【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のESD保護回路は、
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成により、第1コイルと第2コイルとの結合による相互インダクタンスは、等価的な負のインダクタンスであり、これが第1ESD保護回路に対して直列に挿入されることになるので、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が抑制される。同様に、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が抑制される。そのため、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、第1ESD保護回路の容量成分と、で構成される共振回路の共振周波数、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分と、第2ESD保護回路の容量成分と、で構成される共振回路の共振周波数、はいずれも非常に高くできる。したがって、このESD保護回路が接続される回路や線路の搬送周波数帯域において、ESD保護回路に不要な共振が生じるのを抑制できる。
【0009】
また、第1ESD保護回路と第2ESD保護回路のそれぞれの一端はグランドに共通接続されるので、このESD保護回路が接続される外部の回路の影響を受けることなく、第1接続点から第2接続点までの経路に生じるインダクタンス成分は固定される。そのため、上記インダクタンス成分の抑制効果は外部の回路の影響を受けない。
【0010】
(2)上記(1)において、前記第1コイルおよび前記
第3コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第1領域に形成され、前記
第2コイルおよび前記第4コイルは、それらのコイル開口が平面視で少なくとも一部で重なる第2領域に形成され、前記第1領域と前記第2領域との間に前記第1ESD保護回路および前記第2ESD保護回路が形成された構造であることが好ましい。これにより、限られた厚み寸法内に、第1、第2のESD保護回路、および第1、第2、第3、第4の各コイルを配置できる。また、第1、第2、第3、第4の各コイルと第1、第2のESD保護回路との不要結合も回避しやすい。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1ツェナーダイオードに対して逆方向、且つ前記第2ツェナーダイオードに対して逆方向に接続される第3ツェナーダイオードを備え、
前記第1ESD保護回路は、前記第1ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路であり、前記第2ESD保護回路は、前記第2ツェナーダイオードと前記第3ツェナーダイオードとの直列回路であることが好ましい。この構造により、平衡ポートとグランドとの間に印加されるサージ電圧の極性に依存せず、ESD保護を行うことができる。
【0012】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記第1コイルと前記第3コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値であり、前記第2コイルと前記第4コイルとの結合による相互インダクタンスは、前記第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分を相殺する値であることが好ましい。これにより、第1ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分および、第2ESD保護回路を通って流れるESD電流の経路に生じるインダクタンス成分が相殺されて、上記共振回路の共振周波数はいずれも非常に高くできる。
【0013】
(5)本発明の差動伝送線路は、
第1線路および第2線路を有し、差動信号を伝送する差動伝送線路と、当該差動伝送線路に接続されたESD保護回路と、を有し、
前記ESD保護回路は、
前記差動伝送線路に接続される第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
前記差動伝送線路に接続される第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
を備え、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、
を備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成により、第1ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路および、第2ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路の共振周波数を搬送周波数帯よりも高い周波数帯に移動させることができ、より高周波数帯まで、差動伝送線路としての特性を維持できる。
【0015】
(6)本発明のコモンモードフィルタ回路は、
コモンモードチョークコイルと、当該コモンモードチョークコイルに接続されたESD保護回路と、を有するコモンモードフィルタ回路であって、
第1平衡ポートを構成する第1端子および第2端子と、
第2平衡ポートを構成する第3端子および第4端子と、
第3平衡ポートを構成する第5端子および第6端子と、
前記ESD保護回路は、
第1ツェナーダイオードを含み、前記第1端子と前記第3端子との間の第1接続点とグランドとの間に接続された、第1ESD保護回路と、
第2ツェナーダイオードを含み、前記第2端子と前記第4端子との間の第2接続点とグランドとの間に接続され、第1ESD保護回路に対して対称の第2ESD保護回路と、
前記第1端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第1コイルと、
前記第1コイルと和動接続され、前記第3端子と前記第1接続点との間に直列に挿入された第3コイルと、
前記第2端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第2コイルと、
前記第2コイルと和動接続され、前記第4端子と前記第2接続点との間に直列に挿入された第4コイルと、を備え、
前記コモンモードチョークコイルは、
前記第3端子と前記第5端子との間に接続された第5コイルと、
前記第4端子と前記第6端子との間に接続され、前記第5コイルと結合する第6コイルと、を備える、
ことを特徴とする。
【0016】
上記構成により、第1ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路および、第2ESD保護回路の容量成分と、そのESD電流経路に生じるインダクタンス成分とで構成される共振回路の共振周波数を搬送周波数帯よりも高い周波数帯に移動させることができ、より高周波数帯まで、コモンモードフィルタ回路としての特性を維持できる。
【0017】
(7)本発明のESD保護デバイスは、
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられたループ状導体パターンを含み、
前記ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられている、
ことを特徴とする。
【0018】
上記構成により、実装用端子電極から整合回路を介してESD保護用半導体チップ部品までの経路が最短化され、不要な寄生成分(特に寄生インダクタンス成分)が生じにくくなるので、ESD保護時のピーク電圧をより抑制できる。すなわち、ESD回路のESD保護性能を維持できる。
【0019】
(8)本発明の複合デバイスは、
複数の絶縁性樹脂層を積層してなる積層体と、
前記積層体の実装面に形成された複数の端子電極と、
前記積層体に埋設され、ダイオードが構成されたESD保護用半導体チップ部品と、
前記積層体の内部に設けられ、前記ESD保護用半導体チップ部品と前記複数の端子電極との間に接続された整合回路と、
前記整合回路と前記複数の端子電極との間に接続され、前記積層体の内部に設けられたコモンモードフィルタ回路と、
を備え、
前記整合回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第1ループ状導体パターンを含み、前記コモンモードフィルタ回路は、前記絶縁性樹脂層に設けられた第2ループ状導体パターンを含み、
前記第1ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と前記積層体の前記実装面との間の層に設けられていて、前記第2ループ状導体パターンは、前記ESD保護用半導体チップ部品が埋設された層と、前記積層体の前記実装面とは反対側の面と、の間の層に設けられている、
ことを特徴とする。
【0020】
上記構成により、実装用端子電極と整合回路との間に不要な寄生成分が生じにくくなる。また、コモンモードフィルタ回路に比べて、ESD保護回路が実装用端子電極に近い位置に配置されるので、実装用端子電極とESD保護回路との間に不要な寄生成分が生じにくくなる。これにより、ESD保護時のピーク電圧をより抑制でき、ESD回路のESD保護性能を維持できる。