特許第6222577号(P6222577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222577
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20171023BHJP
【FI】
   H01G9/02 331F
   H01G9/02 331G
   H01G9/02 331H
【請求項の数】9
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-4587(P2015-4587)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-76680(P2016-76680A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2015年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2014-205300(P2014-205300)
(32)【優先日】2014年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-217753(P2014-217753)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】小松 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】飯島 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂口 真之
(72)【発明者】
【氏名】野澤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】桜井 美成
【審査官】 田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050913(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/094462(WO,A1)
【文献】 特開2016−072284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、
陰極箔と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを備え、
前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙には、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質と酸化皮膜修復性能を有する液体状の水溶性高分子化合物とが、前記液体状の水溶性高分子化合物が前記固体電解質を取り囲むように導入されており、
前記空隙に占める前記固体電解質の割合は、1vol%〜30vol%の範囲内にあり、前記空隙に占める前記液体状の水溶性高分子化合物の割合は、10vol%〜99vol%の範囲内にあり、
前記液体状の水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコールの混合体であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の固体電解コンデンサにおいて、
前記微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、1nm〜300nmの範囲内にあることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の固体電解コンデンサにおいて、
前記分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコールのうち、分子量が最も大きいポリエチレングリコールの分子量は、分子量が最も小さいポリエチレングリコールの分子量の1.2倍以上であることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解コンデンサにおいて、
前記液体状の水溶性高分子化合物に対する、前記分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコールのうち分子量が最も大きいポリエチレングリコールの割合は、20vol%〜80vol%の範囲内にあることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の固体電解コンデンサにおいて、
前記ポリエチレングリコールの分子量は、100〜1000の範囲内にあることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項6】
表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを備えるコンデンサ素子を作製する第1工程と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙に、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質を、前記空隙に占める前記固体電解質の割合が1vol%〜30vol%の範囲内になるように導入する第2工程と、
前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙に、酸化皮膜修復性能を有する液体状の水溶性高分子化合物を、前記固体電解質を取り囲むように、かつ、前記空隙に占める前記液体状の水溶性高分子化合物の割合が10vol%〜99vol%の範囲内になるように導入する第3工程とをこの順序で含み、
前記液体状の水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類以上のポリエチレングリコールの混合体であることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の固体電解コンデンサの製造方法において、
前記微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、1nm〜300nmの範囲内にあることを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の固体電解コンデンサの製造方法において、
前記第2工程においては、真空含浸法又は浸漬含浸法によって、前記固体電解質を溶媒に分散させた固体電解質分散溶液を前記空隙に充填した後、前記空隙から前記溶媒を除去することにより、前記空隙に前記固体電解質を導入することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の固体電解コンデンサの製造方法において、
前記第3工程においては、真空含浸法又は浸漬含浸法によって、前記空隙に前記液体状の水溶性高分子化合物を充填することにより、前記空隙に前記液体状の水溶性高分子化合物を導入することを特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、陽極箔と陰極箔との間の空隙に、「導電性高分子化合物を含む導電性微粒子及び水溶性高分子化合物(親水性高分子化合物)」を含む固体電解質が充填(導入)されてなる固体電解コンデンサが知られている(例えば、特許文献1参照。)。従来の固体電解コンデンサにおいては、水溶性高分子化合物は、酸化皮膜修復性能を有する。そして、従来の固体電解コンデンサにおいては、そのような水溶性高分子化合物として、固体状又は粘性体状の水溶性高分子化合物を用いている(特許文献1の図7参照。)。
【0003】
なお、本明細書において、「空隙」には、陽極箔とセパレータとの間及び陰極箔とセパレータとの間の空隙のみならず、セパレータ内における繊維間の空隙が含まれる。また、「空隙」には、エッチング処理による粗面化で陽極箔又は陰極箔の表面に形成されたエッチングピット(凹部)における空隙も含まれる。
【0004】
従来の固体電解コンデンサによれば、陽極箔と陰極箔との間の空隙に水溶性高分子化合物を含む固体電解質が導入されているため、固体電解コンデンサを作製する過程で酸化皮膜に欠損が生じたとしても、水溶性高分子化合物の保持する水分を上記欠損箇所の修復に使用することが可能となり、耐圧が高く、かつ、漏れ電流が低い固体電解コンデンサとなる。
【0005】
また、従来の固体電解コンデンサによれば、陽極箔と陰極箔との間の空隙に水溶性高分子化合物を含む固体電解質が導入されているため、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、水溶性高分子化合物の保持する水分を上記欠損箇所の修復に使用することが可能となり、寿命が長い固体電解コンデンサとなる。
【0006】
また、従来の固体電解コンデンサによれば、固体電解質に含まれる水溶性高分子化合物の水分含有量が変化し難くなるため(すなわち水溶性高分子化合物の水分保持能力が高くなるため)、固体電解コンデンサを長時間使用した場合であっても水分が飛散し難くなる。また、温度変化による水溶性高分子化合物の形態変化が起こり難くなるため、常温(固体電解コンデンサの不使用時)と高温(固体電解コンデンサの使用時)との昇降温サイクルを多数回繰り返しても酸化皮膜が劣化し難くなる。その結果、固体電解コンデンサを過酷な条件で長時間使用した場合であっても、長時間にわたって水分を保持することが可能となるとともに、また、長時間にわたって水溶性高分子化合物の形態変化を抑制することが可能となるため、寿命の長い固体電解コンデンサとなる。
【0007】
その結果、従来の固体電解コンデンサは、耐圧が高く、かつ、漏れ電流が低く、かつ、寿命が長い固体電解コンデンサとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2014/050913号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、コンデンサの技術分野においては、従来よりも、長寿命特性、高耐圧特性、低抵抗特性及び低温特性のうちの少なくとも一つの特性に優れたコンデンサが常に求められており、固体電解コンデンサの技術分野においても例外ではない。
【0010】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、従来よりも、長寿命特性、高耐圧特性、低抵抗特性及び低温特性のうちの少なくとも一つの特性に優れた固体電解コンデンサを提供することを目的とする。また、そのような固体電解コンデンサを製造するための固体電解コンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、上記目的を達成するために鋭意努力を重ねた結果、固体電解質に含まれる固体状又は粘性体状の水溶性高分子化合物(図2(b)参照。水溶性高分子化合物27)に代えて、液体状の水溶性高分子化合物(図2(a)参照。水溶性高分子化合物28)を使用することとすれば、固体電解コンデンサの酸化皮膜に欠損が生じたとしても、当該欠損箇所を従来よりも効率よく修復させることが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下に記載する固体電解コンデンサ及び固体電解コンデンサの製造方法からなる。
【0012】
[1]本発明の固体電解コンデンサは、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを備え、前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙には、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質と液体状の水溶性高分子化合物とが、前記液体状の水溶性高分子化合物が前記固体電解質を取り囲むように導入されており、前記空隙に占める前記固体電解質の割合は、1vol%〜30vol%の範囲内にあり、前記空隙に占める前記液体状の水溶性高分子化合物の割合は、10vol%〜99vol%の範囲内にあることを特徴とする。
【0013】
本発明の固体電解コンデンサによれば、陽極箔と陰極箔との間の空隙には、液体状の水溶性高分子化合物が導入されていることから、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、当該欠損箇所と液体状の水溶性高分子化合物とが従来よりも接触し易くなるため、当該欠損箇所が従来よりも効率よく修復されることとなる。その結果、本発明の固体電解コンデンサは、従来よりも長時間にわたり正常な誘電体皮膜を維持することができ、従来よりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0014】
また、本発明の固体電解コンデンサによれば、陽極箔と陰極箔との間の空隙には、液体状の水溶性高分子化合物が固体電解質を取り囲むように導入されていることから、固体電解質から遊離することがある(強酸の)ドーパント又はその一部がセパレータの繊維に接触することが阻害され、ドーパントによるセパレータの劣化反応を抑制することができる。その結果、本発明の固体電解コンデンサは、この観点からも、従来よりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0015】
空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合を10vol%〜99vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合が10vol%よりも小さい場合には、酸化皮膜の欠損箇所と液体状の水溶性高分子化合物とが接触し難くなるため、当該欠損箇所が効率よく修復されなくなる場合があるからである。一方、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合が99%よりも大きい場合には、当該空隙に占める固体電解質の割合が小さくなり、コンデンサの抵抗成分の等価直列抵抗(ESR)が大きくなる場合があるからである。このような観点から言えば、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合は、20vol%以上であることがより好ましく、30vol%以上であることがより一層好ましい。また、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合は、96vol%以下であることがより好ましく、90vol%以下であることがより一層好ましい。
【0016】
空隙に占める固体電解質の割合を1vol%〜30vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、空隙に占める固体電解質の割合が1vol%よりも小さい場合には、コンデンサの抵抗成分の等価直列抵抗(ESR)が大きくなるからである。一方、空隙に占める固体電解質の割合が30vol%よりも大きい場合には、固体電解コンデンサを作製する過程において、当該空隙が固体電解質で目詰まりを起こし易く製造し難くなるからである。このような観点から言えば、空隙に占める固体電解質の割合は、1.5vol%以上であることがより好ましく、2vol%以上であることがより一層好ましい。また、空隙に占める固体電解質の割合は、25vol%以下であることがより好ましく、20vol%以下であることがより一層好ましい。
【0017】
また、本発明の固体電解コンデンサによれば、一般的な溶媒ではなく水溶性高分子化合物を用いるため、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し難くなる。このため、本発明の固体電解コンデンサは、長時間にわたり酸化皮膜の修復作用が維持される固体電解コンデンサとなる。
【0018】
[2]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、1nm〜300nmの範囲内にあることが好ましい。
【0019】
微粒子状の固体電解質の平均粒子径を1nm〜300nmの範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、微粒子状の固体電解質の平均粒子径が1nmよりも小さい場合には、微粒子状の固体電解質を作製するのが困難となる場合があるからである。一方、微粒子状の固体電解質の平均粒子径が300nmよりも大きい場合には、陽極箔表面のエッチングピット(凹部)に微粒子状の固体電解質を導入するのが困難となる場合があるからである。このような観点から言えば、微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、2nm以上であることがより好ましく、3nm以上であることがより一層好ましい。また、微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがより一層好ましい。
【0020】
[3]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記液体状の水溶性高分子化合物は、酸化皮膜修復性能を有することが好ましい。
【0021】
このような構成とすることにより、従来の固体電解コンデンサの場合と同様に、耐圧が高く、かつ、漏れ電流が低く、かつ、寿命が長い固体電解コンデンサとなる。
【0022】
[4]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記液体状の水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体であることが好ましい。
【0023】
ところで、固体電解コンデンサに水溶性高分子化合物を含有させる場合、低温における等価直列抵抗(ESR)を低くするという観点からは、分子量の小さい水溶性高分子化合物を用いるのが好ましい。分子量の大きい高分子は10℃以下の低温で凝固が始まるため、その時、固体電解質のネットワークを破壊して固体電解コンデンサのESRの増大を引き起こすからである。これに対して分子量の小さい水溶性高分子化合物は分子量の大きい水溶性高分子化合物よりも凝固点が低いことから、分子量の小さい水溶性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサを低温状態においたときに液体状の水溶性高分子化合物が凝固しにくくなり、微粒子状の固体電解質で構成される固体電解質同士のネットワークが破壊されにくくなる。従って、等価直列抵抗(ESR)が高くなることを抑制でき、もって低温特性に優れた固体電解コンデンサとなるからである。
【0024】
しかしながら、分子量の小さい水溶性高分子化合物は、封口部材を透過しやすい特徴があるため、単独でこれを用いたのでは、液体状の水溶性高分子化合物を長期にわたり保持しにくくなる場合がある。これを考慮して、本発明においては、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物を用いることとした。これにより、分子量の小さい水溶性高分子化合物と、当該分子量の小さい水溶性高分子化合物よりも分子量の大きい水溶性高分子化合物とを混合して用いることにより、低温時の凝固ストレスを緩和することで低温における等価直列抵抗(ESR)を低くできる効果と水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し難くなるという効果が両立可能となり、その結果、本発明の固体電解コンデンサは、低温特性が良好で、かつ、寿命の長い固体電解コンデンサとなる。
【0025】
[5]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物のうち、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量は、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍以上であることが好ましい。
【0026】
このような構成とすることにより、本発明の固体電解コンデンサは、低温特性がより一層良好な固体電解コンデンサとなる。なお、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量を、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍以上としたのは以下の理由による。すなわち、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量が、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍よりも小さい場合には、各水溶性高分子化合物の凝固点が非常に狭い温度範囲に集中することから、水溶性高分子化合物が封口部材を透過しやすくなり、低温における等価直列抵抗を低くできる効果と水溶性高分子化合物が封口部材を透過することを抑制する効果とを両立可能としにくいからである。
【0027】
[6]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記液体状の水溶性高分子化合物に対する、前記分子量の異なる2種類以上の高分子化合物のうち分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の割合は、20vol%〜80vol%の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
液体状の水溶性高分子化合物に対する、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物のうち分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の割合を20vol%〜80vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、当該割合が20vol%よりも小さい場合には、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の割合が多くなり過ぎて、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、当該割合が80vol%よりも大きい場合には、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物が多くなり過ぎて、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0029】
[7]本発明の固体電解コンデンサにおいては、水溶性高分子化合物は、ポリアルキレンオキサイド、水溶性シリコーン若しくは分岐ポリエーテル又はこれらの誘導体であることが好ましい。
【0030】
上記した水溶性高分子化合物はいずれも酸素原子を多く有し高い酸化力を有するため、上記のように構成することにより、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、上記した水溶性高分子化合物が有する高い酸化力を上記欠損箇所の修復に使用することが可能となる結果、本発明の固体電解コンデンサはより一層長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0031】
[8]本発明の固体電解コンデンサにおいては、前記水溶性高分子化合物がポリアルキレンオキサイドの場合には、前記水溶性高分子化合物の分子量は、100〜1000の範囲内にあり、前記水溶性高分子化合物が、水溶性シリコーン、分岐ポリエーテル、ポリアルキレンオキサイドの誘導体、水溶性シリコーンの誘導体又は分岐ポリエーテルの誘導体の場合には、前記水溶性高分子化合物の分子量は、200〜3000の範囲内にあることが好ましい。
【0032】
水溶性高分子化合物がポリアルキレンオキサイドの場合に、水溶性高分子化合物の分子量を100〜1000の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、水溶性高分子化合物の分子量が100よりも小さい場合には、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、水溶性高分子化合物の分子量が1000よりも大きい場合には、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0033】
水溶性高分子化合物が水溶性シリコーン、分岐ポリエーテル、ポリアルキレンオキサイドの誘導体、水溶性シリコーンの誘導体又は分岐ポリエーテルの誘導体の場合に、水溶性高分子化合物の分子量を200〜3000の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、水溶性高分子化合物の分子量が200よりも小さい場合には、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、水溶性高分子化合物の分子量が3000よりも大きい場合には、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0034】
[9]本発明の固体電解コンデンサの製造方法は、表面に酸化皮膜が形成された陽極箔と、陰極箔と、前記陽極箔と前記陰極箔との間に配設されたセパレータとを備えるコンデンサ素子を作製する第1工程と、前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙に、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質を、前記空隙に占める前記固体電解質の割合が1vol%〜30vol%の範囲内になるように導入する第2工程と、前記陽極箔と前記陰極箔との間の空隙に、液体状の水溶性高分子化合物を、前記固体電解質を取り囲むように、かつ、前記空隙に占める前記液体状の水溶性高分子化合物の割合が10vol%〜99vol%の範囲内になるように導入する第3工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0035】
本発明の固体電解コンデンサの製造方法によれば、上記した優れた特徴を有する本発明の固体電解コンデンサを製造することができる。
【0036】
[10]本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、前記微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、1nm〜300nmの範囲内にあることが好ましい。
【0037】
微粒子状の固体電解質の平均粒子径を1nm〜300nmの範囲内とした理由は上記したとおりである。
【0038】
[11]本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、前記第2工程においては、真空含浸法又は浸漬含浸法によって、前記固体電解質を溶媒に分散させた固体電解質分散溶液を前記空隙に充填した後、前記空隙から前記溶媒を除去することにより、前記空隙に前記固体電解質を導入することが好ましい。
【0039】
このような方法とすることにより、陽極箔と陰極箔との間の極めて狭い空隙に所定量の固体電解質を容易に導入することができる。
【0040】
[12]本発明の固体電解コンデンサの製造方法においては、前記第3工程においては、真空含浸法又は浸漬含浸法によって、前記空隙に前記液体状の水溶性高分子化合物を充填することにより導入することが好ましい。
【0041】
このような方法とすることにより、陽極箔と陰極箔との間の極めて狭い空隙に所定量の液体状の水溶性高分子化合物を容易に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】実施形態1に係る固体電解コンデンサ1を説明するために示す図である。
図2】実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の要部を説明するために示す図である。
図3】実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図4】実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示す図である。
図5】実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示す図である。
図6】実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示す図である。
図7】試験例に用いた各試料の諸元及び試験例の評価結果を示す図表である。
図8】試験例1の結果を示すグラフである。
図9】試験例2の結果を示すグラフである。
図10】試験例3の結果を示すグラフである。
図11】試験例4の結果を示すグラフである。
図12】試験例5(評価方法1)の結果を示すグラフである。
図13】試験例5(評価方法2)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の固体電解コンデンサ及びその製造方法について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0044】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の構成
図1は、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1を説明するために示す図である。図1(a)は実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の断面図であり、図1(b)はコンデンサ素子20の斜視図である。
図2は、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の要部を説明するために示す図である。図2(a)は固体電解コンデンサ1の要部断面図であり、図2(b)は比較例に係る、従来の固体電解コンデンサ900の要部断面図である。
【0045】
実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は、巻回型の固体電解コンデンサであって、図1に示すように、有底筒状の金属ケース10と、コンデンサ素子20と、封口部材40とを備える。
【0046】
金属ケース10の底面部は、ほぼ円形形状をしており、中心付近に弁(図示せず。)が設けられている。このため、内圧が上昇した際に、当該弁が割れて内圧を外部に逃がすことができる構造となっている。金属ケース10の側面部は、底面部の外縁からほぼ垂直な方向に立設されている。金属ケース10の開口部は、封口部材40によって封口され、封口部材40に設けられた貫通穴を通してコンデンサ素子20の2つのリード29,30が外部に引き出されている。
【0047】
コンデンサ素子20は、金属ケース10の内部に収納され、図1(b)及び図2(a)に示すように、陽極箔21と、陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備え、セパレータ25を介して陽極箔21と陰極箔23とが重ね合わせて巻回されている。
【0048】
陽極箔21は、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されている。陽極箔21の表面は、エッチング処理により粗面化された後、化成処理によって酸化皮膜22が形成されている(図2(a)参照。)。陰極箔23も、陽極箔21と同様に、アルミニウム、タンタル、ニオブなどの弁金属から形成されている。陰極箔23の表面は、陽極箔21と同様にエッチング処理により粗面化された後、自然酸化によって酸化皮膜24が形成されている。陽極箔21及び陰極箔23は、それぞれリード29,30と電気的に接続されている。
【0049】
セパレータ25の幅は、陽極箔21及び陰極箔23の巻回幅よりも大きく、セパレータ25は、陽極箔21及び陰極箔23を挟み込むように重ね合わされている。セパレータ25としては、導電性高分子粒子や水溶性高分子と化学的に馴染み易いセルロース繊維や耐熱性に優れたナイロン、PET,PPSのような合成樹脂で形成されたものが好ましく、例えば、耐熱性セルロース紙や耐熱性難燃紙を用いることができる。
【0050】
このように構成された実施形態1に係る固体電解コンデンサ1においては、従来の固体電解コンデンサの場合のように、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、固体状又は粘性体状の水溶性高分子化合物27が充填(導入)されているのではなく(図2(b)参照。)、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙には、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質26と、液体状の水溶性高分子化合物28とが、液体状の水溶性高分子化合物28が固体電解質26を取り囲むように導入されている(図2(a)参照。)。
【0051】
空隙に占める固体電解質26の割合は1vol%〜30vol%の範囲内にあり、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物28の割合は10vol%〜99vol%の範囲内にある。また、微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、1nm〜300nmの範囲内(例えば20nm)にある。
【0052】
導電性高分子化合物は、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリチオフェン、ポリピロール又はポリアリニンからなるものである。
【0053】
固体電解質26は、ポリスチレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸又はナフタレンスルホン酸からなるドーパントをさらに含むものであってもよい。
【0054】
水溶性高分子化合物は、ポリアルキレンオキサイド、水溶性シリコーン若しくは分岐ポリエーテル又はこれらの誘導体であり、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)である。水溶性高分子化合物の分子量は、100〜1000の範囲内にあり、例えば300である。
【0055】
封口部材40は、内部から外部への水溶性高分子材料の飛散を防止するとともに外部から内部への異物(例えば、水分、塩素、微粉など。)の侵入を防止するために高気密性を有し、金属ケース10やリード29,30との密着性を担保するために適度な弾力性を有し、さらには、これらの気密性や弾力性に関する性能を高温状態や低温状態においても維持可能な材料を選択することが好ましい。そのような材料として、例えば、エチレン・プロピレン・ターポリマー(EPT)、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)、EPT−IIRブレンドゴム、シリコーンゴムなどのゴム材料や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂とゴムとを貼り合わせたゴム複合材料を好適に用いることができる。なかでも、気密性に優れたイソブチレン・イソプレンゴム(IIR)を特に好適に用いることができる。
【0056】
2.実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法
実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は、以下のような方法により製造することができる。
図3は、実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示すフローチャートである。
図4図6は、実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法を説明するために示す図である。このうち、図4は固体電解質導入工程を説明するために示す図であり、図5は液体状の水溶性高分子化合物導入工程を説明するために示す図であり、図6は組立・封止工程を説明するために示す図である。図4(a)〜図4(d)、図5(a)〜図5(c)及び図6(a)〜図6(c)は各工程図である。
【0057】
実施形態1における固体電解コンデンサの製造方法は、図3に示すように、コンデンサ素子作製工程(第1工程)と、化成処理工程と、固体電解質導入工程(第2工程)と、液体状の水溶性高分子化合物導入工程(第3工程)と組立・封止工程とをこの順序で含む。以下、各工程に沿って実施形態1における半導体装置の製造方法を説明する。
【0058】
(1)コンデンサ素子作製工程(第1工程)
まず、拡面化処理により粗面化されたアルミニウム箔の表面に2〜400Vの所定の電圧を印加して化成処理を施すことにより酸化皮膜22が形成された陽極箔21と、陰極箔23と、陽極箔21と陰極箔23との間に配設されたセパレータ25とを備えるコンデンサ素子を作製する(図1(b)参照。)。具体的には、セパレータ25を介して、凹凸表面を有し当該凹凸表面に酸化皮膜22が形成された陽極箔21と凹凸表面を有する陰極箔23とを重ね合わせて巻回することによりコンデンサ素子20を作製する。このとき、陽極箔21にはリード29が接続され、陰極箔23にはリード30が接続されている。
【0059】
(2)化成処理工程
次に、コンデンサ素子20を化成液槽(図示は省略。)中の化成液(例えば、アジピン酸アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、グルタル酸アンモニウム、アゼライン酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム、セバシン酸アンモニウム、ピメリン酸アンモニウム、スベリン酸アンモニウムなどの水溶液)に浸漬するとともに、陽極側のリード29と化成液との間に所定の電圧(例えば100V)を5分間印加して陽極箔21の端部に存在する酸化皮膜欠損部及び表面に存在することがある酸化皮膜欠損部を修復する(図示は省略。)。
【0060】
(3)固体電解質導入工程(第2工程)
次に、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、導電性高分子化合物からなる微粒子状の固体電解質26を、空隙に占める固体電解質26の割合が2vol%〜30vol%の範囲内になるように導入する。固体電解質導入工程においては、固体電解質26を溶媒に分散させた固体電解質分散溶液を空隙に充填した後、空隙から溶媒を除去することにより、空隙に固体電解質26を導入する。
【0061】
具体的には、固体電解質導入工程は、以下のように行う。すなわち、図4に示すように、固体電解質26を溶媒に分散させた固体電解質分散溶液62を固体電解質導入槽60中に満たした後(図4(a)参照。)、浸漬含浸法によって、コンデンサ素子20を固体電解質分散溶液62(ポリマー濃度は2vol%)に浸漬する(図4(b)参照。)。次に、コンデンサ素子20を固体電解質分散溶液62から取り出し(図4(c)参照。)、その後、コンデンサ素子20を加熱処理する(図4(d)参照。)。これを2回繰り返し、空隙に占める固体電解質の割合を4vol%とする。なお、固体電解質分散溶液は、懸濁状態にあるモノマー(例えばEDOTモノマー)を重合(ラジカル重合又は酸化重合)させることにより、ドーパントや乳化剤が添加された導電性高分子化合物(例えばPEDOTポリマー)からなる微粒子状の固体電解質を作製し、当該微粒子状の固体電解質を所定の溶媒に分散させることにより作製することができる。微粒子状の固体電解質の平均粒子径は、重合反応条件(例えば、開始剤、モノマー、重合補助剤などの濃度、反応温度、反応溶液の攪拌条件など)を適宜設定することによって調整することができる。また、公知の粉砕処理(例えば、攪拌粉砕処理、振動粉砕処理など)を施すことによって調整することもできる。微粒子状の固体電解質は、分取濾過処理を行って粒子径を均一化することもできる。
【0062】
なお、空隙に占める固体電解質の割合を4vol%よりも大きくするには、「コンデンサ素子20を固体電解質分散溶液62に浸漬し、次に、コンデンサ素子20を固体電解質分散溶液62から取り出し、その後、コンデンサ素子20を加熱処理する」という工程をさらに何度か繰り返すことにより行う。固体電解質分散溶液62のポリマー濃度を濃くする等適宜の方法により行ってもよい。空隙に占める固体電解質の割合を2vol%にするには、当該工程を1度だけ行う。また、空隙に占める固体電解質の割合を2vol%よりも小さくするには、固体電解質分散溶液62のポリマー濃度を薄くする等適宜の方法により行う。
【0063】
固体電解質の導入量(体積)は、各状態(浸漬前、浸漬・乾燥後)におけるコンデンサ素子の重量を測定し、浸漬前と乾燥後における重量差を固体電解質の密度を用いて体積換算することにより算出することができる。従って、浸漬前のコンデンサ素子の空隙(容積)をあらかじめ測定算出しておくことにより、空隙に占める固体電解質の割合を算出することができる。
【0064】
(4)液体状の水溶性高分子化合物導入(第3工程)
次に、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙に、液体状の水溶性高分子化合物28を、固体電解質26を取り囲むように、かつ、空隙に占める水溶性高分子化合物28の割合が10vol%〜99vol%の範囲内になるように導入する。
【0065】
具体的には、水溶性高分子化合物充填工程は、以下のように行う。すなわち、図5に示すように、水溶性高分子化合物からなる液体72を水溶性高分子化合物充填槽70中に満たした後(図5(a)参照。)、浸漬含浸法によって、コンデンサ素子20を水溶性高分子化合物からなる液体72に浸漬する(図5(b)参照。)ことにより、空隙に液体状の水溶性高分子化合物28を充填することにより導入する。次に、コンデンサ素子20を水溶性高分子化合物からなる液体72から取り出し(図5(c)参照。)、過不足分を調整し、液体状の水溶性高分子化合物28の導入量が所定の導入量(重量)になったことを確認する。
【0066】
液体状の水溶性高分子化合物28の導入量(容積)は、各状態(浸漬前、浸漬後)におけるコンデンサ素子の重量を測定し、浸漬前と乾燥後における重量差を液体状の水溶性高分子化合物の密度を用いて容積換算することにより算出することができる。従って、浸漬前のコンデンサ素子の空隙(容積)をあらかじめ測定算出しておくことにより、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物28の割合を算出することができる。
【0067】
(5)組立・封止工程
最後に、封口部材40をコンデンサ素子20に取り付けるとともに(図6(a)参照。)、コンデンサ素子20を金属ケース10に挿入した後(図6(b)参照。)、金属ケース10の開口端近傍で金属ケース10をかしめる(図6(c)参照。)。封口部材40としては、例えば、イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)を用いる。イソブチレン・イソプレンゴム(IIR)に代えて、エチレン・プロピレン・ターポリマー(EPT)、EPT−IIRブレンドゴム、シリコーンゴムなどのゴム材料や、フェノール樹脂(ベークライト)、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などの樹脂とゴムとを貼り合わせたゴム複合材料を用いることもできる。その後、高温雰囲気下で所定の電圧を印加してエイジング工程を実施する。これにより、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1が完成する。
【0068】
3.実施形態1に係る固体電解コンデンサ1及びその製造方法の効果
実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙には、液体状の水溶性高分子化合物28が導入されていることから、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、当該欠損箇所と液体状の水溶性高分子化合物28とが従来よりも接触し易くなるため、当該欠損箇所が従来よりも効率よく修復されることとなる。その結果、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は、従来よりも長時間にわたり正常な誘電体皮膜を維持することができ、従来よりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0069】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、陽極箔21と陰極箔23との間の空隙には、液体状の水溶性高分子化合物28が固体電解質を取り囲むように導入されていることから、固体電解質26から遊離することがある(強酸の)ドーパント又はその一部がセパレータ25の繊維に接触することが阻害され、ドーパントによるセパレータ25の劣化反応を抑制することができる。その結果、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は、この観点からも、従来よりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0070】
空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物28の割合を10vol%〜99vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物28の割合が10vol%よりも小さい場合には、酸化皮膜の欠損箇所と液体状の水溶性高分子化合物28とが接触し難くなるため、当該欠損箇所が効率よく修復されなくなる場合があるからである。一方、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物28の割合が99%よりも大きい場合には、当該空隙に占める固体電解質26の割合が小さくなり、コンデンサの抵抗成分の等価直列抵抗(ESR)が大きくなる場合があるからである。このような観点から言えば、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合は、20vol%以上であることがより好ましく、30vol%以上であることがより一層好ましい。また、空隙に占める液体状の水溶性高分子化合物の割合は、96vol%以下であることがより好ましく、90vol%以下であることがより一層好ましい。
【0071】
空隙に占める固体電解質26の割合を1vol%〜30vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、空隙に占める固体電解質26の割合が1vol%よりも小さい場合には、コンデンサの抵抗成分の等価直列抵抗(ESR)が大きくなる場合があるからである。一方、空隙に占める固体電解質26の割合が30vol%よりも大きい場合には、固体電解コンデンサを作製する過程において、当該空隙が固体電解質26で目詰まりを起こし易く製造し難くなるからである。このような観点から言えば、空隙に占める固体電解質の割合は、1.5vol%以上であることがより好ましく、2vol%以上であることがより一層好ましい。また、空隙に占める固体電解質の割合は、25vol%以下であることがより好ましく、20vol%以下であることがより一層好ましい。
【0072】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、一般的な溶媒ではなく、水溶性高分子化合物を用いるため、水溶性高分子化合物が封口部材40を透過して外部に飛散し難くなる。このため、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は、長時間にわたり酸化皮膜の修復作用が維持される固体電解コンデンサとなる。
【0073】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、微粒子状の固体電解質26の平均粒子径が1nm〜300nmの範囲内にあることから、微粒子状の固体電解質の作製が容易なものとなり、また、陽極箔表面のエッチングピット(凹部)に微粒子状の固体電解質を導入するのも容易なものとなる。
【0074】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、液体状の水溶性高分子化合物28が酸化皮膜修復性能を有するため、従来の固体電解コンデンサの場合と同様に、耐圧が高く、かつ、漏れ電流が低く、かつ、寿命が長い固体電解コンデンサとなる。
【0075】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1によれば、水溶性高分子化合物は、ポリアルキレンオキサイド、水溶性シリコーン若しくは分岐ポリエーテル又はこれらの誘導体であり、上記した水溶性高分子化合物はいずれも酸素原子を多く有し高い酸化力を有するため、上記のように構成することにより、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、上記した水溶性高分子化合物が有する高い酸化力を上記欠損箇所の修復に使用することが可能となる結果、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1は長寿命特性がより一層優れた固体電解コンデンサとなる。
【0076】
水溶性高分子化合物がポリアルキレンオキサイドの場合に、水溶性高分子化合物28の分子量を100〜1000の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、水溶性高分子化合物28の分子量が100よりも小さい場合には、水溶性高分子化合物が封口部材40を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、水溶性高分子化合物28の分子量が1000よりも大きい場合には、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0077】
水溶性高分子化合物28が水溶性シリコーン、分岐ポリエーテル、ポリアルキレンオキサイドの誘導体、水溶性シリコーンの誘導体又は分岐ポリエーテルの誘導体の場合に、水溶性高分子化合物の分子量を200〜3000の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、水溶性高分子化合物の分子量が200よりも小さい場合には、水溶性高分子化合物が封口部材40を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、水溶性高分子化合物の分子量が3000よりも大きい場合には、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0078】
実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法によれば、上記した優れた特徴を有する実施形態1に係る固体電解コンデンサ1を製造することができる。
【0079】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法によれば、第2工程においては、浸漬含浸法によって、固体電解質26を溶媒に分散させた固体電解質分散溶液62を空隙に充填した後、空隙から溶媒を除去することにより、空隙に固体電解質26を導入するため、陽極箔21と陰極箔23との間の極めて狭い空隙に所定量の固体電解質26を容易に導入することができる。
【0080】
また、実施形態1に係る固体電解コンデンサの製造方法によれば、第3工程においては、浸漬含浸法によって、空隙に液体状の水溶性高分子化合物28を充填するため、陽極箔21と陰極箔23との間の極めて狭い空隙に所定量の液体状の水溶性高分子化合物28を容易に導入することができる。
【0081】
[実施形態2]
実施形態2に係る固体電解コンデンサ(図示せず。)は、基本的には実施形態1に係る固体電解コンデンサ1と同様の構成を有するが、液体状の水溶性高分子化合物の構成が実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の場合とは異なる。すなわち、実施形態2に係る固体電解コンデンサにおいて、液体状の水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体である。具体的には、液体状の水溶性高分子化合物は、分子量100のPEGと、分子量が600のPEGとからなる。
【0082】
実施形態2に係る固体電解コンデンサにおいて、分子量の異なる2種類の水溶性高分子化合物(分子量100のPEGと分子量が600のPEG)のうち、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物(分子量600のPEG)の分子量600は、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物(分子量100のPEG)の分子量100の6倍である。液体状の水溶性高分子化合物に対する、分子量600のPEGの割合は、20vol%〜80vol%の範囲内にあり、例えば、50vol%である。
【0083】
このように、実施形態2に係る固体電解コンデンサは、液体状の水溶性高分子化合物の構成が実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の場合とは異なるが、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1の場合と同様に、陽極箔と陰極箔との間の空隙には、液体状の水溶性高分子化合物が充填されていることから、固体電解コンデンサを長時間使用した場合に酸化皮膜に欠損が生じたとしても、当該欠損箇所と液体状の水溶性高分子化合物とが従来よりも接触し易くなるため、当該欠損箇所が従来よりも効率よく修復されることとなる。その結果、実施形態2に係る固体電解コンデンサは、従来よりも長時間にわたり正常な誘電体皮膜を維持することができ、従来よりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサとなる。
【0084】
また、実施形態2に係る固体電解コンデンサによれば、液体状の水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体であることから、等価直列抵抗を低くできる効果と水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し難くなるという効果が両立可能となり、その結果、実施形態2に係る固体電解コンデンサは、低温特性が良好で、かつ、寿命の長い固体電解コンデンサとなる。
【0085】
また、実施形態2に係る固体電解コンデンサによれば、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物のうち、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量は、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍以上であるため、実施形態2に係る固体電解コンデンサは、低温特性がより一層良好な固体電解コンデンサとなる。なお、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量を、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍以上としたのは以下の理由による。すなわち、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の分子量が、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の分子量の1.2倍よりも小さい場合には、各水溶性高分子化合物の凝固点が非常に狭い温度範囲に集中することから、水溶性高分子化合物が封口部材を透過しやすくなり、低温における等価直列抵抗を低くできる効果と水溶性高分子化合物が封口部材を透過することを抑制する効果とを両立可能としにくいからである。
【0086】
液体状の水溶性高分子化合物に対する、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物のうち分子量が最も大きい水溶性高分子化合物の割合を20vol%〜80vol%の範囲内としたのは以下の理由による。すなわち、当該割合が20vol%よりも小さい場合には、分子量が最も小さい水溶性高分子化合物の割合が多くなり過ぎて、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し易くなるからである。一方、当該割合が80vol%よりも大きい場合には、分子量が最も大きい水溶性高分子化合物が多くなり過ぎて、低温における等価直列抵抗を低くできる効果が小さくなるからである。
【0087】
なお、実施形態2に係る固体電解コンデンサは、液体状の水溶性高分子化合物の構成以外の点においては実施形態1に係る固体電解コンデンサ1と同様の構成を有するため、実施形態1に係る固体電解コンデンサ1が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0088】
[試験例]
以下の試験例1〜5は、「本発明の固体電解コンデンサが、長寿命特性、等価直列抵抗(ESR)特性及び低温特性に優れた固体電解コンデンサである」ことを示す試験例である。
【0089】
図7は、試験例に用いた各試料の諸元及び試験例の評価結果を示す図表である。図7(a)は試験例1に用いた試料の諸元の及び試験例1の評価結果を示す図表であり、図7(b)は試験例2に用いた試料の諸元の及び試験例2の評価結果を示す図表であり、図7(c)は試験例3に用いた試料の諸元の及び試験例3の評価結果を示す図表であり、図7(d)は試験例4に用いた試料の諸元の及び試験例4の評価結果を示す図表である。
【0090】
<試験例1>
試験例1は、等価直列抵抗(ESR)の観点から、本発明の固体電解コンデンサが、比較例の固体電解コンデンサよりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることを確認するための試験例である。
【0091】
1.試料の調製
(1)試料1(実施例)
実施形態1に係る固体電解コンデンサ1と同様の固体電解コンデンサを作製し、試料1とした。但し、導電性高分子化合物として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を用いた。また、固体電解質として、ポリスチレンスルホン酸からなるドーパントをさらに含むものを用いた。また、液体状の水溶性高分子化合物として、分子量が300のポリエチレングリコール(PEG300)を用いた。
(2)試料2(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、PEG300の代わりに、溶媒(γ―ブチロラクトン)が導入されている点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ固体電解コンデンサを作製し、試料2(比較例)とした。
(3)試料3(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、PEG300の代わりに、γ―ブチロラクトンを溶媒とする電解液が導入されている点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ固体電解コンデンサを作製し、試料3(比較例)とした。
(4)試料4(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、PEG300の代わりに、溶媒(エチレングリコール)が導入されている点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ固体電解コンデンサを作製し、試料4(比較例)とした。
(5)試料5(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、PEG300の代わりに、エチレングリコールを溶媒とする電解液が導入されている点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ固体電解コンデンサを作製し、試料5(比較例)とした。
【0092】
2.評価方法
各試料(試料1〜5)をそれぞれ25℃の恒温恒湿槽の中に載置し、各試料に所定の交流電圧(100kHz)を印加して等価直列抵抗(ESR)を測定した。測定は、500時間ごとに4000時間行った。その結果、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の1.5倍以下である場合に「○」の評価を与え、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の1.5倍よりも大きく、かつ、5倍以下である場合に「△」の評価を与え、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の5倍よりも大きい場合に「×」の評価を与えた。
【0093】
3.評価結果
図8は、試験例1の結果を示すグラフである。
図8のグラフからも分かるように、試料1(実施例)においては、測定開始から4000時間経過してもESRが初期値からほとんど変化せず、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の1.5倍以下であったため、「○」の評価を与えた(図7(a)参照。)。
【0094】
試料2(比較例)及び試料3(比較例)においては、測定開始から約3000時間経過後からESRがいずれも増加をはじめ、測定開始から4000時間経過後にはESRがいずれも約12mΩに達し、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の1.5倍よりも大きく、かつ、5倍以下となったために「△」の評価を与えた(図7(a)参照。)。
【0095】
試料4(比較例)においては、測定開始から約1500時間経過した後からESRが増加をはじめ、測定開始から3000時間経過後にはESRが約15mΩに達し、さらに増加し続けているため、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の5倍よりも大きいと考えられることから「×」の評価を与えた(図7(a)参照。)。
試料5(比較例)においては、測定開始からESRが増加をはじめ、測定開始から1000時間経過後にはESRが約19mΩに達し、さらに増加し続けているため、測定開始から4000時間経過したときのESRが初期値の5倍よりも大きいと考えられることから「×」の評価を与えた(図7(a)参照。)。
【0096】
このことから、本発明の固体電解コンデンサ(試料1に係る固体電解コンデンサ)は、等価直列抵抗(ESR)の観点から、長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。
【0097】
<試験例2>
試験例2は、重量変化の観点から、本発明の固体電解コンデンサが、比較例の固体電解コンデンサよりも長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることを確認するための試験例である。
1.試料の調製
試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料6(実施例)とした。また、試料2〜5に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料7〜10(比較例)とした。
【0098】
2.評価方法
各試料(試料6〜10)をそれぞれ25℃の恒温恒湿槽の中に載置し、その後、これらを室内放置したときの重量を測定した。重量の測定は電子天秤を用いて500時間ごとに4000時間行った。その結果、測定開始から4000時間経過したときの初期値からの重量変化が100mg以下の場合に「○」の評価を与え、当該重量変化が100mgよりも大きい場合に「×」の評価を与えた。
【0099】
3.評価結果
図9は、試験例2の結果を示すグラフである。
図9のグラフからも分かるように、試料7(比較例)においては、当該重量変化が約140mgであり、試料8(比較例)においては、当該重量変化が約130mgであった。従って、当該重量変化がともに100mgを超えたため、ともに「×」の評価を与えた(図7(b)参照。)。
【0100】
これに対して、試料6(実施例)においては、当該重量変化が約25mgであり、試料9(比較例)においては、当該重量変化が約50mgであり、試料10(比較例)においては、当該重量変化が約65mgであり、従って、当該重量変化がいずれも100mg以下であったため、いずれも「○」の評価を与えた(図7(b)参照。)。このことは、液体状の水溶性高分子化合物、エチレングリコール及びエチレングリコールを溶媒とした電解液は、封口部材を透過して外部に飛散し難いことを意味している。
【0101】
このことから、試料6,7及び10に係る固体電解コンデンサは、重量変化の観点から、長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。
【0102】
試験例1及び試験例2の結果から、本発明の固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)の観点及び重量変化の観点から、長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。
【0103】
<試験例3>
試験例3は、本発明の固体電解コンデンサが、電解コンデンサと同様に低抵抗特性(等価直列抵抗(ESR)特性)に優れたコンデンサであることを確認するための試験例である。
1.試料の調製
(1)試料11(実施例)
試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料11(実施例)とした。
【0104】
(2)試料12(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、固体電解質が導入されておらず、かつ、PEG300の代わりに電解液が導入されている点以外の構成は試料11に係る固体電解コンデンサと同じコンデンサ(電解コンデンサ)を作製し試料12(比較例)とした。
【0105】
2.評価方法
各試料(試料11及び試料12)をそれぞれ25℃の恒温恒湿槽の中に載置し、各試料に所定の交流電圧を印加して周波数を変化させながらESRを測定した。そして、0.1kHz〜1000kHzの全範囲においてESRが1Ω以下の場合に「○」の評価を与え、0.1kHz〜1000kHzのうちの少なくとも一部の範囲においてESRが1Ωよりも大きい場合に「×」の評価を与えた。
【0106】
3.評価結果
図10は、試験例3の結果を示すグラフである。
図10からも分かるように、試料11(実施例)及び試料12(比較例)の両方について、0.1kHz〜1000kHzの全範囲においてESRが1Ω以下であったため、「○」の評価を与えた(図7(c)参照。)。
このことから、試料11(実施例)に係る固体電解コンデンサは、試料12(比較例)に係るコンデンサ(電解コンデンサ)と同様にESRの低いコンデンサであることが確認できた。
【0107】
従って、本発明の固体電解コンデンサは、電解コンデンサと同様に低抵抗特性(等価直列抵抗(ESR)特性)が良好なコンデンサであることが確認できた。なお、試験例3からは、0.3kHz以上の周波数帯域においては、本発明の固体電解コンデンサが、電解コンデンサよりもより一層低抵抗特性(等価直列抵抗(ESR)特性)に優れたコンデンサであることも確認できた。
【0108】
<試験例4>
試験例4は、本発明の固体電解コンデンサが、比較例に係る固体電解コンデンサよりも低温特性に優れた固体電解コンデンサであることを確認するための試験例である。
1.試料の調製
(1)試料13(実施例)
試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料13(実施例)とした。但し、空隙に占める固体電解質の割合を4vol%とした。空隙に占める固体電解質の割合を4vol%とするには、「コンデンサ素子を固体電解質分散溶液に浸漬し、次に、当該コンデンサ素子を取り出し、その後、コンデンサ素子を加熱処理する」という工程を2回実施する。
(2)試料14(実施例)
試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料14(実施例)とした。但し、空隙に占める固体電解質の割合を2vol%とした。空隙に占める固体電解質の割合を2vol%とするには、上記した工程を1回実施する。
【0109】
(3)試料15(比較例)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に、PEG300を導入する代わりに、電解液を導入する点以外の構成は試料13に係る固体電解コンデンサと同じ固体電解コンデンサ(いわゆるハイブリッドコンデンサ)を作製し、試料15(比較例)とした。
【0110】
2.評価方法
各試料(試料13〜15)をそれぞれ恒温恒湿槽の中に載置し、各試料に所定の交流電圧(10kHz)を印加して温度を変化させながらESRを測定した。その結果、−60℃から0℃までの温度範囲全域でESRが0.3Ω以下の場合(以下、評価基準という。)に「○」の評価を与え、−60℃から0℃までの温度範囲のうちの少なくとも一部でESRが0.3Ωを超えた場合に「×」の評価を与えた。
【0111】
3.評価結果
図11は、試験例4の結果を示すグラフである。
図11のグラフからも分かるように、試料15(比較例)においては、0℃からより低温方向に温度を変化させたときに、ESRが急激に大きくなり、−25℃においてはESRが約0.28Ωに達し、さらに増加し続けている。従って、評価基準を満たしていないと考えられるため「×」の評価を与えた(図7(d)参照。)。
これに対して、試料14(実施例)においては、−60℃から0℃までの温度範囲全域でESRが約0.19Ω〜0.21Ωの範囲内となり、試料13(実施例)においては、−60℃から0℃の温度範囲全域でESRが約0.03Ωとなった。従って、ともに評価基準を満たしているためともに「○」の評価を与えた(図7(d)参照。)。
なお、試料14(実施例)と試料15(比較例)とは高温の温度範囲においては、どちらも3mΩ以下でESRが良好であるが、低温の温度範囲においては、試料15(比較例)のESRは急激に増加するのに対して試料14(実施例)のESRは急激に増加することがない。従って、試料14(実施例)は、試料15(比較例)よりも低温特性が良好であるといえる。
【0112】
上記したことから、本発明の固体電解コンデンサは、比較例の固体電解コンデンサよりも低温特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。このことは以下の理由によると考えられる。すなわち、試料15(比較例)においては、電解液が低温で凝固したために電解液が担っていた電流の流れが阻害されたと考えられるのに対して、試料13及び14(実施例)においては、液体状の水溶性高分子化合物が低温で凝固しなかったために固体電解質同士のネットワークが破壊されにくくなるからであると考えられる。
【0113】
<試験例5>
試験例5は、「実施形態2に係る固体電解コンデンサ(液体状の水溶性高分子化合物が、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体である固体電解コンデンサ)が、低温特性に優れ、かつ、重量変化の観点から長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであること」を確認するための試験例である。
【0114】
1.試料の調製
(1)試料16(PEG100+PEG600)
実施形態2に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料16(PEG100+PEG600)とした。
(2)試料17(PEG100)
液体状の水溶性高分子化合物として分子量が100のPEGを用いた点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料17(PEG100)とした。
(3)試料18(PEG600)
液体状の水溶性高分子化合物として分子量が600のPEGを用いた点以外の構成は試料1に係る固体電解コンデンサと同じ構成を有する固体電解コンデンサを作製し試料18(PEG600)とした。
(4)試料19(固体電解コンデンサ)
陽極箔と陰極箔との間の空隙に微粒子状の固体電解質を導入する代わりに、陽極箔と前記陰極箔との間の空隙に化学酸化重合により形成した層状の導電性高分子の固体電解質を導入すること以外は実施形態1に係る固体電解コンデンサと同様の構成を有するコンデンサを作製し試料19(固体電解コンデンサ)とした。
【0115】
2.評価方法
(1)評価方法1
各試料(試料16〜19)をそれぞれ恒温槽の中に載置し、各試料に所定の交流電圧(100kHz)を印加して温度を変化させながらESRを測定した。そして、横軸に温度をとり、縦軸にESRをとったグラフに、測定したESRをプロットし、得られた曲線の形状及びESRから低温特性を評価した。
【0116】
(2)評価方法2
各試料(試料16〜18)をそれぞれ25℃の恒温恒湿槽の中に載置し、その後、これらを室内放置してから200時間後、500時間後及び730時間後において重量を測定した。重量の測定は電子天秤を用いて行った。
【0117】
3.評価結果
(1)評価結果1(評価方法1による評価結果)
図12は、試験例5(評価方法1)の結果を示すグラフである。
図12のグラフからも分かるように、試料16(PEG100+PEG600)においては、0℃まではESRは穏やかに減少し、0℃で最小値110mΩを示した後、0℃以下ではESRが徐々に増大して−40℃で160mΩとなった。また、試料17(PEG100)においては、0℃まではESRは穏やかに減少し、0℃で最小値110mΩを示した後、0℃以下ではESRが徐々に増大して−40℃で145mΩとなった。また、試料18(PEG600)においては、40℃まではESRは穏やかに減少し、20℃以下でESRは穏やかに増大し、−10℃で最大値350mΩを示した後、−10℃以下ではESRが徐々に減少して−40℃で220mΩとなった。また、試料19(固体電解コンデンサ)においては、20℃まではESRは穏やかに減少し、0℃で最小値110mΩを示した後、0℃以下ではESRの変化がほとんど見られなかった。
【0118】
分子量の大きい高分子は低温で凝固し、その時、固体電解質のネットワークを破壊して固体電解コンデンサのESRの増大を引き起こす。このため、図12のグラフからも分かるように、試料18(PEG600)は低温において試料17(PEG100)や試料19(化学酸化重合による固体電解コンデンサ)よりもESRが大きくなる。しかしながら、驚くべきことに、試料16(PEG100+PEG600)は、分子量の大きい高分子(PEG600)を含む水溶性高分子化合物を用いているにもかかわらず、低温において試料17(PEG100)と同程度のESRを示している。
【0119】
このことから、評価結果1(評価方法1による評価結果)からは、試料16、17及び19に係る固体電解コンデンサは、低温特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。
【0120】
(2)評価結果2(評価方法2による評価結果)
図13は、試験例5(評価方法2)の結果を示すグラフである。
図13のグラフからも分かるように、試料16(PEG100+PEG600)においては、重量変化が約−1.7mgであり、試料17(PEG100)においては、重量変化が約−2.7mgであり、試料18(PEG600)においては、重量変化が約−1.1mgであった。このことは、分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体を用いた固体電解コンデンサ(試料16)は、分子量の大きい水溶性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサ(PEG600)ほどではないが、分子量の小さい水溶性高分子化合物を用いた固体電解コンデンサ(PEG100)よりも、水溶性高分子化合物が封口部材を透過して外部に飛散し難く、重量変化の観点から長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることが分かった。
【0121】
以上、試験例5の結果から、試料16に係る固体電解コンデンサ(本発明の固体電解コンデンサのうち実施形態2に係る固体電解コンデンサ(分子量の異なる2種類以上の水溶性高分子化合物の混合体を用いた固体電解コンデンサ))は、低温特性に優れ、かつ、重量変化の観点から長寿命特性に優れた固体電解コンデンサであることが確認できた。
【0122】
以上、本発明の固体電解コンデンサ及びその製造方法を上記各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0123】
(1)上記した各実施形態においては、水溶性高分子化合物としてPEGを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。PEG以外の水溶性高分子化合物(例えば、水溶性シリコーンや分岐ポリエーテル等)を用いてもよい。
【0124】
(2)上記した実施形態2においては、分子量の異なる2種類の水溶性高分子化合物として、同じ種類(PEG)の水溶性高分子化合物を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。異なる種類(例えば、PEGと水溶性シリコーン、PEGと分岐ポリエーテル、水溶性シリコーンと分岐ポリエーテル等)の水溶性高分子化合物を用いてもよい。
【0125】
(3)上記した実施形態2においては、水溶性高分子化合物は、分子量の異なる2種類の高分子化合物で構成された混合体であるが、本発明はこれに限定されるものではない。水溶性高分子化合物は、分子量の異なる3種類以上の水溶性高分子化合物(例えば、PEGと水溶性シリコーンと分岐ポリエーテルや、分子量100のPEGと分子量600のPEGと水溶性シリコーン等)で構成された混合体であってもよい。
【0126】
(4)上記した各実施形態において、第2工程においては、浸漬含浸法によって、陽極箔と陰極箔との間の空隙に固体電解質を導入したが、本発明はこれに限定されるものではない。真空含浸法によって、陽極箔と陰極箔との間の空隙に固体電解質を導入してもよい。
【0127】
(5)上記した各実施形態において、第3工程においては、浸漬含浸法によって、陽極箔と陰極箔との間の空隙に液体状の水溶性高分子化合物を充填することによって導入したが、本発明はこれに限定されるものではない。真空含浸法によって、陽極箔と陰極箔との間の空隙に液体状の水溶性高分子化合物を充填することによって導入してもよい。
【0128】
(6)上記各実施形態においては、固体電解質として、水溶性高分子化合物を含まない固体電解質を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。固体電解質として、水溶性高分子化合物を含む固体電解質を用いてもよい。
【0129】
(7)上記した試験例1〜4においては、分子量が300のPEG(PEG300)を用いた固体電解コンデンサを用いて本発明の固体電解コンデンサの評価を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。分子量が100〜600のPEG(PEG100〜PEG600)を用いた固体電解コンデンサを用いても同様の評価結果が得られる。
【0130】
(8)上記した各実施形態においては、巻回型の固体電解コンデンサを用いて本発明の固体電解コンデンサを説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、積層型その他の固体電解コンデンサにも適用可能である。
【符号の説明】
【0131】
1…固体電解コンデンサ、10…金属ケース、20…コンデンサ素子、21…陽極箔、22,24…酸化皮膜、23…陰極箔、25…セパレータ、26…固体電解質、27…(固体状又は粘性体状の)水溶性高分子化合物、28…液体状の水溶性高分子化合物、29,30…リード、40…封口部材、60…固体電解質導入槽、62…固体電解質導入溶液、70…液体状の水溶性高分子化合物導入槽、72…水溶性高分子化合物からなる液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13