(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被解析物にX線を照射し、X線のエネルギー変化に応じて前記被解析物で発生した光電子に基づく電気量を測定し、その測定結果に基づいて前記被解析物に含まれる注目対象とその周囲の情報を解析する際に、前記被解析物を保持する解析用セルであって、
前記被解析物は、アノードとカソードと電解質層とを有する燃料電池であり、
貫通孔を有し、その貫通孔を塞ぐように配置される前記燃料電池を保持する電池保持部材と、
前記電池保持部材に取り付けられ、前記電池保持部材に保持される前記燃料電池の前記アノードの外周を覆うアノードカバーと、
前記電池保持部材における前記アノードカバーと反対側に取り付けられ、前記電池保持部材に保持される前記燃料電池の前記カソードの外周を覆うカソードカバーと、
前記アノードの表面から前記電池保持部材の表面にかけて形成され、前記アノードカバーの外側にまで伸びるアノード側導電膜と、
前記カソードの表面から前記電池保持部材の表面にかけて形成され、前記カソードカバーの外側にまで伸びるカソード側導電膜と、
を備える解析用セル。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0015】
<1>実施形態に係る解析用セルは、被解析物にX線を照射し、X線のエネルギー変化に応じて被解析物で発生した光電子に基づく電気量を測定し、その測定結果に基づいて被解析物に含まれる注目対象とその周囲の情報を解析する際に、被解析物を保持する解析用セルである。この解析用セルにおける被解析物は、アノードとカソードと電解質層とを有する燃料電池であり、解析用セルは、電池保持部材と、アノードカバーと、カソードカバーと、を備える。電池保持部材は、貫通孔を有し、その貫通孔を塞ぐように配置される燃料電池を保持する。アノードカバーは、電池保持部材に取り付けられ、電池保持部材に保持される燃料電池のアノードの外周を覆う。カソードカバーは、電池保持部材におけるアノードカバーと反対側に取り付けられ、電池保持部材に保持される燃料電池のカソードの外周を覆う。
【0016】
上記解析用セルによれば、燃料電池を保持すると共に、アノードカバーに覆われる燃料電池のアノードと、カソードカバーに覆われる燃料電池のカソードと、を別々の雰囲気下に配置することができる。そのため、上記解析用セルを用いて解析装置を構築すれば、アノードに負極ガスを、カソードに正極ガスを別個に導入することができ、燃料電池を動作させながら燃料電池の電極に含まれる注目対象の情報を解析することができる。
【0017】
<2>実施形態に係る解析装置は、燃料電池を保持する実施形態の解析用セルと、X線照射機構と、負極ガス導入機構と、ヒーターと、測定機構と、解析機構と、を備える。解析用セルは上述した構成を備え、解析用セル以外は以下の構成を備える。
・X線照射機構は、X線のエネルギーを変えながら、燃料電池にX線を照射するX線源を有する機構である。
・負極ガス導入機構は、燃料電池を動作させるために、解析用セルに備わるアノードカバーの内部に負極活物質を含む負極ガスを導入する機構である。
・ヒーターは、燃料電池の外周を解析用セルごと覆って加熱する機構である。
・測定機構は、X線によって燃料電池に生じる電気量を測定する機構である。
・解析機構は、測定機構の測定結果に基づいて、燃料電池の動作時における注目対象の情報を解析する機構である。
【0018】
上記実施形態の解析装置によれば、燃料電池を動作させた状態で、燃料電池のアノードまたはカソードに含まれる注目対象の情報を解析することができる。それは、実施形態の解析セルを用いることで、燃料電池のアノードとカソードとにそれぞれ、負極ガスと正極ガスを別個に供給することができ、かつヒーターによって燃料電池を動作温度まで昇温することができるからである。
【0019】
<3>実施形態の解析装置として、解析装置に用いる解析用セルの電池保持部材、アノードカバー、およびカソードカバーは、ガラス製である形態を挙げることができる。
【0020】
解析用セルの構成部材をガラス製とすることで、燃料電池と解析用セルとの間の絶縁を確保することができる。また、透明なガラスで解析用セルの構成部材を作製することで、解析用セルに燃料電池を取り付ける際に、電池保持部材における燃料電池の配置状態が適切かどうかを容易に確認することができる。
【0021】
<4>実施形態の解析装置として、解析装置に備わる測定機構は、アノードの表面から電池保持部材の表面にかけて形成されたアノード側導電膜と、カソードの表面から前記電池保持部材の表面にかけて形成されたカソード側導電膜と、を備える形態を挙げることができる。この場合、測定機構は、アノード側導電膜およびカソード側導電膜を介して燃料電池の電気量を測定する。
【0022】
アノードおよびカソードにリード線を接続し、これらリード線を介して燃料電池の電気量を測定する場合、リード線によって電池保持部材とアノードカバー(カソードカバー)との間に隙間ができ易い。当該隙間ができると、カバー内に導入する正極ガスや負極ガスが外部に漏れ易い。特に、アノードカバー内に導入する負極ガスが外部に漏れた場合、燃料電池の運転が不十分になる恐れがある。これに対して、アノードおよびカソードから電気を取り出す部材が薄膜状の電極膜であれば、電池保持部材とカバーとの間に隙間ができ難く、燃料電池の運転が不十分になることを抑制することができる。
【0023】
<5>実施形態の解析装置として、X線照射機構は、X線源からのX線を、燃料電池に間歇的に照射させるチョッピング部を備え、測定機構は、燃料電池に間歇的に照射されるX線の周期に同期した電気量を測定する同期測定部を備え、解析機構は、同期測定部の測定結果に基づいて解析を行なう形態を挙げることができる。
【0024】
上記構成によれば、X線の照射によって生じる微小な電気量を感度良く測定することができる。そのため、アノードまたはカソード中の注目対象の濃度が低い場合でも、注目対象の解析を高精度に行なうことができる。また、X線を間歇的に燃料電池に照射することで、燃料電池が発電中であっても、X線照射によって生じる電流と、燃料電池の発電した電流と、を切り分けることができる。
【0025】
<6>実施形態の解析装置として、解析装置に備わるヒーターは、加熱・保温機能を有するマントルヒーターである形態を挙げることができる。
【0026】
燃料電池は通常、環境温度よりも高温(例えば、200℃以上)で動作する。そのため、実施形態の解析装置を用いて燃料電池を動作させながら注目対象の解析を行なう場合、燃料電池を高温に維持することが求められる。マントルヒーターは、優れた保温性能を有するため、燃料電池を高温に維持し易い。
【0027】
<7>実施形態に係る解析方法は、上記実施形態の解析装置を用意し、その解析装置における解析用セルに燃料電池を保持させ、燃料電池を動作させた状態で注目対象の情報を解析する。具体的には、解析装置における燃料電池のアノードカバーの内部に負極ガスを導入し、カソードカバーの内部に正極ガスを導入すると共に、ヒーターで前記燃料電池を所定温度に加熱することで、燃料電池を動作させる。そして、X線照射機構から照射されるX線のエネルギーを変化させながら注目対象(アノードまたはカソードに含まれる元素)の情報を解析する。
【0028】
上記実施形態の解析方法によれば、燃料電池の動作時における注目対象の情報、例えば注目対象の物理的・化学的状態に関する情報や、注目対象とその周辺の元素との原子間距離などの構造的な情報などを測定することができる。燃料電池の動作時に得られる情報は、燃料電池の改良に極めて重要な貢献をする。
【0029】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本実施形態に係る解析用セルを用いた解析装置を説明し、次いでその解析装置を用いた解析方法を説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるわけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内の全ての変更が含まれることを意図する。
【0030】
<解析装置の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の解析装置1は、解析される燃料電池2と、その燃料電池2を保持する解析用セル3と、X線照射機構4と、負極ガス導入機構5と、ヒーター6と、測定機構7と、解析機構8と、X線検出器9と、を備える。以下、解析装置1の各構成を詳細に説明する。
【0031】
≪燃料電池≫
燃料電池2は、
図2,3に示すように、アノード21と、カソード22と、電解質層23と、を備える。燃料電池2は、正極ガスをカソード22に供給すると共に、負極ガスをアノード21に供給することで、動作する。
【0032】
アノード21には、例えば、触媒としてニッケルを含むイットリウム安定化ジルコニア(Yittria Stabilized Zirconia;YSZ)を利用することができる。この場合、Ni:YSZ=30体積%:70体積%以上、70体積%:30体積%以下とすることが好ましい。一方、カソード22には、例えば、LSCF6428(La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3)を利用することができる。また、電解質層23には、例えばY
2O
3を3mol%以上、10mol%以下含むYSZを利用することができる。以上例示した構成では、正極ガスには、正極活物質として酸素を含有するガス、例えば、空気を利用することができる。また、負極ガスには、負極活物質として水素を含有する負極ガス、例えば、100%水素や、水素とヘリウムの混合ガスを利用することができる。
【0033】
本実施形態の燃料電池2の縁部には取付具29が設けられている。この取付具29は、燃料電池2を後述する解析用セル3に固定する際、燃料電池2が解析用セル3に直接接触することを回避する部材である。取付具29は絶縁性を有することが好ましく、例えば、アルミナなどで構成する。アルミナであれば、アノード21とカソード22との間の絶縁を確保し易い上、燃料電池2を動作させる際の高温環境下で溶融することがなく、好ましい。
【0034】
≪解析用セル≫
図2の概略構成図に示すように、解析用セル3は、電池保持部材30と、アノードカバー31と、カソードカバー32と、を備える。本実施形態の解析用セル3はさらに、電池保持部材30とアノードカバー31との間、および電池保持部材30とカソードカバー32との間に配置されるガスケット33を備える。これらの部材30〜33は、不要な電流パスが増えないように、ガラス製とすることが好ましい。その他、金属製の部材30〜33の表面に、ガラスなどの耐熱性絶縁膜を形成したものを利用して解析用セル3を構成することもできる。
【0035】
(電池保持部材)
電池保持部材30は概略板状の部材であって、その一面側に燃料電池2が保持される。この電池保持部材30の厚さは特に限定されないが、1mm以上3mm以下とすることが好ましい。この範囲の厚さを有する電池保持部材30であれば、燃料電池2を安定して保持することができ、かつ解析用セル3の大型化を回避することができる。
【0036】
電池保持部材30の中央部には貫通孔30Hが形成されている。貫通孔30Hの内壁の輪郭形状は、図示するような円形とすることが好ましいが、矩形などの多角形状としても良いし、雲形や星型のような異形としても良い。電池保持部材30における燃料電池2は、この貫通孔30Hの一端の位置に取り付けられ、貫通孔30Hを塞いでいる。本実施形態では、燃料電池2のカソード22が貫通孔30Hに露出した状態となるように燃料電池2が電池保持部材30に保持されている(特に、
図3を参照)。具体的には、燃料電池2の縁部に設けられる取付具29を電池保持部材30の貫通孔30Hの周辺の面に接着することで、燃料電池2が電池保持部材30に保持されている。上記接着には、東亞合成株式会社製アロンセラミックス(登録商標)などのガラス接着剤を利用することができる。なお、燃料電池2のアノード21が貫通孔30Hに露出した状態となるように燃料電池2を電池保持部材30に保持させても良い。
【0037】
上記貫通孔30Hは、
図3に示すように、燃料電池2の縁部に設けられる取付具29よりも小さければ良い。そうすることで、アノード21は、アノード21よりも左側(貫通孔30Hとは反対側)の領域にのみ露出した状態となり、カソード22は、貫通孔30Hにのみ露出した状態となる。その結果、アノード21は、電池保持部材30を挟む紙面左側の雰囲気下に配置され、カソード22は、電池保持部材30を挟む紙面右側の雰囲気、即ちアノード21とは異なる雰囲気下に配置される。
【0038】
電池保持部材30に保持される燃料電池2のアノード21の表面から電池保持部材30の表面に至る部分には、アノード側導電膜7Aが形成されている。また、電池保持部材30に保持される燃料電池2のカソード22の表面から電池保持部材30の表面に至る部分には、カソード側導電膜7Kが形成されている。両導電膜7A,7Kは、アノード21,カソード22の表面の縁部(取付具29で覆われている部分の近傍)には形成されているものの、当該表面の中央部分には形成されていない。従って、両導電膜7A,7Kによって、アノード21,カソード22と、燃料電池2を動作させる反応ガスと、の接触が妨げられることはない。これら導電膜7A,7Kは、燃料電池2で発生した電気を外部に取り出す端子として機能するもので、後述する測定機構7(
図1参照)の一部を構成するものである。これら導電膜7A,7Kは真空蒸着などにより形成することができる。また、導電膜7A,7Kは、金や銀、銅などの高導電性材で構成することが好ましい。
【0039】
(アノードカバー)
アノードカバー31は、
図2に示すように、フランジ31Fを有する筒状部材であって、電池保持部材30における燃料電池2が取り付けられる側の面に取り付けられ、燃料電池2のアノード21の外周を覆う。アノードカバー31と電池保持部材30との間にはガスケット33が設けられており、部材31,30間の気密性が確保されている。なお、アノードカバー31は、図示しないボルトでアノードカバー31と電池保持部材30と後述するカソードカバー32とを一体に連結することで、電池保持部材30に取り付けることができる。
【0040】
アノードカバー31におけるフランジ31Fとは反対側の端部は閉口している。閉口端にはX線を透過させる窓31wが形成されている。窓31wは、例えば東レ・デュポン株式会社製カプトン(登録商標)などの耐熱性膜で構成することが好ましい。燃料電池2の動作温度で不具合が生じないことが保証されていない部材で窓31wを形成する場合、窓31wを冷却する冷却装置を設けて、窓31wの損傷を防止することが好ましい。
【0041】
アノードカバー31には、二本の枝管が設けられている。そのうちの燃料電池2に近い側の枝管は、アノードカバー31に負極ガスを導入する導入管であり、他方の枝管は、アノードカバー31内の負極ガスを排出する排出管である(
図1参照)。
【0042】
(カソードカバー)
カソードカバー32は、フランジ32Fを有する筒状部材であって、電池保持部材30における燃料電池2が取り付けられていない側の面に取り付けられ、燃料電池2のカソード22の外周を覆う。カソードカバー32と電池保持部材30との間にはガスケット33が設けられており、部材32,30間の気密性が確保されている。
【0043】
カソードカバー32におけるフランジ32Fとは反対側の端部は開口している。このカソードカバー32には、アノードカバー31と同様に、正極ガスの導入管(燃料電池2に近い側の枝管)と排出管とが備わっている。本例では、正極ガスに空気を利用しているものの、導入管と排出管を備える構成であれば、燃料電池2の動作に最適なように成分を調整した正極ガスを導入管から導入することができる。正極ガスの導入には、図示しない正極ガス導入機構を利用することができる。
【0044】
(解析用セルにおける燃料電池の保持状態の別例)
解析用セル3の電池保持部材30における燃料電池2の保持状態は、
図3に示す保持状態に限定されるわけではない。例えば、
図3において、燃料電池2に取付具29の外形を、貫通孔30Hの内形に相似する形状とし、かつ取付具29の外径を貫通孔30Hの内径よりも若干小さくし、取付具29を含む燃料電池2が貫通孔30Hの内部に嵌まり込むようにしても構わない。その場合、取付具29の外周面と貫通孔30Hの内周面とはガラス接着剤などで接着し、両者29,30Hの間に隙間が形成されないようにする。そうすることで、貫通孔30Hが燃料電池2で塞がれ、燃料電池2のアノード21とカソード22とがそれぞれ、燃料電池2を挟む別々の雰囲気下に露出された状態になる。
【0045】
あるいは、
図4に示すように、貫通孔30Hの内形を燃料電池2の外形に沿った形状とし、貫通孔30Hの内径を燃料電池2の外径よりも若干大きくして、ガラス接着剤29bなどを用いて燃料電池2の外縁部を貫通孔30Hの内周面に接着しても良い。そうすることで、貫通孔30Hを塞ぐように燃料電池2が電池保持部材30に保持され、燃料電池2のアノード21とカソード22とがそれぞれ、燃料電池2を挟む別々の雰囲気下に露出された状態になる。
【0046】
≪X線照射機構≫
X線照射機構4は、
図1に示すように、所定の強度のX線を照射できるX線源40と、X線源40からのX線を燃料電池2に間歇的に照射させるチョッピング部41と、を備える。
【0047】
(X線源)
X線源40として、本例では、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターのシンクロトロンを用いている。その他、SPring−8(Super Photon ring−8)をX線源40として利用しても良いし、回転対陰極を用いた実験室レベルのX線発生装置をX線源40に利用しても良い。
【0048】
(チョッピング部)
チョッピング部41は、複数の孔が形成された円盤と、この円盤を回転させる回転機構部(図示せず)と、で構成すると良い。このような構成であれば、回転する円盤における孔の箇所でX線を透過し、孔のない箇所でX線を遮蔽することで、燃料電池2にX線を間歇的に照射させることができる。円盤の材質は、X線を効果的に遮蔽することができる材質であれば特に限定されず、例えばアルミニウムを挙げることができる。
【0049】
(X線)
上記X線源40から照射され燃料電池2のアノード21(
図2参照)に到達したX線は、燃料電池2の厚みによって燃料電池2を透過することはできない。つまり、本実施形態の解析方法は、X線が照射されるアノード21に含まれる注目対象の物理的・化学的な状態、並びに注目対象周辺の元素の状態を解析する解析方法であると言える。なお、解析用セル3の左右を入れ換えれば、燃料電池2のカソード22(
図2参照)に含まれる注目対象の物理的・化学的な状態、並びに注目対象周辺の元素の状態を解析することができる。
【0050】
≪負極ガス導入機構≫
負極ガス導入機構5は、
図1に示すように、アノードカバー31内に負極ガスを導入する機構である。例えば、負極ガス導入機構5は、負極ガスを貯留するガスタンク(図示せず)と、ガスタンクからアノードカバー31の枝管(導入管)に連絡する管路(図示せず)と、アノードカバー31内への負極ガスの導入量を調整する調整部(図示せず)と、を備える構成とすることができる。
【0051】
ここで、本実施形態の解析装置1においては、カソードカバー32内に正極ガスを導入する正極ガス導入機構を設けていない。一般的な燃料電池2では、カソード22に導入される正極ガスには空気が用いられることが多く、積極的にカソードカバー32内に空気を導入する正極ガス導入機構は必要ない。もちろん、燃料電池2の構成によっては、成分を調製した正極ガスをカソードカバー32に内に導入しても良く、その場合には正極ガス導入機構を設けると良い。
【0052】
≪ヒーター≫
ヒーター6は、燃料電池2を解析用セル3ごと外周から覆い、燃料電池2を高温環境下に維持する機構である。ヒーター6としては、加熱・保温機能を有するマントルヒーターを利用することが好ましい。マントルヒーターは、通電によって赤熱する電熱線と、熱が逃げないようにする断熱材と、を備え、電熱線が電磁波を遮蔽するシールドの役割を兼ねる。
【0053】
≪測定機構≫
測定機構7は、燃料電池2で生じる電気量を測定する。測定機構7は、
図3を参照して説明したアノード側導電膜7Aと、カソード側導電膜7Kと、これら導電膜7A,7Kに繋がるアンプ70と、アンプ70に繋がる同期測定部71と、を備える。
【0054】
(導電膜)
アノード側導電膜7Aとカソード側導電膜7Kはそれぞれ、
図3に示すように、アノード21とカソード22とに繋がっている。アノード側導電膜7A(カソード側導電膜7K)は、
図2のアノードカバー31(カソードカバー32)のフランジ31F(32F)よりも径方向外方にまで伸びている。そのため、解析用セル3の内側に配置される燃料電池2から、解析用セル3で発生した電気を解析用セル3の外側に引き出すことができる。
【0055】
ここで、導電膜7A,7Kの厚さが非常に薄く、かつほぼ均一的であるため、導電膜7A,7Kの存在により、電池保持部材30とカバー31,32との間に隙間ができ難い。そのため、カバー31,32内に導入したガスがカバー31,32外に漏れることを抑制することができる。
【0056】
(アンプ)
アンプ70は、燃料電池2で発生した電気量を増幅して検出する。アンプ70で電気量を増幅するのは、X線の照射により燃料電池2に発生する電気量は非常に僅か(数pAもしくはそれ以下)である。このアンプ70としては、燃料電池2で発生した電流を電圧に変化して測定する電流電圧変換アンプを利用することができる。
【0057】
(同期測定部)
同期測定部71は、チョッピング部41によって燃料電池2に間歇的に照射されるX線の周期に同期した電気量を測定する。同期測定部71は、アンプ70を介して測定される電気量(本実施形態では電圧)のうち、間歇的なX線の周期に同時した電気量のみを抽出する。この同期測定部71によって、燃料電池2で生じる微小な電気量を感度良く測定することができる。同期測定部71としては、例えばロックインアンプを利用することができる。
【0058】
≪X線検出器≫
X線検出器9は、チョッピング部41と解析用セル3との間に配置され、燃料電池2に照射される前のX線の強度を測定する。
【0059】
≪解析機構≫
解析機構8は、X線検出器9から得られる測定結果と、同期測定部71から得られる測定結果に基づいて、燃料電池2のアノード21に含まれる注目対象(元素)の状態を解析する。解析機構8として、例えば、解析ソフトを実装した汎用コンピューター、あるいは専用コンピューターを利用することができる。具体的な解析方法については後述する。
【0060】
<解析方法>
図1に示す解析装置1を用いて燃料電池2のアノードに含まれる触媒元素であるニッケル(注目対象)の局所構造解析を行なう手順を以下に説明する。なお、言うまでもないが、注目対象はニッケルに限定されない。
【0061】
解析にあたり、燃料電池2を動作させる。具体的には、負極ガス導入機構5からアノードカバー31内に負極ガスを導入すると共に、ヒーター6を作動させる。正極ガスは空気であり、カソードカバー32の導入管からカソードカバー32内に自然に導入される。ヒーター6による加熱温度は、例えば200℃以上、800℃以下とすることが挙げられる。
【0062】
次いで、X線照射機構4から所定の強度のX線を照射する。その際、チョッピング部41によってX線は間歇的に燃料電池2に照射される。間歇的に照射されたX線は、アノードカバー31の内部を通ってアノード21(
図2参照)に到達する。なお、X線の照射は、燃料電池2の動作前から行なっても構わない。燃料電池2の動作前からX線の照射を開始すれば、燃料電池2の動作開始直後における注目対象の化学的挙動などを追跡できる。
【0063】
チョッピング部41の回転数は解析機構8に入力され、解析機構8は同期測定部(ロックインアンプ)71がX線の照射周期に同期する測定結果を取得するように同期測定部71を制御する。
【0064】
アノード21にX線が照射されると、アノード21中のニッケルにおいてX線の吸収が起こり、その際、ニッケルの内殻電子が励起されて光電子として放出される。このX線の吸収に伴ってアノード21に生じる電気量は、ニッケルから放出される電子量に応じた値となっていると考えられる。そのため、X線のエネルギーを変えながらアノード21へのX線の照射を行い、X線の強度と、アノード21で発生した電気量と、の関係をグラフとして求めれば、このグラフがX線吸収スペクトルに相当するものとなる。
【0065】
ここで、ニッケルに照射されたX線は電子が励起(放出)された分だけ強度が落ちる。ニッケルは、それぞれ電子が原子の電子束縛ポテンシャルから抜け出すための特有のエネルギーを持ち、そのエネルギーよりも高いエネルギーを持つX線は、原子の内殻電子を殻外へと励起することができるため吸収されやすくなる。この吸収量が急激に変化する特性吸収端のエネルギーは各元素に固有で、内殻の種類(K殻、L殻、M殻)に応じてX線吸収スペクトルにはいくつかの吸収端が存在する。
【0066】
このX線吸収スペクトルにおける吸収端近傍を詳細に調べてみると、特性吸収端の付近から高エネルギー側の領域に微細構造が現れる。つまり、本例の場合、ニッケルから放出された電子量、つまりアノード21の電気量をプローブとするXAFSを得ることができる。
【0067】
XAFSは、吸収端近傍のXANES(X−ray Absorption Near Edge Structure)領域と、それより高エネルギー側のEXAFS(Extended X−ray Absorption Fine Structure)の領域からなる。XANESからは主に注目対象の種類や電子状態などに関する情報が得られ、EXAFSからは主に注目対象の周囲の局所構造に関する情報が得られる。例えば、X線吸収スペクトルを分析することで、(1)X線を吸収した元素(吸収原子)の種類や価数、(2)吸収原子の周りに近接する原子の種類、(3)吸収原子の周りに近接する原子の数(配位数)、(4)吸収原子からその周りに近接する原子までの距離(原子間距離)などがわかる。
【0068】
より具体的には、XANESにおいて、吸収の立ち上がりのエネルギーは注目対象の原子の価数によって変化するため、この立ち上がりのエネルギーから注目対象となる元素の酸化数が容易にわかる。その他、EXAFSからは吸収原子と近接する原子までの原子間距離がわかる。吸収されるX線の強度が変化すると、吸収原子から放出される電子の波長が変化する。吸収原子から放出された電子は、隣接原子に当って散乱され、その散乱波の一部は吸収原子に戻ってくる。その際、放出された電子の波長が吸収原子と隣接原子との往復距離の整数倍になれば定在波が生じ、X線の吸収強度が大きくなる。逆に、放出された電子の波長が吸収原子と隣接原子との往復距離の半整数倍になれば、往復の電子の波は打ち消しあってX線の吸収強度が小さくなる。従って、この吸収強度の変動のみを抽出すると、その変動の周期から上記原子間距離を求めることができる。
【0069】
通常、EXAFSは、まずX線吸収スペクトルからバックグラウンドを減じる。次に、バックグラウンドを除去したスペクトルのうち、吸収端から高エネルギー側のスペクトルを拡大し、そのスペクトルのほぼ中心線を求める。そして、中心線を横軸とした波形をフーリエ変換する。
【0070】
このように、ニッケルイオンの内殻電子が励起されて放出された電子量を、電極の電気量として測定機構7で計測することで、電子量をプローブとするXAFSを行うことができる。
【0071】
<試験例>
上記実施形態の解析装置1を用いて、燃料電池2の動作時におけるアノードのニッケルの情報を解析した。
【0072】
燃料電池2の構成は以下の通りであった。
・カソード…LSCF6428
・電解質層…YSZ(Y
2O
3=5mol%)
・アノード…Ni−YSZ(Ni:YSZ=30体積%:70体積%)
【0073】
燃料電池2に導入する正極ガスと負極ガスは以下の通りであった。
・正極ガス…空気
・負極ガス…3体積%のH
2を含むHeガス
【0074】
燃料電池2に上記正極ガスと負極ガスを導入すると共に、ヒーター6によって燃料電池2を400℃の高温環境下に維持し、燃料電池2を動作させた。そして、X線のエネルギーを変えながらX線を燃料電池2のアノード21(
図2,3参照)に照射した。その際、チョッピング部41を回転させ、燃料電池2のアノード21に照射されるX線の周波数を100Hzとした。
【0075】
燃料電池2で発生した電流は、電流電圧変換アンプ70で電圧の信号に増幅・変換され、その増幅された信号のうち、同期測定部71でX線の照射周期に同期する信号のみが抽出され、解析機構8に伝送される。
【0076】
解析機構8は、X線検出器9で測定したX線の強度と、同期測定部71で測定したX線の照射に伴ってアノード21で発生した電気量と、に基づいてX線吸収スペクトルに相当するものを求める。なお、燃料電池2の発電に伴う電気量と、X線の照射に伴う電気量との分離は、燃料電池2にX線が照射されたときに測定された電気量から、X線が遮蔽されたときに測定された電気量を減じることで行なう。
【0077】
本試験例では、燃料電池2の動作開始から15分後におけるX線吸収スペクトル(第一スペクトル)を取得し、さらに燃料電池2の動作開始から50分後にX線吸収スペクトル(第二スペクトル)を取得した。第一スペクトルと第二スペクトルにおける吸収エネルギーの解析範囲は、8250eV〜8450eVとした。
【0078】
第一スペクトルと第二スペクトルの結果を比較したところ、両スペクトルにおける約8350eVの位置にX線の吸収端が見られた。これは、ニッケルのK殻電子の吸収端に一致する。また、第一スペクトルと第二スペクトルとを比較することで、第二スペクトルにおいて吸収端のピーク強度の低下を確認することができた。これは、ニッケルがメタリックな状態に変化してことを示唆している。
【0079】
以上説明したように、燃料電池2を動作させながら燃料電池2のアノード21に含まれるニッケル(注目対象)の化学的な状態を確認することができた。