(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記移動目標抽出手段は、中間周波数の変化量に基づいて、前記移動目標の速度を演算する移動速度演算手段を有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
前記異なる複数のチャープ波は、互いに周波数帯が重ならない同じ変調幅のUPチャープ波とDOWNチャープ波とを含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
前記ヘテロダイン処理手段は、前記受波信号を各チャープ波の周波数帯に対応する成分に分離して、分離した成分ごとに前記各チャープ波のデュアルスイープ信号によりヘテロダイン処理を行なって、各ヘテロダイン処理の結果を加算することによって、前記ビート周波数を生成する請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本明細書で使用される「チャープ波」は、周波数が線形的に変化する波である。ここでは、線形に周波数が上昇する波を「UPチャープ波」、線形に周波数が下降する波を「DOWNチャープ波」と称す。UPチャープ波やDOWNチャープ波のみを繰り返す波と区別して、UPチャープ波とDOWNチャープ波とを繰り返す波を「鋸状のチャープ波」と称す。「ディアルスイープ信号」は、チャープ波の周波数変化の倍の周波数帯を2倍の周期で線形的に変化する信号である。ここでは、線形に周波数が上昇する信号を「UPデュアルスイープ信号」、線形に周波数が下降する信号を「DOWNデュアルスイープ信号」と称す。また、「ビート周波数」は、周波数が僅かに異なる2つの波が干渉して、振幅がゆっくり周期的に変わる合成波の周波数である。本例では、受波したチャープ波に対応する受波信号と送波したチャープ波に対応するヘテロダイン用信号を積算するヘテロダイン処理をし、その演算結果の周波数差分に相当する「うなりの周波数」を意味する。ここで、「ヘテロダイン用信号」には、「ディアルスープ信号」が含まれる。
【0016】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態としての情報処理装置100について、
図1を用いて説明する。情報処理装置100は、チャープ波を送波してその反射波を受波することにより目標を抽出する装置である。
【0017】
図1に示すように、情報処理装置100は、送波部110と、受波部120と、ヘテロダイン処理部130と、移動目標抽出部140と、を含む。送波部110は、異なる複数のチャープ波111を送波する。受波部120は、目標150から反射した、異なる複数のチャープ波の反射波112を受波して、受波信号121を出力する。ヘテロダイン処理部130は、受波信号121に対して、チャープ波111のそれぞれのデュアルスイープ信号113をヘテロダイン信号として乗算して、ビート周波数131を生成する。移動目標抽出部140は、ビート周波数131の周波数スペクトルにおける周波数の変化に基づいて、移動目標151を抽出する。
【0018】
本実施形態によれば、異なる周波数帯の複数のチャープ波を送波することにより、高データレートで移動目標を抽出し、算出する移動目標の位置、距離および速度を精度よく得ることができる。
【0019】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る情報処理装置につい説明する。本実施形態に係る情報処理装置は、周波数帯が異なる(重ならない)複数のチャープ波として、UPチャープ波とDOWNチャープ波とを送波し、反射波の受波信号からUPチャープ波の反射波とDOWNチャープ波の反射波とを分離して、それぞれ独立にヘテロダイン処理を行なう。そして、ヘテロダイン処理結果を合成してその周波数スペクトルを取り、移動目標の抽出を行なう。
【0020】
《前提技術》
本実施形態の前提技術として、チャープ信号の目標からの反射波に対するヘテロダイン処理によって、目標までの目標距離を求める技術について、概略を説明する。ここで、UPチャープ波の場合、目標位置に対応するビート周波数をfbとし、送信信号をfTとし、受信信号をfRとすれば、ビート周波数fbは、復調処理により以下の関係で求まる。DOWNチャープ波の場合、は送信信号と受信信号を入れ替える。
【0021】
fb = fT-fR
この際、目標距離をRとし、音速をCとし、戻り時間をΔtとすれば、R=C×Δt/2である。また、通常のFM波では、パルス長をTとし、振幅をBとした場合、その周波数変化αは、α=B/Tであり、これにより目標距離Rは、ビート周波数fbを得ることでfb/Δt=αであることに注意すれば、以下の関係により求めることができる。
【0022】
R = C×Δt/2 = (C×fb)/2α = (C×fb×T)/2B
《情報処理装置の機能構成》
図2Aは、本実施形態に係る情報処理装置200の機能構成を示すブロック図である。なお、情報処理装置200は、CTFMソナー装置として使用される。
【0023】
情報処理装置200は、
図2Aに示すように、送波部210と、受波部220と、ヘテロダイン処理部230と、移動目標抽出部240と、を備える。
【0024】
送波部210は、送波器211と、送波処理器212、DAC(digital to analog converter)213と、信号発生器214とを含む。なお、本例では、信号発生器214は、ヘテロダイン処理部230においても兼用される。また、受波部220は、受波器2221と、前段処理器222と、ADC(analog to digital converter)とを含む。またヘテロダイン処理部230は、信号発生器214と、UP用前段フィルタ231と、DOWN用前段フィルタ232と、UPミクサ233と、DOWNミクサ234と、UP用後段フィルタ235と、DOWN用後段フィルタ236と、加算器237とを含む。また、移動目標抽出部240は、FFT(Fast Fourier Transform)241と、ゼロドップラフィルタ242と、目標距離演算部243とを含む。なお、目標距離演算部243は、移動目標についての処理の一例を代表として示しており、移動目標に対するビート周波数のスペクトログラムの生成および表示、移動目標の移動速度演算やドップラ効果の影響補正などの演算をも含むものである。
【0025】
(信号発生器の機能構成)
図2Bは、本実施形態に係る信号発生器214の機能構成を示すブロック図である。なお、
図2Bの信号発生器214の機能構成はその一例であって、これに限定されない。すなわち、信号発生器214は、周波数帯の異なる送波用の複数のチャープ波のための信号と、送波した複数のチャープ波に対応してヘテロダイン処理に好適なデュアルスイープ信号と、を発生できるものであれば、構成は限定されない。
【0026】
信号発生器214は、チャープ波の信号を生成する信号生成部251と、信号生成部251で生成するチャープ波の周波数帯および周期を記憶するチャープ波テーブル252と、を有する。また、信号発生器214は、信号生成部251からの信号に基づいて周波数帯の異なる複数のチャープ波を生成する発振器253および254と、発振器253および254の出力波を合成する合成器255とを有する。
【0027】
また、信号発生器214は、デュアルスイープ信号生成部261と、UPデュアルスイープ信号の低周波側の発振器264と、UPデュアルスイープ信号の高周波側の発振器265と、UP波合成器266と、を含む。また、信号発生器214は、DOWNデュアルスイープ信号の低周波側の発振器267と、DOWNデュアルスイープ信号の高周波側の発振器268と、DOWN波合成器269と、を含む。
【0028】
デュアルスイープ信号生成部261は、デュアルスイープ信号テーブル262を有し、送波された複数のチャープ波に基づいて、それぞれのチャープ波と周波数帯が重ならないデュアルスイープ信号を生成する。発振器264と発振器265は、デュアルスイープ信号生成部261からの出力に従って、少なくとも送波されたUPチャープ波とは重ならないが、UPチャープ波とスペクトログラムの形状が同様の信号を生成する。UP波合成器266は、発振器264と発振器265との出力を合成して、少なくとも送波されたUPチャープ波と周波数帯が重ならないUPデュアルスイープ信号を出力する。一方、発振器267と発振器268は、デュアルスイープ信号生成部261からの出力に従って、少なくとも送波されたDOWNチャープ波とは重ならないが、DOWNチャープ波とスペクトログラムの形状が同様の信号を生成する。DOWN波合成器269は、発振器267と発振器268との出力を合成して、少なくとも送波されたDOWNチャープ波と周波数帯が重ならないDOWNデュアルスイープ信号を出力する。
【0029】
(信号発生用パラメータテーブル)
図2Cは、本実施形態に係る信号発生用パラメータテーブル250の構成を示す図である。
図2Cの信号発生用パラメータテーブル250は、チャープ波テーブル252とデュアルスイープ信号テーブル262とを含み、チャープ波およびデュアルスイープ信号を生成するためのパラメータを記憶する。
【0030】
チャープ波テーブル252は、チャープ波の周期であるパルス長271と、UPチャープ波272の基準周波数および変調幅と、DOWNチャープ波273の基準周波数および変調幅と、を記憶する。なお、
図2Cに示すように、UPチャープ波272とDOWNチャープ波273とが重ならないように、基準周波数および変調幅が設定されている。
【0031】
デュアルスイープ信号テーブル262は、使用ミクサ281に対応付けて、ヘテロダイン用の第1変調信号282の基準周波数および変調幅と、ヘテロダイン用の第2変調信号283の基準周波数および変調幅と、を記憶する。なお、
図2Cに示すように、第1変調信号282と第2変調信号283とは周波数帯が連続する、ヘテロダイン用のデュアルスイープ信号を形成する。
【0032】
《情報処理装置の処理》
以下、上記
図2Aの情報処理装置200の構成による移動目標抽出処理について説明する。
【0033】
《送波処理および受波処理》
図3Aは、本実施形態に係る送波および受波したチャープ波の周波数変化を示す図である。
図2Aにおいて、信号発生器214において、線形変調されたCTFM用の送波信号214aを発生させる。ここで発生される波は、
図3Aに示すような、UPチャープ波301とDOWNチャープ波311との組合せであり、パルス長Tと変調幅Bとは一定である。この時UPチャープ波とDOWNチャープ波との周波数帯は、上下逆でも問題ない。
【0034】
ここで、線形変調されたCTFM用の送波信号はパルス長Tごとに周期的に繰り返されるが、パルス長Tの1パルス分の波の名称をそれぞれUPチャープ波301とDOWNチャープ波311と呼ぶものとする。またこの時のUPチャープ波による受波信号はUP受波信号302、DOWNチャープによる受波信号はDOWN受波信号312であり、それぞれ移動目標に対しては逆符号のドップラシフトを含んでいる。
【0035】
信号発生器214において作られた信号は、DAC213において、ディジタル/アナログ変換される。送波処理器212は、ローパスフィルタにより、DAC213でデジダルの送波信号データをアナログ変換時に発生する高周波分の不要信号を除去したのち、アンプにより、電力を増幅して遠距離まで届くようにする。送波器211は、本実施形態においては、送波処理器212で増幅された電気信号を音響信号に変換し、水中に音波として送信信号を放射する。
【0036】
水中に放射された音波は、様々な距離にある対象物(海底や海面、移動目標等)に到達後反射し、往復の伝搬時間分の遅延時間を持って受波器221で受信される。この際に得られる海中から反射して戻ってくる反射音(受波信号)は伝搬時間による損失や反射損失によって、送波器211から出力されたときより音響レベルとして減衰している。ここで、目標からの反射音をエコーと呼び、目標以外の対象物からの反射音を残響と呼び、それ以外に常時存在する不要音を雑音と呼ぶ。
【0037】
受波器221において音波として受波された音響信号や雑音、残響は電気信号に変換される。前段処理器222において、受波器221で電気信号に変換された反射音データの電力を増幅する。次に、ADC223において、アナログ電気信号として入力される受波信号はディジタル電気信号に変換される。また、この時、ADC223においてサンプリングされる際にエリアシングが発生しないように、ADC223が持つサンプリング周波数の2分の1以上の周波数を、前段処理器222のローパスフィルタにおいて除去しておくことが普通である。
【0038】
ADC223のディジタル出力データは、本例ではヘテロダイン処理部230に含まれるUP用前段フィルタ231とDOWN用前段フィルタ232とによって、UPチャープ領域の受波信号とDOWNチャープ領域の受波信号とにそれぞれフィルタリング分離され、時間的に平行しつつ別処理に分岐する。その為、ここからはUPチャープ波の受波信号とDOWNチャープ波の受波信号とに対して、それぞれ個々の処理を実施する。
【0039】
(前段フィルタのパラメータ)
図3Bは、本実施形態に係る前段フィルタのパラメータテーブル320を示す図である。前段フィルタのパラメータテーブル320は、使用する複数のチャープ波に対応して、フィルタリングの周波数帯を設定するために使用される。
【0040】
前段フィルタのパラメータテーブル320は、前段フィルタの種類321と使用したチャープ波322とに対応付けて、分離周波数帯323を記憶する。なお、使用したチャープ波322により、各フィルタが複数の分離周波数帯を有してよい。また、使用するチャープ波が3つ以上の場合には、反射したチャープ波の受波信号を分離するために必要な数のフィルタが準備される。
【0041】
《受波信号のヘテロダイン処理》
図4Aは、本実施形態に係る受波信号の処理結果を示す図である。
【0042】
UPチャープの領域に分離されたUP受波信号302は、UPミクサ233に入力される。この時、信号発生器214からミクサ用の変調信号であるUPデュアルスイープ信号214bが作成され、UP受波信号と乗算することで、UPデュアルスイープ信号214bとUP受波信号とのビート周波数が計算される。
【0043】
図4Aの左図にあるように、送信パルス長Tに戻ってくるUP受波信号302に対してはビート信号のビート周波数が求まる。一方、送信パルス長Tの外側で戻ってくるブラインドゾーンにおけるUP受波信号302に対しては、次の探信の送信パルスしか存在しないため、そのままではビート信号のビート周波数が求まらない。しかし、
図4AのUPチャープ波301から中間周波数fm分および(fm+B)上にシフトされた、送信パルス長の2倍となる周期2Tのデュアルスイープ信号401をヘテロダイン信号として用いることで、ブラインドゾーンにおいてもビート信号403を時間的に連続して求めることができる。UP用後段フィルタ235は、
図4Aに示すバンドパスフィルタ404であり、UPミクサ233において得られたビート信号403以外の和周波成分や不用帯域の周波数成分を除去する。
【0044】
ここで、得られたUPチャープ波の受波信号に対するビート信号403のビート周波数fb'(up)と実際意味を持つビート周波数fb(up)との間には以下の関係がある。
【0045】
fb(up) = fb'(up) − fm
ここで、fmは中間周波数であり、UPミクサ233において変調に用いたヘテロダイン用信号を高周波側にシフトした周波数である。
【0046】
また、この時、
図4Aにあるように、1つのチャープ信号時間内においてドップラにより目標位置が変化する場合、ビート周波数は時間に応じて変化する(
図4Aのfdp)。そのため、実際は以下のように記載できる。
【0047】
fb(up) = fb(up)[t]
一方、UPチャープ領域と同様に、DOWNミクサ234においては、信号発生器214においてDOWNチャープ波を低周波側にシフトして得られる変調幅のデュアルスイープ信号411と、DOWN領域におけるDOWN受波信号312とが乗算される。そして、DOWN用後段フィルタ236(
図4Aのフィルタ帯域414)による不用帯域の除去により、ビート周波数が同時に得られる。ただし、低周波側のシフトにおいて帯域が取れない場合は、逆に上側にシフトして得られるビート周波数を変調幅から引いてもよい。
【0048】
DOWNチャープ波の受波信号から直接得られるビート周波数413をfb'(dn)とし、中間周波数をfm’とし、本来の意味があるビート周波数をfb(dn)とすれば、UPチャープの場合と同様に、
fb(dn) = fb'(dn) + fm’
fb(dn) = fb(dn)[t]
となる。
【0049】
加算器237においては、UPチャープ領域の受波信号とDOWNチャープ領域の受波信号とで得られるビート周波数が同時刻で加算される。一般的に、この時点における処理された信号fb(up/dn)[t]は、移動目標が1つだと仮定すると移動目標に対するビート周波数が2種類とその他の固定目標が含まれている。UPビート周波数とDOWNビート周波数との加算値をfb(up/dn)とすれば、
fb(up/dn)[t] = fb(up)[t] + fb(dn)[t]
となる。
【0050】
(受波信号の詳細な処理結果)
図4Bは、本実施形態に係る受波信号の詳細な処理結果を示す図である。なお、
図4Bには、UPチャート波の処理もDOWNチャート波の処理も基本的に同様であるので、DOWNチャート波の受波信号処理のみを詳細に示す。
【0051】
図4Bの上段は、本実施形態に係るDOWN受波信号312およびDOWNヘテロダイン用のデュアルスイープ信号411の周波数を示す図である。なお、DOWNヘテロダイン用のデュアルスイープ信号411は、DOWN受波信号312に周波数帯が重ならない低高周波数帯に設定されているが、高周波数帯に設定されてもよい。かかる周波数帯は、周波数の使用帯域ができるだけ広がらないように選択される。
【0052】
図4Bの中段420は、DOWN受波信号312とDOWNヘテロダイン用のデュアルスイープ信号411とを乗算したヘテロダイン結果のビート周波数を示す図である。ヘテロダイン結果には、目標からの信号を表わすビート周波数421以外に、和周波成分や不用帯域の周波数成分422が含まれており、これらが後段フィルタにより除去される。
【0053】
図4Bの下段430は、UP受波信号302の処理も加えた、本実施形態に係るヘテロダイン処理結果のビート周波数を示す図である。
図4Bには、UP受波信号302とUPヘテロダイン用のデュアルスイープ信号401とのヘテロダイン処理により生成して不要周波数が除去されたビート周波数431と、DOWN受波信号312とDOWNヘテロダイン用のデュアルスイープ信号411とのヘテロダイン処理により生成して不要周波数が除去されたビート周波数421と、が合成されて出力されている。
【0054】
(後段フィルタのパラメータテーブル)
図4Cは、本実施形態に係る後段フィルタのパラメータテーブル440を示す図である。なお、後段フィルタのパラメータテーブル440は、UP用後段フィルタ235およびDOWN用後段フィルタ236のパラメータを含んでいるが、それぞれ別に記憶してもよい。一方、前段フィルタのパラメータテーブル320と一緒にフィルタパラメータとして記憶してもよい。
【0055】
後段フィルタのパラメータテーブル440は、後段フィルタの種類441と、送波する使用チャープ波442と、ヘテロダイン処理に用いる使用デュアルスイープ信号443と、に対応して、フィルタリングする周波数帯444を記憶する。なお、使用チャープ波442や使用デュアルスイープ信号443に対応して、周波数帯444を複数記憶してもよい。
【0056】
《移動目標抽出処理》
ヘテロダイン処理により得られたビート周波数信号fb(up/dn)[t]は、FFT241において周波数軸に変換され、ゼロドップラフィルタ242に入力される。
【0057】
(スペクトログラム処理)
図5は、本実施形態に係るヘテロダイン処理後のビート周波数の周波数スペクトルを示す図である。ここで、
図5は、ドップラを持つ移動目標とドップラを持たない静止目標とに対する、1つの時間に対するビート周波数軸上の信号のイメージである。
【0058】
本情報処理装置200においては、UPチャープ波とDOWNチャープ波とのそれぞれに対して同時にビート周波数を得ることができる。今、移動目標の速度が一定(速度=一定)である場合、UPビート周波数のスペクトル501とDOWNビート周波数のスペクトル502とには、それぞれにドップラシフトfd(up)とfd(dn)が含まれる。ここで、チャープ信号は時間ごとに周波数が異なるため、実際はfd(up)やfd(dn)内でも時間ごとに値が変化するが、実際に分離は困難なためfd(up)とfd(dn)とは一定とする。この時、ドップラシフトと送信周波数との間には、以下の関係がある。
【0059】
fd(up) = (2V/C) fc(up)
fd(dn) = (2V/C) fc(dn)
fc(up)、fc(dn)は、それぞれUPチャープ波とDOWNチャープ波の既知な中心周波数である。この時、これらの差をfc(up)−fc(dn) = Dfとすれば、以下の関係が成り立つ。
【0060】
fd(up)−fd(dn) = (2V/C)×Df
これらドップラシフトと実際の距離に対応する目標のビート周波数fbとの関係は、
図5の通りである。移動目標は、ドップラシフトfd(up)とfd(dn)を持つため、通常各時間(FFT241の実行単位時間)において得られる目標のスペクトルは、UPビート周波数fb(up)とDOWNビート周波数fb(dn)とのペアになる。
【0061】
一方、静止目標であれば、ドップラシフトfdは“0”であるため、得られる目標のビート周波数のスペクトル503は1つのみである。目標の真位置に対応するビート周波数fb[n]と、本送波を用いて得られるUPチャープ波のビート周波数fb(up)[n]と、DOWNチャープ波のビート周波数fb(dn)[n]とは、UPおよびDOWNのドップラシフトがそれぞれ一定とすれば、以下のような関係となる。
【0062】
fb(up)[n] = fb[n] − fd(up)
fb(dn)[n] = fb[n] + fd(dn)
また、この時の目標距離R[n]に対応するビート周波数fb[n]は、ドップラにより変化するため、以下のような関係にある。ここで、α=B/Tである。
【0063】
fb[n] = 2αR[n]/C
一方、上記のUPチャープ波とDOWNチャープ波、およびそれぞれのドップラシフトの関係から、ビート周波数fb[n]は以下のようにも記載できる。
【0064】
fb[n] = (fb(up)[n] + fb(dn)[n])/2
= fb(up/dn)[n]/2
= (fb(up)[n] + fb(dn)[n] + fd(up) − fd(dn))/2
= (fb(up)[n] + fb(dn)[n])/2 + (V/C)×Df
【0065】
(ゼロドップラフィルタ処理)
図6は、本実施形態に係るゼロドップラフィルタ242の機能構成を示すブロック図である。
【0066】
図2AのFFT241による処理後のn番目の出力データがFFT出力データ[n]241aである。この時、このデータはそのまま移動フィルタの入力データ[n]602として使用される。一方で、ここでは1つ前のFFT処理データである遅延データ[n-1]603を、ゼロドップラなしの信号をフィルタリングするゼロドップラフィルタとして使用する。減算器604において、入力データ[n]602から遅延データ[n-1]603が減算され、その所定時間間隔に置ける差分結果が処理後データ[n]242aとして出力される。
【0067】
すなわち、
fb(up/dn)処理後[n] = fb(up/dn)[n] − fb(up/dn)[n-1] + (V/C)×Df
なお、ここでは、1つ前の処理データのみをフィルタとして使用した例を示したが、海中のマルチパスによる静止目標の揺らぎを考慮する場合等、ドップラによるビート周波数の変化程度に応じて、複数段の過去のデータを平均化したものをフィルタとして用いる等も有効である。
【0068】
図7は、本実施形態に係るゼロドップラフィルタによる処理を説明するビート周波数の周波数スペクトルを示す図である。
【0069】
本情報処理装置200で得られる受波信号の中には、検出したい移動目標に加えて、海底地形や海面等の多数の静止目標が存在する。静止目標はあらゆる距離に存在し、静止目標のビート周波数701としてビート周波数軸上に現れる。これらの多くは音響では残響、レーダ等ではクラッタと呼ばれ、目標信号の検出を妨げる不要な信号である。ここでは、例としてこれらの静止目標である近距離目標と遠距離目標のビート周波数をそれぞれfb1、fb2とする。この例であるように、一般的に静止目標は遠距離であるほど伝搬損失や反射の影響によりレベルが下がるが、マルチパスの影響によりビート周波数は一般的に広がる分布を持つためこのような形になる。
【0070】
一方、移動目標であるUPチャープ波のビート周波数702とDOWNチャープ波のビート周波数703と(逆もありえる)は、それぞれ大きさが同じで向きが逆のドップラシフトを持つ。そのため、時間と共に逆方向に周波数シフトし、その関係は既に述べたとおりfb(up)[n]およびfb(dn)[n]とfdとの関係で記載される。
【0071】
ゼロドップラフィルタをかけられたビート周波数のデータは、最後に目標距離演算部243に入力される。この際、ゼロドップラフィルタ242により、一般的に、入力データでは、静止目標のスペクトルレベルが移動目標の2つの一対のビート信号のレベルよりも小さいものになる。
【0072】
このように静止目標のレベルを低減したビート周波数のスペクトルに対し、閾値処理等を行なうことで、移動目標の2つの一対のビート周波数を取り出すことができる。この時、本来の目標の位置に対応するn番目のビート周波数をfb[n]とすれば、前述の関係から、
fb処理後[n] = (fb(up)処理後[n] + fb(dn)処理後[n])/2 + (V/C)×Df
= 2αR[n]/C
となる。
【0073】
結局このビート周波数から得られる移動目標の距離は、以下の通りである。
R[n] = fb処理後[n]×C/2α
【0074】
さらに、中間周波数の変化量に基づいて、移動目標の速度を演算することができる。また、チャープ波の送波方向(受波方向)と、時系列の移動目標の距離R[n]とに基づいて、ドップラ影響を補償した移動目標の速度を演算することができる。
【0075】
(演算部のパラメータ)
図8は、本実施形態に係る演算部のアルゴリズム/パラメータテーブル800を示す図である。演算部のアルゴリズム/パラメータテーブル800は、
図2Aの目標距離演算部243を始めとする演算部が使用する。
【0076】
演算部のアルゴリズム/パラメータテーブル800は、各演算対象801に対応付けて、少なくとも1つの演算用アルゴリズム802および演算用パラメータ803を記憶する。なお、複数の演算用アルゴリズム802および演算用パラメータ803を有する場合、同じ演算対象801に対してもデータの取得条件に適応して選択される。
【0077】
《情報処理装置のハードウェア構成》
図9は、本実施形態に係る情報処理装置200のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0078】
図9で、CPU910は演算制御用のプロセッサであり、CPU910がRAM940を使用しながらストレージ950に格納されたプログラムおよびモジュールを実行することで、
図2Aに示された情報処理装置200の各機能構成部の機能が実現される。ROM920は、初期データおよびプログラムなどの固定データおよびプログラムを記憶する。なお、CPU910は1つに限定されず、複数のCPUであっても、あるいは画像処理用のGPUを含んでもよい。
【0079】
RAM940は、CPU910が一時記憶のワークエリアとして使用するランダムアクセスメモリである。RAM940には、本実施形態の実現に必要なデータを記憶する領域が確保されている。チャープ波の送波データ941は、送波部210が送波したチャープ波のUPかDOWNか、周波数帯、周期のデータである。受波信号データ942は、受波部220が受波した信号のデータである。UP/DOWN受波信号データ943は、前段フィルタによりUP受波信号とDOWN受波信号とに分離されたデータである。UP/DOWNヘテロダイン信号データ944は、それぞれ送波したチャープ波に基づいて生成されたヘテロダイン処理に使用されるUP/DOWNデュアルスイープ信号のデータである。ヘテロダイン処理データ(ビート周波数)945は、UP/DOWNヘテロダイン処理結果のビート周波数を表わすデータである。ゼロドップラ処理データ947は、ヘテロダイン処理結果のビート周波数をスペクトログラム処理した後、ゼロドップラ処理した結果のデータである。移動目標距離データ948は、ゼロドップラ処理データ947に基づいて算出された移動目標までの距離データである。移動目標速度データ949は、ゼロドップラ処理データ947に基づいて算出された移動目標の移動速度のデータである。
【0080】
ストレージ950には、データベースや各種のパラメータ、あるいは本実施形態の実現に必要な以下のデータまたはプログラムが記憶されている。信号発生用パラメータテーブル250は、
図2Cに示した、チャープ波テーブル252とデュアルスイープ信号テーブル262とを含むテーブルである。フィルタ用のパラメータテーブル320、440は、
図3Bまたは
図4Cに示した、前段または後段フィルタのパラメータを格納する。演算用のアルゴリズム/パラメータテーブル800は、
図8に示したように、オプションである目標距離や目標速度などの演算に使用するパラメータ、アルゴリズムを記憶する。
【0081】
ストレージ950には、以下のプログラムが格納される。情報処理装置制御プログラム951は、本情報処理装置200の全体を制御する制御プログラムである。送波生成モジュール952は、送波する周波数帯の異なる複数のチャープ波を生成するモジュールである。ヘテロダイン信号生成モジュール953は、送波した複数のチャープ波に対応するそれぞれ各チャープ波と周波数帯が重ならないデュアルスイープ信号を生成するモジュールである。ヘテロダイン処理モジュール954は、受波信号とデュアルスイープ信号とによりヘテロダイン処理を行ないビート周波数を求めるモジュールである。ゼロドップラフィルタモジュール955は、ビート周波数のスペクトログラムを生成した後、ゼロドップラ処理を行なうモジュールである。移動目標距離演算モジュール956は、ゼロドップラ処理を行なったビート周波数のスペクトログラムから移動目標までの距離を演算するモジュールである。移動目標速度演算モジュール957は、ゼロドップラ処理を行なったビート周波数のスペクトログラムから移動目標の速度を演算するモジュールである。
【0082】
入出力インタフェース960は、入出力機器との入出力データをインタフェースする。入出力インタフェース960には、送波器211、受波器221、表示部961、キーボード、タッチパネル、ポインティンデバイスなどの操作部962、GPS位置判定部963などが接続される。
【0083】
なお、
図9のRAM940やストレージ950には、情報処理装置200が有する汎用の機能や他の実現可能な機能に関連するプログラムやデータは図示されていない。
【0084】
《情報処理装置の処理手順》
図10は、本実施形態に係る情報処理装置200の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、
図9のCPU910がRAM940を使用して実行し、
図2Aの機能構成部を実現する。
【0085】
情報処理装置200は、ステップS1001において、周波数帯の異なる複数のチャープ波を送波する。そして、情報処理装置200は、ステップS1031において、送波した複数のチャープ波に対応するヘロダイン処理用のデュアルスイープ信号を生成する。ここで、送波したチャープ波がUPチャープ波およびDOWNチャープ波の場合には、送波したUPチャープ波に対応するUPデュアルスイープ信号を生成し、送波したDOWNチャープ波に対応するDOWNデュアルスイープ信号を生成する。
【0086】
情報処理装置200は、ステップS1005において、送波されて目標で反射された複数のチャープ波を受波する。情報処理装置200は、ステップS1007において、受波信号を帯域分離、本例ではUP受波信号とDOWN受波信号とに帯域分離する。そして、情報処理装置200は、ステップS1009において、UP受波信号とUPデュアルスイープ信号とを乗算するUPヘテロダイン処理を実行する。また、情報処理装置200は、ステップS1011において、DOWN受波信号とDOWNデュアルスイープ信号とを乗算するDOWNヘテロダイン処理を実行する。そして、情報処理装置200は、ステップS1013において、UPとDOWNのヘテロダイン結果を合成する。
【0087】
情報処理装置200は、ステップS1015において、ヘテロダイン処理結果のビート周波数のスペクトログラムを生成して、ゼロドップラ処理をしたビート周波数を出力する。そして、情報処理装置200は、ステップS1017において、移動目標のビート周波数のスペクトログラムに基づき目標距離や目標速度を演算する。
【0088】
(チャープ波送波処理)
図11Aは、本実施形態に係るチャープ波送波処理(S1001)の手順を示すフローチャートである。
【0089】
情報処理装置200は、ステップS1111において、チャープ波テーブル252から第1チャープ波のパラメータ(UPかDOWNか、周波数帯、周期)を取得する。そして、情報処理装置200は、ステップS1113において、第1チャープ波を生成する。次に、情報処理装置200は、ステップS1115において、チャープ波テーブル252から第1チャープ波と周波数帯が異なり、UP/DOWNが逆の第2チャープ波のパラメータ(UPかDOWNか、周波数帯、周期)を取得する。そして、情報処理装置200は、ステップS1117において、第2チャープ波を生成する。
【0090】
情報処理装置200は、ステップS1119において、第1チャープ波と第2チャープ波とを送波する。なお、周波数帯が異なる条件を満たせば、上記2つのチャープ波の組み合わせ、あるいはチャープ波の数は本例に限定されない。
【0091】
(ヘテロダイン信号生成処理)
図11Bは、本実施形態に係るヘテロダイン信号生成処理(S1003)の手順を示すフローチャートである。
【0092】
情報処理装置200は、ステップS1121において、送波した第1チャープ波および第2チャープ波、あるいはそのパラメータを取得する。情報処理装置200は、ステップS1123において、第1チャープ波または第2チャープ波と周波数帯が重ならない第1チャープ波の第1コピー波と、第2チャープ波の第2コピー波とを生成する。なお、ここでコピー波とは、
図4Aのように、スペクトログラム上でその周波数変化の形状が同様であることを示すものであり、同じは波を意味しない。また、第1コピー波あるいは第2コピー波の周波数帯は複数のチャープ波の周波数帯に近いものとする。なお、本実施形態においては、チャープ波とヘテロダイン信号との周波数帯とが重ならないのが望ましいが、重なる場合を除外するものではない。
【0093】
次に、情報処理装置200は、ステップS1125において、送波された複数のチャープ波と周波数帯が重ならない、かつ、第1コピー波または第2コピー波と周波数帯が連続する第3コピー波と第4コピー波とを生成する。そして、情報処理装置200は、ステップS1127において、第1コピー波と第3コピー波とを加えて、送波した複数のチャープ波と周波数帯が重ならない第1デュアルスイープ信号を生成する。また、情報処理装置200は、ステップS1128において、第2コピー波と第4コピー波とを加えて、送波した複数のチャープ波と周波数帯が重ならない第2デュアルスイープ信号を生成する。情報処理装置200は、ステップS1129において、生成した第1および第2デュアルスイープ信号をUPミクサ233またはDOWNミクサ234に出力する。
【0094】
(ヘテロダイン処理)
図11Cは、本実施形態に係るヘテロダイン処理(S1009、S1011)の手順を示すフローチャートである。なお、UPおよびDOWNにおけるヘテロダイン処理は、入力信号と後段フィルタのパラメータが相違するのみで、同様であるので共通の処理手順として説明する。
【0095】
情報処理装置200は、ステップS1131において、受波信号を取得する。また、情報処理装置200は、ステップS1133において、デュアルスイープ信号を取得する。そして、情報処理装置200は、ステップS1135において、受波信号とデュアルスイープ信号とを乗算処理してビート周波数を生成する。その後、情報処理装置200は、ステップS1137において、不要周波数を後段フィルタで除去する。
【0096】
(ゼロドップラ処理)
図11Dは、本実施形態に係るゼロドップラ処理(S1015)の手順を示すフローチャートである。
【0097】
情報処理装置200は、ステップS1141において、ビート周波数に対して高速フーリエ変換処理を行ない、周波数スペクトルを生成する。情報処理装置200は、ステップS1143において、周波数スペクトルに基づいてスペクトログラムを生成する。そして、情報処理装置200は、ステップS1145において、生成したスペクトログラムに対してゼロドップラ処理を行ない移動目標のビート周波数を出力する。
【0098】
《他のチャープ波》
図12は、本実施形態に係る送波する他のチャープ波の周波数変化の例を示す図である。なお、送波する複数のチャープ波の組み合わせは、周波数帯が異なっている条件を満たせば、本例に限定されない。また、複数のチャープ波間の周波数帯や周期は、ヘロダイン処理後の目標のみを抽出するための後段フィルタリング、ゼロドップラフィルタリング、ドップラ影響の算出、移動目標距離や移動目標速度の算出の速度と精度を高めるよう選択される。さらに、複数のチャープ波間の周波数帯や周期は、表示画面からの移動目標の目視、移動目標距離や移動目標速度の目視、ドップラ影響の目視などを容易にするように選択される。
【0099】
図12の第1送波例1201では、UPチャープ波とDOWNチャープ波と異なる周波数帯でが互い違いに送波される。また、第2送波例1202では、UPチャープ波とDOWNチャープ波とを繰り返す鋸状のチャープ波が異なる周波数帯で送波される。また、第3送波例1203では、3つのそれぞれUP/DOWNや、周波数帯、周期が異なるチャープ波が組み合わされている。
【0100】
なお、
図2Bのチャープ波の生成では、チャープ波テーブル252のパラメータに従ってそれぞれのチャープ波が生成されたが、
図12に示すように、複数のチャープ波の分離帯は帯域フィルタにより生成する方が調整が簡単である。
【0101】
本実施形態によれば、異なる周波数帯の複数のチャープ波、特にUPチャープ波とDOWNチャープ波とを送波することにより、高データレートで移動目標を抽出し、算出する移動目標の位置、距離および速度を精度よく得ることができる。
【0102】
すなわち、多くの静止目標が存在する状況において1パルス内で大きく距離が変化する高速な移動目標に対しても、正確に高データレートで目標位置を得ることができる。また、本情報処理装置における新送波方式によれば、移動目標に対する距離と速度情報を高データレートで得ることができるため、高い頻度で目標情報が必要な追尾のような場面でも確実な効果を得ることができる。加えて、1パルス範囲内において目標速度が変化する場合に対しても、目標位置と速度精度をほとんど失うことなく確実な情報を得ることが可能となる。また、複数の静止目標が存在する状況においても、移動目標を確実に検出することができる。
【0103】
例えば、送波の周期は距離に比例するため、ソナーのように遠距離を見るセンサでは送波の周期が非常に大きくなる(数10秒以上)。そのため、同じ帯域でのUPチャープ波とDOWNチャープ波との繰り返しでは、移動する目標の速度に対して数10秒以上のずれを生じるため、正確な目標速度および位置を再現することができない。さらには、UPチャープ波とDOWNチャープ波との情報が揃うまで目標の速度と位置がわからないため、情報が得られる時間効率が悪い。これに対して、複数のチャープ波を異なる周波数帯とすることで、UPチャープ波とDOWNチャープ波とのビート周波数を同時に得ることができるため、正確な目標速度と位置を高い時間効率で得ることができる。
【0104】
また、ゼロドップラフィルタにより、UPチャープ波とDOWNチャープ波との同時送波および受波の同時処理により、時間的に高い利用効率のまま、不要である固定目標(ドップラがない)ものを落とすことができる。このようにすることで、ソナーの世界では不要な固定目標(海面や海底からの残響)を落とすことができる。さらに、ソナーの世界でより効果があることとしては、海面残響のような固定目標は実際には固定ではなく海面の揺らぎと共に動いているように見えるため、時間効率が悪いフィルタでは落とし切れない。しかし、高い時間効率でフィルタをかけることで、この海面の揺らぎよりも早くフィルタをかけ続けることで、揺らぎによる位置ずれを最小に抑えつつ、この海面残響を抑えることが期待できる。また、本実施形態のゼロドップラフィルタにおいては、1つ前の遅延データ[n-1]をフィルタとして使用しているが、固定残響の揺らぎに応じて、遅延データを過去kフレーム(k≧2)の平均によりフィルタリング値を調整することで、より適切なフィルタを作ることができる。例えば、平均を(n-10,n-9,…,n-1)/10とすることで、より周期的な揺らぎを安定して落とすことができる。
【0105】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る情報処理装置につい説明する。本実施形態に係る情報処理装置は、上記第2実施形態と比べると、送波するチャープ波の周波数帯や周期が取得したい情報に応じて制御できる点で異なる。その他の構成および動作は、第2実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0106】
《情報処理装置の機能構成》
図13Aは、本実施形態に係る情報処理装置1300の機能構成を示すブロック図である。なお、
図13Aにおいて、
図2Aと同様の機能構成部には同じ参照番号を付して、説明を省略する。
【0107】
図13Aにおいて、
図2Aとの相違点は、信号発生器1314を制御して、送波するチャープ波の周波数帯や周期を変更すると共に、チャープ波の変更に伴ってヘテロダイン用のデュアルスイープ信号を変更する制御部1331を有する点である。なお、制御部1331は、他の機能構成部を制御してもよい。また、
図13Aでは、制御部1331をヘテロダイン処理部1330内に図示したが、いずれに含まれても含まれずに外部に設けられてもよい。あるいは、
図9のプログラムの変更によっても制御部1331を付加することができる。
【0108】
(信号発生器の機能構成)
図13Bは、本実施形態に係る信号発生器1314の機能構成を示すブロック図である。なお、
図13Bにおいて、
図2Bと同様の機能構成部には同じ参照番号を付して、説明を省略する。
【0109】
図13Bにおいて、
図2Bとの相違点は、制御部1331からの制御を受けて、チャープ波テーブル1352およびデュアルスイープ信号テーブル1362とが変更される点である。
【0110】
(信号発生用パラメータテーブル)
図13Cは、本実施形態に係る信号発生用パラメータテーブル1350の構成を示すブロック図である。
図13Cの信号発生用パラメータテーブル1350は、チャープ波テーブル1352とデュアルスイープ信号テーブル1362とを含み、チャープ波およびデュアルスイープ信号を生成するためのパラメータを記憶する。
【0111】
チャープ波テーブル1352は、基本周波数と変調幅とパルス長とを有するUPチャープ波1372と、基本周波数と変調幅とパルス長とを有するDOWNチャープ波1373と、を記憶する。チャープ波テーブル1352は、さらに他のチャープ波を記憶できる。基本周波数と変調幅とパルス長とは、制御部1331により変更できる。
図13Cでは、一例として、DOWNチャープ波が、UPチャープ波に対して変調幅およびパルス長が共に2倍に設定された例が示されている。
【0112】
また、デュアルスイープ信号テーブル1362は、UPミクサ233へのUPデュアルスイープ信号と、DOWNミクサ234へのDOWNデュアルスイープ信号と、がそれぞれ対応するチャープ波に基づいて、制御部1331により設定されている。各使用ミクサ1381とUPチャープ波1372またはDOWNチャープ波1373に対応して、ヘテロダイン用の第1変調信号1382と、ヘテロダイン用の第2変調信号1383と、を記憶する。
【0113】
(送波制御テーブル)
図13Dは、本実施形態に係る制御部1331の送波制御テーブル1390の構成を示す図である。送波制御テーブル1390は、制御部1331が送波するチャープ波の周波数帯や周期を取得したい情報に応じて制御するために使用するテーブルである。なお、
図13Dにおいて、送波制御テーブル1390は履歴を蓄積することで所望の結果を得ることができるチャープ波の周波数帯や周期などを制御する例を示すが、履歴から傾向や関数を求めて制御してもよい。
【0114】
送波制御テーブル1390は、使用するUPチャープ波1391と、使用するDOWNチャープ波1392と、UPチャープ波1391とDOWNチャープ波1392との間の周波数間隔1393と、使用するヘテロダイン用信号1394とを記憶する。そして、送波制御テーブル1390は、その結果得られた、ビート周波数1395と、周波数スペクトル1396と、移動目標位置1397と、移動目標速度1398とを記憶する。さらに、送波制御テーブル1390は、得られた移動目標位置1397や移動目標速度1398の精度評価1399を記憶する。
【0115】
(送波および受波したチャープ波)
図14は、本実施形態に係る送波および受波したチャープ波の周波数変化を示す図である。なお、
図14において、
図3Aと同様の送波には同じ参照番号を付して、説明を書略する。
【0116】
図14においては、制御部1331が設定した
図13Cのチャープ波テーブル1352に従って、2倍の変調幅で2倍のパルス幅を有する送波されたDOWNチャープ波1411と、DOWN受波信号1412とが図示されている。
【0117】
本実施形態のように、スイープの周波数帯域や時間を制御して、移動目標のビート周波数の周波数スペクトル表示における点滅パタンを制御することにより、種々の現象を目視により判定できる。例えば、スイープの帯域を離して、スイープ幅を小さくすれば、距離精度は出ないけど、ドップラ効果の差がいつも見える表示ができる。また、
図14にあるように、帯域幅を1:2にして、周期も1:2にして、FFT後に補正するなどの制御により、点滅の明るさだけでなく、位置のブレ幅からも移動目標の速度が分かる。
【0118】
すなわち、本実施形態によれば、捉えたい目標特性に応じて適切な送波を選択できる。そのため、高速目標に対しては速度をより正確に検出する目的で、スイープの傾きを少なくする。一方、低速度目標に対しては速度の影響は少ないとして、距離精度を高める目的でスイープの傾きを大きくとる。CTFM方式の特長として位置精度と速度精度が依存関係にあるため、速度が頻繁に変わる目標に対しては速度情報を正確に知らないと結果的に位置も大幅にずれてしまう。一方、速度が一定のような目標では、一度速度を求めてしまえば後はより高い精度で位置を知るように帯域を広くすることでより正確に位置を知ることができる。
【0119】
加えて、ソナーでは周波数によって高い周波数ほど減衰が大きく音波が遠くまで届かないため、遠距離目標に対しては帯域幅が小さく、送波周期が大きくスイープが小さいUPチャート波とDOWNチャート波とが有効である。これは性能面から言っても、遠距離目標では距離精度よりも速度精度の方が重要であるため、よりこの波が有効となる。
目標が近づいて来た中距離の場合、波形としては送波周期を距離に応じて短くすることで、帯域が同じでも必然的にスイープが大きくなり、速度精度から距離精度に重点を変化させることができる。
【0120】
さらに、目標が近距離であり目標速度がほとんど変化しないのであれば、最初にスイープの傾きが少ないUPチャート波とDOWNチャート波とで速度をはかれば、後は送信周期を目標距離に合わせて短くし、帯域も広げてよりスイープに傾きを持たせることで距離精度を上げることで、目標の位置に応じて最適な高効率のCTFM処理を行うことが可能となる。なお、このときドップラは既にわかっているものを使用するものとする。
【0121】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係る情報処理装置につい説明する。本実施形態に係る情報処理装置は、上記第2実施形態および第3実施形態と比べると、情報処理装置において信号発生器を送波部とヘテロダイン部とが独立して有する点で異なる。その他の構成および動作は、第2実施形態または第3実施形態と同様であるため、同じ構成および動作については同じ符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0122】
《情報処理装置の機能構成》
図15は、本実施形態に係る情報処理装置1500の機能構成を示すブロック図である。なお、
図15において、
図2Aと同様の機能構成部には同じ参照番号を付して、説明を省略する。
【0123】
図15において、
図2Aとの相違は、送波部1510が信号発生部1512を有し、ヘテロダイン処理部1530が送信発生部1534を有する点である。なお、信号発生部1512と送信発生部1534との構成は、
図2Bまたは
図13Bをそれぞれの役割に切り分けた構成であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【0124】
なお、
図15においては、送波部1510とヘテロダイン処理部1530とが独立するので、送波部1510を情報処理装置1500から切り離して送波装置とし、残った構成を受波装置とすることもできる。すなわち、送波装置と受波装置とを備える移動目標抽出システムが構成される。
【0125】
本実施形態によれば、送波処理と受波処理とを独立して制御できるので、構成の変更が容易となる。さらに、送波装置と受波装置との分離も可能となる。
【0126】
[他の実施形態]
本実施形態の移動目標抽出方法は、ソナーや超音波測定器だけでなくレーダ等にも適用することができる。
【0127】
また、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。また、それぞれの実施形態に含まれる別々の特徴を如何様に組み合わせたシステムまたは装置も、本発明の範疇に含まれる。
【0128】
また、本発明は、複数の機器から構成されるシステムに適用されてもよいし、単体の装置に適用されてもよい。さらに、本発明は、実施形態の機能を実現する情報処理プログラムが、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給される場合にも適用可能である。したがって、本発明の機能をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、あるいはそのプログラムを格納した媒体、そのプログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバも、本発明の範疇に含まれる。特に、少なくとも、上述した実施形態に含まれる処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)は本発明の範疇に含まれる。