特許第6222433号(P6222433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6222433-蓄電デバイス用負極活物質の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222433
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/48 20100101AFI20171023BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171023BHJP
   C01B 35/12 20060101ALI20171023BHJP
   C01B 35/18 20060101ALI20171023BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 10/02 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 12/00 20060101ALI20171023BHJP
   C03B 32/02 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01M4/48
   H01M4/36 E
   H01M4/36 C
   C01B35/12 A
   C01B35/18
   C01G23/00 B
   C03C10/02
   C03C12/00
   C03B32/02
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-164717(P2013-164717)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-35290(P2015-35290A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−040150(JP,A)
【文献】 特開2012−178327(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137154(WO,A1)
【文献】 特開2007−234233(JP,A)
【文献】 特開平11−224676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/48
H01M 4/36
C01B 35/12
C01B 35/18
C01G 23/00
C03B 32/02
C03C 10/02
C03C 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)TiO、NaO、及び網目形成酸化物を含むバッチを調合する工程、(2)バッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程、(3)溶融ガラスを冷却し溶融固化体を得る工程、(4)得られた溶融固化体を粉砕し、溶融固化体粉末を得る工程、および(5)溶融固化体粉末を500〜1000℃で焼成し結晶化ガラス粉末を得る工程を含むことを特徴とする蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【請求項2】
工程(5)において、溶融固化体粉末に有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方を添加し、不活性または還元雰囲気にて焼成を行うことを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられる蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用パソコンや携帯電話の普及に伴い、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスの高容量化と小サイズ化に対する要望が高まっている。蓄電デバイスの高容量化が進めば、電池の小サイズ化も容易となるため、蓄電デバイスの高容量化へ向けての開発が急務となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイス用負極活物質には、一般に黒鉛質炭素材料、ハードカーボンなどの炭素材料が用いられている。
【0004】
さらに、リチウムイオンやナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能な負極活物質として、層状ナトリウムチタン酸化物NaTiが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−234233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、層状ナトリウムチタン酸化物NaTi負極活物質は、放電容量維持率(サイクル特性)が低いという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、放電容量維持率が高い蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、TiO、NaO、及び網目形成酸化物を含有することを特徴とする。
【0009】
前記網目形成酸化物が、Bであることが好ましい。
【0010】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶を含有することが好ましい。
【0011】
さらに、前記単斜晶系結晶が、空間群P2/mに属する結晶であることが好ましい。
【0012】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、非晶質相を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、酸化物換算のモル%表示で、TiO 10〜75%、NaO 10〜50%、網目形成酸化物 0.1〜50%を含有することが好ましい。
【0014】
さらに、ZnO+SnO+MnO+Nb+Sb+Bi 0.1〜25%を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、粒子状であり、粒子表面が導電性炭素で被覆されていることが好ましい。
【0016】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、(1)TiO、NaO、及び網目形成酸化物を含むバッチを調合する工程、(2)バッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程、および(3)溶融ガラスを冷却し溶融固化体を得る工程を含むことを特徴とする。
【0017】
さらに、(4)得られた溶融固化体を粉砕し、溶融固化体粉末を得る工程、および(5)溶融固化体粉末を500〜1000℃で焼成し結晶化ガラス粉末を得る工程を含むことが好ましい。
【0018】
さらに、工程(5)において、溶融固化体粉末に有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方を添加し、不活性または還元雰囲気にて焼成を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、放電容量維持率が高い蓄電デバイス用負極活物質およびその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の負極活物質のX線回折パターン。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、TiO、NaO、及び網目形成酸化物を含有することを特徴とする。
【0022】
TiOは、充放電の駆動力となるレドックス成分である。TiOの含有量は10〜75%であることが好ましく、20〜70%であることがより好ましく、30〜65%であることがさらに好ましく、40〜60%であることが特に好ましい。TiOの含有量が少なすぎると、負極活物質の放電容量が低下する傾向がある。一方、TiOの含有量が多すぎると、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶以外の異種結晶が析出しやすくなり、負極活物質の電極電位が高くなる。
【0023】
NaOは、リチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性を向上させる成分である。NaOの含有量は10〜50%であることが好ましく、15〜45%であることがより好ましく、20〜42%であることがさらに好ましく、25〜40%であることが特に好ましい。NaOの含有量が少なすぎると、負極活物質の放電容量が低下したり、高速充放電特性が低下したりする傾向がある。一方、NaOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0024】
網目形成酸化物とは、その酸化物単独で三次元の不規則網目構造、すなわち非晶質相を形成しうる酸化物であり、具体的には、B、SiO、P、GeO等が挙げられる。網目形成酸化物は、負極活物質中に非晶質相を含有させやすくし、リチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性を向上させる効果を有する。網目形成酸化物の含有量は0.1〜50%であることが好ましく、1〜40%であることがより好ましく、3〜30%であることがさらに好ましく、5〜20%であることが特に好ましい。網目形成酸化物の含有量が少なすぎると、リチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、網目形成酸化物の含有量が多すぎると、負極活物質の放電容量が低下する傾向がある。
【0025】
の含有量は0.1〜50%であることが好ましく、1〜40%であることがより好ましく、3〜30%であることが特に好ましい。Bの含有量が少なすぎると、リチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性が低下しやすくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下する傾向がある。
【0026】
SiOの含有量は0〜40%であることが好ましく、1〜30%であることがより好ましく、3〜20%であることが特に好ましい。SiOの含有量が多すぎると、負極活物質の放電容量が低下する傾向がある。
【0027】
の含有量は0〜25%であることが好ましく、1〜20%であることがより好ましく、3〜15%であることが特に好ましい。Pの含有量が少なすぎると、リチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性が低下し、高速充放電特性が低下しやすくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0028】
GeOの含有量は0〜40%であることが好ましく、1〜30%であることがより好ましく、3〜20%であることが特に好ましい。GeOの含有量が多すぎると、負極活物質の放電容量が低下する傾向がある。
【0029】
また、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、ZnO、SnO、MnO、Nb、SbまたはBiを含有していてもよい。これらの成分を含有することにより、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。上記成分の含有量の合計は0.1〜25%であることが好ましく、0.2〜10%であることが特に好ましい。上記成分の含有量の合計が多すぎると、蓄電デバイスの充放電に関与しない異種結晶が生じ、負極活物質の放電容量が低下しやすくなる。
【0030】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶を含有することが好ましい。Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶を含有することにより、負極活物質の電極電位が低くなるとともに、放電容量が高くなる傾向がある。Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶は、空間群P2/mに属する結晶であることが好ましく、一般式NaTi(x/2+2y)(1≦x≦3、2≦y≦4)で表される結晶であることがより好ましく、NaTi結晶であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、非晶質相を含むことが好ましい。非晶質相を含むことにより、負極活物質のリチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性が向上するため、高速充放電特性が向上しやすくなる。
【0032】
さらに、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、結晶化ガラスからなることが好ましい。結晶化ガラスであれば、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶と非晶質相との両方を容易に複合化できるので、負極活物質の放電容量と高速充放電特性の両方が向上する傾向がある。
【0033】
負極活物質におけるNa、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の結晶化度は30質量%以上、40質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましい。Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の結晶化度が低すぎると、放電容量が低下する傾向がある。なお、上限については特に限定されないが、現実的には99質量%以下である。
【0034】
Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルにおいて、結晶性回折線と非晶質ハローにピーク分離することで求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出されるNa、TiおよびOを含む単斜晶系結晶由来の結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIc、その他の結晶性回折線から求めた積分強度の総和をIoとした場合、結晶の含有量Xcは次式から求められる。
【0035】
Xc=[Ic/(Ic+Ia+Io)]×100(%)
【0036】
Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の結晶子サイズが小さいほど、負極活物質粒子の平均粒子径を小さくすることが可能となり、電気伝導性を向上させることができる。具体的には、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の結晶子サイズは100nm以下、特に80nm以下であることが好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には1nm以上、さらには10nm以上である。結晶子サイズは、粉末X線回折の解析結果からシェラーの式に従って求められる。
【0037】
さらに、本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、粒子状であり、粒子表面が導電性炭素で被覆されていることが好ましい。粒子表面が導電性炭素で被覆されていることにより、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。
【0038】
負極活物質の平均粒子径は0.1〜20μm、0.3〜15μm、特に0.5〜10μmであることが好ましい。負極活物質の平均粒子径が小さすぎると、負極活物質粒子同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散しにくくなる。その結果、電池の内部抵抗が高くなり放電電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。一方、負極活物質の平均粒子径が大きすぎると、負極活物質の比表面積が小さくなりやすく、負極活物質と電解質との界面におけるリチウムイオンおよびナトリウムイオン伝導性が低下する傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
【0039】
なお、本発明において、平均粒子径はD50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値をさすものとする。
【0040】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、炭素の含有量が0.01〜20質量%、0.05〜20質量%、1〜20質量%、2〜15質量%、特に3〜12質量%であることが好ましい。炭素の含有量が少なすぎると、カーボン含有層による被覆が不十分となり、電子の伝導性に劣る傾向がある。一方、炭素の含有量が多すぎると、相対的に負極活物質粒子の含有量が小さくなり、負極活物質単位質量当たりの放電容量が小さくなる傾向がある。
【0041】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質は、ラマン分光法における1550〜1650cm−1のピーク強度Gに対する1300〜1400cm−1のピーク強度Dの比(D/G)が1以下、特に0.8以下であり、かつ、ピーク強度Gに対する800〜1100cm−1のピーク強度Fの比(F/G)が0.5以下、特に0.1以下であることが好ましい。これらのピーク強度比が上記範囲を満たすことにより、負極活物質の電子伝導性が高くなる傾向がある。
【0042】
本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、(1)TiO、NaO、及び網目形成酸化物を含むバッチを調合する工程、(2)バッチを溶融し、溶融ガラスを得る工程、および(3)溶融ガラスを冷却し溶融固化体を得る工程を含むことを特徴とする。このような溶融法により負極活物質を製造することにより、各構成成分が均質に分散された負極活物質が得られやすくなる。
【0043】
溶融温度は原料バッチが均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。具体的には、700℃以上、特に900℃以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、高すぎるとエネルギーロスにつながるため、1500℃以下、特に1400℃以下であることが好ましい。
【0044】
また、溶融固化体を得る工程としては、上記以外にゾル−ゲルプロセス、溶液ミストの火炎中への噴霧などの化学気相合成プロセス、メカノケミカルプロセス等も適用可能である。
【0045】
さらに、本発明の蓄電デバイス用負極活物質の製造方法は、(4)得られた溶融固化体を粉砕し、溶融固化体粉末を得る工程、および(5)溶融固化体粉末を500〜1000℃で焼成し結晶化ガラス粉末を得る工程を含むことが好ましい。
【0046】
溶融固化体の粉砕方法は特に限定されず、ボールミル、ビーズミル、アトライター等の一般的な粉砕装置を用いることできる。
【0047】
溶融固化体粉末の平均粒子径は小さいほど負極活物質全体としての比表面積が大きくなり、イオンや電子の交換が行いやすくなるため好ましい。
【0048】
溶融固化体粉末の熱処理温度は、溶融固化体の組成によって異なるため特に限定されるものではない。熱処理温度の下限は500℃、550℃、特に600℃以上であることが好ましい。熱処理温度が低すぎると、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の析出が不十分になり、放電容量が低下するおそれがある。一方、熱処理温度の上限は1000℃、950℃、特に900℃であることが好ましい。熱処理温度が高すぎると、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶が溶解するおそれがあるため好ましくない。
【0049】
熱処理時間は、Na、TiおよびOを含む単斜晶系結晶の析出が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、0.5〜20時間、1〜15時間、特に8〜12時間であることが好ましい。
【0050】
さらに、工程(5)において、溶融固化体粉末に有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方を添加し、不活性または還元雰囲気にて焼成を行うことが好ましい。これにより、負極活物質粒子表面をカーボン含有層により被覆することができる。
【0051】
導電性カーボンとしては、グラファイト、アセチレンブラック、アモルファスカーボン等が挙げられる。なお、アモルファスカーボンは、FT−IR分析において、負極活物質の導電性低下の原因となるC−O結合ピークやC−H結合ピークが実質的に検出されないことが好ましい。有機化合物としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸、グルコースおよび有機バインダー、界面活性剤等が挙げられる。
【0052】
有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方の添加量は、前駆体ガラス粉末100質量部に対して、0.01〜50質量部であることが好ましく、0.1〜50質量部であることがより好ましく、1〜30質量部であることがさらに好ましく、5〜20質量部であることが特に好ましい。有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方の添加量が少なすぎると、負極活物質粒子表面を十分にカーボン含有層で被覆することが困難になる。有機化合物または導電性カーボン、あるいはその両方の添加量が多すぎると、カーボン含有層の厚みが大きくなってリチウムイオンおよびナトリウムイオンの移動が妨げられ、放電容量が低下する傾向がある。
【0053】
本発明の蓄電デバイス用負極は、上述した負極活物質に対し、導電助剤および結着剤を添加し、これらを水や、N−メチルピロリドン等の溶媒に懸濁させてスラリー化し、このスラリーをアルミニウム箔、銅箔等の集電体に塗布、乾燥、プレスして帯状にすることにより作製する。
【0054】
導電助剤は、急速充放電を達成するために添加される成分である。具体例としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークス等が挙げられる。なかでも、極少量の添加で優れた導電性を発揮する高導電性カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0055】
結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素系ゴム、スチレンーブタンジエンゴム(SBR)等の熱可塑性直鎖状高分子;熱硬化性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;カルボキシメチルセルロース(カルボキシメチルセルロースナトリム等のカルボキシメチルセルロース塩も含む。以下同様)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロースおよびヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンおよびその共重合体等の水溶性高分子が挙げられる。
【0056】
負極活物質、導電助剤および結着剤の配合比は、負極活物質 70〜95重量%、導電助剤 3〜20重量%、結着剤 2〜20重量%の範囲にすることが好ましい。
【0057】
集電体としては、例えばアルミニウム箔やアルミニウム合金箔や銅箔を用いることができる。アルミニウム合金としては、アルミニウムと、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素とからなる合金が挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1、2の負極活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化チタン(TiO)、及び無水ホウ酸(B)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製した。
【0060】
得られた溶融固化体をボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの溶融固化体粉末を得た。
【0061】
得られた溶融固化体粉末を、大気雰囲気中800℃にて1時間熱処理を行うことにより、負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折線が確認された。実施例1の負極活物質のX線回折パターンを図1に示す。
【0062】
実施例3の負極活物質は、次のとおり作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、酸化チタン(TiO)、及び無水ホウ酸(B)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、1300℃にて1時間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、一対のロールに溶融ガラスを流し込み、急冷しながらフィルム状に成形することにより溶融固化体を作製した。
【0063】
得られた溶融固化体をボールミルで20時間粉砕し、空気分級することにより、平均粒子径2μmの負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、結晶に由来する回折線が確認されず、非晶質であった。
【0064】
比較例1の負極活物質は、次のように作製した。炭酸ナトリウム(NaCO)、及び酸化チタン(TiO)を原料とし、表1に記載の組成となるように原料粉末を調合し、ボールミルで粉砕混合してペレット化した後、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応させた。その後、ボールミルによる粉砕、ペレット化、大気雰囲気中800℃で20時間固相反応の各処理を再度行うことにより、負極活物質を得た。粉末X線回折パターンを確認したところ、表1に記載の結晶に由来する回折線が確認された。
【0065】
蓄電デバイス用負極活物質に対し、結着剤としてPVDF、導電助剤としてケッチェンブラックを、負極活物質:結着剤:導電助剤=80:15:5(質量比)となるように秤量し、これらをN-メチルピロリドン(NMP)に分散したあと、自転・公転ミキサーで十分に攪拌してスラリー化した。次に、隙間100μmのドクターブレードを用いて、負極集電体である厚さ20μmの銅箔上に、得られたスラリーをコートし、乾燥機にて80℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/cmでプレスすることにより、電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、140℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得た。
【0066】
次に、コインセルの下蓋に、得られた作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータ(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)および対極である金属ナトリウムを積層し、ナトリウムイオン二次電池を作製した。電解液としては、1M NaPF溶液/EC(エチレンカーボネート):DEC(ジエチルカーボネート)=1:1(体積比)を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度−70℃以下の環境で行った。
【0067】
得られた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持率を測定した。結果を表1に示す。
【0068】
なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのナトリウムイオンの吸蔵)は、2Vから0VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出)は、0Vから2VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。ナトリウムイオン二次電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する20サイクル目の放電容量の比率をいう。
【0069】
また、コインセルの下蓋に、得られた作用極を銅箔面を下に向けて載置し、その上に60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜からなるセパレータおよび対極である金属リチウムを積層し、リチウムイオン二次電池も作製した。電解液としては、1M LiPF溶液/EC:DEC=1:1(体積比)を用いた。なお、試験電池の組み立ては露点温度−40℃以下の環境で行った。
【0070】
得られた電池を用いて30℃で充放電試験を行い、放電容量及び放電容量維持率を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
なお、充放電試験において、充電(負極活物質へのリチウムイオンの吸蔵)は、2.5Vから1.2VまでのCC(定電流)充電により行い、放電(負極活物質からのナトリウムイオンの放出)は、1.2Vから2.5VまでCC放電により行った。Cレートは0.1Cとした。リチウムイオン二次電池における放電容量維持率は、初回放電容量に対する10サイクル目の放電容量の比率をいう。
【0072】
【表1】
【0073】
以上のように、実施例1〜3において作製された負極活物質は、網目形成酸化物であるBを含有するため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は87〜122mAhg−1と高く、放電容量維持率も72〜92%と高かった。また、リチウムイオン二次電池における放電容量は48〜51mAhg−1であり、放電容量維持率は96〜98%と高かった。一方、比較例1において作製された負極活物質は、Bを含有しないため、ナトリウムイオン二次電池における放電容量は112mAhg−1と高かったものの、放電容量維持率が25%と低かった。また、リチウムイオン二次電池における放電容量は45mAhg−1であり、放電容量維持率は75%であり、いずれも低かった。
図1