特許第6222619号(P6222619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱瓦斯化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000072
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000073
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000074
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000075
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000076
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000077
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000078
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000079
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000080
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000081
  • 特許6222619-ポリエーテルジオール及びその製造方法 図000082
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6222619
(24)【登録日】2017年10月13日
(45)【発行日】2017年11月1日
(54)【発明の名称】ポリエーテルジオール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/28 20060101AFI20171023BHJP
   C07C 43/13 20060101ALI20171023BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20171023BHJP
【FI】
   C07C41/28
   C07C43/13 CCSP
   C07C43/13 A
   !C07B61/00 300
【請求項の数】20
【全頁数】51
(21)【出願番号】特願2014-554612(P2014-554612)
(86)(22)【出願日】2013年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2013085211
(87)【国際公開番号】WO2014104341
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-287275(P2012-287275)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】山本 良亮
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03287419(US,A)
【文献】 特開平10−067698(JP,A)
【文献】 特開2004−018464(JP,A)
【文献】 特開平07−025804(JP,A)
【文献】 特開2012−021132(JP,A)
【文献】 BELLO, Antonio et al.,Thermotropic liquid crystal polyesters derived from 4,4'-biphenyldicarboxylic acid and oxyalkylene s,Macromolecular Symposia,1994年,84,297−306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/28
C07C 43/13
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、下記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエーテルジオールを得る、ポリエーテルジオールの製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(式(1)、(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)において、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、前記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよい。)
【請求項2】
前記ポリエーテルジオールは、上記一般式(2)で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエーテルジオールは、上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエーテルジオールを、副生する分子内にネオ骨格を4個以上9個以下有するポリエーテルジオールからなる群より選ばれる1種以上のポリエーテルジオールと共に得る、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一部を自己縮合した後に水素化還元する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記R1と前記R3とが互いに同一の基であり、かつ、前記R2と前記R4とが互いに同一の基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記R1及び前記R2が互いに同一の基であるか、あるいは、前記R3及び前記R4が互いに同一の基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記R1及び前記R2が互いに異なる基であるか、あるいは、前記R3及び前記R4が互いに異なる基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記R1、前記R2、前記R3及び前記R4がこの順に、
メチル基、メチル基、メチル基及びメチル基;
メチル基、メチル基、メチル基及びエチル基;
メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルプロピル基;
メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルブチル基;
メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;
メチル基、メチル基、エチル基及びエチル基;
メチル基、メチル基、エチル基及びノルマルブチル基;
メチル基、メチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基;
メチル基、エチル基、メチル基及びエチル基;
エチル基、エチル基、エチル基及びエチル基;
メチル基、ノルマルプロピル基、メチル基及びノルマルプロピル基;
メチル基、ノルマルブチル基、メチル基及びノルマルブチル基;
メチル基、ノルマルヘキシル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;
エチル基、ノルマルブチル基、エチル基及びノルマルブチル基;又は
ノルマルプロピル基、ノルマルペンチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記R1及び前記R2がどちらもメチル基であるか、あるいは、前記R3及び前記R4がどちらもメチル基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記R1、前記R2、前記R3及び前記R4が全てメチル基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
反応溶媒であるエーテル化合物又は飽和炭化水素化合物を含む系において、上記一般式(1)で表される化合物を水素還元する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記水素化触媒は、パラジウム、白金、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記水素化触媒はジルコニウム化合物又はアパタイト化合物を含む固体触媒である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
下記一般式(A)で表されるポリエーテルジオール。
【化4】
(式(A)において、5及びR6の組とR7及びR8の組との組み合わせが、下記の表に示す(a1)〜(a21)のいずれかである
【化5】
【請求項16】
下記一般式(A)で表されるポリエーテルジオール。
【化6】
(式(A)において、R5及びR6の組とR7及びR8の組との組み合わせが、下記の表に示す(a1)、(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、(a6)、(a10)、(a14)、(a17)、(a19)及び(a21)のいずれかである。
【化7】
【請求項17】
下記一般式(A)で表されるポリエーテルジオール。
【化8】
(式(A)において、R5及びR6の組とR7及びR8の組との組み合わせが、下記の表に示す(a1)〜(a6)のいずれかである。
【化9】
【請求項18】
下記一般式(B1)又は(B2)で表されるポリエーテルジオール。
【化10】
(式(B1)及び(B2)において、R5、R6、R7及びR8は、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、前記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよく、前記R5及び前記R6の少なくとも一方が、前記R7及び前記R8の少なくとも一方とは異なる基である。)
【請求項19】
前記R5及び前記R6が互いに異なる基であるか、あるいは、前記R7及び前記R8が互いに異なる基である、請求項18に記載のポリエーテルジオール。
【請求項20】
前記R5及び前記R6がどちらもメチル基であるか、あるいは、前記R7及び前記R8がどちらもメチル基である、請求項18に記載のポリエーテルジオール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルジオール及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルジオールは様々な用途に広く利用されている化合物である。ポリエーテルジオールとしては、酸化エチレン又は酸化プロピレンを重合したオキシアルキレン鎖の両端に水酸基を持つ化合物が一般的である。また、改質されたポリエーテルジオールとして、2,2−ジアルキル−1,3−プロパンジオールに酸化エチレン又は酸化プロピレンを付加したものも知られている。この改質されたポリエーテルジオールの用途の一例として、特許文献1には農薬組成物、特許文献2にはコンクリート添加剤の組成物、特許文献3には樹脂組成物などが開示されている。
【0003】
従来、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオール骨格(以下、「ネオ骨格」という。)を有する改質されたポリエーテルジオールの製造方法としては、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールに酸化エチレン又は酸化プロピレンを開環付加させる方法がよく知られている。それに対してネオ骨格のみから構成されるポリエーテルジオールの製造方法の開示例は多くない。その一つに非特許文献1に開示されたものがある。非特許文献1には、酸触媒を用いた分子間脱水反応によるポリエーテルジオールの製造方法として、ネオペンチルグリコールからジ−ネオペンチルグリコールを得る方法が開示されている。また、ネオ骨格を有する別のポリエーテルジオールの製造方法としては、非特許文献2に開示されたものがある。非特許文献2には、オキセタン化合物の重合反応によるポリエーテルジオールの製造方法として、3,3−ジメチルオキセタンからジ−ネオペンチルグリコール、トリ−ネオペンチルグリコールを同時に得る方法が開示されている。さらに、ネオ骨格を有する他のポリエーテルジオールの製造方法としては、特許文献4に開示されたものがある。特許文献4には、2,2−ジアルキル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒドを酸触媒によって重合物とした後に還元してポリエーテルジオールを製造する方法として、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒドから3,3’−オキシビス−(2,2−ジメチル−1−プロパノール)(以下で、ジ−ネオペンチルグリコールと称すことがある)を、2−エチル−2−ブチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒドから3,3’−オキシビス−(2−エチル−2−ブチル−1−プロパノール)を得る方法が開示されている。
【0004】
ところで、水酸基を含有するエーテル化合物の製造法として、1,3−ジオキサン構造の環状アセタール化合物を水素化触媒によって還元的に開環させる反応が公知であり、具体的には、下記のような製造方法が開示されている。すなわち、特許文献5には、周期律表IB族金属と酸性担体とからなる触媒を用いて、置換−1,3−ジオキサン化合物に水素添加することにより、3−アルコキシ−プロパン−1−オール化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−19260号公報
【特許文献2】特開2000−219557号公報
【特許文献3】特開平10−7622号公報
【特許文献4】米国特許3287419号明細書
【特許文献5】特許2977782号公報
【特許文献6】特表2004−514014号公報
【特許文献7】特開平07−82193号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bulletin de la Societe Chimiquede France(1967),(8),2755−2763
【非特許文献2】Acta Chemica Scandinavica vol.45(1)p82−91(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の方法では、強酸性触媒を用いて180〜190℃の高い温度域で反応を行う。そのため、この方法では、ポリエーテルジオールの分解や逐次的な副反応が避けられずに反応選択率が低くなるという問題がある。また、非特許文献2に記載の方法では、原料のオキセタン化合物が高価である。さらにオキセタン化合物は高い反応性を有し、副次的な反応が非常に起きやすいためにポリエーテルジオールの反応選択率が低くなるという問題がある。特許文献4に記載の方法では、中間的に製造される重合体の構造が複雑な骨格構造を有している。これを還元してポリエーテルジオールを良好な反応選択率で得ることは難しい。また、該文献には具体的な収量の記載はない。
【0008】
特許文献5では、水素化還元の原料として用いる置換−1,3−ジオキサン化合物として一般式が示されているが、実施例では5,5−ジメチル−2−フェニル−1,3−ジオキサンの例があるのみである。また、ポリエーテルジオールが生成すること、さらに高級なポリエーテルジオールが同時に生成することの記載や示唆は一切認められない。これらの従来公知の文献には、単一のネオ骨格からなるポリエーテルジオールの記載例はあるものの、少なくとも2つ以上のネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールへの言及は認められない。
【0009】
特許文献1〜3に記載の組成物に含まれる改質されたポリエーテルジオールは、分子内にネオ骨格と、エチレングリコール又はプロピレングリコール骨格という、異なる単位を併せ持っている。ネオ骨格が、四級炭素構造により耐候性、耐酸化性などの化学安定性に優れるのに対して、エチレングリコール又はプロピレングリコール骨格は、これらの性質に劣る傾向がある。そのため、例えば特許文献6の段落0050〜0052には、エチレングリコール又はプロピレングリコール骨格に由来するアルコキシ部位が経時的に酸化されて変質すること、そのためにプロポキシル化ネオペンチルグリコール誘導体を用いてポリマーの主鎖を形成した場合には、所定の性能を発揮できないことが指摘されている。このようなアルコキシ部位の化学的な不安定さによる問題を回避するために、ネオ骨格のみからなるポリエーテルジオールが望まれていた。
【0010】
更にネオペンチルグリコール、すなわち2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールを代表とするネオ骨格を有するポリオール及びその誘導体は、一般に室温よりも高い融点を有している。ネオペンチルグリコールの融点は125℃であり、固体状態で保存した場合には使用に先立って融解させないと、他の物質と混ぜる際に十分な混合状態が得られにくい。それを回避するために、ネオペンチルグリコールを130〜150℃の温度で輸送、保存する方法も採用されているが、温度が高いために経時的に変質する問題が知られている。そこで、例えば特許文献7に記載の対処方法などが必要とされている。
【0011】
ところで、化学物質は一般的に非対称性構造である(対称性が悪い)ほど融点、沸点が低くなる傾向を示す(Carnelleyのルール)。ネオペンチルグリコール(融点125℃)から二分子間脱水したポリエーテルジオールであるジ−ネオペンチルグリコールでは、分子内にエーテル結合を有することにより、その融点は85℃まで低下する。さらにエーテル結合が増えたトリ−ネオペンチルグリコールの融点は69℃まで低下する。また、2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールの2位の炭素原子(四級炭素)と結合する2つの置換基を互いに異なる置換基に置き換えても同様の効果が認められる。例えば、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールの融点は57℃である。よって、ネオ骨格のみからなるポリオール化合物の非対称性が高まることによって、融点はより低くなり、上述の不利益を回避又は緩和して、より簡便に利用できると考えられる。
より非対称性な構造の例としては、分子内に1つ又は複数のエーテル結合を有するネオ骨格のみからなるポリエーテルジオールであって、分子を構成するネオ骨格が同一の構造単位ではなく、少なくとも2種以上のネオ骨格からなるもの、あるいは、分子内に複数存在するネオ骨格の少なくとも1つについて、2位の炭素原子(四級炭素)と結合する2つの置換基が互いに異なる置換基で構成されるものなどを挙げることができ、その効率的な製造法が望まれていた。
【0012】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、ポリエーテルジオールを効率良く製造する方法を提供し、また、その製造方法を用いて得られる新規のポリエーテルジオールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ポリエーテルジオールを効率良く製造する方法について鋭意研究を重ねた。その結果、水素化触媒の存在下に特定の環状アセタール化合物を水素化することによりポリエーテルジオールやその混合物を効率良く製造する方法を見いだし本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、下記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエーテルジオールを得る、ポリエーテルジオールの製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(式(1)、(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)において、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、前記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよい。)
[2]前記ポリエーテルジオールは、上記一般式(2)で表される化合物である、上記製造方法。
[3]前記ポリエーテルジオールは、上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、上記製造方法。
[4]前記ポリエーテルジオールを、副生する分子内にネオ骨格を4個以上9個以下有するポリエーテルジオールからなる群より選ばれる1種以上のポリエーテルジオールと共に得る、上記製造方法。
[5]前記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一部を自己縮合した後に水素化還元する、上記製造方法。
[6]前記Rと前記Rとが互いに同一の基であり、かつ、前記Rと前記Rとが互いに同一の基である、上記製造方法。
[7]前記R及び前記Rが互いに同一の基であるか、あるいは、前記R及び前記Rが互いに同一の基である、上記製造方法。
[8]前記R及び前記Rが互いに異なる基であるか、あるいは、前記R及び前記Rが互いに異なる基である、上記製造方法。
[9]前記R、前記R、前記R及び前記Rがこの順に、メチル基、メチル基、メチル基及びメチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びエチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルプロピル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルブチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;メチル基、メチル基、エチル基及びエチル基;メチル基、メチル基、エチル基及びノルマルブチル基;メチル基、メチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基;メチル基、エチル基、メチル基及びエチル基;エチル基、エチル基、エチル基及びエチル基;メチル基、ノルマルプロピル基、メチル基及びノルマルプロピル基;メチル基、ノルマルブチル基、メチル基及びノルマルブチル基;メチル基、ノルマルヘキシル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;エチル基、ノルマルブチル基、エチル基及びノルマルブチル基;又はノルマルプロピル基、ノルマルペンチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基である、上記製造方法。
[10]前記R及び前記Rがどちらもメチル基であるか、あるいは、前記R及び前記Rがどちらもメチル基である、上記製造方法。
[11]前記R、前記R、前記R及び前記Rが全てメチル基である、上記製造方法。
[12]反応溶媒であるエーテル化合物又は飽和炭化水素化合物を含む系において、上記一般式(1)で表される化合物を水素還元する、上記製造方法。
[13]前記水素化触媒は、パラジウム、白金、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒である、上記製造方法。
[14]前記水素化触媒はジルコニウム化合物又はアパタイト化合物を含む固体触媒である、上記製造方法。
[15]下記一般式(A)で表されるポリエーテルジオール。
【化4】
(式(A)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、前記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよく、前記R及び前記Rの少なくとも一方が、前記R及び前記Rの少なくとも一方とは異なる基である。)
[16]前記R及び前記Rが互いに異なる基であるか、あるいは、前記R及び前記Rが互いに異なる基である、上記ポリエーテルジオール。
[17]前記R及び前記Rがどちらもメチル基であるか、あるいは、前記R及び前記Rがどちらもメチル基である、上記ポリエーテルジオール。
[18]下記一般式(B1)又は(B2)で表されるポリエーテルジオール。
【化5】
(式(B1)及び(B2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、前記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよく、前記R及び前記Rの少なくとも一方が、前記R及び前記Rの少なくとも一方とは異なる基である。)
[19]前記R及び前記Rが互いに異なる基であるか、あるいは、前記R及び前記Rが互いに異なる基である、上記ポリエーテルジオール。
[20]前記R及び前記Rがどちらもメチル基であるか、あるいは、前記R及び前記Rがどちらもメチル基である、上記ポリエーテルジオール。
【発明の効果】
【0015】
本発明の製造方法により、ポリエーテルジオールを効率良く製造することができる。また、融点の低い新規のポリエーテルジオールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】化合物MMEEMMのMSスペクトルである。
図2】化合物MMMMEEのMSスペクトルである。
図3】化合物MMEEEEのMSスペクトルである。
図4】化合物EEMMEEのMSスペクトルである。
図5】化合物MMEBMMのMSスペクトルである。
図6】化合物MMMMEBのMSスペクトルである。
図7】化合物MMEBEBのMSスペクトルである。
図8】化合物EBMMEBのMSスペクトルである。
図9】化合物MMMPMMのMSスペクトルである。
図10】化合物MMMMMPのMSスペクトルである。
図11】化合物MMMPMPのMSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態(以下、単に「本実施形態」という。)について説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその本実施形態のみに限定されない。本実施形態のポリエーテルジオールの製造方法は、水素化触媒の存在下に下記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、下記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエーテルジオールを得るものである。
【化6】
【化7】
【化8】
ここで、式(1)、(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)中、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、上記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよい。また、RとRとが互いに異なる場合、及び/又は、RとRとが互いに異なる場合、複数の幾何異性体及び光学異性体が存在し得る。
【0018】
<原料化合物>
本実施形態のポリエーテルジオールの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)に原料として用いる化合物は、上記一般式(1)で表される1,3−ジオキサン骨格を有する六員環アセタール化合物(以下、「化合物(1)」という。)である。
【0019】
本実施形態に用いられる化合物(1)の合成原料や製造方法等に特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。最も簡便で効率的な化合物(1)の製造方法は、3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとを酸触媒などにより脱水環化させる方法である。また、それ以外にも、3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドの低級アルコールアセタールと2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとのアセタール交換反応による製造方法であってもよい。あるいは、化合物(1)は、3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドや2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールの製造プロセスから副生したものであってもよく、精製することなどによって、本実施形態の製造方法の原料化合物として用いることができる。
【0020】
3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドと2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとを脱水環化して、化合物(1)を製造する場合に採用できる3−ヒドロキシ−2,2−ジ置換−プロピオンアルデヒドとしては、例えば、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2,2−ジエチル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2−メチル−2−エチル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2−メチル−2−プロピル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブチル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2−エチル−2−ブチル−プロピオンアルデヒド、3−ヒドロキシ−2−プロピル−2−ペンチル−プロピオンアルデヒド、及び3−ヒドロキシ−2−メチル−2−ヘキシル−プロピオンアルデヒドが挙げられる。プロピオンアルデヒド骨格の2位の炭素原子に結合した置換基が一般式(1)におけるR及びRに該当する。
【0021】
また、この場合に適用できる2,2−ジ置換−1,3−プロパンジオールとしては、例えば、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、及び2−メチル−2−ヘキシル−1,3−プロパンジオールが挙げられる。1、3−プロパンジオールの2位の炭素原子に結合した置換基が一般式(1)におけるR及びRに該当する。
【0022】
本実施形態の製造方法において得られるポリエーテルジオールは、下記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【化9】
【化10】
ここで、式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)において、R、R、R及びRは、上記一般式(1)におけるものと同義である。
【0023】
本実施形態の製造方法によって得られるポリエーテルジオールの1種は、化合物(1)に水素分子1つのみが付加することで得られる、上記一般式(2)で表されるポリエーテルジオールである。以下、便宜上、このポリエーテルジオールを「化合物(2)」と略す。
【0024】
本発明者らは、化合物(1)の水素還元反応を詳細に検討する中で、上記の化合物(2)のみならず、上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表されるポリエーテルジオール(以下、これらをまとめて「化合物(3)」と略す。)のうち少なくとも1種が少なからず同時に生成することを見出した。
【0025】
本発明者らの化合物(3)に関する観察では、化合物(3)よりも化合物(2)の生成量の方が常に多いことから、正確な反応機構は不明ではあるが、化合物(2)からの逐次反応によって化合物(3)が生成しているものと推測している。
【0026】
上述から明らかなように、本実施形態の製造方法は、ポリエーテルジオールの混合物の製造方法ともいえる。ここで、ポリエーテルジオールの混合物とは、これら多様な生成物の全てを含むものを意味するのではなく、化合物(2)に加えて、化合物(3)から選ばれる少なくとも1種を含むものを意味する。
【0027】
上記一般式(1)のR、R、R及びRとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基(イソプロピル基)、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基(tert−ブチル基)、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基(ネオペンチル基)、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、及び1−エチル−2−メチルプロピル基が挙げられる。
【0028】
また、上記一般式(1)のR、R、R及びRのアルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子に置換し得る炭素数6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、1−メチルエトキシ基(イソプロポキシ基)、n−ブトキシ基、1−メチルプロポキシ基、2−メチルプロポキシ基、1,1−ジメチルエトキシ基(tert−ブトキシ基)、n−ペントキシ基、2−メチル−ブトキシ基、n−ヘキソキシ基、2−メチル−ペントキシ基などが挙げられる。さらに、R、R、R及びRのアルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子に置換し得る水素化還元反応に不活性な官能基としては、例えば、クロロ基、メチルクロロ基などの塩素化アルキル基、フルオロ基、メチルフルオロ基などのフッ化アルキル基が挙げられる。
【0029】
化合物(1)において、RとRとが同一の基であり、かつ、RとRとが同一の基である場合、生成する化合物は単一のネオ骨格からなるポリエーテルジオールとなり、単純な下記一般式(2E)及び(3E)で表される化合物となる。
【0030】
【化11】
【0031】
更に、化合物(1)において、R、R、R及びRが全て同じ置換基であれば、よりシンプルな化合物になる。例えば、R、R、R及びRがいずれもメチル基の場合、化合物(2)は3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール、化合物(3)は3−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オールとなる。
【0032】
一方、化合物(1)において、R及びRの少なくとも一方が、R及びRの少なくとも一方とは異なる基である場合、生成する化合物は複数種のネオ骨格からなるポリエーテルジオールとなる。
【0033】
また、化合物(2)及び化合物(3)を構成するネオ骨格が、単一のものであるか、あるいは、複数種のものであるかにかかわらず、R及びRが互いに同一の基であるか、あるいは、R及びRが互いに同一の基であってよい。この場合、R及びRがどちらもメチル基であるか、あるいは、R及びRがどちらもメチル基であってよい。また、R及びRが互いに異なる基であるか、あるいは、R及びRが互いに異なる基であってもよい。
【0034】
、R、R及びRとしては、例えば、この順に、メチル基、メチル基、メチル基及びメチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びエチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルプロピル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルブチル基;メチル基、メチル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;メチル基、メチル基、エチル基及びエチル基;メチル基、メチル基、エチル基及びノルマルブチル基;メチル基、メチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基;メチル基、エチル基、メチル基及びエチル基;エチル基、エチル基、エチル基及びエチル基;メチル基、ノルマルプロピル基、メチル基及びノルマルプロピル基;メチル基、ノルマルブチル基、メチル基及びノルマルブチル基;メチル基、ノルマルヘキシル基、メチル基及びノルマルヘキシル基;エチル基、ノルマルブチル基、エチル基及びノルマルブチル基;又はノルマルプロピル基、ノルマルペンチル基、ノルマルプロピル基及びノルマルペンチル基が挙げられる。
【0035】
このようにして得られたポリエーテルジオールは、複数種の混合物である場合は混合したまま、あるいは、吸着、抽出、蒸留、晶析等の従来公知の分離技術を用いて個々の化合物に分離して、樹脂、塗料、接着剤などの工業原料として利用できる。
【0036】
特許文献5には、カルボニル化合物と1,3−プロパンジオール化合物から合成される特定の1,3−ジオキサン構造の環状アセタール化合物を水素還元して開環することにより、エーテル−モノアルコール化合物を製造する方法が開示されている。
【0037】
ところで、脂肪族アルコール化合物が水素化触媒上で水素化分解されることによって水酸基が還元的に脱離する反応(下記式を参照。)は、一般的に広く知られている。
R’−CHOH + H → R’−CH + H
(R’は残基を示す。)
この反応は、脂肪族アルコール化合物が分子内に水酸基を多く有するほど起こりやすく、多価アルコールになるほど顕著となる。例えば、特開2009−173551号公報及び特開2010−111618号公報には、多価アルコール化合物の一級水酸基が、銅や白金族元素のような水素化能を有する金属成分をゼオライトやシリカに担持した触媒の存在下に、容易に水素化分解されることが開示されている。このことを考慮すると、特許文献5に記載された方法に比べて、本発明では、原料であるアセタール化合物及び生成物であるアルコール化合物における一級水酸基の数がどちらも1つ多く、しかも、生成物がポリエーテルジオール、すなわち多価アルコールとなるにもかかわらず、高い反応選択率が得られることは驚くべきことである。
【0038】
また、本発明者らは、詳細に水素化反応の検討を行う中で、原料であるアセタール化合物の一級水酸基の有無が反応選択性に大きく影響を及ぼすことを見出した。すなわち、本発明のように原料のアセタール化合物が一級水酸基を有する場合、反応系内の水素ガスの不在下、あるいは極端に水素圧力が低い条件下では高分子状の副生物が生成した。これは、原料であるアセタール化合物分子間で、あるいは部分的に生成したポリエーテルジオールを伴って、アセタール交換反応に起因する反応が進行したためと考えられる。したがって、原料であるアセタール化合物が少なくとも1つ以上の水酸基を有する場合、目的とするポリエーテルジオールの収率を高めるには、高分子状の副生物の生成を回避又は抑制するか、あるいは、それを上回る反応速度で目的の水素化反応を達成する必要がある。このように、本発明においては、原料であるアセタール化合物の分子内に一級水酸基が存在することの技術的意味は非常に大きく、かつ水素化反応に求められる技術的難度は高い。
【0039】
なお、特許文献5に記載されているように、原料のアセタール化合物が一級水酸基を有しない場合、高分子化反応がほぼ起こらないことを、本発明者らはピバルアルデヒド−ネオペンチルグリコールの環状アセタール化合物(2−ターシャリーブチル−5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサンを用いた実験により確認している。
また、本発明者らは、本発明で得られるポリエーテルジオールの中で上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物は、少なからず上述の高分子状の副生物が水素化還元されて生成したものと推測している。すなわち、上記一般式(1)で表される化合物の少なくとも一部を自己縮合した後に水素化還元することにより、上記ポリエーテルジオールが得られるものであってもよい。ただし、上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物は、そのようにして生成したものに限定されない。
【0040】
上記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物、特に上記一般式(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物が比較的多く生成する場合、本発明者らは、上記一般式(1)に由来するネオ骨格を1つ有する1,3―プロパンジオール化合物及び分子内にネオ骨格を4個以上有するより高級なポリエーテルジオールの存在も確認しており、最も大きいものとしては、極少量ながらネオ骨格を9個有するポリエーテルジオールを、質量分析によって確認している。ただし、分子内にネオ骨格を4個以上有するポリエーテルジオールの生成量はあまり多くなく、仕込み原料のネオ骨格基準の収量で、合計して5%以下の場合がほとんどである。このような高級なポリエーテルジオールは、上記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物などの生成物との混合物として得られる。すなわち、本発明は、水素化触媒の存在下に、上記一般式(1)で表される化合物を水素化還元することにより、上記一般式(2)、(3A)、(3B)、(3C)及び(3D)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリエーテルジオールを、副生する分子内にネオ骨格を4個以上9個以下有するポリエーテルジオールからなる群より選ばれる1種以上のポリエーテルジオールと共に得るポリエーテルジオールの製造方法をも包含する。
【0041】
一方、原料であるアセタール化合物が一級水酸基を有しない場合には、高分子化反応はほぼ進行せず、ネオ骨格を3個有するポリエーテルジオールの生成量は痕跡量に過ぎず、ネオ骨格を4個以上有するポリエーテルジオールは認められない。
【0042】
以上のことから、特許文献5に記載された技術に比べて、原料であるアセタール化合物や生成するアルコール化合物に一級水酸基が増えた本発明の水素還元反応に求められる技術的難度はより高いものであり、本発明において、高い反応選択率が得られることは驚くべきことである。
【0043】
本発明者らは、化合物(1)の類縁化合物として、部分的にネオ骨格を含む化合物についても検討を行った。しかしながら、後述の比較例に示すように、そのような化合物を用いると、激しい分解反応が起こり、目的とするようなポリエーテルジオールは僅かにしか得られなかった。また、化合物(1)の類縁化合物として、ネオ骨格の四級炭素に隣接するメチレン基(−CH−)にイソプロピル基のようなアルキル置換基を導入した場合には、反応は進行するものの、極めて反応速度が遅くなると共に反応選択性も大きく低下して、目的とするようなポリエーテルジオールは生成するが、充分な収量は得られなかった。
【0044】
<水素化触媒>
本実施形態において用いられる水素化触媒の有効成分としては、接触水素化能を有する金属元素(以下、「特定金属成分」という。)が挙げられる。特定金属成分としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、イリジウム、銅、銀、モリブデン、タングステン、クロム及びレニウムが挙げられる。特定金属成分は、水素化能を示すのであれば、金属の状態であっても、陽イオンの状態であってもよい。これらの中では、一般的には、金属状態の方が水素化能が強く、還元雰囲気下で安定であるため、金属の状態であることが好ましい。特定金属成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて、固体触媒に含有された状態で用いることができる。特定金属成分を2種以上用いる場合、それらの組み合わせ、混合比率及び形態について特に制限はなく、個々の金属の混合物、あるいは、合金又は金属間化合物のような形態で用いることができる。本実施形態において、水素化触媒は、パラジウム、白金、ニッケル及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む固体触媒であると好ましく、特に好ましくはパラジウムを含む固体触媒である。
【0045】
これらの特定金属成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられるものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、アンミン錯体及びカルボニル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0046】
本実施形態の水素化触媒は、金属成分として特定金属成分を単独で又は接触水素化能を有しない金属と組み合わせて用いることもできる。その例としては、特定金属成分の金属微粉末で構成されるパラジウムブラック及び白金ブラックのような触媒、並びに、特定金属成分とアルミニウムと少量の添加物とから合金を形成し、その後にアルミニウムの全部又は一部をリーチングさせることにより調製されるスポンジ触媒が挙げられる。
【0047】
また、触媒の活性、選択性及び物性等を一層向上させるために、アルカリ金属元素としてリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウム、アルカリ土類金属元素としてマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム、ハロゲン元素としてフッ素、塩素、臭素及びヨウ素、補助添加元素として水銀、鉛、ビスマス、錫、テルル及びアンチモンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の元素の化合物(以下、特定添加成分と略す。)を、前述の特定金属成分と共に触媒に添加して用いることもできる。
これらの特定添加成分の原料に特に制限はなく、従来公知の方法により触媒を調製する際に原料として用いられたものを採用できる。そのような原料としては、例えば、それぞれの金属元素の水酸化物、酸化物、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及びアンミン錯体が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、特定添加成分の添加方法、及び特定添加成分と特定金属成分との比率についても特に制限はない。
【0048】
本実施形態の水素化触媒において、特定金属成分に非金属物質を組み合わせて用いることもできる。非金属物質としては、例えば、主に、元素単体、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩及びリン酸塩が挙げられる(以下、「特定非金属成分」という。)。その具体例としては、例えば、グラファイト、ダイアモンド、活性炭、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化ホウ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ニオブ、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化クロム、アルミノシリケート、アルミノシリコホスフェート、アルミノホスフェート、ボロホスフェート、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)、塩化アパタイト、フッ化アパタイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び炭酸バリウムが挙げられる。特定非金属成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。2種以上を組み合わせて用いる場合の組み合わせや混合比率、形態については特に制限はなく、個々の化合物の混合物、複合化合物、又は複塩のような形態で用いることができる。
【0049】
工業的に用いる観点から、簡便で廉価に得られる特定非金属成分が好ましい。そのような特定非金属成分として好ましいのは、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物及びアパタイト化合物であり、より好ましくはジルコニウム化合物及びアパタイト化合物である。それらの中でも特に好ましいものは、酸化ジルコニウム及び水酸化アパタイト(ヒドロキシリン酸カルシウム)である。さらには、上述の特定添加成分を用いて、これらの特定非金属成分の一部又は全部を、修飾したりイオン交換したりしたものも用いることができる。
また、特定非金属成分として、特定金属成分の炭化物、窒化物及び酸化物なども用いることが可能である。ただし、これらを水素還元雰囲気下に晒すと、一部が金属にまで還元されるため、このような場合には、一部が特定金属成分として、残りが非金属成分として用いられることになる。このような場合の例としては、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化コバルト、酸化モリブデン、酸化タングステン及び酸化クロムなどの酸化物が挙げられる。
【0050】
本実施形態の水素化触媒として、特定金属成分を単独で用いてもよく、特定金属成分と特定非金属成分とを組み合わせて用いてもよく、場合によっては、これらに加えて特定添加成分を含んでもよい。本実施形態の水素化触媒の製造方法は特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。その例として、特定金属成分の原料化合物を、特定非金属成分上に含浸する方法(担持法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分の原料化合物とを適当な溶媒に共に溶解させた後にアルカリ化合物などを用いて同時に析出させる方法(共沈法)、特定金属成分の原料化合物と特定非金属成分を適当な比率で混合均一化する方法(混練法)などが挙げられる。
【0051】
水素化触媒の組成又は触媒調製法の都合によっては、特定金属成分を陽イオンの状態で調製した後に還元処理して、金属の状態とすることもできる。そのための還元方法及び還元剤としては、従来公知のものを用いることができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア、ヒドラジン、ホスフィン及びシランのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。これらの還元剤が存在する気相中又は液相中で、陽イオンの状態の特定金属成分を還元処理することにより、特定金属成分は金属の状態に変換される。この時の還元処理条件は、特定金属成分及び還元剤の種類や分量などにより、好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0052】
また、本実施形態の水素化触媒の金属含有量及び形状にも特に制限はない。その形状は粉末状であっても成形したものであってもよく、成形した場合の形状及び成形法についても特に制限はない。例えば、球状品、打錠成形品及び押出成型品、並びにそれらを適当な大きさに破砕した形状を、適宜選択して用いることができる。
【0053】
特に好ましい特定金属成分はパラジウムであり、これを用いた触媒について以下に詳細に述べる。特定金属成分がパラジウムである場合、パラジウムが貴金属であることを考慮すると、その使用量は少なく、かつパラジウムが有効に利用されることが経済的に望まれる。そのため、パラジウムを触媒担体に分散させて担持して用いることが好ましい。
【0054】
パラジウムの原料となるパラジウム化合物としては、水又は有機溶媒に可溶なパラジウム化合物が好適である。そのようなパラジウム化合物としては、例えば、塩化パラジウム、テトラクロロパラジウム塩、テトラアンミンパラジウム塩、硝酸パラジウム及び酢酸パラジウムが挙げられる。これらの中では、水又は有機溶媒に対する溶解度が高く、工業的に利用しやすいので、塩化パラジウムが好ましい。塩化パラジウムは、塩化ナトリウム水溶液、希塩酸、アンモニア水等に溶解して用いることができる。
【0055】
パラジウム化合物の溶液を触媒担体に添加するか、あるいは、触媒担体をパラジウム化合物の溶液に浸漬するなどして、触媒担体上にパラジウム又はパラジウム化合物を固定化する。固定化の方法は担体への吸着、溶媒留去による晶析、パラジウム化合物と作用する還元性物質及び/又は塩基性物質を用いた析出沈着のような方法が一般的であり、適宜好適な方法が用いられる。このような方法により調製される水素化触媒におけるパラジウムの含有量は、金属パラジウム換算で、水素化触媒の全量に対して0.01〜20質量%であると好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%であり、更に好ましくは0.5〜5質量%である。パラジウムの含有量が0.01質量%以上であることにより、より十分な水素化速度が得られ、化合物(1)の転化率が更に高くなる。一方、パラジウムの含有量が20質量%以下であると、パラジウムの水素化触媒における分散効率が更に高くなるので、より有効にパラジウムを用いることができる。
【0056】
パラジウム化合物や触媒調製法の都合によっては、パラジウムは金属の状態ではなく、陽イオンの状態で担体に担持される場合がある。その場合、担持された陽イオンのパラジウム(例えば、パラジウム化合物の状態で存在)を金属パラジウムへ還元してから用いることもできる。そのための還元方法及び還元剤は、従来公知のものを採用することができ、特に制限はない。還元剤としては、例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、アンモニア及びヒドラジンのような還元性無機ガス、メタノール、ホルムアルデヒド及びギ酸のような低級含酸素化合物、エチレン、プロピレン、ベンゼン及びトルエンのような炭化水素化合物、水素化ホウ素ナトリウム及び水素化リチウムアルミニウムのような水素化物が挙げられる。陽イオンのパラジウムを還元剤と気相中又は液相中で接触させることにより、容易に金属パラジウムに還元することができる。この時の還元処理条件は、還元剤の種類及び分量などにより好適な条件に設定することができる。この還元処理の操作は、本実施形態の製造方法における水素化還元の前に、別途、触媒還元装置を用いて行ってもよく、本実施形態の製造方法に用いる反応器中で反応開始前又は反応操作と同時に行ってもよい。
【0057】
本発明の特定金属成分と共に用いられる特定非金属成分として、好ましいものの1種はジルコニウム化合物であり、これを含む水素化触媒について、以下に詳細に述べる。本実施形態に用いられるジルコニウム化合物は、好ましくは、酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、ジルコン酸アルカリ土類塩、ジルコン酸希土類塩及びジルコンからなる群より選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものである。
【0058】
特に好ましいジルコニウム化合物は酸化ジルコニウムであり、その製法に特に制限はない。例えば、一般的な方法として知られているのは、可溶性ジルコニウム塩の水溶液を塩基性物質で分解して、水酸化ジルコニウム又は炭酸ジルコニウムとし、その後に熱分解するなどして調製する方法である。このときのジルコニウム化合物の原料に制限はなく、例えば、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウムテトラアルコキシド、酢酸ジルコニウム及びジルコニウムアセチルアセトナートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、分解のために用いられる塩基性物質としては、例えば、アンモニア、アルキルアミン類、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、水酸化マグネシム、水酸化カルシウム、水酸化ランタン、水酸化イットリウム及び水酸化セリウムが挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
特定非金属成分として酸化ジルコニウムを用いる場合、その物性や形状などに特に制限はない。また、酸化ジルコニウムの純度にも、特に制限はなく、市販されている汎用から高純度品のレベルの純度のものを、適宜用いることができる。
【0060】
本実施形態の特定金属成分と共に用いられる特定非金属成分として、好ましいものの別の1種はアパタイト化合物であり、これを含む水素化触媒について、以下に詳細に述べる。本実施形態に用いられるアパタイト化合物としては、例えば、学術誌「触媒」,27(4),237−243(1985)に記載されているようなM10(ZOの組成を有する六方晶系化合物が挙げられる。ここで、Mとしては、例えばカルシウム、ストロンチウム、アルミニウム、イットリウム、ランタン及びセリウムが挙げられ、Zとしては、例えば、リン、ヒ素、バナジウム及びクロムが挙げられ、Xとしては、例えば、水酸基、炭酸基、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられる。イオン半径などによる物理的な構造上の制約の範囲内において、M、Z及びXのいずれも、上記のうちの1種又は2種以上から構成されていてよい。また、アパタイト化合物は、非量論組成を有することも知られており、本実施形態のアパタイト化合物はそれも包含する。この非量論組成は、M10−a(HZO(ZO6−a2−aの一般式で表され、0<a≦1である。
【0061】
これらの中では、Mがカルシウムであり、Zがリンであるものが好ましい。カルシウム及びリンを有するアパタイト化合物の製造方法に特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、適当なリン酸塩とカルシウム塩とを、化学量論比にてよく混合した後に加熱する方法(固相法)、カルシウム陽イオン含有溶液とリン酸陰イオン含有溶液とを塩基性条件で混合させて沈殿物として得る方法(沈殿法)、難水溶性のリン酸カルシウムを出発物質とし、これを塩基性条件下で加水分解してアパタイトへ転化させる方法(加水分解法)、難水溶性のリン酸カルシウムを密封耐圧容器内で水熱処理する方法(水熱合成法)が挙げられ、適宜好適な方法が採用される。
【0062】
また、アパタイト化合物は、陰イオン交換性を有し、上述のXに相当する部分はアパタイト化合物として合成した後であっても、容易に陰イオン交換できることが知られている。炭酸基、重炭酸基、水酸基、塩化物及びフッ化物等の陰イオンの1種又は2種以上を有するリン酸カルシウムアパタイトであって、その一部又は全部が合成時とは異なる陰イオンで交換されたものも、本実施形態のアパタイト化合物に包含される。このようなアパタイト化合物は、例えば、水酸化リン酸カルシウムを合成し、これに塩化物又はフッ化物イオンを含む溶液を接触させる方法、特定金属成分又は特定添加成分の原料の一部として含まれる陰イオンを、担体として用いるアパタイト化合物への特定金属成分又は特定添加成分の担持処理時に、アパタイト化合物と接触させる方法により、少なくとも一部の陰イオンが交換されてもよい。このときのイオン交換処理における交換原料物質、濃度及び処理条件等に特に制限はなく、適宜好適な方法が用いられる。
【0063】
ジルコニウム化合物及びアパタイト化合物に代表される特定非金属成分を触媒担体として用いる際、これらの担体の形状や粒径、気孔率などの物性値や金属成分を担持する方法などについても、特に制限はない。反応方式や条件に好適な形状、担体物性、担持方法などを適宜選択して用いることができる。
【0064】
本実施形態の水素化還元に用いられる溶媒については、原料である化合物(1)のみを用い無溶媒の環境下で反応を行ってもよく、反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒を用いる場合、水素化還元に不活性な状態であれば、その種類や濃度に特に制限はない。ただし、化合物(1)よりも水素化触媒における特定金属成分と強く相互作用するような反応溶媒を用いると、極端に反応速度が低下したり、反応が停止したりすることがある。このような観点から、例えば、リン、窒素、硫黄を含有する化合物は、反応溶媒として用いない方が好ましいが、反応速度に大きく影響を与えない程度の微量であれば、用いてもよい。反応溶媒として好ましいのは、飽和炭化水素、エステル化合物及びエーテル化合物であり、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。反応溶媒としては、例えば、飽和炭化水素として、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、2,2−ジメチル−ブタン、n−ヘプタン、iso−ヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−オクタン、iso−オクタン、n−ノナン及びiso−ノナンやその異性体、n−デカン、n−ペンタデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンやその異性体、デカリン、エステル化合物として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、n−酪酸メチル、n−酪酸エチル、n−酪酸ブチル、i−酪酸メチル、n−酪酸シクロヘキシル、i−酪酸シクロヘキシル及び吉草酸メチルやその異性体、エーテル化合物として、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジiso−プロプルエーテル、ジn−ブチルエーテル、ジiso−ブチルエーテル、ジsec−ブチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、エチルシクロペンチルエーテル、エチルシクロヘキシルエーテル、プロピルシクロペンチルエーテル、プロピルシクロヘキシルエーテル、ブチルシクロペンチルエーテル、ブチルシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、メチルテトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン及びジメチル−1,4−ジオキサンやそれらの異性体類が挙げられる。
【0065】
本実施形態における水素化還元の反応系は、化合物(1)、又はそれと反応溶媒とを含む液相、水素ガスの気相、及び水素化触媒の固相から形成され、これらが共存して行われる反応形式であれば特に制限はない。本実施形態の水素化還元における反応容器のタイプは、管型、槽型、釜型などの従来公知の形式を用いることができる。また、原料組成物の供給方法は、流通方式及び回分方式のいずれであってもよい。水素化触媒は、固定床、流動床及び懸濁床など従来公知の方式を採用することができ、特に制限はない。固定床流通方式の場合、灌液流状態及び気泡流状態でも反応を行うことができる。原料液の流通方向は、重力方向へ流通するダウンフロー、それとは逆方法へ流通するアップフローのいずれであってもよく、原料ガスの供給方向も原料液に対して並流、向流のいずれであってもよい。
【0066】
本実施形態の水素化還元における反応温度は、50〜350℃が好ましく、より好ましくは100〜300℃、更に好ましくは150〜280℃である。反応温度が50℃以上であると、より高い水素化速度が得られやすくなり、350℃以下であると、原料の分解を伴う副反応をより抑制でき、目的物の収量を更に高めることができる。
【0067】
本実施形態の水素化還元における反応圧力は、好ましくは0.1〜30MPaであり、より好ましくは2〜15MPaである。反応圧力が0.1MPa以上であることにより、より高い水素化速度が得られやすくなり、化合物(1)の転化率が向上し、30MPa以下であると、反応設備コストをより低く抑えることができ、経済的に好ましい。
【0068】
本実施形態の水素化還元に用いられる水素ガスは、特に高純度に精製されたものでなくてもよく、通常、工業的な水素化反応に用いられている品質であってもよい。また、水素化反応が水素分圧に依存して促進されるため、用いられる水素ガスの純度は高い方が好ましいが、水素ガスをヘリウム、アルゴン、窒素及びメタン等の反応に不活性なガスと混合してもよい。反応系内における化合物(1)に対する水素ガスの比率は、回分反応の場合、化合物(1)に対する水素ガスの仕込みモル比として、流通反応の場合、化合物(1)に対する水素ガスのモル供給速度比として表すと、好ましくは0.1〜300、より好ましくは0.5〜100である。水素ガスのモル比が0.1以上であると、水素化反応がより促進され、水素ガスのモル比が300以下であると、過剰な水素ガスを循環利用させるための設備コストをより低く抑えることができる。
【0069】
次に、本実施形態のポリエーテルジオールについて詳細に説明する。
【0070】
ポリエーテルジオールは、従来公知の方法において、効率良く製造することは難しいものの、幾つかの単一のネオ骨格から構成されるものが知られている。一方、複数種のネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールは、その非対称性が高いことにより融点が低くなり、取り扱いが容易になるなどの工業的な利点が期待されるものの、知られていない。
【0071】
本実施形態によれば、上記製造方法により、更に詳細には、異なるネオ骨格の前駆物質から製造した化合物(1)を水素化還元することにより、複数種のネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールを容易に効率良く製造することができる。本実施形態によって製造可能な複数種のネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールは、下記一般式(A)で表されるものである。
【化12】
【0072】
ここで、式(A)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、上記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよい。
【0073】
一般式(A)で表される化合物は、異なるネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールであり、具体的にはR及びRの少なくとも一方が、R及びRの少なくとも一方とは異なる基であるポリエーテルジオールである。この時、R及びRが互いに異なる基であるか、あるいは、R及びRが互いに異なる基であってもよい。さらには、R及びRがどちらもメチル基であるか、あるいは、R及びRがどちらもメチル基であってもよい。
【0074】
また、本実施形態によって製造可能な複数種のネオ骨格から構成される別のポリエーテルジオールは、下記一般式(B1)及び(B2)で表されるものである。
【化13】
【0075】
ここで、式(B1)及び(B2)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜6の直鎖の又は分岐したアルキル基を示し、それぞれ独立して、上記アルキル基が有する1つ又は2つ以上の水素原子を炭素数6以下のアルコキシ基又は水素化還元反応に不活性な官能基で置換されてもよい。
【0076】
一般式(B1)及び(B2)で表される化合物は、異なるネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールであり、具体的にはR及びRの少なくとも一方が、R及びRの少なくとも一方とは異なる基であるポリエーテルジオールである。この時、R及びRが互いに異なる基であるか、あるいは、R及びRが互いに異なる基であってもよい。さらには、R及びRがどちらもメチル基であるか、あるいは、R及びRがどちらもメチル基であってもよい。
【0077】
本実施形態のポリエーテルジオールのうち、一般式(A)で表される化合物として、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせが、下記の表に示す(a1)〜(a21)である化合物が挙げられる。
【化14】
【0078】
上記の表によって表される一般式(A)の化合物のうち、好ましいものについての、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせを下記の表に示す。
【化15】
【0079】
上記の表によって表される好ましい一般式(A)の化合物のうち、特に好ましいものについての、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせを下記の表に示す。
【化16】
【0080】
また、本実施形態のポリエーテルジオールのうち、一般式(B1)及び(B2)で表される化合物として、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせが、下記の表に示す(b1)〜(b42)である化合物が挙げられる。
【化17】
【0081】
上記の表によって表される一般式(B1)及び(B2)の化合物のうち、好ましいものについての、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせを下記の表に示す。
【化18】
【0082】
上記の表によって表される好ましい一般式(B1)及び(B2)の化合物のうち、特に好ましいものについての、R及びRの組とR及びRの組との組み合わせを下記の表に示す。
【化19】
【0083】
上記一般式(A)、(B1)及び(B2)で表される複数種のネオ骨格から構成されるポリエーテルジオールは新規物質である。
【実施例】
【0084】
以下に、本発明の製造方法について、実施例及び比較例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明は要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
水素化還元の反応成績の評価は、仕込原料、並びに反応液中の原料、及び生成したポリエーテルジオールにおける四級炭素(ネオ骨格)のモル数を基準として評価した。
原料アセタール(化合物(1))の転化率(%)=
100×[1−(反応液に残存する原料の四級炭素モル数)/(仕込原料の四級炭素モル数)]
各生成ポリエーテルジオールの選択率(%)=
100×(目的とする生成物の四級炭素モル数)/[(仕込原料の四級炭素モル数)−(反応液に残存する原料の四級炭素モル数)]
ただし、化合物(1)に異性体が存在する場合、それらの異性体を合算した値を用いた。生成したポリエーテルジオールについては、分子内の四級炭素の数ごとに分類、合算して、化合物(2)、化合物(3)の選択率として表した。
【0086】
単離した化合物の同定はH−NMR、13C−NMR測定によって行った。測定条件を下記に示す。
装置:ECA500(1H−single pulse,13C−single pulse)、日本電子株式会社製商品名
H−NMR
核種:
測定周波数:500MHz
積算回数:16回
測定試料:5%CDCl溶液
13C−NMR
核種:13
測定周波数:125MHz
積算回数:512回
測定試料:5%CDCl溶液
【0087】
単離していない化合物の同定は、実施例で得られた反応液のGC−MS測定(化学イオン化法[CI+]、高分解能質量分析[ミリマス])により分子構造を特定することにより行った。測定条件を下記に示す。
装置:Agilent 7890A、アジレント・テクノロジー社製商品名、及び
ACCU−TOF−GCV(JMS−T100GCV) 日本電子株式会社製商品名(型番名)
GC測定条件
キャピラリー:HP−5(長さ30m×内径0.32mm 0.25μm)、アジレント・テクノロジー社製商品名
カラム条件:80℃から10℃/minで300℃まで昇温後、保持
キャリヤー:He、スプリット比:1/20
MS測定条件:化学イオン化法、検出器条件:イオン化電圧200eV,イオン化電流300μA、検出器電圧1700V
【0088】
クロマトグラフ法による生成物の単離には下記の材料を使用した。
充填剤:和光純薬製、商品名「ワコーゲルC−200」
展開溶媒:酢酸エチル−トルエン
【0089】
反応原料である化合物(1)(環状アセタール化合物)は以下の方法により調製した。
<原料調製例1>
(2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)131.3gと、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール、東京化成工業株式会社製試薬)136.0gと、ベンゼン705gと、粒状ナフィオン(商品名「NR−50」、シグマアルドリッチ社製)3.0gと、を2リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で生成する水をベンゼンと共沸させながらディーン・スターク・トラップを用いて系外へ抜き出して、水の留出が止まるまで反応させた。これを濾過したのちに濃縮及び冷却することにより再結晶させて、2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの結晶を得た。下記にこの合成反応スキームを示す。
【化20】
【0090】
<原料調製例2>
(2−(5,5−ジエチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド131.3gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)77.6gを用い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール136.0gに代えて2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)91.3gを用いた以外は原料調製例1と同様にして、2−(5,5−ジエチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの結晶を得た。下記にこの合成反応スキームを示す。
【化21】
【0091】
<原料調製例3>
(2−(5−ブチル−5−エチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド131.3gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)73.6gを用い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール136.0gに代えて2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)111.8gを用いた以外は原料調製例1と同様にして反応まで行い、粗2−(5−ブチル−5−エチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール/ベンゼン溶液を得た。反応液からベンゼンを留去した後に減圧蒸留して、2−(5−ブチル−5−エチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(異性体を合算したGCでの純度として99.4%)を得た。
【0092】
<原料調製例4>
(2−(5−プロピル−5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド131.3gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)73.0gを用い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール136.0gに代えて2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)92.5gを用いた以外は原料調製例1と同様にして反応まで行い、粗2−(5−プロピル−5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール/ベンゼン溶液を得た。反応液からベンゼンを留去した後に減圧蒸留して、2−(5−プロピル−5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(異性体を合算したGCでの純度として99.2%)を得た。
【0093】
<参考原料調製例1>
(2−([1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド131.3gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)77.1gを用い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール136.0gに代えて1,3−プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)64.0gを用いた以外は原料調製例1と同様にして反応まで行い、粗2−([1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール/ベンゼン溶液を得た。反応液からベンゼンを留去した後に減圧蒸留して、2−([1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(GCでの純度として99.0%)を得た。下記にこの合成反応スキームを示す。
【化22】
【0094】
<参考原料調製例2>
(2−(5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オールの調製)
2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド131.3gに代えて2,2−ジメチル−3−ヒドロキシ−プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、三菱瓦斯化学株式会社製、純度99.8%)69.1gを用い、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール136.0gに代えて2−メチル−1,3−プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)64.1gを用いた以外は原料調製例1と同様にして反応まで行い、粗2−(5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール/ベンゼン溶液を得た。反応液からベンゼンを留去した後に減圧蒸留して、2−(5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール(異性体を合算したGCでの純度として99.2%)を得た。下記にこの合成反応スキームを示す。
【化23】
【0095】
<担体調製例1>
金属成分の担体として用いた酸化ジルコニウムを下記の方法で調製した。
酸化ジルコニウム(ZrO)換算で25質量%の濃度のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液505gに、撹拌しながら28%アンモニア水15.5gを滴下することにより白色沈殿物を得た。これを濾過し、イオン交換水で洗浄した後に、110℃、10時間乾燥して含水酸化ジルコニウムを得た。これを磁製坩堝に収容し、電気炉を用いて空気中で400℃、3時間の焼成処理を行った後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状酸化ジルコニウム(以下、「担体A」と表記する。)を得た。担体AのBET比表面積(窒素吸着法により測定。以下同様。)は102.7m/gであった。
【0096】
<担体調製例2>
金属成分の担体として用いたアパタイト化合物を下記の方法で調製した。
硝酸カルシウム四水和物78.7gを300.5gのイオン交換水に溶解し、そこに28%アンモニア水260mLを添加した。また、リン酸水素二アンモニウム26.4gをイオン交換水500.6gに溶解し、そこに28%アンモニア水150mLとイオン交換水150mLとを添加した。硝酸カルシウム−アンモニア溶液を撹拌しながら、そこにリン酸水素二アンモニウム−アンモニア溶液を少しずつ添加したところ、徐々に白濁して白色沈殿物を得た。添加終了後、約2時間撹拌した後に静置した。次いで、静置後のものを濾過し、イオン交換水で洗浄した後に、110℃、10時間乾燥し、次に電気炉を用いて空気中で500℃、3時間の焼成処理を行った。その後、メノウ乳鉢で粉砕して粉末状水酸化アパタイト(以下、「担体B」と表記する。)を得た。担体BのBET比表面積は60.7m/gであった。
【0097】
<触媒調製例1>
パラジウムを特定金属成分とする触媒を下記の方法で調製した。
5.0gの担体Aに0.66質量%塩化パラジウム−0.44質量%塩化ナトリウム水溶液を添加し、担体上に金属成分を吸着させた。そこにホルムアルデヒド−水酸化ナトリウム水溶液を注加して吸着した金属成分を瞬時に還元した。その後、イオン交換水により触媒を洗浄し、乾燥することにより1.0質量%パラジウム担持酸化ジルコニウム触媒(以下、「A1触媒」と表記する。)を調製した。
【0098】
<触媒調製例2>
パラジウムの担持量を代えた以外は触媒調製例1と同様にして、2.0質量%パラジウム担持酸化ジルコニウム触媒(以下、「A2触媒」と表記する。)を調製した。
【0099】
<触媒調製例3>
パラジウムを特定金属成分とする成形触媒を下記の方法で調製した。
触媒調製例1において得られたA1触媒のみを成形助剤などを加えることなく打錠成形し、その後に破砕して、0.5〜1.4mmに篩い分けることで、粒状の1.0質量%パラジウム担持酸化ジルコニウム触媒(以下、「A3触媒」と表記する。)を得た。
【0100】
<触媒調製例4>
パラジウムを特定金属成分とする触媒を以下の方法で調製した。
5.0gの担体Bに0.32質量%酢酸パラジウム−アセトン溶液を添加し、吸着させた後に、アセトンを蒸発、乾固させて酢酸パラジウムを担体に担持した。これを磁製坩堝に収容し、電気炉を用いて空気中で400℃、3時間の焼成処理を行った。焼成処理後のものを水素ガス気流下、110℃で還元して、1.0質量%パラジウム担持アパタイト触媒(以下、「B1触媒」と表記する。)を調製した。
【0101】
<触媒調製例5>
B1触媒3.0gを5.9質量%塩化ナトリウム水溶液に添加し、2時間撹拌して、イオン交換処理を行った。その後にイオン交換水で触媒を濾過洗浄、乾燥することにより、部分的に塩化物にイオン交換された水酸化アパタイト担体の1.0質量%パラジウム担持触媒(以下、「B2触媒」と表記する。)を調製した。ICP発光分析により元素分析を行った結果、この触媒は全水酸基の約5%に相当する塩素を含んでいた。
【0102】
<触媒調製例6>
ニッケルを特定金属成分とする触媒を下記の方法で調製した。
硝酸ニッケル六水和物305.0gを40℃のイオン交換水840gに溶解し、ニッケル金属塩水溶液を調合した。また、炭酸水素アンモニウム190.6gをイオン交換水2.4kgに溶解し、よく撹拌しながら、40℃に昇温した。この炭酸水素アンモニウム水溶液に40℃に保持されたニッケル金属塩水溶液をよく撹拌しながら添加し、炭酸ニッケルの沈殿スラリーを調製した。それとは別に、酸化ジルコニウム(ZrO)換算で25質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液118.4gをイオン交換水300gに混合して硝酸ジルコニウム水溶液を調製した。また、炭酸水素アンモニウム42.8gをイオン交換水530gに溶解して炭酸水素アンモニウム水溶液を調製した。これらの硝酸ジルコニウム水溶液及び炭酸水素アンモニウム水溶液を、先に調製した炭酸ニッケルの沈殿スラリーに撹拌しながら同時に注加して、炭酸ジルコニウムを沈着させた。このようにして得られた沈殿スラリーを40℃、30分撹拌保持してから濾過洗浄し、沈殿物を得た。この沈殿物を110℃で一晩乾燥し、次いで、380℃、18時間空気雰囲気下で焼成処理することにより、粉状のニッケル−酸化ジルコニウム触媒(以下、「Ni−1触媒」と表記する。)を調製した。この触媒を水素ガス気流下、400℃で還元することにより活性化した。
【0103】
<触媒調製例7>
銅を特定金属成分とする触媒を下記の方法で調製した。
酸化ジルコニウム(ZrO)換算で25質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液550gをイオン交換水2.5Lに溶解して40℃に保持した。炭酸水素アンモニウム197.5gをイオン交換水5Lに溶解して40℃とした溶液に、撹拌下、上記オキシ硝酸ジルコニウム水溶液を注加して40℃で30分間保持した。その後、濾過、洗浄して酸化ジルコニウム源のケーキ約830gを得た。それとは別に、硝酸銅三水和物570gをイオン交換水4.4Lに溶解し40℃に保持した。無水炭酸ナトリウム283gをイオン交換水3.5Lに溶解して40℃とした後、撹拌下に上記の硝酸銅水溶液を注加して銅含有ケーキ約550gを得た。このようにして得られた銅含有ケーキ500gと酸化ジルコニウム源のケーキ390gとを擂潰機に入れ、混練してペーストを得た。ペーストを80℃で乾燥した後に380℃、2時間焼成することにより、粉状の銅−酸化ジルコニウム触媒(以下、「Cu−1触媒」と表記する。)を調製した。この触媒を窒素−水素混合ガス気流下、170℃で還元することにより活性化した。
【0104】
水素還元反応は以下の方法で実施した。
<実施例1>
100mLのSUS製反応器内に、A1触媒0.60g、原料調製例1の2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.40g、及びジイソプロピルエーテル24.0gを収容し、反応器内を窒素ガスで置換した。その後、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して2時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。
その結果、化合物(1)の転化率は95.8%であり、化合物(2)の3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物MMMM」と表記する。)の選択率は89.6%、化合物(3)の3−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物MMMMMM」と表記する。)の選択率は4.2%、両者の合計選択率は93.8%であった。
生成物の帰属は下記の方法により行った。
【0105】
(化合物MMMM)
【化24】
得られた反応液を濾過して触媒を分離した後に再結晶して得られた生成物を、NMR分析することで、構造を確認した。
【化25】
【0106】
(化合物MMMMMM)
【化26】
得られた反応液をクロマトグラフィーにかけて単離した生成物を、NMR分析することで、構造を確認した。
【化27】
【0107】
これらのことから、化合物(1)に水素分子1つを付加させて開環した構造のポリエーテルジオールを生成させると、生成した化合物(2)に、それを構成するネオ骨格が更に付加したような化合物(3)も同時に生成することを確認した。下記に実施例1における反応スキームを示す。
【化28】
【0108】
<実施例2>
A1触媒をA2触媒に代えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。化合物(1)の転化率は98.9%であり、化合物(2)の化合物MMMMの選択率は68.5%、化合物(3)の化合物MMMMMMの選択率は13.5%、両者の合計選択率は82.0%であった。
【0109】
<実施例3〜6>
反応溶媒と反応条件を代えた以外は実施例2と同様にして反応を行った。触媒、反応溶媒、反応条件及び反応結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
<実施例7〜11>
化合物(1)の種類とその仕込み量、並びに反応溶媒及び反応時間を代えた以外は実施例1と同様にして、反応を行った。触媒、反応溶媒、反応条件、反応原料仕込み質量及び反応結果を表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例7では、化合物(2)として2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブタン−1−オール(以下、「化合物MMEE」と表記する。)、化合物(3)として主に3−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物MMEEMM」と表記する。)及び2−エチル−2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ブタン−1−オール(以下、「化合物MMMMEE」と表記する。)が生成した。
生成物の帰属は下記の方法により行った。
【0114】
(化合物MMEE)
【化29】
得られた反応液を濾過して触媒を分離した後に蒸留単離した生成物を、NMR分析することで、構造を確認した。
【化30】
【0115】
示差熱分析により求めた化合物MMEEの融点は30℃であった。これは、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの融点125℃、2,2−エチル−1,3−プロパンジオールの融点61℃のどちらよりも低い。また、類似した構造で対称性の良いジ−ネオペンチルグリコールの融点85℃よりも低い。
【0116】
実施例1のように本発明の原料である化合物(1)を水素還元すると、1分子の水素付加により開環した構造のポリエーテルジオール(化合物(2))が生成するだけではなく、ここで生成した化合物(2)を構成するネオ骨格が更に化合物(2)に付加したような化合物(3)も同時に生成する。
ただし、実施例7では化合物MMEEを構成するネオ骨格が、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールと2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールとの異なる2つの構造を有するため、どちらが付加するかによって生成する化合物(3)の構造は異なる。また、化合物MMEEは非対称な構造を有することから、付加する方向によっても化合物(3)の構造は異なる。実際の反応液のGC分析においても、4つの化合物(以下、それぞれ「化合物MMEEMM」、「化合物MMMMEE」、「化合物MMEEEE」及び「化合物EEMMEE」と表記する。)が検出された。これらの帰属にあたっては、反応液のGC−MS測定(化学イオン化法[CI+]、高分解能質量分析[ミリマス])を用いた。
化学イオン化法質量分析では、分子をほとんどフラグメント化させずにイオン化して質量分析するため、分子量の情報を得ることができ、同時に高分解能質量分析することで組成式として検証することができる。また、一部分が分解して得られるフラグメントのスペクトルについても同様に分析することで、分子内の構造断片を検証することができる。化合物MMEEMM、化合物MMMMEE、化合物MMEEEE及び化合物EEMMEEでは表3に示すような結果が得られた。
【0117】
【表3】
【0118】
分子構造が保持されたままプロトン化された[M+H]の質量数(分子量M+1)から化合物MMEEMM、化合物MMMMEEは、組成式C1736であること、すなわち、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格2つと2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール骨格1つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造であることが分かる。化合物MMEEMMと化合物MMMMEEとは、置換1,3−プロパンジオール骨格の配列が異なる異性体と考えられる。
化合物MMEEMMと化合物MMMMEEのCI+スペクトルをそれぞれ図1及び図2に示す。フラグメント化した部分に注目すると、化合物MMMMEEには2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトルが認められる一方で、化合物MMEEMMにはそれが認められない。したがって、化合物MMEEMMを3−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブトキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール、化合物MMMMEEを2−エチル−2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ブタン−1−オールと帰属した。
【0119】
また、クロマトグラフィーによって化合物MMEEMM、化合物MMMMEEを単離して、NMR分析においても、同構造を確認した。その結果、GC−MS分析から導いた構造解析結果と一致することを確認した。
(化合物MMEEMM)
【化31】
(化合物MMMMEE)
【化32】
【0120】
(化合物MMEEMM)
【化33】
(化合物MMMMEE)
【化34】
【0121】
同様に化合物MMEEEE及び化合物EEMMEEは、組成式C1940であり、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格1つと2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール骨格2つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造であることが分かる。化合物MMEEEEと化合物EEMMEEとは、置換1,3−プロパンジオール骨格の配列が異なる異性体と考えられる。
化合物MMEEEEと化合物EEMMEEとのCI+スペクトルを、それぞれ図3及び図4に示す。フラグメント化した部分に注目すると化合物MMEEEEには2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトルが認められる一方で、化合物EEMMEEにはそれが認められない。したがって、化合物MMEEEEを2−エチル−2−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ブトキシメチル]−ブタン−1−オール、化合物EEMMEEを2−エチル−2−[3−(2−エチル−2−ヒドロキシメチル−ブトキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ブタン−1−オールと帰属した。
【0122】
(化合物MMEEEE)
【化35】
(化合物EEMMEE)
【化36】
【0123】
実施例1と同様に化合物(1)を水素還元すると、1分子の水素付加により開環した構造のポリエーテルジオール(化合物(2))が生成するだけではなく、ここで生成した化合物(2)を構成するネオ骨格が更に化合物(2)に付加したような化合物(3)も同時に生成することが、実施例7でも確認された。その反応スキームを下記に示す。
【化37】
【0124】
実施例8〜9では、化合物(2)として2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ヘキサン−1−オール(以下、「MMEB」と表記する。)、化合物(3)として主に3−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ヘキシルオキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「MMEBMM」と表記する。)及び2−エチル−2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ヘキサン−1−オール(以下、「MMMMEB」と表記する。)が生成した。
生成物の帰属は下記の方法により行った。
【0125】
(化合物MMEB)
得られた反応液を濾過して触媒を分離した後に蒸留単離した生成物を、NMR分析することで、構造を確認した。
【化38】
【0126】
化合物MMEBは室温(20℃)において液体であった。よって、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの融点125℃、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオールの融点42℃のどちらよりも低いことが分かった。また、類似した構造で対称性の良いジ−ネオペンチルグリコールの融点85℃よりも低いことが分かった。
【化39】
【0127】
反応液のGC分析から4つの化合物(以下、それぞれ「化合物MMEBMM」、「化合物MMMMEB」、「化合物MMEBEB」及び「化合物EBMMEB」と表記する。)の生成が認められた。これらの分析を実施例7と同様の手法で行い、表4に示す結果が得られた。
【0128】
【表4】
【0129】
分子構造が保持されたままプロトン化された[M+H]の質量数(分子量M+1)から化合物MMEBMM、化合物MMMMEBは、組成式C1940であること、すなわち、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格2つと2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール骨格1つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造であることが分かる。化合物MMEBMMと化合物MMMMEBとは、置換1,3−プロパンジオール骨格の配列が異なる異性体と考えられる。
化合物MMEBMMと化合物MMMMEBとのCI+スペクトルをそれぞれ図5及び図6に示す。フラグメント化した部分に注目すると、化合物MMMMEBには2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトル(質量数173、191)が認められる一方で、化合物MMEBMMにはそれが認められない。したがって、化合物MMEBMMを3−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ヘキシルオキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール、化合物MMMMEBを2−エチル−2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ヘキサン−1−オールと帰属した。
【0130】
また、クロマトグラフィーによって化合物MMEBMM及び化合物MMMMEBを単離して、NMR分析においても、同構造を確認した。その結果、GC−MS分析から導いた構造解析結果と一致することを確認した。
(化合物MMEBMM)
【化40】
【0131】
(化合物MMMMEB)
【化41】
【0132】
(化合物MMEBMM)
【化42】
(化合物MMMMEB)
【化43】
【0133】
同様に化合物MMEBEB及び化合物EBMMEBは、組成式C2348であり、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格1つと2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール骨格2つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造であることが分かる。化合物MMEBEBと化合物EBMMEBとは、置換1,3−プロパンジオール骨格の配列が異なる異性体と考えられる。
化合物MMEBEBと化合物EBMMEBとのCI+スペクトルを、それぞれ図7及び図8に示す。フラグメント化した部分に注目すると、化合物MMEBEBには2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトル(質量数285、303)が認められる一方で、化合物EBMMEBにはそれが認められない。したがって、化合物MMEBEBを2−エチル−2−[2−エチル−2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−ヘキシルオキシメチル]−ヘキサン−1−オール、化合物EBMMEBを2−エチル−2−[3−(2−エチル−2−ヒドロキシメチル−ヘキシルオキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−ヘキサン−1−オールと帰属した。
【0134】
(化合物MMEBEB)
【化44】
(化合物EBMMEB)
【化45】
【0135】
実施例10〜11では、化合物(2)として、2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−ペンタン−1−オール(以下、「化合物MMMP」と表記する。)、化合物(3)として主に2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−2−メチル−ペンタン−1−オール(以下、「化合物MMMMMP」と表記する。)及び3−[2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−ペンチルオキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール(以下、「化合物MMMPMM」と表記する。)が生成した。
生成物の帰属は下記の方法により行った。
【0136】
(化合物MMMP)
得られた反応液を濾過して触媒を分離した後に蒸留単離した生成物を、NMR分析することで、構造を確認した。
【化46】
示差熱分析により求めた化合物MMMPの融点は35℃であった。これは、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオールの融点125℃、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオールの融点57℃のどちらよりも低い。また、類似した構造で対称性の良いジ−ネオペンチルグリコールの融点85℃よりも低い。
【化47】
【0137】
反応液のGC分析から3つの化合物(以下、それぞれ「化合物MMMPMM」、「化合物MMMMMP」及び「化合物MMMPMP」と表記する。)の生成が認められた。これらの分析を実施例7と同様の手法で行い、表5に示す結果が得られた。
【0138】
【表5】
【0139】
分子構造が保持されたままプロトン化された[M+H]の質量数(分子量M+1)から化合物MMMPMM、化合物MMMMMPは、組成式C1736であること、すなわち、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格2つと2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール骨格1つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造であり、両者は置換1,3−プロパンジオール骨格の配列が異なる異性体と考えられる。
化合物MMMPMMと化合物MMMMMPとのCI+スペクトルを、それぞれ図9及び図10に示す。フラグメント化した部分に注目すると、化合物MMMMMPには2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトル(質量数173、191)が認められる一方で、化合物MMMPMMにはそれが認められない。したがって、化合物MMMPMMを3−[2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−ペンチルオキシ]−2,2−ジメチル−プロパン−1−オール、化合物MMMMMPを2−[3−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロポキシメチル]−2−メチル−ペンタン−1−オールと帰属した。
【0140】
また、クロマトグラフィーによって化合物MMMPMM、化合物MMMMMPを単離して、NMR分析においても、同構造を確認した。その結果、GC−MS分析から導いた構造解析結果と一致することを確認した。
(化合物MMMPMM)
【化48】
(化合物MMMMMP)
【化49】
(化合物MMMPMM)
【化50】
(化合物MMMMMP)
【化51】
【0141】
また、化合物MMMPMPは組成式C1940であること、すなわち、分子内に2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格1つと2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール骨格2つとを有し、これらがエーテル結合で結ばれた構造と考えられる。
化合物MMMPMPのCI+スペクトルを図11に示す。フラグメント化した部分に注目すると、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール骨格同士がエーテル結合で連結した化学種のスペクトル(質量数229、247)が認められる一方で、2−プロピル−2−メチル−1,3−プロパンジオール骨格と2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール骨格とがエーテル結合で連結した化学種のスペクトル(質量数201、219)も認められる。したがって、化合物MMMPMPを2−[2−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチル−プロポキシメチル)−2−メチル−ペンチルオキシメチル]−2−メチル−ペンタン−1−オールと帰属した。
【0142】
(化合物MMMPMP)
【化52】
【0143】
<実施例12〜15>
水素化触媒として、B1触媒及びB2触媒、並びに市販の5質量%パラジウム担持アルミナ触媒(和光純薬工業社製、以下「B3触媒」と表記する。)を用い、反応温度及び反応時間を代えた以外は実施例1と同様にして反応を行った。触媒の種類、反応条件及び反応結果を表6に示す。
【0144】
【表6】
【0145】
<実施例16>
100mLのSUS製反応器内を窒素ガスで置換した後に、Ni−1触媒0.90g、原料調製例1の2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.40g、及びジイソプロピルエーテル24.0gを収容し、反応器内を密閉した後に再び窒素ガスで置換した。次いで、反応器内に水素ガスを8.5MPa充填し、反応温度である230℃へ昇温して5時間反応させた。その後に冷却して反応器の内容物を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。
その結果、化合物(1)の転化率は61.0%であり、化合物(2)の化合物MMMMの選択率は37.9%、化合物(3)の化合物MMMMMMの選択率は7.6%、両者の合計選択率は45.5%であった。
【0146】
<実施例17〜19>
触媒の種類、その使用量、反応温度及び反応時間を代えた以外は、実施例16と同様にして反応を行った。触媒の種類及びその使用量、反応条件並びに反応結果を表7に示す。
【0147】
【表7】
【0148】
<実施例20>
A3触媒4.1gを管型反応器(内径10mm、長さ300mm)に充填し、水素ガスによって反応系内の圧力を8.0MPaに保持しながら反応器を220℃へ昇温した。管型反応器上部から水素ガスを毎分20mL(標準状態換算)、10.0質量%の2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール/ジイソプロピルエーテル溶液を毎時4.57gで供給、流通させて水素化反応を行った。反応器下部の出口から回収した生成液をガスクロマトグラフィーで分析して反応成績を評価した。その結果、化合物(1)の転化率は96.0%であり、化合物(2)の化合物MMMMの選択率は81.0%であり、化合物(3)の化合物MMMMMMの選択率は5.9%、両者の合計選択率は86.9%であった。
【0149】
<比較例1>
反応原料を、原料調製例1の2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.40gから参考原料調製例1の2−([1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.36gに代えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、化合物(1)の転化率は100%であり、低沸点成分を中心とした非常に多くの分解物が副生して、目的物は痕跡量しか得られなかった。
【0150】
<比較例2>
反応条件のうち、反応温度を210℃に変更し、反応時間を2時間に変更した以外は比較例1と同様にして反応を行った。その結果は比較例1と同様であった。
【0151】
<比較例3>
反応原料を、原料調製例1の2−(5,5−ジメチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.40gから参考原料調製例2の2−(5−メチル−[1,3]ジオキサン−2−イル)−2−メチル−プロパン−1−オール2.39gに代えた以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、化合物(1)の転化率は99.1%であり、化合物(2)の3−(3−ヒドロキシ−2−メチル−プロポキシ)−2,2−ジメチル−プロパン−1−オールの選択率は5.1%であり、化合物(3)の選択率は痕跡量であり、これら以外に、低沸点成分を中心とする非常に多くの分解物の副生が認められた。なお、本比較例では2−メチル−1,3−プロパンジオール骨格をネオ骨格と同様に取り扱って反応成績を算出した。この反応の反応スキームを下記に示す。
【化53】
【0152】
本出願は、2012年12月28日出願の日本特許出願(特願2012−287275)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の製造方法によれば、環状アセタール化合物である化合物(1)を水素化触媒によって水素還元することにより、ポリエーテルジオールを効率良く製造することができる。また、融点の低い新規ポリエーテルジオールを得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11