【実施例】
【0027】
以下に、本発明に係る電気インピーダンストモグラフィ測定装置の実施例について図面を用いて説明する。
【0028】
本発明に係る電気インピーダンストモグラフィ測定装置1は、電極を内蔵した布製測定ベルト(電極内蔵ベルト)10と、この布製測定ベルトに包囲されるフレキシブル基板20を含んで構成され、測定信号処理回路30は信号を測定し解析処理する(
図4)。
図4中の符号7は解析表示装置を構成するEIT画像表示ディスプレイ、8Aは胸部EIT画像である。
【0029】
このうち、前記布製測定ベルト10は、生体への接触が可能な導電性布電極12を複数個並列して形成した導電性布電極群11を備えている(
図5)。
【0030】
前記布製測定ベルト10は、導電性繊維から構成される導電性布電極12と非導電性繊維部分13から構成され(
図5、
図6、
図7)、ユーザーの肌に優しく、高い量産性を備えている。前記布製測定ベルト10は洗濯可能に形成され、ユーザーにとっても低い測定コストを実現できる。また前記導電性布電極12は、
生体(体表
)5と電気的密着性を維持するために局所的に圧力がかかるような構造を有する(
図6、
図7)。前記導電性布電極12は、高い殺菌性と生体適合性を有する銀メッキ糸を使用することが一般的であるが、金、アルミ、銅などのメッキ糸や導電性インクで染めた糸や布などを用いることもできる。
【0031】
前記フレキシブル基板20は、前記布製測定ベルト10に包囲され(
図4)、前記導電性布電極12に接触可能な接触手段21を含んで構成される(
図5、
図6)。該接触手段は、前記導電性布電極が被測定対象である生体5に接触する場合に、生体に通電可能な電流を前記導電性布電極に供給し、生体表面より得られる生体インピーダンスに関する電圧信号を前記導電性布電極を介して受け取ることを可能としている。符号20Aは基板本体、28は前記測定信号処理回路30への接続コネクタ、
図6中の符号35,36は空気層である
【0032】
前記測定信号処理回路30は、前記導電性布電極12、前記接触手段21の少なくとも一部を介して生体に電流が供給される場合に、前記の導電性布電極、前記接触手段を介して検出される生体インピーダンスに関する電圧信号を測定し、測定した電圧信号を電気インピーダンストモグラフィ画像の作成に必要な情報として処理する。
【0033】
前記接触手段21は電極パッド22により形成され、該電極パッドは前記導電性布電極12と前記フレキシブル基板20の信号線27とを接続する(
図5、図6、
図10、
図11)。
【0034】
EIT測定装置1をEIT測定ベルトとして形成し、EIT測定ベルトを用いて実際に測定した、胸部EITの測定例を
図12に示す。ここでは、8個の電極を用いている。EIT測定ベルト1は、健常男性1名の胸部第4肋間上に巻き付け、ドライブ電流を0.5mA、測定周波数を450kHzとして12枚/秒でEITデータを測定した。画像再構成法には、最も一般的な逆投影法(back projection)を用い、16*16ピクセルの画像を平滑化して128*128ピクセルとしてリアルタイム表示した。
図13は、測定したEIT画像の一例であり、最大呼気に対する最大吸気時のデータを使用して画像化した。呼吸によって左右の肺に空気が入ると、電気インピーダンスが大きくなる。電気インピーダンス変化が大きくなる程、白から黒色へ変化するように表示した。
図14は胸部X線CT画像を示すが、
図13の画像8Cと
図14の画像8Dを比較すると、
図13の画像8Cでは
図14の画像8Dに比べ、吸気時の肺野に近い形状がEIT画像として測定されている。
【0035】
EIT画像を再構成する際は、リアルタイム処理に適する逆投影法が多く用いられ、電極間隔が均等であるという拘束条件を必要とされるので布製測定ベルト10は、片方を固定し、もう片方を伸張させても電極間隔が均等になるように局所的な張力を変化させた構造を有するように形成する(
図8)。
【0036】
この電極内蔵ベルトと測定信号処理回路までの配線方法としては、
(1)フレキシブル基板を用いる方法(段落0037〜0051)、
(2)配線を伸張性ラミネートフィルム加工などで固定する方法(段落0052)、
のいずれであってもよいことは勿論である
【0037】
(1)フレキシブル基板を用いる方法:
A.フレキシブル基板は、非常に薄くフレキシブルであるため、高い電磁波シールド性と高密度配線性を有し、複雑な体系にフィットできる利点を有する。また、約200度の高熱の滅菌に耐え、高い防水性を有するため、病院内でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などの感染リスクを回避したまま多数回の利用が可能となる。
【0038】
このフレキシブル基板の一例を
図5に示す。布製測定ベルト10の導電性電極12とは電極パッド面の一部で接触する。電極パッド面はそれぞれフレキシブル基板内に設置された信号線(電極ケーブル)
27を介して測定信号処理回路
30に接続される。通常、フレキシブル基板は伸張しないため、布製測定ベルト(電極内蔵ベルト)が伸張した場合、ベルト内の電極間隔が変化するため、その接続面を位置するように電極パッドが設定される(
図10)。さらに導電性電極12を
図11に示すように綿状とすることで、電極
12と電極パッド
22との接触を安定させることができる。この電極パッド
22と電極ケーブル
27は、片面基板であればパッド面を避けるように設置されるが、両面基板あるいは多層基板を利用すれば、パッド上でも設置できる。このため、基板幅を自由に設定できる。
図9に示すように、フレキシブル基板20の電極ケーブル配線層20Bは、シールド層20Cで囲んで配置され高い電磁波シールドを備える。さらに信号線27を通じて送られる信号をフィードバックしてスクリーンドライブ層20E(
図15)に伝達すれば、理論上は信号線とスクリーンドライブ層との電位差がゼロとなるため、さらに高度の耐雑音性を有する信号伝送が可能となる(
図15)。
図9、
図15中の符号20Dは絶縁層である。
【0039】
加えてフレキシブル基板は、電子回路も内蔵(実装)することが容易である。
図16にその一例を示す。前記測定信号処理回路30から伝送された定電流信号は、フレキシブル基板20内に設置された信号線27を介して導電性布電極12から
生体(体表
)5に伝達される。この結果生じた電圧は、導電性布電極12を介して電極パッド22に伝えられ、フレキシブル基板内に設置された信号線27を介して、測定信号処理回路30に導入される。また測定信号処理回路30(31)の一部あるいは全体は、電極パッド上にも設置ができる(
図17)。これにより、特にアナログ信号の伝送路長を最短にできるため、さらなる高いSN比の実現が可能となる。
【0040】
フレキシブル基板20と導電性布電極12を接続する方法として、次の2つの方法を提案できる。
(a)個々の導電性布電極と電極パッド(コネクタ)を単一ケーブルあるいは同軸ケーブルで接続する方法:
この場合、ケーブル長に余裕を持たせることにより、測定対象の周囲長バリエーションや伸張に対応する(
図18)。導電性布電極12と電極パッド22が一点で固定されるため、電極内蔵ベルト伸張による接点変動の影響を少なくすることができる。
図18において、符号15は導電性布電極12との接点、17は同軸ケーブル、23は電極ケーブルコネクタである。
(b)フレキシブル基板を伸張できる構造とする方法:
通例、フレキシブル基板は伸張しないが、電極パッドを蛇腹構造の電極ケーブル線で接続したり(
図19)、電極パッドを波線構造の電極ケーブル線で接続したり(
図20)、電極パッドを螺旋構造の電極ケーブル線で接続したり(
図21)することでフレキシブル基板20に伸張性を持たせることが可能となる。このような構造とすることにより、上記(a)の場合に比べ、同軸ケーブルが不要となり、よりシンプルな信号伝送構造を形成することが可能となる。さらにこの条件で、
図16、
図17に示すように、測定信号処理回路30(31)を電極パッド上に設置すれば、さらに高いSN比を実現できる。
【0041】
B.上記Aで述べたフレキシブル基板構造に加えて、
b−1.測定対象物の形状を測定する機能、
b−2.測定対象物の長さを測定する機能、
b−3.多数の電極の間隔と体表面との接着状況を測定する機能、
を含めることが可能である。
【0042】
b−1.測定対象物の形状を測定する機能:
フレキシブル基板20の電極パッド
22周辺に、
図22に示すように、ひずみ
確認センサ(ゲージ)
41を内蔵する。
すなわち、前記フレキシブル基板20は、被測定対象である生体5の測定部位のひずみを検出するひずみ確認センサ41を備え、このひずみ確認センサにより生体の測定部位のひずみを検出し、生体の測定部位の周囲形状を推定可能とする。これにより、局所的な曲率測定が可能となるため、各曲率を用いて測定対象物の形状を推定することが可能となる。
図23は、胸郭の各点90A〜90Hで測定された曲率から胸郭形状を推定した結果をP2として示している。ひずみ
確認センサ(ゲージ)は、フレキシブル基板上に接着する形態だけでなく、フレキシブル基板のプリントパターンとして内蔵することが可能であるため、効率的な設置と配線を可能とする。
【0043】
b−2.測定対象物の長さを測定する機能:
図24のようにフレキシブル基板の前方Mと後方側Nに、細かく位置検出用の電極パッドを組み込む(例えば、5mm間隔)。MとNとの間は非接触であるが、M、N間の電極距離が非常に小さい場合は各電極間のインピーダンスを非接触でも測定できる。
図25のように被測定対象(生体)5に測定ベルトを巻いた場合、電極M1と電極N1−N4の組み合わせにおいて、
図25における電極M1と電極N4の組み合わせが最もインピーダンスが小さくなる。電極パッドは厳密な間隔で配置されているため、正確な周囲長を知ることができる。周囲長を測定する場合、導電性ゴムなどを用いる場合が多い。導電性ゴムは経年変化があるためにキャリブレーションを定期的に行うことが必要であるが、本発明では不要である。
かくして、前記フレキシブル基板20は、被測定対象である生体の測定部位の位置を検出する位置確認センサ43を備え、この位置確認センサにより生体の測定部位の位置を検出し、生体の測定部位の周囲長を推定可能とする(図25参照)。【0044】
b−3.多数の電極の間隔と体表面との接着状況を測定する機能:
測定対象物が、新生児、幼児、成人、老人に渡る場合、測定対象周囲長が異なる。これらのバリエーションに対応するためには、多数のベルト長を有する測定ベルトを用意する必要があるが、在庫スペースの確保や在庫コストの増大が問題となる。そこで本発明では、次のような構造を有することでこれらの問題を解決する。
図26に示すように、非常に幅の狭い導電性布電極12を密に設けた導電性布電極群と電極パッド22を備えたベルト構造とする。未知の測定対象物に測定ベルトを巻いた場合、導電性布電極12と体表面が設置する箇所が限定される。この場合、次のように測定に利用する電極パッド群50を定める。まずフレキシブル基板上に均等に設置された電極パッド間の電気インピーダンスを測定する(
図27)。もし電極パッド対(50bと50C)の電気インピーダンスがゼロに近く、電極パッド対(50aと50b,50cと50d,50dと50e)の電気インピーダンスが大きければ、導電性布電極12Aはその場所に位置する。これにより、正確な布電極の配置状況が把握できる。
かくして、前記フレキシブル基板20は、電極位置を検出する電極位置確認センサ45を備え、この電極位置確認センサが電極数と電極の位置を検出し、有効な電極数と電極の位置を推定可能とする(図27参照)。【0045】
さらに電極ベルト長と測定対象の周囲長が異なる場合、そのエリアの電極パッド間の電気インピーダンスは非常に大きくなる。これにより、実際の電気インピーダンス測定に利用できる電極パッドの範囲と導電性布電極の間隔を特定することが可能となる(
図29で導電性布電極12B−12Cの区間が被測定対象に触れていない状態)。さらに、導電性布電極間の電気インピーダンスを測定することにより、皮膚との接着状態を同定することが可能となる(
図29で布電極12A−12B間の電気インピーダンスよりも布電極12G−12H間のそれがはるかに大きい)。
【0046】
本発明に係る布製測定ベルトでは導電性布電極は間隔を均等に配置する。この点、例えば寝たきり患者や人工呼吸器装着患者では、特に背中部分にベルトを通過させる際に皮膚と布電極との摩擦状況によって、必ずしも均等に配置されない場合がある。また、ドレイン間挿入時の固定テープ、開胸時の保護テープ塗布、心電図モニタ用の電極など、正確なインピーダンス測定を妨げる領域が存在する場合がある。このような条件下でも、先に述べた方法を用いることで、体表面と良好な接続状況を有する電極の特定と最適な電極間距離を有する電極ペアを特定することができる。
【0047】
図30〜
図32にその一例を示す。
図30では、布電極12C周辺の体表面に保護テープなどで導電性布電極と皮膚との間で十分な接触状態を保てない場合、均等に配置されうる布電極12B、12D、12F,12H,12J,12L,12N,12Qの8個の電極をEIT画像再構成用に用いる。これにより、電極間隔が均等に保たれるので、back projection法によるEIT画像のリアルタイム表示が可能となる。
【0048】
図31では、電極12I,12J,12Kの広い領域で十分な接触状態が保てない場合を示している。この場合、
図30のように均等な電極配置が保てないので、残りの電極を全て利用してEIT測定に必要なデータを測定する。段落「0044」で述べたように、正確な電極位置を測定することができるので、これらの情報を有限要素モデルに入力することで逆問題を解き、対象となる断層画像の適切な導電率分布を求めることができる。
【0049】
図32では、仮に全ての導電性布電極が測定対象物と良好な接触状態を保てる場合、全ての電極を独立して測定用電極として用いて高い解像度のEIT画像を得ることもできるし、隣り合う複数の電極をアナログスイッチなどで導通させることで擬似的に大きな電極として用いることで、低解像度でも高い時間分解能を有するEIT画像を測定することが可能となる。以上のように、測定対象物と布電極の接触状況や要求されるEIT画像情報に応じて適切な電極配置を作ることが可能となる。
【0050】
電極数と電極間隔が不均等でも、有効な電極数と電極位置情報を知ることができるので、有限要素法(FEM)などで用いるコンピュータモデルにこれらの情報を反映させることで、より正確な断層画像面の導電率分布を推定することが可能となる(
図31)。
【0051】
さらに、小児のように、測定対象周囲長が小さい場合には、
図33に示すように先端から布製測定ベルト(電極ベルト)10とフレキシブル基板20を不使用な箇所だけ切断しても、基本機能を維持できる。
【0052】
(2)配線を伸張性ラミネートフィルム加工などで固定する方法(フレキシブル基板を利用しない場合の接続方法):
複数の同軸ケーブルを、伸縮自在のラミネート紙などで熱圧着する。各同軸ケーブルは、各電極と一点150のみ接続できるようにあらかじめ被覆を剥がしておく(
図34)。これにより、洗濯が可能で、電極間が一定に保たれる薄いベルトができる。フレキシブル基板を使用しない分、低コスト化が図れる。このベルトの信号コネクタを介して測定信号処理回路30に接続してEIT測定する。簡易的なEIT情報を得るのに適している。
【0053】
図35に示すように、布製測定ベルト10は、導電性電極12と非導電性繊維13が一体となった生地として織りこみ必要なベルト幅分だけカットすることにより所望の幅を持った布製測定ベルトが得られるので、低コスト化をはかることができる。