(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性多孔体層が、金属メッシュ、金属製のエッチングプレート、パンチングメタル、及びエキスパンドメタルのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の空気電池用正極。
前記液密通気層が、導電性炭素の一次粒子の凝集体から成る導電パス材、及び導電性炭素粒子から成る多孔質体構成粒子を含有する多孔質層であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の空気電池用正極。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〈正極の第1実施形態〉
図1(A)に示す空気電池用正極10は、上側から金属製多孔体層13、液密通気層12及び触媒層11を順に積層した構造を有しており、空気電池を構成した際には、金属製多孔体層13が外側になって電池外観を構成する。また、正極10は、前記金属製多孔体層13と液密通気層12との間に、双方を接着するための接着層14を有している。さらに、正極10は、前記金属製多孔体層13が、その厚さ方向に貫通した多数の孔13Aを有しており、前記液密通気層12が、導電性を有するものとなっている。
【0015】
なお、本明細書においては、説明の便宜上、各層11〜13が「積層」していると記載したが、各層が図示の如く順に配置されていればよく、必ずしも「積層」という文言に限定されるものではない。
【0016】
触媒層11は、炭素粒子1と、導電パス材の一例であるカーボンブラック1bと、触媒粒子3と、バインダー2を含み、炭素粒子1、カーボンブラック1b及び触媒粒子3がバインダー2によって結着されて、多孔質層を形成している。
【0017】
液密通気層12は、より好ましい実施形態として、導電性炭素の一次粒子の凝集体から成る導電パス材を含有するものとし、さらには、前記導電パス材、及び導電性炭素粒子から成る多孔質体構成粒子を含有する多孔質層にすることができる。そして、図示例の液密通気層12は、骨材炭素の一例である黒鉛1aと、カーボンブラック1bと、バインダー2を含み、黒鉛1aとカーボンブラック1bがバインダー2で結着されて、多孔質層を形成している。
【0018】
金属製多孔体層13は、例えば金属メッシュであって、その厚さ方向に貫通した多数の孔13Aを縦横に配列させた状態で有している。具体的には、金属製多孔体層13は、金属メッシュのほか、金属製のエッチングプレート、パンチングメタル、及びエキスパンドメタルのうちのいずれかを採用することができる。この金属製多孔体層13は、より望ましい実施形態として、孔13A内部の表面が、液密通気層12に相対向する面の表面粗さよりも高い表面粗さを有しているものを採用することができる。
【0019】
なお、金属製多孔体層13は、上記のように、貫通孔などの孔13Aを有する金属製部材としての「多孔体」から成るものであって、触媒層11や液密通気層12のように微細孔を有する組成としての「多孔質」とは異なるものである。
【0020】
接着層14は、金属製多孔体層13と液密通気層12との界面を接着するもので、導電性を有することが望ましいが、電気的接触が得られる程度に薄いものであれば、絶縁性でも使用可能である。この接着層14は、より望ましい実施形態として、導電性材料を含有するものを採用することができ、導電性材料としては、金属、図示したカーボンブラック1b等の炭素粒子、及び炭素繊維の少なくとも一つを含有するものがある。また、接着層14は、より望ましい実施形態として、電解液に対する撥液性と、電解液に対する耐食性と、ガス透過性を有しているものとする。
【0021】
本実施形態においては、触媒層11と液密通気層12とは、バインダー2によって結着されてほぼ一体化されており、さらに、液密通気層12と金属製多孔体層13とにあっても、接着層14によりほぼ一体化されている。このような各層の一体化は、後述するこの空気電池用正極の製造方法によって行うことができる。
【0022】
また、本実施形態においては、導電性炭素から成る繊維状炭素(図示せず)を、触媒層11及び/又は液密通気層12に加えることも可能であり、これにより、得られる正極の機械的強度、特に引張り強度を向上させることができる。この繊維状炭素の添加は、特に液密通気層12に対して行うのが好ましく、機械的強度向上によって層厚を薄くできるので電気抵抗を小さくでき、これにより正極を高出力化することが可能である。
【0023】
上述のように、触媒層11も液密通気層12も多孔質層であるが、とくに、液密性通気層12は、空気中の酸素を透過させ且つ電解液(図示せず)を透過させない気孔径と気孔率を有している。金属製多孔体層13は、それ自体が導電性部材であって、多数の孔13Aによって厚さ方向へのガスの透過は自由である。また、接着層14にあっても、先述の如く、導電性、撥水性及びガス透過性を有している。
【0024】
さらに、液密通気層12は、従来のPTFE製の撥水膜とは異なり、含有する骨材炭素である黒鉛1aや導電パス材であるカーボンブラック1bによって導電性を有するので、以下に説明するように、起電力の大きな直列型の空気電池を構成するのに極めて有利であるうえに、接着層14により接着し易いものである。
【0025】
図2は、本発明の空気電池用正極を用いた直列型空気電池の組電池の一例を示す概略断面図である。組電池を構成する空気電池Aと空気電池Bにおいて、触媒層11、液密通気層12、接着層14及び金属製多孔体層13を積層して成る正極10と、負極20とは、電解液を含浸させたセパレータ30を介して隣接している。正極10の液密通気層12は、金属製多孔体層13の孔13Aを通して空気流路40に露出しており、金属製多孔体層13及び液密通気層12を通して、触媒層11に空気中の酸素が供給される構造である。
【0026】
図示例では、空気電池A及び空気電池Bにおいて、正極10及び負極20の外周にはホルダー60が配置されており、正極10及び負極20の外周とホルダー60とは一体的に接合されている。これにより、正極10及び負極20とホルダー60との接合部からの電解液の漏れを防止する構成となっている。さらに、空気電池A及び空気電池Bの間における空気流路40には、断面が波型の集電体50が設けられている。このように、空気電池A及びBが集電体50を介して積み重なったスタック構造を採ることにより、組電池を形成している。
【0027】
上記構成を備えた空気電池用正極10は、ガス透過性に優れた金属製多孔体層13と導電性を有する液密通気層12とが、接着層14により互いに密着した状態となり、これにより双方の界面における接触抵抗が大幅に低減される。
図8に正極10のSEM写真を示す。
【0028】
これにより、上記正極10は、良好なガス透過性と、厚さ方向及び面内方向における良好な導電性とを両立させることができ、これにより空気電池の高出力化を実現すると共に、空気電池の直列接続に有用なものとなる。また、上記正極10は、空気電池の電極の単位面積あたりの出力を向上させるので、その高出力化に伴って電極並びに空気電池の小型化を図ることも可能である。
【0029】
また、上記正極10は、厚さ方向に貫通した多数の孔13Aを有する金属製多孔体層13を用いることで、厚さ方向の導電性とガス透過性のさらなる向上を実現することができる。しかも、上記正極10は、導電性多孔体層13として、金属メッシュ、金属製のエッチングプレート、パンチングメタル、及びエキスパンドメタルのうちのいずれかを用いることで、薄くて高強度の金属製多孔体層13を安価に得ることができ、空気電池の低コスト化や電極の大面積化、大面積化に伴う出力向上などを実現することができる。
【0030】
さらに、上記正極10は、液密通気層12を、導電性炭素の一次粒子の凝集体から成る導電パス材を含有したものとすることで、厚さ方向の良好な導電性を確保しながら、ガス透過性及び電解液の不透過性を得ることができ、空気電池の軽量化にも貢献し得る。さらに、上記電極10は、液密通気層12を、上記の導電パス材、及び導電性炭素粒子から成る多孔質体構成粒子を含有する多孔質層とすることで、ガス拡散性が向上して空気電池の高出力化に貢献することができる。また、上記の液密通気層12は、触媒層11との界面における接触状態が良好であり、よって、触媒3と酸素と電解液との3相界面が形成され易く、空気電池において効率的な発電に寄与することとなる。
【0031】
さらに、上記正極10を一構成とする空気電池A,B並びに組電池においては、上述のように、金属製多孔体層13及び液密通気層12が、互いに密着し且つ導電性を有するため、図示したように、空気流路40に集電体50を配置するだけで、対向した負極20と正極10との電気接続を実現する。具体的には、空気電池Aと空気電池Bを直列に接続した組電池を簡易に得ることができる。この場合、負極20と正極10は、電気接点面積が広く、あたかも面で電気接続を行うことができるので、通電損失を低減することができる。なお、組電池においては、正極10に対する空気導入部が確保できれば、対向した負極20と正極10とを直接接触させることも可能である。
【0032】
これに対し、PTFE製の撥水膜を用いた従来の空気電池を用い、空気電池同士を直列接続しようとすると、両電池を積み上げた場合、一方の電池の負極と他方の電池の正極とを対向させて電気接続することは、当該撥水膜が絶縁性であるために不可能である。よって、双方の電池の端部(側面)に電気接続用タブを形成した上で、タブ同士を接続しなければならず、製造工程が煩雑であるばかりか、電気接点がタブだけになるので通電損失が大きくなってしまうという欠点があることも判明した。
【0033】
このように、本発明の空気電池用正極10は、代表的には、
図2に示したような構造の空気電池A,Bの直列型組電池を形成するのに適している。このような構造の直列型組電池は、大きな起電力を実現し易いとともに、コンパクト化も図ることできる外、組み立ての作業効率も向上させることができ、車載用の電源として非常に有用である。
【0034】
なお、
図2に示した組電池において、電解液(図示せず)はセパレータ30に含浸されているが、電解液は正極と負極に接触すればよいので、符号30部分を空間とし、この空間に電解液を充填してもよい。また、正極や負極に含ませてもよく、更には、触媒層11及び負極20に含浸保持させてもよいのは言うまでもない。
【0035】
さらに、上記正極10は、接着層14に、導電性材料として、金属、炭素粒子、及び炭素繊維の少なくとも一つを含有させることで、厚さ方向の導電性がより一層向上する。さらに、上記正極10は、接着層14に、電解液に対する撥液性と、電解液に対する耐食性と、ガス透過性をもたせることで、空気電池の長寿命化、軽量化及び高出力化を実現する。
【0036】
次に、上述した空気電池用正極や空気電池の構成材料などについて説明する。
〈導電性多孔体層〉
導電性多孔体層は、先述したように、金属メッシュ、金属製のエッチングプレート、パンチングメタル、及びエキスパンドメタルのうちのいずれかを用いることができ、より具体的には、ステンレス製のエッチングプレートや、アルミニウム製又はアルミニウム合金製のパンチングメタルである。
【0037】
〈液密通気層の導電パス材〉
液密通気層の導電パス材としては、カーボンブラックやアセチレンブラックを用いることができる。導電パス材にカーボンブラックやアセチレンブラックを用いた場合には、構造体を作りやすいので、多孔質体構成粒子間を電気的に繋ぐことで厚さ方向の抵抗を軽減し、これにより、正極の導電性向上、空気電池の高出力化を図ることができる。
【0038】
〈液密通気層の多孔質体構成粒子〉
多孔質体構成粒子としては、導電パス材の炭素よりも大きくて、空隙の多い炭素を用いることで、ガス透過性を高めることができる。この多孔質体構成粒子としては、黒鉛(グラファイト)、鱗片状黒鉛、若しくは炭素繊維を用いることができる。
【0039】
多孔質体構成粒子に黒鉛を用いた場合には、詰めた際に隙間ができやすいのでガス拡散性を高めることができる。また、多孔質体構成粒子に鱗片状黒鉛を用いた場合には、その形状から面内方向における導電性が高くなる。しかも、鱗片状黒鉛は、液密通気層をシート化した際にも、方向が揃い易く、薄くても強度を確保し易いので、厚さ方向の貫通抵抗が低減され、ガス拡散性も良好になる。さらに、多孔質体構成粒子に炭素繊維を用いた場合には、その形状により面内方向における導電性が高くなり、しかも、液密通気層をシート化した際に、薄くても強度を確保し易いので、厚さ方向の貫通抵抗が低減され、ガス拡散性も良好になる。
【0040】
〈触媒層の成分〉
触媒成分としては、従来公知の空気電池正極用の電極触媒を用いることができ、具体的には、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)等の金属及びその化合物、並びにこれらの合金などを例示することができる。
【0041】
〈バインダー〉
バインダーとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドを挙げることができる。このようなバインダーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
なお、これらのバインダーの中では、耐熱性及び耐薬品性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)及びエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)を特に好適に使用することができる。
【0043】
〈接着層の成分〉
接着層の導電性材料としては、樹脂に導電性高分子が含まれているポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン及びポリピロール系や、樹脂に導電性無機物が含まれている炭素、金属及び導電性酸化物を用いることで、当該接着層の厚みがあっても、良好な導電性を確保することができ、正極ひいては空気電池の高出力化を図ることができる。
【0044】
また、接着層は、導電性材料として、金属、炭素粒子、及び炭素繊維の少なくとも一つを含有することができる。金属を含有するものとしては、金属ペースト等の金属粒子を分散させた接着剤や、金属繊維を分散させたペーストを用いることができる。炭素粒子や炭素繊維を含有するものとしては、カーボンブラック等の導電性炭素を分散させたインクやペーストを用いる。また、カーボンナノチューブ(CNT)などの繊維状炭素を用いることもできる。接着層は、これらの導電性材料を含有することで、表面の粗い金属製多孔体層や気孔率の高い液密通気層との界面の密着性と導電性を向上し、正極並びに空気電池の高出力化を実現する。
【0045】
さらに、接着層は、電解液に対する撥液性を有するものとし、具体的には、バインダーに撥液材料を用いるのが望ましい。例えば、電解液が水系の場合には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)などの撥水性樹脂を使用する。また、電解液が非水系の場合には、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂を使用し、溶媒に対する接触角が80°以上であることが望ましい。これらの材料を用いた接着層は、液密通気層との界面の劣化や漏液を防止し、正極並びに空気電池の長寿命化に貢献し得る。
【0046】
さらに、接着層は、電解液に対する耐食性を有するものとし、界面接触する液密通気層に耐アルカリ性バインダーを使用した場合には、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレンなどの撥水性樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)などのエンジニアリングプラスチック、エポキシ系樹脂、塩化ビニルなどを使用する。また、界面接触する金属製多孔体層にアルミニウム合金を使用した場合には、接着層に耐アルカリ機能を持たせて、耐久性を向上させる。これらの材料を用いた接着層は、とくに電解液から金属製多孔体層を保護する。
【0047】
さらに、接着層は、ガス透過性を有するものとし、具体的には、カーボンブラックやPTFE系バインダーを用いて多孔質にし、これにより、接着層の厚さ方向のガス透過性だけでなく、金属性多孔体層に覆われている領域(孔でない領域)を含めて接着層全体にガスを拡散させることができる。
【0048】
〈負極〉
負極としては、例えば、標準電極電位が水素より卑な金属単体又は合金から成る負極活物質を含む。場合によっては、多孔質の材料で形成することができる。標準電極電位が水素より卑な金属単体としては、例えばリチウム(Li)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などを挙げることができる。また、合金を適用することもできる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、空気電池に適用される従来公知の材料を用いることができる。
【0049】
〈電解液〉
電解液も従来公知のものを用いることができるが、例えば、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び水酸化カリウムなどの水溶液や非水溶液を用いることができる。
【0050】
〈セパレータ〉
セパレータとしては、空気電池に使用する従来公知の材料を用いることができる。具体的には、水溶液である電解液に対しては、例えば、撥水処理を行っていないグラスペーパー、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンから成る微多孔膜を好適に用いることができる。
【0051】
〈集電体〉
集電体は、集電機能を有するものであれば、特に限定されることはなく、例えば、ステンレス鋼(SUS)や銅、ニッケルなどの金属でできたものを使用することができる。また、樹脂に導電性材料をコーティングした材料も用いることができる。さらに、その形状も特に限定されるものではなく、金網状やエキスパンドメタル状、波板状など各種の形状を適用することができる。
【0052】
次に、
図3〜
図7に基づいて、本発明の空気電池用正極の製造方法を説明する。
〈製造方法の第1実施形態〉
図3に示す製造方法は、
図1に示す空気電池用正極を製造する方法であって、液密通気層を形成する液密通気層用インクと、接着層を形成する接着層用インクを調整する工程と、保持体上に液密通気層用インクを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層を形成する工程と、形成した液密通気層を保持体から剥離する工程と、液密通気層及び金属製多孔体層の少なくとも一方に接着層用インクを塗布する工程と、塗布した接着層用インクを間にして液密通気層と金属製多孔体層とを重ねた後、接着層用インクを乾燥させて焼成することで接着層を形成する工程を備え、前記液密通気層に触媒層を積層する。
【0053】
すなわち、
図3(A)に示すように、液密通気層を形成する液密通気層用インクIAと、接着層を形成する接着層用インクIBを調整する。これらのインクを調製する際に用いられる溶媒としては、特に制限されないが、水やメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。また、各インクには、必要に応じて公知の界面活性剤や増粘剤を混合してもよい。
【0054】
次に、
図3(B)に示すように、保持体H上に液密通気層用インクIAを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層12を形成する。その後、
図3(C)に示すように、形成した液密通気層12を保持体Hから剥離する。続いて、液密通気層12及び金属製多孔体層13の少なくとも一方に接着層用インクIBを塗布する。この実施形態では、
図3(D)に示すように、金属製多孔体層13に、刷毛Dを用いて接着層用インクIBを塗布している。
【0055】
次に、塗布した接着層用インクIBが乾燥する前に、
図3(E)に示すように、塗布した接着層用インクIBを間にして液密通気層12と金属製多孔体層13とを重ねる。つまり、この実施形態では、液密通気層12と金属多孔体層13の接着層用インクIBの塗布面とを重ねている。その後、
図3(F)に示すように、接着層用インクIBを乾燥させて焼成することで接着層14を形成し、これにより、金属製多孔体層13と液密通気層12とを接着層14で一体化する。そして、液密通気層12に触媒層(図せず)を積層して正極10とする。
【0056】
なお、この実施形態における触媒層は、
図3(F)に示す液密通気層12の下側に積層される。この触媒層は、各層と同様に、触媒層用インクの調整、塗布、乾燥及び焼成により形成することができる。
【0057】
上記の製造方法において、インクの乾燥温度は、インク中の溶媒が除去される温度ならば特に限定されないが、例えば80〜120℃とすることが好ましい。また、焼成温度は特に限定されないが、例えば100〜350℃とすることが好ましい。以下の実施形態においても同様である。
【0058】
〈製造方法の第2実施形態〉
図4に示す製造方法は、
図1に示す空気電池用正極を製造する方法であって、液密通気層を形成する液密通気層用インクと、接着層を形成する接着層用インクを調整する工程と、金属製多孔体層に接着層用インクを塗布し、これを乾燥させて焼成することで接着層を形成する工程と、保持体上に、接着層を上向きにして金属製多孔体層を配置した後、前記接着層に液密通気層用インクを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層を形成する工程を備え、前記液密通気層に触媒層を積層する。
【0059】
すなわち、
図4(A)に示すように、液密通気層を形成する液密通気層用インクIAと、接着層を形成する接着層用インクIBを調整する。次に、
図4(B)に示すように、金属製多孔体層13に接着層用インクIBを塗布し、これを乾燥させて焼成することで接着層14を形成する。
【0060】
その後、
図4(C)に示すように、保持体H上に、接着層14を上向きにして金属製多孔体層13を配置した後、
図4(D)に示すように、接着層14に液密通気層用インクIAを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層12を形成する。これにより、金属製多孔体層13と液密通気層12とを接着層14により一体化する。そして、
図4(E)に示すように、液密通気層12に触媒層11を積層して正極10とする。
【0061】
〈製造方法の第3実施形態〉
図5に示す製造方法は、
図1に示す空気電池用正極を製造する方法であって、液密通気層を形成する液密通気層用インクと、接着層を形成する接着層用インクを調整する工程と、金属製多孔体層に接着層用インクを塗布し、これを乾燥させて焼成することで接着層を形成する工程と、保持体上に液密通気層用インクを塗布した後、その液密通気層用インクに金属製多孔体層の接着層を重ねる工程と、塗布した液密通気層用インクを乾燥させて焼成することで液密通気層を形成する工程を備え、前記液密通気層に触媒層を積層する。
【0062】
すなわち、
図5(A)に示すように、液密通気層を形成する液密通気層用インクIAと、接着層を形成する接着層用インクIBを調整する。次に、
図5(B)に示すように、金属製多孔体層13に接着層用インクIBを塗布し、これを乾燥させて焼成することで接着層14を形成する。
【0063】
続いて、
図5(C)に示すように、保持体H上に液密通気層用インクIAを塗布した後、塗布した液密通気層用インクIAが乾燥する前に、液密通気層用インクIAに金属製多孔体層13の接着層14を重ねる。その後、塗布した液密通気層用インクIAを乾燥させて焼成することで液密通気層12を形成する。これにより、金属製多孔体層13と液密通気層12とが接着層14により一体化される。そして、
図5(D)に示すように、液密通気層12に触媒層(図示せず)を積層して正極10とする。
【0064】
〈製造方法の第4実施形態〉
図6に示す製造方法は、
図1に示す空気電池用正極を製造する方法であって、液密通気層を形成する液密通気層用インクと、接着層を形成する接着層用インクを調整する工程と、保持体上に接着層用インクを塗布し、その上に金属製多孔体層を重ねた後、塗布した接着層用インクを乾燥させて焼成することで接着層を形成する工程と、保持体から金属製多孔体層及び接着層を剥離する工程と、保持体上に、接着層を上向きにして金属製多孔体層を配置した後、金属製多孔体層の接着層に液密通気層用インクを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層を形成する工程を備え、前記液密通気層に触媒層を積層する。
【0065】
すなわち、
図6(A)に示すように、液密通気層を形成する液密通気層用インクIAと、接着層を形成する接着層用インクIBを調整する。次に、
図6(B)に示すように、保持体H上に接着層用インクIBを塗布し、その上に金属製多孔体層13を重ねた後、塗布した接着層用インクIBを乾燥させて焼成することで接着層14を形成する。
【0066】
その後、保持体Hから金属製多孔体層13及び接着層14を剥離し、続いて、
図6(C)に示すように、保持体H上に、接着層14を上向きにして金属製多孔体層13を配置した後、
図6(D)に示すように、金属製多孔体層13の接着層14に液密通気層用インクIAを塗布し、これを乾燥させて焼成することで液密通気層12を形成する。これにより、金属製多孔体層13と液密通気層12とが接着層14により一体化される。そして、
図6(E)に示すように、液密通気層12に触媒層11を積層して正極10とする。
【0067】
〈製造方法の第5実施形態〉
図7に示す製造方法は、
図1に示す空気電池用正極を製造する方法であって、液密通気層を形成する液密通気層用インクと、接着層を形成する接着層用インクを調整する工程と、保持体上に接着層用インクを塗布し、その上に金属製多孔体層を重ねた後、塗布した接着層用インクを乾燥させて焼成することで接着層を形成する工程と、保持体から金属製多孔体層及び接着層を剥離する工程と、保持体上に液密通気層用インクを塗布し、これに金属製多孔体層の接着層を重ねた後、液密通気層用インクを乾燥させて焼成することで液密通気層を形成する工程を備え、前記液密通気層に触媒層を積層する。
【0068】
すなわち、
図7(A)に示すように、液密通気層を形成する液密通気層用インクIAと、接着層を形成する接着層用インクIBを調整する。次に、
図7(B)に示すように、保持体H上に接着層用インクIBを塗布し、塗布した接着層用インクIBが乾燥する前に、その上に金属製多孔体層13を重ねる。そして、塗布した接着層用インクIBを乾燥させて焼成することで接着層14を形成する。
【0069】
次に、
図7(C)に示すように、保持体Hから金属製多孔体層13及び接着層14を剥離した後、
図7(D)に示すように、保持体H上に液密通気層用インクIAを塗布し、塗布した液密通気層用インクIAが乾燥する前に、その液密通気層層インクIAに金属製多孔体層13の接着層14を重ねる。その後、液密通気層用インクIAを乾燥させて焼成することで液密通気層12を形成する。これにより、金属製多孔体層13と液密通気層12とが接着層14により一体化される。そして、
図7(E)に示すように、液密通気層12に触媒層(図示せず)を積層して正極10とする。
【0070】
このように、上記第1〜5の実施形態で説明した空気電池用正極の製造方法は、金属製多孔体層13と各層用のインクIA,IBを使用し、保持体Hへの金属製多孔体層13の配置、金属製多孔体層13や保持体Hへのインクの塗布、乾燥及び焼成を組み合わせることで、各層11〜14が一体化された正極10を製造することができる。このような正極10は、厚さ方向の貫通抵抗が小さく、導電性が非常に良好であり、液密通気層12と触媒層11との間に、酸素、触媒成分及び電解液の三層界面を形成しやすくなるため、電池出力を高めることが可能となる。
【0071】
したがって、上記の空気電池用正極の製造方法によれば、従来の電極を調製する手法を用いて、良好なガス透過性及び良好な導電性を両立させて空気電池の高出力化を実現し得る正極10を、容易に且つ低コストで製造することができる。
【0072】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、本発明の空気電池用正極は、塩水電池の電極構造体などに応用することも可能である。