特許第6222401号(P6222401)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222401高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法、および高強度溶融亜鉛めっき鋼板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222401
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法、および高強度溶融亜鉛めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171023BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20171023BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20171023BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20171023BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20171023BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/00 301W
   C22C38/00 302A
   C22C38/14
   C22C38/60
   C21D9/46 J
   C21D9/46 U
   C21D9/46 P
   C21D9/46 Z
   C21D9/46 W
   C23C2/06
   C23C2/02
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-514719(P2017-514719)
(86)(22)【出願日】2016年11月8日
(86)【国際出願番号】JP2016004829
(87)【国際公開番号】WO2017090236
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2017年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-230246(P2015-230246)
(32)【優先日】2015年11月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】青山 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】田中 稔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 善継
(72)【発明者】
【氏名】川崎 由康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀行
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−076162(JP,A)
【文献】 特開2008−266778(JP,A)
【文献】 特開2003−277902(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/022778(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度が1.50質量%以下であり、
更に、残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0以上である、高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項2】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であって、鋼スラブに対して、
熱間圧延し、酸洗後、
濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する第1熱処理を行い、
次いで、冷却後、酸洗減量がFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下となる条件で酸洗し、
次いで、H濃度が0.05vol%以上25.0vol%以下、露点が−10℃以下の雰囲気中で、600℃以上830℃以下の温度域で20s以上900s以下保持する第2熱処理を行い、
次いで、冷却後、溶融亜鉛めっき処理を施す、
高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記第1熱処理を行い、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施す、請求項3に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記溶融亜鉛めっき処理後の鋼板に、さらに合金化処理を行う、請求項3または4に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、請求項3〜5のいずれか一項に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用の熱延鋼板の製造方法であって、鋼スラブに対して、
熱間圧延し、酸洗後、
濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行う、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、請求項7に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用の冷延鋼板の製造方法であって、鋼スラブに対して、
熱間圧延し、酸洗後、
濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行い、
次いで、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施す、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、請求項9に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部材用途への適用に好適な、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法、および高強度溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護意識の高まりから、自動車のCO排出量削減に向けた燃費改善が強く求められている。これに伴い、車体部品用材料である鋼板を高強度化して、車体部品の薄肉化を図り、車体を軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、鋼板の高強度化は成形性の低下を招くことから、高強度と高成形性を併せ持つ材料の開発が望まれている。
【0003】
鋼板を高強度化し、成形性を向上させるためには、鋼板に多量のMnを添加することが効果的である。
【0004】
また、鋼板に防錆性を付与し材料寿命を延ばすためには、鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板が有用である。
【0005】
しかし、Mnを多量に添加した高強度鋼板を母材として溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、めっき表面外観が劣化するという問題がある。
【0006】
通常、溶融亜鉛めっき鋼板は、還元雰囲気中で熱処理を行なった後、溶融亜鉛めっき処理を施す。ここで、鋼中に添加されたMnは易酸化性元素であるため、一般的に用いられる還元雰囲気中でも選択酸化されて、表面に濃化し、鋼板表面で酸化物を形成する。この酸化物はめっき処理時の、鋼板表面と溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Mn濃度の増加と共に濡れ性が急激に低下し不めっきが多発する。また、不めっきを生じない場合でも、鋼板とめっきの間に酸化物が存在するため、めっき密着性を劣化させる。
【0007】
このような問題に対して、特許文献1では予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後、還元焼鈍を行なうことにより、溶融亜鉛との濡れ性を改善する方法が開示されている。また、特許文献2では連続式溶融亜鉛めっき設備において、焼鈍雰囲気中の露点を低下させ、雰囲気の酸素ポテンシャルを低下させることにより、鋼板表面での酸化物形成を抑制する方法が開示されている。また、特許文献3では、母材を連続焼鈍設備において再結晶焼鈍した後に、酸洗により鋼板表面の酸化物を除去し、再度還元焼鈍してめっき処理を行う方法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの方法ではめっき外観改善のために、酸化工程の追加や酸素ポテンシャルを低下させるための設備が必要になる、または、めっき処理のための再焼鈍工程が必要になるなど、大幅な設備改造や熱処理工程の追加が必要であり、最終製品のコストアップにつながる。また、大幅なMn添加量の増加には対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−157625号公報
【特許文献2】特開2010-255110号公報
【特許文献3】特開平7-70723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑み、成形性、表面外観およびめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法、および高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、Mnを含有し、成形性、表面外観およびめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造するため鋭意検討を重ねた。その結果、以下のことを見出した。
【0012】
2.00質量%以上10.00質量%以下のMnを含有した鋼を、熱間圧延後、酸洗によりスケールを除去し、650℃以上850℃以下の温度域で600s(秒)以上21600s以下保持することで、Mnをオーステナイト中に濃化させる。その結果、残留オーステナイト中のMn濃度を高め、延性を向上させることができる。
【0013】
また、熱間圧延し酸洗によりスケールを除去した後に、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を雰囲気に暴露した状態で650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理(以下、第1熱処理と称する)を行うことで、Mnの酸化物を鋼板表面に形成し、鋼板表層にMn濃度が低い領域を形成することができる。そして、第1熱処理後に、必要に応じて、圧下率30%以上で冷間圧延を施し、その後、酸洗減量がFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下となる条件で酸洗を行うことで、鋼板表面のMn酸化物を除去する。その結果、鋼板中の固溶Mnの鋼板表面への拡散を抑制し、鋼板表面におけるMn酸化物の形成を抑制することができる。
【0014】
そして、上記酸洗後、H濃度が0.05vol%以上25.0vol%以下、露点が−10℃以下の雰囲気中で、600℃以上830℃以下の温度域で20s以上900s以下保持する熱処理(以下、第2熱処理と称する)を行い、次いで、冷却後に溶融亜鉛めっきを施すことにより、残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値を2.0以上に制御する。その結果、Mnで安定化させた残留オーステナイトが確保され、延性などの成形性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造が可能となる。
【0015】
本発明は上記知見に基づくものであり、特徴は以下の通りである。
[1]成分組成は、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度が1.50質量%以下であり、更に、残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0以上である、高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[2]さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、上記[1]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
[3]成分組成として、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブに対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する第1熱処理を行い、次いで、冷却後、酸洗減量がFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下となる条件で酸洗し、次いで、H濃度が0.05vol%以上25.0vol%以下、露点が−10℃以下の雰囲気中で、600℃以上830℃以下の温度域で20s以上900s以下保持する第2熱処理を行い、次いで、冷却後、溶融亜鉛めっき処理を施す、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記第1熱処理を行い、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施す、上記[3]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前記溶融亜鉛めっき処理後の鋼板に、さらに合金化処理を行う、上記[3]または[4]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[6]さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、上記[3]〜[5]のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[7]成分組成として、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブに対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行う、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。
[8]さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、上記[7]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。
[9]成分組成として、質量%で、C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行い、次いで、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施す、高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法。
【0016】
[10]さらに、成分組成として、質量%で、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する、上記[9]に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板の製造方法。
【0017】
なお、本発明において、高強度溶融亜鉛めっき鋼板とは、引張強度(TS)が590MPa以上の鋼板であり、溶融亜鉛めっき処理後合金化処理を施さないめっき鋼板(以下、GIと称することもある)、合金化処理を施すめっき鋼板(以下、GAと称することもある)のいずれも含むものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、590MPa以上の引張強度を有する成形性、表面外観およびめっき密着性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板が得られる。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することにより車体軽量化による燃費改善を図ることができ、産業上の利用価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、成分量を表す「%」は「質量%」を意味する。
【0020】
まず、成分組成について説明する。
C:0.030%以上0.250%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:2.00%以上10.00%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.0001%以上0.0200%以下、N:0.0005%以上0.0100%以下、Ti:0.005%以上0.200%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。また、上記成分に加えて、さらに、Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有してもよい。以下、各成分について説明する。
【0021】
C:0.030%以上0.250%以下
Cは、マルテンサイトなどの低温変態相を生成させて、強度を上昇させるために必要な元素である。また、残留オーステナイトの安定性を向上させ、鋼の延性を向上させるのに有効な元素である。C量が0.030%未満では所望のマルテンサイトの面積率を確保することが難しく、所望の強度が得られない。また、十分な残留オーステナイトの体積率を確保することが難しく、良好な延性が得られない。一方、Cを、0.250%を超えて過剰に含有すると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、曲げ性や伸びフランジ性が低下する。また、溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が低下するため、スポット溶接性、アーク溶接性などが劣化する。以上より、C量は、0.030%以上0.250%以下とする。好ましくは0.080%以上とする。好ましくは0.200%以下とする。
【0022】
Si:0.01%以上3.00%以下
Siは、フェライトの加工硬化能を向上させるため、良好な延性の確保に有効である。Si量が0.01%に満たないとその含有効果が乏しくなる。よって、下限は0.01%とする。一方、3.00%を超えるSiの過剰な含有は、鋼の脆化を引き起こすばかりか赤スケールなどの発生による表面性状の劣化を引き起こす。そのため、上限は3.00とする。以上より、Si量は、0.01%以上3.00%以下とする。好ましくは0.20%以上とする。好ましくは2.00%以下とする。
【0023】
Mn:2.00%以上10.00%以下
Mnは、本発明において極めて重要な元素である。Mnは、残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効である。さらに、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。このような作用は、Mn量が2.00%以上で認められる。一方、Mn量が10.00%を超える過剰な含有は、コストアップの要因になる。また、Mn量が10.00%を超えると本発明を持ってしても、めっき外観の劣化を抑制できない。以上より、Mn量は、2.00%以上10.00%以下とする。好ましくは3.00%以上とする。好ましくは9.00%以下とする。
【0024】
P:0.001%以上0.100%以下
Pは、固溶強化の作用を有し、所望の強度に応じて含有できる元素である。また、フェライト変態を促進するため、複合組織化にも有効な元素である。こうした効果を得るためには、P量を0.001%以上にする必要がある。一方、P量が0.100%を超えると、溶接性の劣化を招くとともに、亜鉛めっきを合金化処理する場合には、合金化速度を低下させ、亜鉛めっきの品質を損なう。以上より、P量は、0.001%以上0.100%以下とする。好ましくは0.005%以上とする。好ましくは0.050%以下とする。
【0025】
S:0.0001%以上0.0200%以下
Sは、粒界に偏析して熱間加工時に鋼を脆化させるとともに、硫化物として存在して局部変形能を低下させる。そのため、S量は0.0200%以下、好ましくは0.0100%以下、より好ましくは0.0050%以下とする必要がある。しかし、生産技術上の制約から、S量は0.0001%以上にする必要がある。したがって、S量は、0.0001%以上0.0200%以下とする。好ましくは0.0001%以上0.0100%以下、より好ましくは0.0001%以上0.0050%以下とする。
【0026】
N:0.0005%以上0.0100%以下
Nは、鋼の耐時効性を劣化させる元素である。特に、N量が0.0100%を超えると、耐時効性の劣化が顕著となる。N量は少ないほど好ましいが、過剰な脱窒は生産コストを増加させる。以上より、N量は、0.0005%以上0.0100%以下とする。好ましくは0.0010%以上とする。好ましくは0.0070%以下とする。
【0027】
Ti:0.005%以上0.200%以下
Tiは、鋼の析出強化に有効であり、加えて、比較的硬質なフェライトを形成することにより、硬質第2相(マルテンサイトもしくは残留オーステナイト)との硬度差を低減でき、良好な伸びフランジ性が確保可能である。その効果は0.005%以上で得られる。一方、0.200%を超えると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、成形性が低下する。以上より、Ti量は、0.005%以上0.200%以下とする。好ましくは0.010%以上とする。好ましくは0.100%以下とする。
【0028】
残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0029】
さらに、本発明では、下記の元素を下記の目的で含有することができる。
【0030】
Al:0.01%以上2.00%以下、Nb:0.005%以上0.200%以下、B:0.0003%以上0.0050%以下、Ni:0.005%以上1.000%以下、Cr:0.005%以上1.000%以下、V:0.005%以上0.500%以下、Mo:0.005%以上1.000%以下、Cu:0.005%以上1.000%以下、Sn:0.002%以上0.200%以下、Sb:0.005%以上0.100%以下、Ta:0.001%以上0.010%以下、Ca:0.0005%以上0.0050%以下、Mg:0.0005%以上0.0050%以下、REM:0.0005%以上0.0050%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有
Alは、フェライトとオーステナイトの二相域を拡大させ、焼鈍温度依存性の低減、すなわち、材質安定性に有効な元素である。また、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で含有することが好ましい。Al量が0.01%に満たないとその含有効果に乏しくなるので、下限は0.01%である。一方、2.00%を超えると、連続鋳造時の鋼片割れ発生の危険性が高まり、製造性を低下させる。以上より、Alを含有する場合、Al量は、0.01%以上2.00%以下とする。好ましくは0.20%以上とする。好ましくは1.20%以下とする。
【0031】
Nbは、鋼の析出強化に有効で、この効果は0.005%以上で得られる。また、Ti含有の効果と同様に、比較的硬質なフェライトを形成することにより、硬質第2相(マルテンサイトもしくは残留オーステナイト)との硬度差を低減でき、良好な伸びフランジ性が確保可能である。この効果は0.005%以上で得られる。一方、0.200%を超えると、硬質なマルテンサイトの面積率が過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、成形性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。以上より、Nbを含有する場合、Nb量は、0.005%以上0.200%以下とする。好ましくは0.010%以上とする。好ましくは0.100%以下とする。
【0032】
Bは、オーステナイト粒界からのフェライトの生成および成長を抑制する作用を有し、臨機応変な組織制御が可能なため、必要に応じて含有することができる。この効果は、0.0003%以上で得られる。一方、0.0050%を超えると成形性が低下する。以上より、Bを含有する場合、B量は、0.0003%以上0.0050%以下とする。好ましくは0.0005%以上とする。好ましくは0.0030%以下とする。
【0033】
Niは、残留オーステナイトを安定化させる元素で、良好な延性の確保に有効である。さらに、固溶強化により鋼の強度を上昇させる元素である。これらの効果は、0.005%以上で得られる。一方、1.000%を超えると、硬質なマルテンサイトが過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、曲げ性や伸びフランジ性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。以上より、Niを含有する場合、Ni量は、0.005%以上1.000%以下とする。
【0034】
Cr、V、Moは、強度と延性のバランスを向上させる作用を有するので必要に応じて含有することができる。その効果は、Cr:0.005%以上、V:0.005%以上、Mo:0.005%以上で得られる。一方、Crが1.000%、V:0.500%、Mo:1.000%を超えて過剰に含有すると、硬質なマルテンサイトが過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、成形性が低下する。また、コストアップの要因にもなる。以上より、Cr、V、Moを含有する場合、Cr量は0.005%以上1.000%以下、V量は0.005%以上0.500%以下、Mo量は0.005%以上1.000%以下とする。
【0035】
Cuは、鋼の強化に有効な元素であり、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。その効果は、0.005%以上で得られる。一方、1.000%を超えると、硬質なマルテンサイトが過大となり、マルテンサイトの結晶粒界でのマイクロボイドが増加し、さらに、亀裂の伝播が進行してしまい、成形性が低下する。以上より、Cuを含有する場合、Cu量は0.005%以上1.000%以下とする。
【0036】
SnおよびSbは、鋼板表面の窒化や酸化によって生じる鋼板表層の数十μm程度の領域の脱炭を抑制する観点から、必要に応じて含有することができる。このような窒化や酸化を抑制すれば、鋼板表面においてマルテンサイトの面積率が減少するのを防止し、強度や材質安定性の確保に有効である。一方で、過剰に添加すると靭性の低下を招く。以上より、Snを含有する場合、Sn量は、0.002%以上0.200%以下とする。また、Sbを含有する場合、Sb量は、0.005%以上0.100%以下とする。
【0037】
Taは、TiやNbと同様に、合金炭化物や合金炭窒化物を生成して高強度化に寄与する。加えて、Nb炭化物やNb炭窒化物に一部固溶し、(Nb,Ta)(C,N)のような複合析出物を生成することで析出物の粗大化を著しく抑制し、析出強化による強度への寄与を安定化させる効果があると考えられる。このため、Taを含有することが好ましい。これらの析出物安定化の効果は、Taの含有量を0.001%以上とすることで得られる。一方で、Taを過剰に添加しても析出物安定化効果が飽和する上、合金コストも増加する。以上より、Taを含有する場合、Ta量は、0.001%以上0.010%以下とする。
【0038】
Ca、MgおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、穴広げ性(伸びフランジ性)への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.0005%以上必要である。一方、それぞれが0.0050%を超えると、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。以上より、Ca、MgおよびREMを含有する場合は、その含有量はそれぞれ0.0005%以上0.0050%以下とする。
【0039】
次に、組織について説明する。
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度が1.50質量%以下であり、残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0以上である。
【0040】
鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度が1.50質量%以下
鋼板表面直下に固溶Mn濃度が低い領域が存在する場合、第2熱処理工程における鋼板表面でのMn酸化物形成が抑制される。その結果、表面外観およびめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。一方、鋼板表面直下のMn濃度が高い場合、すなわち、鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度が1.50質量%を超えると第2熱処理工程において鋼板表面にMn酸化物が形成し、不めっきなどの表面欠陥を生じる。このため、鋼板表面から深さ5μm以内における固溶Mn濃度は1.50質量%以下とする。
なお、鋼板表面から深さ5μm以内のMn濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、Mnの分布状態を定量化し、鋼板表面から5μm以内の結晶粒中の量分析結果の平均値により求めることができる。
また、後述するように第1熱処理および酸洗条件を制御することで、鋼板表面から深さ5μm以内の固溶Mn濃度を1.50質量%以下とすることができる。
【0041】
残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0以上
残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0以上であることは、本発明において良好な延性を確保するために極めて重要な要件である。残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値が2.0未満では残留オーステナイト相が不安定となり、延性の効果が望めない。
なお、これらの平均Mn質量%は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化し、30個の残留オーステナイト粒および30個のフェライト粒の量分析結果の平均値により求めることができる。
また、後述するように第1熱処理条件、酸洗条件および第2熱処理条件を適切に制御することで、残留オーステナイト中の平均Mn質量%をフェライト中の平均Mn質量%で除した値を2.0以上とすることができる。
【0042】
また、本発明の組織には、残留オーステナイトとフェライトおよびマルテンサイト以外に、パーライト、セメンタイト等の炭化物(パーライト中のセメンタイトを除く)が、面積率で10%以下の範囲で含まれてよく、本発明の効果が損なわれることはない。
【0043】
次に、本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について説明する。
【0044】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記成分組成からなる鋼スラブに対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する第1熱処理を行い、次いで、冷却後、酸洗減量がFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下となる条件で酸洗し、次いで、H濃度が0.05vol%以上25.0vol%以下、露点が−10℃以下の雰囲気中で、600℃以上830℃以下の温度域で20s以上900s以下保持する第2熱処理を行い、次いで、冷却後、溶融亜鉛めっきを施すことで製造される。また、必要に応じて、第1熱処理を行い、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施してもよい。また、必要に応じて、溶融亜鉛めっき処理後の鋼板に、さらに合金化処理を行ってもよい。
【0045】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板は、上記成分組成からなる鋼スラブに対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行うことで製造される。
【0046】
熱延鋼板の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよい。例えば、上記成分からなる鋼スラブを、1100℃〜1400℃の温度で加熱し、その後,熱間圧延を施す。熱間圧延工程では一般的に粗圧延後、仕上げ圧延間に高圧水噴射によるデスケーリングを行い、仕上げ圧延後にコイルに巻き取る。
【0047】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板用冷延鋼板は、上記成分組成からなる鋼スラブに対して、熱間圧延し、酸洗後、H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持する熱処理を行い、次いで、冷却後、圧下率30%以上で冷間圧延を施すことで製造される。
【0048】
以下、詳細に説明する。
【0049】
第1熱処理:H濃度が0.1vol%以上25.0vol%以下、露点が−45℃以上0℃以下の雰囲気中、鋼板表面を暴露した状態で、650℃以上850℃以下の温度域で600s以上21600s以下保持
第1熱処理は、鋼板表面にMn酸化物を形成し、鋼板表面から5μm以内にMn濃度が低い領域を形成するために、また、鋼板表面から10μm以上の領域において、オーステナイト中へMnを濃化させるために行なう。
は熱処理中の鋼板表面のFeの酸化を抑制するために必要である。H濃度が0.1vol%未満では、熱処理中に鋼板表面のFeが酸化し、後述する酸洗を行なってもFe酸化物が除去できず、めっき外観が劣化する。一方、25.0vol%を超えるとコストアップにつながる。したがって、H濃度は0.1vol%以上25.0vol%以下とする。
露点が−45℃未満では鋼板表面でのMn酸化物形成が進まない。一方、0℃を超えると鋼板表面にFeが酸化し、めっき外観および密着性が劣化する。したがって、露点は−45℃以上0℃以下とする。
第1熱処理を650℃未満の温度域あるいは600s未満の保持時間で行なう場合、オーステナイト中へのMnの濃化が進行せず、最終焼鈍後に残留オーステナイト中の十分なMn質量%の確保が困難となり、延性が低下する。さらに、鋼板表面でのMn酸化物形成が抑制されるため、第二熱処理工程で固溶Mnの鋼板表面への拡散の抑制に必要なMn欠乏領域を形成することができない。また、850℃を超える温度域で保持する場合にも、オーステナイト中へのMnの濃化が進行せず、第二熱処理後に十分な残留オーステナイト中のMn質量%の確保が困難となり、延性が低下する。21600sを超えて保持する場合、オーステナイト中へのMnの濃化が飽和し、第二熱処理後の延性への効き代が小さくなるだけでなく、コストアップの要因にもなる。また、鋼板表面にMn酸化物のみならず、Feが固溶した酸化物が形成し、酸洗後にも残存して、めっき処理工程でのめっき濡れ性を劣化させ、表面外観を劣化させる。
鋼板表面にMn酸化物を形成するためには、熱処理雰囲気に鋼板表面を曝す、すなわち、鋼板表面を暴露した状態とすることが必要である。鋼板を熱処理雰囲気に曝す方法については特に定めないが、連続焼鈍炉を使用する方法や、鋼板コイルのバッチ焼鈍において、コイルを緩く巻くことにより、鋼板表面間の隙間に適度に雰囲気が侵入する状態のいわゆるオープンコイルを使用する方法が挙げられる。
【0050】
冷却
特に限定はしない
冷間圧延:圧下率30%以上
第1熱処理を行い、冷却後に、必要に応じて冷間圧延を施す。圧下率を30%以上とすることで、第2熱処理時にオーステナイトが微細に生成し、最終的に微細な残留オーステナイト相が得られるため、曲げ性が向上する。
また、冷間圧延を施すことで、前記第1熱処理工程で鋼板表面に形成したMn酸化物に亀裂が生じる。これにより、後述する酸洗工程でMn酸化物の除去をより効率的に行なうことができる。このためには、圧下率は30%以上、好ましくは50%以上とする。
【0051】
酸洗:酸洗減量がFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下
鋼板の表面を清浄化すると共に第1熱処理において鋼板の表面に形成した酸化物(Mn酸化物)を除去するために行なうものである。
酸洗減量がFe換算で0.03g/m未満では酸化物が充分除去されない場合がある。また、酸洗減量が5.00g/mを超えると鋼板表面の酸化物のみならず、Mn濃度が低下した鋼板内部まで溶解する場合があり、第2熱処理でのMn酸化物形成を抑制できない場合がある。したがって、酸洗減量はFe換算で0.03g/m以上5.00g/m以下とする。なお、酸洗減量のFe換算値は通板前後の酸洗液中のFe濃度変化と通板材の面積から求めることができる。
【0052】
第2熱処理:H濃度が0.05vol%以上25.0vol%以下、露点が−10℃以下の雰囲気中で、600℃以上830℃以下の温度域で20s以上900s以下保持
第2熱処理は、オーステナイト中へのMn濃化を更に促進するため、および鋼板表面に溶融亜鉛めっきを施すにあたって、表面を活性化するために行なう。
は熱処理中の鋼板表面のFe酸化を抑制するために必要である。H濃度が0.05vol%未満では、鋼板表面のFeが酸化する。また、H濃度が25.0vol%を超えるとコストアップにつながる。したがって、H濃度は0.05vol%以上25.0vol%以下とする。
また、雰囲気中の露点が−10℃を超えると、鋼板内部の固溶Mnが表層に拡散し、鋼板表面で酸化物を形成しやすくなり、めっき外観が劣化する。さらに、高温かつ長時間の熱処理においてもMn酸化物の形成を抑制するためには、露点は−40℃以下が好ましい。
温度が600℃未満もしくは保持時間が20s未満の場合、オーステナイト中へのMnの濃化が進行せず、十分な残留オーステナイトの体積率の確保が困難となり、延性が低下する。一方、温度が830℃を超える場合には、オーステナイト中へのMnの濃化が進行しないため、延性が低下するのみならず、Mnが鋼板表面で酸化物を形成しやすくなるため、めっき外観が劣化する。また、保持時間が900sを超える場合、鋼板内部の固溶Mnが表層に拡散し、鋼板表面で酸化物を形成しやすくなるため、めっき外観が劣化する。したがって、温度は650℃以上830℃以下、保持時間は20s以上900s以下とする。
【0053】
冷却
特に限定しないが、冷却速度は2.0℃/s以上であることが好ましい。
【0054】
溶融亜鉛めっき処理
溶融亜鉛めっき処理は、鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきを施す。
溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、浴温が440℃以上550℃以下、浴中Al濃度が0.14質量%以上0.24質量%以下の亜鉛めっき浴の使用が好ましい。
浴温が440℃未満では浴内における温度変動により低温部でZnの凝固が生じる可能性があるため、めっき外観が劣化する場合がある。550℃を超えると浴の蒸発が激しく、気化したZnが炉内へ付着するため操業上問題を生じる場合がある。さらに、めっき時に合金化が進行するため、過合金になりやすい。
浴中Al濃度が0.14質量%未満になると浴中において鋼板表面でFe−Zn合金の形成が進み、めっき密着性が劣化する場合がある。0.24質量%を超えると浴表面に形成したAl酸化物による欠陥が発生する場合がある。
めっき処理後、合金化処理を行い、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合は、浴中Al濃度が0.10%以上0.20%以下の亜鉛めっき浴の使用が好ましい。浴中Al濃度が0.10%未満になるとΓ相が多量に生成し、めっき密着性(パウダリング性)が劣化する場合がある。0.20%を超えるとFe−Zn合金化が進まない場合がある。
【0055】
亜鉛めっき層中Al濃度は0.1%以上3.0%以下が好ましい。
溶融亜鉛めっき浴には浴中でのZnとFeの合金反応の抑制、浴中ドロスの抑制などのために、所定量のAlが添加されている。これは、AlがZnよりも優先的に鋼板表面のFeと反応し、Fe−Al系の合金相を形成し、FeとZnの合金化反応を抑制するためである。このFe-Al合金相は合金化を施さない溶融亜鉛めっき鋼板ではめっき層中にFe−Al合金として存在する。合金化を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、Fe−Al合金は亜鉛めっき層中に分散して存在する。このような効果を得るためには、亜鉛めっき層中Al濃度は0.1%以上が好ましい。一方、過剰にAlを添加すると、溶融亜鉛めっき浴の表面にAlの酸化膜が多く形成し、めっき表面の欠陥の原因となるため、亜鉛めっき層中Al濃度は3.0%以下が好ましい。
【0056】
溶融亜鉛めっき浴中では上記のAl添加によりZn−Fe合金反応を抑制しているが、Zn中にわずかにFeが固溶するため、めっき層中には0.01%以上のFeが含有される。一方、合金化を施す場合、合金化によりめっき層中にζ相、δ相,Γ相といったFe−Zn合金相が形成されるが、硬くて脆いΓ相が過剰に形成されると、めっき密着性が低下する。このめっき密着性の低下はめっき層中のFe濃度が15.00%で顕著となる。このため、めっき層中のFe濃度は0.01%以上15.00%以下が好ましい。
【0057】
合金化処理
必要に応じて、めっき処理工程後の鋼板に、さらに合金化処理を行う。合金化処理の条件は特に限定されないが、合金化処理温度は450℃以上580℃以下が好ましい。450℃未満では合金化の進行が遅く、580℃を超えると過合金により地鉄界面に生成する硬くて脆いZn−Fe合金層(Γ相)が多量に生成し、めっき密着性(パウダリング性)が劣化する。
【実施例】
【0058】
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを熱間圧延後酸洗し、表2、表3および表4に示す条件で第1熱処理、必要に応じて冷間圧延、酸洗、第2熱処理を施した。引き続き、溶融亜鉛めっき処理を施し、必要に応じて合金化処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)を得た。
得られた鋼板について、断面ミクロ組織、引張特性、めっき性(表面外観、めっき密着性)について調査を行った。
【0059】
<断面ミクロ組織>
鋼板表面から深さ5μm以内のMn濃度は、EPMA(ElectronProbe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、Mnの分布状態を定量化し、鋼板表面から5μm以内の結晶粒中の量分析結果の平均値とした。
残留オーステナイト中の平均Mn質量%およびフェライト中の平均Mn質量%は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer;電子プローブマイクロアナライザ)を用いて、板厚1/4位置における圧延方向断面の各相へのMnの分布状態を定量化し、30個の残留オーステナイト粒および30個のフェライト粒の量分析結果の平均値とした。
【0060】
<引張特性>
引張試験は、引張方向が鋼板の圧延方向と直角方向となるようにサンプルを採取したJIS5号試験片を用いて、JIS Z 2241(2011年)に準拠して行い、TS(引張強度)、EL(全伸び)を測定した。引張特性は、TSが590MPa級ではEL≧34%、TSが780MPa級ではEL≧30%、TSが980MPa級ではEL≧24%、TSが1180MPa級ではEL≧21%であり、かつ、TS×EL≧22000MPa・%の場合を良好と判断した。
【0061】
<表面外観>
不めっきやピンホールなどの外観不良の有無を目視にて判断し、外観不良がない場合には良好(○)、外観不良がわずかにあるが概ね良好である場合には概ね良好(△)、外観不良がある場合には(×)と判定し、概ね良好以上:○、△を合格とした。
【0062】
<めっき密着性>
溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性は、ボールインパクト試験で評価した。ボールインパクト試験を行なった鋼板の加工部をセロハンテープで剥離し、めっき層の剥離の有無を目視判定した。なお、ボールインパクト試験は、ボール質量1.8kg、落下高さ100cmの条件で行った。
○:めっき層の剥離なし
×:めっき層が剥離
合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき密着性は、耐パウダリング性を試験することで評価した。合金化溶融亜鉛めっき鋼板に巾24mm、長さ40mmのセロハンテープを貼り、テープ面に90度曲げ、曲げ戻しを施し、テープを剥がす。このめっき剥離作業を鋼板幅に対して1/4、2/4および3/4の合計3箇所で行い、テープに付着した鋼板から剥離しためっきの量を、蛍光X線によるZnカウント数として測定し、Znカウント数を単位長さ(1m)当たりに換算した量を、下記基準に照らしてランク2以下のものを特に良好(○)、ランク3のものを良好(△)、4以上のものを不良(×)と評価し、ランク3以下を合格とした。
蛍光X線カウント数 ランク
0以上2000未満 :1 (特に良好)
2000以上5000未満 :2 (特に良好)
5000以上8000未満 :3 (良好)
8000以上12000未満:4 (不良)
12000以上 :5 (不良)
以上により得られた結果を条件と併せて表2、表3および表4に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
本発明例の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、いずれもTSが590MPa以上であり、成形性に優れ、かつ、表面外観およびめっき密着性にも優れている。一方、比較例では、表面外観または密着性の少なくとも一方の特性が劣っている。