(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を伴って説明する。
〔第1実施形態〕
先ず、
図1で本願発明に係る鉛フリー半田を適用し得るパワー半導体モジュールの一例について説明する。
パワー半導体モジュール10は、絶縁基板11と、この絶縁基板11上に搭載されたパワー半導体素子としてのIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)12およびパワー半導体素子としてのFWD(Free Wheeling Diode)13とを備えている。
【0015】
絶縁基板11は、絶縁層11aを有し、この絶縁層11aの裏面側に金属板11bが形成され、絶縁層11aのおもて面側に回路パターン11cおよび11dが形成されている。そして、IGBT12およびFWD13の裏面に形成された電極が、鉛フリー半田21を介して回路パターン11c上に接続されている。
また、パワー半導体モジュール10は、IGBT12およびFWD13のおもて面に配置された絶縁基板14を有する。この絶縁基板14は絶縁層14aを有し、この絶縁層14aの裏面側に回路パターン14bが形成され、絶縁層14aのおもて面側に回路パターン14cが形成されている。そして、回路パターン14bが鉛フリー半田22を介してIGBT12およびFWD13のおもて面に形成された電極に接続されている。このようにして、IGBT12およびFWD13は、逆並列回路を構成するように絶縁基板上に搭載されている。また、回路パターン14c上にはIGBT12を制御する制御用IC15が搭載されている。
【0016】
また、絶縁基板11の回路パターン11cおよび11d上に外部導出端子16aおよび16bがそれぞれ接続され、絶縁基板14の絶縁層14aのおもて面に外部導出端子16cが配置されている。
さらに、制御用IC15と外部導出端子16cとがボンディングワイヤ17で接続されているとともに、制御用IC15とIGBT12のゲート電極12gとがボンディングワイヤ18によって接続されている。
【0017】
そして、絶縁基板11、IGBT12、FWD13、絶縁基板14、制御用IC15および外部導出端子16a〜16cが樹脂ケース19に格納され、この樹脂ケース19内に封止樹脂20を充填してパワー半導体モジュール10が構成されている。
御用IC15は、絶縁基板14の回路パターン14cに図示しない鉛フリー半田によって接続されている。
【0018】
ここで、IGBT12の裏面には、略全面に亘ってAg電極材料で構成されるトランジスタの高電位側電極となるコレクタ電極12cが形成され、このコレクタ電極12cが鉛フリー半田21を介し、さらに回路パターン11cを介してパワー半導体モジュール10の外部導出端子(コレクタ端子)16aに電気的に接続されている。IGBT12のおもて面には、トランジスタの低電位側電極となるエミッタ電極12eおよび制御電極となるゲート電極12gが形成されている。エミッタ電極12eは鉛フリー半田22を介し絶縁基板14の回路パターン14bを介し、さらに鉛フリー半田22を介して外部導出端子16bに電気的に接続され、ゲート電極12gはボンディングワイヤ18を介して制御用IC15に電気的に接続されている。
【0019】
また、FWD13の裏面にはカソード電極13kが形成され、このカソード電極13kが鉛フリー半田21を介し、絶縁基板11の回路パターン11cを介して外部導出端子16aに電気的に接続され、FWD13のおもて面にはアノード電極13aが形成され、このアノード電極13aが鉛フリー半田22を介し、絶縁基板14の回路パターン14bを介し、さらに鉛フリー半田22を介して外部導出端子16bに電気的に接続されている。
【0020】
ところで、IGBT12およびFWD13の裏面およびおもて面に形成されたAg含有電極材料で構成されたAg電極でなるコレクタ電極12c、カソード電極13kおよびエミッタ電極12e、アノード電極13aは、Ag含有電極材料を例えばスパッタリング法によって、電極厚みが0.2μm以上2μm以下の範囲の薄膜に形成されている。
ここで、Ag電極の電極厚み範囲を上記のように設定する理由は、以下の通りである。
【0021】
すなわち、電極厚みを0.2μm未満に設定すると、後述するようにIGBT12のコレクタ電極12c、エミッタ電極12eおよびFWD13のカソード電極13k、アノード電極13aをSn−Agの2元共晶系の鉛フリー半田21および22を使用して絶縁基板11の回路パターン11cおよび絶縁基板14の回路パターン14bに接合する際に、各電極12c、12e、13kおよび13a中のAgが鉛フリー半田21および22に拡散したときに、下地が露出して電気的な接合不良を生じることになるので好ましくない。一方、2μmを超える厚さのAg電極を形成することが現状のスパッタリング法等の成膜技術では困難である。したがって、Ag電極の電極厚みを0.2μm以上2μm以下に設定する。
【0022】
また、接合に使用する鉛フリー半田21および22としては、Sn−Agの2元共晶系を主成分とする鉛フリー半田と、Sn−Agの2元共晶系に析出強化型元素を加えた多元共晶系を主成分とする鉛フリー半田との2種類が使用される。
そして、電極としてAg電極を用いた場合、一般的なAu電極に比べ濡れ性が低下する現象が発生する。また、Ag電極を用いることで、Ag電極中のAgが半田内に拡散して、Sn−Ag系のAg量が過共晶組成になり濡れ性低下し、冷熱サイクル試験においてサイクル寿命が低下する現象が生じる。そこで、Ag電極と供給する半田の量を調整し、半田が溶融を経てAg電極と凝固した後にSnとAgが共晶になる半田組成条件を狙うことで、濡れ性を改善でき、サイクル寿命を増加できる良好な接合が得られる。
【0023】
この接合では、電極面積が大きく、板状の接合体と板状の被接合体を接合する方法であり、析出型の凝固形態をとる。半田成分においては、析出型を示す電極材質を用いると、過飽和な組成(成分比率)となるため、接合欠陥が発生する。本発明では、ダイボンド接合において接合体が、析出型を示す金属を用いる場合に、供給する半田成分を限定し、凝固時に濡れ性の最適値を示すように調整することで、良好な接合体を得る方法とする。
【0024】
Sn−Agを主成分とする、Sn−3.5質量%Ag共晶半田、Sn−3.5質量%Ag−0.75質量%Cu共晶半田などでは、
図2(a)に示す共晶系析出強化型の凝固形態を示すが、Ag電極を用いることで、
図2(b)に示す過飽和な析出強化型凝固組織を示す。すなわち、共晶系析出強化型の凝固状態では、例えばSn−3.5質量%Ag−0.75質量%Cu共晶半田を例にとると、
図2(a)に示すように、Ag
3SnであるAgとSnの金属間化合物31と、Cu
6Sn
5であるCuとSnの金属間化合物32とがβ−Snの微細な共晶組織を囲んで分散・析出強化している構造となる。
【0025】
同様に、Sn−3.5質量%Ag共晶半田では、図示しないがβ−Snの微細な共晶組織の回りをAg
3SnであるAgとSnの金属間化合物31が囲んで分散・析出強化している構造となる。一方、過飽和析出強化型の凝固状態である場合、
図2(b)に示すように金属間化合物31(Ag
3Sn)や金属間化合物32(Cu
6Sn
5)などが過剰に晶出して成長してしまう。
【0026】
そして、
図2(c)に示すように、
図2(a)に示した共晶系析出強化型凝固組織が再結晶温度に達した後に冷却され再結晶化されると、微細な金属間化合物32(Cu
6Sn
5)が分散して生成して微細化・分散強化型になると、固溶強化機能が無くなり、再結晶後の凝固組織は高延性になる。なお、再結晶化の際、金属間化合物が、結晶粒成長や塑性変形を抑制するピンニング効果が生じる場合は、逆に低延性となる場合もある。
一方、
図2(b)に示す過飽和析出強化型では、再結晶温度に達した後に冷却されて再結晶化されても、再結晶組織が微細化・分散強化型になりにくい。
【0027】
また、AgはSn中に対して、約0.09atom%が固溶でき、非常に少ない量が固溶限界となっているため、凝固時にはSn中にAg
3Snの析出物として晶出することが一般的に知られている。
他方、これまで日本では主流となっている素子裏面の電極に使われるAuはSn中への固溶限界が,6.8atom%と大きく、Auの電極厚さを例えば0.2μmとした場合には、Sn−Ag系半田接合部中に、AuSnまたはAu
10Sn、Au
5Sn、AuSn
2、AuSn
4などの析出物が晶出してくることはなかった。
【0028】
図3に冷陰極型走査電子顕微鏡で観察したSn−Ag系半田の凝固組織を示した。対象の疑固組織は、Snの融点である232℃に100℃を加えた温度(332℃)でセラミクスのるつぼに半田材を溶融させ、常温で管理されたステンレスの金型で凝固させたものを供試サンプルとして作成した。これらサンプルを用いて、SnAg系半田のAg濃度と凝固組織の関係を調べた。
【0029】
Sn−1.0質量%Agでは、
図3(a)に示すように、灰色部のβ一Snの周辺に白色のAg
3Snが僅かながら網目状ネットワーク構造を形成し、析出強化を示していることがわかる。このことから、Sn−Ag系半田はβ一SnをAg
3Snでピンニングしているピンニング効果による凝固組織の強化機構が働いていることが確認できる。
Sn−1.0質量%Agに対して、Sn−3.5質量%Agでは、
図3(b)に示すように、Ag
3Snの網目構造がより密となり、例えばSn−Ag−Cu−Niなど、Ag
3Sn以外の化合物が晶出する組成においても、
図3(c)に示すように、Ag
3Sn、(CuNi)
6Sn
5が同様にβ一Sn初晶の成長を抑止し、均一な網目構造を形成していることが確認できる。
【0030】
図3(d)に示すSn−4.0質量%Agまでは同様な網目構造が確認できる。
ところが、Sn−5.0質量%Agでは、
図3(e)に示すように、凝固組織中(写真では、黒い棒状のもの)に、粗大なAg
3Snが成長していることが判る。
このSn−5.0質量%Agのような粗大な化合物が晶出する系では、凝固体としては、β一Sn初晶の成長や変形を抑制する均一なAg
3Snのピンニング効果が減少する。溶融(半田接合)中では、480℃以上の液相線温度を持つAg
3Snによる半田液体の粘性や表面張力の増加などにより、接合時に発生した気体の排出効果が低下し、ボイド率が増加する。
【0031】
供給する半田には、3.5質量%程度の共晶を構成するためのAg量が予め準備されているが、Ag電極を用いることで、半田接合中にAg電極のAgが溶融半田中へ溶出し、溶融固化後のSn−3.5質量%Agは、Ag濃度が増加し半田接合性が著しく低下することが現象として現れる。
図4には、凝固上のAg濃度と、半田接合後の超音波探傷装置(SONOSCAN社製、50MHz)にて観察したはんだ接合部のボイド観察結果を示した。実験した接合条件は、ピーク温度を310℃、4分間、水素雰囲気中の条件にて接合をした。
【0032】
結果、ボイド発生率(%)は、Ag濃度が1.0質量%以上4.6質量%以下までの範囲では0%でボイドが発生しないことが確認された。ここで、Ag濃度が1.0質量%未満となると、凝固時に凝固割れとなる引け巣が発生することにより、好ましくない。一方、Ag濃度が4.6質量%を超える高濃度なAg濃度になることで、
図2(b)の過飽和析出強化型で示すように析出物が多くなり、半田の流動性が悪くなることと、
図5に示すように、Ag濃度が増加するとともに、液相線温度が上昇することが濡れ性低下の一要因となる。ここで、
図5は、例えば特開平5−41563号公報の
図6に示されているAg−Sn合金の平衡状態図におけるSn−3.5質量%Ag共晶付近の拡大図である。
【0033】
したがって、本実施形態では、Ag濃度はボイド発生率が0%付近を維持し凝固時の引け巣の発生を抑制できる1.0質量%以上4.6質量%以下に設定し、残部がSn及び不可避不純部よりなる組成としている。
半田の濡れ性に関しては、液状半田の表面張力、接触角度、液状半田の粘性、及び雰囲気の酸素濃度が影響すると考えられる。そして、半田の表面張力が小さい程、接触角度が小さくなり、母材との濡れ性が改善されると考えられる。液状半田の粘性は、高温下で測定することが難しい。濡れ性を改善するために酸素濃度を変更することは、設備コストが高くなる。雰囲気の酸素濃度は、大気中で半田付けされるならば酸素濃度が一定と仮定できる。そこで、以下では、半田組成が表面張力に与える影響を調査した。
【0034】
図6には、Sn−Ag系半田におけるAg濃度と表面張力との関係を示した。表面張力の測定は,ウィルヘルミー(Wilhelmy)法で行った。ウィルヘルミー法とは、測定板を鉛直に懸架し、板の下部を試料溶液に浸して表面張力によって板が試料溶液へ引きずり込まれる力を測定する方法である。測定条件は、液相線温度(溶融温度)に30℃加えた温度を各試料溶液の測定温度とし、幅30mm×高さ50mm×厚さ0.3mmのリン脱酸銅の板にロジン系フラックスを適量塗布した測定板で測定した。測定は、大気雰囲気中で行った。浸漬速度を5mm/sec、浸漬深さを2mm、浸漬時間を10secとした。試料溶液の温度に関して、非特許文献1は、半田材の表面張力が、溶融温度から溶融温度に25℃を加えた温度にかけて低下していき、溶融温度に25℃を加えた温度以上ではそれほど変化しないことを報告している。これを参考に、今回は溶融温度に30℃加えた温度にて測定を実施した。
【0035】
Sn−Ag系半田材は、Sn−3.5質量%Ag近傍が最も表面張力が小さくなる。濡れ性を考慮すると、Ag濃度は1.8質量%以上3.8質量%以下の範囲に設定することが好ましく、表面張力が最小となる点を挟む3.0質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましい。
以上を纏めると、質量M(g)の半田付け前のSn−Ag系鉛フリー半田に含まれるAg濃度C(質量%)と、Ag含有部材に含まれるAgの溶出量B(g)との関係が、
1.0質量%≦(M×C+B)X100/(M+B)≦4.6質量%
となるAgを含有し、残部がSnおよび不可避不純物よりなる組成を有する鉛フリー半田とすることにより、ボイドの発生を防止することができるとともに、半田濡れ性を向上させた鉛フリー半田を提供することができる。
【0036】
また、
図7には、IGBT素子を半田接合したパワー半導体モジュールのパワーサイクル試験結果を示す。パワーサイクル試験は、IGBT素子のエミッタ電極とコレクタ電極との間に電圧を印加しゲート電極でONとOFFのスイッチングを繰り返してIGBT素子を発熱させる期間と、ゲート電極をOFFし続けて放熱する期間とを繰り返し、40℃〜140℃の範囲で加熱と放熱のサイクルを繰り返す方法で行った。すなわち温度差△Tを100℃にして実施した。
【0037】
図7は、横軸にSn−3.5質量%Agの2元共晶半田の最も早く破壊したサイクル数を1として規格化した値をとり、縦軸に故障確率をプロットした図である。供試材は、Sn−1.0質量%Ag(Ag電極上で半田が凝固した後のAg電極からの溶出量を1.0質量%としたときの半田内の化合物の総和2.0質量%相当)、Sn−2.0質量%Ag−0.5質量%Cu(Ag電極上で半田が凝固した後のAg電極からの溶出量を1.0質量%としたときの半田内の化合物の総和3.5質量%相当)、Sn−3.5質量%Ag−0.5質量%Cu(Ag電極上で半田が凝固した後のAg電極からの溶出量を1.0質量%としたときの半田内の化合物の総和5.0質量%相当)の各半田を用い、Ag電極上で半田が凝固した後の半田内のAg量(析出物の総和)を変化させたときの寿命を示している。Ag電極の厚さは、700nmにした。
【0038】
Ag電極を用いた場合には、Ag電極上で半田が凝固した後の半田内の化合物の総和が3.5%相当となる、半田材Ag濃度2.0%に析出物強化型材料であるCuを添加した場合が最も長寿命になることがわかる。
異種材料の部材を備えたパワー半導体素子は、加熱されると各部材の熱膨張係数の差によって、歪みが生じる。例えば、Siの熱膨張係数は2.6ppm/K、半田の熱膨張係数は23.0ppm/K、Cuの熱膨張係数は16.0ppm/Kである。熱膨張係数の差が大きい部材間の界面が、この歪みの影響を最も受け、この部分が破壊され易い。パワーサイクル試験による寿命評価は、この歪みによる破壊を加熱冷却サイクルによって促進させて、パワー半導体素子の寿命を推定する方法である。パワー半導体素子の半田接合部においては、Siと半田の熱膨張係数差が最も大きいため、Siと半田との界面近傍に最も大きな歪が生じ、この部分が破壊される。
【0039】
一方、Ag電極の厚さに対応して、半田組成を変動させても同様の効果が得られる。例えばAg電極が0.1μmの場合には、半田は2.9質量%Agでほぼ3.5Ag相当の凝固組織が得られ、Ag電極が1000nmの場合には、1.5質量%Ag半田でほほ3.5質量%Ag相当の凝固組織が得られる。
Sn−Agの2元系半田では、析出物強化型材料に対して、不可避不純物(Cu、Zn、Fe、Al、As、Cd、Ag、Au、In、Pなど)を除いて、主成分のSnに対して析出強化型を示すFe、Cr、Co、Zn、Pt、Ti、Cu、Niなどは、固溶型を越えた過飽和な添加物量に対しては、系全体の析出物の総量として考えることができる。上記各金属は、0.1質量%以下の固溶限界を示す金属であるため予め添加した元素がほぼ全て析出物(化合物)になると考えられ、Ag電極と半田のAg量の総和が凝固時の析出物量になると同様に、CuやNiやFeなどの意図的に添加した元素の総和が、3.5Ag相当になることで、上述したパワーサイクル寿命結果が得られる。
したがって、Sn−Agの2元系半田に、析出強化型元素を加えた多元共晶系半田例えはSn−Ag−Cu、Sn−Ag−Ni等でも凝固上のAgの総和1.0質量%以上4.6質量%以下の範囲に設定し、残部がSn及び不可避不純物よりなる組成とすることで、ボイドが生じることなく漏れ性を向上させた鉛フリー半田を構成することができる。
【0040】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態として、上述したSn−Agの2元共晶系半田やSn−Agの2元共晶系半田に固溶強化型元素を添加した多元共晶系半田に、
図2(d)に示す固溶強化型凝固組織を示すSbを添加してSn−Ag−Sbの多元共晶系の鉛フリー半田を形成する場合について説明する。ここで、固溶強化凝固組織は、溶媒原子41となるSn間に溶質原子42となるSbが浸入して固溶強化するものである。
【0041】
Sn−Agの2元共晶系半田にSbを添加すると、半田凝固時の機械的強度を向上させることができる。この場合、Sbを、Sn−Agの2元共晶系にSbを微量添加する場合でも凝固時の機械的強度(引張強度)を向上させることができる。また、Sbの固溶限度は9.5質量%であり、この固溶限度までSbを、SbSnの化合物を晶出することなく添加することができる。厳密には,冷却速度や,接合母材の拡散元素により,半田接合体のSbの固溶限度は異なるが,通常半田接合する時間10分以内、冷却速度1℃〜20℃/secの範囲において,析出物の生成のないSb添加濃度を,固溶限度としている。
【0042】
したがって、Sbの添加濃度は0を含めない9.5質量%以下に設定されている。
また、
図9に示すように、Sbは、Sn−Agの2元共晶系半田やSn−Ag−Niの多元共晶系半田に添加することでこれらの表面張力を前述した第1の実施形態におけるSn−Agの2元系共晶半田の表面張力の最小値である450mN/mに比較して小さく抑制することができる。
【0043】
そして、
図8の特性線L2で示すように、特性線L1で示すSn−Agの2元共晶系半田に6.0〜9.5質量%のSbを添加したSn−6.0〜9.5Sb−xAgの3元共晶系半田では、Ag添加濃度であるx質量%を変化させることにより溶融固化後のAg添加濃度が2.5質量%以上3.9質量%以下の範囲でボイド発生率が略“0%”に維持される。
【0044】
この特性線L2で表されるSn−6.0〜9.5Sb−xAgの3元共晶系半田で、Agが2.5〜3.9質量%近傍まではボイド発生率をおよそ0%に抑制することができるので、ボイド発生率を0%に維持することを考慮して2.5〜3.9質量%AgとしてSbの含有範囲を規定すると、ボイド発生率をおよそ0%に抑制できるSbの添加濃度は
図8における特性線L3で表されるように6.2質量%〜9.5質量%となる。
【0045】
このように、Sbの添加濃度を固溶限度である9.5質量%以下とすることが望ましいが、Sbを固溶限度である9.5質量%を超える範囲で添加する場合には、溶け残ったSbがSnSb合金として析出することになり、固溶強化と析出強化とを兼ね備えた鉛フリー半田となる。しかしながら、Sbの添加濃度9.5質量%から10質量%程度が包晶点であるため、その値を超えた添加濃度とした場合には、ボイド発生率が0%より増加することになるととともに、機械的強度が高くなり過ぎ、サイクル寿命が短くなるという問題が生じる。
【0046】
ここで、Sbの添加濃度の上限は、包晶組成を大きく外れない範囲で設定されるべきで、冷却速度が20℃/secを超える高速冷却領域では、凝固核となる、SbSnの化合物の成長が粗大(100μm以下)にならないことから、Sbの添加濃度を15質量%以下、好ましくは、13質量%以下にすることが望ましい。さらには、通常のはんだ付けリフロープロセスにおける冷却速度である20℃/sec以下の低速冷却領域でのリフローはんだ付けプロセス条件を勘案するとSbの粗大な化合物が晶出しない固溶限度となる添加物濃度9.5質量%以下とすることがより好ましい。化合物の晶出は液体である半田の流動を阻害し,半田接合材との溶解時に発生する金属中の溶存ガスや、酸化物、物理的に存在する空気が液体中に残存し、その排出を阻害するため、極力化合物の晶出を押さえまた、その化合物サイズは微細(10μm以下)にすることが好ましい。
【0047】
そして、Sbの添加濃度を固溶限度一杯の9.5質量%以下とする場合には、ボイド発生率を0%に維持するために、
図8の特性線L2からAg添加濃度は、3.3質量%以上3.9質量%以下に設定することが好ましい。
一方、Sn−2.5〜3.9Ag−xSbに設定する場合には、Sbの添加濃度xを6.2質量%以上15質量%以下に設定することにより、ボイド発生率(%)をおよそ0%とすることができるが、SbSnの粗大な化合物の晶出の抑制を考慮すると、Sbの添加濃度を6.2質量%以上9.5質量%以下の亜包晶の範囲に設定することが好ましい。
【0048】
しかも、Sn−10Sbの2元包晶系について、示差走査熱量分析(DSC分析)を実施したところ、
図10に示すように、固相線温度T1が242.0℃、吸熱反応のピークを示す温度T2が246℃、液相線温度T3が260.1℃であることが確認された。
このようなSn−10Sbの2元包晶系では、液相線温度が高いので、冷却速度を20℃/secを超える高速冷却領域で冷却しないとSbSnの粗大な化合物が晶出することになり、好ましくない。
【0049】
以上のことから、Sbの添加濃度の条件を9.5質量%以下に設定する。
何れにしても半田凝固状態での機械的強度を得るためにSbを添加する場合には、Sbの添加濃度は、0を含まず固溶限度の9.5%以下に設定することが好ましく、さらにボイド発生率を低下させ且つ濡れ性の向上を図るために表面張力を低下させるには、Sbを6.2質量%以上9.5質量%以下の範囲に設定することがより好ましい。
【0050】
なお、SnSb系半田材料は、包晶系材料であるため、明確な共晶成分比が決まらず、不純物量や冷却速度などの違いにより、凝固核のサイズが変わり、濡れに影響するため、Sbの添加濃度の範囲を調査した結果、上述した各範囲内であれば、良好な結果を示すことが確認されている。
そして、以上説明した鉛フリー半田を前述したパワー半導体モジュール10の鉛フリー半田21および22として使用することにより、耐久性及び信頼性の高いパワー半導体モジュール10を提供することができる。
【0051】
なお、上記実施形態においては、半田付け物品としてパワー半導体モジュールを適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、Ag電極に限らずAgを含有するAg含有部材を接合対象部材に半田付けするようにした半田付け物品に本発明を適用することができる。
【0052】
以上説明した本発明を纏めると、第1の発明に係るAg含有鉛フリー半田の半田付け方法の一態様は、Ag含有部材に半田付けされるAg含有鉛フリー半田の半田付け方法において、質量M(g)の半田付け前のSn−Ag系鉛フリー半田に含まれるAg濃度C(質量%)と、Ag含有部材に含まれるAgの溶出量B(g)との関係が、
1.0質量% ≦(M×C+B)X100/(M+B)≦ 4.6質量%
となるAgを含有し、残部がSnおよび不可避不純物よりなる組成を有する鉛フリー半田と、Ag含有部材と接触させる第1工程と、鉛フリー半田を加熱して溶融する第2工程と、鉛フリー半田を冷却する第3工程と、を備える。
【0053】
この構成によれば、第2工程でAg含有部材からAg含有鉛フリー半田へ移行するAg量を考慮して、あらかじめ第1工程で用いられるAg含有鉛フリー半田中のAg含有量を第3工程において前記の所望の範囲になるように調節しておくことで、第2工程におけるAg含有鉛フリー半田の表面張力が低くなる範囲のAg化合物の析出量に制御できる。表面張力が低いために半田濡れ性が良くなる。そうすると、半田付け時の気泡の排出が良好になり、ボイドの発生を低減できる。
また、Ag含有鉛フリー半田の半田付け方法の一態様において、前記第1工程の鉛フリー半田の組成が、Sn−Ag共晶系に固溶限界濃度が0.1質量%以下である析出強化元素を加えた多元共晶系で構成され、第3工程の鉛フリー半田が、前記Ag含有部材から前記鉛フリー半田に移行したAgと、前記鉛フリー半田に含有されるAgと、前記析出強化元素との合計質量が、前記第3工程の鉛フリー半田の質量に対して1.0質量%以上4.6質量%以下であり、残部がSnおよび不可避不純物よりなる組成を有することにしてもよい。
【0054】
この構成によれば、析出強化元素が鉛フリー半田に含有されることで、半田の引張り強度を向上できる。
上記の析出強化元素としては、例えば、Cu、Ni、Fe、Cr、Co、Zn、Pt、Tiからなる群から少なくとも1種類以上選択された元素を用いられる。
また、上記のAg含有鉛フリー半田の半田付け方法のいずれか1つに記載の一態様において、前記第1工程の鉛フリー半田の組成が、Sn−Ag共晶系にSbを含んだ多元共晶系で構成され、第3工程の鉛フリー半田のSb濃度が、0を含まず9.5質量%以下であり、残部がSnおよび不可避不純物よりなる組成を有することにしてもよい。
【0055】
この構成によれば、SbがAg含有鉛フリー半田に含有されることで、半田の引張り強度を向上できる。析出強化元素とSbがAg含有鉛フリー半田に含有される場合、半田の引張り強度をさらに向上できる。
また、上記のAg含有鉛フリー半田の半田付け方法において、前記Ag濃度が2.5質量%〜3.9質量%であり、且つ前記Sb濃度が、溶融してAg含有部材と接触された後の前記鉛フリー半田の質量に対して6.2質量%以上9.5質量%以下であることにしてもよい。
【0056】
この構成によれば、Ag含有鉛フリー半田にSbを添加して半田の引張り強度をより向上できるとともに、ボイド発生率を0%に近づけることができる。
また、上記のAg含有鉛フリー半田の半田付け方法のいずれか1つに記載の一態様において、第3工程の鉛フリー半田が、前記Ag含有部材から前記鉛フリー半田に移行したAgと、前記鉛フリー半田に含有されるAgとの合計質量が、前記第3工程の鉛フリー半田の質量に対して2.5質量%以上3.9質量%以下であることにしてもよい。
【0057】
この構成によれば、第2工程の鉛フリー半田に含有されるAg濃度を適切に制御することで、ボイドの発生防止及び半田濡れ性の向上を図ることができる。
また、上記のAg含有鉛フリー半田の半田付け方法のいずれか1つに記載の一態様において、半田付け前のAg含有部材の厚みが0.2μm以上2μm以下であることにしてもよい。
【0058】
この構成によれば、Ag含有部材の厚みを制御することで、鉛フリー半田に溶け込むAg濃度を制御でき、ボイドの発生防止及び半田濡れ性の向上を図ることができる。
また、本発明の半田付け物品の一態様は、半導体チップと、前記Ag含有部材として前記半導体チップの表面に配置されたAg含有電極と、上記のいずれか1つに記載のAg含有鉛フリー半田の半田付け方法を用いられたAg含有鉛フリー半田と、を備えたことを特徴とする。
【0059】
この構成によれば、半田付け中のAg含有鉛フリー半田の半田濡れ性を向上でき、半田付け後のAg含有鉛フリー半田にボイドが発生することを防止できる。
また、上記の半田付け物品において、配線回路パターンを備えた絶縁回路基板を備え、前記半導体チップは、一方の面に制御電極と高電位側電極とが配置され、他方の面に前記絶縁回路基板の前記配線回路パターンに前記Ag含有鉛フリー半田で半田付けされる低電位側Ag含有電極が配置されているようにしてもよい。
この構成によれば、Ag含有電極を有する半導体チップを、ボイドの発生防止及び半田濡れ性を向上して、絶縁回路基板の配線回路パターンに接合できる。