特許第6222236号(P6222236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222236
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】連続壁打設方法および連続壁打設用治具
(51)【国際特許分類】
   E02D 13/04 20060101AFI20171023BHJP
   E02D 13/00 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   E02D13/04
   E02D13/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-540544(P2015-540544)
(86)(22)【出願日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2014076409
(87)【国際公開番号】WO2015050207
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2016年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-209552(P2013-209552)
(32)【優先日】2013年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】豊島 径
(72)【発明者】
【氏名】加藤 篤史
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−083016(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111474(WO,A1)
【文献】 特開2008−267069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00−5/20,7/00−13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に、嵌合部を有する複数枚の鋼矢板を、前記嵌合部同士を互いに嵌合させながら打設して連続壁を構成する方法であって、
前記嵌合部と同一形状のガイド部を有する連続壁打設用治具を、前記ガイド部が前記嵌合部と連なるように、前記鋼矢板に連結する第1の治具連結工程と;
前記第1の治具連結工程後の前記鋼矢板を、前記連続壁打設用治具の前記ガイド部の一部が水面上に出るように、前記水中に打設する第1の打設工程と;
前記第1の打設工程後に、他の鋼矢板の嵌合部を、前記連続壁打設用治具の前記ガイド部、続いて前記鋼矢板の前記嵌合部のそれぞれに嵌合させながら、前記他の鋼矢板を前記水中に打設する第2の打設工程と;
前記第2の打設工程後に、前記連続壁打設用治具を前記鋼矢板より取り外す治具取り外し工程と;
を有し、
前記鋼矢板に支柱が予め固定されるとともに前記他の鋼矢板に他の支柱が予め固定されており;
前記第1の打設工程では前記支柱に打設駆動力を付与することで前記鋼矢板を打設するとともに、前記第2の打設工程では前記他の支柱に打設駆動力を付与することで前記他の鋼矢板を打設する;
ことを特徴とする連続壁打設方法。
【請求項2】
前記第2の打設工程の前に、前記他の鋼矢板の前記嵌合部と同一形状のガイド部を有する他の連続壁打設用治具を、前記他の連続壁打設用治具の前記ガイド部が前記他の鋼矢板の前記嵌合部と連なるように、前記他の鋼矢板に連結する第2の治具連結工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の連続壁打設方法。
【請求項3】
水中に、嵌合部を有する複数枚の鋼矢板を、前記嵌合部同士を互いに嵌合させながら打設して連続壁を構成する際に用いられる治具であって、
前記鋼矢板の一側縁及び他側縁のそれぞれに設けられた前記嵌合部間の離間寸法よりも小さい幅寸法を有する治具本体と;
前記治具本体に設けられ、前記嵌合部と同一形状であるガイド部と;
前記治具本体に設けられ、前記鋼矢板に対して連結した際に、前記ガイド部が前記嵌合部と連なるように、前記鋼矢板に対して前記治具本体を位置決めする位置決め部と;
を備え、
前記鋼矢板に対して着脱自在であり、
前記鋼矢板に固定され打設駆動力が付与される支柱に対して、着脱可能に固定される固定部をさらに備え、該支柱が前記治具本体より前記鋼矢板の材軸方向の上方に突出している、
ことを特徴とする連続壁打設用治具。
【請求項4】
前記治具本体に、前記治具本体の一方の面より他方の面に抜ける貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項に記載の連続壁打設用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続壁打設方法および連続壁打設用治具に関する。
本願は、2013年10月4日に、日本に出願された特願2013−209552号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から、土木建築分野において、土留め、基礎、護岸壁、または止水壁などを構築する際には、U形鋼矢板、Z形鋼矢板、ハット形鋼矢板、または直線鋼矢板などが広く使用されている(例えば特許文献1〜5参照)。また、これらの鋼矢板は、H形状鋼部材(H形鋼)またはT形状鋼部材(T形鋼)などを支柱として組み合わせて、組合せ鋼矢板(壁体構造部材)として使用されることもある。
【0003】
組合せ鋼矢板は、例えば、桟橋の構築に用いられる。図16Aおよび図16Bは、複数の組合せ鋼矢板4を用いて岸壁1に敷設された桟橋2を示す模式図である。なお、図16Aは側面模式図であり、図16Bは正面模式図である。図16Aおよび図16Bに示すように、支柱6は、桟橋2(荷揚げ場)の直下に配置され、不陸である地盤3上に桟橋2を支持する役割を有する。また、鋼矢板5は、桟橋2の下方にある地盤3の土砂または石が流出するのを防ぐ役割を有する。なお、図16Bに示すように、隣り合う複数の鋼矢板5は、互いに連結されており、壁体方向X(鋼矢板5の幅方向、図16B参照)に沿って連続壁9を形成している。
【0004】
桟橋2を構築する際は、先に打設された鋼矢板5の継手に対し、次に打設される鋼矢板5の継手を嵌合させながら、打設していく。この手順を繰り返しながら、複数の組合せ鋼矢板4を地盤3に順次打設する。このとき、隣り合う鋼矢板5の継手同士を確実に嵌合(連結)させるためには、嵌合開始時の嵌め合わせを目視で確認する必要があるため、打設後の鋼矢板5の上端部が、水上に現れている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2002−004241号公報
【特許文献2】日本国特開2002−081038号公報
【特許文献3】日本国特開2003−253644号公報
【特許文献4】日本国特開2003−306920号公報
【特許文献5】日本国特開2005−139680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、打設後の鋼矢板5の上端部が水上に現れている場合、いくつかの問題が生じる。
1つ目は、鋼材重量の増加によってコストが増加することである。鋼矢板5の役割は地盤3の土砂または石が流出するのを防ぐことであるため、地盤3より上方の部分は構造として必要ない範囲となる。したがって、打設後の鋼矢板5の上端部が水上に現れている場合、構造として不必要な範囲まで鋼矢板5を伸ばすことになるので、鋼材重量が増加しコストが増加する。また、この場合、波浪(水流)による水圧を連続壁の広い壁面で受け止めることになるため、桟橋2に大きな外力が作用することとなる。そのため、水圧に耐え得る連続壁として剛性を確保するべく、鋼矢板5には十分な板厚を持つものを用いる必要が生じることもある。その結果、鋼材重量が増加し、コストが増加する。
2つ目は、水域の連続性が絶たれることである。打設後の鋼矢板5の上端部が水上に現れている場合、連続壁により水流が完全に遮断されるので、桟橋2の下側の領域では水が滞留する。その結果、水の濁りまたはヘドロの堆積などが発生することがある。
【0007】
これらの問題を回避するための一案として、鋼矢板5の長さ寸法(高さ)を短くして、鋼矢板5を水中に沈めてしまうことが考えられる。この場合、隣り合う鋼矢板5の継手同士を嵌合させながら鋼矢板5を水中に打設するためには、ダイバーが水中に潜って、継手の嵌合作業を行う必要がある。しかしながら、水中での作業は、水上での作業に比べて手間がかかる上に、水の濁りによって視界が悪いような場合には、嵌合作業自体を行えない虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数枚の鋼矢板からなる連続壁を低コストかつ容易に水中に打設することができる連続壁打設方法と、この連続壁打設方法に用いるのに好適な連続壁打設用治具との提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下を採用する。
(1)本発明の一態様に係る連続壁打設方法は、水中に、嵌合部を有する複数枚の鋼矢板を、前記嵌合部同士を互いに嵌合させながら打設して連続壁を構成する方法であって、前記嵌合部と同一形状のガイド部を有する連続壁打設用治具を、前記ガイド部が前記嵌合部と連なるように、前記鋼矢板に連結する第1の治具連結工程と;前記第1の治具連結工程後の前記鋼矢板を、前記連続壁打設用治具の前記ガイド部の一部が水面上に出るように、前記水中に打設する第1の打設工程と;前記第1の打設工程後に、他の鋼矢板の嵌合部を、前記連続壁打設用治具の前記ガイド部、続いて前記鋼矢板の前記嵌合部のそれぞれに嵌合させながら、前記他の鋼矢板を前記水中に打設する第2の打設工程と;前記第2の打設工程後に、前記連続壁打設用治具を前記鋼矢板より取り外す治具取り外し工程と;を有し、前記鋼矢板に支柱が予め固定されるとともに前記他の鋼矢板に他の支柱が予め固定されており;前記第1の打設工程では前記支柱に打設駆動力を付与することで前記鋼矢板を打設するとともに、前記第2の打設工程では前記他の支柱に打設駆動力を付与することで前記他の鋼矢板を打設する。
(2)上記(1)に記載の態様において、前記第2の打設工程の前に、前記他の鋼矢板の前記嵌合部と同一形状のガイド部を有する他の連続壁打設用治具を、前記他の連続壁打設用治具の前記ガイド部が前記他の鋼矢板の前記嵌合部と連なるように、前記他の鋼矢板に連結する第2の治具連結工程をさらに有していてもよい。
(3)本発明の他の態様に係る連続壁打設用治具は、水中に、嵌合部を有する複数枚の鋼矢板を、前記嵌合部同士を互いに嵌合させながら打設して連続壁を構成する際に用いられる治具であって、前記鋼矢板の一側縁及び他側縁のそれぞれに設けられた前記嵌合部間の離間寸法よりも小さい幅寸法を有する治具本体と;前記治具本体に設けられ、前記嵌合部と同一形状であるガイド部と;前記治具本体に設けられ、前記鋼矢板に対して連結した際に、前記ガイド部が前記嵌合部と連なるように、前記鋼矢板に対して前記治具本体を位置決めする位置決め部と;を備え、前記鋼矢板に対して着脱自在であり、前記鋼矢板に固定され打設駆動力が付与される支柱に対して、着脱可能に固定される固定部をさらに備え、該支柱が前記治具本体より前記鋼矢板の材軸方向の上方に突出している。
)上記(に記載の態様において、前記治具本体に、前記治具本体の一方の面より他方の面に抜ける貫通孔が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
上記(1)に記載の連続壁打設方法によれば、鋼矢板の嵌合部と同一形状のガイド部を有する連続壁打設用治具を、ガイド部が鋼矢板の嵌合部と連なるように、鋼矢板に連結させるので、水中に没するほど短い鋼矢板を用いても、その嵌合部の長さの不足分をガイド部の長さにより補うことができる。すなわち、鋼矢板の嵌合部の長さがあたかも水上まで至るように延長することができる。したがって、連続壁を低コストかつ容易に水中に打設することができる。
また、鋼矢板および他の鋼矢板の長さが短くとも、これら鋼矢板および他の鋼矢板に対し、支柱及び他の支柱を介して打設駆動力を確実に付与することが出来る。
【0011】
上記(2)の場合、水中打設後における他の鋼矢板の嵌合部を、他の連続壁打設用治具のガイド部によって水上に至るまで延長することができるので、さらに他の鋼矢板を水上で嵌合開始させながら打設することができる。
【0013】
上記()に記載の連続壁打設用治具によれば、鋼矢板の嵌合部と同一形状であるガイド部を有するので、鋼矢板と組み合わせた際に嵌合部の長さを延長することができる。また、鋼矢板に対する治具本体の位置決めをする位置決め部を有するので、ガイド部と嵌合部とが一致するように、治具本体を鋼矢板に対して正確に連結させることができる。また、鋼矢板に対して着脱自在であるので、鋼矢板を打設した後に、連続壁打設用治具を鋼矢板から取り外して次工程に使い回すことができる。したがって、短い鋼矢板を用いても、連続壁を低コストかつ容易に水中に打設することができる。
また、打設する鋼矢板よりも治具本体の幅寸法が小さいので、治具本体の表面積を小さくして、打設時に治具本体が水流によって受ける水圧を低減することができる。また、連続壁打設用治具の重量が軽くなるので、製造コストの低減と、施工安定性とを向上させることができる。
さらに、鋼矢板に固定された支柱に対して着脱自在に固定される固定具を有するので、鋼矢板に対する治具本体の位置ずれをさらに防止することができる。
【0015】
上記()の場合、鋼矢板を打設する際に治具本体が受ける水圧を、貫通孔を通して逃がすことができるので、さらに施工安定性を向上させることができる。また、連続壁打設用治具の重量が軽くなることからも、製造コストの低減と、取り扱いのしやすさによる施工安定性とを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を示す斜視図である。
図1B】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を示す平面図である。
図2A】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けた状態を示す斜視図である。
図2B】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に固定した状態を示す平面図である。
図3A】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を用いて水中に連続壁を打設する方法を説明するための図である。
図3B】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を用いて水中に連続壁を打設する方法を説明するための図である。
図3C】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を用いて水中に連続壁を打設する方法を説明するための図である。
図3D】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具を用いて水中に連続壁を打設する方法を説明するための図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図である。
図5】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図であって、同連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けて固定した状態を示す図である。
図7A】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図である。
図7B】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す平面図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図であって、同連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けて固定した状態を示す図である。
図9図2Aの二点鎖線Aで示した部分の拡大図であって、本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す図である。
図10図9のA−A断面図であって、本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す図である。
図11A】本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図であって、同連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けて固定した状態を示す図である。
図11B図11Aに示す連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に取り付けた状態を示す平面図である。
図12】本発明の第2実施形態に係る連続壁打設用治具を示す斜視図である。
図13】本発明の第2実施形態に係る連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けた状態を示す斜視図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る連続壁打設用治具の変形例を示す斜視図である。
図15図14に示す連続壁打設用治具を組合せ鋼矢板に組み付けて固定した状態を示す斜視図である。
図16A】岸壁に敷設された桟橋構造を示す側面模式図である。
図16B図16Aに示す桟橋構造の正面模式図であって、図16AのB方向から見た図である。
図17A】ハット形鋼矢板とH形鋼とで構成される組合せ鋼矢板を示す斜視図である。
図17B】ハット形鋼矢板とH形鋼とで構成される組合せ鋼矢板を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
まず、本発明の第1実施形態に係る連続壁打設用治具100について説明する。図1Aおよび図1Bは、本実施形態に係る連続壁打設用治具100を示す図である。図1Aは斜視図であり、図1Bは平面図である。図1Aおよび図1Bに示すように、連続壁打設用治具100は、治具本体110と、治具本体110の下端部に設けられる位置決め部120とを備える。なお、後述するが、連続壁打設用治具100は、ハット形鋼矢板5(鋼矢板)およびH形鋼6(支柱)から構成される組合せ鋼矢板4(図17Aおよび図17B参照)に着脱自在に取り付けられる。
【0019】
連続壁打設用治具100の治具本体110は、ガイド部110a、アーム部110b、吊り孔112が設けられたウェブ部110c、及び複数のボルト孔111が設けられたフランジ部110dを有する。治具本体110の平面形状は、図1Bに示すように、鋼矢板5(図1Aおよび図1Bにおいて不図示、図17Aおよび図17B参照)の半割れ形状と同一である。そのため、治具本体110の幅W(幅方向X(壁体方向X)における治具本体110の長さ:図1B参照)は、鋼矢板5の幅d(鋼矢板の両側縁のそれぞれに設けられた継手部(嵌合部)間の離間距離:図17B参照)よりも小さい。
【0020】
ここで、「鋼矢板5の半割れ形状」とは、鋼矢板5を平面視した場合にそのフランジ部5dを通り、かつ鋼矢板5の材軸方向Z(鋼矢板5の高さ方向、鋼矢板5が打設される方向、または鉛直方向:図17A参照)に平行な面で鋼矢板5を2つに切断した場合の片方の形状を意味する。また、「同一の形状」とは、治具本体110の横断面(図1AのX方向に平行な断面)が、鋼矢板5の半割れ形状の横断面と同一であることを意味する。
【0021】
すなわち、治具本体110では、ガイド部110a、アーム部110b、及びウェブ部110cが、それぞれ、鋼矢板5の継手部5a(嵌合部)、アーム部5b、及びウェブ部5cと同一の形状を有している。また、治具本体110のフランジ部110dは、鋼矢板5のフランジ部5dの一部と同一の形状を有する。
【0022】
鋼矢板5の打設条件などによって異なるが、治具本体110の高さH(図1AにおいてZ方向における治具本体110の長さ)は、例えば5〜10mであり、治具本体110の幅Wは、例えば0.5mである。
【0023】
なお、連続壁打設用治具100を製作する際は、打設される鋼矢板5と同一の形状を有する鋼矢板を材軸方向Zに切断し、これを治具本体110として用いることができる。
【0024】
連続壁打設用治具100の位置決め部120は、一対の板120a、120bから構成され、治具本体110のウェブ部110cおよびアーム部110bにそれぞれ設けられている。位置決め部120は、溶接またはボルトなどによって、治具本体110に固定されている。なお、後述するが、位置決め部120は、連続壁打設用治具100を鋼矢板5に対して組み付けた際、鋼矢板5のウェブ部5c及びアーム部5bの上端部を挟むことにより、鋼矢板5に対する治具本体110のX方向およびY方向(幅方向Xに直交する方向:図1Aおよび図1B参照)の位置決めをする。そのため、位置決め部120を構成する一対の板120a、120bの間には、少なくとも鋼矢板5の厚み分の隙間がある。
【0025】
図1Aおよび図1Bでは、位置決め部120が連続壁打設用治具100のウェブ部110c及びアーム部110bの双方に設けられている。そして、図1Bの紙面左側の位置決め部120(120a、120b)がY方向における位置決めを担い、また図1Bの紙面右側の位置決め部120(120a、120b)がX方向及びY方向双方における位置決めを担っている。すなわち、図2A及び図2Bに示すように、これら一対の位置決め部120をそれぞれ、鋼矢板5のウェブ部5c及びアーム部5bに取り付けることで、連続壁打設用治具100のガイド部110aの溝と、鋼矢板5の継手部5aの溝とを合致させることができる。
なお、位置決め部120の数は一対(2箇所)に限らず、1箇所であってもよいし、3箇所以上であっても良い。
【0026】
治具本体110のフランジ部110dの上端部には、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に固定するために用いられるボルト孔111が、例えば3つ設けられている。一方、組合せ鋼矢板4のH形鋼6(支柱)にも同様に3つのボルト孔131が設けられている。ボルト孔111及びボルト孔131は、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に対して組み付けた際に互いの位置が一致する。そして、図2Bに示すように、ボルト孔131に対してボルト孔111を一致させた状態で、ボルト130aを通してからナット130bで締結することにより、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に対して固定することができる。なお、ボルト孔131及びボルト孔111の何れか一方に雌ねじを形成して、ナット130bの代わりとしてもよい。
【0027】
また、治具本体110のウェブ部110cの上端部には、連続壁打設用治具100の吊り上げに用いられる吊り孔112が、例えば1つ設けられている。連続壁打設用治具100を吊り上げる際は、吊り孔112にワイヤーまたはフックなどを通すことにより、連続壁打設用治具100をウインチなどの機械で吊り上げることができる。なお、吊り孔112は、アーム部110bに設けられてもよいが、吊り下げたときに斜めにならないように、連続壁打設用治具100の重心位置の直上に設けることがより好ましい。
【0028】
なお、吊り孔112の代わりに突起部(不図示)を設け、この突起部にワイヤーまたはフックなどを引っ掛けて連続壁打設用治具100を吊り上げても良い。
【0029】
図2Aは、連続壁打設用治具100を、ハット形鋼矢板5およびH形鋼6(支柱)から構成される組合せ鋼矢板4に組み付けた(連結させた)状態を示す斜視図である。なお、図2AのY方向における紙面手前側を背面側と称し、紙面奥側を正面側と称する。以後、本明細書における全ての図において同様である。
【0030】
図2Aに示すように、連続壁打設用治具100は、鋼矢板5の直上に組み付けられる。連続壁打設用治具100を鋼矢板5に組み付ける際には、連続壁打設用治具100を、位置決め部120が鋼矢板5のウェブ部5c及びアーム部5bの上端部を挟み込むように、Z方向上側から下側へ向かって移動させながら組合せ鋼矢板4に組み付ける(連結させる)。
【0031】
連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた状態では、位置決め部120が鋼矢板5を挟み込むことにより、組合せ鋼矢板4に対する連続壁打設用治具100のXおよびY方向における位置が決定される。また、連続壁打設用治具100の治具本体110の下端面と、鋼矢板5の上端面とが接触するので、組合せ鋼矢板4に対する連続壁打設用治具100のZ方向における位置が決定される。したがって、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に対して正確に組み付けることができる。
【0032】
また、組合せ鋼矢板4では、H形鋼6の上端がハット形鋼矢板5の上端よりもZ方向上側に位置し、ハット形鋼矢板5の上端から、H形鋼6の上端までの高さ(長さ)がhである(図17A参照)。連続壁打設用治具100の治具本体110は、その高さH(図1A参照)が、水中打設時における鋼矢板5の上端から水面までの高さより大きく、組合せ鋼矢板4における高さh(図17A参照)より小さい。これは、H形鋼6の上端を打設機でチャックする際に、打設機と連続壁打設用治具100との干渉を避けるためである。したがって、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた状態では、連続壁打設用治具100の上端が、H形鋼6の上端よりもZ方向下側に位置している。ただし、H形鋼6の上端を打設機でチャックする際に打設機と連続壁打設用治具100とが干渉しない場合には、連続壁打設用治具100の治具本体110の高さHは、組合せ鋼矢板4における高さhより大きくてもよい。
【0033】
図2Bは、ボルト130aおよびナット130bから構成される固定具130を用いて、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に固定した状態を示す平面図である。上述のように、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた状態では、連続壁打設用治具100のボルト孔111、及び組合せ鋼矢板4のボルト孔131は、互いの位置が一致している。そのため、図2Bに示すように、ボルト130aをボルト孔111及びボルト孔131に通してからナット130bで締結することにより、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に対して固定することができる。このように、固定具130を用いて連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に固定することにより、組合せ鋼矢板4に対する連続壁打設用治具100の位置ずれを防止することができる。
【0034】
上述のように、連続壁打設用治具100は、位置決め部120により、組合せ鋼矢板4に組み付けられ、固定具130のボルト130aとナット130bを締結することにより組合せ鋼矢板4に固定される。そのため、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に固定した後、固定具130の締結を解除することにより、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4から取り外すことができる。すなわち、連続壁打設用治具100は、組合せ鋼矢板4に対して着脱自在である。
【0035】
上述のように、連続壁打設用治具100の治具本体110の形状は、鋼矢板5の半割れ形状と同一である。その結果、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた状態では、連続壁打設用治具100のガイド部110a、アーム部110b、ウェブ部110c、およびフランジ部110dの各位置が、それぞれ、鋼矢板5の継手部5a、アーム部5b、ウェブ部5c、およびフランジ部5dの各位置と一致している。このため、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けることにより、鋼矢板5の継手部5aの長さ(高さ)を高さH分延長することができる。
【0036】
このように連続壁打設用治具100を鋼矢板5に組み付けて固定する(取り付ける)ことにより、互いに隣り合う鋼矢板5の継手部5a同士を嵌合させながら、水中に複数の組合せ鋼矢板4を順次打設して連続壁を構成することができる。連続壁を水中に打設する方法については、後述する。
【0037】
[連続壁の打設方法]
次に、本実施形態に係る連続壁打設用治具100を用いて、連続壁9(隣り合う鋼矢板が互いに連結された複数枚の鋼矢板)を水中に打設する方法について説明する。なお、以下の説明において、組合せ鋼矢板4及び連続壁打設用治具100をそれぞれ複数用いるが、それぞれを区別して説明するために、他の品番を用いる場合がある。また、図面中の符号WLは水面を示し、符号GLは水中の地面を示す。
【0038】
図3A〜3Dは、連続壁9を水中に打設する方法を説明する図であって、組合せ鋼矢板4及び連続壁打設用治具100の正面斜視図である。まず、図3Aに示すように、組合せ鋼矢板4Xの鋼矢板5の半割れ形状と同一の形状を有する連続壁打設用治具100Xを組合せ鋼矢板4Xに取り付けた後、組合せ鋼矢板4Xを水中の地面に打設する。組合せ鋼矢板4Xを打設する際は、H形鋼6のウェブ部6bをバイブロハンマーのチャックで把持して打設することが好ましい。この場合、組合せ鋼矢板4Xに対して、H形鋼6より打設駆動力を確実に付与することができる。
【0039】
連続壁打設用治具100Xの治具本体110の高さH(図1A参照)は、打設時に治具本体110の上端部が水上に出るように設定されている。したがって、組合せ鋼矢板4Xを水中に打設完了した状態では、連続壁打設用治具100Xの治具本体110の上端部が水上に現れている。
【0040】
このように連続壁打設用治具100Xを組み付けた状態で、組合せ鋼矢板4Xを打設することにより、打設時に鋼矢板5が水中に没していても、鋼矢板5の上端から水上までの高さ(長さ)を連続壁打設用治具100のガイド部110aの高さ(長さ)で補うことができる。すなわち、鋼矢板5の継手部5aがあたかも水上まで至るように、鋼矢板5の継手部5aの高さ(長さ)を延長させることができる。
【0041】
次に、上記の組合せ鋼矢板4Xの場合と同様に、組合せ鋼矢板4Yの鋼矢板5の半割れ形状と同一の形状を有する連続壁打設用治具100Yを組合せ鋼矢板4Yに取り付ける。その後、図3Aに示すように、組合せ鋼矢板4Yの鋼矢板5の継手部5aを、連続壁打設用治具100Xのガイド部110a、続いて、組合せ鋼矢板4Xの鋼矢板5の継手部5aに嵌合させながらスライドさせ、組合せ鋼矢板4Yを水中の地面に打設する。この時、連続壁打設用治具100Xのガイド部110aが水上に現れているため、組合せ鋼矢板4Yの鋼矢板5の継手部5aを水上で嵌合開始させながら組合せ鋼矢板4Yを打設することができる。
したがって、組合せ鋼矢板4Xの鋼矢板5が水中に没していても、組合せ鋼矢板4Xに組合せ鋼矢板4Yを容易に嵌合させることができる。また、打設時に鋼矢板5の上端部が水上に現れていることを要しないので、組合せ鋼矢板4の全長を短くしてその重量を低減することができる。
【0042】
上述のように組合せ鋼矢板4Yの継手部5aを組合せ鋼矢板4Xの継手部5aに嵌合させながら水中の地面に打設することにより、組合せ鋼矢板4Xと組合せ鋼矢板4Yとが互いに連結された状態となる(図3B参照)。
【0043】
次に、図3Cに示すように、連続壁打設用治具100Xを組合せ鋼矢板4Xから取り外す。この際、まず、連続壁打設用治具100Xを組合せ鋼矢板4Xに固定している固定具130(ボルト130aおよびナット130b)の締結を解除し、固定具130を連続壁打設用治具100Xおよび組合せ鋼矢板4Xから取り外す。そして、吊り孔112にワイヤー30を引っ掛けてクレーン20で連続壁打設用治具100Xを上方に吊り上げる。このようにして、連続壁打設用治具100Xを組合せ鋼矢板4Xから取り外すことができる。
【0044】
上記のように、固定具130は、打設後に取り外されるため、連続壁打設用治具100の上端部に配置されることが好ましい。すなわち、連続壁打設用治具100のボルト孔111は、打設後も水上に現れるように、治具本体110のフランジ部110dの上端部に設けられることが好ましい。この場合、打設後における固定具130の取り外し作業を水上で容易に行うことができる。
【0045】
図3Cに示す連続壁打設用治具100の取り外し作業が終了した後、別の組合せ鋼矢板4を打設する場合には、図3Dに示すように、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に取り付けた後、組合せ鋼矢板4の継手部5aを、連続壁打設用治具100Yのガイド部110a、および組合せ鋼矢板4Yの継手部5aに嵌合させながら水中の地面に打設する。なお、組合せ鋼矢板4に対して連続壁打設用治具100は取り外し可能である(着脱自在である)ため、先に取り外した連続壁打設用治具100Xを使い回すことも可能である。
【0046】
図3A〜3Dに示した作業の時点で、3枚の鋼矢板5からなる連続壁9が水中に打設される。さらに作業を続けて4枚以上の鋼矢板5からなる連続壁9を打設する場合には、同様の作業を繰り返し行えばよい。
【0047】
以上に説明した連続壁9の打設方法(構築方法)により、複数枚の鋼矢板5からなる連続壁9を、低コストかつ容易に水中に打設することができる。なお、上述の連続壁9の打設方法では、図3Bに示すように、組合せ鋼矢板4Yに連続壁打設用治具100Yを取り付ける場合を示したが、2枚の鋼矢板5からなる連続壁9を打設する場合には、組合せ鋼矢板4Yに連続壁打設用治具100Yを前もって取り付ける必要はない。
【0048】
[連続壁打設用治具の変形例]
図4は、本実施形態に係る連続壁打設用治具100の変形例を示す斜視図である。図4に示すように、連続壁打設用治具100の治具本体110には、治具本体110の一方の面より他方の面に抜ける貫通孔113(水抜き穴)が設けられている。この構造によれば、鋼矢板5を打設する際に治具本体110が受ける水圧を、貫通孔113を通して逃がすことができるので、水圧による連続壁打設用治具100の揺動を抑えて施工安定性を向上させることができる。また、連続壁打設用治具100の重量が軽くなることからも、製造コストの低減と、取り扱いのしやすさによる施工安定性とを向上させることができる。なお、図4では、貫通孔113が治具本体110のウェブ部110cおよびアーム部110bに設けられているが、治具本体110のウェブ部110cおよびアーム部110bのいずれか一方のみ設けられてもよい。
【0049】
また、例えば、図5に示すように、連続壁打設用治具100では、L形板140(位置決め部)を、フランジ部110dとの間に少なくともH形鋼6のフランジ6aの厚み分の隙間を有するように、フランジ部110dに例えば2個設けてもよい。この場合、図6に示すように、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた際、L形板140がH形鋼6のフランジ6aを挟み込むことができる。その結果、組合せ鋼矢板4に対する連続壁打設用治具100のY方向の位置ずれをさらに防止することができる。なお、L形板140の設置は、2箇所に限らず、1箇所又は3箇所以上に設けてもよい。L形板140を複数個設ける場合、L形板140が、連続壁打設用治具100の上端部および下端部のそれぞれに少なくとも1個設けられることが好ましい。
なお、H形鋼6が鋼矢板5の正面側(図2A参照)に取り付けられて組合せ鋼矢板4が構成されている場合には、L形板140は治具本体110のフランジ部110dの正面側に設けられればよい。
【0050】
また、図7Aおよび図7Bに示すように、連続壁打設用治具100では、治具本体110に丸鋼150(位置決め部)が、例えば4個設けられてもよい。この場合、X方向およびY方向における連続壁打設用治具100の位置ずれをさらに防止することができる。また、この場合、位置決め精度をより高めるために、丸鋼150は治具本体110の曲がり角部にも設けることが好ましい。
なお、図7Aおよび図7Bは、連続壁打設用治具100に位置決め部120および丸鋼150を設ける場合を示しているが、位置決め部120を設けずに、丸鋼150のみを設けてもよい。
【0051】
また、例えば、図8に示すように、位置決め部120に代えて楔180が治具本体110のウェブ部110cに設けられ、鋼矢板5のウェブ部5cに楔受け182が設けられてもよい。この場合、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に組み付けた際、楔180が楔受け182に嵌め込まれるので、位置決め部120を設けなくても、組合せ鋼矢板4に対する連続壁打設用治具100の位置決めをすることができる。なお、楔180が治具本体110のアーム部110bに設けられるとともに、楔受け182が鋼矢板5のアーム部5bに設けられてもよい。
【0052】
また、例えば、図9に示すように、楔180が治具本体110のガイド部110aに設けられ、楔受け182が鋼矢板5の継手部5aに設けられてもよい。この場合、位置決め部120と楔180と楔受け182とにより、鋼矢板5に対する連続壁打設用治具100の位置決めがされる。したがって、連続壁打設用治具100の位置ずれをさらに防止することができる。
【0053】
また、例えば、図10に示すように、連続壁打設用治具100では、位置決め部120に代えて、逆V字形板190が、連続壁打設用治具100の下端部に設けられてもよい。逆V字形板190は、一対の板190a、190bから構成され、一対の板190a、190bが、それぞれ、連続壁打設用治具100の下端部に斜めに溶接10で取り付けられる。逆V字形板190では、一対の板190a、190bの間の隙間が、それらの下端部において、鋼矢板5の厚みより大きいので、連続壁打設用治具100を鋼矢板5に組み付ける際、逆V字形板190が鋼矢板5の上端部を容易に挟み込むことができる。また、一対の板190a、190bの間の隙間が、Z方向上側ほど小さくなっているので、連続壁打設用治具100を鋼矢板5に組み付ける際、連続壁打設用治具100が所定の組み付け位置に誘導される。したがって、逆V字形板190を設けることにより、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4にスムーズに組み付けることができる。
【0054】
また、本実施形態では、連続壁打設用治具100の形状が、鋼矢板5の半割れ形状と同一である場合を示した。しかしながら、図11Aおよび図11Bに示すように、治具本体110は、鋼矢板5と同一の形状であってもよい。この場合、図11Bに示す治具本体110の幅W’が、鋼矢板5の離間寸法d(鋼矢板5の幅:図17B参照)と同じになる。
ただし、打設される鋼矢板5の離間寸法よりも治具本体110の幅が小さい場合(すなわち、図1Aに示す連続壁打設用治具100の場合)、打設される鋼矢板5の離間寸法と治具本体110の幅とが同じ場合(すなわち、図11A及び図11Bに示す連続壁打設用治具100の場合)と比べて、治具本体110の表面積を小さくできる。その結果、打設時に連続壁打設用治具100が水流などによって受ける水圧を低減することができ、また、連続壁打設用治具100の重量を軽くすることができる。このため、図1Aに示す連続壁打設用治具100は、図11A及び図11Bに示す連続壁打設用治具100に比べて、製造コストの低減と、施工安定性とを向上させることができる。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る連続壁打設用治具200について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことにより以下での重複説明を省略する。
【0056】
図12は、本実施形態に係る連続壁打設用治具200を示す斜視図である。第1実施形態では、鋼矢板5とH形鋼6から構成される組合せ鋼矢板4の打設に連続壁打設用治具100を用いる場合を示したが、本実施形態に係る連続壁打設用治具200は、鋼矢板5とT形鋼7から構成される組合せ鋼矢板8(図13参照)の打設に用いられる。
【0057】
図12に示すように、連続壁打設用治具200では、連続壁打設用治具200のフランジ部110dの上端部に、連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に固定するために用いられるボルト孔板210が設けられている。ボルト孔板210には、ボルト孔111が例えば3つ設けられている。
【0058】
図13は、連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に組み付けた状態を示す斜視図である。第1実施形態と同様に、組合せ鋼矢板8のT形鋼7(支柱)のウェブ部7bには3つのボルト孔131が設けられており、ボルト孔111及びボルト孔131は、連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に対して組み付けた状態で互いの位置が一致している。連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に組み付けた状態で、ボルト130aをボルト孔111及びボルト孔131に通してからナット130bで締結することにより、連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に対して固定することができる。
【0059】
本実施形態に係る連続壁打設用治具200の変形例として、例えば図14に示すように、治具本体110のフランジ部110dに、T形鋼7のウェブ部7bを挟み込む挟み部220(位置決め部)が、例えば2つ設けられてもよい。なお、挟み部220は、一対の板220a、220bから構成され、一対の板220a、220bの間には、少なくともT形鋼7のウェブ部7bの厚み分の隙間が設けられる。なお、図14に示すように、挟み部220を2つ設ける場合、治具本体110の下端部に一方の挟み部220を設け、治具本体110の上端部に他方の挟み部220を設けることが好ましい。
【0060】
図15は、図14に示す連続壁打設用治具200を組合せ鋼矢板8に組み付けて固定した状態を示す斜視図である。図15に示すように、連続壁打設用治具200は、挟み部220がT形鋼7のウェブ部7bを挟み込むように、組合せ鋼矢板8に組み付けられる。挟み部220は、位置決め部120と同様に、X方向における位置決めの役割を担う。したがって、挟み部220を設けて、T形鋼7のウェブ部7bを挟み込むことにより、連続壁打設用治具200の組合せ鋼矢板8に対する位置ずれをさらに防止することができる。
【0061】
なお、本実施形態において、T形鋼7が鋼矢板5の正面側に配置されて組合せ鋼矢板8が構成される場合には、ボルト孔板210及び挟み部220は、連続壁打設用治具200のフランジ部110dの正面側に設けられればよい。
【0062】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態のみに限定されるものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0063】
例えば、上記第1実施形態では、図3Aに示すように、複数の組合せ鋼矢板4をX方向における紙面左側から紙面右側に向かって順次打設する場合を示した。しかしながら、複数の組合せ鋼矢板4をX方向における紙面右側から紙面左側に向かって順次打設してもよい。この場合、位置決め部120を治具本体110の下端部に加えて治具本体110の上端部にも予め設けておき、さらにはボルト孔111及び吊り孔112を治具本体110の上端部に加えて治具本体110の下端部にも予め設けておくことが考えられる。このように上下対称の構造を採用した場合、連続壁の構築方向に応じて連続壁打設用治具100の上下を変えて使用すればよい。
【0064】
また、例えば、第1実施形態では、連続壁打設用治具100の治具本体110が、鋼矢板5の半割れ形状と同一、または鋼矢板5の形状と同一である場合を示した。しかしながら、鋼矢板5の継手部5aを水上まで延長するという観点からは、少なくとも治具本体110のガイド部110aが、鋼矢板5の継手部5aの形状と同一の形状を有していればよい。
【0065】
また、例えば、上記第1実施形態では、連続壁打設用治具100がハット形鋼矢板5とH形鋼6から構成される組合せ鋼矢板4に取り付けられる場合を示し、上記第2実施形態では、連続壁打設用治具200がハット形鋼矢板5とT形鋼7から構成される組合せ鋼矢板8に取り付けられる場合を示した。しかしながら、ハット形鋼矢板5は、例えば、U形鋼矢板、Z形鋼矢板、または直線鋼矢板などであってもよい。また、H形鋼6またはT形鋼7に限定されず、例えば、L形鋼であってもよい。この場合、組合せ鋼矢板の形状および構造などに応じた連続壁打設用治具を作製すればよい。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0067】
図1Aに示した連続壁打設用治具100を作製し、図2Aに示すように、連続壁打設用治具100を組合せ鋼矢板4に取り付けた。そして、H形鋼6のウェブ部6bの上端部をバイブロハンマーのチャックで把持して、組合せ鋼矢板4を水中の地面に打設した。
【0068】
次に、他の連続壁打設用治具100を取り付けた組合せ鋼矢板4を、その継手部5aが先に打設された連続壁打設用治具100のガイド部110a、続いて連続壁打設用治具100の継手部5aに嵌合するように水上から打設した。打設後、先に打設した組合せ鋼矢板4から連続壁打設用治具100を取り外して引き上げた。
【0069】
上記の組合せ鋼矢板4の打設と、連続壁打設用治具100の引上げを繰り返して、連続壁を水中に打設した。連続壁を水中に打設する際に、鋼矢板の継手部の嵌合トラブルはなく、複数の組合せ鋼矢板4の打設は円滑に進行した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、複数枚の鋼矢板からなる連続壁を低コストかつ容易に水中に打設することができる連続壁打設方法と、この連続壁打設方法に用いるのに好適な連続壁打設用治具との提供することができる。
【符号の説明】
【0071】
1:岸壁
2:桟橋
3:地盤
4:組合せ鋼矢板
5:鋼矢板(ハット形鋼矢板)
5a:鋼矢板の継手部(嵌合部)
5b:鋼矢板のアーム部
5c:鋼矢板のウェブ部
5d:鋼矢板のフランジ部
6:H形鋼(支柱)
6a:H形鋼のフランジ部
6b:H形鋼のウェブ部
7:T形鋼(支柱)
7a:T形鋼のフランジ部
7b:T形鋼のウェブ部
8:組合せ鋼矢板
9:連続壁
10:溶接
20:クレーン
30:ワイヤー
100:連続壁打設用治具(第1実施形態)
110:連続壁打設用治具の治具本体
110a:連続壁打設用治具のガイド部
110b:連続壁打設用治具のアーム部
110c:連続壁打設用治具のウェブ部
110d:連続壁打設用治具のフランジ部
111:ボルト孔
112:吊り孔
113:貫通孔(水抜き穴)
120:位置決め部
130:固定具
130a:ボルト
130b:ナット
131:ボルト孔
140:L形板(位置決め部)
150:丸鋼(位置決め部)
180:楔
182:楔受け
190:逆V字形板
200:連続壁打設用治具(第2実施形態)
210:ボルト孔板
220:挟み部(位置決め部)
H:連続壁打設用治具の高さ
W:連続壁打設用治具の幅
h:鋼矢板の上端からH形鋼の上端までの高さ(長さ)
d:鋼矢板の幅(継手部(嵌合部)間の離間寸法)
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B