特許第6222452号(P6222452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6222452-波長変換部材及び発光デバイス 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222452
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】波長変換部材及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20171023BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20171023BHJP
   C03B 19/06 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 12/00 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20171023BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   H01L33/50
   C09K11/08 G
   C03B19/06 A
   C03C12/00
   C03C8/14
   C03C3/064
   C03C3/089
   C03C3/095
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-259849(P2013-259849)
(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公開番号】特開2015-118970(P2015-118970A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岩尾 克
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−055269(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/013505(WO,A1)
【文献】 特開2014−157856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
C03B 19/06
C03C 3/064
C03C 3/089
C03C 3/095
C03C 8/14
C03C 12/00
C09K 11/08
H01S 5/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ガラス組成として、アルカリ金属元素及びCe、As及びMoから選択される少なくとも1種の多価元素を含有するガラス粉末と、(b)無機蛍光体粉末と、を含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、LiO+NaO+KO 0.1〜35%を含有することを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、SiO 30〜80%、B 1〜40%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、SiO 30〜80%、B 1〜55%、LiO 0〜20%、NaO 0〜25%、KO 0〜25%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
前記無機蛍光体粉末が、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体及びアルミン酸塩蛍光体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
ガラス組成として、アルカリ金属元素及びCe、As及びMoから選択される少なくとも1種の多価元素を含有するガラス粉末の焼結体からなるマトリクス中に、無機蛍光体粉末が分散してなることを特徴とする波長変換部材。
【請求項8】
請求項またはに記載の波長変換部材、及び、前記波長変換部材に励起光を照射する光源を備えてなることを特徴とする発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の光源として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた光源に対する注目が高まってきている。そのような次世代光源の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された光源が開示されている。この光源は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、LEDからの光により樹脂が劣化し、光源の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長(青色〜紫外)光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂に代えてガラスマトリクス中に無機蛍光体粉末を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDチップの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【0005】
しかしながら、上記波長変換部材は、製造時の焼成により無機蛍光体粉末が劣化し、輝度劣化しやすいという問題がある。特に、一般照明、特殊照明等の用途においては、高い演色性が求められるため、赤色や緑色といった比較的耐熱性の低い無機蛍光体粉末を使用する必要があり、無機蛍光体粉末の劣化が顕著になる傾向がある。そこで、ガラス粉末組成中にアルカリ金属元素を含有させることにより、軟化点を低下させた波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献4参照)。当該波長変換部材は、比較的低温での焼成により製造可能なため、焼成時における無機蛍光体粉末の劣化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特許第4895541号公報
【特許文献4】特開2007−302858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガラスマトリクス中にアルカリ金属元素を含む前記波長変換部材は、発光強度が経時的に低下しやすいという問題がある。近年のLEDやLD等の光源のさらなる出力増大に伴って、発光強度の経時的な低下はますます顕著になっている。
【0008】
そこで、本発明は、LEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下の少ない波長変換部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の波長変換部材は、(a)ガラス組成として、アルカリ金属元素及び多価元素を含有するガラス粉末と、(b)無機蛍光体粉末と、を含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする。本発明において、「多価元素」とは、複数の価数を取り得る元素をいう。
【0010】
既述の通り、ガラスマトリクス中にアルカリ金属元素を含む波長変換部材に高出力のLEDやLDの光を照射すると、経時的に発光強度が低下する傾向がある。原因の詳細につき、本発明者らは以下のように推察している。
【0011】
組成中にアルカリ金属元素を含有するガラスマトリクスに励起光が照射されると、励起光のエネルギーによりガラスマトリクス中の酸素イオンの最外殻に存在する電子が励起され、酸素イオンから離れて一部はガラスマトリクス中のアルカリイオンと結合して、着色中心を形成する(ここで、アルカリイオンが抜けた後には空孔が形成される)。一方、電子が抜けることにより生成した正孔は、ガラスマトリクス中を移動し、一部はアルカリイオンが抜けた後に形成された空孔に捕えられて着色中心を形成する。ガラスマトリクス中に形成されたこれらの着色中心が、励起光や蛍光の吸収源となり、波長変換部材の発光強度が低下すると考えられる。
【0012】
そこで、上記の現象を抑制するために、本発明の波長変換部材は、ガラス組成中に多価元素を含有している。上述の正孔を捕らえた着色中心の近傍に価数変化しやすい多価元素のイオンが存在すると、多価元素イオンは正孔に電子を与え、当該正孔を消滅させる。ここで、電子を捕らえた着色中心が多価元素イオンの近傍に存在すると、多価元素イオンは、着色中心から電子を奪うことによって始めの電子状態に戻る。結局、多価元素イオンは電子のキャリヤーとして、電子を捕えた着色中心から電子を奪い、電子の不足する着色中心に当該電子を与えることによって、電子と正孔の再結合を行うものと考えられる。結果として、ガラスマトリクス中に発生した電子と正孔が、ガラスマトリクス中のアルカリイオンや空孔へ作用することが抑制され、波長変換部材の経時的な発光強度の低下を抑制することが可能になる。
【0013】
本発明の波長変換部材において、前記多価元素が、Ce、As、Mo及びWから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明の波長変換部材において、前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、LiO+NaO+KO 0.1〜35%を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の波長変換部材において、前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することが好ましい。
【0016】
本発明の波長変換部材において、前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、SiO 30〜80%、B 1〜40%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することが好ましい。
【0017】
本発明の波長変換部材において、前記ガラス粉末が、下記酸化物換算のモル%で、SiO 30〜80%、B 1〜55%、LiO 0〜20%、NaO 0〜25%、KO 0〜25%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有することが好ましい。
【0018】
本発明の波長変換部材において、前記無機蛍光体粉末が、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、酸化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体及びアルミン酸塩蛍光体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
本発明の波長変換部材は、ガラス組成として、アルカリ金属元素及び多価元素を含有するガラス粉末の焼結体からなるマトリクス中に、無機蛍光体粉末が分散してなることを特徴とする。
【0020】
本発明の発光デバイスは、前記いずれかの波長変換部材、及び、前記波長変換部材に励起光を照射する光源を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、LEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下の少ない波長変換部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の発光デバイスの一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の波長変換部材は、(a)ガラス組成として、アルカリ金属元素及び多価元素を含有するガラス粉末と、(b)無機蛍光体粉末と、を含有する混合粉末の焼結体からなることを特徴とする。以下に、各構成成分について詳細に説明する。
【0024】
ガラス粉末は、本発明の波長変換部材において、無機蛍光体粉末を安定に保持するための媒体としての役割がある。ここで、ガラス粉末の組成によって、焼成時における無機蛍光体粉末との反応性に差が出るため、使用する無機蛍光体粉末に適したガラス組成を選択することが好ましい。
【0025】
ガラス粉末は、軟化点を低下させることを目的として、ガラス組成としてアルカリ金属元素(Li、Na及びKから選択される少なくとも1種)を含有している。具体的には、ガラス粉末は、下記酸化物換算のモル%で、LiO+NaO+KOを0.1〜35%を含有することが好ましく、1〜25%含有することがより好ましく、2〜20%含有することがさらに好ましい。LiO+NaO+KOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなり、一方、多すぎると、化学耐久性が低下しやすくなる。なお、後述するように、LiO、NaO及びKOの含有量は、ガラス組成系に応じて、適宜適切な範囲を設定することが好ましい。
【0026】
また、ガラス粉末は多価元素を含有することにより、波長変換部材の経時的な発光強度の低下を抑制することができる。多価元素としては、Ce、As、Mo及びWから選択される少なくとも1種が挙げられる。特に、Ceは経時的な発光強度の低下を顕著に抑制でき、さらに、ガラス粉末自体も着色しにくいため好ましい。
【0027】
ガラス粉末は、下記酸化物換算のモル%で、CeO+As+MoO+WOを0.001〜10%含有することが好ましく、0.01〜5%含有することがより好ましく、0.1〜3%含有することがさらに好ましい。CeO+As+MoO+WOの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなり、一方、多すぎると、ガラス粉末自体が着色して発光強度が低下する傾向がある。なお、各多価元素の含有量も、それぞれ上記範囲とすることが好ましい。
【0028】
また、ガラス粉末は、SiO、B、P、Bi及びTeOから選択される少なくとも1種を10〜99モル%含有するものが好ましい。具体的には、SiO−B−RO(RはMg、Ca、Sr及びBaから選択される少なくとも1種)−R’O(R’はLi、Na及びKから選択される少なくとも1種)系ガラス、SnO−P−R’O系ガラス、SiO−B−R’O系ガラス、SiO−B−ZnO−R’O系ガラス等が挙げられる。
【0029】
SiO−B−RO−R’O系ガラスとしては、例えば、下記酸化物換算のモル%で、SiO 30〜80%、B 1〜40%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、MgO+CaO+SrO+BaO 0.1〜45%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有するものが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0030】
SiOはガラスネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は30〜80%であることが好ましく、40〜60%であることがより好ましい。SiOの含有量が少なすぎると、化学的耐久性が低下する傾向にある。一方、SiOの含有量が多すぎると、軟化点が高くなることから、十分に焼結させるために高温焼成が必要となる。その結果、焼成時に無機蛍光体粉末が劣化しやすくなる。
【0031】
は溶融温度を低下させて溶融性を改善する効果が大きい成分である。Bの含有量は1〜40%であることが好ましく、5〜30%であることがより好ましい。Bの含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなる。一方、Bの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下する傾向にある。
【0032】
LiO、NaO及びKOは軟化点を低下させる成分である。LiO、NaO及びKOの含有量(合量)は0.1〜35%であることが好ましく、1〜25%であることがより好ましく、2〜20%であることがさらに好ましい。これら成分の含有量が少なすぎると、軟化点が低下しにくくなり、一方、これら成分が多すぎると、化学耐久性や耐候性が低下しやすくなる。
【0033】
なお、LiO、NaO及びKOの各成分の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。LiOの含有量は0〜10%であることが好ましく、0.1〜5%であることがより好ましい。NaOの含有量は0〜15%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。KOの含有量は0〜15%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。
【0034】
MgO、CaO、SrO及びBaOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。なお、BaOには無機蛍光体粉末との反応を抑制する効果もある。MgO、CaO、SrO及びBaOの含有量(合量)は0.1〜45%であることが好ましく、1〜40%であることがより好ましく、2〜35%であることがさらに好ましい。これらの成分の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくくなり、一方、多すぎると、化学的耐久性が低下する傾向にある。
【0035】
なお、MgO、CaO、SrO及びBaOの各成分の含有量の好ましい範囲は以下の通りである。MgOの含有量は0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましい。CaOの含有量は0〜30%であることが好ましく、0〜20%であることがより好ましい。SrOの含有量は0〜20%であることが好ましく、0〜10%であることがより好ましい。BaOの含有量は0〜40%であることが好ましく、0.1〜30%であることがより好ましい。
【0036】
CeO、As、MoO、WOの合量及び個別の含有量については、上述の通りである。
【0037】
ガラス粉末には、上記成分以外にも下記の成分を含有させることができる。
【0038】
Alは化学的耐久性を向上させる成分である。Alの含有量は0〜20%であることが好ましく、1〜18%であることがより好ましい。Alの含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0039】
ZnOは溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分である。ZnOの含有量は0〜20%であることが好ましく、0.1〜10%であることがより好ましい。ZnOの含有量が多すぎると、化学的耐久性が低下しやすくなる。
【0040】
また、化学的耐久性の向上等を目的として、Ta、TiO、Nb、Gd、La、Y、BiまたはZrOをそれぞれ15%まで含有させてもよい。
【0041】
SnO−P−R’O系ガラスとしては、例えば、モル%で、SnO 35〜80%、P 5〜40%、B 0〜30%、LiO+NaO+KO 0.1〜5%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有するものが好ましい。ガラス組成をこのように限定した理由を以下に説明する。
【0042】
SnOはガラスネットワークを形成するとともに、軟化点を低下させる成分である。SnOの含有量は35〜80%であることが好ましく、45〜75%であることがより好ましい。SnOの含有量が少なすぎると、軟化点が高くなったり、耐候性が低下する傾向がある。一方、SnOの含有量が多すぎると、Snに起因する失透物が析出して透過率が低下する傾向にあり、結果として、波長変換部材の発光強度が低下しやすくなる。また、ガラス化しにくくなる。
【0043】
はガラスネットワークを形成する成分である。Pの含有量は5〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましい。Pの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなる。一方、Pの含有量が多すぎると、軟化点が高くなったり、耐候性が著しく低下したりする傾向がある。
【0044】
は耐候性を向上させるとともに、分相を促進する成分である。また、ガラスを安定化させる効果もある。Bの含有量は0〜30%であることが好ましく、1〜25%であることがより好ましい。Bの含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。また、軟化点が高くなりすぎる傾向がある。
【0045】
LiO、NaO及びKOは軟化点を低下させる成分である。LiO、NaO及びKOの含有量(合量)は0.1〜5%であることが好ましく、1〜4%であることがより好ましい。これら成分の含有量が少なすぎると、軟化点が低下しにくくなる。一方、これら成分が多すぎると、化学耐久性が低下しやすくなる。また、分相性が大きくなりすぎて、光散乱ロスが大きくなる傾向がある。LiO、NaO及びKOの各成分の含有量は、それぞれ好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜4%、さらに好ましくは1〜4%である。
【0046】
CeO、As、MoO、WOの合量及び個別の含有量については、上述の通りである。
【0047】
また上記成分以外にも、溶融性を向上させたり、軟化点を低下させて低温焼成しやすくするために、MgO、CaO、SrOまたはBaOを合量で5%まで含有させることができる。他にも、化学的耐久性の向上等を目的として、Al、ZrO、ZnO、Ta、TiO、Nb、Gd、Bi、TeOまたはLaをそれぞれ15%まで含有させてもよい。
【0048】
SiO−B−R’O系ガラスとしては、例えば、モル%で、SiO 30〜80%、B 1〜55%、LiO 0〜20%、NaO 0〜25%、KO 0〜25%、LiO+NaO+KO 0.1〜35%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有するものが好ましい。
【0049】
また上記成分以外にも、溶融性を向上させるためにMgO、CaO、SrOおよびBaOを合量で30%まで含有させることができる。他にも、溶融性を向上させるためにZnOを10%まで、Pを5%まで、化学的耐久性を向上させるためにAlを10%まで、Ta、TiO、Nb、GdまたはLaをそれぞれ15%まで含有させてもよい。
【0050】
SiO−B−ZnO−R’O系ガラスとしては、例えば、モル%で、SiO 5〜50%、B 10〜55%、ZnO 30〜80%、LiO 0〜20%、NaO 0〜20%、KO 0〜20%、LiO+NaO+KO 0.1〜25%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%、及び、CeO+As+MoO+WO 0.001〜10%を含有するものが好ましい。
【0051】
また上記成分以外にも、化学的耐久性を向上させるためにAlを5%まで、Ta、TiO、Nb、GdまたはLaをそれぞれ15%まで含有させてもよい。
【0052】
ガラス粉末の粒子径は特に限定されないが、例えば、最大粒子径D99が200μm以下(特に150μm以下、さらには105μm以下)、かつ、平均粒子径D50が0.1μm以上(特に1μm以上、さらには2μm以上)であることが好ましい。ガラス粉末の最大粒子径D99が大きすぎると、得られる波長変換部材において、励起光が散乱しにくくなり発光効率が低下しやすくなる。また、平均粒子径D50が小さすぎると、得られる波長変換部材において、励起光が過剰に散乱して発光効率が低下しやすくなる。
【0053】
なお、本発明において、平均粒子径D50及び最大粒子径D99はレーザー回折法により測定した値を指す。
【0054】
無機蛍光体粉末としては、一般に市場で入手できるものであれば特に限定されない。例えば、窒化物蛍光体粉末、酸窒化物蛍光体粉末、酸化物蛍光体粉末(YAG蛍光体粉末等のガーネット系蛍光体粉末を含む)、硫化物蛍光体粉末、酸硫化物蛍光体粉末、ハロゲン化物蛍光体粉末(ハロリン酸塩化物等)及びアルミン酸塩蛍光体粉末等が挙げられる。これらの無機蛍光体粉末のうち、窒化物蛍光体粉末、酸窒化物蛍光体粉末及び酸化物蛍光体粉末は耐熱性が高く、焼成時に比較的劣化しにくいため好ましい。なお、窒化物蛍光体粉末及び酸窒化物蛍光体粉末は、近紫外〜青の励起光を緑〜赤という幅広い波長領域に変換し、しかも発光強度も比較的高いという特徴を有している。そのため、窒化物蛍光体粉末及び酸窒化物蛍光体粉末は、特に白色LED素子用波長変換部材に用いられる無機蛍光体粉末として有効である。
【0055】
上記無機蛍光体粉末としては、波長300〜500nmに励起帯を有し波長380〜780nmに発光ピークを有するもの、特に青色(波長440〜480nm)、緑色(波長500〜540nm)、黄色(波長540〜595nm)または赤色(波長600〜700nm)に発光するものが挙げられる。
【0056】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると青色の発光を発する無機蛍光体粉末としては、(Sr,Ba)MgAl1017:Eu2+、(Sr,Ba)MgSi:Eu2+等が挙げられる。
【0057】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、SrAl:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiO:Eu2+、BaMgAl1017:Eu2+,Mn2+、BaMgSi:Eu2+、BaSiO:Eu2+、BaLiSi:Eu2+、BaAl:Eu2+等が挙げられる。
【0058】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると緑色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、SrAl:Eu2+、SrBaSiO:Eu2+、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiOn:Eu2+、β−SiAlON:Eu2+等が挙げられる。
【0059】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、LaSi11:Ce3+等が挙げられる。
【0060】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると黄色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、Y(Al,Gd)12:Ce3+、SrSiO:Eu2+が挙げられる。
【0061】
波長300〜440nmの紫外〜近紫外の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、CaGa:Mn2+、MgSrSi:Eu2+,Mn2+、CaMgSi:Eu2+,Mn2+等が挙げられる。
【0062】
波長440〜480nmの青色の励起光を照射すると赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末としては、CaAlSiN:Eu2+、CaSiN:Eu2+、(Ca,Sr)Si:Eu2+、α−SiAlON:Eu2+等が挙げられる。
【0063】
なお、励起光や発光の波長域に合わせて、複数の無機蛍光体粉末を混合して用いてもよい。例えば、紫外域の励起光を照射して白色光を得る場合は、青色、緑色、黄色、赤色の蛍光を発する無機蛍光体粉末を混合して使用すればよい。
【0064】
波長変換部材における無機蛍光体粉末の含有量が多すぎると、焼結しにくくなったり、気孔率が大きくなる傾向がある。その結果、得られる波長変換部材において、励起光が効率良く無機蛍光体粉末に照射されにくくなったり、機械強度が低下しやすくなる等の問題が生じる。一方、無機蛍光体粉末の含有量が少なすぎると、所望の発光強度を得ることが困難になる。このような観点から、波長変換部材における無機蛍光体粉末の含有量は、質量%で、好ましくは0.01〜50%、より好ましくは0.05〜40%、さらに好ましくは0.1〜30%の範囲で調整される。
【0065】
なお、波長変換部材において発生した蛍光を、励起光入射側へ反射させ、主に蛍光のみを外部に取り出すことを目的とした波長変換部材においては、上記の限りではなく、発光強度が最大になるように、無機蛍光体粉末の含有量を多くする(例えば、質量%で、50%〜80%、さらには55〜75%)ことができる。
【0066】
本発明の波長変換部材は、ガラス組成として、アルカリ金属元素及び多価元素を含有するガラス粉末の混合粉末を焼成することにより製造される。これにより、ガラス組成として、アルカリ金属元素及び多価元素を含有するガラス粉末の焼結体からなるマトリクス中に、無機蛍光体粉末が分散してなる波長変換部材が得られる。
【0067】
焼成温度は、ガラス粉末の軟化点±150℃以内、好ましくは±100℃以内の範囲で適宜調整される。焼成温度が低すぎると、ガラス粉末が十分に流動せず、緻密な焼結体が得られにくい。一方、焼成温度が高すぎると、無機蛍光体粉末がガラス粉末中に溶出して発光強度が低下するおそれがある。あるいは、無機蛍光体粉末に含まれる成分がガラス粉末中に拡散して着色し、発光強度が低下するおそれがある。
【0068】
なお、焼成は減圧雰囲気中で行うことが好ましい。具体的には、焼成雰囲気は、1.013×10Pa未満であることが好ましく、1000Pa以下であることがより好ましく、400Pa以下であることがさらに好ましい。それにより、波長変換部材中に残存する気泡の量を少なくすることができる。その結果、波長変換部材内の光散乱因子を少なくすることができ、発光効率を向上させることができる。なお、焼成工程全体を減圧雰囲気中で行ってもよいし、例えば焼成工程のみを減圧雰囲気中で行い、その前後の昇温工程や降温工程を、減圧雰囲気ではない雰囲気(例えば大気圧下)で行ってもよい。
【0069】
本発明の波長変換部材の形状は特に制限されず、例えば、板状、柱状、球状、半球状、半球ドーム状等、それ自身が特定の形状を有する部材だけでなく、ガラス基板やセラミック基板等の基材表面に形成された被膜状のものであってもよい。
【0070】
図1に、本発明の発光デバイスの一実施形態を示す。図1に示すように、発光デバイス1は波長変換部材2及び光源3を備えてなる。光源3は、波長変換部材2に対して励起光Linを照射する。波長変換部材2に入射した励起光Linは、別の波長の光に変換され、光源3とは反対側からLoutとして出射する。この際、波長変換後の光と、波長変換されずに透過した励起光との合成光を出射させるようにしてもよい。
【実施例】
【0071】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
(1)ガラス粉末の作製
表1は本実施例で使用するガラス粉末の組成を示している。
【0073】
【表1】
【0074】
まず、表1に示す組成となるように原料を調合した。原料を白金坩堝内において800〜1500℃の温度で1〜2時間溶融してガラス化し、溶融ガラスを一対の冷却ローラー間に流し出すことによりフィルム状に成形した。フィルム状のガラスをボールミルで粉砕した後、分級して平均粒子径D50が2.5μmのガラス粉末を得た。
【0075】
各ガラス粉末の密度及び軟化点は、溶融ガラスを各測定に応じてブロック状または円柱状に成形し、アニールして得られた試料を用いて測定した。軟化点は、ファイバーエロンゲーション法を用い、粘度が107.6dPa・sとなる温度を採用した。密度はアルキメデス法より求めた。
【0076】
(2)波長変換部材の作製
表2〜4は、本発明の実施例(試料No.2〜3、5〜6、8〜9、11〜12、14〜15、17〜18、20〜21、23〜24、26〜27)及び比較例(試料No.1、4、7、10、13、16、19、22、25)を示している。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表1に記載のガラス粉末に対し、表2では、Y(Al,Gd)12:Ce3+(YAG)蛍光体粉末を、表3では、(Ca,Sr)Si:Eu2+(SCASN)蛍光体粉末を、表4では、α−SiAlON:Eu2+(α−SiAlON)蛍光体粉末を、所定量混合して混合粉末を得た。混合粉末を金型で加圧成型して直径1cmの円柱状予備成型体を作製した。予備成型体を表に記載の温度で焼成して得られた焼結体に加工を施すことにより、1.2mm角、厚さ0.2mmの波長変換部材を得た。得られた波長変換部材を発光波長445nmのLEDチップ上に載置し、700mAで通電して100時間連続照射を積分球内で行った。発光スペクトルは波長変換部材上面から発せられる光のエネルギー分布スペクトルを汎用の発光スペクトル測定装置を用いて測定した。得られた発光スペクトルに標準比視感度を掛け合わせることにより、全光束値を算出した。全光束値は照射前及び100時間照射後に算出した。全光束値の変化率は、100時間照射後の全光束値を、照射前の全光束値で除して、100を掛けた値(%)で表し、表2〜4に示した。
【0081】
表2〜4から明らかなように、実施例の波長変換部材は、100時間の励起光照射後も全光束値はほとんど低下しなかった。一方、比較例の波長変換部材は、100時間の励起光照射後に全光束値が大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の波長変換部材は、白色LED等の一般照明や特殊照明(例えば、プロジェクター光源、自動車のヘッドランプ光源)等の構成部材として好適である。
【符号の説明】
【0083】
1 発光デバイス
2 波長変換部材
3 光源
図1