【文献】
Gamal M Ghoniem, et al.,Differential profile analysis of urinary cytokines in patients with overactive bladder,Int Urogynecol J,米国,2011年 4月13日,22,P953-961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(b)の工程が、健常者の尿における量と比較して、前記式(3)、(1)、(2)、(4)、(6)及び(7)で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物の量が減少した場合に過活動膀胱を検出したとし、前記式(5)で表される化合物の量が増加した場合に過活動膀胱を検出したとする工程である、請求項3記載の検査方法。
前記(D)の工程が、被検物質投与前の被験体の尿における量と比較して、前記式(3)、(1)、(2)、(4)、(6)及び(7)で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物が増加した場合に、その被検物質を予防又は改善剤として選択し、前記式(5)で表される化合物の量が減少した場合に、その被検物質を予防又は改善剤として選択する工程である、請求項6記載のスクリーニング方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のバイオマーカーは、下記式(1)〜(7)で表される化合物である。
下記式(1)で表される化合物は、過酸化水素である。
下記式(2)で表される化合物は、ピルビン酸である。
下記式(3)で表される化合物は、タウリンである。
下記式(4)で表される化合物は、アセト酢酸である。
下記式(5)で表される化合物は、フマル酸である。
下記式(6)で表される化合物は、メチオニンである。
下記式(7)で表される化合物は、セリンである。
【0014】
前記式(1)〜(7)で表される化合物は各々、排尿障害の検査、検出用バイオマーカーとして用いることができる。バイオマーカーとして、これらの化合物を1種単独で用いてもよいし、複数種を適宜組合せて用いてもよい。本発明のバイオマーカーは、生体から採取された尿中の前記式(1)〜(7)で表される化合物を用いる。
【0015】
本発明のバイオマーカーは、排尿障害の有無又は進行度の指標として用いることができる。具体的には、前記式(1)〜(7)で表される化合物は各々、排尿障害の有無の指標として用いることができ、さらに、前記式(1)〜(5)で表される化合物は各々、排尿障害の進行度の指標としても用いることができる。
排尿障害として具体的には、頻尿、過活動膀胱が挙げられる。過活動膀胱のバイオマーカーとして用いる場合、特に軽症の過活動膀胱の検査、検出用に適している。なお、本発明においては、1日あたりの排尿回数が8回以上の場合を「頻尿」と定義する。また、軽症の過活動膀胱とは、後述の実施例で用いた過活動膀胱症状質問票において、スコア判定の「軽症」に該当することをいう。
【0016】
本発明のバイオマーカーは、排尿障害の検査や、排尿障害の予防又は改善剤のスクリーニングに用いることができる。以下、順に説明する。
【0017】
本発明の排尿障害の検査方法は、尿中のバイオマーカーの量、すなわち前記式(1)〜(7)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物の量を指標として、排尿障害の検査、検出を行うものである。
当該方法は、以下の工程(a)及び(b)を含むことが好ましい。
(a)被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(b)測定結果に基づいて、排尿障害の検出を行う工程
【0018】
本発明の検査方法の対象、すなわち、前記工程(a)の被験体としては特に限定されず、ヒト及び他の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としては、サル、チンパンジー、犬、猫、牛、豚、ラット及びマウス等が挙げられる。
被験体からの尿の採取は通常の方法で行うことができ、例えば、採尿カップ等を用いた採取法が挙げられる。尿を採取する時期は特に限定されない。
尿中のバイオマーカー量を測定する前に、採取した尿を限外ろ過し、夾雑物を除去しておくことが好ましい。限外ろ過に用いるフィルタは、カットオフ分子量が3000以下のものが好ましい。
【0019】
前記工程(a)で測定するバイオマーカーは、前記式(1)〜(7)で表される化合物から選択される1つの化合物のみでもよいし、複数の化合物を併せて用いてもよい。検出の信頼性の点からは、複数のバイオマーカーを測定することが好ましい。
バイオマーカー量の測定方法は、尿中の生体分子量を測定する通常の方法を用いることができる。
前記式(1)で表される化合物の測定は、過酸化水素による鉄イオンの酸化に伴う色素の呈色反応を利用することが好ましい。
前記式(2)〜(7)で表される化合物の測定法として、例えば、高速液体クロマトグラフィー−質量分析法(LC−MS)や、ガスクロマトグラフィー−質量分析法(GC−MS)などが挙げられる。前記式(2)〜(7)で表される化合物をまとめて測定できるという点から、キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析法(CE−TOFMS;Capillary Electrophoresis−Time of Flight Mass Spectrometry)が好ましい。
【0020】
キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計(CE−TOFMS)を用いる場合、例えば、特開2007−192746号公報に記載の条件に従って測定を行うことができる。CE−TOFMSでの陽イオン性物質測定のための条件として、例えば下記が例示できる。
キャピラリー電気泳動(CE)の分析条件: フューズドシリカキャピラリー(内径50μm、外径350μm、全長100cm);キャピラリー温度 20℃;緩衝液 1Mギ酸(pH約1.8);印加電圧 +30kV;試料注入 加圧法(50mbar、3秒間)
飛行時間型質量分析計(TOFMS)の分析条件: 正イオンモード;イオン化電圧 4kV;フラグメンター電圧 75V;スキマー電圧 50V;OctRFV電圧 125V;乾燥ガス 窒素(温度300℃、圧力10psig);シース液 50%メタノール溶液。質量較正用にレゼルピン(m/z 609.2807)を0.5μMとなるよう混入し10μ/minで送液する。レゼルピン(m/z 609.2807)とメタノールのアダクトイオン(m/z83.0703)の質量数を用いて得られた全てのデータを自動較正する。
CE−TOFMSでの陽イオン性物質測定のための条件としては、例えば下記が例示できる。
キャピラリー電気泳動(CE)の分析条件: SMILE(+)キャピラリー(内径50μm、外径350μm、全長100cm);キャピラリー温度 20℃;緩衝液 50mM酢酸アンモニウム(pH8.5);印加電圧 −30kV;試料注入 加圧法(50mbarで30秒間)
飛行時間型質量分析計(TOFMS)の分析条件: 負イオンモード;イオン化電圧 3.5kV;フラグメンター電圧 100V;スキマー電圧 50V;OctRFV電圧 200V;乾燥ガス 窒素(温度300℃、圧力10psig);シース液 5mM酢酸アンモニウム−50%メタノール溶液。質量較正用に20μMPIPESおよび1μMレゼルピン(m/z 609.2807)を加え10μ/minで送液する。レゼルピン(m/z 609.2807)とPIPESの1価(m/z301.0534)と2価(m/z150.0230)の質量数を用いて得られた全てのデータを自動較正する。
【0021】
後述のように、本発明の検出方法では、測定値と基準値との比較による相対的な検出が可能である。このため、測定方法は必ずしも厳密な定量方法でなくともよく、測定値が基準値を超えるか否かが検出できるのであれば、例えば、半定量的にマーカー量を測定する方法も用いることができる。
【0022】
尿中のバイオマーカー量を測定した後、工程(b)により、測定結果に基づいた排尿障害の検出を行う。検出は、バイオマーカー量の測定値を基準値と比較することにより行うことが好ましい。
検出に用いるバイオマーカー量の測定値は、絶対量であることが好ましいが、基準値と相関して測定できる値であれば、相対量や、単位体積当たりの重量、絶対量を得るために測定した元データ(例えば、鉄イオンの酸化に伴う色素の呈色の程度を示す値、又はCE−TOFMS測定によって得られるグラフのピーク面積を標準化して得られる値)なども、測定値として使用できる。
【0023】
排尿障害検出に用いる基準値として、健常者の尿中の前記式(1)〜(7)で表される化合物の量を用いることが好ましい。健常者とは、頻尿及び過活動膀胱の症状を呈しない者をいう。この場合、工程(b)では、工程(a)で得られた各バイオマーカーの測定値を、健常者の尿における各化合物の量(基準値)と比較する。その結果、前記式(1)〜(4)、(6)又は(7)のいずれかで表される化合物の測定値が基準値よりも低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(5)で表される化合物の測定値が基準値よりも高い場合に排尿障害を検出したとする。
【0024】
また、尿中の絶対濃度を測定値として検出に用いる場合は、工程(b)における各バイオマーカーの基準値を以下のように設定し、検出を行うことも好ましい。
前記式(1)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、1.56μmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(2)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、0.7μM(CE−TOFMS検出下限値)であり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(3)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、202.0mmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(4)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、30.2mmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(5)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、196.5mmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより高い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(6)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、4.1mmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
前記式(7)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合の基準値は、258.4mmol/molクレアチニンであり、測定値がこれより低い場合、排尿障害を検出したとする。
【0025】
さらに、前記式(1)〜(5)で表される化合物をバイオマーカーとして用いる場合は、上記基準値に照らして、排尿障害の進行度を検出することもできる。
この場合、前記式(1)〜(4)で表される化合物の測定値が基準値より低いほど、排尿障害が進行している(重度)と検出し、前記式(5)で表される化合物の測定値が基準値より高いほど、排尿障害が進行している(重度)と検出する。
【0026】
本発明のスクリーニング方法は、尿中のバイオマーカーの量、すなわち前記式(1)〜(7)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物の量を指標として、排尿障害の予防又は改善剤のスクリーニングを行うものである。
当該方法は、以下の工程(A)〜(D)を含むことが好ましい。
(A)被検物質投与前の被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(B)被験体に被検物質を投与する工程
(C)被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(D)被検物質投与前後の測定結果に基づいて、排尿障害の予防又は改善剤として有用な被検物質を選択する工程
【0027】
工程(A)では、被検物質を投与する前の被験体から尿を採取し、尿中のバイオマーカー量を測定する。測定は、上述した検出方法の工程(a)と同様に行う。
被験体は、上述した検出方法における被験体と同義である。
【0028】
工程(B)では、排尿障害の予防又は改善剤の候補物質を被験体に投与する。
被検物質は、排尿障害の予防又は改善剤の候補とされる物質であり、例えば、各種化合物、食品素材等が挙げられる。
【0029】
工程(C)では、被検物質投与後の被験体から尿を採取し、尿中のバイオマーカー量を測定する。当該工程は、上述した検出方法の工程(a)と同様に行うことができる。
【0030】
工程(D)では、上記工程(A)〜(C)で測定した被検物質投与前後における被験体の尿中バイオマーカー量に基づいて、排尿障害の予防又は改善剤として有用な被検物質を選択する。
具体的には、被検物質投与後の尿中のバイオマーカー測定値と、被検物質投与前の尿中のバイオマーカー測定値とを比較して、被検物質投与後の尿中のバイオバーカー量の変化を確認する。その結果、投与後の前記式(1)〜(4)、(6)及び(7)のいずれかで表される化合物の測定値が投与前の測定値よりも高い場合に投与した被検物質を予防又は改善剤として選択し、投与後の前記式(5)で表される化合物の測定値が投与前の測定値よりも低い場合に、投与した被検物質を予防又は改善剤として選択する。
この際に用いるバイオマーカー量の測定値は、上述した検出方法の工程(b)と同様、絶対量であることが好ましいが、投与前後のバイオマーカー量を比較できるのであれば、相対量等であってもよい。
【0031】
さらに、予防又は改善剤として有用な被検物質を絞り込むため、上記工程(C)で選択された被検物質について、健常者の尿中バイオマーカー量との比較も行うことが好ましい。すなわち、当該被検物質投与後の尿中バイオマーカー測定値と健常者の尿中バイオマーカー量とをさらに比較することで、投与の前後で測定値が変化し、かつ健常者の値により近い物質を予防又は改善剤として選択することができる。
【0032】
さらに、本発明のバイオマーカーは、排尿障害の治療効果判定にも用いることもできる。
この場合、基本的には、上述したスクリーニング方法と同様の手順で実施し、判定できる。具体的には、被験者に被検物質として治療剤を投与し、投与の前後で、尿中のバイオマーカー量を測定し、比較する。上述したスクリーニング方法と同様、投与後の測定値と健常者の尿中バイオマーカー量とを比較することも好ましい。その結果、投与の前後で測定値に変化が見られ、かつ健常者の値に近づいていく場合、治療効果ありと判定できる。
【0033】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のバイオマーカー、及び方法を開示する。
【0034】
<1> 前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、排尿障害検査用のバイオマーカー。
<2> 前記排尿障害が頻尿又は過活動膀胱である、<1>項記載のバイオマーカー。
<3> 前記過活動膀胱が軽症の過活動膀胱である、<2>項記載のバイオマーカー。
<4> 前記式(1)〜(5)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含む、排尿障害の進行度検査用バイオマーカー。
<5> 前記式(1)〜(7)で表される化合物が尿中の化合物である、<1>〜<4>のいずれか1項記載のバイオマーカー。
【0035】
<6> 尿中の、前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を指標とする、排尿障害の検査方法。
<7> 以下の工程(a)及び(b)を含む、<6>項記載の検査方法。
(a)被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(b)測定結果に基づいて、排尿障害の検出を行う工程
<8> 前記(b)の工程が、健常者の尿における量と比較して、前記式(1)〜(4)、(6)及び(7)で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物の量が減少した場合に排尿障害を検出したとし、前記式(5)で表される化合物の量が増加した場合に排尿障害を検出したとする工程である、<7>項記載の方法。
<9> 前記(b)の工程が、前記式(1)で表される化合物の測定値が1.56μmol/molクレアチニンより低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(2)で表される化合物の測定値が0.7μMより低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(3)で表される化合物の測定値が202.0mmol/molクレアチニンより低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(4)で表される化合物の測定値が30.2mmol/molクレアチニンより低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(5)で表される化合物の測定値が196.5mmol/molクレアチニンより高い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(6)で表される化合物の測定値が4.1mmol/molクレアチニンより低い場合に排尿障害を検出したとし、前記式(7)で表される化合物の測定値が258.4mmol/molクレアチニンより低い場合に排尿障害を検出したとする工程である、<7>又は<8>項記載の方法。
<10> 前記排尿障害が頻尿又は過活動膀胱である、<6>〜<9>のいずれか1項に記載の方法。
<11> 前記過活動膀胱が軽症の過活動膀胱である、<10>項記載の方法。
<12> 前記(a)の測定を、鉄イオンの酸化に伴う色素の呈色反応、又はキャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析法(CE−TOFMS)により行う、<6>〜<11>のいずれか1項に記載の方法。
【0036】
<13> 尿中の、前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を指標とする、排尿障害の予防又は改善剤のスクリーニング方法。
<14> 以下の工程(A)〜(D)を含む、<13>項記載の方法。
(A)被検物質投与前の被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(B)被験体に被検物質を投与する工程
(C)被験体から尿を採取し、尿中における前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を測定する工程
(D)被検物質投与前後の測定結果に基づいて、排尿障害の予防又は改善剤として有用な被検物質を選択する工程
<15> 前記(D)の工程が、被検物質投与前の被験体の尿における量と比較して、前記式(1)〜(4)、(6)及び(7)で表される化合物から選ばれるいずれかの化合物が増加した場合に、その被検物質を予防又は改善剤として選択し、前記式(5)で表される化合物の量が減少した場合に、その被検物質を予防又は改善剤として選択する工程である、<14>項記載の方法。
<16> 前記排尿障害が頻尿又は過活動膀胱である、<13>〜<15>のいずれか1項に記載の方法。
<17> 前記過活動膀胱が軽症の過活動膀胱である、<16>項記載の方法。
<18> 前記(A)及び(C)の測定を、鉄イオンの酸化に伴う色素の呈色反応、又はキャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析法(CE−TOFMS)により行う、<13>〜<17>のいずれか1項に記載の方法。
【0037】
<19> 尿中の、前記式(1)〜(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の量を指標とする、排尿障害の治療効果評価又は判定方法。
【0038】
<20> 前記式(1)〜(7)で表されるいずれかの化合物の、排尿障害バイオマーカーとしての使用。
<21> 前記排尿障害が頻尿又は過活動膀胱である、<20>項記載の使用。
<22> 前記過活動膀胱が軽症の過活動膀胱である、<21>項記載の使用。
<23> 前記式(1)〜(5)で表されるいずれかの化合物の、排尿障害進行度検査用バイオマーカーとしての使用。
<24> 前記(1)〜(7)で表されるいずれかの化合物が尿中の化合物である、<20>〜<23>のいずれか1項記載の使用。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
実施例
1.被験者の選定と、尿サンプルの採取
頻尿障害の報告例が多い40〜50代女性を対象とし、1日あたりの排尿回数を基準に、排尿回数が8回以上の10名を排尿障害者群、排尿回数がそれ以下である8名を健常者群として選抜した。
被験者から、午前9〜10時頃に、その日の2回目以降の尿を全量採取した。採取した尿は、測定まで凍結保存した。なお、食事内容が影響しないよう、採尿前日の昼食及び夕食、及び採尿当日の朝食は、被験者全員が同一のものを摂取した。
【0041】
2.被験者に対する排尿日誌及びアンケートの実施
採尿日の4日前から前日にかけての3日間、被験者は排尿日誌に、排尿時間と排尿量、飲水時間と摂取量等を記録した。
さらに、採尿日に、被験者に対し2種類のアンケートを実施した。
1つめのアンケートは、過活動膀胱症状質問票(OABSS;overactive bladder symptom score)で、これは病院での問診の際にも過活動膀胱の症状(重症度)判定によく用いられるものである。過活動膀胱症状質問票の内容や実施については、例えば、書籍:「排尿障害のすべて」(西澤 理 著,永井書店,P84)、文献:Hiroki Y. et al., Urology, 76(5):1267.e13-19, 2010等を参照できる。
2つめのアンケートは、国際前立腺スコア(IPSS:International Prostate Symptom Score)で、WHO(世界保健機構)が定めた問診表である。この国際前立腺スコアには、QOL(Quality of Life)スコアが付属しており、これについても被験者に記入してもらった。国際前立腺スコア及びQOLスコアの内容や実施については、例えば、書籍:「排尿障害のすべて」(西澤 理 著,永井書店,P24-26)、文献:日泌尿会誌(Japanese journal of urology),95巻,6号,2004年,p.766-772等を参照できる。なお、当該前立腺スコア判定は、過活動膀胱の女性患者に対しても実施されることがあるものである(例えば、International Neurourology Journal,2010 Aug,14(2),86-92参照)。
アンケートの実施結果を表1に示す。表1において、各スコアの数値が高い程、過活動膀胱の症状が重いこと、又はQOLが損なわれていることを示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から明らかなように、排尿回数、OABSS、IPSS、及びQOLスコアのいずれについても、健常者群と排尿障害者群との間に有意差が認められた。排尿障害者群の示したOABSS及びIPSSの数値はいずれも、各スコアの判定において「軽症」に該当するものであった。また、QOLスコアの判定において、健常者群は「満足」に、排尿障害者群は「やや不満」にそれぞれ該当した。
これらの結果から、選抜した排尿障害者群は軽度な排尿障害、すなわち頻尿症状を呈しており、且つ過活動膀胱の軽症段階にあたると推定された。
【0044】
3.バイオマーカーの測定
3−1.式(2)〜(7)で表される化合物の測定
被験者から採取した尿サンプルを用いて、前記式(2)〜(7)で表される化合物の尿中濃度を測定した。測定には、キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計(CE−TOFMS)を用いた。
具体的には、凍結保存された尿サンプルを自然解凍し、下記に示す内部標準物質1mMを含むMilli-Q水(ミリポア社製、超純水製造装置「MilliQ」使用)で5倍に希釈した後、限外ろ過フィルターにより分子量3,000以下の分画を回収した。回収画分をCE−TOFMSの測定モードに応じて適宜希釈して分析用試料とした。陽イオン性代謝物質の測定には、この試料をそのまま用い、陰イオン性代謝物質の測定には、Milli-Q水でさらに2倍希釈したものを用いて、CE−TOFMSで測定を行った。
【0045】
CE−TOFMSでの陽イオン性代謝物質の測定及び陰イオン性代謝物質の測定条件を下記に示す。
【0046】
(A)陽イオン性物質測定条件(カチオンモード)
(i)キャピラリー電気泳動装置の測定条件
キャピラリーカラム :ヒューズドシリカ、内径50μm×全長100cm
緩衝液 :1M ギ酸水溶液
電圧 :+30kV
キャピラリー温度 :20℃
サンプル注入 :50mbar、3秒
(ii)飛行時間型質量分析装置の測定条件
極性 :ポジティブ
キャピラリー電圧 :4,000V
フラグメンター :75V
ドライングガス :N
2
ドライングガス 温度 :300℃
噴霧器ガス圧 :10psig
シース液 :50% MeOH/Water
Flow rate :10μL/min
【0047】
(B)陰イオン性物質測定条件(アニオンモード)
(i)キャピラリー電気泳動装置の測定条件
キャピラリーカラム :COSMO(+)、内径50μm×全長110cm
緩衝液 :50mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH8.5)
電圧 :-30kV
キャピラリー温度 :20℃
サンプル注入 :50mbar、30秒
(ii)飛行時間型質量分析装置の測定条件
極性 :ネガティブ
キャピラリー電圧 :3,500kV
フラグメンター :100V
ドライングガス :N
2
ドライングガス 温度 :300℃
噴霧器ガス圧 :10psig
シース液 :5mM酢酸アンモニウム含有 50% MeOH/Water
Flow rate :10μL/min
【0048】
3−2.式(1)で表される化合物の測定
被験者から採取した尿サンプルを用いて、前記式(1)で表される化合物の尿中濃度を測定した。測定には、BIOXYTECH H2O2 Assay Kit(OXIS製)を用いた。
具体的には、凍結保存された尿サンプルを自然解凍して遠心分離した後、限外ろ過フィルターにより分子量10,000以下の分画を回収した。回収分画を遠心分離し、上清20μLと、キットのWorking Solution 180μLとを混合した。波長可変式マイクロプレートリーダー「VientXS」(大日本製薬製)を用いて、この溶液の、560nmの吸光度を測定した。
【0049】
4.測定濃度の補正
上記3.で測定した、前記式(1)〜(7)で表される化合物の尿サンプル中の濃度を補正するため、LabAssay
TMCreatinine(WAKO製)を用いて尿サンプル中のクレアチニン濃度を測定した。
まず、尿サンプル50μLと除タンパク試薬300μLとをよく混和し、室温で10分間静置した。その後、50μLのピクリン酸試薬と0.75mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を加え、波長可変式マイクロプレートリーダー「VientXS」(大日本製薬製)を用いて、波長520nmの吸光度を測定した。
上記3−1で測定した前記式(2)〜(7)で表される化合物、及び上記3−2で測定した前記式(1)で表される化合物の尿中濃度を、クレアチニン濃度で補正した。
補正後の測定結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、前記式(1)及び(3)〜(7)で表される化合物の尿中濃度は、健常者群と排尿障害者群との間で有意差が認められた。前記式(5)で表される化合物は、健常者群に比べ、排尿障害者群での尿中濃度が有意に上昇していた。一方、前記式(1)、(3)、(4)、(6)及び(7)で表される化合物は、健常者群に比べ、排尿障害者群での尿中濃度が有意に低下していた。また、前記式(2)で表される化合物は、健常者群のみにおいて検出された。
これらの結果から、前記式(1)〜(7)で表される化合物は、排尿障害、すなわち頻尿及び過活動膀胱のバイオマーカーとして有用であることが確認された。
【0052】
さらに、前記式(1)〜(5)で表される化合物においては、その尿中濃度と、排尿回数、OABSS、IPSS、又はQOLスコアの値との間に、有意な相関関係が見られた(表3)。
【0053】
【表3】
【0054】
前記式(1)〜(4)で表される化合物は、排尿障害者群で尿中濃度が低いことが確認され(表2)、さらに、当該尿中濃度は排尿回数、OABSS、IPSS、又はQOLスコアと負の相関を示した(表3)。このことから、被験者の尿中に含まれる前記式(1)〜(4)で表される化合物の量が少ない程、排尿障害、すなわち頻尿及び過活動膀胱の症状が重症で、QOLが低下していると判断できる。
前記式(5)で表される化合物は、排尿障害者群で尿中濃度が高いことが確認され(表2)、さらに、当該尿中濃度はOABSS及びQOLスコアと正の相関を示した(表3)。このことから、被験者の尿中に含まれる前記式(5)で表される化合物の量が多い程、排尿障害、すなわち頻尿及び過活動膀胱の症状が重症で、QOLが低下していると判断できる。
【0055】
以上の結果から、前記式(1)〜(7)で表される化合物は、排尿障害、すなわち頻尿及び過活動膀胱の有無を検出できるバイオマーカーとして有用であること、さらに、前記式(1)〜(5)で表される化合物では、排尿障害の軽重、すなわち頻尿及び過活動膀胱の症状の軽重(進行度)についても検出可能なことが確認された。
【0056】
参考例 既知の過活動膀胱バイオマーカーの測定
過活動膀胱のバイオマーカーとして知られている、NGF(Nerve Growth Factor)、PGE
2(Prostaglandin E
2)、及びMCP1(Monocyte Chemotactic Protein-1)について、それらの尿中濃度を測定した。
【0057】
1.NGFの測定
上記実施例と同様の方法により被験者から採取した尿サンプルを用いて、NGFの尿中濃度を測定した。測定には、NGF Emax ImmunoAssay System(Promega製)を用いた。
具体的には、凍結保存された尿サンプルを自然解凍して遠心分離した後、上清をさらに0.22μmフィルターを用いて遠心分離した。遠心分離後、上清を回収して塩酸で処理し、測定サンプルとした。予めポリクローナルNGF抗体とブロッキング処理したプレートに、測定サンプル100μLとNGF抗体溶液100μLを添加し、4℃で12時間処理した。その後、2次抗体溶液とTMB one solutionを各100μL添加し、波長可変式マイクロプレートリーダー「VientXS」(大日本製薬製)を用いて、450nmの吸光度を測定した。
【0058】
2.PGE
2の測定
上記実施例と同様の方法により被験者から採取した尿サンプルを用いて、PGE
2の尿中濃度を測定した。測定には、Prostaglandin E
2 Express EIA Kit(Cayman Chemical Company製)を用いた。
具体的には、凍結保存された尿サンプルを自然解凍した後、モノクローナルPGE
2抗体溶液と共にプレートに添加した。その後、Ellmans Reagent200μLを添加し、1時間震盪処理した後、波長可変式マイクロプレートリーダー「VientXS」(大日本製薬製)を用いて、405nmの吸光度を測定した。
【0059】
3.MCP1の測定
上記実施例と同様の方法により被験者から採取した尿サンプルを用いて、MCP1の尿中濃度を測定した。測定には、Human CCL2/MCP1 ImmunoSystem(Promega製)を用いた。
具体的には、凍結保存された尿サンプルを自然解凍して遠心分離した後、上清200μLをプレートに添加した。その後、プレートを洗浄した後、MCP1-conjyugate 200μL、Substrate Soliution 200μLを添加し、サンプルと反応させ、波長可変式マイクロプレートリーダー「VientXS」(大日本製薬製)を用いて、450nmと540nmの吸光度を測定した。
【0060】
上記で測定したNGF、PGE
2、MCP1の尿中濃度を、クレアチニン濃度で補正した。
補正後の測定結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、NGF、PGE
2、及びMCP1の尿中濃度は、健常者群と排尿障害者群との間で有意差が認められなかった。すなわち、これらは排尿障害、すなわち頻尿及び過活動膀胱、特に軽症の過活動膀胱の有無を検出しうるバイオマーカーとしては、不十分であるといえる。