特許第6222233号(P6222233)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222233
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】血糖値センサー用ストリップ
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20171023BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20171023BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   B32B15/04 Z
   G01N27/416 336G
   G01N27/30 B
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-538173(P2015-538173)
(86)(22)【出願日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2015070381
(87)【国際公開番号】WO2016013478
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2016年7月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-148714(P2014-148714)
(32)【優先日】2014年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-207772(P2014-207772)
(32)【優先日】2014年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河本 宗範
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−185991(JP,A)
【文献】 特開2006−147261(JP,A)
【文献】 特開2010−176876(JP,A)
【文献】 特開2004−055114(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0228461(US,A1)
【文献】 国際公開第2007/108394(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
G01N 27/30
G01N 27/416
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の少なくとも片面上に、チタン薄膜とカーボン薄膜がこの順に積層されている薄膜積層フィルムが用いられてなり、チタン薄膜の膜厚が10〜400nm、カーボン薄膜の膜厚が0.2〜50nmであることを特徴とする血糖値センサー用ストリップ
【請求項2】
薄膜積層フィルムが、銀/塩化銀を参照電極としたフェロシアン化物イオンのサイクリックボルタンメトリー測定において、+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流を、0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流を示すことを特徴とする請求項1に記載の血糖値センサー用ストリップ
【請求項3】
フィルム基材の全光線透過率が50%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の血糖値センサー用ストリップ
【請求項4】
フィルム基材の反射率が50%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の血糖値センサー用ストリップ
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の血糖値センサー用ストリップが用いられてなることを特徴とする血糖値センサーデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電極フィルムとして好ましく用いられる薄膜積層フィルムを用いた血糖値センサー用ストリップに関するものであり、特に、電気化学特性、薬品耐性が優れることから、血糖値センサー用の電極フィルムとして好適に用いられる薄膜積層フィルムを用いた血糖値センサー用ストリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血糖値センサーは、糖尿病患者または糖尿病の疑いのある人が、数日に1回〜1日に数回、血糖値を測定し、その数値を管理するために用いられている。血糖値センサーの測定用ストリップには、プラスチックフィルムなどのベース基材に金薄膜がパターン化したものが使用される(特許文献1参照)。これは、金がセンサーとしての信頼性に直結する低い抵抗値と高い化学的安定性を有するためである。
【0003】
一方、糖尿病患者は欧米を中心に多いものであったが、近年、日本、中国、インドなど世界中で患者数が増加傾向にあり、安価な血糖値センサー用ストリップが求められるようになってきた。そのため、金を使用しない安価な電極材料が求められるようになってきた。
【0004】
安価な血糖値センサー用ストリップとして、真空成膜法の一つであるスパッタリングにてニッケル層を成膜し、さらにそのうえに炭素層を成膜することで製造された電極フィルムをパターン加工したストリップが開示されている(特許文献2参照)。電極材料には、ストリップの試薬層に含有されるフェリシアン化カリウムなどの酸化作用を有する電子メディエーター(電子伝達を仲介する化合物)や、酸性もしくはアルカリ性を示す緩衝剤などへの化学的安定性が求められる。ニッケルの上に炭素層を配するのは、専らニッケルの低い化学的安定性を炭素層により補完するためであり、一通り炭素層で覆われているためニッケル層はある程度酸やアルカリから守られる。しかし、パターニングされた電極の側面でニッケルと試薬層が接触するため、ニッケルが溶出し、異常なセンサー信号が観測されたり、電極が剥離することがある。
【0005】
また他の一つの安価な血糖値センサー用ストリップとして、基材上にカーボン(炭素)層を配し、カーボン層と試薬反応部が接触する部分以外の部分に銀、アルミニウムなどの金属を真空成膜法で積層したストリップが開示されている(特許文献3参照)。銀などの金属層を先に積層して、その上にカーボン層を積層した場合には、金属層が酸化し、カーボン層との接触抵抗が上昇することから、このような手法が採用されている。また、同引用文献においては、カーボン層はカーボン顔料と有機バインダーを含むインクを印刷することで形成されるが、印刷とその後の金属層の真空蒸着法による成膜法の併用により、工業生産性が著しく低下し、印刷で形成されるカーボン層は半ば必然的に0.3μm〜30μmもの厚みのあるものとなり、好ましくない。また、印刷の場合、膜厚の精密な制御困難であるため、血糖値センサーの測定ごとの血糖値の幅が大きくなるという問題がある。膜厚の精密制御が可能であり、血糖値の測定幅を最小限にできる点では、スパッタリング法などの真空成膜法がより適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−050300号公報
【特許文献2】特表2012−524903号公報
【特許文献3】特開2013−164350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
すなわち、本発明の目的は、上記の従来の問題点に鑑み、安価でありながら、高い化学的安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極フィルムとして好適に使用できる薄膜積層フィルムを提供することにより、前記薄膜積層フィルムを用いた血糖値センサー用ストリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、以下の構成よりなる。
1. フィルム基材の少なくとも片面上に、チタン薄膜とカーボン薄膜がこの順に積層されている薄膜積層フィルムが用いられてなり、チタン薄膜の膜厚が10〜400nm、カーボン薄膜の膜厚が0.2〜50nmであることを特徴とする血糖値センサー用ストリップ
2. 薄膜積層フィルムが、銀/塩化銀を参照電極としたフェロシアン化物イオンのサイクリックボルタンメトリー測定において、+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流を、0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流を示すことを特徴とする上記第1に記載の血糖値センサー用ストリップ
3. フィルム基材の全光線透過率が50%以下であることを特徴とする上記第1またはに記載の血糖値センサー用ストリップ
4. フィルム基材の反射率が50%以上であることを特徴とする上記第1から第に記載の血糖値センサー用ストリップ
5. 上記第1から第4のいずれかに記載の血糖値センサー用ストリップが用いられてなることを特徴とする血糖値センサーデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価でありながら、高い化学的安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極フィルムとして好適に使用できる薄膜積層フィルムの提供を可能とし、前記の薄膜積層フィルムを電極として用いた血糖値センサー用ストリップを提供することにより、血糖値センサーにおいて安定的な電気信号を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の薄膜積層フィルムのサイクリックボルタンメトリー測定結果のサイクリックボルタモグラムである。
図2】薄膜積層フィルムのサイクリックボルタンメトリー測定結果のサイクリックボルタモグラムにおいて、還元ピーク電流が観測されない好ましくない一例である。
図3】比較例1の薄膜積層フィルムのサイクリックボルタンメトリー測定結果のサイクリックボルタモグラムである。
図4】比較例2の薄膜積層フィルムのサイクリックボルタンメトリー測定結果のサイクリックボルタモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における薄膜積層フィルムは、フィルム基材の少なくとも片面上に直接、または他の層を介して、チタン薄膜を、さらにその上にカーボン薄膜を積層したフィルムである。
【0012】
チタン薄膜は、化学的に安定であるため、試薬層との接触によって表面から溶解することがなく、パターン加工された場合でも試薬層との接触によって側面から溶解することがないことを見出した。また、電気抵抗が低い特長を持ち、導電性に優れている。したがって、チタン薄膜は、血糖値センサー用ストリップの電極フィルムとして、好適に使用できると考えられた。しかし、一方で、電子メディエーターと電子授受する性質を有さないことが明らかとなり、チタン薄膜を単独で用いたのでは、血糖値センサー用電極フィルムとして好適に使用できるものではない。
【0013】
一方、カーボン薄膜は、化学的に安定であり、試薬層との接触によって溶解することはない。また、バルク体では電子メディエーターとの電子授受が可能であり、血糖値センサー用電極フィルムとして単独で使用できる可能性のある素材ではあるが、ごく薄い薄膜では電気抵抗が大きいため、電子授受することが困難である。本発明においては、カーボン薄膜が電子メディエーターと電子授受することができる特長を積極的に活かしながら、その導電性の不足をチタン薄膜の導電性の良さで補完する構成を有している。本発明は、電子授受の能力を有さない極薄いカーボン薄膜が、チタン薄膜との積層により、その能力を獲得できることを初めて見出したものといえる。一方で、上記引用文献2においては、炭素層が電子メディエーターと電子授受することの示唆はなく、ニッケル層に専らその役を担わせ、炭素層がニッケル層を覆って、ニッケル層の酸やアルカリに対する弱さから守る意図が開示されており、本発明とは技術思想を全く異にしている。本発明におけるチタン薄膜はそれ自体、酸やアルカリに強く、血糖値センサー用電極フィルムの用途では、特に保護する必要がなく、カーボン薄膜が20nm以下といった極端に薄く、試薬層中の電子メディエーターがカーボン薄膜を透過するような場合にも、溶解することはない。本発明において、カーボン薄膜がチタン薄膜上に積層されているのはチタン薄膜を保護する目的ではない。この点においても、ニッケル層の酸やアルカリに対する弱さを専ら炭素層で補う上記引用文献2に記載のストリップとは、全く異なる技術思想を有している。
【0014】
チタン薄膜の膜厚は、10〜400nm範囲が好ましく、更に好ましくは15〜250nm、特に好ましくは20〜200nmである。チタン薄膜の膜厚が10nm以上であれば、表面抵抗値が小さくなり、血糖値センサーの電極として使用した際に電気信号が確実に得られるので好ましい。一方、この膜厚が400nm以下の場合、チタン薄膜の剛性が大き過ぎず、剥離や密着性の低下の恐れがなく、また、基材の反りの問題も生じないので好ましい。膜厚は例えばスパッタリング法で成膜する場合、フィルムがチタンターゲット上を通過するときの速度や投入電力を変えて制御することができる。
【0015】
カーボン薄膜の膜厚は、0.2〜50nmの範囲が好ましく、更に好ましくは0.25〜30nm、特に好ましくは0.3〜20nmである。この膜厚が0.2nm以上であれば、電子メディエーターとの電子授受が可能となり、血糖値センサー用ストリップの電極として使用した際に電気信号が確実に得られるので好ましい。一方、この膜厚が50nm以下の場合、チタン薄膜との密着性が保たれて剥離することがなく、チタン薄膜にクラックを発生させる恐れもないので好ましい。チタン薄膜から剥離したり、チタン薄膜にクラック発生した場合には、血糖値センサー用ストリップの電極として動作することが困難となりあまり好ましくない。また、50nm以下の膜厚は、工業的な真空成膜法において可能な膜厚であるため好ましい。膜厚は例えばスパッタリング法で成膜する場合、フィルムがカーボンターゲット上を通過するときの速度や投入電力を変えて制御することができる。
【0016】
本発明において、薄膜積層フィルムは、銀/塩化銀を参照電極としたフェロシアン化イオンのサイクリックボルタンメトリー測定において、+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流を示すことが好ましい。これは、本発明のチタンとカーボンの積層薄膜が、プラスの電圧印加によっても、イオン化し溶解することなく、フェロシアン化イオンをフェリシアン化イオンに酸化できる、つまりは電子メディエーターとの電子授受が可能であることを示す。前記範囲外に観測される酸化ピーク電流は、フェロシアン化イオン以外の物質が酸化していることに起因し、血糖値センサー電極として適切に動作することと関係のないものである。また、血糖値センサー電極として動作する際に、大きな電圧を要することにつながるので、あまり好ましくない。
【0017】
本発明において、薄膜積層フィルムは、0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流を示すことが好ましい。これは、本発明のチタンとカーボンとの積層薄膜が、フェリシアン化イオンに溶解することなく、フェリシアン化イオンがフェロシアン化イオンに還元できることを示すものであり、前述のプラス電圧印加によっても、薄膜が劣化していないことを示す。劣化している場合は、前記範囲に還元ピークを示さず好ましくない。また、この範囲外に観測される還元ピーク電流は、フェリシアン化物以外の物質が還元していることに起因し、血糖値センサー電極として適切に動作することと関係のないものである。
【0018】
酸化ピーク電流および還元ピーク電流の絶対値は、測定条件によって異なるが、本発明の実施例の条件においては、0.05mA以上2mA以下となる。0.05mA未満では、フェロシアン化イオンとフェリシアン化イオンの酸化還元反応が起きていないと考えられ、あまり好ましくない。2mAを超えると、電極成分が溶出しているおそれがあり、あまり好ましくない。
【0019】
フェロシアン化イオンは血糖値センサーで使用される電子メディエーターの中で最も酸化電位が高い。フェロシアン化イオンを酸化することができることができるなら、ルテニウムイオンなどその他のメディエーターに対しても適正がある。
【0020】
本発明における薄膜積層フィルムは、フィルム基材の少なくとも片面上に直接、または他の層を介して、真空成膜にてチタン薄膜を積層した後、なるべく大気と接触することなく、真空成膜にてカーボン薄膜を積層することで製造されることが好ましい。大気との接触によりチタン薄膜が汚染・酸化されるため、チタン薄膜とカーボン薄膜の密着力が低下し、サイクリックボルタンメトリー測定中にカーボン薄膜がチタン薄膜から剥離することとなり、適切な結果が得られづらくなる場合がある。フィルムロールの場合、チタン薄膜積層後に、大気中で巻き出しをしなければ、大気中で24時間まで保管することが可能であり、フィルムロールの場合、大気と接触しにくいため、大気中である程度の保管は可能であるが、巻き出した場合は、大気中で保管できる時間は1時間程度までである。
【0021】
本発明における薄膜積層フィルムは、全光線透過率が50%以下の基材フィルムを好適に使用できる。このようなフィルム基材を使用することで、レーザーでのパターン加工性を向上させることができるためである。
【0022】
本発明における薄膜積層フィルムについて、各層別に詳細に説明する。
【0023】
(フィルム基材)
本発明で用いるフィルム基材とは、有機高分子をフィルム状に溶融押出し又は溶液押出しをしてフィルム状に成形し、必要に応じ、長手方向及び/又は幅方向に延伸、熱固定、熱弛緩処理等を施したフィルムである。有機高分子としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルファン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。
【0024】
これらの有機高分子のなかで、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレートなどが好適である。また、これらの有機高分子は他の有機重合体の単量体を少量共重合してもよいし、他の有機高分子をブレンドしてもよい。
【0025】
本発明で用いるフィルム基材の厚みは、10〜300μmであることが好ましく、より好ましくは20〜250μmである。プラスチックフィルムの厚みが10μm未満の場合には機械的強度が不足し易く、血糖値センサーなどのセンサーのハンドリングが難しくなるため好ましくない。一方、厚みが300μmを超えると、血糖値センサーなどのセンサーの厚みが厚くなりすぎるため好ましくない。
【0026】
血糖値センサー用等の電極フィルムを製作する場合、薄膜にパターニングが施されるが、パターンニングに方法のひとつとしてレーザー加工が施されている(例えば、特開平9−189675号公報参照)。レーザー加工においては、小さいレーザー出力において電極フィルムから薄膜を除去できることが、生産上の観点から好ましく、本発明において、レーザーによるパターン加工性を向上させるため、全光線透過率が50%以下及び/又は反射率が50%以上のフィルムを使用することができる。このようなフィルム基材として、白色フィルムを好適に使用することができる。全光線透過率が50%以下及び/又は反射率が50%以上のフィルムをフィルム基材として使用することで、薄膜(及び中間層が存在する場合は中間層も同時に除去する場合がある)をレーザーにて部分的に除去してパターニングする際、無色透明フィルム基材を使用する場合に比べてレーザーによるパターン加工の作業効率が向上することがわかった。
【0027】
全光線透過率が50%以下及び/又は反射率が50%以上であるフィルム基材として、空洞率が3〜50体積%の空洞含有フィルム基材を好適に使用することができる。3%以上であれば、全光線透過率が50%以下とし、及び/又は、反射率が50%以上とするkとが容易になり好ましい。一方、空洞率が50%以下であれば、基材としての十分な強度が確保でき、好ましい。空洞を含有させるには、基材フィルムを構成する有機高分子(熱可塑性樹脂)に対して非相溶な熱可塑性樹脂を混合し、溶融押出し、冷却固化後、少なくとも一軸方向に延伸して空洞を含有させる方法を好ましく採用することができ、基材フィルムを構成する有機高分子がポリエステルの場合、前記ポリエステルに非相溶な熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等を代表例とするポリオレフィン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリアクリル、ポリカーボネート、ポリスルホン、セルロース系樹脂等を採用することができる。
【0028】
また、全光線透過率が50%以下、及び/又は、反射率が50%以上であるフィルム基材として、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、有機粒子などの白色フィラーを含有するフィルム基材を好適に使用することができる。なかでも、屈折率の高い酸化チタン、硫酸バリウムを含有するフィルム基材を好適に使用することができる。白色フィラーの含有率は、0.2〜50重量%の範囲が好ましい。0.2重量%以上であれば、全光線透過率を低下させ易くなり、反射率を高くし易くなるので好ましい。一方、白色フィラーの含有率が50重量%以下であれば、基材としての十分な強度が保たれて好ましい。
【0029】
本発明では、基材フィルムとして、50%以下の全光線透過率及び/又は50%以上の反射率であれば、空洞含有層と白色フィラー含有層の積層体を好適に使用することができる。この場合、空洞含有層が外側に位置しても内側に位置しても構わない。
【0030】
また、単一の層が空洞と白色フィラーの両者を含有していても構わない。更には、空含有層と空洞を含有しない層とが積層されていても構わず、空洞含有層をA層とし、空洞を含有しない層をB層とするとき、A層/B層、B層/A層/B層、B層/A層/その他のC層の積層構造を採用でき、これらの積層構造を有する全光線透過率が50%以下のフィルム基材は、B層、C層の表面が平滑である点で好ましい。A層:B層の層厚み比は2:1以上であることが空洞含有による全光線透過率を下げる点で効果的であり、4:1以上が更に好ましい。但し、あまりにもB層の層厚み比が小さいと、製膜がしづらくなる場合があるので、A層:B層の層厚み比は20:1以下であることが好ましい。フィルム基材中にB層が複数層存在する構成の場合は、B層の合計厚みにより計算するものとする。
【0031】
本発明で用いるフィルム基材は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記のようなフィルムにコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理などの表面活性化処理が施されていてもよい。また、フィルム基材上に易接着性等を付与する目的でのアンカーコート層が設けられていても構わない。
【0032】
また、本発明で用いるフィルム基材には、チタン薄膜との密着性向上、耐薬品性の付与、オリゴマーなどの低分子量物の析出防止を目的として、硬化型樹脂を主たる構成成分とする硬化物層を設けることも好ましい。
【0033】
前記の硬化型樹脂は、加熱、紫外線照射、電子線照射などのエネルギー印加により硬化する樹脂であれば特に限定されなく、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0034】
(チタン薄膜)
チタン薄膜の膜厚は、10〜400nmの範囲が好ましく、更に好ましくは15〜250nm、特に好ましくは20〜200nmである。この膜厚が10nm以上であれば、表面抵抗値が小さくなり、血糖値センサーの電極として使用した際に電気信号が確実に得られるので好ましい。一方、この膜厚が400nm以下の場合、チタン薄膜の剛性が大き過ぎず、剥離や密着性の低下の恐れがなく、また、基材の反りの問題も生じないので好ましい。膜厚は例えばスパッタリング法で成膜する場合、フィルムがチタンターゲット上を通過するときの速度や投入電力を変えて制御することができる。チタン薄膜は、それ自体では電子メディエーターとの電子授受ができないが、チタン薄膜上に電子メディエーターとの電子授受ができるカーボン薄膜が積層されていることによって、血糖値センサー用電極フィルムとして好適な積層フィルムとなる。
【0035】
カーボン薄膜との密着力を向上する目的に、チタン薄膜にカーボンが含まれても良い。カーボンの含有量は、導電性を保つため、50原子%以下であることが好ましい。また、チタン薄膜とカーボン薄膜の間に、チタンとカーボンからなる混合層を設けても良い。この場合、混合層の膜厚は0.2〜20nmとすることができ、混合層のカーボンの割合は3原子%〜97原子%とすることができる。
【0036】
(カーボン薄膜)
カーボン薄膜の膜厚は、0.2〜50nmの範囲が好ましく、更に好ましくは0.25〜30nm、特に好ましくは0.3〜20nmである。この膜厚が0.2nm以上であれば、電子メディエーターとの電子授受が可能となり、血糖値センサー用ストリップの電極として使用した際に電気信号が確実に得られるので好ましい。一方、この膜厚が50nm以下の場合、チタン薄膜との密着性低下による剥離がなく、チタン薄膜にクラックを発生させるおそれもないので好ましい。チタン薄膜から剥離したり、チタン薄膜にクラック発生した場合には、血糖値センサー用ストリップの電極として動作しづらくなり好ましくない。また、50nm以下の膜厚は、工業的な真空成膜において可能な膜厚であるため好ましい。膜厚は例えばスパッタリング法で成膜する場合、フィルムがカーボンターゲット上を通過するときの速度や投入電力を変えて制御することができる。カーボン薄膜は下記のチタンを含む場合はあるが、バインダー樹脂等の有機物を含まないカーボン薄膜であることが好ましい。また、カーボン薄膜は0.2〜50nmという極めて薄い薄膜であり、導電性にはやや難点があるが、フィルム基材とカーボン薄膜との間に位置するチタン薄膜の導電性のために、薄膜積層フィルムは血糖値センサー用電極フィルムとして好適なものとなる。
【0037】
本発明において、カーボンとは炭素原子間で二重結合を有することで電子伝導性を示す物質であり、黒鉛、アモルファスカーボン、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボンなどが該当する。なかでも、当方性黒鉛が最も安価に製造できることから、好適に使用することができる。炭素原子間で二重結合を有さず、電子伝導性のないダイヤモンドは含まれない。
【0038】
チタン薄膜との密着力を向上する目的に、カーボン薄膜にチタンが含まれても良い。チタンの含有量は、電子メディエーターと電子授受する性質を保つため、50原子%以下であることが好ましい。
【0039】
(成膜方法)
本発明における薄膜の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、スプレー法などが知られており、必要とする膜厚に応じて、前記の方法を適宜用いることができるが、高い付着力が発現すること、及び膜厚のバラツキを低減し、血糖値センサーに使用した際に血糖値の変動が小さくなることから、スパッタリング法や蒸着法が好ましく、特にスパッタリングが好ましい。
【0040】
この時、プラズマ照射、イオンアシスト等の手段を併用したりしてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲で、基板に直流、交流、高周波などのバイアスを印加してもよい。
【0041】
例えば、スパッタリング法にて成膜する場合には、スパッタリングを行う前に真空チェンバー内の圧力を0.0005Pa以下の真空度まで排気(到達真空度が0.0005Pa以下)した後に、Arなどの不活性ガスを真空チェンバーに導入し、0.01〜10Paの圧力範囲において放電を発生させ、スパッタリングを行うのが好ましい。特に生産性の観点からDCスパッタリング法が好ましく、DCマグネトロンスパッタリング法が更に好ましい。また、蒸着法、CVD法などの他の方法においても同様である。
【0042】
チタン薄膜を積層した後、なるべく大気と接触させることなく、カーボン薄膜を積層することが好ましい。大気との接触によりチタン薄膜表面が汚染・酸化されるため、チタン薄膜とカーボン薄膜の密着力が低下し、もしも、サイクリックボルタンメトリー測定中にカーボン薄膜がチタン薄膜から剥離すると、適切な結果が得づらくなるので好ましくない。フィルムロールの場合、チタン積層後に、大気中で巻き出しをしなければ、大気中で24時間まで保管することは可能で、フィルムロールの場合、大気と接触しにくいため、大気中である程度の保管は可能である。巻き出した場合は、大気中で保管できる時間は1時間程度である。
【0043】
フィルム基材の少なくとも片面上に真空成膜法にてチタン薄膜を積層した後、実質的に大気に接触することなく真空成膜法にてカーボン薄膜を積層する製造方法を採用することが特に好ましい態様である。「実質的に大気に接触させることなく」とは、スパッタリング製造装置の真空チェンバー内で、チタン薄膜のスパッタリングを実施後、真空状態を保ったまま、カーボン薄膜のスパッタリングを引き続き行うなど、チタン薄膜の成膜後、カーボン薄膜の成膜まで大気に触れることがない製造工程を採用することを意味している。
【0044】
後述の各実施例においては、真空チェンバー内でフィルム基材上にチタン薄膜を積層し、引き続いて続いて、大気に接触させることなく、同一真空チェンバー内でチタン薄膜上にカーボン薄膜を積層しており、チタン薄膜とカーボン薄膜との間に必要な密着力が保たれ、サイクリックボルタンメトリー測定において、+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流を、0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流を示す適切な結果が得られる(例えば、実施例1におけるサイクリックボルタモグラムを表す図1参照)。一方、チタン薄膜を積層し、例えば、48時間程度大気中で保管した後に、その上にカーボン薄膜を積層すると、チタン薄膜とカーボン薄膜の密着力が低下して、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行うと、必ずしも、+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流を、0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流を示すような好ましい結果が得られない場合もある。例えば、図2は、チタン薄膜を積層後、48時間程度大気中で保管した後に、その上にカーボン薄膜を積層した薄膜積層フィルムが、測定中にカーボン薄膜が剥離して酸化ピーク電流は観測されたが、還元ピーク電流が観測されないあまり好ましくない例を示している。
【0045】
上記のようにして得られた本発明の薄膜積層フィルムは、レーザー加工などのパターニングが施され、血糖値センサー用ストリップの電極フィルムとして好ましく用いられる。薄膜積層フィルムは、血糖値センサーデバイスの種類に応じた血糖値センサー用ストリップに作成され、血糖値センサー用デバイスに装着されて使用される。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、薄膜積層フィルムの各特性は、下記の方法により測定した。
【0047】
(1)薄膜の膜厚
イオンフォーカスビームにより微少薄片(幅5μm、奥行き100nm)を作製し、透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM−2010)を用い、加速電圧200kV、明視野で観察倍率20万倍にて写真撮影を行って得られた写真から膜厚を求めた。
【0048】
(2)サイクリックボルタンメトリー測定
薄膜積層フィルムを50mm×5mm幅の短冊状に切り出した。5mMのフェロシアン化カリウムおよび1Mの硝酸カリウムを含む水溶液に、短冊状の薄膜積層フィルムを10mm浸漬させた。参照極の銀/塩化銀、対極の白金コイルも該溶液に設置した。対銀/塩化銀にて、まず、開始電圧を、+0V、折り返し電圧を+0.7V、終了電圧を0Vとし、50mV/sの走査速度で測定を行った。+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流が観測され、且つ0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流が観測された場合を表1において○と表現した。一方、前記の電位に酸化ピーク電流及び/又は還元ピーク電流が観測されない場合を表1において×と表現した。
【0049】
(3)試薬層塗布後の抵抗値変化
薄膜積層フィルムを50mm角に切り出し、JIS−K7194に準拠し、4端子法にて表面抵抗を測定した。測定機は、三菱油化(株)製 Lotest AMCP−T400を用いた。
5wt%ポリビニルピロリドン、20wt%フェリシアン化カリウム、10wt%モルホルノエタンスルホン酸をふくむ水溶液を塗布し、40℃で30分乾燥した。その後、40℃、90%RHの環境下に16時間置き、薬品を水洗し、表面抵抗値を測定した。テスト前の表面抵抗をR0、テスト後の表面抵抗をR1とし、0.95≦R1/R0≦1.05の場合を○、この範囲外である場合を×とした。
【0050】
(4)試薬層塗布後の切り込み部の溶解
パターニングされた電極の側面で金属薄膜と試薬層が接触した時に金属薄膜が溶出する問題を起こすかどうかの確認モデルテストとして、以下の評価を実施した。
薄膜積層フィルムに20mm長の切り込みを基材フィルムが切断されない程度に入れた。5wt%ポリビニルピロリドン、20wt%フェリシアン化カリウム、10wt%モルホルノエタンスルホン酸をふくむ水溶液を塗布し、40℃で30分乾燥した。その後、40℃、90%RHの環境下に16時間置き、薬品を水洗した。切り込み部周辺をルーペで拡大して観察し、薄膜の溶解がなかった場合に○、溶解があった場合に×とした。
【0051】
(5)実施例7〜12におけるNd:YAGレーザー加工
IPG 社製連続発振Nd:YAGレーザー(YLR−200−AC)を使用した。照射スポット径を30μmとし、1回/1ドットの照射回数で、幅0.5mm長さ20mmの線で薄膜(カーボン薄膜、チタン薄膜、及び中間層が存在する場合は中間層も除去)を除去できるよう、レーザー出力を変化させてレーザーを照射した。照射された線に対して垂直方向に10mm幅の短冊を切り出し、照射された部位をまたぐ形で、2点間の電気抵抗を測定した。各実施例において、抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP1(W)とした。また、全光線透過率が88%、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルム基材に各実施例に記載の薄膜と同一構成の薄膜を積層し、上記と同様に抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP2(W)とした。P1/P2≦0.95の場合、レーザー加工性が向上したことを示す。
【0052】
(6)実施例7〜12におけるCOレーザー加工
レーザーワークス社製COレーザー(VersaLaser)を使用した。スポット径を72μmとし、1270mm/秒の照射速度で、幅0.5mm長さ20mmの線にて線で無機薄膜(カーボン薄膜、チタン薄膜、及び中間層が存在する場合は中間層も除去)を除去できるよう、レーザー出力を変化させてレーザーを照射した。照射された線に対して垂直方向に10mm幅の短冊を切り出し、照射された部位をまたぐ形で、2点間の電気抵抗を測定した。各実施例において、抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP3(W)とした。また、全光線透過率が88%、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルム基材に各実施例に記載の薄膜と同一構成の薄膜を積層し、上記と同様に抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP4(W)とした。P3/P4≦0.95の場合、レーザー加工性が向上したことを示す。
【0053】
(7)フィルム基材の全光線透過率
JIS−K7136に準拠し、日本電色工業(株)製、NDH−1001DPを用いて、フィルム基材の全光線透過率を測定した。測定面は、チタン薄膜やカーボン薄膜などを積層する、又は、積層されている側のフィルム基材表面とする。
なお、薄膜積層フィルムから基材フィルムの透過率を測定する場合には、カーボン薄膜をプラズマエッチングで除去し、チタン薄膜を30質量%塩酸で溶解した後に測定する。(フィルム基材が表面に硬化物層を有する場合には、基材フィルムと硬化物層とで一体のフィルム基材と見なして、硬化物層を除去することなく全光線透過率を測定する。)
【0054】
(8)フィルム基材の反射率
島津製作所製分光光度計(UV−vis UV−3150)に積分球を取り付け、硫酸バリウムの標準白色板を100%とした時の反射率を400〜700nmにわたって測定した。ここで、測定面は、チタン薄膜やカーボン薄膜などを積層する、又は、積層されている側のフィルム基材表面とし、反対面に黒色シート(GAボードFSブラック26)を敷き測定する。得られたチャートより5nm間隔で反射率を読み取り、その算術平均値を反射率とした。
なお、薄膜積層フィルムから基材フィルムの反射率を測定する場合には、カーボン薄膜をプラズマエッチングで除去し、チタン薄膜を30質量%塩酸で溶解した後に測定する。(フィルム基材が表面に硬化物層を有する場合には、基材フィルムと硬化物層とで一体のフィルム基材と見なして、硬化物層を除去することなく反射率を測定する。)
【0055】
(9)フィルム基材の空洞率
フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU1510)で撮影し、汎用的な画像解析ソフトウェア(ImageJ)を用いて各領域の空洞を抽出し、空洞率を面積率で求め、この値をそのまま体積%とし表示した。
【0056】
〔実施例1〕
プラスチックフィルムとして、厚み250μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルム(E5001、東洋紡社製)を用いた。前記プラスチックフィルムの全光線透過率は88%、反射率は4.5%であった。
【0057】
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムのロールの真空暴露を行った。真空チェンバーで巻き返し処理を行い、このときの圧力は2×10−3Paであり、暴露時間は20分とした。また、センターロールの設定温度は40℃とした。
【0058】
その後、チタンターゲットを用いて、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、チタン薄膜を成膜した。このときスパッタリング前の真空チェンバーの到達圧力が1×10−4Pa(到達真空度)であることを確認後、スパッタリングを実施した。スパッタリングの条件は、3W/□のDC電力を印加した。また、Arガスを流し、0.4Paの雰囲気下とし、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。また、センターロール設定温度は0℃とした。以上のようにして、膜厚50nmのチタン薄膜を堆積させた。
【0059】
続いて、大気に接触させることなく、同一真空チェンバー内でカーボン薄膜を同様にスパッタリングし、チタン薄膜上にカーボン薄膜を積層した。カーボン薄膜の膜厚は2nmとした。
【0060】
図1は、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定結果である。酸化ピーク電流が+0.38Vの電位にて+0.39mAの電流値で観測され、還元ピーク電流が+0.18Vの電位に−0.3mAの電流にて観測されたことから、このチタン−カーボン薄膜積層フィルムは血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0061】
〔実施例2〕
膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚0.25nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0062】
〔実施例3〕
膜厚25nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚0.5nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。表1に示すように、好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0063】
〔実施例4〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚300nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚5nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0064】
〔実施例5〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0065】
〔実施例6〕
光重合開始剤含有紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビームEXF−01J)100質量部に、溶剤としてトルエン/MEK(80/20:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。
【0066】
膜厚が188μmで表面に易接着層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルム(A4100、東洋紡社製)の易接着層上に、調製した塗布液を、塗膜の厚みが3000nmになるように、マイヤーバーを用いて塗布した。80℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042−5AM−W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/□)し、塗膜を硬化させ、硬化物層を積層した。
【0067】
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚25nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚20nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0068】
〔比較例1〕
スパッタリング法にて、膜厚100nmのチタン薄膜だけを積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。図3に示すように、チタン薄膜が電子メディエーターとの電子授受することができないため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0069】
〔比較例2〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚40nmのカーボン薄膜だけを積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。図4に示すように、カーボン薄膜の導電性が低いため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0070】
〔比較例3〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚60nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。カーボン薄膜とチタン薄膜との剥離が生じ、薄膜積層フィルムの完成品とは呼べないものであった。結果としてチタン薄膜にクラックが生じているため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0071】
〔比較例4〕
膜厚100nmのニッケル薄膜を積層し、さらにその上に膜厚2nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化があり、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0072】
〔比較例5〕
膜厚100nmのニッケル薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0073】
〔比較例6〕
膜厚100nmのアルミニウム薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。また、サイクリックボルタンメトリー測定中に側面からのアルミニウムの溶解が起こったため、電極が消失した。このことからも、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0074】
〔比較例7〕
膜厚100nmの銀薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。また、サイクリックボルタンメトリー測定中に側面からの銀の溶解が起こったため、電極が消失した。このことからも血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0075】
【表1】
【0076】
〔実施例7〕
プラスチックフィルムとして、平均粒径が0.45μmのルチル型の酸化チタンを10重量%にて含む、全光線透過率が1.8%、反射率が96.3%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例1相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0077】
〔実施例8〕
平均粒径0.3μmの硫酸バリウムを20重量%にて含む全光線透過率が1.9%、反射率が96.1%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例2と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例2相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0078】
〔実施例9〕
平均粒径が0.45μmのルチル型の酸化チタンを2重量%にて含む全光線透過率が44.4%、反射率が51.3%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例3と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例3相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0079】
〔実施例10〕
平均粒径0.3μmの硫酸バリウムを10重量%にて含む全光線透過率が7.0%、反射率が86.1%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例4と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例4相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0080】
〔実施例11〕
厚み250μmの全光線透過率が2.1%、反射率が95.7%である空洞含有二軸延伸ポリエステルフィルム(80重量%のポリエチレンテレフタレートと20重量%のポリスチレンとを混合して製膜)を用いて、実施例5と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例5相当品)と比較して、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0081】
〔実施例12〕
A層が平均粒径を0.45μmのルチル型の酸化チタン5重量%、及びポリスチレン15重量%を含有するポリエチレンテレフタレートからなり、B層がポリエチレンテレフタレートからなる、B層/A層/B層の構成であり層厚み比が1/8/1の全光線透過率が2.0%、反射率が96.0%の総厚みが250μmの空洞含有二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例6と同様の硬化物層と薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(実施例6相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0082】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明における薄膜積層フィルムは、安価でありながら、高い化学的安定性を有し、電子メディエーターとの電子授受が可能であるから、血糖値センサー用ストリップの電極フィルムとして好適に使用でき、安価で高性能な血糖値センサーデバイスの社会への提供に貢献できる。
【符号の説明】
【0084】
1 : 酸化ピーク電流
2 : 還元ピーク電流
図1
図2
図3
図4