特許第6222372号(P6222372)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222372リチウムイオン二次電池用正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222372
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20171023BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171023BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20171023BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/131
   H01M10/0566
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-550038(P2016-550038)
(86)(22)【出願日】2015年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2015073498
(87)【国際公開番号】WO2016047326
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2017年1月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-196802(P2014-196802)
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100092071
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 均
(72)【発明者】
【氏名】川合 徹
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−129442(JP,A)
【文献】 特開2005−158721(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属リチウム基準で4.5V以上の電位を発現する正極活物質と、導電助剤と、結着材とを含む正極合材を有するリチウムイオン二次電池用の正極であって、
前記導電助剤はカーボンブラックからなる第1の導電助剤と、難黒鉛化炭素からなる第2の導電助剤とを有し、
正極活物質の表面積を、正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる正極活物質の重量と正極活物質のBET比表面積との積とし、
導電助剤の表面積を、正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる導電助剤の重量と導電助剤のBET比表面積との積とするとき、
前記正極合材に占める前記第2の導電助剤の表面積SC2に対する前記第1の導電助剤の表面積SC1の比率(SC1/SC2)が、6.5以上、70以下であり、かつ、
前記正極合材に占める前記正極活物質の表面積SAと前記導電助剤の表面積SCの総和SEが、前記正極合材の単位塗布面積当たり90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下であること
を特徴とするリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記正極活物質の表面積SAに対する前記導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)が、2.5以上、10以下であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質の表面積と前記導電助剤の表面積の総和SEが、前記正極合材の単位塗布面積当たり150cm2/cm2以上、300cm2/cm2以下であることを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質が、組成式Li1+a[Mn2-a-x-yNixy]O4(0≦a≦0.3、0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.3、MはTiを含む金属元素の少なくとも1種)であるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の正極と、負極と、非水電解液とを備えていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関し、詳しくは、リチウムイオン二次電池を構成する正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコンなどの小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。そしてこのような状況下において、リチウムイオン二次電池が電源として広く利用されている。
【0003】
そして、そのようなリチウムイオン二次電池に用いられる正極として、金属リチウム基準で4.5V以上の電位を発現する正極活物質と、導電助剤と、結着材とを含む正極合材を有する正極(リチウムイオン二次電池用の正極)において、導電助剤として難黒鉛化炭素とカーボンブラックとを有し、かつ、正極合材に占める正極活物質の表面積SAに対する導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)が、0.5以上、2.5以下である正極およびそれを用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
そして、上記構成とすることで、4.5V以上の電位を発現する正極活物質における、非水電解液の溶媒の酸化分解によるクーロン効率の低下やガス発生によるセル膨れや、導電助剤としての黒鉛の膨張収縮によるサイクル特性の低下を抑制することができるとされている。
【0005】
しかしながら、カーボンブラックや黒鉛よりも電子伝導性の低い難黒鉛化炭素を導電助剤として用いた場合、正極の充放電レート特性の悪化を招く。そのため、4.5V以上の電位を発現する正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池用正極において、優れた充放電レート特性と非水電解液の溶媒の酸化分解の抑制を両立させることは困難であるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−129442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するものであり、充放電レート特性に優れ、かつ、非水電解液の酸化分解を抑制することが可能なリチウムイオン二次電池を構成するのに有意義なリチウムイオン二次電池用正極、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、
金属リチウム基準で4.5V以上の電位を発現する正極活物質と、導電助剤と、結着材とを含む正極合材を有するリチウムイオン二次電池用の正極であって、
前記導電助剤はカーボンブラックからなる第1の導電助剤と、難黒鉛化炭素からなる第2の導電助剤とを有し、
正極活物質の表面積を、正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる正極活物質の重量と正極活物質のBET比表面積との積とし、
導電助剤の表面積を、正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる導電助剤の重量と導電助剤のBET比表面積との積とするとき、
前記正極合材に占める前記第2の導電助剤の表面積SC2に対する前記第1の導電助剤の表面積SC1の比率(SC1/SC2)が、6.5以上、70以下であり、かつ、
前記正極合材に占める前記正極活物質の表面積SAと前記導電助剤の表面積SCの総和SEが、前記正極合材の単位塗布面積当たり90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下であること
を特徴としている。
【0009】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用正極においては、前記正極活物質の表面積SAに対する前記導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)が、2.5以上、10以下であることが好ましい。
【0010】
上記構成を備えた正極を用いることにより、さらに優れた充放電レート特性を示すリチウムイオン二次電池を得ることが可能になる。
【0011】
また、前記正極活物質の表面積と前記導電助剤の表面積の総和SEが、前記正極合材の単位塗布面積当たり150cm2/cm2以上、300cm2/cm2以下であることが好ましい。
【0012】
上記構成を備えた正極を用いることにより、優れた充放電レート特性と正極表面における非水電解液の酸化分解の抑制を高いレベルで両立するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0013】
また、前記正極活物質が、組成式Li1+a[Mn2-a-x-yNixy]O4(0≦a≦0.3、0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.3、MはTiを含む金属元素の少なくとも1種)であるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物であることが好ましい。
【0014】
上記構成を備えた正極を用いることにより、非水電解液の酸化分解をさらに高いレベルで抑制することが可能なリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0015】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の正極と、負極と、非水電解液とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上述のように構成されており、正極合材に占める第2の導電助剤の表面積SC2に対する第1の導電助剤の表面積SC1の比率(SC1/SC2)を6.5以上、70以下とし、かつ、正極合材に占める正極活物質の表面積SAと導電助剤の表面積SCの総和SEが正極合材の単位塗布面積当たり90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下としているので、上記構成を備えたリチウムイオン二次電池に適用することにより、難黒鉛化炭素を導電助剤として用いた場合にも優れた充放電レート特性を示し、かつ、正極表面における非水電解液の酸化分解を抑制しガス発生によるセル膨れを抑えることが可能になる。したがって、本発明によれば、充放電レートの向上と、非水電解液の酸化分解の抑制を両立することが可能なリチウムイオン二次電池用正極を提供することができる。
【0017】
なお、SC1/SC2が6.5未満になると、正極合材中の正極活物質と電子伝導性に優れた第1の導電助剤(カーボンブラック)の接触面積が不十分になり、正極合材の電子伝導性が低くなるため、充放電レート特性が低下する。
【0018】
また、SC1/SC2が70を超えると、導電助剤に占める第1の導電助剤(カーボンブラック)の比率が大きくなりすぎて、導電助剤と非水電解液の接触面積が大きくなり、正極合材表面における非水電解液の酸化分解が著しく進行し、多量のガスが発生するため好ましくない。
【0019】
また、正極合材の単位塗布面積当たりの正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和が90cm2/cm2未満になると、正極合材と非水電解液の接触面積が不十分になり、正極合材と非水電解液の界面における電気化学反応の進行が円滑に進まず、充放電レート特性が低下するため好ましくない。
【0020】
また、正極合材の単位塗布面積当たりの正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和が400cm2/cm2を超えると、正極合材と非水電解液の接触面積が大きくなりすぎて、正極合材表面における非水電解液の酸化分解が著しく進行し、多量のガスが発生するため好ましくない。
【0021】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、上記本発明の正極と、負極と、非水電解液とを備えているので、優れた充放電レート特性と正極表面における非水電解液の酸化分解の抑制を両立し、作動電圧が高く高エネルギー密度なリチウムイオン二次電池を提供することが可能になる。
【0022】
なお、本発明において、正極活物質の表面積SA[cm2/cm2]は、下記の式(1):
正極活物質の表面積SA[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる正極活物質の重量[mg/cm2]×正極活物質のBET比表面積[m2/g]×10 ……(1)
により求められる値である。
【0023】
また、第1の導電助剤の表面積SC1[cm2/cm2]は、下記の式(2):
第1の導電助剤の表面積SC1[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる第1の導電助剤の重量[mg/cm2]×第1の導電助剤のBET比表面積[m2/g]×10 ……(2)
により求められる値である。
【0024】
また、第2の導電助剤の表面積SC2[cm2/cm2]は、下記の式(3):
第2の導電助剤の表面積SC2[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる第2の導電助剤の重量[mg/cm2]×第2の導電助剤のBET比表面積[m2/g]×10 ……(3)
により求められる値である。
【0025】
また、正極合材に占める第2の導電助剤の表面積SC2に対する第1の導電助剤の表面積SC1の比率(SC1/SC2)は、下記の式(4):
(SC1/SC2)=第1の導電助剤の表面積SC1/第2の導電助剤の表面積SC2 ……(4)
により求められる値である。
【0026】
また、導電助剤の表面積SC[cm2/cm2]は、下記の式(5):
導電助剤の表面積SC[cm2/cm2]=第1の導電助剤の表面積SC1+第2の導電助剤の表面積SC2 ……(5)
により求められる値である。
【0027】
また、正極合材に占める正極活物質の表面積SAと導電助剤の表面積SCの総和SEは、下記の式(6):
正極合材に占める正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和(SE)[cm2/cm2]=正極活物質の表面積SA+第1の導電助剤の表面積SC1+第2の導電助剤の表面積SC2 ……(6)
により求められる値である。
【0028】
また、正極活物質の表面積SAに対する導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)は、下記の式(7):
(SC/SA)=導電助剤の表面積SC/正極活物質の表面積SA……(7)
により求められる値である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極と、それを用いたリチウムイオン二次電池の一実施形態について説明する。
【0030】
本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極は、金属リチウム基準で4.5V以上の電位を発現する正極活物質、導電助剤、結着材を備える。
【0031】
このリチウムイオン二次電池用正極において、金属リチウム基準で4.5V以上の電位を発現する正極活物質は特に限定されるものではなく、LiNi0.5Mn1.54やLiCoMnO4などのスピネル型リチウムマンガン酸化物、LiNiVO4などの逆スピネル型リチウムバナジウム酸化物、LiCoPO4やLiNiPO4などのポリアニオン化合物を用いることができる。
【0032】
これらのうち、4.5V以上の電位における充放電の安定性と充放電容量の観点から、正極活物質がスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物であることが好ましい。さらに、組成式Li1+a[Mn2-a-x-yNixy]O4(0≦a≦0.3、0.4≦x≦0.6、0≦y≦0.3、MはTiを含む金属元素の少なくとも1種)で表されるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物であることがより好ましい。
【0033】
このリチウムイオン二次電池用正極において、導電助剤はカーボンブラックからなる第1の導電助剤と、難黒鉛化炭素からなる第2の導電助剤とを含む。
【0034】
カーボンブラックの種類は特に限定されるものではなく、アセチレンブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラックなどを用いることができる。
【0035】
導電助剤としてさらに、カーボンブラックと難黒鉛化炭素以外の導電助剤を含んでいてもよい。カーボンブラックと難黒鉛化炭素以外の導電助剤としては、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンチューブ、黒鉛、易黒鉛化炭素、グラフェン、金属粉などが挙げられる。
【0036】
このリチウムイオン二次電池用正極において、結着材は特に限定されるものではなく、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリルなどの各種樹脂を用いることができる。
【0037】
以上の正極活物質、導電助剤、結着材を用い、本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極を作製する。
【0038】
正極活物質、カーボンブラックからなる第1の導電助剤、難黒鉛化炭素からなる第2の導電助剤、および結着材を、正極合材に占める第2の導電助剤の表面積SC2に対する第1の導電助剤の表面積SC1の比率(SC1/SC2)が、6.5以上、70以下となるよう秤量し、混合する。
【0039】
これに、結着材を溶解させる溶媒を加えて混合しスラリー状とする。このスラリーを正極合材に占める正極活物質の表面積SAと導電助剤の表面積SCの総和SEが正極合材の単位塗布面積当たり90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下となるように塗布量を制御して集電体上に塗布して乾燥することで正極合材層を形成させる。必要に応じてプレス等の加圧成型や裁断を行い、正極を作製する。
【0040】
結着材を溶解させる溶媒には、有機溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドン、トルエン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。結着材に水溶性のものを使用する場合は、溶媒として水を用いることもできる。
【0041】
正極の集電体は特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム、ステンレス、チタン、ニッケルまたはそれらの合金からなる箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網などを使用することができ、特にアルミニウム箔が好ましい。
【0042】
以上のように作製した本発明の実施形態にかかる正極と、負極と、非水電解液を用いて、以下に説明するような本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0043】
このリチウムイオン二次電池に用いる負極としては、以下のようなものを用いることができる。
【0044】
負極活物質は、リチウムイオンと電気化学的に反応するものであれば特に制約なく用いることが可能で、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素などの炭素材料、ケイ素、スズなどの合金系負極、チタン酸リチウム、酸化チタン、ケイ素酸化物、スズ酸化物などの酸化物、金属リチウムなどが挙げられる。これらの材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
負極を作製する場合、まず上記負極活物質と、前記正極の場合と同様の結着材と、結着材を溶解させる溶媒と、必要に応じて前記正極の場合と同様の導電助剤とを加えて混合しスラリー状とする。このスラリーを集電体上に塗布して乾燥することで負極合材層を形成させる。必要に応じてプレス等の加圧成型や裁断を行い、負極を作製する。
【0046】
負極に用いる集電体は特に限定されるものではなく、例えば銅、ステンレス、チタン、ニッケルまたはそれらの合金からなる箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル、網などを使用することができる。特に銅箔を用いることが好ましい。
【0047】
この実施形態のリチウムイオン二次電池に用いる非水電解液としては、電解質塩と有機溶媒とを含むものが用いられる。
【0048】
また、電解質塩にも、特に制約はなく、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO22N、Li(C25SO22N、Li(CF32N、LiB(CN)4などを使用することが可能で、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。非水電解液の電解質塩濃度は0.3〜4mol/Lとすることが望ましい。
【0049】
また、有機溶媒についても、特に制約はなく、カーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒、スルホン系溶媒、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒などを使用することができる。また、これらの溶媒の耐酸化性を向上させる目的で、一部をフッ素等の電気陰性度の高い元素で置換した溶媒を用いることもできる。これらを1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0050】
また、非水電解液の耐酸化性を向上させる目的で、もしくは正極または負極表面に非水電解液の分解を抑制する保護膜を形成する目的で、必要に応じて各種の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネートやフッ化エチレンカーボネートなどのカーボネート系化合物、1,3−プロパンスルトンなどの硫黄系化合物、リチウムビスオキサレートボレートなどのリチウム塩など、上記の有機溶媒に溶解するものや有機溶媒を兼ねるものが挙げられる。
【0051】
上述のような正極、負極、および、非水電解液を用いることにより、本発明の実施形態にかかるリチウムイオン二次電池を作製することができる
【0052】
以下に本発明の、より具体的な実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0053】
[1]正極活物質
(1−1)正極活物質1
リチウム含有原料として炭酸リチウム(Li2CO3)、ニッケル含有原料として水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、マンガン含有原料として四三酸化マンガン(Mn34)、チタン含有原料としてアナターゼ型酸化チタン(TiO2)を用意し、これらの原料を所定の組成比になるように秤量した。
【0054】
秤量した原料を、溶媒に水を用い、直径が5mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより混合してスラリーを作製した。このスラリーを噴霧乾燥し、乾燥粉を得た。
【0055】
そして、得られた乾燥粉を、アルミナを主成分とするサヤに入れ、大気中にて1050℃の温度で10時間焼成した後、大気中、700℃の温度で20時間焼成した。これを乳鉢で粉砕することにより正極活物質1を得た。
【0056】
この正極活物質1について、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)により組成を分析するとともに、BET法により比表面積を測定した。さらに、レーザー回折散乱式粒度分布計により平均粒径(D50)を測定した。
その結果を表1に示す。
【0057】
(1−2)正極活物質2
リチウム含有原料として炭酸リチウム(Li2CO3)、ニッケル含有原料として水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、マンガン含有原料として四三酸化マンガン(Mn34)を用意し、これらの原料を所定の組成比になるように秤量した。
【0058】
秤量した原料を、溶媒に水を用い、直径が5mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを噴霧乾燥し、乾燥粉を得た。
【0059】
そして、得られた乾燥粉を、アルミナを主成分とするサヤに入れ、大気中にて1000℃の温度で10時間焼成した後、大気中、700℃の温度で20時間焼成した。これを乳鉢で粉砕することにより正極活物質2を得た。
この正極活物質2について、上述の正極活物質1の場合と同じ方法で、組成、比表面積、平均粒径(D50)を調べた。
その結果を表1に併せて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[2]導電助剤
(2−1)第1の導電助剤(カーボンブラック)
第1の導電助剤として、表2のカーボンブラック1,2および3を用意した。
そして、上述の正極活物質1の場合と同じ方法で、比表面積を調べた。また、各カーボンブラック1,2および3を、電子顕微鏡で観察して粒径を調べ、算術平均することにより平均粒径を求めた。
その結果を表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
(2−2)第2の導電助剤(難黒鉛化炭素)
第2の導電助剤として、表3の難黒鉛化炭素1,2および3を用意した。
そして、上述の正極活物質1の場合と同じ方法で、比表面積、平均粒径を調べた。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
[3]正極の作製
上述の正極活物質と、カーボンブラックと、難黒鉛化炭素と、結着材であるポリフッ化ビニリデンを、表4A、表4Bに示す仕様の材料と重量比で混合し、その混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えることで正極合材スラリーを作製した。
【0066】
正極合材スラリーを正極集電体である、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面または両面に、乾燥後の正極合材に含まれる正極活物質の単位塗布面積当たりの重量が、片面当たり約16mg/cm2となるよう塗布した。
【0067】
それから、140℃の温度で乾燥させた後、正極合材密度が2.7〜3.0g/cm3の範囲となるようにロールプレスにてプレスすることにより、表4Aの実施例1〜17の正極(試料)と、表4Bの比較例1〜13の正極(試料)を作製した。
【0068】
なお、正極合材の塗布面積は、正極集電体の表面に正極合材が塗布されている部分の面積のことであり、例えば、10cm2の正極集電体の片面全体に正極合材が塗布されている場合の正極合材の塗布面積は10cm2であり、両面全体に正極合材が塗布されている場合の正極合材の塗布面積は20cm2である。
【0069】
そして、各試料の、1)正極活物質の表面積SA、2)第1の導電助剤の表面積SC1、3)第2の導電助剤の表面積SC2を調べた。
上記の各表面積SA、SC1およびSC2は、正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる、正極活物質、第1および第2の導電助剤のそれぞれの重量(mg/cm2)と、BET法により求めたそれぞれの材料の比表面積(m2/g)の値を用いて、以下の式(1)、(2)、および(3)から求めた。
【0070】
1)正極活物質の表面積SA
正極活物質の表面積SA[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる正極活物質の重量[mg/cm2]×正極活物質のBET比表面積[m2/g]×10 ……(1)
【0071】
2)第1の導電助剤の表面積SC1[cm2/cm2
第1の導電助剤の表面積SC1[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる第1の導電助剤の重量[mg/cm2]×第1の導電助剤のBET比表面積[m2/g]×10 ……(2)
【0072】
3)第2の導電助剤の表面積SC2
第2の導電助剤の表面積SC2[cm2/cm2]=正極合材の単位塗布面積当たりに含まれる第2の導電助剤の重量[mg/cm2]×第2の導電助剤のBET比表面積[m2/g]×10 ……(3)
【0073】
また、各試料の、4)SC1/SC2、5)導電助剤の表面積SC、6)正極合材に占める正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和SE、7)正極活物質の表面積SAに対する導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)を、以下の式(4)、(5)、(6)、および(7)から求めた。
【0074】
4)SC1/SC2
(SC1/SC2)=第1の導電助剤の表面積SC1/第2の導電助剤の表面積SC2 ……(4)
【0075】
5)導電助剤の表面積SC
導電助剤の表面積SC[cm2/cm2]=第1の導電助剤の表面積SC1+第2の導電助剤の表面積SC2 ……(5)
【0076】
6)正極合材に占める正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和SE
正極合材に占める正極活物質の表面積と導電助剤の表面積の総和(SE)[cm2/cm2]=正極活物質の表面積SA+第1の導電助剤の表面積SC1+第2の導電助剤の表面積SC2 ……(6)
【0077】
7)正極活物質の表面積SAに対する導電助剤の表面積SCの比率(SC/SA)
(SC/SA)=導電助剤の表面積SC/正極活物質の表面積SA……(7)
【0078】
[4]捲回式電池用負極の作製
負極活物質である黒鉛と、結着材であるポリフッ化ビニリデンを、重量比92.5:7.5の割合で混合し、その混合物にN−メチル−2−ピロリドンを加えて負極合材スラリーを作製した。
【0079】
この負極合材スラリーを負極集電体である厚さ10μmの電解銅箔の両面に、乾燥後の負極合材に含まれる負極活物質の単位塗布面積当たりの重量が、片面当たり約7mg/cm2となるよう塗布した。
【0080】
そして、塗布した負極合材スラリーを、140℃の温度で乾燥させた後、負極合材密度が1.0〜1.3g/cm3の範囲となるようにロールプレスにてプレスした。プレス後の負極を44mm×460mmの短冊状に切り取り、それにニッケルタブを溶着することにより捲回式電池用負極を作製した。
【0081】
[5]コイン電池(コイン形リチウムイオン二次電池)の作製
片面に正極合材を塗布した正極を、直径が12mmの円盤状に打ち抜き、コイン電池用正極とした。
【0082】
直径15mmの円盤状の金属リチウムを直径15mmのステンレス製集電板に貼り合わせ、コイン電池用負極とした。
【0083】
セパレータには、直径が16mmのガラスフィルター(商品名「アドバンテックGA−100」)を用いた。
【0084】
電解液には、1M LiPF6 エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:3(体積比)を用いた。
そして、上記コイン電池用正極、コイン電池用負極、セパレータ、電解液を用い、コイン電池を作製した。
なお、このコイン電池は、後述の充放電レート試験を行い、3C充電維持率[%]および3C放電維持率[%]を調べるために作製した試料である。
【0085】
[6]捲回式電池(捲回式リチウムイオン二次電池))の作製
両面に正極合材を塗布した正極を、42mm×370mmの短冊状に切り取り、アルミタブを溶着することにより捲回式電池用正極を作製した。
セパレータには、厚み15μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。
【0086】
それから、上記捲回式電池用正極、上記[4]で作製した捲回式電池用負極、セパレータを捲回機で捲回し、捲回体を作製した。電解液には1M LiPF6 EC:EMC=1:3(体積比)を用いた。外装にはアルミラミネートを用いた。
そして、上記捲回体、電解液、外装を用い、捲回式電池(捲回式リチウムイオン二次電池)を作製した。
なお、この捲回式電池は、後述の定電圧充電試験を行い、ガス発生量を測定するために作製した試料である。なお、この捲回式電池においては、上述のコイン電池と同じ正極が用いられている。
【0087】
[7]コイン電池の充放電レート試験
上述のようにして作製した作製したコイン電池について、正極の充放電レート試験を行った。25℃の恒温槽内にて、0.45mA/cm2の電流値、3.0〜5.0Vの電圧範囲で3サイクル充放電させた。3サイクル目の充電容量、放電容量をそれぞれ「0.2C充電容量」、「0.2C放電容量」とした。その後、6.78mA/cm2の電流値で5.0Vまで充電を行ったときの充電容量を「3C充電容量」とした。その後、10分間開回路で放置し、0.45mA/cm2の電流値で5.0Vまで充電を行い、6.78mA/cm2の電流値で3.0Vまで放電を行ったときの放電容量を「3C放電容量」とした。「3C充電維持率」を下記の式(8)で算出し、「3C放電維持率」を下記の式(9)で算出した。
3C充電維持率[%]={(3C充電容量)/(0.2C充電容量)}×100 ……(8)
3C放電維持率[%]={(3C放電容量)/(0.2C放電容量)}×100 ……(9)
【0088】
[8]捲回式電池の定電圧充電試験
上述のようにして作製した捲回式電池について、定電圧充電試験を行い、試験前後のセルの体積変化からガス発生量を測定した。
【0089】
45℃の恒温槽内にて、100mAの電流値で4.9Vまで充電させた後、直ちに4.9Vで168時間の定電圧充電を行った。充電後、100mAの電流値で3.0Vまで放電させた。定電圧充電試験前後のセル体積はアルキメデス法により測定し、ガス発生量を以下の式(10)で算出した。
ガス発生量[mL]=(定電圧充電試験後のセル体積)−(定電圧充電試験前のセル体積) ……(10)
【0090】
<正極活物質1を用いた正極の評価>
正極活物質に上述の正極活物質1(表1参照)を用いた場合の正極合材の使用材料と重量比、SC1/SC2、SE、SC/SA、3C充電維持率、3C放電維持率、ガス発生量を表4A、表4Bに示す。
【0091】
なお、表4Aにおける実施例1〜17の正極および、表4Bにおける比較例1〜13のそれぞれの正極についてのデータは、3C充電維持率[%]および3C放電維持率[%]については、上述のようにして作製したコイン電池を試料として調べたデータであり、また、ガス発生量は、3C充電維持率および3C放電維持率を調べた上述のコイン電池と同じ条件の正極を用いて作製した、上述の捲回式電池を試料として調べたデータである。
【0092】
【表4A】
【0093】
【表4B】
【0094】
表4Aに示すように、実施例1〜17の正極はいずれも3C充電維持率が60%以上、かつ、3C放電維持率が40%以上の優れた充放電レート特性を示しながら、ガス発生量が30.0mL未満に抑えられている。これは、SC1/SC2を6.5以上、70以下、かつ、SEを90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下とすることで優れた充放電レート特性と正極表面における非水電解液の酸化分解の抑制を両立させることができたことによるものである。
【0095】
また、実施例1〜13の正極はSC/SAを2.6以上、10以下、かつ、SEを150cm2/cm2以上とすることで、SC/SAが2.6未満である実施例14〜17の正極に比べて3C充電維持率が70%以上、かつ、3C放電維持率が50%以上と、さらに優れた充放電レート特性を示すことが確認された。
【0096】
さらに、実施例1,3,5,9,10,12,13の正極はSEを300cm2/cm2以下とすることで、実施例2,4,6〜8,11の正極に比べ3C充電維持率が70%以上、かつ、3C放電維持率が50%以上の優れた充放電レート特性を保ったままガス発生量が25.0mL未満に抑えられており、正極表面における非水電解液の酸化分解をさらに確実に抑制できることが確認された。
【0097】
一方、SC1/SC2が6.5以上、70以下で、かつ、SEが90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下という本発明の要件のうち、少なくとも一方の要件を備えていない比較例1〜13の正極の場合、充放電レート特性およびガス発生量の少なくとも一つにおいて好ましくない結果となり、充放電レート特性と非水電解液の酸化分解の抑制を両立させることができないことが確認された。
【0098】
<正極活物質2を用いた正極の評価>
次に、正極活物質に正極活物質2(表1参照)を用いた場合の正極合材の使用材料と重量比、SC1/SC2、SE、SC/SA、3C充電維持率、3C放電維持率、ガス発生量を表5に示す。
【0099】
なお、表5における実施例18〜20の正極および、比較例14〜18のそれぞれの正極についてのデータは、3C充電維持率[%]および3C放電維持率[%]については、上述のようにして作製したコイン電池を試料として調べたデータであり、また、ガス発生量は、3C充電維持率および3C放電維持率を調べた上述のコイン電池と同じ条件の正極を用いて作製した、上述の捲回式電池を試料として調べたデータである。
【0100】
【表5】
【0101】
実施例18〜20の正極はいずれも3C充電維持率が60%以上、かつ、3C放電維持率が40%以上の優れた充放電レート特性を示しながら、ガス発生量が40.0mL未満に抑えられている。これは、SC1/SC2を6.5以上、70以下、かつ、SEを90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下とすることで、優れた充放電レート特性と正極表面における非水電解液の酸化分解の抑制を両立させることができたことによるものである。
【0102】
また、実施例18,19の正極は、さらにSC/SAを2.6以上、10以下とし、かつ、SEを150cm2/cm2以上としているので、SC/SAが2.6未満である実施例20の正極に比べて、3C充電維持率が80%以上で、かつ、3C放電維持率が55%以上と充放電レート特性にもさらに優れたリチウムイオン二次電池を提供することが可能になる。
【0103】
一方、正極活物質2を用いた正極の場合も、SC1/SC2が6.5以上、70以下で、かつ、SEが90cm2/cm2以上、400cm2/cm2以下という本発明の要件のうち、少なくとも一方の要件を備えていない比較例14〜18の正極の場合、充放電レート特性およびガス発生量の少なくとも一つにおいて好ましくない結果となり、充放電レート特性と非水電解液の酸化分解の抑制を両立させることができないことが確認された。
【0104】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、正極を構成する正極活物質や導電助剤、結着剤の種類、リチウムイオン二次電池を構成する負極の構成や非水電解液の組成などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。