特許第6222462号(P6222462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222462
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20171023BHJP
   C09D 125/16 20060101ALI20171023BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20171023BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171023BHJP
【FI】
   C09D133/00
   C09D125/16
   C09D5/08
   C09D7/12
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-33128(P2014-33128)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-157904(P2015-157904A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏典
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 一宏
【審査官】 安孫子 由美
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)〜(D)成分を含む非反応性の塗料組成物。
(A)成分:重量平均分子量が12万以下、かつ、ガラス転移点が70℃以下であるアクリル重合体
(B)成分:α−メチルスチレンを含むモノマーから重合される重合体
(C)成分:可塑剤
(D)成分:炭素数が7〜12の芳香族系溶剤
【請求項2】
(B)成分の軟化点が120℃以下である請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
車両のシャシに用いられる請求項1または2のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物を含む防錆塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚塗りができる塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料組成物において、エラストマーなどに密着付与剤であるタッキファイア等を添加することが知られているが、特許文献1に記載されている発明の様に、エラストマーの成分と密着付与剤の成分を共重合することで一体化することが記載されている。この様な共重合体を用いた塗料は、ウェットで30μm程度の厚さに塗布することができ、従来は重ね塗りが必要であった厚さを単一層で形成することができると記載されている。しかしながら、共重合工程におけるバラツキによりその特性が変わる恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−182844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の塗料組成物は、厚塗りすると内部に溶剤が残りやすく均一な塗膜を形成できず、当該塗膜は耐塩水性(5質量%の塩化ナトリウム溶液を使用して35℃雰囲気下で95%RHなど)の耐久試験に耐える事が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、耐塩水性が良好な塗料組成物に関する本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の要旨を次に説明する。本発明の第一の実施態様は、(A)〜(D)成分を含む非反応性の塗料組成物である。
(A)成分:重量平均分子量が12万以下、かつ、ガラス転移点が70℃以下であるアクリル重合体
(B)成分:α−メチルスチレンを含むモノマーから重合される重合体
(C)成分:可塑剤
(D)成分:炭素数が7〜12の芳香族系溶剤
【0007】
本発明の第二の実施態様は、(B)成分の軟化点が120℃以下である第一の実施態様に記載の塗料組成物である。
【0008】
本発明の第三の実施態様は、車両のシャシに用いられる第一または第二の実施態様のいずれかに記載の塗料組成物である。
【0009】
本発明の第四の実施態様は、第一から第三の実施態様のいずれかに記載の塗料組成物を含む防錆塗料である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、厚塗りしても内部に溶剤が残りにくく均一な塗膜を形成でき、当該塗膜は耐塩水性などの耐久試験に耐え、被着体から塗膜が剥離しない塗膜の形成を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の詳細を次に説明する。本発明で使用することができる(A)成分としては、重量平均分子量が12万以下、かつ、ガラス転移点が70℃以下であるアクリル重合体である。ここで、重合体とは、1種類のアクリルモノマーを重合した単重合体と複数の種類のアクリルモノマーを重合した共重合体を含む。(A)成分は、特定の重量平均分子量とガラス転移点を有すると共に、反応性の官能基を有しないアクリル重合体である。(A)成分は、1種類でも複数の種類を混合して使用しても良い。
【0012】
特に好ましくは、重量平均分子量が5千以上で12万以下であり、かつ、ガラス転移点が50℃以上で70℃以下である。分子量が小さい方が溶剤に対する溶解性が高くなると共に、ガラス転移点が低い方が可撓性が有るため信頼性試験に対しても耐性があると推測される。
【0013】
(A)成分に相当する商品としては、EVONIK社のDEGALAN PM602、P28N、64/12、LP63/11、LP65/11、LP64/11、LP65/12、LP64/12、PM381N、N742N、64/12N、66/02Nなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0014】
本発明で使用することができる(B)成分としては、α−メチルスチレンを含むモノマーから重合される重合体である。α−メチルスチレン単体からなる重合体または一部に使用した共重合体であれば使用することができる。いわゆるタッキファイアの1種類として位置づけられるが、(B)成分以外のタッキファイアでは、耐塩水性が低下する。(B)成分は、1種類でも複数の種類を混合して使用しても良い。溶解性の観点から、(B)成分の軟化点は120℃以下であることが好ましい。軟化点とは、固形物質が軟化して変形を起こしはじめる温度を示す。
【0015】
(B)成分の具体的な商品としては、ヤスハラケミカル株式会社のYSレジンSX100や、アリゾナケミカル社のSylvares SA85、SA100などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
(A)成分が100質量部に対して、(B)成分は20〜80質量部添加されることが好ましい。特に好ましくは、30〜70質量部である。(B)成分が20質量部より多いと、被着体に対する密着性が維持できる。一方、(B)成分が80質量部より少ないと塗膜の可撓性を維持できる。
【0017】
本発明で使用することができる(C)成分としては、可塑剤である。塗膜から揮発しないことを考慮すると、沸点が300℃以上であることが好ましい。(C)成分の具体例としては、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸アルキルアリール、フタル酸ジベンジル、フタル酸ジアリール、アジピン酸ジブチル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステルなどがあり、これらに限定されるものではない。(C)成分は、1種類でも複数の種類を混合して使用しても良い。
【0018】
(A)成分が100質量部に対して、(C)成分は1〜60質量部添加されることが好ましい。特に好ましくは、10〜50質量部である。(B)成分が10質量部より多いと、塗膜の可撓性が維持できる。一方、(B)成分が60質量部より少ないと表面が平滑な塗膜を形成できる。
【0019】
本発明で使用することができる(D)成分としては、炭素数が7〜12の芳香族系溶剤である。ここで、「炭素数」とは1分子の中に含まれる全ての炭素を示す。具体的な商品としては、トルエン(炭素数7)、キシレン(炭素数8)、出光興産株式会社のイプゾール100番(炭素数9)、イプゾール150番(炭素数10)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(D)成分以外の溶剤として、極性が低いイソヘキサン、ナフテン系溶剤など、極性が高いダイアセトンアルコールなどが知られているが、これらは(A)成分の溶解性が低いことや、揮発性が高いことで塗膜表面が平滑にならないなどの問題があり1種類だけで使用することができない。しかしながら、(D)成分と合わせて適宜使用することはできる。
【0021】
本発明には、本発明の特性を損なわない範囲において炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、アクリル粒子等の有機充填剤、難燃剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらの添加により樹脂強度、接着強さ、作業性、保存性等に優れた塗膜が得られる。
【0022】
本発明の用途としては、防錆用途全般に使用することができる。本発明は耐塩水性が良好であり、過酷な環境でも被着体から剥離し難いことから、車両用途に適しており、特にシャシなど特定の用途に用いることができる。
【実施例】
【0023】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。(以下、塗料組成物を単に組成物と呼ぶ。)
【0024】
組成物を調製するために下記成分を準備した。
(A)成分:重量平均分子量が12万以下、かつ、ガラス転移点が70℃以下であるアクリル重合体
・重量平均分子量:60000、ガラス転移点:63℃のアクリル重合体(DEGALAN 64/12 EVONIK社製)
・重量平均分子量:110000、ガラス転移点:61℃のアクリル重合体(DEGALAN P28N EVONIK社製)
(A’)成分:(A)成分以外のアクリル重合体
・重量平均分子量:160000、ガラス転移点:50℃のアクリル重合体(DEGALAN MB319 EVONIK社製)
・重量平均分子量:180000、ガラス転移点:104℃のアクリル重合体(DEGALAN M345 EVONIK社製)
(B)成分:α−メチルスチレンを含むモノマーから重合される重合体
・軟化点100℃のα−メチルスチレン重合体(YSレジンSX100 ヤスハラケミカル株式会社製)
・軟化点85℃のα−メチルスチレン重合体(Sylvares SA85 アリゾナケミカル社製)
・軟化点100℃のα−メチルスチレン重合体(Sylvares SA100 アリゾナケミカル社製)
(B’)成分:(B)成分以外の重合体
・軟化点80℃のテルペンフェノール共重合体(YSポリスターT80 ヤスハラケミカル株式会社製)
・軟化点100℃のテルペンフェノール共重合体(YSポリスターT100 ヤスハラケミカル株式会社)
・軟化点125℃のテルペンフェノール共重合体(YSポリスターG125 ヤスハラケミカル株式会社)
・軟化点125℃のテルペンフェノール共重合体(YSポリスターN125 ヤスハラケミカル株式会社)
・軟化点85℃の芳香族変性テルペン重合体(YSレジンTO85 ヤスハラケミカル株式会社製)
・軟化点80℃のテルペン樹脂(YSレジンPX800 ヤスハラケミカル株式会社製)
・軟化点90℃の脂肪族飽和炭化水素樹脂(アルコン P−90 荒川化学工業株式会社製)
・軟化点100℃の脂肪族飽和炭化水素樹脂(アルコン P−100 荒川化学工業株式会社製)
・軟化点125℃の脂肪族飽和炭化水素樹脂(アルコン P−125 荒川化学工業株式会社製)
・軟化点140℃の脂肪族飽和炭化水素樹脂(アルコン P−140 荒川化学工業株式会社製)
・軟化点98℃のポリエチレン樹脂(S−394 N1 シャムロック社製)
・軟化点95℃のテルペンフェノール樹脂(Sylvares TP96 アリゾナケミカル社製)
(C)成分:可塑剤
・可塑剤1:フタル酸ジオクチル(DOP 株式会社ジェイ・プラス製)
・可塑剤2:フタル酸ジイソノニル(DINP シージーエスター株式会社製)
・可塑剤3:1,2−シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(HEXAMOL DINCH BASFジャパン株式会社製)
(D)成分:炭素数が7〜12の芳香族系溶剤
・炭素数9の芳香族炭化水素(イプゾール100番 出光興産株式会社製)
・トルエン(炭素数7の芳香族炭化水素)(トルエン 日本アルコール販売株式会社製)
(D’)成分:(D)成分以外の溶剤
・イソヘキサン(キョウワゾールC−600M KHネオケム株式会社製)
・ナフテン系溶剤(エクソールD40 エクソンモービルケミカル社製)
・ジアセトンアルコール(ダイアセトンアルコール KHネオケム株式会社製)
【0025】
参考1〜20を調製するため、上記のアクリル重合体と溶剤をビーカーに秤量し、25℃で24時間攪拌する。詳細な調製量は表1に従い、数値は全て質量部で表記する。参考1〜20に対して、相溶性確認と厚膜形成性確認を行った。その結果も表1にまとめる。
【0026】
[相溶性確認]
調製した組成物をガラス容器に入れて、25℃で1日放置する。目視により下記の評価基準で確認して「相溶性(単位無し)」とする。
評価基準
○:全ての原料が溶解
×:一部もしくは全て溶解しない、または放置後に分離する
【0027】
[厚膜形成性確認]
鋼板(SPCC−SB)上に、ドライ状態の膜厚が30μmになる様に組成物を塗布する。その後、25℃で乾燥して、テストピースを作成する。テストピース表面を目視で確認して下記の評価基準で判定を行い、「厚膜形成性(単位無し)」とする。未確認の場合は、「−」と記載する。
評価基準
○:表面が平滑である
×:表面が平滑ではない
【表1】
【0028】
相溶性と厚膜形成性の両方が「○」であるのは、参考例1、2、7、12、17であり、アクリル重合体を炭素数が7〜12の芳香族系溶剤に溶解させたものであった。
【0029】
塗料組成物である実施例1〜7、比較例1〜15を調製した。(D)成分(比較例では(D’)成分)を秤量して攪拌釜に投入し、(A)成分(比較例では(A’)成分)と(B)成分(比較例では(B’)成分)と溶剤をビーカーに秤量し、25℃で24時間攪拌する。最後に、(C)成分を秤量して、25℃で1時間攪拌する。詳細な調製量は表2に従い、数値は全て質量部で表記する。
【表2】
【0030】
実施例1〜7、比較例1〜15に対して、相溶性確認、厚膜形成性確認、初期付着性確認、耐塩水試験を実施した。その結果を表3にまとめる。また、相溶性確認と厚膜硬化性確認は上記と同様の試験である。
【0031】
[初期付着性確認]
鋼板(SPCC−SB)上に、ドライ状態の膜厚が30μmになる様に組成物を塗布する。その後、25℃で乾燥して、テストピースを作成する。塗膜表面に1mmマスの碁盤目の切れ込みを入れる。その後、粘着テープで塗膜表面を引きはがし、目視で下記の評価基準により確認を行い「初期付着性」とする。詳細な試験方法は、JIS G3141に従う。
評価基準
○:100/100である
×:100/100ではない
【0032】
[耐塩水試験]
鋼板(SPCC−SB)上に、ドライ状態の膜厚が30μmになる様に組成物を塗布する。その後、25℃で乾燥して、テストピースを作成する。下記の試験条件に従い、テストピースを塩水噴霧試験器に投入する。各時間でテストピースを試験器から取り出し、室温に冷却された状態で碁盤目試験を行う。放置時間として240時間、360時間、480時間と碁盤目が100/100を維持した場合は、引き続き600時間、700時間、800時間を確認し、碁盤目が100/100を維持した時間を「耐久時間(単位:時間)」とする。詳細な試験方法はJIS Z2371に従う。耐久時間は500時間以上であることが好ましい。
試験条件
塩溶液:5質量%の塩化ナトリウム溶液
温度:35℃
湿度:95%RH
【表3】
【0033】
(B)成分であるα−メチルスチレンを含むモノマーから重合される重合体を用いた実施例1〜7は耐久時間が500時間以上を保持しているが、(B)成分以外のタッキファイアを用いた比較例1〜12と(B)成分を含まない比較例13と14は耐久時間が500時間を下回る。また、重量平均分子量が12万以下、かつ、ガラス転移点が70℃以下ではないアクリル重合体を用いた比較例15は耐久時間が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0034】
近年、環境への配慮から水性エマルジョンなどの塗料への切り替えが計られている。しかしながら、過酷な環境で耐えうる強固な塗膜としては、溶剤系の塗料を超えることは困難である。本発明は、耐塩水性が良好であり、過酷な環境でも被着体から剥離しにくいため、車両のシャシなど特定の用途に適した塗料組成物である。