特許第6222446号(P6222446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222446
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】油分除去装置及び油分除去方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/40 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   C02F1/40 B
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-235541(P2013-235541)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93262(P2015-93262A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】特許業務法人大貫小竹国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智明
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−016456(JP,A)
【文献】 特開平04−083579(JP,A)
【文献】 特開平06−091259(JP,A)
【文献】 特開2013−119059(JP,A)
【文献】 米国特許第05830356(US,A)
【文献】 米国特許第05047151(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/40
B01D 21/01
C02F 1/52 − 1/56
C02F 1/20 − 1/26
C02F 1/30 − 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、
前記アーム部は、
内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、
前記空間内に前記開口部から前記空間内に浸入した油分を捕獲する油捕獲器具が配置されていることを特徴とする油分除去装置。
【請求項2】
貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、
前記アーム部は、
内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、
油分を前記開口部まで導くためのガイド部材が前記開口部の軸棒側端に設けられ、前記ガイド部材は、前記軸棒とは反対側に向けて前記開口部から徐々に離れる方向に斜めに延びていることを特徴とする油分除去装置。
【請求項3】
貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、
前記アーム部は、
内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、
前記軸棒とは反対側の端部が水平且つ直線に延びる回転棒に組み付けられて、前記回転棒を回転させることで、前記アーム部の端部が前記回転棒の軸方向に沿って変位することを特徴とする油分除去装置。
【請求項4】
前記軸棒は、上端に前記軸棒を回転させる回転機構が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油分除去装置。
【請求項5】
貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、前記アーム部は、内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低い油分除去装置を用いた油分除去方法であって、
前記油分除去装置を前記貯液構造体の角部に配置して、前記軸棒を回転させることにより、前記アーム部を可変させて、前記開口部から前記貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を前記アーム部の空間部内に回収して、前記貯液構造体に貯められた液体から油分を除去することを特徴とする油分除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、火力発電所等の施設が有する排水処理装置の所定の排水洗浄ルートに油分を含んだ排水が流入するのを防止するために、排水が含む油分、特に排水の表面に漂う油分を除去するのに好適な油分除去装置及びこの油分除去装置を用いて油分を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等の発電施設(発電プラントとも称する。)で発生する排水は、例えば特許文献1に示されるように、相対的にきれいな定常排水と相対的に汚れた非定常排水とがあり、これらの排水は、前記特許文献1の排水処理装置に示されるように、例えば、凝集反応槽、循環槽、膜分離装置の第1のルートを経て処理水となった後、外部に送出される一方で、非定常排水は、前記第1のルートに入る前に、pH調整槽や、固液分離装置等から成る第2のルートも経るようにして、非定常排水に含まれる油分が第1のルートに浸入するのを抑制している。
【0003】
もっとも、上記排水処理装置のトラブル等で、十分に油分が除去されない非定常排水が第1のルートに入るおそれは考えられ、この場合には、例えば凝集沈殿槽、その他の第1のルートを構成する槽(以下、凝集沈殿槽等と称する。)は油を外部に排除する機能を有しないので油が凝集沈殿槽等に留まってしまい、例えば凝集沈殿槽よりも後における排水処理装置での排水処理に支障をきたすこととなる。そして、凝集沈殿槽等には油分を計測する計器がないのが一般的であるので、凝集沈殿槽等への油の浸入を監視することが容易でない。更に、作業員が偶然に凝集沈殿槽等で油膜を発見した場合であっても、作業員が手作業で油膜を回収するのは著しく煩雑である。
【0004】
この点、凝集沈殿槽等において、例えば特許文献2に示される油膜回収装置を用いて、排水の表面を漂う油膜を回収して凝集沈殿槽等から油の除去を図ることが考えられる。特許文献2に示される油膜回収装置は、油膜を吸引、回収する吸引ポンプ等の吸引機構と、前記吸引機構から水面に向けて延びる吸引ホースと、前記吸引ホースの先端部分を固定する支持体と、前記支持体を水面上に浮遊させるためのフロート等の浮遊機構とを備えるもので、前記吸引ホースの吸引口は、水面より高さ5mm〜200mmに位置するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−28994号公報
【特許文献1】特開2000−176450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に示される油膜回収装置では、吸引ポンプ等の吸引機構はモータ等で稼働すると考えられるので電源が必要となり、水面より高さ5mm〜200mmに位置した吸引ホースの吸引口から更に吸引機構まで油膜を吸い上げるため、油膜回収装置全体として相対的に高い背丈も必要とするので、大型化・複雑化した油膜回収装置となってしまい、これに伴い油膜回収装置の製造コストも高くなるという不具合を有する。また、このような特許文献2に示される大型の油膜回収装置では、既存の凝集沈殿槽等にそのまま設置するのも容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、簡易で背丈も低い小型の構造とし、既存の凝集沈殿槽、その他の排水処理装置を構成する所要の槽に設置することが可能な油分除去装置、並びにこの油分除去装置を用いた油分除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る油分除去装置は、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、前記アーム部は、内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、前記空間内に前記開口部から前記空間内に浸入した油分を捕獲する油捕獲器具が配置されていることを特徴としている(請求項1)。貯液構造体は、例えば発電プラントの排水処理装置の凝集沈殿槽等であり、貯液構造体に貯められた液体は、例えば発電プラントから出た排水である。開口部は、1つであっても複数(例えば3つ)であっても良い。開口部は、アーム部の液面に対し立設した側部のうち貯液構造体内を回流してきた液体が当たる側となる側部に開口させるのが好ましい。油分は、貯液構造体に貯められた液体の表面に漂う油膜や、貯液構造体に貯められた液体の表面に玉状に浮いている油分である。油捕獲器具は、オイルキャッチャーとも称されるもので、例えば油吸着シート、その他の油吸着部材が該当する。油捕獲器具は、取付金具やクリップ等でアーム部内に取り外し自由に取り付けられる。
【0009】
これにより、軸棒を回転させてこの軸棒を基点としてアーム部を左右に振ることによって、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮いた油分がアーム部の側部に設けられた開口部からアームの空間内に回収されるので、貯液構造体に貯められた液体から油分を除去することができる。また、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒の高さは、軸棒から延びるアーム部の開口部の下端が貯液構造体に貯められた液体の液面より低ければ良いので、油分除去装置としての背丈をさほど高くする必要がなく、軸棒の回転も手動で行うことが可能であるので、油分除去装置の構造が複雑化することもない。そして、軸棒を貯液構造体に回転自在に取り付けるだけで良いので、油分除去装置を既存の貯液構造体に対しそのまま取り付けることができる。更に、アーム部の空間内に浸入した油分は、油捕獲機器で捕獲されるので、十分に油分を捕獲した油捕獲機器をアーム部から取り外して棄てるのみで、油分除去装置のアーム部の空間内に回収した油分を外部に廃棄することが可能となる。
【0010】
この発明に係る油分除去装置は、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、前記アーム部は、内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、油分を前記開口部まで導くためのガイド部材が前記開口部の軸棒側端に設けられ、前記ガイド部材は、前記軸棒とは反対側に向けて前記開口部から徐々に離れる方向に斜めに延びていることを特徴としている(請求項2)。貯液構造体は、例えば発電プラントの排水処理装置の凝集沈殿槽等であり、貯液構造体に貯められた液体は、例えば発電プラントから出た排水である。開口部は、1つであっても複数(例えば3つ)であっても良い。開口部は、アーム部の液面に対し立設した側部のうち貯液構造体内を回流してきた液体が当たる側となる側部に開口させるのが好ましい。油分は、貯液構造体に貯められた液体の表面に漂う油膜や、貯液構造体に貯められた液体の表面に玉状に浮いている油分である。更に、ガイド部材は、例えば肉厚の薄い平板状のものである。
【0011】
これにより、軸棒を回転させてこの軸棒を基点としてアーム部を左右に振ることによって、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮いた油分がアーム部の側部に設けられた開口部からアームの空間内に回収されるので、貯液構造体に貯められた液体から油分を除去することができる。また、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒の高さは、軸棒から延びるアーム部の開口部の下端が貯液構造体に貯められた液体の液面より低ければ良いので、油分除去装置としての背丈をさほど高くする必要がなく、軸棒の回転も手動で行うことが可能であるので、油分除去装置の構造が複雑化することもない。そして、軸棒を貯液構造体に回転自在に取り付けるだけで良いので、油分除去装置を既存の貯液構造体に対しそのまま取り付けることができる。更には、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮いた油分をアーム部の開口部に導きやすくなる。しかも、ガイド部材が開口部の軸棒側端から斜め外側に延びた配置となっているので、ガイド部材に導かれて開口部からアーム部の空間内に浸入した油分を有する液体はアーム部の軸棒側に導かれやすくなる。このため、油捕獲機器をアーム部の空間内に設けなくても、アーム部の軸棒側に集められた油分を桶や杓子等の汲み上げ具で容易に汲み取ることが可能となる。
【0012】
これらの発明に係る油分除去装置では、前記軸棒は、上端に前記軸棒を回転させる回転機構が設けられていることを特徴としている(請求項4)。回転機構は、例えば軸棒の上端に固定された第1の歯車と、この歯車と直交するかたちで噛み合う第2の歯車と、第2の歯車に回転を伝達するハンドルとで構成されている。
【0013】
これにより、作業員が所要の方向にハンドルを回わすのみで、回転機構を経て軸棒が所定の方向や逆方向に回転して、アーム部を自在に左右に振ることが可能であり、回転機構を回転させてアーム部を変位させるための電源を不要とすることができる。
【0014】
その一方で、この発明に係る油分除去装置は、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を回収・除去するためのもので、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、前記アーム部は、内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低く、前記軸棒とは反対側の端部が水平且つ直線に延びる回転棒に組み付けられて、前記回転棒を回転させることで、前記アーム部の端部が前記回転棒の軸方向に沿って変位することを特徴としても良い(請求項3)。回転棒は、螺子棒であると共に前記アーム部の端部に凹部が設けられて、凹部の内側に回転棒の螺子部と螺合する螺子溝が切られたものとなっている。
【0015】
これにより、作業員が所要の方向に回転棒を回わすのみで、アーム部の回転棒に組み付けられた端部、ひいてはアーム部全体を自在に左右に振ることが可能であり、アーム部を変位させるための電源を不要とすることができる。
【0016】
この発明に係る油分除去方法は、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒と、前記軸棒から径方向に延びたアーム部とを備え、前記アーム部は、内部に空間が形成されて、前記液面に対して立設した側部に前記空間と連通する開口部が設けられ、前記開口部の下端は、前記貯液構造体に貯められた液体の液面より低い油分除去装置を用いた油分除去方法であって、前記油分除去装置を前記貯液構造体の角部に配置して、前記軸棒を回転させることにより、前記アーム部を可変させて、前記開口部から前記貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分を前記アーム部の空間部内に回収して、前記貯液構造体に貯められた液体から油分を除去することを特徴としている(請求項5)。
【0017】
貯液構造体は、例えば発電プラントの排水処理装置の凝集沈殿槽等であり、貯液構造体に貯められた液体は、例えば発電プラントから出た排水である。開口部は、1つであっても複数(例えば3つ)であっても良い。開口部は、アーム部の液面に対し立設した側部のうち貯液構造体内を回流してきた液体が当たる側となる側部に開口させるのが好ましい。油分は、貯液構造体に貯められた液体の表面に漂う油膜や、貯液構造体に貯められた液体の表面に玉状に浮いている油分である。
【0018】
このように、油分除去装置の軸棒を貯液構造体の角部に配置することにより、貯液構造体が上方から見て四角形状である場合には、貯液構造体の周壁と油分除去装置のアーム部とを2辺とする三角形状が形成されるので、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分は、アーム部の軸棒側に寄せ集められて回収がしやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、請求項1から請求項5に記載の発明によれば、軸棒を回転させてこの軸棒を基点としてアーム部を左右に振ることによって、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮いた油分をアーム部の側部に設けられた開口部からアームの空間内に回収することができるので、貯液構造体に貯められた液体から油分を除去することが可能である。
【0021】
そして、請求項1から請求項5に記載の発明によれば、貯液構造体に回転自在に立設された軸棒の高さを、軸棒から延びるアーム部の開口部の下端が貯液構造体に貯められた液体の液面より低い位置となるように設定すれば良いため、油分除去装置全体としての背丈をさほど高くする必要がないので、油分除去装置の大型化を防止することができる。そして、軸棒の回転も手動で行うことが可能であるので、電源を必ずしも必要とせず油分除去装置の構造が複雑化するのを防止することができる。これに伴い、本発明の油分除去装置の製造コストの抑制を図ることもできる。
【0022】
更に、請求項1から請求項5に記載の発明によれば、軸棒を貯液構造体の周壁内面のうち適宜な位置に取り付ければ良いので、油分除去装置を貯液構造体に対し当該貯液構造体を改変することなく取り付けることができる。
【0023】
特に請求項1に記載の発明によれば、アーム部の空間内に浸入した油分を油捕獲機器で捕獲することができるので、油捕獲機器で十分に油分を捕獲した後、この油捕獲機器をアーム部から取り外して棄てるのみで、油分除去装置のアーム部の空間内に回収した油分を外部に廃棄することが可能である。
【0024】
特に請求項2に記載の発明によれば、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮いた油分をアーム部の開口部に導きやすくなるので、油分の回収を円滑且つ迅速に行うことが可能となる。そして、特に請求項2に記載の発明によれば、ガイド部材が開口部の軸棒側端から斜め外側に延びた配置となっているので、ガイド部材に導かれて開口部からアーム部の空間内に浸入した油分を有する液体をアーム部の軸棒側に導きやすくすることができることから、油捕獲機器をアーム部の空間内に設けなくても、アーム部の軸棒側に集められた油分を桶や杓子等の汲み上げ具で容易に汲み取ることが可能となる。
【0025】
特に請求項3に記載の発明によれば、作業員が所要の方向に回転棒を回わすのみで、アーム部の回転棒に組み付けられた端部、ひいてはアーム部全体を自在に左右に振ることが可能となり、これに伴い、アーム部を変位させるための電源を不要とすることができる。
【0026】
特に請求項4に記載の発明によれば、作業員が所要の方向にハンドルを回わすのみで、回転機構を経て軸棒を所定の方向や逆方向に回転させ、アーム部を自在に左右に振ることが可能となり、これに伴い、回転機構を回転させてアーム部を変位させるための電源を不要とすることができる。
【0027】
また、請求項5に記載の発明によれば、油分除去装置の軸棒を貯液構造体の角部に配置することにより、貯液構造体が上方から見て四角形状である場合には、貯液構造体の周壁と油分除去装置のアーム部とを2辺とする三角形状が形成されるので、貯液構造体に貯められた液体の液面に浮く油分をアーム部の軸棒側に集めて、アーム部の軸棒側に設けた開口部からアーム部の空間内に回収しやすくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、火力発電所の排水処理装置の一例を示す概略構成図である。
図2図2は、この発明に係る油分除去装置の実施例1に示される構成を示す説明図であり、図2(a)は、前記実施例1の油分除去装置の側面図、図2(b)は、前記実施例1の油分除去装置の平面図、図2(c)は、図2(a)のI−I線断面図である。
図3図3は、前記実施例1の油分除去装置の回転機構の内部構成を示す断面図であり、図3(a)は、回転機構のボックスを横割りした断面図、図3(b)は、回転機構のボックスを縦割りした断面図である。
図4図4は、前記実施例1の油分除去装置を凝集沈殿槽の角部に設置した状態並びに凝集沈殿槽の水流発生用の装置を示した説明図である。
図5図5は、前記実施例1の油分除去装置が角部に設置された凝集沈殿槽の態様を示す平面図である。
図6図6は、この発明に係る油分除去装置の実施例2に示される構成並びに前記実施例2の油分除去装置の凝集沈殿槽への設置の工程を示す説明図である。
図7図7は、前記実施例2の油分除去装置を凝集沈殿槽の角部に設置しつつアーム部の先端部分を回転棒に装着した状態を示す説明図である。
図8図8は、前記実施例2の油分除去装置が角部に設置された凝集沈殿槽の態様を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0030】
図1において、排水処理装置100の一例が示されている。この排水処理装置100は、火力発電所等の発電施設で発生した定常排水と非定常排水とを処理するためのもので、定常排水は、例えば発電プラントの起動時・停止時に発生する相対的にきれいな排水であり、非定常排水は、例えばボイラの定期点検時に発生する水洗水等の相対的に汚れた排水である。
【0031】
図1に示される排水処理装置100による排水処理の流れについて概説すると、排水タンク101に定常排水と非定常排水との双方が送られて排水タンク101に一時的に貯められた後、この排水は、ポンプ102により、pH調整槽103a、凝集槽103b、及び凝集沈殿槽103cから成る共通の処理機構103に送られる。そして、排水は、pH調整槽103aで苛性ソーダ(NaOH)や塩酸(HCL)や凝集剤を投入して排水のpHを所定値(例えば10以上)まで高めた後、凝集槽103bに送られる。そして、凝集槽103bでは凝集助剤が投入され、凝集沈殿槽103cに送られ、凝集沈殿槽103cにおいて、排水は沈殿物と上澄み水とに分けられる。尚、pH調整槽103a、凝集槽103b、及び凝集沈殿槽103cには、それぞれ排水と凝集剤又は凝集助剤等とを攪拌・混合したりするための水流発生装置121、122、123が配置されている。各水流発生装置121、122、123は、複数の羽根から成る回転体121a、122a、123aと、軸棒121b、122b、123bと、モータ121c、122c、123cとを備えている。尚、水流発生装置123の回転体123aの羽根は、凝集沈殿槽103c内に沈殿したフロック(集塊)を壊さないように静かに掻き寄せるためのものであり、その数は他の水流発生装置とはその目的が異なることから通常2枚となっている。
【0032】
排水の上澄み水と沈殿物とは、凝集沈殿槽の次からは別のルートに分かれ、排水の上澄み水は、中継槽104からポンプ105によりろ過器106に送られ、ろ過器106で更に浮遊物等が取り除かれた後、中和槽107で新たに苛性ソーダ(NaOH)や塩酸(HCL)が投入、水流発生装置124で攪拌され、監視槽108から放流ポンプ109により外部に放出される。尚、中和槽107の水流発生装置124も、複数の羽根から成る回転体124aと、軸棒124bと、モータ124cとを備えている。
【0033】
これに対し、排水の凝集沈殿槽で生じた沈殿物は、濃縮槽110で濃縮された後、ポンプ111で脱水機112に送られて脱水されてケーキ状となり、ケーキホッパー113で一次的に保管されつつ、ケーキホッパー113から図示しない運搬車両を介して外部に運び出される。
【実施例1】
【0034】
図2から図5において、凝集沈殿槽103cに設置される油分除去装置1の実施例1が示されている。この実施例1に示される油分除去装置1は、軸棒2と、アーム部3と、軸棒2を回転させる回転機構4と、軸棒2を凝集沈殿槽103cに設置するための台部5とで基本的に構成されている。凝集沈殿槽103cは、この実施例では四角形状で上方に開口し、凝集沈殿槽103cの側壁の内側面は、垂直に立設したものとなっている。
【0035】
軸棒2は、図2(c)に示されるように、真円の円柱状のもので、凝集沈殿槽103cに貯められた排水の水面からその一部又は全部が立設するように、凝集沈殿槽103cの側壁の内側面に沿って上下方向(鉛直方向)に延出するかたちで下記する台部5を介して凝集沈殿槽103cに対し回転自在に取り付けられる。
【0036】
アーム部3は、図2(a)、図2(c)及び図4に示されるように、油分回収部31と、連結部32とで基本的に構成されている。連結部32は、図2(c)に示されるように、筒状のもので、軸棒2の外径寸法よりわずかに大きな内径寸法の通孔32aを有しており、軸棒2に外装することが可能となっている。そして、連結部32は、軸棒2の長手方向(軸棒2の上下方向乃至鉛直方向)に沿って変位し、且つ任意の箇所で止まることができるようになっている。これにより、アーム部3は、図2(a)の白抜き矢印に示されるように、上下動することができ、凝集沈殿槽103cに貯められた排水の水位の上下方向の変化に対応することが可能である。
【0037】
油分回収部31は、図2(a)、図2(b)及び図4に示されるように、基本的には上方に開口し内部に空間31aを有する長尺の直方体の箱状のもので、連結部32とは長手方向の一方端にて一体的に連接されている。油分回収部31の上部の開口は、図示しない蓋体を着脱自在に装着可能として、この蓋体の装着により閉塞されるようにしても良い。
【0038】
油分回収部31の凝集沈殿槽103cの排水の水面から立設した側部には、特に図2(c)、図4に示されるように、空間31aと連通する開口部31bが設けられている。開口部31bの数は、1つでも複数でも良く、この実施例では3つの開口部31bを有している。そして、連結部32の軸棒2に対する位置を調整することで、開口部31bは、下端が凝集沈殿槽103cの排水の水面より僅かに低くなるように設定される。これにより、凝集沈殿槽103cの排水の水面に浮く油分、特に油膜を開口部31bから油分回収部31の空間31a内に取り込むことができる。
【0039】
そして、この実施例1では、図2及び図4に示されるように、各開口部31bの軸棒2側の開口縁にガイド部33が設けられている。ガイド部33は、肉厚の薄い板状のもので、連結部32側から連結部32とは反対側に進むに従い油分回収部31の側部外面から暫時離れるように斜めに延出している。ガイド部33は、この実施例1では、平板形状をなしている。
【0040】
このように、ガイド部33を有することで、凝集沈殿槽103cの排水の水面に浮く油分を、開口部31bから油分回収部31の空間31aに回収しやすくすることが可能となると共に、油分回収部31の空間31a内に流入した油分を含む排水が空間31aの軸棒2側に向けて流れる水流が形成されるので、油分は空間31aの軸棒2側に集められ、作業員が桶や杓子等の汲み上げ具でこの集められた油分を汲み取って、外部に排出することが可能となる。
【0041】
尚、開口部31bは、凝集沈殿槽103cの排水の水面から立設した側部のうち、例えば図5の矢印に示されるように、水流発生装置123が時計回りに回転し、これに伴い、凝集沈殿槽103cの排水も時計回りに回転する場合には、この水流が当たる側部側に設けられる。これにより、開口部31bから排水の水面に浮く油分が油分回収部31の空間31aに入りやすくなる。
【0042】
また、この実施例1では、図2(b)及び図2(c)に示されるように、油分回収部31の空間31aに入った油分を捕獲する油捕獲機器34が空間31a内に配置されている。油捕獲機器34は、この実施例1では、肉厚の薄い板状の油吸着シートが用いられており、この油吸着シートは油分回収部31の開口部31bを有する側部とは反対側の側部の内側面に設けられた鉤爪状の係止部35a、35bに係止されている。もっとも、図示しないが、油吸着シートをビス等の固定具により油分回収部31の側部の内側面に固定するようにしても良い。油吸着シートとしては、オイルシートやオイルキャッチャー等とも呼ばれる市販されている公知の油吸着部材を用いることができる。
【0043】
このように、油捕獲機器34を油分回収部31の空間31a内に配置することで、作業員が汲み取り作業をしなくても、油分を油捕獲機器34で捕獲することができ、油捕獲機器34を取り出して廃棄することで、油分の除去も行うことができる。そして、油捕獲機器34たる油吸着シートを係止部35a、35bに係止させることで、油吸着シートの取り外しや新規な油吸着シートの取り付けが容易で、油吸着シートの交換作業を円滑に行うことが可能となる。
【0044】
台部5は、この実施例1では、図2(a)及び図4に示されるように、軸棒2が回転自在に挿入される内径寸法を有し、例えば有底である挿入孔51aを備えた筒部51と、凝集沈殿槽103cの側壁の内側面が直交する角部に対し、その直交する両内側面に当接することが可能な2つの外側面を有する略L字形状の当接部52と、筒部51と当接部52とを連接する連接部53とで構成されている。当接部52には、特に図4に示されるように、当接部52を構成する2つの板状部のそれぞれについて内側面から外側面にかけて貫通した通孔54が形成されている。これにより、当接部52を構成する2つの板状部の通孔54に対し、内側面から外側面に向けて螺子55を挿入し、凝集沈殿槽103cの側壁に螺止めさせることにより、台部5は凝集沈殿槽103cの側壁の角部に固定される。そして、台部5の筒部51の挿入孔51aに軸棒2の長手方向の一方端側部位を挿入することにより、軸棒2は、凝集沈殿槽103cに対し回転自在に立設した状態となる。
【0045】
回転機構4は、図2(a),(b)及び図4に示されるように、台部5の筒部51に挿入された軸棒2に対しその上端側に配置されるもので、この実施例1では、図3に示されるように、2つの歯車41、42と、ハンドル43と、少なくとも歯車41、42を収納する箱体44とで基本的に構成されている。
【0046】
歯車41、42は、それぞれ相互に歯同士が噛み合う傘歯車であり、歯車41は軸棒2の長手方向のうち台部5とは反対側の端と箱体44内で連結され、歯車42はハンドル43の基部43a側の端と箱体44内で連結されている。そして、軸棒2と箱体44との間、及び、ハンドル43の基部43aと箱体44との間には、それぞれ軸受45、46が介在して、歯車41と歯車42とがずれないように軸棒2、ハンドル43の基部43aとが保持されている。
【0047】
このような油分除去装置1とすることにより、油分除去装置1は簡易な構成となり、その製造コストが高くなることが防止される。そして、台部5を凝集沈殿槽103cの側壁の角部に螺子55で固定し、台部5の筒部51の挿入孔51aにアーム部3や回転機構4を備えた軸棒2を装着すれば、油分除去装置1を凝集沈殿槽103cに設置することができるので、既存の凝集沈殿槽103cを改変せずとも、凝集沈殿槽103cに油分除去装置1を設置することが可能である。
【0048】
そして、油分除去装置1による油分の回収操作も、ハンドル43の持ち手43bを持って、図3(a)の実線から想像線に示されるように時計回りに回転させたり、図3(a)とは逆に反時計回りに回転させたりすることで、アーム部3を、図5に示されるように略90度の範囲内で上方から見て時計回り又は反時計回りに回転させることができる。
【0049】
よって、図5に示されるように、凝集沈殿槽103cの水面を時計回りに回転している油膜等の油分に対し、例えば開口部31bとは反対側の側部が凝集沈殿槽103cの側壁に隣接した状態のアーム部3を時計回りに、凝集沈殿槽103cの側壁の他方側まで回転させることで、油分をガイド部33で開口部31b側に導き、開口部31bから空間31a内に回収していった後、アーム部3を反時計回りに回転させて元の位置まで戻す作業を行うことで、排水からの油分の回収・除去作業を行うことが可能であり、その作業も高度な技術を不要とすることができる。
【実施例2】
【0050】
図6から図8において、この発明に係る油分除去装置1の実施例2が示されている。以下、この油分除去装置1に基づいて説明する。但し、実施例1と同様の構成は、基本的には実施例1と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
油分除去装置1は、回転機構4を有さずともアーム部3を変位させるためのもので、その一例が図6及び図7に示されており、このうち、軸棒2は、この実施例2では、アーム部3の油分回収部31の長手方向の一方端が一体的に連結されたものとなっている。
【0052】
また、油分回収部31は、この実施例2では、軸棒2側の基端側部分36と、軸棒2とは反対側の先端側部分37とを備え、基端側部分36と先端側部分37とは自在に伸縮し且つ左右方向に曲がることが可能なフレキシブル部38を介して連結されたものとなっている。そして、基端側部分36、先端側部分37は、実施例1と同様に上方に開口し開口部31bと連通した空間(図示せず。)を有し、この空間の上方の開口は着脱自在な蓋体36a、37aにより閉塞されている。更に、先端側部分37は、長手方向の端部に円弧状の窪み39を有し、この窪み39の内面は螺子溝が切られている。
【0053】
台部5は、凝集沈殿槽103cの側壁の内側面が直交する角部に対し、その直交する両内側面のいずれか一方に当接することが可能な外側面を有する略平板状の2つの当接部52a、52bを備え、これらの当接部52a、52bは筒部51の外面に連接されている。
【0054】
そして、この実施例2では、凝集沈殿槽103cに対し図8に示されるように斜めに回転棒6が架設されている。この回転棒6は、アーム部3の先端側部分37の窪み39の螺子溝と噛み合うことができる螺子山が形成されたもので、長手方向の一方端近傍部位が凝集沈殿槽103cの開口縁に固定された台座7aに回転自在に装着され、長手方向の他方端近傍部位が凝集沈殿槽103cの開口縁に固定された台座7bに回転自在に装着されて、回転棒6がずれたりしないようになっている。更に、回転棒6の一方端側(この実施例2では台座7b側)にはハンドル6aが設けられており、このハンドル6aを時計回り又は反時計回りに回転させることで回転棒6も同方向に回転するようになっている。
【0055】
このような油分除去装置1とすることによっても、油分除去装置1は簡易な構成となり、その製造コストが高くなることが防止される。そして、台部5を凝集沈殿槽103cの側壁の角部に螺子55で固定し、台部5の筒部51の挿入孔51aにアーム部3や回転機構4を備えた軸棒2を装着し、台座7a、7bを凝集沈殿槽103cの開口の周縁に固定し、これに回転棒6を装着すれば、油分除去装置1を凝集沈殿槽103cに設置することができるので、既存の凝集沈殿槽103cをさほど改変せずとも、凝集沈殿槽103cに油分除去装置1を設置することが可能である。
【0056】
そして、油分除去装置1による油分の回収操作も、アーム部3の先端側部分37の窪み39を回転棒6に窪み39の螺子溝と回転棒6の螺子山とが噛み合うように装着した後、ハンドル6aを持って、時計回りに回転させたり、反時計回りに回転させたりすることで、回転棒6も同じ方向に回転し、これにより、図8に示されるように、油分回収部31の先端側部分37が回転棒6の軸方向に沿って台座7a側又は台座7b側に変位し、油分回収部31の基端側部分36が先端側部分37に引っ張られ、このときフレキシブル部38が適宜伸縮し、所定の方向に曲がるので、軸棒2を中心として、図8に示されるように略90度の範囲内で上方から見て時計回り又は反時計回りに回転させることができる。
【0057】
よって、図8に示されるように、実施例2でも、凝集沈殿槽103cの水面を時計回りに回転している油膜等の油分に対し、例えば開口部31bとは反対側の側部が凝集沈殿槽103cの側壁に隣接した状態のアーム部3を時計回りに、凝集沈殿槽103cの側壁の他方側まで回転させることで、油分をガイド部33で開口部31b側に導き、開口部31bから空間31a内に回収していった後、アーム部3を反時計回りに回転させて元の位置まで戻す作業を行うことで、排水からの油分の回収・除去作業を行うことが可能であり、その作業も高度な技術を不要とすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 油分除去装置
2 軸棒
3 アーム部
31 油分回収部
31a 空間
31b 開口部
33 ガイド部
34 油捕獲機器
36 基端側部分
37 先端側部分
38 フレキシブル部
39 窪み
4 回転機構
41 歯車
42 歯車
43 ハンドル
44 箱体
5 台部
51 筒部
51a 挿入孔
52 当接部
52a 当接部
52b 当接部
53 連接部
54 通孔
55 螺子
6 回転棒
100 排水処理装置
103c 凝集沈殿槽
123 水流発生装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8