【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1におけるFRハイブリッド車両(車両の一例)に適用された車両用発進クラッチの馴染み制御装置の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の概略構成」、「クラッチ馴染み制御構成」に分けて説明する。
【0012】
[全体システム構成]
図1は、実施例1におけるクラッチ馴染み制御対象となる発進クラッチが適用された後輪駆動によるFRハイブリッド車両を示し、
図2は、統合コントローラ10のモード選択部に設定されているEV-HEV選択マップの一例を示す。以下、
図1及び
図2に基づいて、全体システム構成を説明する。
【0013】
FRハイブリッド車両の駆動系は、
図1に示すように、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMG(モータ)と、第2クラッチCL2と、自動変速機ATと、変速機入力軸INと、プロペラシャフトPSと、ディファレンシャルDFと、左ドライブシャフトDSLと、右ドライブシャフトDSRと、左後輪RL(駆動輪)と、右後輪RR(駆動輪)と、を有する。なお、M-O/Pはメカオイルポンプ、S-O/Pは電動オイルポンプ、FLは左前輪、FRは右前輪、FWはフライホイールである。
【0014】
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngと/ジェネレータMGとの間に設けられた摩擦締結要素であり、CL1油圧を加えないときにダイアフラムスプリング等による付勢力にて締結状態であり、この付勢力に対抗するCL1油圧を加えることで開放するタイプ、いわゆるノーマルクローズのクラッチである。
【0015】
前記自動変速機ATは、前進7速/後退1速のギア段を車速やアクセル開度等に応じて自動的に切り替える有段変速機である。モータ/ジェネレータMGから左右後輪RL,RRまでの動力伝達経路に介装される第2クラッチCL2としては、自動変速機ATから独立した専用のクラッチとして新たに追加したものではなく、自動変速機ATを変速させるための摩擦締結要素(クラッチやブレーキ)を用いている。すなわち、自動変速機ATの各ギア段にて締結される複数の摩擦締結要素のうち、締結条件等に適合する要素として選択した摩擦締結要素を第2クラッチCL2としている。なお、第1クラッチ油圧ユニット6と第2クラッチ油圧ユニット8は、自動変速機ATに付設されるAT油圧コントロールバルブユニットCVUに内蔵している。
【0016】
このFRハイブリッド車両は、駆動形態の違いによるモードとして、電気自動車モード(以下、「EVモード」という。)と、ハイブリッド車モード(以下、「HEVモード」という。)と、駆動トルクコントロールモード(以下、「WSCモード」という。)と、を有する。
【0017】
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を開放状態とし、駆動源をモータ/ジェネレータMGのみとするモードであり、モータ駆動モード(モータ力行)・ジェネレータ発電モード(ジェネレータ回生)を有する。この「EVモード」は、例えば、要求駆動力が低く、バッテリSOCが確保されているときに選択される。
【0018】
前記「HEVモード」は、第1クラッチCL1を締結状態とし、駆動源をエンジンEngとモータ/ジェネレータMGとするモードであり、モータアシストモード(モータ力行)・エンジン発電モード(ジェネレータ回生)・減速回生発電モード(ジェネレータ回生)を有する。この「HEVモード」は、例えば、要求駆動力が高いとき、あるいは、バッテリSOCが不足するようなときに選択される。
【0019】
前記「WSCモード」は、駆動形態として「HEVモード」であるが、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することにより、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持しつつ、第2クラッチCL2のトルク伝達容量をコントロールするモードである。第2クラッチCL2のトルク伝達容量は、第2クラッチCL2を経過して伝達される駆動力が、ドライバーのアクセル操作量にあらわれる要求駆動力となるようにコントロールされる。この「WSCモード」は、「HEVモード」選択状態での発進時のように、エンジン回転数がアイドル回転数を下回る領域において選択される。なお、第1クラッチCL1の開放により駆動形態を「EVモード」とし、モータ/ジェネレータMGを回転数制御することにより、第2クラッチCL2をスリップ締結状態に維持しつつ、第2クラッチCL2のトルク伝達容量をコントロールするモードを「MWSCモード」という。
【0020】
FRハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、エンジンコントローラ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、バッテリ4と、第1クラッチコントローラ5と、第1クラッチ油圧ユニット6と、ATコントローラ7と、第2クラッチ油圧ユニット8と、ブレーキコントローラ9と、統合コントローラ10と、を有して構成されている。
【0021】
前記各コントローラ1,2,5,7,9と、統合コントローラ10とは、情報交換が互いに可能なCAN通信線11を介して接続されている。なお、12はエンジン回転数センサ、13はレゾルバ、15は油圧アクチュエータ14のピストン14aのストローク位置を検出する第1クラッチストロークセンサ、19は車輪速センサ、20はブレーキストロークセンサである。
【0022】
前記ATコントローラ7は、アクセル開度センサ16、車速センサ17、選択されているレンジ位置(Nレンジ,Dレンジ,Rレンジ,Pレンジ等)を検出するインヒビタスイッチ18、等からの情報を入力する。そして、Dレンジを選択しての走行時、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、図外のシフトマップ上で存在する位置により最適なギア段を検索し、検索されたギア段を得る制御指令をAT油圧コントロールバルブユニットCVUに出力する。この変速制御に加えて、統合コントローラ10からの指令に基づき、第1クラッチCL1の完全締結(HEVモード)/スリップ締結(エンジン始動)/開放(EVモード)の制御を行う。また、第2クラッチCL2の完全締結(HEVモード)/μスリップ締結(EVモード)/回転差吸収スリップ締結(WSCモード)/トルク変動吸収スリップ締結(エンジン始動・停止モード)の制御を行う。
【0023】
前記統合コントローラ10は、車両全体の消費エネルギーを管理し、最高効率で車両を走らせるための機能を担うもので、モータ回転数Nmを検出するモータ回転数センサ21や他のセンサ・スイッチ類22からの必要情報及びCAN通信線11を介して情報を入力する。この統合コントローラ10には、アクセル開度APOと車速VSPにより決まる運転点が、
図2に示すEV-HEV選択マップ上で存在する位置により検索したモードを目標モードとして選択するモード選択部を有する。そして、「EVモード」から「HEVモード」へのモード切り替え時にはエンジン始動制御を行う。また、「HEVモード」から「EVモード」へのモード切り替え時にはエンジン停止制御を行う。
【0024】
[自動変速機の概略構成]
図3は、実施例1における自動変速機ATの一例をスケルトン図により示し、
図4は、自動変速機ATでのギア段ごとの各摩擦締結要素の締結状態を示す。以下、
図3及び
図4に基づいて、自動変速機ATの概略構成を説明する。
【0025】
前記自動変速機ATは、前進7速後退1速の有段式自動変速機であり、
図3に示すように、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGのうち、少なくとも一方からの駆動力が変速機入力軸Inputから入力され、4つの遊星ギアと7つの摩擦締結要素を有する変速ギア機構によって、回転速度が変速されて変速機出力軸Outputから出力される。
【0026】
前記変速ギア機構としては、同軸上に、第1遊星ギアG1及び第2遊星ギアG2による第1遊星ギアセットGS1と、第3遊星ギアG3及び第4遊星ギアG4による第2遊星ギアセットGS2と、が順に配置されている。また、油圧作動の摩擦締結要素として、第1クラッチC1と、第2クラッチC2と、第3クラッチC3と、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第4ブレーキB4と、が配置されている。また、機械作動の係合要素として、第1ワンウェイクラッチF1と、第2ワンウェイクラッチF2と、が配置されている。
【0027】
前記第1遊星ギアG1、第2遊星ギアG2、第3遊星ギアG3、第4遊星ギアG4は、サンギア(S1〜S4)と、リングギア(R1〜R4)と、両ギア(S1〜S4),(R1〜R4)に噛み合うピニオン(P1〜P4)を支持するキャリア(PC1〜PC4)と、を有するシングルピニオン型遊星ギアである。
【0028】
前記変速機入力軸Inputは、第2リングギアR2に連結され、エンジンEngとモータージェネレータMGの少なくとも一方からの回転駆動力を入力する。前記変速機出力軸Outputは、第3キャリアPC3に連結され、出力回転駆動力を、ファイナルギア等を介して駆動輪(左右後輪RL,RR)に伝達する。
【0029】
第1リングギアR1と第2キャリアPC2と第4リングギアR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結される。第3リングギアR3と第4キャリアPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結される。第1サンギアS1と第2サンギアS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結される。
【0030】
図4は締結作動表であり、
図4において、○印はドライブ状態で当該摩擦締結要素が油圧締結であることを示し、(○)印はコースト状態で当該摩擦締結要素が油圧締結(ドライブ状態ではワンウェイクラッチ作動)であることを示し、無印は当該摩擦締結要素が開放状態であることを示す。また、ハッチングにて示される締結状態の摩擦締結要素は、各ギア段にて第2クラッチCL2として用いる要素を示す。
【0031】
隣接するギア段への変速については、上記各摩擦締結要素のうち、締結していた1つの摩擦締結要素を開放し、開放していた1つの摩擦締結要素を締結するという架け替え変速により、
図4に示すように、前進7速で後退1速のギア段を実現することができる。さらに、ギア段が1速段及び2速段のときには、第2ブレーキB2が第2クラッチCL2とされる。ギア段が3速段のときには、第2クラッチC2が第2クラッチCL2とされる。ギア段が4速段及び5速段のときには、第3クラッチC3が第2クラッチCL2とされる。ギア段が6速段及び7速段のときには、第1クラッチC1が第2クラッチCL2とされる。ギア段が後退段のときには、第4ブレーキB4が第2クラッチCL2とされる。
【0032】
Dレンジを選択しての前方発進時における「発進クラッチ」は、第2クラッチCL2としてスリップ締結される第2ブレーキB2(=ローブレーキLOW/B)である。また、Rレンジを選択しての後方発進時における「発進クラッチ」は、第2クラッチCL2としてスリップ締結される第4ブレーキB4(=リバースブレーキR/B)であり、実施例1において、クラッチ馴染み制御の対象としている。
【0033】
[クラッチ馴染み制御構成]
図5は、実施例1における統合コントローラ10に対する特定の操作にしたがって実行されるクラッチ馴染み制御処理の流れを示す(クラッチ馴染み制御手段)。以下、クラッチ馴染み制御処理構成をあらわす
図5の各ステップについて説明する。
【0034】
ステップS1では、整備モードに移行する整備モード移行条件が成立しているか否かを判断する。YES(整備モード移行条件成立)の場合はステップS2へ進み、NO(整備モード移行条件不成立)の場合はステップS17へ進む。
ここで、「整備モード移行条件」は、(1)REDYでない、(2)PKB ON、(3)コンサルトから整備要求有り、という3つの条件が全て成立しているとき、整備モード移行条件成立とし、1つの条件でも不成立であれば整備モード移行条件不成立とする。
なお、「REDYでない」は、パワートレインが駆動トルクを出せない状態にあることを確認する条件である。「PKB ON」は、パーキングブレーキ操作を確認する条件である。「コンサルトから整備要求有り」は、市場や工場においてクラッチ馴染み制御の実行を意図するとき、例えば、予め定めた特定の暗号操作を行うことで、車載の診断システム(=コンサルト)からクラッチ馴染み制御要求(整備要求の一つ)を出していることを確認する条件である。
【0035】
ステップS2では、ステップS1での整備モード移行条件成立との判断に続き、「REDYにしてRレンジにしてください」をコンサルト画面に表示し、ステップS3へ進む。
すなわち、自動変速機ATのセレクト操作については、制御指令により行うことができないシステムであるため、クラッチ馴染み制御要求を出した当事者に対し、REDYにしてRレンジへのセレクト操作を促す画面情報を与える。
【0036】
ステップS3では、ステップS2でのコンサルト画面表示、或いは、ステップS4でのエンジン始動未完了であるとの判断に続き、クラッチ馴染み操作の準備操作として、スタンバイ指示を出力し、ステップS4へ進む。
ここで、クラッチ馴染み操作のスタンバイ指示としては、下記の2つの指示を出力する。
(1)メータに有するEVランプの点滅指示
(2)エンジン始動指示
そして、(2)の指示にしたがって、モータ/ジェネレータMGをエンジン始動モータとし、締結されている第1クラッチCL1を介してエンジンEngをクランキング起動するエンジン始動制御を行う。
【0037】
ステップS4では、ステップS3でのクラッチ馴染み操作スタンバイに続き、エンジン始動が完了したか否かを判断する。YES(エンジン始動完了)の場合はステップS5へ進み、NO(エンジン始動未完了)の場合はステップS3へ戻る。
ここで、エンジン始動完了は、モータ/ジェネレータMGからのクランキングトルクの付与が不要となり、エンジンEngが自立運転状態に入ったことで判断する。
【0038】
ステップS5では、ステップS4でのエンジン始動完了との判断に続き、駆動モードをMWSCモードへ強制遷移し、ステップS6へ進む。
ここで、「MWSCモード」とは、エンジンEngを運転状態のままとしながら、締結されていた第1クラッチCL1を開放するまでの準備モードをいう。この第1クラッチCL1を開放したときには、未だ第2クラッチCL2も開放状態であるため、モータ/ジェネレータMGに負荷が作用せず、モータ/ジェネレータMGは、第1クラッチCL1を開放した時点でのエンジン回転数による回転数をしばらく維持する。
【0039】
ステップS6では、ステップS5でのMWSCモードへの強制遷移、或いは、ステップS7での所定時間未経過であるとの判断に続き、馴染み操作開始許可条件が成立しているか否かを判断する。YES(馴染み操作開始許可条件成立)の場合はステップS8へ進み、NO(馴染み操作開始許可条件不成立)の場合はステップS7へ進む。
ここで、「馴染み操作開始許可条件」は、(1)ブレーキON、(2)PKB ON、(3)アクセルOFF、(4)停車、(5)SOC≧閾値、(6)ATF≧閾値、(7)Rレンジという条件で与える。そして、7つの条件が全て成立しているとき、馴染み操作開始許可条件成立とし、1つの条件でも不成立であれば馴染み操作開始許可条件不成立とする。
なお、「ブレーキON」は、サービスブレーキへの踏み込み操作を確認する条件である。「アクセルOFF」は、アクセル足離し操作を確認する条件である。「停車」は、車速=0であることを確認する条件である。「SOC≧閾値」は、バッテリ充電容量(SOC)がモータ駆動を確保する閾値以上であることを確認する条件である。「ATF≧閾値」は、変速機作動油(ATF)の油温がCL2油圧を確保する閾値以上であることを確認する条件である。「Rレンジ」は、コンサルト画面の表示にしたがってPレンジからRレンジにセレクト操作されたことを確認する条件である。
【0040】
ステップS7では、ステップS6での馴染み操作開始許可条件不成立であるとの判断に続き、ステップS6の条件判断が開始されてから所定時間が経過したか否かを判断する。YES(所定時間経過)の場合はステップS10へ進み、NO(所定時間未経過)の場合はステップS6へ戻る。
ここで、「所定時間」は、馴染み操作開始許可条件を成立させるために必要なサービスブレーキ操作やセレクト操作などを行うのに十分な操作待ち時間として設定される。
【0041】
ステップS8では、ステップS6での馴染み操作開始許可条件成立であるとの判断に続き、馴染み操作を開始する開始指示を出力し、ステップS9へ進む。
ここで、馴染み操作を開始する開始指示としては、下記の3つの指示を出力する。
(1)クリープカットを禁止し、CL2トルクをクリープ力とする指示
(2)メータに有するHEVコーションランプの点滅開始指示
(3)モータ回転数を第1回転数まで上げる指示
なお、(1)は、クリープカット禁止に基づき、RレンジでのリバースブレーキR/BをCL2油圧の供給により締結し、締結トルクをクリープ力相当に保つ指示である。(3)は、モータ/ジェネレータMGを回転数制御とし、放熱より発熱が遥かに高い第1スリップ量に相当する第1回転数(例えば、2500rpm)までモータ回転数を上げる指示である。なお、停車状態でのリバースブレーキR/Bの出力側回転数はゼロであるため、モータ回転数はそのままリバースブレーキR/Bのスリップ量となる。
【0042】
ステップS9では、ステップS8での馴染み操作開始に続き、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度が、第3閾値以上であるか否かを判断する。YES(CL2プレート温度≧第3閾値)の場合はステップS10へ進み、NO(CL2プレート温度<第3閾値)の場合はステップS11へ進む。
ここで、「CL2プレート温度」は、CL2締結トルクとスリップ量と経過時間により積算される発熱量から放熱量を差し引いた熱量収支と雰囲気温度を用いた推定演算手法により、CL2プレート温度情報を取得しても良い。また、クラッチプレートなどに設けた温度センサからの検出値により、CL2プレート温度情報を取得しても良い。
また、「第3閾値」は、リバースブレーキR/Bのプレート材の馴染み進行が促進される第2閾値(例えば、220℃)と、リバースブレーキR/Bの摩擦フェーシング材の劣化が促進される上限温度(例えば、250℃)と、の間の温度(例えば、230℃)に設定される。つまり、第3閾値は、既にCL2プレート温度(=クラッチ温度)が高く、この高温状態でスリップ量を与えるクラッチ馴染み操作を開始すると、直ちに上限温度を超えてしまう判定閾値として与えられる。
【0043】
ステップS10では、ステップS7での所定時間経過したとの判断、或いは、ステップS9でのCL2プレート温度≧第3閾値であるとの判断に続き、「馴染み操作失敗」であるとの表示をし、クラッチ馴染み制御をスタートさせる前の元の状態に復帰させ、エンドへ進む。
すなわち、ステップS7からステップS10へ進む場合は、エンジン停止許可、MWSCモードの強制遷移解除、メータのランプ消灯により元の状態に復帰させる。ステップS9からステップS10へ進む場合は、エンジン停止許可、クリープカット許可、MWSCモードの強制遷移解除、メータのランプ消灯により元の状態に復帰させる。
【0044】
ステップS11では、ステップS9でのCL2プレート温度<第3閾値であるとの判断、或いは、ステップS12でのCL2プレート温度<第1閾値であるとの判断に続き、馴染み操作継続許可条件が成立しているか否かを判断する。YES(馴染み操作継続許可条件成立)の場合はステップS12へ進み、NO(馴染み操作継続許可条件不成立)の場合はステップS17へ進む。
ここで、「馴染み操作継続許可条件」は、上記馴染み操作開始許可条件とした(1)〜(7)の条件と同じ条件で与え、7つの条件が全て成立しているとき、馴染み操作継続許可条件成立とし、1つの条件でも不成立であれば馴染み操作継続許可条件不成立とする。
【0045】
ステップS12では、ステップS11での馴染み操作継続許可条件成立であるとの判断に続き、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度が、第1閾値以上であるか否かを判断する。YES(CL2プレート温度≧第1閾値)の場合はステップS13へ進み、NO(CL2プレート温度<第1閾値)の場合はステップS11へ戻る。
ここで、「第1閾値」は、リバースブレーキR/Bのプレート材の馴染み進行が促進される第2閾値(例えば、220℃)よりも低い温度(例えば、200℃)に設定される。つまり、第1閾値は、CL2プレート温度上昇のオーバーシュート分を考慮し、スリップ量の低下変更により第2閾値への収束性が得られる温度閾値として設定される。
【0046】
ステップS13では、ステップS12でのCL2プレート温度≧第1閾値であるとの判断に続き、モータ/ジェネレータMGによるモータ回転数を、第1回転数(例えば、2500rpm)から第2回転数(例えば、400rpm)まで下げ、ステップS14へ進む。
ここで、「第2回転数」は、放熱と発熱がほぼ釣り合うことでCL2プレート温度の上昇を抑える第2スリップ量に相当する回転数として設定される。
【0047】
ステップS14では、ステップS13でのモータ回転数の下げ、或いは、ステップS15でのCL2プレート温度≧第2閾値になってからの経過時間がタイマ時間に満たないとの判断に続き、馴染み操作継続許可条件が成立しているか否かを判断する。YES(馴染み操作継続許可条件成立)の場合はステップS15へ進み、NO(馴染み操作継続許可条件不成立)の場合はステップS17へ進む。
ここで、「馴染み操作継続許可条件」は、ステップS6での「馴染み操作開始許可条件」に、(8)CL2プレート温度≦上限温度の条件を加えて与える。そして、8つの条件が全て成立しているとき、馴染み操作継続許可条件成立とし、1つの条件でも不成立であれば馴染み操作継続許可条件不成立とする。すなわち、馴染み操作継続中において、リバースブレーキR/Bの摩擦フェーシング材の劣化が促進される上限温度(例えば、250℃)を超えないように管理する。
【0048】
ステップS15では、ステップS14での馴染み操作継続許可条件成立であるとの判断に続き、CL2プレート温度≧第2閾値(例えば、220℃)になってからの所要時間がタイマ時間(例えば、5sec)以上経過したか否かを判断する。YES(CL2プレート温度≧第2閾値になってからタイマ時間以上経過)の場合はステップS16へ進み、NO(CL2プレート温度≧第2閾値になってからの経過時間がタイマ時間に満たない)の場合はステップS14へ戻る。
ここで、「タイマ時間」は、CL2プレート温度を220℃以上に保ったとき、リバースブレーキR/Bの摩擦係数特性を安定化させるのに要する時間として、実験等により取得された時間に設定される。
【0049】
ステップS16では、ステップS15でのCL2プレート温度≧第2閾値になってからタイマ時間以上経過であるとの判断に続き、馴染み操作を正常に終了し、スタート前の元の状態に復帰させ、エンドへ進む。
すなわち、エンジン停止許可と、クリープカット許可と、MWSCモードの強制遷移解除と、メータのランプ消灯により元の状態に復帰させる。
【0050】
ステップS17では、ステップS1での整備モード移行条件不成立との判断、或いは、ステップS11又はステップS14での馴染み操作継続許可条件不成立であるとの判断に続き、「馴染み操作失敗」であるとの表示をし、クラッチ馴染み制御をスタートさせる前の元の状態に復帰させ、エンドへ進む。
すなわち、ステップS1からステップS17へ進む場合は、そのまま元の状態に復帰させる。ステップS11又はステップS14からステップS17へ進む場合は、エンジン停止許可、クリープカット許可、MWSCモードの強制遷移解除、メータのランプ消灯により元の状態に復帰させる。
【0051】
次に、作用を説明する。
実施例1の車両用発進クラッチの馴染み制御装置における作用を、「クラッチ馴染み制御処理作用」、「クラッチ馴染み制御作用」、「クラッチ馴染み制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0052】
[クラッチ馴染み制御処理作用]
以下、
図5に示すフローチャートに基づき、クラッチ馴染み制御処理作用を説明する。
まず、整備モード移行条件が成立すると、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。ステップS1の整備モード移行条件が成立していると、ステップS2では、「REDYにしてRレンジにしてください」がコンサルト画面に表示される。次のステップS3では、クラッチ馴染み操作を開始する準備として、スタンバイ指示(メータに有するEVランプの点滅指示、エンジン始動指示)が出力される。ステップS4では、モータ/ジェネレータMGをエンジン始動モータとするエンジン始動が完了したか否かが判断される。そして、エンジン始動が完了するまでは、ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返される。エンジン始動が完了すると、ステップS4からステップS5へ進み、ステップS5では、駆動モードがMWSCモードへ強制遷移され、エンジンEngを運転状態のままとしながら、締結されていた第1クラッチCL1が開放される。よって、ステップS5まで進むと、モータ/ジェネレータMGの回転数制御によってリバースブレーキR/Bのスリップ量制御を行うクラッチ馴染み制御を開始する開始体制が整えられる。
【0053】
クラッチ馴染み制御を開始する体制が整えられると、ステップS5からステップS6へ進み、ステップS6では、7つの条件で与えられる馴染み操作開始許可条件が成立しているか否かが判断される。なお、この馴染み操作開始許可条件の成立判断は、ステップS7での所定時間が経過するまで行われる。そして、所定時間内にステップS6で馴染み操作開始許可条件の成立が判断されると、ステップS8へ進み、ステップS8では、馴染み操作を開始する開始指示が出力される。この馴染み操作を開始する開始指示により、RレンジでのリバースブレーキR/BがCL2油圧の供給により締結され、締結トルクがクリープ力相当に保たれる。一方、モータ/ジェネレータMGは回転数制御とされ、放熱より発熱が高い第1スリップ量に相当する第1回転数(例えば、2500rpm)までモータ回転数が上げられる。
【0054】
リバースブレーキR/Bの締結トルクをクリープ力相当に保ちながら、モータ回転数を第1回転数(例えば、2500rpm)まで上げ、第1スリップ量による馴染み操作が開始されると、ステップS8からステップS9へ進む。ステップS9では、CL2プレート温度が第3閾値以上か否かが判断され、プレート温度<第3閾値であれば、ステップS11→ステップS12へと進む。そして、ステップS11での馴染み操作継続許可条件が成立し、ステップS12でCL2プレート温度<第1閾値(例えば、200℃)と判断されている限り、ステップS11→ステップS12へと進む流れが繰り返される。つまり、馴染み操作開始からCL2プレート温度≧第1閾値になるまでは、リバースブレーキR/Bの締結トルクをクリープ力相当に保ちながら、モータ回転数を第1回転数(例えば、2500rpm)のままで維持する第1スリップ量制御が実行される。
【0055】
第1スリップ量制御によりCL2プレート温度が上昇し、ステップS12でCL2プレート温度≧第1閾値(例えば、200℃)と判断されると、ステップS12からステップS13へ進む。ステップS13では、モータ/ジェネレータMGによるモータ回転数が、第1回転数(例えば、2500rpm)から第2回転数(例えば、400rpm)まで応答良く下げられる。そして、ステップS13からステップS14→ステップS15へと進み、ステップS14での馴染み操作継続許可条件が成立し、ステップS15でCL2プレート温度≧第2閾値(例えば、220℃)になってからの経過時間がタイマ時間に満たないと判断されている限り、ステップS14→ステップS15へと進む流れが繰り返される。つまり、CL2プレート温度≧第1閾値になってからタイマ時間を経過するまでは、リバースブレーキR/Bの締結トルクをクリープ力相当に保ちながら、モータ回転数を第2回転数(例えば、400rpm)のままで維持する第2スリップ量制御が実行される。
【0056】
CL2プレート温度≧第2閾値(例えば、220℃)になってからの所要時間が、設定されたタイマ時間を経過すると、ステップS15からステップS16→エンドへと進む。ステップS16では、クラッチ馴染み操作を正常に終了させ、エンジン停止許可と、クリープカット許可と、MWSCモードの強制遷移解除と、メータのランプ消灯により、クラッチ馴染み制御をスタートさせる前の元の状態に復帰させる。以上により、正常なクラッチ馴染み操作が終了する。
【0057】
一方、ステップS1において整備モード移行条件不成立と判断されると、ステップS1→ステップS17へ進み、「馴染み操作失敗」であると表示される。また、ステップS7において馴染み操作開始許可条件が不成立のまま所定時間が経過したと判断されると、ステップS7→ステップS10へ進み、「馴染み操作失敗」であると表示され、クラッチ馴染み制御をスタートさせる前の元の状態に復帰される。さらに、ステップS11又はステップS14において馴染み操作継続許可条件が不成立であると判断されると、ステップS11→ステップS17又はステップS14→ステップS17へ進み、「馴染み操作失敗」であると表示され、クラッチ馴染み制御をスタートさせる前の元の状態に復帰される。すなわち、少なくとも車両停止を確認する条件(PKB ON、アクセルOFF、ブレーキON、車両停車状態)が成立しなければ、馴染み操作を進行させないようにしているため、クラッチ馴染み制御を工場や市場などで実行する場合の安全性が確保される。
【0058】
[クラッチ馴染み制御作用]
例えば、Rレンジでスリップ締結される発進クラッチが馴染み不足であると、後方発進するとき、乗員に違和感を与えるクラッチジャダーが発生することがある。そこで、市場でのユーザ要求や工場出荷前の品質向上要求に応えるためになされたのが本願で提案する『クラッチ馴染み制御』である。以下、
図6に示すタイムチャートに基づき、クラッチ馴染み制御作用を説明する。
【0059】
図6において、時刻t1は整備モード移行条件成立時刻である。時刻t2はエンジン始動完了時刻である。時刻t3はRレンジへのセレクト操作時刻である。時刻t4はMWSCモードへの強制遷移時刻である。時刻t5は馴染み操作開始許可条件成立時刻である。時刻t6はCL2プレート温度の第1閾値到達時刻である。時刻t7は第2回転数到達時刻である。時刻t8は時刻でCL2プレート温度の第2閾値到達ある。時刻t9はタイマ時間経過時刻である。時刻t10はCL1再締結時刻である。時刻t11はエンジン停止制御開始時刻である。時刻t12はエンジン停止時刻である。
【0060】
整備モード移行条件が成立する時刻t1になると、モータ/ジェネレータMGを始動モータとし、締結状態の第1クラッチCL1を介してエンジンEngをクランキングするエンジン始動制御が開始され、EVランプの点滅が開始される。そして、時刻t2になると、エンジン始動が完了する。そして、時刻t3にてPレンジからRレンジへのセレクト操作が行われると、時刻t4にてエンジン運転状態のままで第1クラッチCL1を開放するMWSCモードへの強制遷移が開始される。なお、第1クラッチCL1を開放するまでモータ/ジェネレータMGはエンジンEngと連れ回り状態であり、第1クラッチCL1を開放してもモータ/ジェネレータMGは慣性により回転を維持する。
【0061】
そして、時刻t5にて馴染み操作開始許可条件が成立すると、リバースブレーキR/BのCL2トルクをクリープ力相当まで高める制御と、モータ/ジェネレータMGのモータ回転数を第1回転数(例えば、2500rpm)へ上昇させる制御と、が開始される。そして、HEVコーションランプの点滅も開始される。つまり、第1スリップ量制御が開始され、CL2プレート温度が時刻t5から時刻t6に向かって急な上昇勾配により高まってゆく。その後、時刻t6のタイミングでCL2プレート温度が第1閾値(例えば、200℃)に到達すると、第1スリップ量制御が終了する。つまり、モータ回転数やCL2トルクの過渡特性を含めると、時刻t5〜時刻t6が第1スリップ量制御区間である。
【0062】
第1スリップ量制御が終了する時刻t6になると、モータ/ジェネレータMGのモータ回転数を第2回転数(例えば、400rpm)へ低下させる第2スリップ量制御が開始され、CL2プレート温度が時刻t6から時刻t8に向かって緩やかな上昇勾配により徐々に高まってゆく。その後、時刻t7にて第2回転数へ到達し、時刻t8にてCL2プレート温度が第2閾値(例えば、220℃)に到達すると、タイマ時間(例えば、5sec)のカウントが開始され、時刻t9にてタイマ時間が経過すると、第2スリップ量制御が終了する。時刻t7から時刻t9までのCL2プレート温度は、時刻t8を少し経過する時刻までは緩やかな上昇勾配により徐々に高まり、その後は時刻t9へ向かってCL2プレート温度がほぼ一定に保たれる。つまり、モータ回転数の過渡特性を含めると、時刻t6〜時刻t9が第2スリップ量制御区間である。
【0063】
第2スリップ量制御が終了する時刻t9になると、CL2トルクを低下させてリバースブレーキR/Bを開放すると共に、CL1トルクの上昇が開始され、同時にEVランプとHEVコーションランプの点滅が消灯される。そして、時刻t10にて第1クラッチCL1が再締結され、時刻t11にてエンジン停止制御が開始され、時刻t12にてエンジンEngが停止することでクラッチ馴染み制御が終了する。
【0064】
このように、実施例1では、発進前、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度が第2閾値(例えば、220℃)以上である状態をタイマ時間(例えば、5sec)経験させるクラッチ馴染み制御を少なくとも一回実行する構成とした。
すなわち、発進前、車両に搭載した状態でリバースブレーキR/Bを馴染ませるクラッチ馴染み制御が行われる。このクラッチ馴染み制御では、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を第2閾値以上にすることで、リバースブレーキR/Bのプレート材の馴染み進行が促進される。そして、CL2プレート温度が第2閾値以上である状態をタイマ時間経験することで、リバースブレーキR/Bの摩擦係数特性が安定化される。この摩擦係数特性の安定化により、負勾配であったμ−V特性の正勾配化や不均一であった周方向摩擦係数分布の均一化などが図られ、初期ジャダーの発生原因が取り除かれる。
この結果、発進時、既にクラッチ馴染み制御が実行されたリバースブレーキR/Bがスリップ締結されることで、発進時における初期ジャダーの発生が未然に防止される。
【0065】
なお、CL2プレート温度を第2閾値以上にすると、リバースブレーキR/Bのプレート材の馴染み進行が促進され、この高温状態をタイマ時間経験することで、リバースブレーキR/Bの摩擦係数特性が安定化される詳しい理由は明らかではない。しかし、多板ブレーキ構造によるリバースブレーキR/Bのドライブプレートは、金属プレート材に摩擦フェーシング材(繊維基材に熱硬化性樹脂などを含浸させたペーパー摩擦材)が貼り付けられた構成であり、相手プレート材を金属板によるドリブンプレートとする。したがって、温度条件や時間条件により、摩擦フェーシング材に含浸された樹脂が、多数回のスリップ締結を経験することでクラッチ馴染み状態になったときと同様の性状変化を示すことが主な理由であると推定される。なお、CL2プレート温度を上限温度以上にすると劣化が進行する理由も、摩擦フェーシング材に含浸された樹脂が、劣化方向に性状変化を示すことが主な理由であると推定される。
【0066】
[クラッチ馴染み制御の特徴作用]
実施例1では、クラッチ馴染み制御において、車両停止状態のとき、リバースブレーキR/Bに締結トルクと差回転を与えて摩擦熱が発生するスリップ締結状態にする。そして、リバースブレーキR/Bの温度をプレート材の馴染み進行が促進される第2閾値以上まで上昇させ、CL2プレート温度が第2閾値以上である状態を、リバースブレーキR/Bの摩擦係数特性を安定化させるのに要するタイマ時間経験させる構成とした。
すなわち、車載システムの駆動源や油圧源などを活用し、スリップ締結状態にすることで発生する摩擦熱によりCL2プレート温度が第2閾値以上である状態をタイマ時間経験させるクラッチ馴染み制御とした。
したがって、発進クラッチの温度を高める熱源の追加を要することなく、車載状態のままでリバースブレーキR/Bの温度を上げるクラッチ馴染み制御を実施できる。
【0067】
実施例1では、クラッチ馴染み制御において、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を検出し、検出されたCL2プレート温度が低いときスリップ量を大きくし、検出されたCL2プレート温度が高いときスリップ量を小さくする構成とした。
すなわち、リバースブレーキR/Bのスリップ量を大きくすると発熱量が多くなり、CL2プレート温度の上昇勾配が高くなるというように、スリップ量によりCL2プレート温度の上昇勾配をコントロールできる。このため、CL2プレート温度が低いときスリップ量を大きくすることで、短時間にてCL2プレート温度を高めることができ、かつ、CL2プレート温度が高くなると、スリップ量を小さくすることで、CL2プレート温度の上昇を抑えることができる。
したがって、クラッチ馴染み制御を温度コントロール性の高いスリップ量制御とすることで、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度が第2閾値以上である状態をタイマ時間経験させるクラッチ馴染み制御に要する時間を短縮できる。
【0068】
実施例1では、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を高温にしてクラッチ馴染み制御を行う際、リバースブレーキR/Bの摩擦フェーシング材の劣化が促進される上限温度を超えないようにクラッチ温度を管理する構成とした。
すなわち、実施例1のクラッチ馴染み制御処理のステップS14では、馴染み操作継続許可条件に、CL2プレート温度≦上限温度(例えば、250℃)という条件を加えている。このため、CL2プレート温度が上限温度を超えると直ちにクラッチ馴染み制御を終了させ、上限温度を超えないようにCL2プレート温度が管理される。
したがって、高温域までクラッチ温度を高めるクラッチ馴染み制御としながらも、リバースブレーキR/Bの寿命を短くすることがない。
【0069】
実施例1では、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を、第2閾値以上で上限温度を超えない温度領域内の温度に保ったままでタイマ時間継続する制御を行う構成とした。
すなわち、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を高温状態に保ってクラッチ馴染み制御を行う場合、クラッチ馴染みを促進しつつもクラッチ寿命を短くしたくないという要求がある。
これに対し、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を、温度領域内の温度に保ったままでタイマ時間継続させる温度管理を行うことで、クラッチ馴染み促進と、クラッチ寿命の確保と、の両立が図られる。
【0070】
実施例1では、1モータ・2クラッチのFRハイブリッド車両において、初期ジャダーの抑制要求がある停車状態のとき、モータ/ジェネレータMGをエンジン始動モータとし、第1クラッチCL1を締結してエンジンEngを起動しておく。そして、エンジンEngの始動完了後、第1クラッチCL1を開放すると共に第2クラッチCL2をスリップ締結し、モータ回転数制御によって第2クラッチCL2のスリップ量制御を行うMWSCモードを選択して発進クラッチ馴染み制御を開始する構成とした。
すなわち、モータ最大出力特性は、
図7に示すように、低モータ回転数域ではモータトルクが高く、モータ回転数が高くなるほどモータトルクが低くなる。よって、例えば、発進クラッチ馴染み制御の開始後、モータ/ジェネレータMGによりエンジンEngを始動する場合、モータトルクから始動に使われる分のマージントルクを確保しておく必要があり、上限トルクが制限される(始動による制限出力特性)。この場合、クリープトルクを負荷として回転数制御を行う場合、モータトルクが始動分のマージントルクにより制限され、
図7に示すように、Eng始動無しの回転数制御範囲となる。
これに対し、制御開始前にエンジンEngを起動しておくMWSCモードを選択して発進クラッチ馴染み制御を開始することで、モータトルクが始動分のマージントルクにより制限されることがない。よって、
図7に示すように、Eng始動無しの回転数制御範囲に比べ、Eng始動有りの回転数制御範囲が拡大される。
したがって、モータ回転数制御によるスリップ量として、馴染み制御の時間短縮に繋がる大きなスリップ量が確保される。
【0071】
実施例1では、クラッチ馴染み制御において、クラッチ馴染み制御を開始すると放熱より発熱が高い第1スリップ量まで高くし、第2クラッチCL2の温度が第1閾値に達するまで第1スリップ量を保つ。第2クラッチCL2の温度が第1閾値に達すると、放熱と発熱が釣り合う第2スリップ量までスリップ量を低下し、第2クラッチCL2の温度が第2閾値以上になってからタイマ時間が経過するまで第2スリップ量を保ってクラッチ馴染み制御を終了する構成とした。
すなわち、駆動モードをMWSCモードとし、CL2プレート温度の上昇を促進する第1スリップ量制御と、CL2プレート温度を高い温度状態に保つ第2スリップ量制御と、によるクラッチ馴染み制御とされる。
このように、CL2スリップ量の2段化によるクラッチ馴染み制御とすることで、クラッチ馴染み制御に要する時間を短縮しながら、バラツキが最大域であっても第2クラッチCL2を馴染ませることができる。加えて、クラッチ馴染み制御に要する時間短縮により、例えば、工数要求が厳しい工場でのクラッチ馴染み制御の適用に応えることができる。
【0072】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用発進クラッチの馴染み制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0073】
(1) 駆動源(エンジンEng、モータ/ジェネレータMG)と駆動輪(左右後輪RL,RR)との間に介装され、発進時にスリップ締結される発進クラッチ(第2クラッチCL2、リバースブレーキR/B)と、
発進前、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)の温度が所定温度(第2閾値)以上である状態を所定時間(タイマ時間)経験させるクラッチ馴染み制御を少なくとも一回実行するクラッチ馴染み制御手段(
図5)と、を備える。
このため、発進時における初期ジャダーの発生を未然に防止することができる。
【0074】
(2) クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、車両停止状態のとき、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)に締結トルクと差回転を与えて摩擦熱が発生するスリップ締結状態にし、発進クラッチの温度をプレート材の馴染み進行が促進される所定温度(第2閾値)以上まで上昇させ、クラッチ温度(CL2プレート温度)が所定温度以上である状態を、発進クラッチの摩擦係数特性を安定化させるのに要する所定時間(タイマ時間)経験させる。
このため、(1)の効果に加え、発進クラッチの温度を高める熱源の追加を要することなく、車載状態のままで発進クラッチ(リバースブレーキR/B)の温度を上げるクラッチ馴染み制御を実施することができる。
【0075】
(3) クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)の温度を検出し、検出されたクラッチ温度が低いときスリップ量を大きくし、検出されたクラッチ温度が高いときスリップ量を小さくする。
このため、(1)又は(2)の効果に加え、クラッチ温度(CL2プレート温度)が所定温度(第2閾値)以上である状態を所定時間(タイマ時間)経験させるクラッチ馴染み制御に要する時間を短縮することができる。
【0076】
(4) クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)のクラッチ温度(CL2プレート温度)を高温にしてクラッチ馴染み制御を行う際、発進クラッチの摩擦フェーシング材の劣化が促進される上限温度を超えないようにクラッチ温度を管理する。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、高温域までクラッチ温度を高めるクラッチ馴染み制御としながらも、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)の寿命短縮を防止することができる。
【0077】
(5) クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、発進クラッチ(リバースブレーキR/B)の温度を、所定温度(第2閾値)以上で上限温度を超えない温度領域内の温度に保ったままで所定時間(タイマ時間)継続する制御を行う。
このため、(4)の効果に加え、リバースブレーキR/BのCL2プレート温度を高温域で維持する温度管理を行うことで、クラッチ馴染み促進と、クラッチ寿命の確保と、の両立を図ることができる。
【0078】
(6) 車両は、駆動源としてエンジンEngとモータ(モータ/ジェネレータMG)を有し、エンジンEngとモータの間に第1クラッチCL1を介装し、モータと駆動輪(左右後輪RL,RR)の間に、発進クラッチとしての第2クラッチCL2を備えたハイブリッド車両(FRハイブリッド車両)であり、
クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、初期ジャダーの抑制要求がある停車状態のとき、モータをエンジン始動モータとし、第1クラッチCL1を締結してエンジンEngを起動しておき、エンジンEngの始動完了後、第1クラッチCL1を開放すると共に第2クラッチCL2をスリップ締結し、モータの回転数制御によって前記第2クラッチのスリップ量制御を行う駆動モード(MWSCモード)を選択して発進クラッチ馴染み制御を開始する。
このため、(5)の効果に加え、モータ回転数制御によるスリップ量として、馴染み制御の時間短縮に繋がる大きなスリップ量を確保することができる。
【0079】
(7) クラッチ馴染み制御手段(
図5)は、所定温度よりも低い温度を第1閾値とし、所定温度を第2閾値としたとき、発進クラッチ馴染み制御を開始すると放熱より発熱が高い第1スリップ量まで高くし、第2クラッチCL2の温度が第1閾値に達するまで第1スリップ量を保ち、第2クラッチCL2の温度が第1閾値に達すると、放熱と発熱が釣り合う第2スリップ量までスリップ量を低下し、第2クラッチCL2の温度が第2閾値以上になってから所定時間(タイマ時間)が経過するまで第2スリップ量を保ち、所定時間を経過すると発進クラッチ馴染み制御を終了する。
このため、(6)の効果に加え、CL2スリップ量の2段化によるクラッチ馴染み制御とすることで、クラッチ馴染み制御に要する時間を短縮しながら、バラツキが最大域であっても第2クラッチCL2を馴染ませることができる。
【0080】
以上、本発明の車両用発進クラッチの馴染み制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0081】
実施例1では、発進クラッチとして、Rレンジを選択しての後方発進時におけるスリップ締結されるリバースブレーキR/B(第2クラッチCL2)とし、リバースブレーキR/Bをクラッチ馴染み制御の対象とする例を示した。しかし、発進クラッチとしては、Dレンジを選択しての前方発進時におけるスリップ締結されるローブレーキLOW/B(第2クラッチCL2)とし、ローブレーキLOW/Bをクラッチ馴染み制御の対象とする例であっても良い。また、リバースブレーキR/BとローブレーキLOW/Bをクラッチ馴染み制御の対象とする例としても良い。つまり、駆動源と駆動輪との間に介装され、発進時にスリップ締結される摩擦締結要素による発進クラッチであれば、クラッチ馴染み制御の対象になる。
【0082】
実施例1では、クラッチ温度が所定温度以上である状態を所定時間経験させるクラッチ馴染み制御として、車両停止状態のとき、リバースブレーキR/Bに締結トルクと差回転を与えて摩擦熱が発生するスリップ締結状態にする例を示した。しかし、クラッチ馴染み制御としては、車両停止状態のとき、外部発熱源からの熱により発進クラッチの温度が所定温度以上である状態を所定時間経験させる例であっても良い。このとき、発進クラッチの状態は、相対回転を与えた接触状態としても良いし、単に圧接状態としても良いし、開放状態としても良い。
【0083】
実施例1では、クラッチ馴染み制御手段として、クラッチ温度が低い制御開始時に第1スリップ量とし、クラッチ温度が第1閾値以上のとき第2スリップ量(<第1スリップ量)とするCL2スリップ量の2段化による例を示した。しかし、クラッチ馴染み制御手段としては、クラッチ温度(CL2プレート温度)の温度域に応じて、スリップ量を3段以上に分けるような例としても良いし、さらに、クラッチ温度が高いほどスリップ量を徐々に小さくするというように、無段階にスリップ量を与える例であっても良い。
【0084】
実施例1では、本発明の馴染み制御装置を、第2クラッチを発進クラッチとする1モータ・2クラッチの駆動系を持つFRハイブリッド車両に適用する例を示した。しかし、本発明の車両用発進クラッチの馴染み制御装置は、他の種類の駆動系を持つハイブリッド車両、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を搭載したエンジン車、発進クラッチを備えた電気自動車や燃料電池車などの様々な車両に対しても適用することができる。要するに、駆動源と駆動輪との間に介装され、発進時にスリップ締結される発進クラッチを備えた車両であれば適用できる。