特許第6222410号(P6222410)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6222410ESD保護回路、差動伝送線路、コモンモードフィルタ回路、ESD保護デバイスおよび複合デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6222410
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ESD保護回路、差動伝送線路、コモンモードフィルタ回路、ESD保護デバイスおよび複合デバイス
(51)【国際特許分類】
   H02H 9/04 20060101AFI20171023BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20171023BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20171023BHJP
   H03H 7/09 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H02H9/04 A
   H01F15/00 D
   H01F17/00 D
   H03H7/09 A
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-534620(P2017-534620)
(86)(22)【出願日】2017年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2017007009
【審査請求日】2017年6月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-50655(P2016-50655)
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植木 紀行
【審査官】 赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/087794(WO,A1)
【文献】 特開2009−105555(JP,A)
【文献】 特開平05−122841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02H 9/04
H01F 17/00
H01F 27/00
H03H 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備える、ESD保護回路。
【請求項2】
前記第1コイルおよび前記第3コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第1領域に形成され、前記第2コイルおよび前記第4コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第2領域に形成され、前記第1領域と前記第2領域との間に前記第1ESD保護回路および前記第2ESD保護回路が形成された、請求項1に記載のESD保護回路。
【請求項3】
前記第1ツェナーダイオードに対して逆方向、且つ前記第2ツェナーダイオードに対して逆方向に接続される第3ツェナーダイオードを備え、
前記第1ESD保護回路は、前記第1ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路であり、前記第2ESD保護回路は、前記第2ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路である、請求項1または2に記載のESD保護回路。
【請求項4】
前記第1コイルと前記第3コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値であり、前記第2コイルと前記第4コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値である、請求項1から3のいずれかに記載のESD保護回路。
【請求項5】
第1線路および第2線路を有し、差動信号を伝送する差動伝送線路と、当該差動伝送線路に接続されたESD保護回路と、を有する差動伝送線路であって、
前記ESD保護回路は、
前記差動伝送線路に接続される第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
前記差動伝送線路に接続される第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
を備え、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備えることを特徴とする差動伝送線路。
【請求項6】
コモンモードチョークコイルと、当該コモンモードチョークコイルに接続されたESD保護回路と、を有するコモンモードフィルタ回路であって、
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第3平衡ポートを構成する第5端子および第6端子と、
前記ESD保護回路は、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
前記第3端子と前記第5端子との間に接続された第5コイルと、
前記第4端子と前記第6端子との間に接続され、前記第5コイルと結合する第6コイルと、を備える、
コモンモードフィルタ回路。
【請求項7】
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられたループ状導体パターンを含み、
前記ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられている、
ESD保護デバイス。
【請求項8】
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
前記整合回路と前記複数の端子電極との間に接続され、前記積層体の内部に設けられたコモンモードフィルタ回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第1ループ状導体パターンを含み、前記コモンモードフィルタ回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第2ループ状導体パターンを含み、
前記第1ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられていて、前記第2ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と、前記積層体の前記実装面とは反対側の面と、の間の層に設けられている、
複合デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ESD保護回路、それを備える差動伝送線路およびコモンモードフィルタ回路、ESD保護デバイスおよび複合デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波伝送線路に接続された回路を、この高周波伝送線路に侵入するサージ電圧から保護するために、高周波伝送線路にESD(electro-static discharge)保護回路を備えた装置が例えば特許文献1に示されている。また、積層体の内部に形成された空洞部に、対向配置された放電電極を備える、スパークギャップ構造のESD保護素子は特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−327069号公報
【特許文献2】特許第4247581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるように、ツェナーダイオードのPN接合における逆方向特性の安定した降伏領域を利用したESD保護素子は、一般に、スパークギャップ構造のESD保護素子に比べて、ESD放電の開始電圧が低く、回路に印加されるサージ電圧を低く抑えることができる。
【0005】
ところが、このようなツェナーダイオードを備えるESD保護素子においては、ツェナーダイオードのPN接合部に逆バイアス電圧が印加されることにより発生する空乏層に寄生容量が生じる。一方、ESD保護素子の内部およびESD保護素子の外部において、ESDの電流経路にはESL(等価直列インダクタンス)成分があり、このインダクタンス成分とツェナーダイオードの寄生容量とによってLC直列共振回路が構成される。すなわち、伝送線路が第1線路と第2線路とで構成される差動伝送線路である場合、上記共振回路が第1線路と第2線路との間に接続される構成となる。このような伝送線路では、上記共振回路の影響を受けて、伝送特性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、ESD保護回路の寄生容量と、による共振が抑制されたESD保護回路、それを備える差動伝送線路およびコモンモードフィルタ回路、ESD保護デバイスおよび複合デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のESD保護回路は、
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成により、第1コイルと第2コイルとの結合による相互インダクタンスは、等価的な負のインダクタンスであり、これが第1ESD保護回路に対して直列に挿入されることになるので、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が抑制される。同様に、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が抑制される。そのため、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、第1ESD保護回路の容量成分と、で構成される共振回路の共振周波数、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、第2ESD保護回路の容量成分と、で構成される共振回路の共振周波数、はいずれも非常に高くできる。したがって、このESD保護回路が接続される回路や線路の搬送周波数帯域において、ESD保護回路に不要な共振が生じるのを抑制できる。
【0009】
また、第1ESD保護回路と第2ESD保護回路のそれぞれの一端はグランドに共通接続されるので、このESD保護回路が接続される外部の回路の影響を受けることなく、第1接続点から第2接続点までの経路に生じるインダクタンス成分は固定される。そのため、上記インダクタンス成分の抑制効果は外部の回路の影響を受けない。
【0010】
(2)上記(1)において、前記第1コイルおよび前記第3コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第1領域に形成され、前記第2コイルおよび前記第4コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第2領域に形成され、前記第1領域と前記第2領域との間に前記第1ESD保護回路および前記第2ESD保護回路が形成された構造であることが好ましい。これにより、限られた厚み寸法内に、第1、第2のESD保護回路、および第1、第2、第3、第4の各コイルを配置できる。また、第1、第2、第3、第4の各コイルと第1、第2のESD保護回路との不要結合も回避しやすい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1ツェナーダイオードに対して逆方向、且つ前記第2ツェナーダイオードに対して逆方向に接続される第3ツェナーダイオードを備え、
前記第1ESD保護回路は、前記第1ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路であり、前記第2ESD保護回路は、前記第2ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路であることが好ましい。この構造により、平衡ポートとグランドとの間に印加されるサージ電圧の極性に依存せず、ESD保護を行うことができる。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第1コイルと前記第3コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値であり、前記第2コイルと前記第4コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値であることが好ましい。これにより、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分および、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が相殺されて、上記共振回路の共振周波数はいずれも非常に高くできる。
【0013】
(5)本発明の差動伝送線路は、
第1線路および第2線路を有し、差動信号を伝送する差動伝送線路と、当該差動伝送線路に接続されたESD保護回路と、を有し、
前記ESD保護回路は、
前記差動伝送線路に接続される第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
前記差動伝送線路に接続される第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
を備え、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、第1ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路および、第2ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路の共振周波数を搬送周波数帯よりも高い周波数帯に移動させることができ、より高周波数帯まで、差動伝送線路としての特性を維持できる。
【0015】
(6)本発明のコモンモードフィルタ回路は、
コモンモードチョークコイルと、当該コモンモードチョークコイルに接続されたESD保護回路と、を有するコモンモードフィルタ回路であって、
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第3平衡ポートを構成する第5端子および第6端子と、
前記ESD保護回路は、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
前記第3端子と前記第5端子との間に接続された第5コイルと、
前記第4端子と前記第6端子との間に接続され、前記第5コイルと結合する第6コイルと、を備える、
ことを特徴とする。
【0016】
上記構成により、第1ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路および、第2ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路の共振周波数を搬送周波数帯よりも高い周波数帯に移動させることができ、より高周波数帯まで、コモンモードフィルタ回路としての特性を維持できる。
【0017】
(7)本発明のESD保護デバイスは、
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられたループ状導体パターンを含み、
前記ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられている、
ことを特徴とする。
【0018】
上記構成により、実装用端子電極から整合回路を介してESD保護用半導体チップ部品までの経路が最短化され、不要な寄生成分(特に寄生インダクタンス成分)が生じにくくなるので、ESD保護時のピーク電圧をより抑制できる。すなわち、ESD回路のESD保護性能を維持できる。
【0019】
(8)本発明の複合デバイスは、
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
前記整合回路と前記複数の端子電極との間に接続され、前記積層体の内部に設けられたコモンモードフィルタ回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第1ループ状導体パターンを含み、前記コモンモードフィルタ回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第2ループ状導体パターンを含み、
前記第1ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられていて、前記第2ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と、前記積層体の前記実装面とは反対側の面と、の間の層に設けられている、
ことを特徴とする。
【0020】
上記構成により、実装用端子電極と整合回路との間に不要な寄生成分が生じにくくなる。また、コモンモードフィルタ回路に比べて、ESD保護回路が実装用端子電極に近い位置に配置されるので、実装用端子電極とESD保護回路との間に不要な寄生成分が生じにくくなる。これにより、ESD保護時のピーク電圧をより抑制でき、ESD回路のESD保護性能を維持できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、ESD保護回路の寄生容量と、による共振が抑制されたESD保護回路、それを備える差動伝送線路およびコモンモードフィルタ回路、ESD保護デバイスおよび複合デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(A)は第1の実施形態に係るESD保護デバイス101Dの内部構造を表す平面図であり、図1(B)は図1(A)におけるB−B部分の断面図である。
図2図2は、ダイオードチップ11を除いた状態でのESD保護デバイス101Dの平面図である。
図3図3はESD保護デバイス101Dの下面図である。
図4図4は積層体10の各層に形成される導体パターンの一部を示す図である。
図5図5は第1の実施形態に係るESD保護回路101Cの回路図であり、ESD保護デバイス101Dの回路図でもある。
図6図6(A)(B)は、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による相互インダクタンスと、ESD電流経路に生じるインダクタンス成分との関係を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係るESD保護回路101Eの回路図であり、ESD電流経路のインダクタンス成分を含めて表した、ESD保護デバイス101Dの等価回路図である。
図8図8はダイオードチップ11の構成を示す断面図である。
図9図9(A)は、第1コイルL1のインダクタンス、第3コイルL3のインダクタンス、第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数k、ESD電流経路中の寄生容量Cd1およびインダクタンス成分ESL1のそれぞれの値の一例を示す回路図である。図9(B)は第1コイルL1、第2コイルL2を設けない状態の、比較例としての回路図であり、図9(C)はインダクタンス成分が無いものとしたときの、比較例としての回路図である。
図10図10は、図9(A)(B)(C)に示した3つの差動伝送線路の通過特性を示す図である。
図11図11は第2の実施形態に係るESD保護回路102Cの回路図である。
図12図12は、第2の実施形態に係るESD保護回路の、ESD電流経路のインダクタンス成分を含めて表した、ESD保護回路102Eの回路図である。
図13図13はダイオードチップ12の構成を示す断面図である。
図14図14は、第3の実施形態に係る差動伝送線路の回路図であり、送信側増幅回路AMPtと受信側増幅回路AMPrとの間の差動伝送線路210を示す図である。
図15図15は、第4の実施形態に係る複合デバイス回路310Cの回路図である。
図16図16は、第4の実施形態に係る複合デバイスの各層に形成される導体パターンの一例を示す図である。
図17図17は、第4の実施形態に係る複合デバイス310Dの、内部を透視した概略正面図である。
図18図18は第4の実施形態の複合デバイス310DのESD保護特性を示す図である。
図19図19は、第4の実施形態の複合デバイス310Dとその比較例のコモンモードフィルタの挿入損失特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0024】
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係るESD保護デバイス101Dの内部構造を表す平面図であり、図1(B)は図1(A)におけるB−B部分の断面図である。図2は後述するダイオードチップ11を除いた状態でのESD保護デバイス101Dの平面図である。図3はESD保護デバイス101Dの下面図である。
【0025】
ESD保護デバイス101Dは、所定の導体パターンを形成した樹脂シートの積層体(樹脂多層基板)で構成されている。この積層体10の内部にダイオードチップ11が埋設されている。このダイオードチップ11は「ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品」の一例である。
【0026】
ESD保護デバイス101Dの素体は、複数の絶縁性樹脂層の積層体(樹脂多層基板)で構成される。絶縁性樹脂層S1〜S7は、代表的にはポリイミドや液晶ポリマ等の熱可塑性樹脂シートである。積層体は、これら熱可塑性樹脂層(シート)S1〜S7がその表面同士で融着したものである。各熱可塑性樹脂シートを一括積層し、加熱および加圧することで、一体化される。なお、各熱可塑性樹脂シート間には接着材層を有していてもよい。
【0027】
ダイオードチップ11は、第1ツェナーダイオード、第2ツェナーダイオードおよび第3ツェナーダイオードを備える。これらのツェナーダイオードによって第1ESD保護回路および第2ESD保護回路が構成される。ダイオードチップ11の構造は後に詳述する。
【0028】
ESD保護デバイス101Dは、第1平衡ポートを構成する第1端子T1および第2端子T2と、第2平衡ポートを構成する第3端子T3および第4端子T4と、グランド電極に導通するグランド端子GNDと、を有する。
【0029】
図4は上記積層体10の各層に形成される導体パターンの一部を示す図である。図4において層S1の下面には第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、第4端子T4、グランド端子GNDおよびグランド電極EGが形成されている。積層体10の下面にはレジスト膜が形成され、そのレジスト膜から露出した部分が、図3に示したような実装用の端子として用いられる。層S2には、第3コイルL3、第4コイルL4を構成するループ状導体パターンがそれぞれ形成されている。層S3には、第1コイルL1、第2コイルL2を構成するループ状導体パターンがそれぞれ形成されている。層S4はダイオードチップ11の搭載(埋設)される位置を示す。
【0030】
このように、積層体の内部にはループ状導体や引き回し導体等が形成されている。ループ状導体を構成するループ状導体パターン(面内導体)は熱可塑性樹脂シートの表面に設けられた銅等の金属箔をフォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングしたものである。層間接続導体(ビアホール導体)Vは熱可塑性樹脂シートに形成したビアホール導体用孔に錫等を主成分とする金属材料を充填したものである。
【0031】
ダイオードチップ11の第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、第4端子T4、およびグランド端子GNDの表面には銅めっきが施されている。
【0032】
各熱可塑性樹脂シートの加熱加圧時に、ビアホール導体用孔に充填された金属材料が金属化するとともに、第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、第4端子T4、およびグランド端子GNDに接合(例えば液相拡散接合:Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)する。
【0033】
積層体裏面の上記第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3、第4端子T4、およびグランド端子GNDも、熱可塑性樹脂シートの表面に設けられた銅等の金属箔をフォトリソグラフィーおよびエッチングによってパターニングしたものである。但し、それらの表面には、Ni/AuやNi/Sn等のめっき膜が付与されている。
【0034】
図1(A)において、第1コイルL1および第3コイルL3は絶縁性樹脂層S1〜S7の積層方向に沿った巻回軸(中心軸)を有したコイルパターンであり、第1領域Z1は、上記第1コイルL1および第3コイルL3のコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる領域である。同様に、第2コイルL2および第4コイルL4は絶縁性樹脂層S1〜S7の積層方向に沿った巻回軸(中心軸)を有したコイルパターンであり、第2領域Z2は、上記第2コイルL2および第4コイルL4のコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる領域である。このように、第1領域Z1と第2領域Z2との間に、第1ESD保護回路および第2ESD保護回路を構成するダイオードチップ11が配置される。すなわち、積層方向からの平面視で、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3および第4コイルL4を構成するコイルパターンの開口部(内径エリア)の全面をダイオードチップ11が覆わないように配置される。この構造により、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3および第4コイルL4のQ値の低減が抑制される。また、限られた厚み寸法内に、第1、第2のESD保護回路、および第1、第2、第3、第4の各コイルを配置できる。また、第1、第2、第3、第4の各コイルと第1、第2のESD保護回路との不要結合も回避される。
【0035】
上述のとおり、本実施形態のESD保護デバイス101Dは単一のパッケージに構成された単一の部品である。すなわち、このESD保護デバイス101Dは回路基板等に実装される。
【0036】
図5は本実施形態のESD保護回路101Cの回路図である。この回路図は、ESD保護デバイス101Dの回路図でもある。第1コイルL1と第3コイルL3は直列接続されていて、その接続点が第1接続点CN1である。この接続点CN1は、本発明に係る「第1端子(T1)と第3端子(T3)との間の第1接続点」に相当する。また、第2コイルL2と第4コイルL4は直列接続されていて、その接続点が第2接続点CN2である。この接続点CN2は、本発明に係る「第2端子(T2)と第4端子(T4)との間の第2接続点」に相当する。
【0037】
第1コイルL1と第3コイルL3とは和動接続されていて、第2コイルL2と第4コイルL4は和動接続されている。第1コイルL1と第3コイルL3とで整合回路13Aが構成されていて、第2コイルL2と第4コイルL4とで整合回路13Bが構成されている。
【0038】
ダイオードチップ11は、外面に第1電極E1、第2電極E2、第3電極E3を有し、内部に第1ツェナーダイオードD1、第2ツェナーダイオードD2および第3ツェナーダイオードD3を有する。第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2は、第1電極E1と第2電極E2との間に互いに逆方向に直列接続されている。第3ツェナーダイオードD3は、第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2との接続点と第3電極E3との間に接続されている。
【0039】
第1ツェナーダイオードD1は、第1接続点CN1とグランド電極との間に、第3ツェナーダイオードD3を介して接続されている。同様に、第2ツェナーダイオードD2は、第2接続点CN2とグランド電極との間に、第3ツェナーダイオードD3を介して接続されている。第1ツェナーダイオードD1と第3ツェナーダイオードD3との直列回路は第1ESD保護回路を構成し、第2ツェナーダイオードD2と第3ツェナーダイオードD3との直列回路は第2ESD保護回路を構成する。第2ESD保護回路は第1ESD保護回路に対して対称である。
【0040】
図6(A)(B)は、上記第1コイルL1と第3コイルL3との結合による相互インダクタンスと、ESD電流の経路に生じるインダクタンス成分との関係を示す図である。図6(A)においてキャパシタCd1は第1ツェナーダイオードD1の空乏層に生じる寄生容量である。(第1ツェナーダイオードD1(図5参照)は第1接続点CN1と仮想グランドとの間に接続されている。)インダクタESL1は、ESD電流の経路(第1接続点CN1とグランドとの間、すなわち第1ツェナーダイオードおよび第1ツェナーダイオードが接続される導体パターンの一部)に生じるインダクタンス成分である。図6(A)に示す第1コイルL1と第3コイルL3との結合によるトランスは、図6(B)に示すようなT型等価回路で表される。このように、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による相互インダクタンス−Mは第1接続点CN1とグランドとの間に等価的に直列に接続される。第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数をkで表すと、M=k*√(L1*L2)の関係にある。
【0041】
上記第1コイルL1と第3コイルL3とは和動接続されているので、上記相互インダクタンスは負のインダクタンスである。そのため、上記ESD保護デバイスのESD電流経路に生じるインダクタンス成分が相殺される方向に作用する。相互インダクタンスMがインダクタESL1のインダクタンスがと等しければ、ESDの電流経路のインダクタンス成分は0となる。なお、第2コイルL2と第4コイルL4との結合による相互インダクタンスと、ESD電流経路に生じるインダクタンス成分との関係についても同様である。
【0042】
上述のとおり、図5に示した整合回路13A,13Bは、ESD電流の電流経路に生じるインダクタンス成分を相殺するESLキャンセル回路を構成する。この整合回路13A,13Bは、図1(B)に示すように、ダイオードチップ11が埋設された層と積層体10の実装面との間の層に設ける。この構成により、実装用端子電極から整合回路13A,13Bを介してダイオードチップ11までの経路が最短化され、不要な寄生成分(特にインダクタンス成分)が生じにくくなるので、ESD保護時のピーク電圧をより抑制できる。すなわち、ESD回路のESD保護性能を維持できる。
【0043】
図7は、本実施形態のESD保護回路101Eの回路図であり、上記ESD電流経路のインダクタンス成分を含めて表した、ESD保護デバイス101Dの等価回路図である。ダイオードチップ11内には、第1ツェナーダイオードD1に直列接続されるインダクタンス成分ESL11、第2ツェナーダイオードD2に直列接続されるインダクタンス成分ESL21、第3ツェナーダイオードD3に直列接続されるインダクタンス成分ESL31が含まれる。また、第1接続点CN1と第1電極E1との間にインダクタンス成分ESL12、第2接続点CN2と第2電極E2との間にインダクタンス成分ESL22、グランドと第3電極E3との間にインダクタンス成分ESL32がそれぞれ存在する。
【0044】
図6(B)に示したとおり、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による負のインダクタンスでインダクタンス成分(ESL11,ESL12)は抑制され、第2コイルL2と第4コイルL4との結合による負のインダクタンスでインダクタンス成分(ESL21,ESL22)は抑制される。換言すると、インダクタンス成分(ESL11+ESL12)を抑制(好ましくは相殺)する、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による負のインダクタンス、が生じるように第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数を定めればよい。同様に、インダクタンス成分(ESL21+ESL22)を抑制(好ましくは相殺)する、第2コイルL2と第4コイルL4との結合による負のインダクタンス、が生じるように第2コイルL2と第4コイルL4との結合係数を定めればよい。
【0045】
図7に示した、第3ツェナーダイオードD3に直列接続されるインダクタンス成分ESL31、およびダイオードチップ11の第3電極E3とグランドとの間に生じるインダクタンス成分ESL32はそのまま残るが、これらインダクタンス成分は、次に述べるように、等価的には存在しない。すなわち、ESD保護デバイス101Dが平衡動作している限り、第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2との接続点は電位的には中性点(図7に示す点NP)である。この中性点NPとグランドの電位とは等しいので、第3ツェナーダイオードD3に直列接続されるインダクタンス成分ESL31、およびダイオードチップ11の第3電極E3とグランドとの間に生じるインダクタンス成分ESL32には信号電流が流れない。したがって、ESD保護デバイス101Dは、これらインダクタンス成分の影響を実質的に受けない。
【0046】
なお、本実施形態で示したESD保護デバイス101Dでは、第1接続点CN1とグランドとの間に、互いに逆方向に直列接続された2つのツェナーダイオードが挿入され、第2接続点CN2とグランドとの間に、互いに逆方向に直列接続された2つのツェナーダイオードが挿入されるので、正負、いずれのサージ電圧に対しても同じESD保護特性を示す。
【0047】
図8は上記ダイオードチップ11の構成を示す断面図である。ここでは、素子中にツェナーダイオードの記号およびインダクタンス成分をインダクタの記号で表している。このダイオードチップはP型シリコン基板P-subの表面にNのエピタキシャル層を形成し、素子分離用のトレンチTRを形成し、Nのエピタキシャル層内に不純物を適切な濃度で注入することで、N領域を形成する。
【0048】
図8では図示を省略しているが、基板表面にSiO2等の絶縁膜を形成し、N領域の電極形成位置にコンタクトホールを形成し、その開口位置にAl等の金属電極E1,E2,E3を形成する。
【0049】
次に、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による相互インダクタンスでESD電流経路中のインダクタンス成分を相殺したことによる伝送特性の改善効果について示す。図9(A)は、第1コイルL1のインダクタンス、第3コイルL3のインダクタンス、第1コイルL1と第3コイルL3との結合係数k、ESD電流経路中の寄生容量Cd1およびインダクタンス成分ESL1のそれぞれの値の一例を示す回路図である。図9(B)は第1コイルL1、第2コイルL2を設けない状態の、比較例としての回路図であり、図9(C)はインダクタンス成分が無いものとしたときの、比較例としての回路図である。
【0050】
図10は、図9(A)(B)(C)に示した3つの差動伝送線路の通過特性を示す図である。図9(B)に示した、第1コイルL1および第3コイルL3が無い、差動伝送線路では、寄生容量Cd1およびインダクタンス成分ESL1とのLC共振回路がトラップフィルタとして作用し、9GHzで−3dBにまで減衰する。これに対し、図9(A)に示した、本実施形態に係る伝送線路では、その帯域が14.5GHzまで拡がる。なお、図9(C)に示した伝送線路では、インピーダンス不整合によって、本実施形態に係る伝送線路よりも特性は悪い。
【0051】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、第1、第2のESD保護回路の構成が第1の実施形態とは異なるESD保護デバイスの例を示す。
【0052】
図11は第2の実施形態に係るESD保護回路102Cの回路図である。第1の実施形態で図5に示したESD保護回路101Cとは、ツェナーダイオードD3を備えない点で異なる。その他の構成は同じである。
【0053】
ダイオードチップ12は、外面に第1電極E1、第2電極E2、第3電極E3を有し、内部に第1ツェナーダイオードD1および第2ツェナーダイオードD2を有する。第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2は、第1電極E1と第2電極E2との間に、互いに逆方向に直列接続されている。第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2との接続点は第3電極E3に接続されている。
【0054】
ESD保護回路102Cおいて、第1ツェナーダイオードD1は第1ESD保護回路を構成し、第2ツェナーダイオードD2は第2ESD保護回路を構成する。
【0055】
図12は、本実施形態のESD保護回路を構成するESD保護デバイスのESD電流経路のインダクタンス成分を含めて表した、ESD保護回路102Eの回路図である。ダイオードチップ11内には、第1ツェナーダイオードD1に直列接続されるインダクタンス成分ESL11、第2ツェナーダイオードD2に直列接続されるインダクタンス成分ESL21、第1ツェナーダイオードD1と第2ツェナーダイオードD2との接続点から第3電極E3までのインダクタンス成分ESL31が含まれる。また、第1接続点CN1と第1電極E1との間にインダクタンス成分ESL12、第2接続点CN2と第2電極E2との間にインダクタンス成分ESL22、グランドと第3電極E3との間にインダクタンス成分ESL32がそれぞれ存在する。
【0056】
第1の実施形態で示したESD保護回路101Cと同様に、第1コイルL1と第3コイルL3との結合による負のインダクタンスでインダクタンス成分(ESL11,ESL12)は相殺され、第2コイルL2と第4コイルL4との結合による負のインダクタンスでインダクタンス成分(ESL21,ESL22)は相殺される。また、中性点NPとグランドの電位とは等しいので、インダクタンス成分ESL31,ESL32の影響は受けない。
【0057】
図13は上記ダイオードチップ12の構成を示す断面図である。ここでは、素子中にツェナーダイオードの記号およびインダクタンス成分をインダクタの記号で表している。このダイオードチップはP型シリコン基板P-subの表面にNのエピタキシャル層を形成し、素子分離用のトレンチTRを形成し、Nのエピタキシャル層内に不純物を適切な濃度で注入することで、N領域およびP領域を形成する。その他の構成は、図8に示したダイオードチップ11と同じである。
【0058】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、ESD保護デバイスを備える差動伝送線路の例を示す。
【0059】
図14は、送信側増幅回路AMPtと受信側増幅回路AMPrとの間の差動伝送線路210を示す図である。この差動伝送線路210は、第1線路SL1と第2線路SL2による差動伝送線路であり、差動信号を伝送する。この第1線路SL1と第2線路SL2との間にESD保護回路101Cが挿入されている。すなわち、この例では、ESD保護回路101Cの第1コイルL1と第3コイルL3が第1線路SL1に直列に接続されていて、ESD保護回路101Cの第2コイルL2と第4コイルL4が第2線路SL2に直列に接続されている。
【0060】
ESD保護回路101Cの構成は第1の実施形態で示したとおりである。
【0061】
上記構成により、ESD保護回路101Cを構成するESD保護デバイス内の寄生容量とインダクタンス成分とによるLC共振回路の共振周波数は従来のESD保護デバイスに比べて高いので、差動伝送線路210で扱える信号周波数の帯域を拡大できる。
【0062】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、ESD保護デバイスおよびコモンモードチョークコイルを備える複合デバイスの例を示す。
【0063】
図15は、複合デバイス回路310Cの回路図である。このコモンモードフィルタの第1端子T1と第2端子T2とで第1平衡ポートが構成され、第5端子T5と第6端子T6とで第3平衡ポートが構成される。これら第1平衡ポートおよび第3平衡ポートに差動回路や差動伝送線路が接続される。
【0064】
複合デバイス回路310Cは、コモンモードチョークコイル301と、このコモンモードチョークコイル301に接続されたESD保護回路101Cと、を有する。コモンモードチョークコイル301は第5コイルL5とそれに結合する第6コイルL6とで構成される。ESD保護回路101Cの構成は第1の実施形態で示したとおりである。
【0065】
図16は本実施形態のコモンモードフィルタが構成される積層体の各層に形成される導体パターンの一例を示す図である。図17は本実施形態の複合デバイス310Dの、内部を透視した概略正面図である。複合デバイス310Dは、所定の導体パターンを形成した樹脂シートの積層体(樹脂多層基板)で構成されている。この積層体30の内部にダイオードチップ11が埋設されている。ダイオードチップ11の構成は第1の実施形態で示したものと同じである。積層体30の下面に、表面実装用の第1端子T1、第2端子T2、第5端子T5、第6端子T6および2つのグランド端子GNDが露出している。
【0066】
積層体30のうち下層にESD保護回路101Cが構成されていて、上層にコモンモードチョークコイル301が構成されている。コモンモードチョークコイル301とダイオードチップ11との間には導体パターンの無い樹脂空間SPが介在している。そのため、コモンモードチョークコイル301の第5コイルL5および第6コイルL6とダイオードチップ11の導体との不要結合は回避される。また、ESD保護回路101C内の各コイルL1,L2,L3,L4とコモンモードチョークコイル301の各コイルL5,L6との間にダイオードチップ11が介在しているので、ESD保護回路101C内の各コイルL1,L2,L3,L4とコモンモードチョークコイル301の各コイルL5,L6との不要結合も回避される。
【0067】
図16においては、各層S1〜S17の下面図を表している。層S1の下面には第1端子T1、第2端子T2、第5端子T5、第6端子T6、グランド端子GNDおよびグランド電極EGが形成されている。積層体30の下面にはレジスト膜が形成され、そのレジスト膜から露出した部分が、表面実装用の端子として用いられる。層S2には、第1コイルL1、第2コイルL2の導体パターンがそれぞれ形成されている。層S3には、第3コイルL3、第4コイルL4の導体パターンがそれぞれ形成されている。層S4にはダイオードチップ11を搭載(埋設)するための開口部CAが形成されている。
【0068】
図16において、層S9から層S17に亘って、第5コイルL5および第6コイルL6が形成されている。第5コイルL5と第6コイルL6は、層が移る毎に外周側と内周側との位置関係が入れ替わる。このことにより、第5コイルL5と第6コイルL6のインダクタンスを等しくし、差動線路の平衡を保っている。また、第5コイルL5および第6コイルL6の径は、層が移る毎に大小を交互に繰り返す。このことにより、層間で第5コイルL5同士に生じる寄生容量、層間で第6コイルL6同士に生じる寄生容量、第5コイルL5と第6コイルL6との層間に生じる寄生容量をそれぞれ小さくしている。
【0069】
上述のとおり、整合回路13A,13Bを構成する、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3、および第4コイルL4の少なくとも一部(第1ループ状導体)は、ダイオードチップ11が埋設された層と積層体30の実装面との間の層に設けられている。また、コモンモードチョークコイル301を構成する第5コイルL5および第6コイルL6の少なくとも一部(第2ループ状導体)は、ダイオードチップ11が埋設された層と、積層体30の実装面とは反対側の面と、の間の層に設けられている。本実施形態では、上記「第1ループ状導体」は、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3、および第4コイルL4を構成するループ状導体の殆ど全部である。また、上記「第2ループ状導体」は、第5コイルL5および第6コイルL6を構成するループ状導体の殆ど全部である。
【0070】
このように整合回路13A,13B用のコイルとコモンモードチョークコイル301とを配置することにより、大型化を抑制しつつ、整合回路13A,13Bとコモンモードチョークコイル301との結合が抑制される。
【0071】
また、コモンモードチョークコイル301のQ値の低減を抑制されるとともに、不要な共振点の出現が抑制される。
【0072】
なお、ダイオードチップ11を構成する半導体基板はグランド電位であるので、コモンモードチョークコイル301とダイオードチップ11との距離が近いと、コモンモードチョークコイル301とグランドとの間に浮遊容量が発生する。本実施形態では、ダイオードチップ11は、整合回路13A,13B側寄りにオフセット配置されている。すなわち、ダイオードチップ11とコモンモードチョークコイル301との間に電磁気的な間隙が形成されている。このことにより、コモンモードチョークコイル301とグランドとの間に生じる浮遊容量は抑制される。
【0073】
上述のとおり、本実施形態の複合デバイス310Dは単一のパッケージに構成された単一の部品である。すなわち、この複合デバイス310Dは回路基板等に実装される。
【0074】
図18は本実施形態の複合デバイス310DのESD保護特性を示す図である。具体的には、IEC61000-4-2試験規格で、接触8kV印加時の放電電圧波形を確認した。この試験規格は、低い相対湿度環境で、操作者から直接、または近接物体から発生する静電気放電に対する電子機器のイミュニティ評価に適用される規格である。
【0075】
図18に示すように、1nsオーダーで応答し、且つ放電電圧は80V未満に抑えられている。
【0076】
図19は、本実施形態の複合デバイス310Dとその比較例のコモンモードフィルタの挿入損失特性を示す図である。比較例のコモンモードフィルタは、本実施形態のコモンモードフィルタから、第1コイルL1、第2コイルL2、第3コイルL3および第4コイルL4を除いたものである。図19において、縦軸は挿入損失、横軸は周波数であり、本実施形態のコモンモード信号(ノイズ)の挿入損失S21(CC)E、比較例のコモンモード信号(ノイズ)の挿入損失S21(CC)P、本実施形態のディファレンシャルモード信号の挿入損失S21(DD)E、比較例のディファレンシャル信号の挿入損失S21(DD)P、をそれぞれ示している。
【0077】
図19から明らかなように、コモンモード信号(ノイズ)に対しては、例えば1.8GHz以上3.8GHz以下の周波数帯域で、-10dB以上減衰させる、という規定を満足し、ディファレンシャルモード信号に対しては、例えば7.5GHz以下で-3dB未満という規定を満足している。
【0078】
《他の実施形態》
以上に示した各実施形態のうち、図5に示したESD保護回路101Cでは、第1接続点CN1に第1ツェナーダイオードD1のカソードを接続し、第2接続点CN2に第2ツェナーダイオードD2のカソードを接続し、グランドに第3ツェナーダイオードD3のカソードを接続したが、これらツェナーダイオードD1,D2,D3の向きは逆であってもよい。同様に、図11に示したESD保護回路102Cにおいて、ツェナーダイオードD1,D2の向きは逆であってもよい。
【0079】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形および変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0080】
AMPr…受信側増幅回路
AMPt…送信側増幅回路
Cd1…寄生容量
CN1…第1接続点
CN2…第2接続点
D1…第1ツェナーダイオード
D2…第2ツェナーダイオード
D3…第3ツェナーダイオード
E1…第1電極
E2…第2電極
E3…第3電極
EG…グランド電極
ESL1…インダクタンス成分
ESL11,ESL12…インダクタンス成分
ESL21,ESL22…インダクタンス成分
ESL31,ESL32…インダクタンス成分
GND…グランド端子
L1…第1コイル
L2…第2コイル
L3…第3コイル
L4…第4コイル
L5…第5コイル
L6…第6コイル
NP…中性点
S1〜S17…絶縁性樹脂層
SL1…第1線路
SL2…第2線路
SP…樹脂空間
T1…第1端子
T2…第2端子
T3…第3端子
T4…第4端子
T5…第5端子
T6…第6端子
TR…トレンチ
V…層間接続導体
Z1…第1領域
Z2…第2領域
10…積層体
11,12…ダイオードチップ
13A,13B…整合回路
30…積層体
101C,102C…ESD保護回路
101D…ESD保護デバイス
101E,102E…ESD保護回路(等価回路)
210…差動伝送線路
301…コモンモードチョークコイル
310C…複合デバイス回路
310D…複合デバイス
【要約】
ESD保護デバイス(101D)は、第1平衡ポートを構成する第1端子(T1)および第2端子(T2)と、第2平衡ポートを構成する第3端子(T3)および第4端子(T4)と、グランド電極(EG)に導通するグランド端子(GND)とを備える。第1端子(T1)と第3端子(T3)との間には、第1ESD保護回路のインダクタンス成分を打ち消す、第1コイルおよび第3コイルを形成されていて、第2端子(T2)と第4端子(T4)との間には、第2ESD保護回路のインダクタンス成分を打ち消す、第2コイルおよび第4コイルを形成されている。
図1
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