(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、白色LED等の半導体発光素子デバイスは、白熱電球や蛍光灯に代わる次世代の光源として注目されている。一般に、白色LEDは、無機蛍光体粉末と樹脂の混合物を励起LEDチップ上に被覆モールドした構造を有している。しかしながら、LEDチップから照射される熱や光は、限られた部分に集中的に照射されるため、被覆モールドに用いられる樹脂が容易に着色あるいは変形してしまう。そのため、短期間で発光色の変化が起こり、半導体発光素子デバイスとしての寿命が短いという問題がある。LEDチップの高出力化に伴ってこの問題は深刻化すると考えられており、耐熱性に優れる半導体発光素子デバイスの開発が望まれていた。
【0003】
これに対し、樹脂マトリクスを用いない無機固体からなる波長変換部材を使用したLEDデバイスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。当該波長変換部材は優れた耐熱性を有し、熱劣化がほとんど生じない。特許文献1に開示されている波長変換部材は、ガラス粉末及び無機蛍光体粉末の混合物を金型に充填し、軟化点付近で熱処理(焼結)することで、例えば板状成型体として提供される。
【0004】
板状の波長変換部材を用いた従来の半導体発光素子デバイスを
図5に示す。
図5に示すように、半導体発光素子デバイス1において、半導体発光素子2はボンディングワイヤ3を用いて基板4上のリード電極(図示せず)と電気的に接続されている。ここで、波長変換部材5を半導体発光素子2上に実装する場合、ボンディングワイヤ3が波長変換部材5と半導体発光素子2の接近を阻害してしまい、実装の自由度の低下を招く。加えて、半導体発光素子2と波長変換部材5の距離Dが大きくなることにより、半導体発光素子2から発せられた光の、波長変換部材5への入射効率が低下するという問題もある。
【0005】
さらに、半導体発光素子2と波長変換部材5の間にボンディングワイヤ3が存在することにより、半導体発光素子2から発せられた光をボンディングワイヤ3が吸収したり、ボンディングワイヤ3の影が波長変換部材5に投影されたりして、光束値が低下するという問題もある。
【0006】
上記問題を解消するため、ボンディングワイヤを貫通させるための、開口部または切り欠け部が形成された波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2参照)。ボンディングワイヤが波長変換部材に形成された開口部または切り欠け部に貫通するように配置すれば、発光素子と波長変換部材の距離Dを小さくすることが可能となり、光束値の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の波長変換部材の製造方法は、開口部及び/または切り欠け部が形成された波長変換部材を製造するための方法に関する。
【0015】
開口部及び/または切り欠け部が形成された波長変換部材の第一〜第四の実施形態を
図1(a)〜(d)に示す。
図1に示すように、波長変換部材5には開口部Oまたは切り欠け部Cが設けられている。
【0016】
図2に、
図1の波長変換部材を用いた半導体発光素子デバイスの一実施形態を示す断面図を示す。
図2に示すように、半導体発光素子2は基板4上に設置されており、2本のアーチ状のボンディングワイヤ3により基板4上のリード電極(図示せず)と電気的に接続されている。さらに、板状の波長変換部材5が半導体発光素子2の上方に設置されている。なお、
図2では示していないが、通常、波長変換部材5は、ケーシングやカップ上に設置して用いられる。ここで、半導体発光素子2と接続したボンディングワイヤ3は、一旦開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通した後、波長変換部材5上でアーチ状に屈曲し、再び開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通して基板4上のリード電極と接続する構造を有している。
【0017】
開口部及び/または切り欠け部が形成された波長変換部材の第五〜第七の実施形態を
図3(a)〜(d)に示す。
図3に示すように、波長変換部材1には開口部Oまたは切り欠け部Cが設けられている。
【0018】
図4に、
図3の波長変換部材を用いた半導体発光素子デバイスの一実施形態を示す断面図を示す。本実施形態では、2本のボンディングワイヤ3がそれぞれ1箇所ずつの開口部Oまたは切り欠け部Cを貫通して波長変換部材5の上方に突出し、アーチ状に屈曲した後、波長変換部材5の外側を通って、すなわち、再び開口部Oや切り欠け部Cを貫通することなくリード電極と接続している。
【0019】
なお、波長変換部材に形成される開口部の形状は特に限定されず、円形や楕円形以外に、長方形、三角形等の多角形であってもよい。また、切り欠け部の形状も特に限定されず、円形の一部(半円形等)、楕円形の一部(半楕円形等)、三角形、長方形等の多角形等から適宜選択される。
【0020】
既述のように、波長変換部材に形成される開口部及び切り欠け部の大きさは、光変換効率の観点からなるべく小さいほうが好ましい。例えば、開口部(または切り欠け部)が円形(または円形の一部)の場合、直径は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には、10μm以上、さらには30μm以上である。開口部(または切り欠け部)が楕円形(または楕円形の一部)の場合、短径は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には、10μm以上、さらには30μm以上である。開口部(または切り欠け部)が長方形の場合、短辺は100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には、10μm以上、さらには30μm以上である。
【0021】
なお、波長変換部材には開口部と切り欠け部の両方が形成されていても構わない。
【0022】
波長変換部材の厚みは特に限定されないが、0.05〜1mmが好ましく、0.08〜0.5mmがより好ましく、0.1〜0.2mmがさらに好ましい。波長変換部材の厚みが小さすぎると、機械的強度に劣るとともに、製造及び加工が困難となる。一方、波長変換部材の厚みが大きすぎると、半導体発光素子から照射される光が透過しにくくなり、光束値が低下する傾向がある。
【0023】
波長変換部材の大きさは特に限定されず、半導体発光素子デバイスに要求される仕様に応じて適宜選択される。具体的には、波長変換部材の大きさ(面積)は、0.1〜10000mm
2、0.5〜1000mm
2、特に1〜100mm
2の範囲で選択される。例えば、平面形状が長方形の場合、0.5×0.5mm〜50×50mm、0.6×0.6mm〜10×10mm、特に0.8×0.8mm〜5×5mmの範囲で選択される。平面形状が円形の場合、直径が0.5〜50mm、0.6〜10mm、特に0.8〜5mmの範囲で選択される。
【0024】
本発明の波長変換部材の製造方法は、ガラス粉末と無機蛍光体粉末を含有するグリーンシートを準備する工程、グリーンシートに加工を施し、開口部及び/または切り欠け部を形成する工程、及び、加工後のグリーンシートを焼成する工程、を含むことを特徴とする。以下、本発明の波長変換部材の製造方法を、各工程毎に詳細に説明する。
【0025】
(グリーンシート準備工程)
本発明において使用するガラス粉末には、無機蛍光体粉末を安定に保持するための媒体としての役割がある。使用するガラス組成系によって無機蛍光体粉末との反応性に差が出るため、種々の条件を考慮して、使用するガラス組成を選択する必要がある。
【0026】
ガラス粉末としては、無機蛍光体粉末と反応しにくいものであれば、特に制限はないが、850℃以下、好ましくは800℃以下の軟化点を有するものを用いることが好ましい。ガラス粉末の軟化点が高くなると、焼成温度も高くなるため、無機蛍光体粉末が劣化して、発光効率の高い波長変換部材が得られにくくなる。
【0027】
ガラス粉末としては、例えば、SiO
2−B
2O
3系ガラス、SiO
2−RO系ガラス(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)、SiO
2−B
2O
3−RO系ガラス、SiO
2−B
2O
3−R’
2O系ガラス(R’は、Li、Na及びKから選択される少なくとも1種)、SiO
2−B
2O
3−Al
2O
3系ガラス、SiO
2−B
2O
3−ZnO系ガラス、ZnO−B
2O
3系ガラス等を用いることができる。なお、低温焼成を目的とする場合は、比較的低い軟化点(例えば、400℃以下、さらには380℃以下)が得られやすいZnO−B
2O
3系ガラスまたはSnO−P
2O
5系ガラスを選択することが好ましい。波長変換部材の耐候性を向上させたい場合は、SiO
2−B
2O
3系ガラス、SiO
2−RO系ガラス、SiO
2−B
2O
3−RO系ガラス、SiO
2−B
2O
3−R’
2O系ガラス、SiO
2−B
2O
3−Al
2O
3系ガラスまたはSiO
2−B
2O
3−ZnO系ガラスを選択すればよい。
【0028】
SiO
2−B
2O
3−RO系ガラスは、質量%で、SiO
2 30〜70%、B
2O
3 1〜15%、MgO 0〜10%、CaO 0〜25%、SrO 0〜10%、BaO 8〜40%、RO 10〜45%、Al
2O
3 0〜20%、及び、ZnO 0〜10%を含有することが好ましい。また、上記成分以外にも、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、R’
2O、P
2O
5、La
2O
3等を合量で30%以下の範囲で添加してもよい。
【0029】
SnO−P
2O
5系ガラスの組成範囲は、質量%で、SnO 30〜90%、及び、P
2O
5 10〜60%を含有することが好ましい。また、上記成分以外にB
2O
3を0〜30%含有させることができる。その他、本発明の主旨を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、SiO
2、Al
2O
3、RO、R’
2O等を合量で30%まで含有させてもよい。
【0030】
ガラス粉末の平均粒子径D
50は0.1〜300μmが好ましく、0.7〜250μmがより好ましい。平均粒子径D
50が小さすぎると、焼成時に発泡して、波長変換部材の気孔率(残存泡の割合)が大きくなり、発光効率が低下したり、波長変換部材の機械的強度が低下するおそれがある。一方、ガラス粉末の平均粒子径D
50が大きすぎると、低温焼成が困難となる傾向がある。また、開口部及び/または切り欠け部を精度良く形成することが困難になる傾向がある。精度良く加工を行う観点からは、ガラス粉末の平均粒子径D
50は、開口部及び/または切り欠け部の大きさ(円形の場合は直径、楕円形(または楕円形の一部)の場合は短径、長方形の場合は短辺)の10分の1以下程度であることが好ましい。なお、本発明において、平均粒子径D
50はレーザー回折法により測定したものをいう。
【0031】
無機蛍光体粉末としては、一般的に市中で入手できるものであれば使用できる。無機蛍光体粉末には、酸化物(YAG等のガーネット系を含む)、窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物等からなるものが挙げられる。酸化物蛍光体粉末は、ガラス粉末と混合して高温で加熱しても安定であるという特徴を有する。窒化物、酸窒化物、硫化物、希土類酸硫化物、ハロゲン化物、アルミン酸塩化物、ハロリン酸塩化物の各蛍光体粉末は、焼成時にガラス粉末と反応して、発泡や変色等の異常反応を起こしやすい。その程度は、焼成温度が高いほど顕著になる傾向がある。これらの無機蛍光体粉末を用いる場合、焼成温度とガラス粉末組成を最適化することで、ガラス粉末との反応を抑制することができる。
【0032】
なお、励起光の波長域や発光させたい色に合わせて、複数の無機蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して、白色光を得ようとする場合は、青色、緑色及び赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末を混合して使用すればよい。
【0033】
無機蛍光体粉末の平均粒子径D
50は1〜75μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。平均粒子径D
50が小さすぎると、焼成時にガラス粉末と反応したり、発泡したりして、波長変換部材中の気孔率が大きくなる傾向がある。一方、無機蛍光体粉末の平均粒子径D
50が大きすぎると、励起光が波長変換部材内部まで透過しにくくなり、発光効率が低下しやすくなる。
【0034】
波長変換部材の発光効率は、無機蛍光体粉末の種類や含有量、及び、波長変換部材の肉厚等によって変化する。波長変換部材の発光効率を高めたい場合、肉厚を薄くして励起光や波長変換された光の透過率を高めたり、無機蛍光体粉末の含有量を多くして、発光量を増大させることで調整すればよい。ただし、無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、焼結しにくくなって、波長変換部材の気孔率が大きくなる傾向がある。一方、無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、発光強度が低下する傾向がある。したがって、波長変換部材中の無機蛍光体粉末の含有量は0.01〜30質量%、0.05〜20質量%、特に0.08〜15質量%の範囲で調整することが好ましい。
【0035】
ガラス粉末と無機蛍光体粉末を混合して混合粉末を調製する。混合粉末としては、ガラス粉末及び無機蛍光体粉末のみからなるものを用いてもよいが、それ以外にも、高軟化点ガラス粉末、シリカ粉末、あるいはアルミナ粉末等の結晶粉末等の無機粉末を、波長変換部材の強度向上や色合い、配向性、散乱性の調節等の目的で含有させても構わない。無機粉末の含有量は、波長変換部材中において、合量で0.01〜50質量%が好ましく、0.05〜20質量%がより好ましい。
【0036】
上記混合粉末に、所定量の樹脂、可塑剤、溶剤等を含む樹脂バインダーを添加してスラリーとする。スラリーを、ドクターブレード法等によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上に、シート状に成形する。シート状に成形したスラリーを乾燥させることによって、グリーンシートが得られる。
【0037】
(グリーンシート加工工程)
上記で得られたグリーンシートに加工を施し、開口部及び/または切り欠け部を形成する。加工方法としては、例えば金属ピンによるメカニカルパンチングや、炭酸ガスレーザーによるレーザーパンチングが挙げられる。既述の通り、無機固体からなる波長変換部材に機械加工を施すと、割れやクラックが発生しやすいという問題がある。一方、無機固体からなる波長変換部材へのレーザー加工は、割れやクラックの発生が比較的起こりにくいものの、加工に時間がかかり、効率に劣る(ひいてはコストアップにつながる)といった問題がある。本発明においては、グリーンシートに対して加工を行うため、割れやクラックの発生を抑制しつつ、短時間で開口部及び/または切り欠け部を設けることができる。特に、メカニカルパンチングやレーザーパンチングによれば、高速かつ位置精度の高い加工が可能となる。例えば、グリーンシートに対して、炭酸ガスレーザーによるレーザーパンチングを行うと、瞬時に樹脂バインダーを焼切ることができるため、開口部及び/または切り欠け部を寸法精度よく、かつ短時間で形成することができる。
【0038】
なお、グリーンシートは1枚のみ用いてもよく、2枚以上を積層、あるいは積層圧着させた状態で加工を行ってもよい。これにより、生産効率を向上させたり、所望の厚みを有する波長変換部材を容易に作製することが可能となる。また、グリーンシートを所望の形状に切断した後に、開口部及び/または切り欠け部を形成しても良く、あるいは、グリーンシートに開口部及び/または切り欠け部を形成した後に、所望の形状に切断しても良い。
【0039】
(グリーンシート焼成工程)
上記で加工されたグリーンシートを焼成することにより、波長変換部材を得る。具体的には、まずグリーンシートを200〜550℃程度で熱処理することにより脱脂を行い、その後、750〜1000℃程度で熱処理することにより焼結させる。これにより、波長変換部材を得る。
【0040】
なお、グリーンシートは熱処理時に収縮しやすいため、アルミナ基材等の拘束部材の間に挟持した状態で熱処理を施すことが好ましい。また、得られた波長変換部材に対し、所望の形状となるよう切断、研磨の加工を施しても良い。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(実施例)
質量%で、SiO
2 60%、B
2O
3 10%、BaO 10%、及び、CaO 20%の組成を有するSiO
2−B
2O
3−RO系ガラス粉末(軟化点820℃、平均粒子径D
50:2.5μm)90質量%に対して、YAG蛍光体粉末10質量%を添加して混合粉末とし、さらにアクリルバインダー、可塑剤及び溶剤を適宜混合してスラリーを作製した。得られたスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上にシート成形してグリーンシートを得た。
【0043】
得られたグリーンシートにメカニカルパンチングマシン(UHT社製MP−7150Z)を用いて、直径80μmの円形貫通孔を複数個所に形成した。加工に要した時間は1秒未満であった。加工後のグリーンシートを830℃で焼成し、
図1(b)に示すような波長変換部材(厚み0.2mm)を得た。
【0044】
(比較例1)
グリーンシートに加工を施さなかったこと以外は、実施例と同様にして波長変換部材を得た。得られた波長変換部材にメカニカルパンチングマシンを用いて貫通孔を形成しようとしたところ、割れやクラックが発生した。
【0045】
(比較例2)
グリーンシートに加工を施さなかったこと以外は、実施例と同様にして波長変換部材を得た。得られた波長変換部材にフェムト秒レーザー照射装置(サイバーレーザー社製)を用いて、直径80μmの円形貫通孔を形成することにより、
図1(b)に示すような波長変換部材(厚み0.2mm)を得た。加工に要した時間は5分であった。