(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
モーターや変圧器等に使用される電磁鋼板の絶縁被膜には、層間抵抗だけでなく、加工成形時の利便性および保管、使用時の安定性など種々の特性が要求される。電磁鋼板は多様な用途に使用されるため、その用途に応じて種々の絶縁被膜の開発が行われている。
【0003】
電磁鋼板に打抜加工、せん断加工、曲げ加工などを施すと残留歪みにより磁気特性が劣化するので、これを解消するために700〜800℃程度の温度で歪取焼純を行う場合が多い。従って、この場合には、絶縁被膜が歪取焼鈍に耐え得るものでなければならない。
【0004】
一方、省エネルギーのためモーター、トランスなどの高効率化、小型化の要求が強く、発熱による巻き線の絶縁体の損傷、故障、性能劣化が懸念され、熱伝導性、特に積層方向の熱伝導性に優れる電磁鋼板の積層コアが求められている。鋼板の積層方向の熱伝導性を高くすることにより、鋼板同士を接着させたときの抜熱性を向上させることができる。
【0005】
例えば特許文献1には、特殊組成のクロム酸金属塩を含有する絶縁被膜を持つ電磁鋼板が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、加熱により接着能を発揮する皮膜(接着皮膜)が施された電磁鋼板を積層し、加熱接着して形成されたコアの積層方向の熱伝導率が電磁鋼板の板内の1/5以上である積層コアが開示されている。
【0007】
特許文献3には、積層する電磁鋼板間に平均厚さが4μm以下であり、無機物粒子を含む有機物層が存在する積層鉄心が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、電磁鋼板間に空気よりも熱伝導率が高く絶縁性物質(例えば絶縁性オイル)が充填されているステータコアが開示されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、リン酸金属塩またはコロイダルシリカと樹脂とから構成されるバインダーに対し、平均粒径が2.0〜15.0μmであるシリコーン樹脂を混合し、分散させた絶縁被膜を有する電磁鋼板が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
電磁鋼板はせん断などの加工を受けてから使用されるが、加工歪みにより磁気特性が劣化する。これに対し、歪取焼鈍を施すことにより、磁気特性を回復できることが一般的に知られている。
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示の電磁鋼板ではクロム酸を使用することによる環境負荷の課題があり、他の材料を用いることが求められていた。特許文献2、3に開示される被膜は、樹脂バインダーを含有し低温成膜性および低温接着性を改良しているが、耐熱性に課題があり、歪取焼鈍などの高温処理後は被膜が劣化する。また、特許文献2については、接着皮膜としては、アクリル系樹脂やエポキシ系樹脂などを含むもの、熱伝導を促進する金属、石英、炭素等を含むものが例示されているのみで具体的な処方の開示がなされていない。また、特許文献4については、電磁鋼板の絶縁被膜の焼鈍に対する開示はなく、電磁鋼板の絶縁被膜の歪取焼鈍後に十分な密着性および抜熱性が得られない。また、特許文献5は層間を充填する絶縁被膜がシリコーン樹脂を含有するため、歪取焼鈍後に十分な密着性および抜熱性が得られない。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、歪取焼鈍を行っていない場合のみならず、歪取焼鈍を行っても密着性および抜熱性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板およびこれを用いた積層電磁鋼板ならびにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、以下を知見した。有機樹脂と低融点ガラスを組み合わせた被膜では、歪取焼鈍後に密着性が不十分であるばかりでなく、抜熱性も不十分であるということが分かった。また、有機樹脂に高熱伝導性物質を組み合わせた被膜においても、期待する抜熱性向上がほとんど見られなかった。これに対し、被膜にポリビニルアルコール系樹脂を特定量含有させた場合には、密着性向上とともに抜熱性が向上することが見出された。また、絶縁被膜にAlN、BN、Al
2O
3、MgOなどの高熱伝導性物質を含有させた場合、さらに抜熱性が向上する効果が見られた。
【0015】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]低融点ガラス:20〜99質量%と、
ポリビニルアルコール系樹脂:1〜15質量%と、
を含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板。
[2]前記絶縁被膜がAlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子を20〜79質量%含有することを特徴とする前記[1]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
[3]前記AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする前記[2]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板を、前記絶縁被膜を介して、2枚以上を積層されていることを特徴とする積層電磁鋼板。
[5]前記[1]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法であり、
低融点ガラスと、ポリビニルアルコール系樹脂とを含有する処理液を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布し、焼付けて絶縁被膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法。
[6]前記[2]または[3]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法であり、
低融点ガラスと、ポリビニルアルコール系樹脂と、AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子と、を含有する処理液を電磁鋼板の少なくとも片面に塗布し、焼付けて絶縁被膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法。
[7]前記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板を、前記絶縁被膜を介して、2枚以上を積層することを特徴とする積層電磁鋼板の製造方法。
[8]積層後、歪取焼鈍することを特徴とする前記[7]に記載の積層電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、歪取焼鈍を行っていない場合のみならず、歪取焼鈍を行っても密着性および抜熱性に優れる絶縁被膜付き電磁鋼板およびこれを用いた積層電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、低融点ガラス:20〜99質量%と、ポリビニルアルコール系樹脂:1〜15質量%とを含有する絶縁被膜を少なくとも片面に有する。このように、本発明の電磁鋼板は、特定量のポリビニルアルコール系樹脂を含有することで、密着性と抜熱性の双方を向上させることができ、歪取焼鈍を行うことで抜熱性を更に向上させることができる。
【0019】
本発明において、素材である電磁鋼板としては、特に制限はなく、従来から公知のものいずれもが適合する。磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)やSPCC等の一般冷延鋼板、また比抵抗を上げるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板、方向性電磁鋼板など、いずれも用いることができる。
【0020】
次に、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に用いる絶縁被膜について説明する。
【0021】
低融点ガラス:20〜99質量%
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に形成される絶縁被膜は、密着性を発現させるために、低融点ガラスを20〜99質量%含有する。本発明において、低融点ガラスとは融点または軟化点が700℃以下のガラスである。このように、低融点ガラスは有機樹脂より熱伝導性が高く、鋼板同士を接着させることにより、抜熱性を向上させることができる。低融点ガラスの融点または軟化点は鉄芯が使用される温度より高く、歪取焼鈍温度より低い温度である。このため、通常の鉄芯を取扱う環境では溶融または軟化することがなく問題なく使用でき、歪取焼鈍により溶融または軟化して鋼板同士を接着できる効果を有することになる。なお、低融点ガラスの融点または軟化点は、コアとしての実使用における温度上昇を考慮すると200℃以上であることが好ましい。低融点ガラスの組成としては、R:アルカリ金属として、SiO
2−B
2O
3−R
2O系、P
2O
5−R
2O系、SiO
2−PbO−B
2O
3系、B
2O
3−Bi
2O
3系、SiO
2−B
2O
3−ZnO系、SnO−P
2O
5系、SiO
2−B
2O
3−ZrO
2系などが上げられ、これらのうちから選ばれる一種または二種以上を含有することができる。中でも、SiO
2−B
2O
3−R
2O系が鉛を含まないため好適に用いられる。低融点ガラスの粒子径は特に限定されず、平均で0.1μm以上100μm以下が好ましく、更に0.3μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に形成される絶縁被膜中、低融点ガラスの含有量が20質量%未満であると、歪取焼鈍後の密着性と抜熱性が不十分となる。一方、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に形成される絶縁被膜中、低融点ガラスの含有量が99質量%超えであると、歪取焼鈍の前後における密着性と抜熱性が劣化する。そのため、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に形成される絶縁被膜中、低融点ガラスの含有量は、20〜99質量%とする。また、後述するように、絶縁被膜中にAlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子を含有させる場合には、20質量%以上のこの粒子と、後述の1質量%以上のポリビニルアルコールとを含有することができるように、低融点ガラスの含有量の上限値は79質量%とすることができる。
【0023】
ポリビニルアルコール系樹脂:1〜15質量%
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板に形成される絶縁被膜は、ポリビニルアルコール系樹脂を1〜15質量%含有する。ポリビニルアルコールは水溶性で適度な粘度があり、水酸基に富む分子構造をもつため、低融点ガラスの分散性を向上できる。加熱乾燥で成膜するが、低温の水には比較的溶けにくいためべたつきにくい。また、熱分解温度が低いためガスが抜けやすく、焼鈍時の残留量が他の有機樹脂にくらべ少なくなる。これらのことにより、低融点ガラスの焼鈍時の溶け込みが改善され、鋼板間の伝熱ネットワークが十分に発達し、歪取焼鈍後における優れた抜熱性が得られるものと考えられる。
【0024】
ポリビニルアルコールとしては特に制限はなく、完全けん化、中間けん化、部分けん化、低けん化したものが好適に適用できる。重合度も特に制限はないが、100〜10000のものが適用できる。
【0025】
絶縁被膜中のポリビニルアルコール系樹脂の含有量として、1質量%未満では歪取焼鈍の前後における密着性および抜熱性が低下する傾向にあり、15質量%を超えると歪取焼鈍後の密着性および抜熱性が低下する傾向にある。そのため、絶縁被膜中のポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、1〜15質量%とする。
【0026】
ポリビニルアルコール系樹脂中、ポリビニルアルコール以外の他の樹脂、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリオレフイン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の水性樹脂(エマルジョン、ディスパーション、水溶性)との共重合体や混合物も適用可能であるが、ポリビニルアルコール成分が樹脂中50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0027】
AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子
本発明の電磁鋼板に形成される絶縁被膜は、AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子を全被膜成分に対し20〜79質量%含有してもよい。これらの粒子を20質量%以上含有することにより、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板では、抜熱性を向上させることができ、歪取焼鈍を行うことで抜熱性を更に高めることができる。また、これらの粒子を79質量%以下含有することにより、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板では、密着性を損なうことなく抜熱性を向上させることができ、歪取焼鈍を行うことで抜熱性を更に高めることができる。より好ましくは、AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子の含有量は、全被膜成分に対し30〜65質量%である。これらの粒子は、粒子単独で高い熱伝導性をもつものであるが、粒子状のため熱の経路が形成されにくく、歪取焼鈍を行った後の抜熱性を発揮しにくい。これに対し、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板では、低融点ガラスおよびポリビニルアルコールと組み合わせてAlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子を含有することにより、その高熱伝導性を発揮できる。
【0028】
絶縁被膜を介した積層状態において鋼板同士が十分に接触し、歪取焼鈍を行った後の抜熱性を高めるために、粒子の平均粒子径を規定することは重要である。AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。上記粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることで、歪取焼鈍の前後における抜熱性および密着性をより向上させることができる。上記粒子の平均粒子径を0.1μm以上とすることで、電磁鋼板を積層接着した場合に粒子同士が繋がりやすくなり、特に接着した場合の鋼板間距離が小さい場合には有効である。また、上記粒子の平均粒子径が10μm以下であれば、積層接着したコアの占積率の低下を抑えることができる。さらに好ましくは、上記粒子の平均粒子径は0.7μm以上5.0μm以下である。
【0029】
AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子の平均粒子径は、原料粒子の粒子径で代表できる。原料粒子の粒子径はレーザー回折法を用いた粒度分布測定から得ることができる。もしくは、絶縁被膜中の粒子径は埋込研磨断面観察において、存在している粒子の粒子径を10ヵ所以上測定し、その平均値とする。断面での形態は丸、楕円、多角形など様々なものがありうるが、粒子径としては面積から計算により円形に換算した直径とする。
【0030】
なお、絶縁被膜に含まれる上記成分及び比率は塗液調合時の調合比率から知ることができる。また、20質量%NaOH水溶液中で絶縁被膜付き電磁鋼板の絶縁被膜を加熱溶解し、溶解液中の各成分をICP分析することで、乾燥被膜中の比率を測定できる。積層電磁鋼板については層間の分析が難しい場合があるが、最外層の絶縁被膜の分析で層間の絶縁被膜組成を代表することができる。
【0031】
なお、乾燥被膜中の比率とは、鋼板の表面に形成した絶縁被膜における各成分(固形分)の割合であり、例えば、絶縁被膜を形成するための処理液を180℃で30分間乾燥させた後の乾燥後残存成分から求めることができる。
【0032】
さらに、本発明では、上記した成分の他、界面活性剤や防錆剤、潤滑剤、酸化防止剤等、通常用いられる添加剤や、その他の無機化合物や有機化合物の含有を妨げるものではない。
【0033】
また、本発明では、上記した成分の他、さらにAl、Ca、Li、F、P、Zn、V、Te、Ge、Ag、Tl、S、I、Br、As、Bi、Cd、Pbの各化合物、顔料などの無機化合物や防錆剤、界面活性剤などを1種および/または2種以上添加することができる。このような、添加剤は本発明の効果を損なわない程度に添加できるが、絶縁被膜中30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましい。また、添加は可能であるが、As、Bi、Cd、Pbについては添加しないことが環境上好ましい場合がある。
【0034】
また、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の被膜は絶縁性であるため、鉄損を低くすることができる。
【0035】
次に、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法(電磁鋼板への絶縁被膜の形成方法)について説明する。本発明では、素材である電磁鋼板の前処理については特に規定しない。すなわち、素材である電磁鋼板は未処理でもよい。また、アルカリ液を用いた脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などを用いた酸洗処理を素材である電磁鋼板に施すことは好ましい。
【0036】
そして、この電磁鋼板の表面に、低融点ガラス、ポリビニルアルコール系樹脂、あるいはさらに、AlN、BN、Al
2O
3およびMgOから選ばれる1種または2種以上の粒子、必要に応じて添加剤等を所定の割合で配合した処理液を塗布し、焼き付けることにより本発明の絶縁被膜を形成させる。処理液における固形分の濃度は特に定めないが、10〜500g/lが好ましい。処理液の作製方法は特に限定されず、固形分を水、溶媒等の媒体中に含有させて処理液を調製すればよい。
【0037】
絶縁被膜用処理液の塗布方法は、一般工業的に用いられるロールコーター、フローコーター、スプレー、ナイフコーター等種々の方法が適用可能である。また、焼付け方法についても、通常実施されるような熱風式、赤外式、誘導加熱式等が可能である。焼付け温度も通常レベルであればよく、到達鋼板温度で150〜350℃程度であればよい。好ましくはポリビニルアルコールの分解を抑制するため、焼付け温度は250℃以下である。
【0038】
さらに、上記により得られた絶縁被膜付き電磁鋼板を、絶縁被膜を介して、2枚以上を積層し一体化することで積層電磁鋼板を得ることができる。すなわち、絶縁被膜を介して電磁鋼板を重ね合わせて、好ましくは加熱加圧して積層電磁鋼板とする。その表面に更に絶縁被膜塗装を施してもよい。加熱温度(歪取焼鈍温度)は通常行われる範囲、例えば雰囲気温度750℃で行うことができる。また、加圧は通常行われる範囲、例えば圧力を0.001〜10MPaとし、0.1〜10時間行うことができる。このような積層電磁鋼板とすることで、板厚が0.30mm以下の薄鋼板であっても形状保持性が向上してハンドリング性が向上するばかりでなく、打抜回数が減り生産性を大幅に向上できる。また、積層後自重または上記した加圧条件下で歪取焼鈍して固着させて鉄芯(コア)とすることができるので、単板と同様に磁気特性を大幅に回復することができる。本発明の積層電磁鋼板の用途としては、積みコア、巻きコア、磁気シールド材等を例示できる。本発明の積層電磁鋼板の用途としては、好ましくは、積みコア、巻きコアである。
【0039】
上記積層電磁鋼板において、層間の絶縁被膜は本発明のものを好適使用することができる。
【0040】
また、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、歪取焼鈍を施して、例えば、打抜加工による歪みを除去することができる。好ましい歪取焼鈍雰囲気としては、N
2雰囲気、DXガス雰囲気などの鉄が酸化されにくい雰囲気が適用される。ここで、露点を高く、例えばDp:5〜60℃程度に設定し、表面および切断端面を若干酸化させることで耐食性をさらに向上させることができる。好ましい歪取焼鈍温度としては雰囲気温度で700〜900℃、より好ましくは700〜800℃である。歪取焼鈍温度の保持時間は長い方が好ましいが、1時間以上がより好ましい。
【0041】
絶縁被膜は電磁鋼板両面にあることが好ましい。また、絶縁被膜は積層電磁鋼板の最外面の両面にあることが好ましい。しかし、目的によっては片面のみでも構わない。また、目的によっては片面のみ施し、他面は上記本発明の絶縁被膜でない他の絶縁被膜としても構わない。
【0042】
本発明の絶縁被膜の厚みとしては特に定めないが、平均で0.1μm以上50μm以下が好ましい。更に好ましくは1μm以上25μm以下である。0.1μm以上であれば密着性が低下することがなく、十分なコア固着性(積層して鉄芯としたときの固着性)が得られる。一方、50μm以下であれば積層電磁鋼板の占積率が低下することがない。
【0043】
積層電磁鋼板とした場合および歪取焼鈍して接着コアとした場合、絶縁被膜の厚みは単板より薄くなる傾向にあり、層間の絶縁被膜の厚みは平均で0.1μm以上20μm以下が好ましく、更に好ましくは0.5μm以上10μm以下である。上記好ましい範囲であれば、最表面、層間の絶縁被膜の厚みは揃わずとも構わない。
【0044】
本発明において、絶縁被膜の平均の厚みは断面を4000倍でSEM(走査型電子顕微鏡)観察し、1視野につき任意の3点の厚みを測定し、2視野の平均値とする。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0046】
[実施例1]
表2〜6に示す成分を絶縁被膜の成分として、表1に示す割合にて脱イオン水に添加し、処理液とした。なお、成分の質量%は水分、溶媒を除いた有効成分である。なお、脱イオン水量に対する各成分合計の固形分濃度は200g/lとした。
【0047】
これらの各処理液を、板厚:0.20mmの電磁鋼板から幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出した試験片の両面にバーコーターで塗布し、熱風焼付け炉により焼付け時間:30秒で焼付け温度(到達鋼板温度):200℃となる条件で焼付けした後、常温に放冷して、両面にそれぞれ厚みが5μmの絶縁被膜を形成して絶縁被膜付き電磁鋼板を作製した。
【0048】
なお、無機成分の粒子(AlN、BN、Al
2O
3、MgO、SiO
2)の平均粒子径は、埋込研磨した絶縁被膜の断面を4000倍のSEM観察を行った。1視野につき任意の10個の粒子について面積から円形に換算した直径を求めた。2視野、20個の直径の平均値を平均粒子径とした。
【0049】
かくして得られた、歪取焼鈍を行っていない絶縁被膜付き電磁鋼板(表1において、製品板と称す)について、絶縁被膜特性を調べた。
【0050】
さらに、上記絶縁被膜付き電磁鋼板に対して、窒素雰囲気中にて750℃、2時間の歪取焼鈍を行った絶縁被膜付き電磁鋼板(表1において、焼鈍板と称す)についても、絶縁被膜特性を調べた。
【0051】
各特性の評価方法は次のとおりである。
【0052】
<密着性>
製品板および焼鈍板について、供試材表面にセロテープ(登録商標)を貼り、Φ10mm内曲げ後セロテープ(登録商標)を剥離し、絶縁被膜の残存状態を目視で観察して評価した。
【0053】
(判定基準)
◎:残存率 90%以上
○:残存率 60%以上、90%未満
△:残存率 30%以上、60%未満
×:残存率 30%未満
【0054】
<抜熱性>
絶縁被膜付き電磁鋼板サンプル(製品板)を30×50mmにせん断し、50枚積層して、前記30×50mm面がホットプレートに接するように200℃のホットプレート上に積層サンプルを接触させて静置した。その後、一定時間(10分)経過した時のホットプレートと反対側の面の温度を測定した。なお、このとき、積層サンプルの積層断面(ホットプレート表面に対して垂直方向となる)の4面を断熱材で囲んだ。
【0055】
歪取焼鈍を行った場合(焼鈍板)は上記50枚の積層サンプルを窒素雰囲気中で、圧力:1MPaの加圧条件下で750℃(雰囲気温度)×2時間の焼鈍を行い、積層固着させた。その後、室温の積層サンプルをホットプレート上に静置し、上記と同様の評価を行なった。
【0056】
(判定基準)
◎:180℃以上
○:160℃以上180℃未満
△:140℃以上160℃未満
×:140℃未満
【0057】
以上により得られた結果を、条件と併せて表1に示す。なお、比較例7において、有機樹脂の成分として、R2とR4が、質量比で5:4の比率で含有するようにし、比較例8において、有機樹脂の成分として、R2とR4が、質量比で5:2の比率で含有するようにした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
表1に示したとおり、本発明に従い得られた絶縁被膜付き電磁鋼板(製品板)は、いずれも、密着性、抜熱性に優れていた。さらに、歪取焼鈍後の絶縁被膜付き電磁鋼板(焼鈍板)も密着性、抜熱性に優れ、本発明の粒子を組み合わせたものは抜熱性が更に向上した。
【0065】
これに対し、比較例1は、絶縁被膜が低融点ガラス、ポリビニルアルコール系樹脂を含有しないため、製品板において抜熱性、焼鈍板において密着性および抜熱性に劣っていた。比較例2〜6は、絶縁被膜が低融点ガラス、ポリビニルアルコール系樹脂を含有しないため、製品板において優れた抜熱性を得られず、焼鈍板において密着性および抜熱性に劣っていた。
【0066】
また、比較例7は、絶縁被膜が低融点ガラス、ポリビニルアルコール系樹脂を含有しないため、製品板において優れた抜熱性を得られず、焼鈍板において抜熱性に劣っていた。比較例8は、絶縁被膜が低融点ガラス、ポリビニルアルコール系樹脂を含有しないため、製品板において優れた抜熱性を得られず、焼鈍板の密着性および抜熱性に劣っていた。比較例9は、絶縁被膜が低融点ガラスを99質量%超えで含有し、ポリビニルアルコール系樹脂を含有しないため、製品板において密着性および抜熱性、焼鈍板において密着性および抜熱性に劣っていた。
【0067】
また、比較例10は、絶縁被膜が低融点ガラスを99質量%超えで含有するため、製品板において優れた密着性および抜熱性を得られず、焼鈍板において優れた密着性および抜熱性を得られなかった。比較例11は、絶縁被膜がポリビニルアルコール系樹脂を15質量%超えで含有するため、焼鈍板において優れた密着性および抜熱性を得られなかった。比較例12は、絶縁被膜の低融点ガラスが20質量%未満であるため、焼鈍板において優れた密着性および抜熱性を得られなかった。
【0068】
[実施例2]
2枚積層鋼板
2枚の板厚:0.20mmの電磁鋼板に対して、表1発明例2に示す成分からなる絶縁被膜を、それぞれの片面に被膜の厚みが5μmになるようにバーコーターで塗装し、熱風焼付け炉により焼付け時間:30秒で焼付け温度(到達鋼板温度):200℃となる条件で焼付けした後、塗装面同士を貼り合わせ、次いで、窒素雰囲気中で750℃(雰囲気温度)、2時間焼鈍して2枚積層鋼板とした。さらに、この2枚積層鋼板の両表面(表裏面)に表1発明例2に示す成分からなる絶縁被膜を被膜の厚みが5μmになるようバーコーターで塗装し熱風焼付け炉により焼付け時間:30秒で焼付け温度(雰囲気温度):200℃となる条件で焼付けし、焼鈍接着可能な2枚積層電磁鋼板を作製した。
【0069】
上記2枚積層電磁鋼板に対して、実施例1と同様の密着性試験と評価を行ったところ、密着性は◎であり、良好であった。
【0070】
上記2枚積層電磁鋼板を25組(50枚)重ね合わせ、加熱加圧処理することにより積層固着コアを作製した。前記加熱加圧処理の条件は、加熱温度:750℃、圧力:1MPa(=10kgf/cm
2)、処理時間:2時間とした。この積層固着コアに対して、実施例1と同様に抜熱性試験と評価を行ったところ、抜熱性は○であり、良好であった。
【0071】
[実施例3]
3枚積層鋼板
板厚:0.20mmの電磁鋼板1枚に対して、表1発明例10に示す成分からなる絶縁被膜を、両面にそれぞれ被膜の厚みが5μmになるようバーコーターで塗装し、熱風焼付け炉により焼付け時間:30秒で焼付け温度(到達鋼板温度):200℃となる条件で焼付けした。この絶縁被膜付き電磁鋼板を塗装していない(絶縁被膜を有していない)電磁鋼板2枚の間に挟んで3枚積層させ、窒素雰囲気中、圧力:1MPaの加圧条件下で750℃(雰囲気温度)、2時間焼鈍して3枚積層電磁鋼板とした。さらに、この3枚積層電磁鋼板の両表面(表裏面)に表1発明例10に示す成分からなる絶縁被膜を被膜の厚みが5μmになるようにバーコーターで塗装し、熱風焼付け炉により焼付け時間:30秒で焼付け温度(到達鋼板温度):200℃となる条件で焼付け、焼鈍接着可能な3枚積層電磁鋼板を作製した。
【0072】
上記3枚積層電磁鋼板に対して、実施例1と同様の密着性試験と評価を行ったところ、密着性は◎であり、良好であった。
【0073】
上記3枚積層電磁鋼板を17組(51枚)重ね合わせ、加熱加圧処理することにより積層固着コアを作製した。前記加熱加圧処理の条件は、加熱温度:750℃、圧力:1MPa(=10kgf/cm
2)、処理時間:2時間とした。この積層固着コアに対して、実施例1と同様に抜熱性試験と評価を行ったところ、抜熱性は◎であり、良好であった。