(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記取付板のうちで前記各大径部の周囲部分を径方向内方に塑性変形させる際に、前記外輪の周囲に、この外輪を囲む状態で配置した抑え治具により前記取付板の軸方向片側面の径方向中間部分を支承する事で、前記外輪に加工荷重が加わる事を防止する、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した取付板付転がり軸受ユニットの製造方法。
【背景技術】
【0002】
図11に示す様に、自動車用変速機を構成するカウンターシャフト等の回転軸1の端部はハウジング2の内面に、単列深溝型の玉軸受等のラジアル転がり軸受3により、回転自在に支持している。この為に、前記ハウジング2の内面に円形の保持凹部4を設け、この保持凹部4に前記ラジアル転がり軸受3を構成する外輪5を、締り嵌めで内嵌固定している。又、このラジアル転がり軸受3を構成する内輪6に前記回転軸1の端部を、締り嵌め等、径方向のがたつきを抑えた嵌合状態で内嵌している。更に、前記外輪5が前記保持凹部4から抜け出す事を防止する為に、この外輪5を、リテーナプレートと呼ばれる取付板7により、前記保持凹部4の奥部に向け抑え付けている。
【0003】
前記ラジアル転がり軸受3と前記取付板7とは、例えば特許文献1〜3等に記載されて従来から知られている様に、
図12〜13に示す様な取付板付転がり軸受ユニット8として、前記保持凹部4への組み付けを容易に行える様にしている。この取付板付転がり軸受ユニット8は、ラジアル転がり軸受3を構成する外輪5の軸方向一端部外周面に設けた小径段部9に前記取付板7を、この外輪5に対する回転を可能に外嵌して成る。この様な取付板付転がり軸受ユニット8は前記ハウジング2内に、前記外輪5を前記保持凹部4に締り嵌めで内嵌すると共に、前記取付板7の片面を前記ハウジング2の内面に突き当てた状態に組み付ける。そして、この取付板7を前記外輪5に対し回転させる事で、この取付板7の外径寄り部分に形成した、ねじ孔若しくは通孔である取付孔10、10と、前記ハウジング2の内面に開口した通孔若しくはねじ孔(図示省略)とを整合させる。次いで、前記各取付孔10、10若しくはハウジング2側の通孔を挿通したねじ若しくはボルトを、前記各ねじ孔若しくは前記各取付孔10、10に螺合し、更に締め付ける。この結果、前記外輪5を前記保持凹部4内に、がたつきなく、且つ、この保持凹部4からの抜け出しを防止した状態で支持固定できる。
【0004】
上述の様な取付板付転がり軸受ユニット8では、前記外輪5に対し前記取付板7を、回転可能に、且つ、非分離に結合している。回転可能とする理由は、前記外輪5を前記保持凹部4に締り嵌め等、径方向のがたつきを防止した嵌合状態で内嵌した後、前記取付板7側に設けた各取付孔10、10と、前記ハウジング2側に設けた前記各通孔又はねじ孔とを整合させる為である。又、非分離とする理由は、前記ラジアル転がり軸受3と前記取付板7とを一体として取り扱える様にして、部品管理、組み立て作業等の容易化を図る為である。
【0005】
この様な目的で、前記外輪5と前記取付板7とを相対回転可能且つ非分離に結合する為に、特許文献1に記載された構造の場合には、
図14に示す様に、取付板7の内周縁の円周方向複数箇所に形成した係止突部11を、外輪5側の小径段部9の外周面に設けた係止凹溝12に係合させている。これら各係止突部11と係止凹溝12とを係合させる為に、前記特許文献1に記載された発明の場合には、
図15の(A)に示す様に、前記取付板7の保持孔13に前記小径段部9を内嵌した状態で、この
図15の(B)に示す様に、この取付板7のうちで前記保持孔13の周縁部を軸方向に押圧し、この保持孔13の内周縁を径方向内方に塑性変形させて、前記各係止突部11とする。即ち、これら各係止突部11を形成すると同時に、これら各係止突部11と前記係止凹溝12とを係合させる。
【0006】
この様な、特許文献1に記載された、取付板付転がり軸受ユニットの構造とその製造方法とは、前記各係止突部11と前記係止凹溝12とを安定して係合させられず、取付板付転がり軸受ユニットの歩留りの悪化によりコストが嵩む可能性がある。この理由に就いて、
図16により説明する。取付板7側に設ける保持孔13の内径は、外輪5側に設ける小径段部9の外径よりも僅かに大きくする必要がある。この理由は、これら取付板7と外輪5との相対回転を許容し、しかも、これら取付板7と外輪5との同心性を確保する為である。従って、
図16の(A)に示す様に、前記保持孔13に小径段部9を内嵌した状態で、この保持孔13の内周面とこの小径段部9の外周面との間に存在する微小隙間14の径方向に関する幅寸法は僅少になる。
【0007】
この様な
図16の(A)に示した状態から、前記保持孔13の内周縁に係止突部を形成すべく、
図16の(B)に示す様に、前記取付板7の軸方向側面でこの保持孔13の周囲部分にパンチ15を押し付ける。すると、この保持孔13の内周縁の塑性変形部分が、前記小径段部9の先端部(軸方向端部)で前記係止凹溝12から外れた部分に突き当たってしまう。この結果、前記外輪5のうちで前記小径段部9側の端部に、直径が縮まる方向の有害な変形が発生する他、前記各係止突部11{
図14及び
図15の(B)参照}と前記係止凹溝12とを係合させられなくなる。前記保持孔13の内径を前記小径段部9の外径よりも十分に大きくすれば、前記パンチ15の押し付けに伴って形成される前記各係止突部11が前記係止凹溝12の周囲に達する以前に、これら各係止突部11の先端(径方向内端)が前記小径段部9の外周面に突き当たる事を防止できる。但し、この場合には、前記外輪5に対する前記取付板7の振れ回り量(最大偏心量)が大きくなる。この結果、前記各係止突部11を十分に高く、前記係止凹溝12を十分に深くしないと、これら各係止突部11と係止凹溝12との係合が外れ易くなる。又、前記取付板7と前記外輪5との同心性が損なわれるので、この取付板7をハウジング2(
図11参照)にねじ止め固定する作業が面倒になる等、取付板付転がり軸受ユニット8の取り扱い性が低下する。
【0008】
特許文献3には、取付板に設けた保持孔の周縁部に複数の係止突部を、この取付板と外輪とを組み合わせる以前に形成しておき、これら取付板と外輪とを、それぞれを弾性変形させつつ組み合わせる製造方法が記載されている。この様な製造方法の場合には、上述の
図16で説明した問題が生じない代わりに、前記取付板と前記外輪とを組み合わせる際に、この外輪に有害な変形を生じる可能性がある。
【0009】
更に、特許文献2には、取付板と外輪とを、この外輪の側に係止した欠円環状の係止環を介して組み合わせる構造が記載されている。この様な構造によれば、上述した何れの問題も解決できる代わりに、部品点数が増大する事により、部品製造コスト、部品管理コスト、組立コストが何れも増大し、取付板付転がり軸受ユニットの製造コストが嵩む事が避けられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、良質の取付板付転がり軸受ユニットを低コストで得られ
る製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の製造方法の対象となる取付板付転がり軸受ユニッ
トは、外輪と、内輪と、複数個の転動体と、取付板とを備える。
このうちの外輪は、円環状で、内周面に外輪軌道を、外周面の軸方向一端部に小径段部を、この小径段部の基端部とこの外周面の軸方向中間部との間に段差面を、それぞれ全周に亙って設けている。又、前記小径段部の外周面のうちの軸方向一端部よりも軸方向中間寄り部分に、周方向に長い係止凹溝を設けている。この係止凹溝は、周方向複数箇所に設けても良いが、製造作業の容易化を考慮すれば、全周に亙って設ける事が好ましい。
又、前記内輪は、円環状で、前記外輪の内径側に、この外輪と同心に配置されたもので、外周面に内輪軌道を設けている。
又、前記各転動体は、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に設けている。
【0013】
更に、前記取付板は、少なくとも1個の保持孔と、この保持孔毎に複数箇所ずつの係止突部と、同じく複数個ずつの取付孔とを備える。
このうちの保持孔は、前記小径段部の外径よりも大きく、前記外輪のうちでこの小径段部と軸方向に隣接する部分の外径よりも小さな内径を有する。そして、周方向複数箇所に、周方向に隣接する部分よりも径方向外方に凹入した大径部を設けている。
尚、これら各大径部は、軸方向両側及び径方向内側に開口する状態で設け
る事ができる。
又、前記各係止突部は、これら各大径部の周縁部に、これら各周縁部から径方向内方に突出する状態で設けている。
尚、前記各係止突部は、前記各大径部の周縁部の円周方向一部分から径方向内方に突出する状態で設け
る事ができる。又、前記各係止突部の内接円の直径は、前記小径段部の軸方向一端部の外径よりも小さく、且つ、前記係止凹溝の底部の直径以上である。
そして、前記各係止突部をこの係止凹溝に、相対回転を可能に係合させると共に、前記取付板の軸方向片側面の内径寄り部分と前記段差面とを係合させる事で、前記外輪とこの取付板とを、非分離に組み合わせている。
又、前記各取付孔は、前記保持孔の周囲に設けられていて、これら各取付孔の内接円の直径は、前記外輪の外径よりも大きい。
【0014】
本発明の取付板付転がり軸受ユニッ
トの製造方法を実施する場合に、具体的には、前記大径部及び前記係止突部を、周方向等間隔の3箇所位置以上に設ける。
又
、前記係止凹溝を、前記小径段部の外周面のうちで軸方向一端部を除く、前記段差面の基端部までの間部分全体に、全周に亙って設ける
事ができる。
或いは
、前記係止凹溝を、前記小径段部の外周面のうちの軸方向中間部に、全周に亙って設ける
事ができる。
【0015】
又、本発明の取付板付転がり軸受ユニッ
トの製造方法を実施する場合に、好ましくは、前記保持孔の内周縁のうちで、周方向に関する位相が前記各取付孔と一致する部分に、それぞれが周方向に長く、且つ、外接円の直径が前記外輪の外径よりも大きな切り欠きを形成する。
又、本発明を実施する場合に、例え
ば、前記保持孔を1個のみ設ける。そして、前記外輪と前記取付板とを、相対回転を可能に組み合わせる。
或いは、前記保持孔を複数個設ける。そして、前記外輪と前記取付板とを、これら各保持孔の径方向に関する相対変位を可能に組み合わせる。
【0016】
又、
本発明の取付板付転がり軸受ユニットの製造方
法は、前記取付板の円周方向複数箇所に係止突部を形成すると同時に、この取付板と前記外輪とを組み合わせる工程を有する。
そして、請求項
1に記載した発明の場合には、前記工程で、前記外輪の小径段部を前記取付板の保持孔に内嵌した状態で、この取付板の軸方向他側面のうちの前記各大径部の周囲部分にパンチを突き当てて、これら各パンチを前記段差面に向けて押圧する事により、これら各パンチを突き当てた部分を径方向内方に塑性変形させて前記各係止突部を形成すると同時に、これら各係止突部と前記係止凹溝とを係合させる。
一方、請求項
2に記載した発明の場合には、前記外輪の小径段部を前記取付板の保持孔に内嵌した状態で、この取付板の軸方向他側面のうちで前記各大径部の周囲部分に、先端縁を尖らせた楔状の第一パンチを押し付ける。そして、これら各大径部の周囲部分に、前記取付板の軸方向他面側の開口部の径方向に関する幅寸法が広く、奥部に向かう程この幅寸法が狭くなるV字状の凹溝を形成すると同時に、これら各凹溝よりも径方向内側部分を径方向内方に塑性変形させる。その後、これら各凹溝内に第二パンチを押し込み、前記各大径部の周囲部分で前記各凹溝の内径側に位置する部分を更に径方向内方に塑性変形させて前記各係止突部を形成すると同時に、これら各係止突部と前記係止凹溝とを係合させる。前記第二パンチの先端面は、前記第一パンチの様には尖らせず、幅広面とする。
【0017】
上述の様な本発明の取付板付転がり軸受ユニットの製造方法を実施する場合に好ましくは、請求項
3に記載した発明の様に、前記取付板のうちで前記各大径部の周囲部分を径方向内方に塑性変形させる際に、前記外輪の周囲に抑え治具を、この外輪を囲む状態で配置する。そして、この抑え治具により前記取付板の軸方向片側面の径方向中間部分を支承する事で、前記外輪に加工荷重が加わる事を防止する。
【発明の効果】
【0018】
上述の様に構成する本発明の取付板付転がり軸受ユニッ
トの製造方法によれば、良質の取付板付転がり軸受ユニットを低コストで得られる。この理由に就いて、以下に説明する。
先ず、転がり軸受の外輪と取付板とを、係止環等の別部品を使用する事なく、直接組み合わせる構造である為、部品製造コスト、部品管理コスト、組立コストを何れも抑えて、低コスト化を図れる。
【0019】
又、前記取付板の内周縁部の円周方向複数箇所に係止突部を形成すると同時に、これら各係止突部と外輪側の係止凹溝とを係合させる為、前述した特許文献3に記載された従来技術の如く、これら外輪と取付板とを組み合わせる際に、この外輪に有害な変形を生じる事はない。又、前記各係止突部は、前記取付板に形成した保持孔の内周縁部のうちで複数箇所の大径部に対応する部分を径方向内方に塑性変形させる事により形成する。この為、前記各係止突部の加工途中で、これら各係止突部の先端が、小径段部の外周面のうちで係止凹溝から外れた部分に突き当たる事はなく、これら各係止突部がこの小径段部の外周面を径方向内方に強く押圧する事はない。これらにより、前記外輪と前記取付板との組み合わせ時に、何れの部品にも有害な力が作用する事がなくなり、これら各部品に有害な変形が生じる事を防止できて、歩留りの向上を図れる。
更に、前記保持孔の内周面と前記小径段部の外周面とは、前記各大径部以外の部分は、微小隙間を介して対向する。従って、前記外輪に対する前記取付板の振れ回り量(最大偏心量)を僅少に抑えられる(外輪と取付板との同心性を確保できる)。
これらにより、良質の取付板付転がり軸受ユニットを低コストで得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
図1〜4は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の取付板付転がり軸受ユニット8aは、ラジアル転がり軸受3(
図11〜14参照。
図1、2、4には外輪5aのみを示す。)と取付板7aとを、非分離に、且つ、相対回転を可能に組み合わせて成る。尚、前記ラジアル転がり軸受3としては、単列深溝型の玉軸受を使用する事が好ましい。この理由は、動トルクが小さい事と、回転支持部に組み付ける以前の状態でも、構成各部材が不用意に分離する事がない為とである。尚、前記ラジアル転がり軸受3に就いては、従来から広く知られている構造と同様であるから、説明は省略若しくは簡略にする。そして、以下の説明は、本例の特徴部分である、前記ラジアル転がり軸受3の外輪5aと取付板7aとの組み合わせ部分の構造、及び、その組立方法、並びに先に説明しなかった部分を中心に行う。
【0022】
前記外輪5aは、軸受鋼等の硬質金属により全体を円環状に造ったもので、内周面の軸方向中間部に単列深溝型の外輪軌道16を、同じく両端部にシールリング17、17(
図14参照)の外周縁を係止する為の係止溝18、18を、それぞれ全周に亙って形成している。又、前記外輪5aの外周面の軸方向一端部(
図2、4の左端部)に小径段部9aを、全周に亙って、この外周面のうちの残りの部分と同心に形成している。そして、この小径段部9aの基端部とこの外周面の軸方向中間部との間部分を、前記外輪5aの中心軸に対し直角方向に存在する段差面19としている。又、前記小径段部9aの外周面のうちの軸方向一端部よりも軸方向中間寄り部分に係止凹溝12aを、全周に亙って設けている。従って、前記小径段部9aの先端部、即ち、この係止凹溝12aと前記小径段部9aの先端面との間部分に土手状の係止突条部20を、全周に亙って設けている。
【0023】
一方、前記取付板7aは、軟鋼板等の塑性変形可能な金属板により、正三角形の頂部を部分円弧形に切除した如き、略六角形状若しくは御結び形とされたもので、中心部に設けられた1個の保持孔13aと、周方向等間隔3箇所位置に設けられた係止突部11a、11aと、周方向等間隔3箇所位置に設けられた取付孔10a、10aとを備える。この様な取付板7aの厚さTは、前記小径段部9aの長さLとほぼ同じ(T≒L)であり、前記係止凹溝12aの幅Wよりも大きい(T>W)。
【0024】
又、前記保持孔13aの内径(大径部21、21から周方向に外れた部分の内径)R
13は、前記小径段部9a(係止突条部20)の外径d
9よりも僅かに大きく、前記外輪5aのうちでこの小径段部9aと軸方向に隣接する部分の外径Dよりも小さい(d
9<R
13<D)。そして、前記保持孔13aの周方向等間隔の3箇所に、切り欠き状の大径部21、21を、周方向に隣接する部分よりも径方向外方に凹入する状態で形成している。
【0025】
又、前記各係止突部11a、11aは、前記各大径部21、21の周縁部で周方向に関してほぼ中央位置に、前記取付板7aを構成する金属材料(軟鋼)を塑性変形させる事により、前記各大径部21、21の周縁部から径方向内方に突出する状態で設けている。前記各係止突部11a、11aの内接円の直径は、前記小径段部9aの軸方向一端部に設けた、前記係止突条部20の外径よりも小さく、且つ、前記係止凹溝12aの底部の直径以上である(好ましくはこの直径よりも大きい)。
【0026】
前述した様な小径段部9a(係止突条部20及び係止凹溝12a)を設けた前記外輪5aと、上述の様な大径部21、21及び係止突部11a、11aを備えた前記取付板7aとは、これら各係止突部11a、11aと前記係止凹溝12aとを係合させる事により、非分離に、且つ、相対回転可能に組み合わせる。即ち、前記各係止突部11a、11aを前記係止凹溝12aに、相対回転を可能に係合させると共に、前記取付板7aの軸方向片側面(
図2、4の右側面)の内径寄り部分と、前記段差面19とを係合させる。この状態で、前記取付板7aが前記外輪5aに対し、
図2の左方に変位する事は、前記各係止突部11a、11aと前記係止突条部20との係合により阻止される。これに対して、
図2の右方に変位する事は、前記取付板7aの軸方向片側面の内径寄り部分と前記段差面19との係合により阻止される。又、この取付板7aにより、前記外輪5aを抑え付け可能となる。これら取付板7a及び外輪5aの軸方向に関して、前記各係止突部11a、11aの厚さは、前記係止凹溝12aの幅よりも小さい。又、前記外輪5aと前記取付板7aとを同心に配置した状態で、前記各係止突部11a、11aの先端(径方向内端)と前記係止凹溝12aの底面との間には微小隙間が存在する。従って、前記外輪5aと前記取付板7aとは、非分離に、且つ、相対回転を可能に組み合わされた状態となる。
【0027】
又、前記各取付孔10a、10aは、前記保持孔13aの周囲で円周方向等間隔3箇所位置に設けられている。そして、これら各取付孔10a、10aの内接円の直径は、前記外輪5aの外径よりも大きい。従って、これら各取付孔10a、10aに挿通したボルトやスタッド等が、前記外輪5aの一部と干渉する事はない。
【0028】
この外輪5aに対して前記取付板7aを組み合わせる作業は、次の様にして行い、この取付板7aの円周方向複数箇所に前記各係止突部11a、11aを形成すると同時に、この取付板7aと前記外輪5aとを非分離に組み合わせる。
この為に本例の場合には、先ず、
図4の(A)に示す様に、前記外輪5aの小径段部9aを前記取付板7aの保持孔13aに内嵌する。又、この状態で、この取付板7aの軸方向片側面のうちで前記外輪5aよりも径方向外方に存在する部分(径方向中間部分)に、抑え治具22の支承面を当接させる。前記外輪5aの段差面19と前記取付板7aの軸方向片側面とは、僅かに離隔させて、前記各係止突部11a、11aの加工時に前記取付板7aに加わるスラスト荷重が、前記外輪5aに加わらない様にする。
【0029】
次いで、
図4の(B)に示す様に、前記取付板7aの軸方向他側面(
図2、4の左側面)の一部で、前記各大径部21、21の周囲部分に、周方向等間隔3箇所位置に突部を設けたパンチ23の先端面を突き当てる。この際、前記取付板7aの径方向に関して、このパンチ23の内径側端縁を、前記各大径部21、21の周縁よりも径方向内方に突出させた状態とする。この状態から前記パンチ23を前記段差面19に向けて押圧し、前記取付板7aのうちで前記各大径部21、21の周縁部分を強く押圧する。そして、
図4の(B)→(C)に示す様に、前記各大径部21、21の周囲部分に存在する金属材料を径方向内方に移動させる(この周囲部分を径方向内方に塑性変形させる)事により、前記各係止突部11a、11aを形成すると同時に、これら各係止突部11a、11aと前記係止凹溝12aとを係合させる。
【0030】
前記各係止突部11a、11aの加工時に前記取付板7aに加えられる加工荷重の全部若しくは大部分は、前記抑え治具22が支承し、前記外輪5aに加わる事はないので、この外輪5aの強度及び剛性が特に大きくなくても、この外輪5aに変形等の損傷を生じる事はない。そして、上述の様に前記各係止突部11a、11aを形成する結果、前述した様に、前記外輪5aと前記取付板7aとが、非分離に、且つ、相対回転を可能に組み合わされる。又、前記保持孔13aのうち、前記各大径部21、21から外れた部分の内径R
13は、前述した様に、前記小径段部9aの外径d
9よりも僅かに大きいだけであるので、前記外輪5aと前記取付板7aとは、互いに組み合わされた状態で、径方向に関してがたつく事は殆どない。尚、前記各係止突部11a、11aの加工は、この外輪5aと前記取付板7aとのみを組み合わせた状態で行うので、取り扱いが容易であると共に、前記ラジアル転がり軸受3の他の構成部品を傷める可能性がない。
【0031】
上述の様に前記各係止突部11a、11aは、前記各大径部21、21の周縁部を径方向内方に塑性変形させる事により形成するが、これら各大径部21、21の内径は前記係止突条部20の外径よりも、少なくとも前記段差部の径方向高さh
21分以上大きい。従って、前記各係止突部11a、11aの内接円の直径が前記係止突条部20の外径よりも小さくなるのは、
図4の(B)→(C)の途中の、前記各係止突部11a、11aの加工が或る程度進んだ状態以降である。従って、前記段差部の径方向高さh
21と前記係止突条部20の軸方向幅W
20との関係を適切に規制すれば、
図4の(B)に示した、前記各係止突部11a、11bの加工途中の段階で、これら各係止突部11a、11aの先端と前記係止突条部20の外周面とが、前述の
図16に示す様に突き当たる事はない。又、
図4の(C)に示した、前記各係止突部11a、11aの加工完了の状態で、これら各係止突部11a、11aの内接円の直径を前記係止突条部20の外径よりも十分に小さくできる。
【0032】
上述の様に
、本例では、前記外輪5aと前記取付板7aとを直接組み合わせている為、部品製造コスト、部品管理コスト、組立コストを何れも抑えて、低コスト化を図れる。
又、前記取付板7aの内周縁部の係止突部11a、11aと、前記外輪5aの小径段部9aの外周面に形成した係止凹溝12aとを係合させる際に、何れの段階でも、この小径段部9aに径方向内方に向いた力が加わる事はない。この為、前記外輪5aに有害な変形を生じる事はなく、不良品が発生し難くできて、取付板付転がり軸受ユニットの歩留りの向上を図れる。
更に、前記外輪5aに対する前記取付板7aの振れ回り量を僅少に抑えられる為、この取付板7aをハウジング2(
図11参照)にねじ止め固定する作業が容易になる等、取付板付転がり軸受ユニットの取り扱い性向上を図れる。
これらにより、良質の取付板付転がり軸受ユニットを低コストで得られる。
【0033】
[実施の形態の第2例]
図5は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、取付板7aの保持孔13aのうちで、各大径部21の周縁部分に係止突部11bを形成する作業を、2段階に分けて行っている。
【0034】
即ち、本例の場合には、先ず、
図5の(A)に示す様に、前記取付板7aの軸方向他側面のうちで前記各大径部21の周囲部分に、先端縁を尖らせた楔状の第一パンチ26を押し付ける。そして、
図5の(B)に示す様に、前記各大径部21の周縁部分に、前記取付板7aの軸方向他面側の開口部の径方向に関する幅寸法が広く、奥部に向かう程この幅寸法が狭くなるV字状の凹溝27を形成する。これと同時に、これら各凹溝27よりも径方向内側部分を径方向内方に塑性変形させて、素係止突部28を形成する。
【0035】
その後、前記第一パンチ26を前記各凹溝27から抜き出してから、
図5の(C)→(D)に示す様に、これら各凹溝27内に、先端面を平坦面とした第二パンチ29を押し込んで、前記各大径部21の周囲部分で前記各凹溝27の内径側に位置する部分である、前記各素係止突部28を更に径方向内方に塑性変形させる。そして、前記各係止突部11bを形成すると同時に、これら各係止突部11bと、外輪5a側に設けた係止凹溝12aとを係合させる。
【0036】
この様な本例の場合には、前記各係止突部11bの加工を、楔状の第1パンチ26を使用する工程を含めて、2段階に分けて行う事により、この加工時に前記取付板7aに加わる荷重を低減できる。この為、上述の第1例で使用した様な、抑え治具22(
図4参照)を省略する事もできる。
その他の部分に就いては、前述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0037】
[実施の形態の第3例]
図6は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、外輪5b側に設けた小径段部9bの外周面のうちの軸方向中間部に係止凹溝12bを、全周に亙って設けている。
この様な構成により、前記小径段部9bの基端部の径方向に関する肉厚を確保し、前記外輪5bの軸方向端部でこの小径段部9bを形成した部分の強度及び剛性の向上を図っている。
その他の部分に就いては、各係止突部11bの加工方法を含めて、前述した実施の形態の第1例、又は上述した実施の形態の第2例と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0038】
[実施の形態の第4例]
図7の上段の(A)−(a)は、本発明の実施の形態の第4例を説明する為の模式図である。本例の場合には、取付板7bの中央部に設けた保持孔13bの内周縁のうちで、周方向に関する位相が各取付孔10b、10bと一致する部分に、それぞれ周方向に長い切り欠き30、30を形成している。これら各切り欠き30、30の外接円の直径は、外輪5a(
図8参照)の外径よりも大きい。従って、前記取付板7bの軸方向側面と、この外輪5aの外周面に存在する段差面19(
図8参照)とは、前記各切り欠き30、30同士の間部分でのみ当接し、これら各切り欠き30、30部分で当接する事はない。即ち、前記取付板7bの軸方向片側面の内径寄り部分と、前記段差面19とは、円周方向に関する位相が前記各取付孔10b、10bと異なる部分でのみ係合する。尚、本例の構造を実施する場合、前記保持孔13bの内周縁に設ける複数の大径部及び係止突部(図示省略)は、それぞれ円周方向に関して前記各切り欠き30、30から外れた部分に形成する。或いは、係止突部を形成する際の塑性変形量を確保できれば、前記各切り欠き30、30をそれぞれ大径部として利用する事もできる。
【0039】
本例の場合、前記取付板7bに、上述の様な切り欠き30、30を設ける事により、前記取付板7bの円周方向複数箇所(図示の例では3箇所)をハウジング2aに対し、複数本のボルト31により(
図8参照)結合固定する事に伴う、前記外輪5aの真円度の悪化を抑えられる。以下、前記各切り欠き30、30を設ける事により、この外輪5aの真円度の悪化を防止できる理由に就いて、
図7の(A)に加えて、
図7の(B)及び
図8を参照しつつ説明する。
【0040】
前記外輪5aを前記ハウジング2aに組み付けるには、この外輪5aをこのハウジング2aの保持凹部4aに内嵌し、この外輪5aの軸方向端面をこの保持凹部4aの奥端面に突き当てる。又、前記取付板7bの軸方向片面(
図8の右側面)の内径寄り部分を、前記外輪5aの外周面に形成した段差面19に突き当てる。この状態で、前記ハウジング2aの軸方向片面(
図8の左側面)と前記取付板7bの軸方向片面との間に、隙間δが存在する状態となる。この隙間δは、前記各ボルト31の締め付けに基づいて前記外輪5aを、前記ハウジング2aに対し、がたつきなく支持する為に必要である。
【0041】
前記隙間δは、前記ハウジング2aに設けた通孔32を挿通し、前記各取付孔10b、10bに螺合した、前記各ボルト31を締め付ける事により解消される。この際、前記段差面19が前記取付板7bの軸方向片面の内径寄り部分で押されるが、この段差面19を押す力は、円周方向に関して均一にはならない。例えば、
図7の(B)−(a)に示す様に、単なる円形の保持孔13aを形成した取付板7aを使用する場合には、周方向に関する位相が各取付孔10a、10aと一致し、これら各取付孔10a、10aに近い、
図7の(B)−(a)に黒丸を付した部分で、前記段差面19を押す力が、他の部分に比べて、特に強くなる。この結果、この段差面19を有する外輪5aの真円度が、
図7の(B)−(b)に示す様に悪化する。この外輪5aの真円度の悪化は、この外輪5aを組み込んだラジアル転がり軸受3(
図13〜14参照)の音響特性や耐久性の悪化に結び付く可能性がある。
【0042】
これに対して、
図7の(A)−(a)に示した本例の構造によれば、前記各切り欠き30、30の存在に基づき、前記取付板7bの軸方向側面の内径寄り部分が、前記段差面19を、
図7の(A)−(a)に黒丸で付した、各取付孔10b、10bから円周方向に離れた部分で強く押圧する。又、強く押圧する箇所が、これら各取付孔10b、10bの2倍(6箇所)になる。この結果、前記段差面19が押圧される力の分布が均一に近くなり、前記各ボルト31の締め付けに伴う前記外輪5aの真円度の悪化が緩和される。この結果、
図7の(A)−(b)に示す様に、前記各ボルト31を締め付けて前記外輪5aを前記ハウジング2aに固定した状態でも、この外輪5aの真円度の悪化を抑えられて、この外輪5aを組み込んだラジアル転がり軸受3の音響特性や耐久性の悪化を防止できる。
尚、前記取付板7bと前記外輪5aとの組み合わせに関しては、前述した実施の形態の第1〜3例の何れかを採用できる為、重複する図示並びに説明は省略する。
【0043】
[実施の形態の第5例]
図9〜10は、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例の場合には、1枚の取付板7cに複数の(図示の例では2箇所の)保持孔13c、13cを設けている。そして、これら各保持孔13c、13cの内側にそれぞれ外輪5a、5aを、これら各保持孔13c、13cの径方向に関する若干の相対変位を可能に組み付けている。前記各外輪5a、5aを含んで構成するラジアル転がり軸受3、3は、それぞれ別の回転軸1a、1bの端部をハウジング2bに対し、回転自在に支持する。
【0044】
この様な本例の構造の場合には、前記各外輪5a、5aに対して前記取付板7cを回転させる事はできないが、前記各保持孔13c、13c同士のピッチと、前記ハウジング2bに設けた各保持凹部4b、4b同士のピッチとのずれを吸収できる。即ち、前記各外輪5a、5aはこれら各保持凹部4b、4bに、がたつきなく(例えば軽い締り嵌めで)内嵌する為、前記各保持孔13c、13cの内側に前記各外輪5a、5aを、径方向に関する相対変位を不能に組み付けると、前記両ピッチを厳密に一致させる必要がある。これに対して、本発明の構造は、前述の実施の形態の第1〜3例に示す様に、保持孔の内径側に外輪を、回転可能に保持できるだけでなく、径方向に関する多少の相対変位も可能にできる。この為、本発明の構造を利用する事で、これら両ピッチを厳密に一致させる必要がなくなり、製造コストを抑えられると共に、前記各保持凹部4b、4bへの前記各外輪5a、5aの組み付け作業の容易化を図れる。
尚、本例に就いても、前記取付板7cと前記外輪5aとの組み合わせに関しては、前述した実施の形態の第1〜3例の何れかを採用できる為、重複する図示並びに説明は省略する。