(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を説明する。
【0015】
まず、
図1により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両について説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両の全体構成を示すブロック図である。
【0016】
図1において、符号1は、本実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両を示す。車両1の車体前部には、駆動輪(
図1の例では左右の前輪2)を駆動するエンジン4が搭載されている。エンジン4は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃エンジンである。
【0017】
また、車両1は、ステアリングホイール6の回転角度を検出する操舵角センサ8、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ10、及び、車速を検出する車速センサ12を有する。これらの各センサは、それぞれの検出値をPCM(Power-train Control Module)14に出力する。
【0018】
次に、
図2により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の電気的構成を説明する。
図2は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態によるPCM14(車両用挙動制御装置)は、上述したセンサ8〜12の検出信号の他、エンジン4の運転状態を検出する各種センサが出力した検出信号に基づいて、エンジン4の各部(例えば、スロットルバルブ、ターボ過給機、可変バルブ機構、点火装置、燃料噴射弁、EGR装置等)に対する制御を行うべく、制御信号を出力する。
【0019】
PCM14は、アクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき基本目標トルクを決定する基本目標トルク決定部16と、車両1のヨーレート関連量に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク低減量を決定するトルク低減量決定部18と、基本目標トルクとトルク低減量とに基づき最終目標トルクを決定する最終目標トルク決定部20と、最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御するエンジン制御部22とを有する。本実施形態では、トルク低減量決定部18は、ヨーレート関連量として車両1の操舵速度を用いる場合を説明する。
これらのPCM14の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
【0020】
次に、
図3乃至
図5により、車両用挙動制御装置が行う処理について説明する。
図3は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置がエンジン4を制御するエンジン制御処理のフローチャートであり、
図4は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置がトルク低減量を決定するトルク低減量決定処理のフローチャートであり、
図5は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置が決定する目標付加減速度と操舵速度との関係を示したマップである。
【0021】
図3のエンジン制御処理は、車両1のイグニッションがオンにされ、車両用挙動制御装置に電源が投入された場合に起動され、繰り返し実行される。
エンジン制御処理が開始されると、
図3に示すように、ステップS1において、PCM14は車両1の運転状態に関する各種情報を取得する。具体的には、PCM14は、操舵角センサ8が検出した操舵角、アクセル開度センサ10が検出したアクセル開度、車速センサ12が検出した車速、車両1の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサが出力した検出信号を運転状態に関する情報として取得する。
【0022】
次に、ステップS2において、PCM14の基本目標トルク決定部16は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作を含む車両1の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、基本目標トルク決定部16は、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
【0023】
次に、ステップS3において、基本目標トルク決定部16は、ステップS2において決定した目標加速度を実現するためのエンジン4の基本目標トルクを決定する。この場合、基本目標トルク決定部16は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジン4が出力可能なトルクの範囲内で、基本目標トルクを決定する。
【0024】
また、ステップS2及びS3の処理と並行して、ステップS4において、トルク低減量決定部18は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するためのトルク低減量を決定するトルク低減量決定処理を実行する。このトルク低減量決定処理について、
図4を参照して説明する。
【0025】
図4に示すように、トルク低減量決定処理が開始されると、ステップS21において、トルク低減量決定部18は、ステップS1において取得した操舵角の絶対値が増大中か否かを判定する。その結果、操舵角の絶対値が増大中である場合、ステップS22に進み、トルク低減量決定部18は、ステップS1において取得した操舵角に基づき操舵速度を算出する。
【0026】
次に、ステップS23において、トルク低減量決定部18は、操舵速度の絶対値が減少しているか否かを判定する。
その結果、操舵速度の絶対値が減少していない場合、即ち操舵速度の絶対値が増大している又は操舵速度の絶対値が変化していない場合、ステップS24に進み、トルク低減量決定部18は、操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。この目標付加減速度は、ドライバの意図した車両挙動を正確に実現するために、ステアリング操作に応じて車両1に付加すべき減速度である。
【0027】
具体的には、トルク低減量決定部18は、
図5のマップに示した目標付加減速度と操舵速度との関係に基づき、ステップS22において算出した操舵速度に対応する目標付加減速度を取得する。
図5における横軸は操舵速度を示し、縦軸は目標付加減速度を示す。
図5に示すように、操舵速度が閾値T
S以下である場合、対応する目標付加減速度は0である。即ち、操舵速度が閾値T
S以下である場合、PCM14は、ステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御(具体的にはエンジン4の出力トルクの低減)を停止する。
一方、操舵速度が閾値T
Sを超えている場合には、操舵速度が増大するに従って、この操舵速度に対応する目標付加減速度は、所定の上限値D
max(例えば1m/s
2)に漸近する。即ち、操舵速度が増大するほど目標付加減速度は増大し、且つ、その増大量の増加割合は小さくなる。
【0028】
次に、ステップS25において、トルク低減量決定部18は、付加減速度の増大率が閾値Rmax(例えば0.5m/s
3)以下となる範囲で今回の処理における付加減速度を決定する。
具体的には、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理のステップS24において決定した目標付加減速度への増大率がRmax以下である場合、ステップS24において決定した目標付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する。
一方、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理のステップS24において決定した目標付加減速度への変化率がRmaxより大きい場合、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度から今回の処理時まで増大率Rmaxにより増大させた値を今回の処理における付加減速度として決定する。
【0029】
また、ステップS23において、操舵速度の絶対値が減少している場合、ステップS26に進み、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理における付加減速度として決定する。即ち、操舵速度の絶対値が減少している場合、操舵速度の最大時における付加減速度(即ち付加減速度の最大値)が保持される。
【0030】
また、ステップS21において、操舵角の絶対値が増大中ではない(一定又は減少中である)場合、ステップS27に進み、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度を今回の処理において減少させる量(減速度減少量)を取得する。この減速度減少量は、例えば、予めメモリ等に記憶されている一定の減少率(例えば0.3m/s
3)に基づき算出される。あるいは、ステップS1において取得された車両1の運転状態やステップS22において算出した操舵速度に応じて決定された減少率に基づき算出される。
【0031】
そして、ステップS28において、トルク低減量決定部18は、前回の処理において決定した付加減速度からステップS27において取得した減速度減少量を減算することにより、今回の処理における付加減速度を決定する。
【0032】
ステップS25、S26、又はS28の後、ステップS29において、トルク低減量決定部18は、ステップS25、S26、又はS28において決定した今回の付加減速度に基づき、トルク低減量を決定する。具体的には、トルク低減量決定部18は、今回の付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、ステップS1において取得された現在の車速、ギヤ段、路面勾配等に基づき決定する。このステップS29の後、トルク低減量決定部18はトルク低減量決定処理を終了し、メインルーチンに戻る。
【0033】
図3に戻り、ステップS2及びS3の処理及びステップS4のトルク低減量決定処理を行った後、ステップS5において、最終目標トルク決定部20は、ステップS4において平滑化を行った後の基本目標トルクから、ステップS4のトルク低減量決定処理において決定したトルク低減量を減算することにより、最終目標トルクを決定する。
【0034】
次に、ステップS6において、エンジン制御部22は、ステップS5において設定した最終目標トルクを出力させるようにエンジン4を制御する。具体的には、エンジン制御部22は、ステップS5において設定した最終目標トルクと、エンジン回転数とに基づき、最終目標トルクを実現するために必要となる各種状態量(例えば、空気充填量、燃料噴射量、吸気温度、酸素濃度等)を決定し、それらの状態量に基づき、エンジン4の各構成要素のそれぞれを駆動する各アクチュエータを制御する。この場合、エンジン制御部22は、状態量に応じた制限値や制限範囲を設定し、状態値が制限値や制限範囲による制限を遵守するような各アクチュエータの制御量を設定して制御を実行する。
ステップS6の後、PCM14は、エンジン制御処理を終了する。
【0035】
次に、
図6により、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置の作用を説明する。
図6は、本発明の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両1が旋回を行う場合における、車両用挙動制御装置によるエンジン制御に関するパラメータの時間変化を示す線図である。
【0036】
図6(a)は、右旋回を行う車両1を概略的に示す平面図である。この
図6(a)に示すように、車両1は、位置Aから右旋回を開始し、位置Bから位置Cまで操舵角一定で右旋回を継続する。
【0037】
図6(b)は、
図6(a)に示したように右旋回を行う車両1の操舵角の変化を示す線図である。
図6(b)における横軸は時間を示し、縦軸は操舵角を示す。
この
図6(b)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始され、ステアリングの切り足し操作が行われることにより右向きの操舵角が徐々に増大し、位置Bにおいて右向きの操舵角が最大となる。その後、位置Cまで操舵角が一定に保たれる(操舵保持)。
【0038】
図6(c)は、
図6(b)に示したように右旋回を行う車両1の操舵速度の変化を示す線図である。
図6(b)における横軸は時間を示し、縦軸は操舵速度を示す。
車両1の操舵速度は、車両1の操舵角の時間微分により表される。即ち、
図6(c)に示すように、位置Aにおいて右向きの操舵が開始された場合、右向きの操舵速度が生じ、位置Aと位置Bとの間において操舵速度がほぼ一定に保たれる。その後、右向きの操舵速度は減少し、位置Bにおいて右向きの操舵角が最大になると、操舵速度は0になる。更に、位置Bから位置Cまで右向きの操舵角が保持される間、操舵速度は0のままである。
【0039】
図6(d)は、
図6(c)に示した操舵速度に基づき決定された付加減速度の変化を示す線図である。
図6(d)における横軸は時間を示し、縦軸は付加減速度を示す。また、
図6(d)における実線は、
図4のトルク低減量決定処理において決定された付加減速度の変化を示し、一点鎖線は、操舵速度に基づく目標付加減速度の変化を示す。この一点鎖線により示す目標付加減速度は、
図6(c)に示した操舵速度の変化と同様に、位置Aから増大し始め、位置Aと位置Bとの間においてほぼ一定に保たれ、その後減少して位置Bにおいて0になる。
【0040】
図4を参照して説明したように、トルク低減量決定部18は、ステップS23において操舵速度の絶対値が減少していない場合、即ち操舵速度の絶対値が増大している又は操舵速度の絶対値が変化していない場合、ステップS24において操舵速度に基づき目標付加減速度を取得する。続いて、ステップS25において、トルク低減量決定部18は、付加減速度の増大率が閾値Rmax以下となる範囲で各処理サイクルにおける付加減速度を決定する。
図6(d)では、位置Aから増大を開始した目標付加減速度の増大率が閾値Rmaxを上回っている場合を示している。この場合、トルク低減量決定部18は、増大率=Rmaxとなるように(即ち一点鎖線で示した目標付加減速度よりも緩やかな増大率で)付加減速度を増大させる。また、位置Aと位置Bとの間において目標付加減速度がほぼ一定に保たれている場合、トルク低減量決定部18は、付加減速度=目標付加減速度として決定する。
【0041】
また、上述したように、
図4のステップS23において操舵速度の絶対値が減少している場合、トルク低減量決定部18は、操舵速度の最大時における付加減速度を保持する。
図6(d)では、位置Bに向かって操舵速度が減少している場合、それに伴って一点鎖線により示す目標付加減速度も減少するが、実線により示す付加減速度は最大値を位置Bまで維持する。
【0042】
更に、上述したように、
図4のステップS21において、操舵角の絶対値が一定又は減少中である場合、トルク低減量決定部18は、ステップS27において減速度減少量を取得し、その減速度減少量により付加減速度を減少させる。
図6(d)では、トルク低減量決定部18は、付加減速度の減少率が徐々に小さくなるように、即ち付加減速度の変化を示す実線の傾きが徐々に緩やかになるように、付加減速度を減少させる。
【0043】
図6(e)は、
図6(d)に示した付加減速度に基づき決定されたトルク低減量の変化を示す線図である。
図6(e)における横軸は時間を示し、縦軸はトルク低減量を示す。
上述したように、トルク低減量決定部18は、付加減速度を実現するために必要となるトルク低減量を、現在の車速、ギヤ段、路面勾配等のパラメータに基づき決定する。従って、これらのパラメータが一定である場合、トルク低減量は、
図6(d)に示した付加減速度の変化と同様に変化するように決定される。
【0044】
図6(f)は基本目標トルクとトルク低減量とに基づき決定された最終目標トルクの変化を示す線図である。
図6(f)における横軸は時間を示し、縦軸はトルクを示す。また、
図6(f)における点線は基本目標トルクを示し、実線は最終目標トルクを示す。
図3を参照して説明したように、最終目標トルク決定部20は、ステップS3において決定した基本目標トルクから、ステップS4のトルク低減量決定処理において決定したトルク低減量を減算することにより、最終目標トルクを決定する。
【0045】
図6(g)は、
図6(f)に示した最終目標トルクに基づきエンジン4の制御を行った場合に車両1に発生するヨーレート(実ヨーレート)の変化と、トルク低減量決定部が決定したトルク低減量に基づくエンジン4の制御を行わなかった場合(即ち
図6(f)に点線で示した基本目標トルクを実現するようにエンジン4の制御を行った場合)の実ヨーレートの変化とを示す線図である。
図6(g)における横軸は時間を示し、縦軸はヨーレートを示す。また、
図6(g)における実線は、最終目標トルクを実現するようにエンジン4の制御を行った場合の実ヨーレートの変化を示し、点線は、トルク低減量に対応する制御を行わなかった場合の実ヨーレートの変化を示す。
位置Aにおいて右向きの操舵が開始され、右向きの操舵速度が増大するにつれて
図6(e)に示したようにトルク低減量を増大させると、車両1の操舵輪である前輪2の荷重が増加する。その結果、前輪2と路面との間の摩擦力が増加し、前輪2のコーナリングフォースが増大するため、車両1の回頭性が向上する。即ち、
図6(g)に示すように、位置Aと位置Bとの間において、トルク低減量に対応する制御を行わなかった場合(点線)よりも、トルク低減量を反映した最終目標トルクを実現するようにエンジン4の制御を行った場合(実線)の方が、車両1に発生する時計回り(CW)のヨーレートが大きくなる。
また、
図6(d)、(e)に示したように、位置Bに向かって操舵速度が減少するとき目標付加減速度も減少するが、トルク低減量を最大値のまま維持しているので、操舵の切り込みが継続されている間は前輪2に付加した荷重が維持され、車両1の回頭性が保たれる。
更に、位置Bから位置Cにおいて操舵角の絶対値が一定である場合、トルク低減量を滑らかに減少させるので、操舵の切り込みの終了に応じて徐々に前輪2に付加した荷重を低減し、前輪2のコーナリングフォースを減少させることにより車体を安定させつつ、エンジン4の出力トルクを回復させる。
【0046】
次に、上述したエンジン制御処理においてPCM14がステアリング操作に基づき車両1に減速度を付加するための制御(即ちエンジン4の出力トルクの低減)を停止する閾値T
Sについて説明する。
【0047】
本発明者らは、閾値T
Sの適切な設定値を見出すため、上述の実施形態による車両用挙動制御装置を搭載した車両1において、閾値T
Sを1deg/s〜8deg/sの範囲で1deg/sずつ変更し、それぞれの閾値T
Sの下で車両1に直線路を走行させた場合における車両1の挙動に対するドライバの主観評価を取得する実験を行った。実験は、複数のドライバにより複数回ずつ実施し、主観評価による評価点の平均値を取得した。実験条件は以下の通りである。
車両:マツダ アクセラ(2014年モデル、前輪駆動、1.5Lガソリンエンジン及びオートマチックトランスミッション搭載)
車重:1226kg
トー角:0.11°±0°20′
ステアリングホイール径:36cm
実験コース:全長1.4kmの直線路
車速:80〜100km/h
【0048】
実験結果を
図7に示す。
図7は、閾値T
Sを変化させた場合における直進時の車両1の挙動に対するドライバの主観評価を示す線図である。
図7において、横軸は閾値T
Sを示し、縦軸は車両1の挙動に対する評価点を示す。主観評価は、ステアリングホイール6の操作感や車両1の挙動(応答性や安定性)をドライバが採点することにより行った。評価点の5点は、例えば市場において不評が出ても少数であるレベル、6点は不評及び好評共にほとんど出ないレベル、7点以上はかなり好評されるレベルである。
【0049】
図7に示すように、閾値T
Sが3deg/s未満の値に設定した場合、閾値T
Sを小さくするほど評価点は徐々に低下し、6点前後に留まっている。これは、この範囲の閾値T
Sを用いた場合、ゆっくりとした微小なステアリング操作を行った場合でも、PCM14によりトルク低減が行われ、車両1の回頭性が向上したことにより、ドライバは、直進時のステアリング操作に対する車両1の挙動が過敏であり直進性が悪化したと感じることがあったからである。また、トルク低減により車両1のコーナリングフォースが増大し、それに応じてステアリングの反力が増大したことにより、ステアリングホイール6のセンター付近で抵抗力を感じるので、ドライバが違和感を覚えたケースもあった。
【0050】
また、閾値T
Sが5deg/sを上回る値に設定した場合には、閾値T
Sを大きくするほど評価点は急激に低下し、5点程度に留まっている。これは、この範囲の閾値T
Sを用いた場合、PCM14がトルク低減を停止する操舵速度の範囲が広く、ドライバがステアリング操作を開始した後にPCM14がトルクの低減を行うようになるまでに遅れが生じるので、直進時の車両1の応答性が低く頼りないと感じたり、ステアリングホイール6の操作感に不連続性を感じたりするケースがあったからである。
【0051】
一方、閾値T
Sが3deg/s以上5deg/s以下の範囲に設定した場合、評価点が7点を上回る高い評価が得られた。この範囲の閾値T
Sを用いた場合、直進時のステアリング操作に対する車両1の応答性と、ステアリングホイール6の操作感とのバランスが良好であったことにより、高い評価が得られた。特に、閾値T
Sを4deg/sに設定した場合、直進時の微小なステアリング操作に対して車両1が過剰に反応することはないが、直進状態を維持するためのステアリング操作に対しては良好な応答性で車両1の挙動が制御されるので、ドライバにとっては直進状態を維持し易く、また、ステアリングホイール6の操作感も安定感がありつつ重過ぎないことにより、最も高い評価が得られた。
【0052】
次に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
上述した実施形態においては、トルク低減量決定部18は、ヨーレート関連量としての操舵速度に基づき目標付加減速度を取得し、この目標付加減速度に基づいてトルク低減量を決定すると説明したが、アクセルペダルの操作以外の車両1の運転状態(操舵角、ヨーレート、スリップ率等)に基づきトルク低減量を決定するようにしてもよい。
例えば、トルク低減量決定部18は、操舵角及び車速から算出した目標ヨーレートや、ヨーレートセンサから入力されたヨーレートに基づき、車両1に発生させるべき目標ヨー加速度をヨーレート関連量として算出し、その目標ヨー加速度に基づき目標付加減速度を取得して、トルク低減量を決定するようにしてもよい。あるいは、加速度センサにより、車両1の旋回に伴って発生する横加速度をヨーレート関連量として検出し、この横加速度に基づきトルク低減量を決定するようにしてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態においては、車両用挙動制御装置を搭載した車両1は、駆動輪を駆動するエンジン4を搭載すると説明したが、バッテリやキャパシタから供給された電力により駆動輪を駆動するモータを搭載した車両についても、本発明による車両用挙動制御装置を適用することができる。この場合、PCM14は、車両1の操舵速度に応じてモータのトルクを低減させる制御を行う。
【0054】
次に、上述した本発明の実施形態及び本発明の実施形態の変形例による車両用挙動制御装置の効果を説明する。
【0055】
まず、PCM14は、操舵速度が予め定めた閾値T
Sを超えている場合において、車両1の操舵角が増大し且つ操舵速度が増大している場合、操舵速度が増大するほど車両1のトルク低減量を増大させ、操舵速度が閾値T
S以下である場合、トルクの低減を停止するように制御するので、操舵速度が予め定めた閾値T
Sを超えている場合には、その操舵速度に応じたトルク低減量によって車両1に減速度を付加し、荷重を迅速に車両1に加えることにより、ドライバによる意図的なステアリング操作に対して良好な応答性で車両1の挙動を制御することができ、操舵速度が閾値T
S以下である場合には、微小なステアリング操作に対して車両1が過剰に反応することを抑制でき、これにより、直進時の車両挙動についてドライバに違和感を与えることなく、ドライバの意図した挙動を正確に実現するように車両1の挙動を制御することができる。
【0056】
特に、閾値T
Sは、3deg/s以上5deg/s以下の範囲に設定され、より好ましくは4deg/sに設定されているので、直進時のステアリング操作に対する車両1の挙動が過敏であり直進性が悪化したと感じることや、直進時のステアリング操作に対する車両1の応答性が低く頼りないと感じることを防止でき、更に、ステアリングホイール6の操作感が重過ぎたり不連続性を感じさせたりすることを防止でき、これにより、直進時の車両挙動についてドライバに違和感を与えることを確実に防止しつつ、ドライバの意図した挙動を正確に実現するように車両1の挙動を制御することができる。
【0057】
また、PCM14は、操舵速度が予め定めた閾値T
Sを超えている場合において、車両1の操舵角が増大し且つ操舵速度が増大している場合、操舵速度が増大するほど、トルク低減量の増大量の増加割合を低減するように制御するので、車両1の操舵が開始され、車両1の操舵速度が増大し始めると、トルク低減量を迅速に増大させることができ、これにより、車両1の操舵開始時において減速度を迅速に車両1に付加し、十分な荷重を操舵輪である前輪2に迅速に加えることができる。これにより、操舵輪である前輪2と路面との間の摩擦力が増加し、前輪2のコーナリングフォースが増大するので、カーブ進入初期における車両1の回頭性を向上することができ、直進時の車両挙動についてドライバに違和感を与えることを確実に防止しつつ、ステアリングの切り込み操作に対する応答性を向上できる。