【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。なお、薄膜積層フィルムの各特性は、下記の方法により測定した。
【0047】
(1)薄膜の膜厚
イオンフォーカスビームにより微少薄片(幅5μm、奥行き100nm)を作製し、透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM−2010)を用い、加速電圧200kV、明視野で観察倍率20万倍にて写真撮影を行って得られた写真から膜厚を求めた。
【0048】
(2)サイクリックボルタンメトリー測定
薄膜積層フィルムを50mm×5mm幅の短冊状に切り出した。5mMのフェロシアン化カリウムおよび1Mの硝酸カリウムを含む水溶液に、短冊状の薄膜積層フィルムを10mm浸漬させた。参照極の銀/塩化銀、対極の白金コイルも該溶液に設置した。対銀/塩化銀にて、まず、開始電圧を、+0V、折り返し電圧を+0.7V、終了電圧を0Vとし、50mV/sの走査速度で測定を行った。+0.2Vから+0.6Vの間の電位に酸化ピーク電流が観測され、且つ0Vから+0.4Vの間の電位に還元ピーク電流が観測された場合を表1において○と表現した。一方、前記の電位に酸化ピーク電流及び/又は還元ピーク電流が観測されない場合を表1において×と表現した。
【0049】
(3)試薬層塗布後の抵抗値変化
薄膜積層フィルムを50mm角に切り出し、JIS−K7194に準拠し、4端子法にて表面抵抗を測定した。測定機は、三菱油化(株)製 Lotest AMCP−T400を用いた。
5wt%ポリビニルピロリドン、20wt%フェリシアン化カリウム、10wt%モルホルノエタンスルホン酸をふくむ水溶液を塗布し、40℃で30分乾燥した。その後、40℃、90%RHの環境下に16時間置き、薬品を水洗し、表面抵抗値を測定した。テスト前の表面抵抗をR0、テスト後の表面抵抗をR1とし、0.95≦R1/R0≦1.05の場合を○、この範囲外である場合を×とした。
【0050】
(4)試薬層塗布後の切り込み部の溶解
パターニングされた電極の側面で金属薄膜と試薬層が接触した時に金属薄膜が溶出する問題を起こすかどうかの確認モデルテストとして、以下の評価を実施した。
薄膜積層フィルムに20mm長の切り込みを基材フィルムが切断されない程度に入れた。5wt%ポリビニルピロリドン、20wt%フェリシアン化カリウム、10wt%モルホルノエタンスルホン酸をふくむ水溶液を塗布し、40℃で30分乾燥した。その後、40℃、90%RHの環境下に16時間置き、薬品を水洗した。切り込み部周辺をルーペで拡大して観察し、薄膜の溶解がなかった場合に○、溶解があった場合に×とした。
【0051】
(5)実施例7〜12におけるNd:YAGレーザー加工
IPG 社製連続発振Nd:YAGレーザー(YLR−200−AC)を使用した。照射スポット径を30μmとし、1回/1ドットの照射回数で、幅0.5mm長さ20mmの線で薄膜(カーボン薄膜、チタン薄膜、及び中間層が存在する場合は中間層も除去)を除去できるよう、レーザー出力を変化させてレーザーを照射した。照射された線に対して垂直方向に10mm幅の短冊を切り出し、照射された部位をまたぐ形で、2点間の電気抵抗を測定した。各実施例において、抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP1(W)とした。また、全光線透過率が88%、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルム基材に各実施例に記載の薄膜と同一構成の薄膜を積層し、上記と同様に抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP2(W)とした。P1/P2≦0.95の場合、レーザー加工性が向上したことを示す。
【0052】
(6)実施例7〜12におけるCO
2レーザー加工
レーザーワークス社製CO
2レーザー(VersaLaser)を使用した。スポット径を72μmとし、1270mm/秒の照射速度で、幅0.5mm長さ20mmの線にて線で無機薄膜(カーボン薄膜、チタン薄膜、及び中間層が存在する場合は中間層も除去)を除去できるよう、レーザー出力を変化させてレーザーを照射した。照射された線に対して垂直方向に10mm幅の短冊を切り出し、照射された部位をまたぐ形で、2点間の電気抵抗を測定した。各実施例において、抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP3(W)とした。また、全光線透過率が88%、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルム基材に各実施例に記載の薄膜と同一構成の薄膜を積層し、上記と同様に抵抗値が測定できなくなる最小のレーザー出力をP4(W)とした。P3/P4≦0.95の場合、レーザー加工性が向上したことを示す。
【0053】
(7)フィルム基材の全光線透過率
JIS−K7136に準拠し、日本電色工業(株)製、NDH−1001DPを用いて、フィルム基材の全光線透過率を測定した。測定面は、チタン薄膜やカーボン薄膜などを積層する、又は、積層されている側のフィルム基材表面とする。
なお、薄膜積層フィルムから基材フィルムの透過率を測定する場合には、カーボン薄膜をプラズマエッチングで除去し、チタン薄膜を30質量%塩酸で溶解した後に測定する。(フィルム基材が表面に硬化物層を有する場合には、基材フィルムと硬化物層とで一体のフィルム基材と見なして、硬化物層を除去することなく全光線透過率を測定する。)
【0054】
(8)フィルム基材の反射率
島津製作所製分光光度計(UV−vis UV−3150)に積分球を取り付け、硫酸バリウムの標準白色板を100%とした時の反射率を400〜700nmにわたって測定した。ここで、測定面は、チタン薄膜やカーボン薄膜などを積層する、又は、積層されている側のフィルム基材表面とし、反対面に黒色シート(GAボードFSブラック26)を敷き測定する。得られたチャートより5nm間隔で反射率を読み取り、その算術平均値を反射率とした。
なお、薄膜積層フィルムから基材フィルムの反射率を測定する場合には、カーボン薄膜をプラズマエッチングで除去し、チタン薄膜を30質量%塩酸で溶解した後に測定する。(フィルム基材が表面に硬化物層を有する場合には、基材フィルムと硬化物層とで一体のフィルム基材と見なして、硬化物層を除去することなく反射率を測定する。)
【0055】
(9)フィルム基材の空洞率
フィルムの断面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU1510)で撮影し、汎用的な画像解析ソフトウェア(ImageJ)を用いて各領域の空洞を抽出し、空洞率を面積率で求め、この値をそのまま体積%とし表示した。
【0056】
〔実施例1〕
プラスチックフィルムとして、厚み250μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルム(E5001、東洋紡社製)を用いた。前記プラスチックフィルムの全光線透過率は88%、反射率は4.5%であった。
【0057】
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルムのロールの真空暴露を行った。真空チェンバーで巻き返し処理を行い、このときの圧力は2×10
−3Paであり、暴露時間は20分とした。また、センターロールの設定温度は40℃とした。
【0058】
その後、チタンターゲットを用いて、二軸延伸ポリエステルフィルムの片面に、チタン薄膜を成膜した。このときスパッタリング前の真空チェンバーの到達圧力が1×10
−4Pa(到達真空度)であることを確認後、スパッタリングを実施した。スパッタリングの条件は、3W/□のDC電力を印加した。また、Arガスを流し、0.4Paの雰囲気下とし、DCマグネトロンスパッタリング法を用いて成膜した。また、センターロール設定温度は0℃とした。以上のようにして、膜厚50nmのチタン薄膜を堆積させた。
【0059】
続いて、大気に接触させることなく、同一真空チェンバー内でカーボン薄膜を同様にスパッタリングし、チタン薄膜上にカーボン薄膜を積層した。カーボン薄膜の膜厚は2nmとした。
【0060】
図1は、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定結果である。酸化ピーク電流が+0.38Vの電位にて+0.39mAの電流値で観測され、還元ピーク電流が+0.18Vの電位に−0.3mAの電流にて観測されたことから、このチタン−カーボン薄膜積層フィルムは血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0061】
〔実施例2〕
膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚0.25nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0062】
〔実施例3〕
膜厚25nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚0.5nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。表1に示すように、好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0063】
〔実施例4〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚300nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚5nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0064】
〔実施例5〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0065】
〔実施例6〕
光重合開始剤含有紫外線硬化型アクリル系樹脂(大日精化工業社製、セイカビームEXF−01J)100質量部に、溶剤としてトルエン/MEK(80/20:質量比)の混合溶媒を、固形分濃度が50質量%になるように加え、撹拌して均一に溶解し塗布液を調製した。
【0066】
膜厚が188μmで表面に易接着層を有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系フィルム(A4100、東洋紡社製)の易接着層上に、調製した塗布液を、塗膜の厚みが3000nmになるように、マイヤーバーを用いて塗布した。80℃で1分間乾燥を行った後、紫外線照射装置(アイグラフィックス社製、UB042−5AM−W型)を用いて紫外線を照射(光量:300mJ/□)し、塗膜を硬化させ、硬化物層を積層した。
【0067】
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚25nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚20nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。好適な電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されたことから、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。また、試薬層塗布後に抵抗値変化がなく、切り込み部からの溶解もなかったことから、高い安定性を有し、血糖値センサー用ストリップの電極として好適に使用できるものである。
【0068】
〔比較例1〕
スパッタリング法にて、膜厚100nmのチタン薄膜だけを積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
図3に示すように、チタン薄膜が電子メディエーターとの電子授受することができないため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0069】
〔比較例2〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚40nmのカーボン薄膜だけを積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。
図4に示すように、カーボン薄膜の導電性が低いため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0070】
〔比較例3〕
電子ビーム加熱による真空蒸着にて、膜厚100nmのチタン薄膜を積層し、さらにその上に膜厚60nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。カーボン薄膜とチタン薄膜との剥離が生じ、薄膜積層フィルムの完成品とは呼べないものであった。結果としてチタン薄膜にクラックが生じているため、電位に酸化ピーク電流と還元ピーク電流が観測されず、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0071】
〔比較例4〕
膜厚100nmのニッケル薄膜を積層し、さらにその上に膜厚2nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化があり、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0072】
〔比較例5〕
膜厚100nmのニッケル薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0073】
〔比較例6〕
膜厚100nmのアルミニウム薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。また、サイクリックボルタンメトリー測定中に側面からのアルミニウムの溶解が起こったため、電極が消失した。このことからも、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0074】
〔比較例7〕
膜厚100nmの銀薄膜を積層し、さらにその上に膜厚40nmのカーボン薄膜を積層したこと以外は、実施例1と同様に実施した。試薬層塗布後に抵抗値変化の変化はなかったが、切り込み部からの溶解があったことから、血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。また、サイクリックボルタンメトリー測定中に側面からの銀の溶解が起こったため、電極が消失した。このことからも血糖値センサー用ストリップの電極としての使用にあまり適していない。
【0075】
【表1】
【0076】
〔実施例7〕
プラスチックフィルムとして、平均粒径が0.45μmのルチル型の酸化チタンを10重量%にて含む、全光線透過率が1.8%、反射率が96.3%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例1と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例1相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0077】
〔実施例8〕
平均粒径0.3μmの硫酸バリウムを20重量%にて含む全光線透過率が1.9%、反射率が96.1%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例2と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例2相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0078】
〔実施例9〕
平均粒径が0.45μmのルチル型の酸化チタンを2重量%にて含む全光線透過率が44.4%、反射率が51.3%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例3と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例3相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0079】
〔実施例10〕
平均粒径0.3μmの硫酸バリウムを10重量%にて含む全光線透過率が7.0%、反射率が86.1%である厚み250μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例4と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例4相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0080】
〔実施例11〕
厚み250μmの全光線透過率が2.1%、反射率が95.7%である空洞含有二軸延伸ポリエステルフィルム(80重量%のポリエチレンテレフタレートと20重量%のポリスチレンとを混合して製膜)を用いて、実施例5と同様の薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(即ち、実施例5相当品)と比較して、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0081】
〔実施例12〕
A層が平均粒径を0.45μmのルチル型の酸化チタン5重量%、及びポリスチレン15重量%を含有するポリエチレンテレフタレートからなり、B層がポリエチレンテレフタレートからなる、B層/A層/B層の構成であり層厚み比が1/8/1の全光線透過率が2.0%、反射率が96.0%の総厚みが250μmの空洞含有二軸延伸ポリエステルフィルムを用いて、実施例6と同様の硬化物層と薄膜を積層した。全光線透過率が88%で、反射率が4.5%の二軸延伸ポリエステルフィルムを基材として用いた場合(実施例6相当品)より、抵抗値が測定できなくなるレーザー出力が低下することが認められ、更に優れたものであった。
【0082】
【表2】