(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2インダクタンス素子と前記一の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子とが直列接続された状態で、前記第2インダクタンス素子を介して前記一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうち前記アンテナ素子に近い方の端子が前記共通端子と接続された状態で、前記共通端子と接続された前記端子側から前記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタを見た場合の、前記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、複素共役の関係にある
請求項1に記載のマルチプレクサ。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、実施例および図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施例は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施例で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置および接続形態などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。以下の実施例における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面に示される構成要素の大きさまたは大きさの比は、必ずしも厳密ではない。
【0029】
(実施例)
[1.マルチプレクサの基本構成]
本実施例では、LTE(Long Term Evolution)規格のBand25(送信通過帯域:1850−1915MHz、受信通過帯域:1930−1995MHz)およびBand4(送信通過帯域:1710−1755MHz、受信通過帯域:2110−2155MHz)に適用されるクワッドプレクサについて例示する。
【0030】
本実施例に係るマルチプレクサ1は、Band25用デュプレクサとBand4用デュプレクサとが共通端子50で接続されたクワッドプレクサである。
【0031】
図1は、実施例に係るマルチプレクサ1の回路構成図である。同図に示すように、マルチプレクサ1は、送信側フィルタ11および13と、受信側フィルタ12および14と、インダクタンス素子21(第2インダクタンス素子)と、共通端子50と、送信入力端子10および30と、受信出力端子20および40とを備える。また、マルチプレクサ1は、共通端子50およびアンテナ素子2に直列接続されたインダクタンス素子31(第1インダクタンス素子)を介して、アンテナ素子2に接続されている。
【0032】
送信側フィルタ11は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子10を経由して入力し、当該送信波をBand25の送信通過帯域(1850−1915MHz:第1の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第1の弾性波フィルタ)である。
【0033】
受信側フィルタ12は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand25の受信通過帯域(1930−1995MHz:第2の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子20へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第2の弾性波フィルタ)である。また、受信側フィルタ12と共通端子50との間には、インダクタンス素子21が直列接続されている。
【0034】
送信側フィルタ13は、送信回路(RFICなど)で生成された送信波を、送信入力端子30を経由して入力し、当該送信波をBand4の送信通過帯域(1710−1755MHz:第3の通過帯域)でフィルタリングして共通端子50へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第3の弾性波フィルタ)である。
【0035】
受信側フィルタ14は、共通端子50から入力された受信波を入力し、当該受信波をBand4の受信通過帯域(2110−2155MHz:第4の通過帯域)でフィルタリングして受信出力端子40へ出力する非平衡入力−非平衡出力型の帯域通過フィルタ(第4の弾性波フィルタ)である。
【0036】
送信側フィルタ11および13、ならびに、受信側フィルタ14は、共通端子50に直接接続されている。
【0037】
[2.弾性表面波共振子の構造]
ここで、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する弾性表面波共振子の構造について説明する。
【0038】
図2は、実施例に係る弾性表面波フィルタの共振子を模式的に表す平面図および断面図である。同図には、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14を構成する複数の共振子のうち、送信側フィルタ11の直列共振子の構造を表す平面摸式図および断面模式図が例示されている。なお、
図2に示された直列共振子は、上記複数の共振子の典型的な構造を説明するためのものであって、電極を構成する電極指の本数や長さなどは、これに限定されない。
【0039】
送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14の各共振子は、圧電体層53を有する基板5と、櫛形形状を有するIDT(InterDigital Transducer)電極11aおよび11bとで構成されている。
【0040】
図2の平面図に示すように、基板5の上には、互いに対向する一対のIDT電極11aおよび11bが形成されている。IDT電極11aは、互いに平行な複数の電極指110aと、複数の電極指110aを接続するバスバー電極111aとで構成されている。また、IDT電極11bは、互いに平行な複数の電極指110bと、複数の電極指110bを接続するバスバー電極111bとで構成されている。複数の電極指110aおよび110bは、X軸方向と直交する方向に沿って形成されている。
【0041】
また、複数の電極指110aおよび110b、ならびに、バスバー電極111aおよび111bで構成されるIDT電極54は、
図2の断面図に示すように、密着層541と主電極層542との積層構造となっている。
【0042】
密着層541は、基板5と主電極層542との密着性を向上させるための層であり、材料として、例えば、Tiが用いられる。密着層541の膜厚は、例えば、12nmである。
【0043】
主電極層542は、材料として、例えば、Cuを1%含有したAlが用いられる。主電極層542の膜厚は、例えば162nmである。
【0044】
保護層55は、IDT電極11aおよび11bを覆うように形成されている。保護層55は、主電極層542を外部環境から保護する、周波数温度特性を調整する、および、耐湿性を高めるなどを目的とする層であり、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜である。
【0045】
なお、密着層541、主電極層542および保護層55を構成する材料は、上述した材料に限定されない。さらに、IDT電極54は、上記積層構造でなくてもよい。IDT電極54は、例えば、Ti、Al、Cu、Pt、Au、Ag、Pdなどの金属又は合金から構成されてもよく、また、上記の金属又は合金から構成される複数の積層体から構成されてもよい。また、保護層55は、形成されていなくてもよい。
【0046】
次に、基板5の積層構造について説明する。
【0047】
図2の下段に示すように、基板5は、高音速支持基板51と、低音速膜52と、圧電体層53とを備え、高音速支持基板51、低音速膜52および圧電体層53がこの順で積層された構造を有している。
【0048】
圧電体層53は、50°YカットX伝搬LiTaO
3圧電単結晶または圧電セラミックス(X軸を中心軸としてY軸から50°回転した軸を法線とする面で切断したタンタル酸リチウム単結晶、またはセラミックスであって、X軸方向に弾性表面波が伝搬する単結晶またはセラミックス)からなる。圧電体層53は、例えば、厚みが600nmである。なお、送信側フィルタ13および受信側フィルタ14については、42〜45°YカットX伝搬LiTaO
3圧電単結晶、または圧電セラミックスからなる圧電体層53が用いられる。
【0049】
高音速支持基板51は、低音速膜52、圧電体層53ならびにIDT電極54を支持する基板である。高音速支持基板51は、さらに、圧電体層53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、高音速支持基板51中のバルク波の音速が高速となる基板であり、弾性表面波を圧電体層53および低音速膜52が積層されている部分に閉じ込め、高音速支持基板51より下方に漏れないように機能する。高音速支持基板51は、例えば、シリコン基板であり、厚みは、例えば200μmである。
【0050】
低音速膜52は、圧電体層53を伝搬する弾性波の音速よりも、低音速膜52中のバルク波の音速が低速となる膜であり、圧電体層53と高音速支持基板51との間に配置される。この構造と、弾性波が本質的に低音速な媒質にエネルギーが集中するという性質とにより、弾性表面波エネルギーのIDT電極外への漏れが抑制される。低音速膜52は、例えば、二酸化ケイ素を主成分とする膜であり、厚みは、例えば670nmである。
【0051】
基板5の上記積層構造によれば、圧電基板を単層で使用している従来の構造と比較して、共振周波数および反共振周波数におけるQ値を大幅に高めることが可能となる。すなわち、Q値が高い弾性表面波共振子を構成し得るので、当該弾性表面波共振子を用いて、挿入損失が小さいフィルタを構成することが可能となる。
【0052】
また、受信側フィルタ12の共通端子50側にインピーダンス整合用のインダクタンス素子21が直列接続された場合など、複数の弾性表面波フィルタ間でのインピーダンス整合をとるため、インダクタンス素子やキャパシタンス素子などの回路素子が付加される。これにより、各共振子のQ値が等価的に小さくなる場合が想定される。しかしながら、このような場合であっても、基板5の上記積層構造によれば、各共振子のQ値を高い値に維持できる。よって、帯域内の低損失性を有する弾性表面波フィルタを形成することが可能となる。
【0053】
なお、高音速支持基板51は、支持基板と、圧電体層53を伝搬する表面波や境界波の弾性波よりも、伝搬するバルク波の音速が高速となる高音速膜とが積層された構造を有していてもよい。この場合、支持基板は、サファイア、リチウムタンタレート、リチュウムニオベイト、水晶等の圧電体、アルミナ、マグネシア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト等の各種セラミック、ガラス等の誘電体またはシリコン、窒化ガリウム等の半導体及び樹脂基板等を用いることができる。また、高音速膜は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、DLC膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等、様々な高音速材料を用いることができる。
【0054】
ここで、IDT電極の設計パラメータについて説明する。弾性表面波共振子の波長とは、
図2の中段に示すIDT電極11aおよび11bを構成する複数の電極指110aおよび110bの繰り返しピッチλで規定される。また、IDT電極の交叉幅Lは、
図2の上段に示すように、IDT電極11aの電極指110aとIDT電極11bの電極指110bとのX軸方向から見た場合の重複する電極指長さである。また、デューティー比は、複数の電極指110aおよび110bのライン幅占有率であり、複数の電極指110aおよび110bのライン幅とスペース幅との加算値に対する当該ライン幅の割合である。より具体的には、デューティー比は、IDT電極11aおよび11bを構成する電極指110aおよび110bのライン幅をWとし、隣り合う電極指110aと電極指110bとの間のスペース幅をSとした場合、W/(W+S)で定義される。
【0055】
[3.各フィルタの回路構成]
図3Aは、実施例に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の送信側フィルタ11の回路構成図である。
図3Aに示すように、送信側フィルタ11は、直列共振子101〜105と、並列共振子151〜154と、整合用のインダクタンス素子141および161とを備える。
【0056】
直列共振子101〜105は、送信入力端子10と送信出力端子61との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子151〜154は、送信入力端子10、送信出力端子61および直列共振子101〜105の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子101〜105および並列共振子151〜154の上記接続構成により、送信側フィルタ11は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。また、インダクタンス素子141は、送信入力端子10と直列共振子101との間に接続され、インダクタンス素子161は、並列共振子152、153および154の接続点と基準端子との間に接続されている。
【0057】
送信出力端子61は、共通端子50に接続されている。また、送信出力端子61は、直列共振子105に接続されており、並列共振子151〜154のいずれにも直接接続されていない。
【0058】
図3Cは、実施例に係るマルチプレクサ1を構成するBand4の送信側フィルタ13の回路構成図である。
図3Cに示すように、送信側フィルタ13は、直列共振子301〜304と、並列共振子351〜354と、整合用のインダクタンス素子361〜363とを備える。
【0059】
直列共振子301〜304は、送信入力端子30と送信出力端子63との間に互いに直列に接続されている。また、並列共振子351〜354は、送信入力端子30、送信出力端子63および直列共振子301〜304の各接続点と基準端子(グランド)との間に互いに並列に接続されている。直列共振子301〜304および並列共振子351〜354の上記接続構成により、送信側フィルタ13は、ラダー型のバンドパスフィルタを構成している。
【0060】
送信出力端子63は、共通端子50に接続されている。また、送信出力端子63は、直列共振子304に接続されており、並列共振子351〜354のいずれにも直接接続されていない。
【0061】
[4.受信側フィルタの回路構成]
図3Bは、実施例に係るマルチプレクサ1を構成するBand25の受信側フィルタ12の回路構成図である。
図3Bに示すように、受信側フィルタ12は、例えば、縦結合型の弾性表面波フィルタ部を含む。より具体的には、受信側フィルタ12は、縦結合型フィルタ部203と、直列共振子201および202と、並列共振子251〜253とを備える。
【0062】
図4は、実施例に係る縦結合型フィルタ部203の電極構成を示す概略平面図である。同図に示すように、縦結合型フィルタ部203は、IDT211〜219と、反射器220および221と、入力ポート230および出力ポート240とを備える。
【0063】
IDT211〜219は、それぞれ、互いに対向する一対のIDT電極で構成されている。IDT214および216は、IDT215をX軸方向に挟み込むように配置され、IDT213および217は、IDT214〜216をX軸方向に挟み込むように配置されている。また、IDT212および218は、IDT213〜217をX軸方向に挟み込むように配置され、IDT211および219は、IDT212〜218をX軸方向に挟み込むように配置されている。反射器220および221は、IDT211〜219をX軸方向に挟み込むように配置されている。また、IDT211、213、215、217および219は、入力ポート230と基準端子(グランド)との間に並列接続され、IDT212、214、216および218は、出力ポート240と基準端子との間に並列接続されている。
【0064】
また、
図3Bに示すように、直列共振子201および202、ならびに、並列共振子251および252は、ラダー型フィルタ部を構成している。
【0065】
受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続されている。また、
図3Bに示すように、受信入力端子62は、並列共振子251に接続されている。
【0066】
図3Dは、実施例に係るマルチプレクサ1を構成するBand4の受信側フィルタ14の回路構成図である。
図3Dに示すように、受信側フィルタ14は、例えば、縦結合型の弾性表面波フィルタ部を含む。より具体的には、受信側フィルタ14は、縦結合型フィルタ部402と、直列共振子401と、並列共振子451とを備える。
【0067】
縦結合型フィルタ部402の電極構成は、受信側フィルタ12を構成する縦結合型フィルタ部203と比較して、IDTの配置数以外の電極構成は同様であるので、説明を省略する。
【0068】
受信入力端子64は、共通端子50に接続されている。また、
図3Dに示すように、受信入力端子64は、直列共振子401に接続されており、並列共振子451には直接接続されていない。
【0069】
なお、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、上記実施例に係る送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14で例示した配置構成に限定されない。上記弾性表面波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成は、各周波数帯域(Band)における通過特性の要求仕様により異なる。上記配置構成とは、例えば、直列共振子および並列共振子の配置数であり、また、ラダー型および縦結合型などのフィルタ構成の選択である。
【0070】
本実施の形態に係るマルチプレクサ1が備える弾性波フィルタにおける共振子および回路素子の配置構成のうち、本発明の要部特徴は、(1)送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ12および14のそれぞれは、直列共振子および並列共振子の少なくとも1つを備え、(2)一の弾性波フィルタである受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続され、(3)受信側フィルタ12以外の弾性波フィルタである送信側フィルタ11、13の送信出力端子61および63ならびに受信側フィルタ14の受信入力端子64は、それぞれ、共通端子50に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子105、304および401と接続されている、ことである。
【0071】
つまり、実施例に係るマルチプレクサ1は、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性表面波フィルタと、アンテナ素子2との接続経路にインダクタンス素子31が直列接続される共通端子50と、インダクタンス素子21とを備える。ここで、複数の弾性表面波フィルタのそれぞれは、基板5上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、基板5上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の弾性表面波フィルタのうち、受信側フィルタ12の受信入力端子62は、インダクタンス素子21を介して共通端子50に接続され、かつ、並列共振子251と接続される。一方、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の送信出力端子61および63ならびに受信入力端子64は、それぞれ、共通端子50に接続され、かつ、直列共振子105、304および401と接続され、並列共振子と接続されていない。
【0072】
上記要部特徴を有するマルチプレクサ1によれば、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、それらを構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0073】
[5.弾性表面波フィルタの動作原理]
ここで、本実施例に係るラダー型の弾性表面波フィルタの動作原理について説明しておく。
【0074】
例えば、
図3Aに示された並列共振子151〜154は、それぞれ、共振特性において共振周波数frpおよび反共振周波数fap(>frp)を有している。また、直列共振子101〜105は、それぞれ、共振特性において共振周波数frsおよび反共振周波数fas(>frs>frp)を有している。なお、直列共振子101〜105の共振周波数frsは、略一致するように設計されるが、必ずしも一致していない。また、直列共振子101〜105の反共振周波数fas、並列共振子151〜154の共振周波数frp、および、並列共振子151〜154の反共振周波数fapについても同様であり、必ずしも一致していない。
【0075】
ラダー型の共振子によりバンドパスフィルタを構成するにあたり、並列共振子151〜154の反共振周波数fapと直列共振子101〜105の共振周波数frsとを近接させる。これにより、並列共振子151〜154のインピーダンスが0に近づく共振周波数frp近傍は、低域側阻止域となる。また、これより周波数が増加すると、反共振周波数fap近傍で並列共振子151〜154のインピーダンスが高くなり、かつ、共振周波数frs近傍で直列共振子101〜105のインピーダンスが0に近づく。これにより、反共振周波数fap〜共振周波数frsの近傍では、送信入力端子10から送信出力端子61への信号経路において信号通過域となる。さらに、周波数が高くなり、反共振周波数fas近傍になると、直列共振子101〜105のインピーダンスが高くなり、高周波側阻止域となる。つまり、直列共振子101〜105の反共振周波数fasを、信号通過域外のどこに設定するかにより、高周波側阻止域における減衰特性の急峻性が大きく影響する。
【0076】
送信側フィルタ11において、送信入力端子10から高周波信号が入力されると、送信入力端子10と基準端子との間で電位差が生じ、これにより、基板5が歪むことでX方向に伝搬する弾性表面波が発生する。ここで、IDT電極11aおよび11bのピッチλと、通過帯域の波長とを略一致させておくことにより、通過させたい周波数成分を有する高周波信号のみが送信側フィルタ11を通過する。
【0077】
以下、本実施例に係るマルチプレクサ1の周波数特性およびインピーダンス特性について、比較例に係るマルチプレクサと比較しながら説明する。
【0078】
[6.比較例に係るマルチプレクサの構成]
図5は、比較例に係るマルチプレクサ600の回路構成図である。また、
図6Aは、比較例に係るマルチプレクサ600を構成するBand25の送信側フィルタ66の回路構成図である。
図6Bは、比較例に係るマルチプレクサ600を構成するBand25の受信側フィルタ67の回路構成図である。
図6Cは、比較例に係るマルチプレクサ600を構成するBand4の送信側フィルタ68の回路構成図である。
図6Dは、比較例に係るマルチプレクサ600を構成するBand4の受信側フィルタ69の回路構成図である。
【0079】
図5に示すように、マルチプレクサ600は、送信側フィルタ66および68と、受信側フィルタ67および69と、共通端子650と、送信入力端子660および680と、受信出力端子670および690とを備える。また、共通端子650とアンテナ素子2との接続ノードに、インダクタンス素子71が並列接続されている。
【0080】
以下、比較例に係るマルチプレクサ600の具体的構成について、実施例に係るマルチプレクサ1と異なる点を中心に説明する。
【0081】
送信側フィルタ66は、
図6Aに示すように、送信側フィルタ11と同じ回路構成である。送信側フィルタ68は、
図6Cに示すように、送信側フィルタ13と同じ回路構成である。受信側フィルタ69は、
図6Dに示すように、受信側フィルタ14と同じ回路構成である。
【0082】
受信側フィルタ67は、
図6Bに示すように、受信側フィルタ12と比較して、受信入力端子675には直列共振子701が接続されており、並列共振子が接続されていない点のみが構成として異なる。
【0083】
以上のように、比較例に係るマルチプレクサ600は、実施例に係るマルチプレクサ1と比較して、(1)受信側フィルタ67と共通端子650との間にインダクタンス素子が直列接続されていない点、(2)共通端子650とアンテナ素子2との間に配置されたインダクタンス素子71は直列接続ではなく並列接続である点、および(3)受信側フィルタ67の受信入力端子675には直列共振子701が接続されており並列共振子が接続されていない点、が構成として異なる。
【0084】
[7.実施例と比較例との特性比較]
図7Aは、実施例および比較例に係るBand25の送信側フィルタ11および66の通過特性を比較したグラフである。
図7Bは、実施例および比較例に係るBand25の受信側フィルタ12および67の通過特性を比較したグラフである。
図7Cは、実施例および比較例に係るBand4の送信側フィルタ13および68の通過特性を比較したグラフである。
図7Dは、実施例および比較例に係るBand4の受信側フィルタ14および69の通過特性を比較したグラフである。
【0085】
図7A〜
図7Dより、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band4の送信側において、実施例の通過帯域内の挿入損失が比較例の通過帯域内の挿入損失よりも優れていることが解る。さらに、実施例に係るマルチプレクサ1では、Band25の送信側および受信側、ならびに、Band4の送信側および受信側の全ての周波数帯域において、通過帯域内の要求仕様(送信側挿入損失2.0dB以下、および、受信側挿入損失3.0dB以下)を満足していることが解る。
【0086】
一方、比較例に係るマルチプレクサ600では、Band25の送信側および受信側において、通過帯域内の要求仕様を満足していないことが解る。
【0087】
以上のように、本実施例に係るマルチプレクサ1によれば、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、それらを構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0088】
以下では、本実施の形態に係るマルチプレクサ1が通過帯域内の低損失性を実現できる理由を説明する。
【0089】
[8.比較例におけるインピーダンス整合]
図8Aおよび
図8Bは、それぞれ、比較例に係るBand25の送信側フィルタ66単体の送信出力端子665から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ67単体の受信入力端子675から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。また、
図8Cおよび
図8Dは、それぞれ、比較例に係るBand4の送信側フィルタ68単体の送信出力端子685から見た複素インピーダンス、および受信側フィルタ69単体の受信入力端子695から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
【0090】
比較例に係るマルチプレクサ600では、各フィルタを共通端子650に接続した後、並列接続されたインダクタンス素子71により最終的なインピーダンス整合をとる。このため、各フィルタ単体でのインピーダンス特性においては、通過帯域外の周波数領域における複素インピーダンスがオープン側に来るように設計する。具体的には、
図8Aにおける送信側フィルタ66の通過帯域外領域B
OUT66、
図8Bにおける受信側フィルタ67の通過帯域外領域B
OUT67、
図8Cにおける送信側フィルタ68の通過帯域外領域B
OUT68、および、
図8Dにおける受信側フィルタ69の通過帯域外領域B
OUT69、の複素インピーダンスを、全て略オープン側に配置している。これらの複素インピーダンス配置を実現するため、全てのフィルタの、共通端子650に接続される共振子を、並列共振子ではなく直列共振子としている。
【0091】
図9は、比較例に係る4つのフィルタを共通端子650で並列接続した回路の、共通端子650から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(左側)であり、共通端子650にインダクタンス素子71を並列接続した場合の複素インピーダンスの動きを説明するスミスチャート(右側)である。
【0092】
図9の左側に示されるように、4つのフィルタを共通端子650で並列接続した回路の通過帯域における複素インピーダンスは、高い容量性(スミスチャートの下半円の外周領域)を示している。また、マルチモード化およびマルチバンド化が加速することで対応すべきフィルタの数が増加するほど、上記回路の複素インピーダンスの容量性は強くなる。
【0093】
ここで、上記通過帯域における複素インピーダンスを特性インピーダンスへと整合させるためには、
図9の右側に示されるように、並列接続されたインダクタンス素子71のインダクタンス値を小さくする方向へ調整する必要がある。つまり、フィルタの数が増加するほど、より小さいインダクタンス値を有するインダクタンス素子71を並列接続する必要がある。本比較例では、インダクタンス素子71のインダクタンス値は、例えば、1.5nHであった。
【0094】
しかしながら、このような小さなインダクタンス値をもつインダクタンス素子71を並列接続すると、インダクタンス素子71のインピーダンスが小さくなり、基準(接地)端子へ向けて電流が流れ易くなる。これにより、通過させたい高周波信号が基準(接地)端子へ漏洩し、各フィルタの通過帯域における挿入損失が大きくなってしまう。
【0095】
[9.実施例におけるインピーダンス整合]
図10Aおよび
図10Bは、それぞれ、実施例に係るBand25の送信側フィルタ11単体の送信出力端子61から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ12単体の受信入力端子62から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。また、
図10Cおよび
図10Dは、それぞれ、実施例に係るBand4の送信側フィルタ13単体の送信出力端子63から見た複素インピーダンス、および、受信側フィルタ14単体の受信入力端子64から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
【0096】
実施例に係るマルチプレクサ1では、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14単体でのインピーダンス特性においては、比較例と同様に、通過帯域外の周波数領域における複素インピーダンスがオープン側に来るように設計される。具体的には、
図10Aにおける、第2インダクタ21が接続されていない送信側フィルタ11の通過帯域外領域B
OUT11、
図10Cにおける、第2インダクタ21が接続されていない送信側フィルタ13の通過帯域外領域B
OUT13、および、
図10Dにおける、第2インダクタ21が接続されていない受信側フィルタ14の通過帯域外領域B
OUT14の複素インピーダンスを、略オープン側に配置している。これらの複素インピーダンス配置を実現するため、上記3つのフィルタの、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子ではなく直列共振子としている。
【0097】
一方、第2インダクタ21が接続されている受信側フィルタ12では、共通端子50に接続される共振子を、並列共振子としている。このため、
図10Bに示すように、受信側フィルタ14の通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスを、略ショート側に配置している。この通過帯域外領域B
OUT12をショート側に配置した目的については後述する。
【0098】
図11は、実施例に係るBand25の受信側フィルタ12とインダクタンス素子21とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャート(左側)、および、実施例に係るBand25の受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
【0099】
図11に示すように、インダクタンス素子21と受信側フィルタ12の入力端子とが直列接続された状態で、インダクタンス素子21を介して受信側フィルタ12単体を見た場合の、所定の通過帯域における複素インピーダンスと、送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の入力端子および出力端子のうちアンテナ素子2に近い方の端子が共通端子50と接続された状態で、共通端子50と接続された上記端子側から送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14を見た場合の、上記所定の通過帯域における複素インピーダンスとは、概ね複素共役に近い関係にあることが解る。つまり、上記2つの複素インピーダンスを合成すれば、インピーダンス整合がとれて、合成された回路の複素インピーダンスが特性インピーダンス付近に来ることとなる。なお、2つの回路の複素インピーダンスが複素共役の関係にあるとは、互いの複素インピーダンスの複素成分の正負が反転している関係を含み、複素成分の絶対値が等しい場合に限定されない。つまり、本実施の形態における複素共役の関係とは、一方の回路の複素インピーダンスが容量性(スミスチャートの下半円)に位置し、他方の回路の複素インピーダンスが誘導性(スミスチャートの上半円)に位置するような関係も含まれる。
【0100】
ここで、
図10Bに示すように、受信側フィルタ12の通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスを略ショート側に配置した目的は、通過帯域外領域B
OUT12(送信側フィルタ11および13ならびに受信側フィルタ14の通過帯域)の複素インピーダンスを、より小さなインダクタンス値を有するインダクタンス素子21により、上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせるためである。なお、このときのインダクタンス素子21のインダクタンス値は、例えば、5.9nHである。仮に、受信側フィルタ12の通過帯域外領域B
OUT12が、比較例のようにオープン側に位置する場合には、より大きなインダクタンス値を有するインダクタンス素子21により、通過帯域外領域B
OUT12を上記複素共役の関係を有する位置にシフトさせなければならない。インダクタンス素子21は、直列接続されているので、インダクタンス値が大きければ大きいほど受信側フィルタ12の通過帯域内の挿入損失が悪化してしまう。つまり、実施例に係る受信側フィルタ12のように、並列共振子251を利用して通過帯域外領域B
OUT12の複素インピーダンスをショート側に配置させることによりインダクタンス素子21のインダクタンス値を小さくできるので、通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0101】
図12Aは、実施例に係るマルチプレクサ1を共通端子50から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。つまり、
図12Aに示された複素インピーダンスは、
図11に示された2つの回路を合成したマルチプレクサの共通端子50から見た複素インピーダンスを表している。
図11に示された2つの回路の複素インピーダンスを、互いに複素共役となる関係に配置したことにより、合成された回路の複素インピーダンスは、4つの通過帯域において特性インピーダンスに接近したものとなっており、インピーダンス整合が実現されている。
【0102】
図12Bは、実施例に係るマルチプレクサ1の共通端子50とアンテナ素子2との間にインダクタンス素子31を直列接続した場合の、アンテナ素子2側から見た複素インピーダンスを表すスミスチャートである。
図12Aに示されたように、互いに複素共役となる関係に配置された2つの回路を合成した回路では、わずかながら、複素インピーダンスが特性インピーダンスから外れている(わずかに容量性側へずれている)。これに対して、共通端子50とアンテナ素子2との間にインダクタンス素子31を直列接続することにより、共通端子50から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを、誘導側方向へと微調整している。なお、このときのインダクタンス素子31のインダクタンス値は、例えば、2.3nHである。これにより、マルチプレクサ1を構成する各フィルタの挿入損失を損なうことなく、各フィルタの通過帯域における複素インピーダンスを特性インピーダンスに一致させることが可能となる。
【0103】
[10.実施例および比較例のまとめ]
以上、実施例に係るマルチプレクサ1は、比較例に係るマルチプレクサ600と比較して、(1)受信側フィルタ12と共通端子50との間にインダクタンス素子21が直列接続されており、(2)共通端子50とアンテナ素子2との間に配置されたインダクタンス素子31は並列接続ではなく直列接続されており、(3)受信側フィルタ12の受信入力端子62には並列共振子251が接続されている点が構成として異なる。
【0104】
これによれば、小さなインダクタンス値を有するインダクタンス素子21と受信側フィルタ12とが直列接続された回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスと、受信側フィルタ12以外の全てのフィルタを共通端子50で並列接続した回路単体の共通端子50から見た複素インピーダンスとを、複素共役の関係にすることができる。これにより、上記2つの回路が合成された回路を有するマルチプレクサ1の共通端子50から見た複素インピーダンスを、通過帯域内の低損失性を確保しつつ特性インピーダンスと整合させることが可能となる。また、共通端子50とアンテナ素子2との間に、小さなインダクタンス値を有するインダクタンス素子31を直列接続することにより、共通端子50から見たマルチプレクサ1の複素インピーダンスを、誘導側方向へと微調整することが可能となる。
【0105】
[11.高周波フロントエンド回路および通信装置の構成]
ここで、上記実施例に係るマルチプレクサ1を備える高周波フロントエンド回路70および通信装置80について説明する。
【0106】
図13は、実施例に係るマルチプレクサ1を備える高周波フロントエンド回路70および通信装置80の回路構成図である。同図には、高周波フロントエンド回路70と、アンテナ素子2と、RF信号処理回路(RFIC)3と、ベースバンド信号処理回路(BBIC)4と、インダクタンス素子31とが示されている。高周波フロントエンド回路70とRF信号処理回路3と、ベースバンド信号処理回路4とは、通信装置80を構成している。
【0107】
高周波フロントエンド回路70は、実施例に係るマルチプレクサ1と、送信側スイッチ26および受信側スイッチ27と、パワーアンプ回路28と、ローノイズアンプ回路29と、を備える。
【0108】
送信側スイッチ26は、マルチプレクサ1の送信入力端子10および30に個別に接続された2つの選択端子、ならびに、パワーアンプ回路28に接続された共通端子を有するスイッチ回路である。
【0109】
受信側スイッチ27は、マルチプレクサ1の受信出力端子20および40に個別に接続された2つの選択端子、ならびに、ローノイズアンプ回路29に接続された共通端子を有するスイッチ回路である。
【0110】
これら送信側スイッチ26および受信側スイッチ27は、それぞれ、制御部(図示せず)からの制御信号にしたがって、共通端子と所定のバンドに対応する信号経路とを接続し、例えば、SPDT(Single Pole Double Throw)型のスイッチによって構成される。なお、共通端子と接続される選択端子は1つに限らず、複数であってもかまわない。つまり、高周波フロントエンド回路70は、キャリアアグリゲーションに対応してもかまわない。
【0111】
パワーアンプ回路28は、RF信号処理回路3から出力された高周波信号(ここでは高周波送信信号)を増幅し、送信側スイッチ26およびマルチプレクサ1を経由してアンテナ素子2に出力する送信増幅回路である。
【0112】
ローノイズアンプ回路29は、アンテナ素子2、マルチプレクサ1および受信側スイッチ27を経由した高周波信号(ここでは高周波受信信号)を増幅し、RF信号処理回路3へ出力する受信増幅回路である。
【0113】
RF信号処理回路3は、アンテナ素子2から受信信号経路を介して入力された高周波受信信号を、ダウンコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された受信信号をベースバンド信号処理回路4へ出力する。また、RF信号処理回路3は、ベースバンド信号処理回路4から入力された送信信号をアップコンバートなどにより信号処理し、当該信号処理して生成された高周波送信信号をパワーアンプ回路24へ出力する。RF信号処理回路3は、例えば、RFICである。
【0114】
ベースバンド信号処理回路4で処理された信号は、例えば、画像信号として画像表示のために、または、音声信号として通話のために使用される。
【0115】
なお、高周波フロントエンド回路70は、上述した各構成要素の間に、他の回路素子を備えていてもよい。
【0116】
以上のように構成された高周波フロントエンド回路70および通信装置80によれば、上記実施例に係るマルチプレクサ1を備えることにより、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、各バンドの信号経路を構成する各フィルタの通過帯域内の挿入損失を低減することが可能となる。
【0117】
また、通信装置80は、高周波信号の処理方式に応じて、ベースバンド信号処理回路4を備えていなくてもよい。
【0118】
(その他の変形例など)
以上、本発明の実施の形態に係るマルチプレクサついて、クワッドプレクサの実施例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施例には限定されない。例えば、上記実施例に次のような変形を施した態様も、本発明に含まれ得る。
【0119】
例えば、実施例に係る基板5の圧電体層53は、50°YカットX伝搬LiTaO
3単結晶を使用したものであるが、単結晶材料のカット角はこれに限定されない。つまり、LiTaO
3単結晶を圧電体層として用いて、実施例に係るマルチプレクサを構成する弾性表面波フィルタの圧電体層のカット角は、50°Yであることに限定されない。上記以外のカット角を有するLiTaO
3圧電体層を用いた弾性表面波フィルタであっても、同様の効果を奏することが可能となる。また、上記圧電体層は、LiNbO
3などの他の圧電単結晶からなるものであってもよい。また、本発明において、基板5としては、圧電体層53を有する限り、全体が圧電体層からなるものの他、支持基板上に圧電体層が積層されている構造を用いてもよい。
【0120】
また、本発明に係るマルチプレクサ1は、さらに、アンテナ素子2と共通端子50との間に直列接続されたインダクタンス素子31を備えてもよい。例えば、本発明に係るマルチプレクサ1は、高周波基板上に、上述した特徴を有する複数の弾性波フィルタと、チップ上のインダクタンス素子21および31とが実装された構成を有していてもよい。
【0121】
また、インダクタンス素子21および31は、例えば、チップインダクタであってもよく、また、高周波基板の導体パターンにより形成されたものであってもよい。
【0122】
また、本発明に係るマルチプレクサは、実施例のようなBand25+Band4のクワッドプレクサに限られない。
【0123】
図14Aは、実施の形態の変形例1に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、
図14Aに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand25、Band4およびBand30を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band25の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band25の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band25の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。
【0124】
図14Bは、実施の形態の変形例2に係るマルチプレクサの構成を示す図である。例えば、本発明に係るマルチプレクサは、
図14Bに示すように、送信帯域および受信帯域を有するBand1、Band3およびBand7を組み合わせたシステム構成に適用される、6つの周波数帯域を有するヘキサプレクサであってもよい。この場合、例えば、Band1の受信側フィルタに、インダクタンス素子21が直列接続され、Band1の受信側フィルタの受信入力端子には並列共振子が接続される。さらに、Band1の受信側フィルタ以外の5つのフィルタの共通端子と接続される端子には、直列共振子が接続され並列共振子は接続されない。
【0125】
前述したように、本発明に係るマルチプレクサでは、構成要素である弾性波フィルタの数が多いほど、従来の整合手法により構成されたマルチプレクサと比較して、通過帯域内の挿入損失を低減できる。
【0126】
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、送受信を行うデュプレクサを複数有する構成でなくてもよい。例えば、複数の送信周波数帯域を有する送信装置として適用できる。つまり、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を入力し、当該複数の高周波信号をフィルタリングして共通のアンテナ素子から無線送信させる送信装置であって、送信回路から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の送信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路に第1インダクタンス素子が直列接続される共通端子とを備えていてもよい。ここで、複数の送信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の送信用弾性波フィルタのうち、一の送信用弾性波フィルタの出力端子は、当該出力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続される。一方、上記一の送信用弾性波フィルタ以外の送信用弾性波フィルタの出力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている。
【0127】
さらに、本発明に係るマルチプレクサは、例えば、複数の受信周波数帯域を有する受信装置として適用できる。つまり、互いに異なる搬送周波数帯域を有する複数の高周波信号を、アンテナ素子を介して入力し、当該複数の高周波信号を分波して受信回路へ出力する受信装置であって、アンテナ素子から複数の高周波信号を入力し、所定の周波数帯域のみを通過させる複数の受信用弾性波フィルタと、アンテナ素子との接続経路に第1インダクタンス素子が直列接続される共通端子とを備えてもよい。ここで、複数の受信用弾性波フィルタのそれぞれは、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを備える。また、複数の受信用弾性波フィルタのうち、一の受信用弾性波フィルタの入力端子は、当該入力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続される。一方、上記一の受信用弾性波フィルタ以外の受信用弾性波フィルタの入力端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている。
【0128】
上記のような構成を有する送信装置または受信装置であっても、本実施の形態に係るマルチプレクサ1と同様の効果が奏される。
【0129】
また、本発明は、上記のような特徴的な弾性波フィルタおよびインダクタンス素子を備えるマルチプレクサ、送信装置および受信装置だけではなく、このような特徴的な構成要素をステップとしたマルチプレクサのインピーダンス整合方法としても成立する。
【0130】
図15は、実施の形態に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法を説明する動作フローチャートである。
【0131】
本発明に係るマルチプレクサのインピーダンス整合方法は、(1)互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタのうち、一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)の入力端子および出力端子の一方から、当該一の弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがショート状態となり、上記一の弾性波フィルタ以外の弾性波フィルタ(弾性波フィルタB)の入力端子および出力端子の一方から、当該弾性波フィルタ単体を見た場合の、他の弾性波フィルタの通過帯域における複素インピーダンスがオープン状態となるよう、複数の弾性波フィルタを調整するステップ(S10)と、(2)上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)にフィルタ整合用インダクタンス素子が直列接続された場合の、フィルタ整合用インダクタンス素子側から上記一の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスと、上記一の弾性波フィルタ以外の他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が共通端子に並列接続された場合の、共通端子側から他の弾性波フィルタを見た場合の複素インピーダンスとが、複素共役の関係となるように、フィルタ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップ(S20)と、(3)フィルタ整合用インダクタンス素子を介して上記一の弾性波フィルタ(弾性波フィルタA)が共通端子と接続され、かつ、共通端子に上記他の弾性波フィルタ(複数の弾性波フィルタB)が並列接続された合成回路の、共通端子から見た複素インピーダンスが、特性インピーダンスと一致するようアンテナ素子と共通端子との間に直列接続されるアンテナ整合用インダクタンス素子のインダクタンス値を調整するステップ(S30)とを含み、(4)複数の弾性波フィルタを調整するステップでは、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子との間に接続された直列共振子、および、圧電体層上に形成されたIDT電極を有し入力端子と出力端子とを接続する電気経路と基準端子との間に接続された並列共振子の少なくとも1つを有する上記複数の弾性波フィルタのうち、上記一の弾性波フィルタにおいて、並列共振子がフィルタ整合用インダクタンス素子と接続されるよう並列共振子および直列共振子を配置し、上記他の弾性波フィルタにおいて、並列共振子および直列共振子のうち直列共振子が共通端子と接続されるよう、並列共振子および直列共振子を配置する、ことを特徴とする。
【0132】
これにより、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、低損失のマルチプレクサを提供することが可能となる。
【0133】
また、上記実施の形態では、マルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置、受信装置、高周波フロントエンド回路、および通信装置を構成する送信側フィルタおよび受信側フィルタとして、IDT電極を有する弾性表面波フィルタを例示した。しかしながら、本発明に係るマルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置、受信装置、高周波フロントエンド回路、および通信装置を構成する各フィルタは、直列共振子および並列共振子で構成される弾性境界波やBAW(Bulk Acoustic Wave)を用いた弾性波フィルタであってもよい。これによっても、上記実施の形態に係るマルチプレクサ、クワッドプレクサ、送信装置、受信装置、高周波フロントエンド回路、および通信装置、が有する効果と同様の効果が奏される。
【0134】
また、上記実施例に係るマルチプレクサ1では、受信側フィルタ20にインダクタ素子21が直列接続された構成を例示したが、送信側フィルタにインダクタ素子21が直列接続された構成も本発明に含まれる。つまり、本発明に係るマルチプレクサは、互いに異なる通過帯域を有する複数の弾性波フィルタと、アンテナ素子2との接続経路に第1インダクタンス素子が直列接続される共通端子と、第2インダクタンス素子とを備え、複数の弾性波フィルタのうち、送信側フィルタの出力端子は、当該出力端子および共通端子に接続された第2インダクタンス素子を介して共通端子に接続され、かつ、並列共振子と接続され、上記送信側フィルタ以外の弾性波フィルタの入力端子および出力端子のうちアンテナ素子側の端子は、共通端子に接続され、かつ、直列共振子および並列共振子のうち直列共振子と接続されている、構成を有していてもよい。これによっても、対応すべきバンド数およびモード数が増加しても、低損失のマルチプレクサを提供することが可能となる。