(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記振動解析手段は、所定の周波数範囲で上記ベースモデルに振動を加えた場合における、このベースモデルのフロアパネルから放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーの周波数応答を算出し、さらに、上記所定の周波数範囲で上記縮約モデルに振動を加えた場合における、この縮約モデルのフロアパネルから放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーの周波数応答を算出し、
上記出力手段は、上記ベースモデルの上記等価放射エネルギーの周波数応答と、上記縮約モデルの等価放射エネルギーの周波数応答とを、共通の座標軸を用いて表示出力する請求項1に記載の振動解析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、フロアパネルの振動モードは、(1)フレーム部材からフロアパネルへの入力にフロアパネル自体が共振することによるモードと、(2)エンジンやサスペンションからフレーム部材への入力にフレーム部材が共振し、それに伴ってフロアパネルが振動するモードとの2種類のモードに分類することができる。この内、フロアパネル自体の共振によるモードが問題となる場合には、その対策として、フロアパネルのビードパターンを変更したりフロアパネルの肉厚を変更したりすることにより、フロアパネルの固有振動数を変更することが有効である。一方、フレーム部材の共振によるモードが問題となる場合には、フレームワークやフレーム断面を変更したり、フレームの肉厚変更や節の追加を行なったりすることにより、フレーム部材の固有振動数を変更することが有効である。
すなわち、車体のフロアパネル構造の振動解析に基づいて防振及び防音対策を効果的に行なうためには、振動解析により出力されたフロアパネルの各振動モードが、上述した2種類のモードの何れのモードであるのかを特定し、それぞれのモードに応じた適切な対策を講じる必要がある。
【0007】
そこで従来は、振動解析の結果からフロアパネルの各振動モードの形態を確認したり、解析モデルの変更(例えば、ビードの位置や形状の変更・節の追加・フレーム断面形状の変更等)に対するフロアパネル振動の感度を確認したりすることで、振動解析により出力されたフロアパネルの各振動モードがフロアパネル自体の共振又はフレーム部材の共振の何れに起因するモードであるのかを判断している。
【0008】
しかしながら、フロアパネルの各振動モードがフロアパネル自体の共振又はフレーム部材の共振の何れに起因するモードであるのかを判断するには、振動解析分野における専門知識や経験が必要とされるので、誰でも正確な判断ができるとは言い難い。また、解析モデルの変更に対するフロアパネル振動の感度を確認する場合には、解析モデルの変更作業が必要となるので、設計コストが上昇する。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、フロアパネルの各振動モードを、フロアパネル自体の共振に起因するモードとフレーム部材の共振に起因するモードとに正確且つ容易に区別可能な態様で、フロアパネル構造の振動解析結果を出力することができる、振動解析装置、及び振動解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明によれば、振動解析装置は、フレーム部材とこのフレーム部材に固定されたフロアパネルとを有する車体のフロアパネル構造の振動解析を実行する振動解析装置であって、フロアパネル構造を有限要素に分割したベースモデルを作成するベースモデル作成手段と、ベースモデルに基づき、フロアパネル構造におけるフロアパネルの質量をこのフロアパネルとフレーム部材との境界位置に縮約した縮約モデルを作成する縮約モデル作成手段と、ベースモデル及び縮約モデルに基づき、有限要素法によりフロアパネル構造の振動解析を実行する振動解析手段と、振動解析手段によるベースモデルの解析結果と縮約モデルの解析結果とを、共通の座標軸を用いて表示出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
また、振動解析方法は、
コンピュータが、フレーム部材とこのフレーム部材に固定されたフロアパネルとを有する車体のフロアパネル構造の振動解析を実行する振動解析方法であって、
ベースモデル作成手段が、フロアパネル構造を有限要素に分割したベースモデルを作成するステップと、
縮約モデル作成手段が、ベースモデルに基づき、フロアパネル構造におけるフロアパネルの質量をこのフロアパネルとフレーム部材との境界位置に縮約した縮約モデルを作成するステップと、
振動解析手段が、ベースモデル及び縮約モデルに基づき、有限要素法によりフロアパネル構造の振動解析を実行するステップと、
出力手段が、振動解析手段によるベースモデルの解析結果と縮約モデルの解析結果とを、共通の座標軸を用いて表示出力するステップと、を有することを特徴とする。
このように構成された本発明によれば、フロアパネル構造を有限要素に分割したベースモデルを作成すると共に、ベースモデルに基づき、フロアパネル構造におけるフロアパネルの質量をこのフロアパネルとフレーム部材との境界位置に縮約した縮約モデルを作成し、これらのベースモデル及び縮約モデルに基づいてフロアパネル構造の振動解析を実行し、ベースモデルと縮約モデルとのそれぞれの解析結果を共通の座標軸を用いて表示出力するので、フロアパネル自体の共振に起因するモードとフレーム部材の共振に起因するモードとの両方の振動モードを含むベースモデルの解析結果と、フロアパネル自体の共振に起因するモードを含まない縮約モデルの解析結果とを容易に比較することができる。即ち、フロアパネルの各振動モードを、フロアパネル自体の共振に起因するモードとフレーム部材の共振に起因するモードとに正確且つ容易に区別可能な態様で、フロアパネル構造の振動解析結果を出力することができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、振動解析手段は、所定の周波数範囲でベースモデルに振動を加えた場合における、このベースモデルのフロアパネルから放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーの周波数応答を算出し、さらに、所定の周波数範囲で縮約モデルに振動を加えた場合における、この縮約モデルのフロアパネルから放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーの周波数応答を算出し、出力手段は、ベースモデルの等価放射エネルギーの周波数応答と、縮約モデルの等価放射エネルギーの周波数応答とを、共通の座標軸を用いて表示出力する。
このように構成された本発明によれば、出力部は、フロアパネルから放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーを指標として、フロアパネル全体の等価放射エネルギーに対してフロアパネル自体の共振が寄与する範囲を明確に区別可能な態様で、フロアパネル構造の振動解析結果を出力することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による振動解析装置、及び振動解析方法によれば、フロアパネルの各振動モードを、フロアパネル自体の共振に起因するモードとフレーム部材の共振に起因するモードとに正確且つ容易に区別可能な態様で、フロアパネル構造の振動解析結果を出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による振動解析装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図2】車体のフロアパネル構造を模式化した簡易モデルの斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態による振動解析装置が実行する振動解析処理のフローチャートである。
【
図4】簡易モデルにおける質量の設定状態を概念的に示す平面図であり、
図4(a)は簡易モデルのベースモデルにおける質量の設定状態を示す図、
図4(b)は簡易モデルの縮約モデルにおける質量の設定状態を示す図である。
【
図5】本発明の実施形態による振動解析装置の出力部によりディスプレイに出力された解析結果を示す線図である。
【
図6】
図5における周波数帯域Iでの簡易モデルの振動モードを示す断面図であり、
図6(a)は簡易モデルのベースモデルの振動モードを示す図、
図6(b)は簡易モデルの縮約モデルの振動モードを示す図である。
【
図7】
図5における周波数帯域IIでの簡易モデルの振動モードを示す断面図であり、
図7(a)は簡易モデルのベースモデルの振動モードを示す図、
図7(b)は簡易モデルの縮約モデルの振動モードを示す図である。
【
図8】車体のフロアパネル構造の一部を示す平面図である。
【
図9】本発明の実施形態による振動解析モデル作成装置が実行する縮約モデル作成処理のフローチャートである。
【
図10】車体のフロアパネル構造のベースモデルから抽出されたパネルを示す平面図である。
【
図11】
図10のパネル全体の質量をパネルとフレームとの境界に縮約した縮約パネルを示す平面図である。
【
図12】
図11の縮約パネルを組み込んだフロアパネル構造の縮約モデルの平面図である。
【
図13】
図8に示した車体のフロアパネル構造のベースモデルと縮約モデルとのそれぞれの周波数応答解析の結果を重畳した線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による振動解析装置、及び振動解析方法を説明する。
【0015】
まず、
図1により、本発明の実施形態による振動解析装置の構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による振動解析装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、符号1は振動解析装置を示す。この振動解析装置1は、車体のフロアパネル構造に外力が加えられた場合の応答を解析するものであり、フロアパネル構造の設計データ等に基づき、そのフロアパネル構造の振動解析モデルを作成する振動解析モデル作成装置2と、この振動解析モデル作成装置2により作成された振動解析モデルに基づき、有限要素法によりフロアパネル構造の振動解析を実行する振動解析部4と、この振動解析部4による解析結果から表示データを生成してディスプレイ6に出力する出力部8とを有する。
【0017】
振動解析モデル作成装置2は、車体のフロアパネル構造をメッシュ分割した有限要素モデル(以下、「ベースモデル」という)を作成するベースモデル作成部10と、このベースモデルに基づき、フロアパネル構造におけるパネルの質量をパネルとフレームとの境界に縮約した縮約モデルを作成する縮約モデル作成部12とを備えている。これらのベースモデル作成部10及び縮約モデル作成部12は、それぞれ、作成したモデルを振動解析部4に出力する。
これらの各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを格納するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0018】
次に、
図2乃至
図7により、本発明の実施形態による振動解析装置1が実行する振動解析の各処理について説明する。
図2は、車体のフロアパネル構造を模式化した簡易モデルの斜視図であり、
図3は、本発明の実施形態による振動解析装置1が実行する振動解析処理のフローチャートである。また、
図4は簡易モデルにおける質量の設定状態を概念的に示す平面図であり、
図4(a)は簡易モデルのベースモデルにおける質量の設定状態を示す図、
図4(b)は簡易モデルの縮約モデルにおける質量の設定状態を示す図である。また、
図5は、本発明の実施形態による振動解析装置1の出力部8によりディスプレイ6に出力された解析結果を示す線図であり、
図6は、
図5における周波数帯域Iでの簡易モデルの振動モードを示す断面図であり、
図6(a)は簡易モデルのベースモデルの振動モードを示す図、
図6(b)は簡易モデルの縮約モデルの振動モードを示す図である。また、
図7は、
図5における周波数帯域IIでの簡易モデルの振動モードを示す断面図であり、
図7(a)は簡易モデルのベースモデルの振動モードを示す図、
図7(b)は簡易モデルの縮約モデルの振動モードを示す図である。
【0019】
車体のフロアパネル構造は、その骨格を成すフレームと、このフレームに固定されたパネルとを有している。例えば、
図2に模式的に示す簡易モデル14は、正方形のフレーム16と、このフレーム16の内周側に結合された正方形のパネル18とを有している。フレーム16の外形は、平面視で1辺の長さが550mmの正方形であり、フレーム16の断面形状は、1辺の長さが50mmの正方形の閉断面である。また、パネル18の外形は、平面視で1辺の長さが450mmの正方形となっている。これらのフレーム16及びパネル18は、何れも板厚が1mmである。
【0020】
次に、
図3に示すように、振動解析処理が開始されると、ステップS1において、ベースモデル作成部10は、車体のフロアパネル構造のベースモデルを作成する。例えば、ベースモデル作成部10は、フロアパネル構造の形状データや物性データ(密度や弾性率等)を取得し、これらのデータからベースモデルを作成する。作成されたベースモデルは、振動解析部4に出力される。
例えば、フロアパネル構造の形状データとして
図2に示した簡易モデル14を取得した場合、ベースモデル作成部10は、四角形要素からなるシェル要素として、簡易モデル14からベースモデルを作成する。
【0021】
次に、ステップS2に進み、振動解析部4は、ベースモデル作成部10により作成されたベースモデルに基づき、有限要素法によりベースモデルの周波数応答解析を行う。
図2に示した簡易モデル14の例では、フレーム16の角の1つを加振点Aとし、この加振点Aに対してパネル18の面直方向(
図2ではZ方向)に加振したときのベースモデルの各節点の変位を算出する。
さらに、周波数応答解析の結果を評価するための評価指標としては各種の指標を用いることができるが、本実施形態による振動解析部4は、パネル18が発生させる騒音の大きさを評価する指標として、パネル18から放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギー(ERP:Equivalent Radiation Energy)を、ベースモデルの各節点の変位から算出する。
【0022】
次に、ステップS3に進み、縮約モデル作成部12は、ベースモデル作成部10により作成されたベースモデルに基づき、フロアパネル構造におけるパネル18の質量をパネル18とフレーム16との境界に縮約した縮約モデルを作成する。
ここで
図4を参照して、
図2に示した簡易モデル14のベースモデル及び縮約モデルにおける質量の設定状態を説明する。この
図4では、パネル18を構成する各要素の節点の内、所定の密度が設定されている節点を丸印で示している。なお、フレーム16については、ベースモデルと縮約モデルとの間に差が無いので、メッシュ及び節点を省略している。
【0023】
図4(a)に示すように、簡易モデル14のベースモデル20では、パネル18全体の節点に、パネル18の材料に対応した所定の密度が設定されている。一方、
図4(b)に示すように、簡易モデル14の縮約モデル22では、パネル18全体の質量マトリクスがパネル18とフレーム16との境界の節点集合位置での質量マトリクスに縮約され、パネル18内部の節点の密度は0となっている。即ち、縮約モデル22では、パネル18内部の質量はパネル18とフレーム16との境界に振り分けられており、パネル18自体は剛性を有しているが質量を有していないので、パネル18の共振は発生しないことになる。従って、この縮約モデル22におけるパネル18の変位は、パネル18自体の共振に起因するものではなく、全てフレーム16の変形に起因するものと言うことができる。
なお、このステップS3における縮約モデル22作成の詳細については後述する。
【0024】
次に、ステップS4に進み、振動解析部4は、縮約モデル作成部12により作成された縮約モデル22に基づき、ステップS2におけるベースモデル20の周波数応答解析と同様の条件により、縮約モデル22の周波数応答解析を行う。
【0025】
次に、ステップS5に進み、出力部8は、ステップS2におけるベースモデル20の周波数応答解析の結果と、ステップS4における縮約モデル22の周波数応答解析の結果とを、共通の座標軸を用いてディスプレイ6に重畳出力させる。その後、振動解析装置1は振動解析処理を終了する。
【0026】
図5は、簡易モデル14のベースモデル20と縮約モデル22とのそれぞれの周波数応答解析の結果を共通の座標軸を用いて重畳表示した線図であり、横軸が周波数(Hz)、縦軸がERP(W)を示している。この
図5では、ベースモデル20の周波数応答を実線で示し、縮約モデル22の周波数応答を破線で示している。
図5に示すように、ベースモデル20の周波数応答には、パネル18自体の共振とフレーム16の共振のそれぞれに起因するモードが含まれるので、幅広い周波数帯域にわたって複数のERPのピークが存在している。一方、上述したように、縮約モデル22においてはパネル18自体の共振は発生しないので、この縮約モデル22の周波数応答には、フレーム16の共振に起因するモードしか含まれず、
図5では1つのERPのピークしか存在しない。
【0027】
例えば、ベースモデル20ではERPのピークが生じ縮約モデル22ではERPのピークが生じない周波数帯域Iでは、
図6(a)に示すように、ベースモデル20ではパネル18自体が変形しているのに対して、
図6(b)に示すように、縮約モデル22ではパネル18自体はほとんど変形していない。即ち、この周波数帯域IにおけるERPのピークは、パネル18の共振によるものと言うことができ、この周波数帯域Iにおけるパネル18の振動モードはパネル18自体の共振に起因する振動モードであると判断できる。
【0028】
一方、ベースモデル20と縮約モデル22との両方でピークが生じる周波数帯域IIでは、
図7(a)に示すように、ベースモデル20ではフレーム16とパネル18がどちらも変形しているのに対して、
図7(b)に示すように、縮約モデル22でもフレーム16の変形に伴ってパネル18が変形している。即ち、この周波数帯域IIにおけるERPのピークはフレーム16の共振に伴うパネル18の変形により生じたものと言えるので、この周波数帯域IIにおけるパネル18の振動モードはフレーム16の共振に起因する振動モードであると判断できる。
【0029】
つまり、
図5に示した線図によれば、ベースモデル20の周波数応答においてのみERPのピークが生じている周波数帯域Iの振動モードはパネル18自体の共振に起因する振動モードであり、ベースモデル20及び縮約モデル22の両方の周波数応答においてERPのピークが生じている周波数帯域IIの振動モードはフレーム16の共振に起因する振動モードであることが、一見して判断できる。
言い換えれば、ベースモデル20の周波数応答と縮約モデル22の周波数応答との間に差が生じている範囲(
図5でハッチングにより示す)が、パネル18全体のERPに対してパネル18自体の共振が寄与する範囲を示している。
【0030】
次に、
図8乃至
図12により、本発明の実施形態の振動解析モデル作成装置2による縮約モデルの作成手順について詳細に説明する。
図8は車体のフロアパネル構造の一部を示す平面図、
図9は本発明の実施形態による振動解析モデル作成装置2が実行する縮約モデル作成処理のフローチャートであり、
図10は車体のフロアパネル構造のベースモデルから抽出されたパネルを示す平面図であり、
図11は
図10のパネル全体の質量をパネルとフレームとの境界に縮約した縮約パネルを示す平面図であり、
図12は
図11の縮約パネルを組み込んだフロアパネル構造の縮約モデルの平面図である。
【0031】
図8は、車両の前列左側の座席の下方におけるフロアパネル構造24を示している。この
図8に示すように、車体のフロアパネル構造24は、車両の前後方向に延びるフレーム部材26と、このフレーム部材26の下側で水平方向に延びるフロアパネル28とを備えている。フレーム部材26は閉断面の断面形状を有しており、このフレーム部材26の下面側に、フロアパネル28がスポット溶接されている。
【0032】
図3を参照して説明した振動解析処理のステップS3において縮約モデル作成処理が開始されると、
図9に示すように、ステップS11において、縮約モデル作成部12は、振動解析処理のステップS1でベースモデル作成部10が作成したベースモデルを取得する。
【0033】
次に、ステップS12に進み、縮約モデル作成部12は、ステップS11で取得したベースモデルに含まれるフレーム部材26とフロアパネル28とを区分する。例えば、
図8に破線で示すように、縮約モデル作成部12は、フロアパネル28においてフレーム部材26とフロアパネル28との溶接部よりも内側の領域をフロアパネル28として区分する。
【0034】
次に、ステップS13に進み、縮約モデル作成部12は、
図10に示すように、ステップS11で取得したベースモデルから、ステップS12で区分されたフロアパネル28の部分のみをパネル部分モデル30として抽出する。
【0035】
次に、ステップS14に進み、縮約モデル作成部12は、ステップS13で抽出したパネル部分モデル30の各節点の内、フロアパネル28とフレーム部材26との境界の節点集合32(即ち、パネル部分モデル30の外周に位置する節点集合)を指定する。
【0036】
次に、ステップS15に進み、縮約モデル作成部12は、ステップS13で抽出したパネル部分モデル30の各節点に設定されている密度の集合である質量マトリクスを、ステップS14で指定された境界節点集合32の位置における質量マトリクスに縮約する。これにより、
図11に丸印で示すように、パネル部分モデル30全体の質量が、フロアパネル28とフレーム部材26との境界の節点集合32(即ち、パネル部分モデル30の外周に位置する節点集合)に振り分けられる。
【0037】
次に、ステップS16に進み、縮約モデル作成部12は、ステップS11で取得したベースモデルにおける各節点の内、ステップS12で区分されたフロアパネル28内の各節点に設定されている密度を0にする。これにより、ステップS11で取得されたベースモデルにおけるフロアパネル28の質量が0になる。
【0038】
次に、ステップS17に進み、縮約モデル作成部12は、ステップS15において質量マトリクスがフロアパネル28とフレーム部材26との境界節点集合32の位置における質量マトリクスに縮約されたパネル部分モデル30を、ステップS16においてフロアパネル28の質量が0にされたベースモデルに組み込む。これにより、
図12に示すように、フロアパネル28の質量をフロアパネル28とフレーム部材26との境界節点集合32の位置に縮約した縮約モデル34が作成される。このステップS17の後、
図3のメインルーチンに戻り、振動解析部4は、縮約モデル34の周波数応答解析を行う(ステップS4)。
【0039】
図13は、
図8に示した車体のフロアパネル構造24のベースモデルと縮約モデル34とのそれぞれの周波数応答解析の結果を重畳した線図であり、横軸が周波数(Hz)、縦軸がERP(W)を示している。この
図13では、ベースモデルの周波数応答を実線で示し、縮約モデル34の周波数応答を破線で示している
図13に示した線図によれば、周波数F
1以下の範囲では、ベースモデルの周波数応答と縮約モデル34の周波数応答とがほぼ重なっているので、この範囲におけるフロアパネル構造24の振動モードはフレームの共振に起因する振動モードであることが分かる。一方、周波数F
1以上の範囲では、ベースモデルの周波数応答においてのみERPのピークが生じているので、この範囲におけるフロアパネル構造24の振動モードはフロアパネル28自体の共振に起因する振動モードであることがわかる。言い換えれば、周波数F
1以上の範囲では、ベースモデルの周波数応答と縮約モデル34の周波数応答との間に差が生じているので、この周波数帯域ではフロアパネル構造24のERPに対してフロアパネル28自体の共振が寄与していることが分かる。
即ち、周波数F
1以下の範囲におけるERPを低減するためには、フレーム部材26の共振を抑制するようにフレーム部材26に対策を施せばよく、周波数F
1以上の範囲におけるERPを低減するためには、フロアパネル28自体の共振を抑制するようにフロアパネル28に対策を施せばよいことが分かる。
【0040】
次に、上述した本実施形態の振動解析装置1、及び振動解析方法による作用効果を説明する。
【0041】
まず、ベースモデル作成部10が、車体のフロアパネル構造24を有限要素に分割したベースモデルを作成すると共に、縮約モデル作成部12が、フロアパネル構造24におけるフロアパネル28の質量をフロアパネル28とフレーム部材26との境界節点集合32の位置に縮約した縮約モデル34を作成するので、これらのベースモデルと縮約モデル34とのそれぞれについて振動解析を行うことで、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとの両方の振動モードを含むベースモデルの解析結果と、フロアパネル28自体の共振に起因するモードを含まない縮約モデル34の解析結果とを比較することができる。従って、フロアパネル28の各振動モードを、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとに正確且つ容易に区別するために有用なフロアパネル構造24の振動解析モデルを作成することができる。
【0042】
特に、縮約モデル作成部12は、フロアパネル構造24においてフレーム部材26とフロアパネル28との固定部よりも内側の領域をフロアパネル28として区分するので、フロアパネル構造24においてフロアパネル28自体の共振に寄与する部分を正確に区分することができ、フロアパネル28の各振動モードを、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとに確実に区別するために有用な縮約モデル34を作成することができる。
【0043】
また、縮約モデル作成部12は、ベースモデルにおけるフロアパネル28部分のみをパネル部分モデル30としてベースモデルから抽出し、この抽出されたパネル部分モデル30の各節点位置における質量の集合を表す質量マトリクスを、フロアパネル28とフレーム部材26との境界の節点集合の位置における質量マトリクスに縮約するので、フロアパネル構造24におけるフロアパネル28の質量をフロアパネル28とフレーム部材26との境界節点集合32の位置に適切に振り分けることができ、フロアパネル28の各振動モードを、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとに確実に区別するために有用な縮約モデル34を作成することができる。
【0044】
また、ベースモデル作成部10が、フロアパネル構造24を有限要素に分割したベースモデルを作成すると共に、縮約モデル作成部12が、ベースモデルに基づき、フロアパネル構造24におけるフロアパネル28の質量をこのフロアパネル28とフレーム部材26との境界位置に縮約した縮約モデル34を作成し、これらのベースモデル及び縮約モデル34に基づき、振動解析部4がフロアパネル構造24の振動解析を実行し、出力部8はベースモデルと縮約モデル34とのそれぞれの解析結果を共通の座標軸を用いて表示出力するので、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとの両方の振動モードを含むベースモデルの解析結果と、フロアパネル28自体の共振に起因するモードを含まない縮約モデル34の解析結果とを容易に比較することができる。即ち、フロアパネル28の各振動モードを、フロアパネル28自体の共振に起因するモードとフレーム部材26の共振に起因するモードとに正確且つ容易に区別可能な態様で、フロアパネル構造24の振動解析結果を出力することができる。
【0045】
また、出力部8は、ベースモデルの等価放射エネルギーの周波数応答と、縮約モデル34の等価放射エネルギーの周波数応答とを、共通の座標軸を用いて表示出力するので、フロアパネル28から放射される音響パワーに対応する等価放射エネルギーを指標として、フロアパネル28全体の等価放射エネルギーに対してフロアパネル28自体の共振が寄与する範囲を明確に区別可能な態様で、フロアパネル構造24の振動解析結果を出力することができる。