないようにする上で、データ転送量DTの制御が有効である。
【0184】
図20には、文書処理装置1における全体的な処理の流れの他の例が示されている。
図20の例は、認証データDAの転送に際してデータ転送量DTを制御する例である。
【0185】
図20において、端末装置2を探索し(#20)、暫定的な通信範囲51に入った端末装置2を、データ通信の相手として許可する端末装置2として認識する(#21)。こここまでは
図10のフローの処理と同様である。
【0186】
ユーザ3を認証する認証モードである場合(#22でYES)、通信強度TKをチェックする(#23)。そして、通信強度TKがしきい値th1以上となったときに(#23でYES)、端末装置2が確定的な通信範囲51に入ったとしてデータ通信を実行すると判断する(#24)。
【0187】
認証モードでない場合(#22でNO)および通信強度TKがしきい値th1以上でない場合(23でNO)、
図20のフローの処理を終了する。
【0188】
データ通信を実行すると判断すると、認証データDAのブロックごとにデータ転送量DTを設定する「データ転送量制御」の処理を行う(#25)。この処置の流れは、上述の
図11、
図12、
図14、および
図16〜
図19に示した流れと同様である。
【0189】
ブロックごとにデータ転送量DTを制御して認証データDAを転送するデータ通信を、端末装置2との間で行う(#26)。データ通信を行っている間(#27でNO)、ブロックを転送するごとにデータ転送量制御を行う。
【0190】
データ通信が終了しかつ認証データDAによるユーザ3の認証が終了すると(#27でYESかつ#28でYES))、端末装置2から受信した認証データDAを削除する(#29)。
【0191】
上に述べた実施形態において、データ転送量制御部105は、端末装置2と無線通信ユニット10pとの間の文書データ通信が終了する以前の段階において、文書データ通信によって転送すべき文書データDDの残量がしきい値以下となった場合に、データ転送量DTを多くすることができる。例えば、データ転送量DTを最大量とする。
【0192】
つまり、このような場合には文書データ通信が間もなく終了するので、文書データ通信の途切れるおそれが小さくなったとして、より早く通信を完了できるようにする。
【0193】
文書データ通信は、端末装置2から文書処理装置1へのデータ転送に限らず、文書処理装置1から端末装置2への文書データDDまたは認証用のデータの転送であってもよい。
【0194】
文書処理装置1は、MFPに限らず、文書データを処理する機器であればよく、コピー機、プリンタ、ファクシミリ機、スキャナなどであってもよい。
【0195】
通信基点P1の位置は、操作パネル12の隅部に限らない。タッチパネルディスプレイ10eの表示面の中央または表示面内の他の位置を通信基点P1としてもよい。通信範囲50,51の大きさ、および距離Lの範囲は、例示の値に限らない。
【0196】
しきい値th0、th1、th2、th3、th4、Lth1、Mth1、Jth1は、例えば実験の結果に基づいて最適化することができる。これらしきい値を、それぞれ固定の値としてもよいし、電波の状況を含む環境に応じて調整する可変の値としてもよい。また、通信強度TKなどとしきい値との比較において、それぞれ複数のしきい値を用い、比較するしきい値に対応したデータ転送量DTを設定するようにしてもよい。
【0197】
操作パネル12に表示されている画面について、通信範囲51の内に配置された操作キーの数と、通信範囲51の外にまたは内と外にまたがって配置された操作キーとの数に基づいて端末装置2が通信範囲51から外れる確率を計算し、確率に応じてデータ転送量を制御してもよい。その場合に、例えば、確率がしきい値よりも大きいときにデータ転送量を少なくし、確率がしきい値よりも小さいときにデータ転送量を多くする。
【0198】
その他、操作パネル12、無線通信ユニット10p、通信強度検出部102、操作情報検出部103、通信実行判断部104、データ転送量制御部105、データ取得部107、端末装置2、または文書処理装置1の全体または各部の構成、処理の内容、順序、またはタイミング、データ転送量DTの制御の内容またはタイミングなどは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。