(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維間距離が異なる2層の親水処理された繊維シートに対し、繊維間距離が短い方の層側から疎水剤を塗布して、肌当接面側となる面と非肌当接面側となる面との疎水剤の広がりを調節して表面疎水部及び裏面疎水部を形成する工程と、互いに噛み合う一対の凹凸ロールを用いて前記裏面疎水部及び表面疎水部が凸部に配されるように前記繊維シートを凹凸賦形する工程とを有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の吸収性物品用の表面シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る表面シートを用いた吸収性物品の好ましい一実施形態として失禁パッドについて、図面を参照しながら以下に説明する。
【0012】
本発明においては、特に断らない限り、人体に接触する側を肌面側ないし肌当接面側あるいは表面側といい、これと反対側を非肌面側ないし非肌当接面側あるいは裏面側という。着用時に人体の前側に位置する方向を前方といいその端部を前端部とし、後側に位置する方向を後方といいその端部を後端部として説明する。この前端部と後端部とを結ぶ方向、つまり着用者の腹側部から股下部を介して背側部に亘る方向を、吸収性物品の縦方向(Y方向)という。この縦方向と直交する方向を横方向(X方向)という。また、吸収性物品の表面又は裏面の法線方向を厚み方向といいその量を厚みという。
【0013】
図1には、本実施形態の失禁パッド10の全体構造が示されている。失禁パッド10は、肌当接面側に配された液透過性の表面シート1、非肌当接面側に配された液難透過性の裏面シート2、及び前記両シートの間に介在配置された液保持性の吸収体5を備える。さらに、失禁パッド10の左右両側には、起立防漏壁60をなす撥水性のサイドシート6が配されている。
【0014】
このようにして形成された失禁パッド10は、縦方向(Y方向)と、該縦方向と直交する横方向(X方向)とを有する、縦長形状である。表面シート1は、その長手方向を失禁パッド10の縦方向に向けて配される縦長形状である。この表面シート1を着用者の肌に当接させるようにして失禁パッド10が装着される。具体的には、失禁パッド10の縦方向を下腹部から臀部にかけて配し、その横方向を左右の足を繋ぐ方向に向けて配して着用される。その際、裏面シート2の非肌当接面側に配設される粘着部22(
図2参照)で失禁パッド10を着衣に固定される。
【0015】
失禁パッド10は、着用者の排泄部に対応する排泄部対応領域C、排泄部対応領域Cよりも前方の下腹部側に対応する前方部F、後方の臀部側に対応する後方部Rを有する。本実施形態における排泄部対応領域Cは、失禁パッド10を縦方向に3領域の区分したときの中央の領域である。この区分は、前述のとおり着用者の排泄ポイント全体を覆う部分を排泄部対応領域Cとして決められ、使用目的等によって設定される吸収性物品の大きさに合わせて決められる。臀部を覆う幅広の後方フラップを有する吸収性物品の場合、排泄部対応領域Cは前方寄りとなる。
【0016】
次に、表面シート1について図面を参照しながら詳述する。
図2及び3に示されるように、表面シート1は、肌当接面側に、凸部3及び凹部4が複数配された凹凸面を備えた肌当接面シート部11を有する。肌当接面シート部11の非肌当接面側には、両面が平坦な非肌当接面側シート部12が積層されている。すなわち表面シート1は、肌当接面側シート部11と非肌当接面側シート部12の2層からなる。両シート部11及び12はいずれも液透過性の繊維の集合体から成形されている。
前記凹凸面は凸部3で肌と接し、これにより、肌と表面シート1との接触面積が抑えられている。また凸部3は、非肌当接面側に内部空間13を有し、これにより肌への柔らかなクッション性を奏する。この内部空間13については後述する。一方、凹部4は、凸部3と凸部3との間で非肌当接面側に窪んで肌との離間空間14を形成している。これにより、排泄液を凹部4へと移行させて肌から引き離し、液と肌との接触を抑制することができる。またこの空間により通気性が向上する。これにより着用者の肌面と表面シート1との間のムレ等が抑えられる。
前記凹凸面は、前記作用の観点から、本実施形態のように表面シート1の肌当接面の全面配置に限らず、その一部に配されていてもよい。一部の場合は、少なくとも排泄部対応領域Cの着用者の排泄ポイント周辺に当接するよう配されることが好ましい。
【0017】
凸部3と凹部4とは連続した凹凸曲面を形成し、表面シート1の継ぎ目のないシート面を形成している。そのため両者の明確な境界はないが、本明細書においては、凸部3と凹部4とをそれぞれが有する空間を基準に次のように定義する。
すなわち、
図3に示されるように、凸部3は、内部空間13とこれを覆う肌当接面側シート部11の肌面側に突出した部分である。肌当接面側シート部11の肌側に突出した部分は、頂部31から周囲の底部43までを繋いだ部分である。また凹部4は、肌との離間空間14とこれを区画する肌当接面側シート部11の非肌面側に窪んだ部分である。肌当接面側シート部11の非肌面側に窪んだ部分は、底部43から周囲の頂部31までを繋いだ部分である。頂部31と底部43との間は、凸部3と凹部4とで共有されており、2つの空間13及び14を仕切る壁部18となっている。すなわち、連続する凹凸シートのうち、内部空間13及び頂部31を基準に区切った部分が凸部3であり、離間空間14及び底部43を基準に区切った部分が凹部4である。
【0018】
頂部31とは、凸部3の肌当接面側に隆起した最も高い位置にある部分であり、肌が接する位置にある構成繊維の部分である。底部43とは、凸部3の頂部31から非肌当接面側へと窪んだ最も低い部分であり、凹状曲面に沿って壁部18が収束する位置にある構成繊維部分である。すなわち底部43は凹部4の底ないし地盤となる部分である。また、頂部31の肌当接面側を頂部表面31Aといい、非肌当接面側を頂部裏面31Bという。底部43の肌当接面側を底部表面43Aといい、非肌当接面側を底部裏面43Bという。
【0019】
凸部3は、前述のとおり、表面シート1において肌に触れる部分である。そのため、肌との接触面積をできるだけ低減するよう、丸みを帯びたドーム形状であることが好ましい。これにより、凸部3の頂部31(頂部表面31A)が肌と接しても、ベタつく感じを大幅に低減し、肌のサラッとした状態を実現する。また、肌に対して擦れる感じが抑えられ、なめらかな触感が得られる。このドーム形状とは、厳密な幾何学的形状に限定されるものではなく、肌との接触面積を軽減しつつ、接触面における肌への圧力を分散できる形状を広く含む。また、肌と接する凸部3の頂部31は、典型的にはドーム形状の頂点であるが、これに限らず平坦な面であってもよい。
【0020】
前述した凸部3の内部空間13は、
図3の断面図で説明すれば、底部裏面43Bを結んでできる底部線T2とこれと平行な頂部裏面31Bを通る頂部線T1との間で、壁部18で区切られる凸部3内部の空間である。なお、この断面は、後述の表面疎水部38及び裏面疎水部35の長さの対比の観点から、凸部3の頂部31を通り、かつ、凸部3を平面視して最も短い対角線における断面である。本実施形態においては、凸部3は平面視すると円形であるので、該円形の中心を通るいずれかの断面において、後述する所定の要件を有すればよい。一方、凸部3が円形でない場合は切断面の位置によって対角線の長さが異なる。よってこの場合、凸部3の頂部31を通り、かつ、凸部3を平面視して最も短い対角線における断面において、後述する所定の要件を有すればよい。
前記空間を立体として説明すれば、内部空間13は、頂部裏面31Bと周囲の底部43裏面Bとを結んでできる錐体または錐台の空間ということもできる。すなわち、内部空間13は、底部裏面43Bから頂部裏面31Bへと隆起する凸部3の非肌当接面に沿って形成されている。逆に言えば、凸部3の非肌当接面は、内部空間13に対して底部裏面43Bからアーチを架けるようにして配されているともいえる。このことから、内部空間13に接する凸部3の非肌当接面側をアーチ面34といい、肌当接面側を凸面37という。アーチ面34は、前述のとおり、頂部裏面31Bから底部裏面43Bまでの面である。凸面37は、底部表面43Aから頂部表面31Aまでの面である。なお、アーチ面34は、前記のとおり、凸部3の断面でアーチを形成するような凸部3の立体曲面を意味し、単に線状のアーチ形状を意味するものではない。例えば、凸部3が前述のドーム形状である場合、アーチ面34とはドームの内壁面である。
【0021】
内部空間13の「空間」とは、直径0.6mm以上の円形空間があることをいう。典型的には繊維で満たされない空間であるが、繊維が全くない場合に限らず、繊維が存在する場合も含む。しかし、単に繊維間の空間しかない状態は含まれない。
【0022】
内部空間13は、繊維による通液抵抗が低いため、表面シート1の肌当接面側から透過する排泄液を積極的に引き込むことができる。例えば、凸部3から凹部4に移行した液を吸収体5へ引き渡す液透過経路において、内部空間13がその中継地として排泄液を一時貯蔵することができる。これにより、多量の排泄があった場合でも内部空間13が引き取って、表面シート1の肌当接面側での液流れや液残りを防止する。
【0023】
さらに本実施形態では、内部空間13の非肌当接面側に底部線T2に沿って非肌当接面側シート部12が配されている。これにより表面シート1は内部空間31を有する中空構造となっている。この非肌当接面側シート部12は、中空部としての内部空間13にある排泄液や凹部43から吸収体側へ直接透過された排泄液を、表面シート1の非肌当接面側で素早く拡散し広い範囲で吸収体5へと引き渡す。これにより、肌当接面側シート部11の凹部43や内部空間13に排泄液が滞留することなく、表面シート1の液透過性が持続し、液流れや液残りがより効果的に防止される。
【0024】
凸部3のアーチ面34の一部に、裏面疎水部35が、該アーチ面34の他の部分よりも親水度の低い部分として配設されている。すなわち、アーチ面34は裏面疎水部35と裏面親水部36とに区分される。裏面疎水部34では、構成繊維の親水度が低いために液の浸透を遮断する。これにより裏面疎水部34においては、一度、中空部としての内部空間13に入った排泄液が加圧等によって再び表面シート1の肌当接面側(Z1側)へと逆戻り(
図3の矢印V1)することを防止する。これにより液戻りによる排泄液と肌との接触が防止される。
特に肌に触れる頂部表面31Aへの液戻りを直接的に遮断する観点から、裏面疎水部35は、少なくともアーチ面34の頂部裏面31Bに配されることが好ましい。また頂部裏面31Bを中心にそこから放射線状に拡がって壁部18の途中まで配されていることが好ましい。この場合、裏面親水部36は、その壁部18の途中から底部裏面43Bまでに配されることとなる。なお、凹凸面全体において、裏面疎水部35が全てのアーチ面34に同じ配置とされている場合に限らず、アーチ面34ごとに不均一であってもよい。前記作用を奏するよう、少なくとも表面シート1の排泄部対応領域Cにおいて、全凸部3うち50%以上の凸部3のアーチ面34で、裏面疎水部35が頂部裏面31Bに配され、また頂部裏面31Bを中心にそこから放射線状に拡がって配設されていればよい。またその拡がった形状が円形であることが好ましい。前記「放射線状」の拡がりとは、頂部裏面31Bを中心した360°の方向などの拡がる方向性を意味しており、全ての方向で裏面疎水部35の拡がり方(長さ)が均一でなくてもよい。
【0025】
上記の裏面疎水部35と裏面親水部36とは、構成繊維の親水度の高低によって定義することができる。この親水度の高低は、繊維に対する液の接触角の大小で示される。すなわち、接触角が大きいほど親水度が低く、疎水度が高い。裏面疎水部35の繊維の接触角(α)は裏面親水部36の繊維の接触角(β)よりも高くされている。この裏面疎水部35の繊維の接触角(α)と裏面親水部36の繊維の接触角(β)との差(α―β)は、5度以上が好ましく、10度以上がより好ましく、20度以上がさらに好ましい。また、裏面疎水部35における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角(α)は、80度以上が好ましく、100度以上がより好ましい。裏面親水部36における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角(β)は、30度以上100度未満が好ましく、60度以下がより好ましい。
【0026】
(アーチ面34における接触角の測定方法)
アーチ面34における裏面疎水部35及び裏面親水部36の繊維1本を取り出す。それぞれの繊維に対して、イオン交換水を充填した霧吹き(なるべく霧の状態が細かくなるような道具を使用する)にて水滴を繊維表面に付着させ、付着5秒以内(なるべく2〜3秒)に画像を取り込む。付着後短時間で画像取り込みが必要な理由は、付着した水滴がマイクロスコープの測定部から出る光によって蒸発してしまうことと、油剤による接触角変化をおこさないようにするためである。水滴の両端もしくは片端の焦点が鮮明な観察結果10点(N=10)の接触角を計測し、それらの平均値を「接触角」とする。接触角は、画像または印刷した写真に対して、水滴の繊維との接線を引き、画像解析または分度器等によって、計測を行う。
【0027】
裏面疎水部35は、凸部3を通る断面(縦断面)視における長さ(L2)として見ると、底部裏面43B−頂部裏面31B−底部裏面43Bを繋ぐアーチ面34の周長全体の40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい。これにより、内部空間13に一時貯蔵された液や吸収体5に保持された液が表面シート1の肌当接面側に液戻りすることを効果的に防止できる。一方、その上限は、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい。これにより裏面親水部36による液透過性が確保され、凹部4に移行した排泄液を素早く吸収体5へと透過させることができる。上記の長さ(L2)の範囲は、
図1のX方向、Y方向、又はこれらと交差する任意の方向での切断面においても充足することが好ましい。
なお、凹凸面全体において、裏面疎水部35が全てのアーチ面34に上記の数値範囲の配置とされている場合に限らず、アーチ面34ごとに不均一であってもよい。前記作用を奏するよう、少なくとも表面シート1の排泄部対応領域Cにおいて、全凸部3うち50%以上の凸部3のアーチ面34で上記の数値範囲の配置とされていればよい。
【0028】
一方、凸部3の肌当接面である凸面37の一部に、表面疎水部38が、該凸面37の他の部分よりも親水度の低い部分として配設されている。すなわち、凸面37は表面疎水部38と表面親水部39とに区分される。表面疎水部38は、
図3に示すように、凸部3の頂部を通り、かつ、凸部3を平面視して最も短い対角線における断面(縦断面)視で、裏面疎水部35よりも短い長さで配設されている。裏面疎水部35を、液戻り防止性を十分発揮できる範囲で設けたことで、表面シート1の肌当接面側では、表面疎水部38を従来のものよりも限定的な範囲で配置することが可能となった。すなわち、液戻り防止機能を非肌当接面側に移動させたことで、肌当接面側では、肌に触れる部分だけを疎水性として肌のドライ感を実現する。そして、表面の親水部分を十分確保して表面シート1本来の液透過性を保持する。この液透過性がさらに液流れ防止性を高める。また、凸部3を平面視して最も短い対角線上においては、凸部3から底部43へ至る傾斜が最も急になるところである。そのため、排泄された尿が優先的に流れやすいため、該箇所において、上述の親水度の関係を有することが好ましい。
【0029】
特に、凸面37のうち肌との接触部分以外の広い範囲を表面親水部39とできるので、表面疎水部38から流れる排泄液を直ちに表面親水部39が捕え、凹部4の底部43へと移行させる(
図3の矢印V2)。すなわちこの凸部3は液流れ防止に効果的である。また、凸部3の裏面側では、裏面疎水部35が、頂部裏面31Bから底部裏面43Bへ向かって表面疎水部38よりも長く配されていることで、これに沿って排泄液の底部43への移行を促進する(
図3の矢印V3)。これにより、肌に近い位置での液残り等も抑えられ肌と排泄液との接触がさらに抑えられる。そして、表面シート1の肌当接面上での排泄液の液流れを一層抑制する。
さらに、前述のとおり加圧があっても、内部空間13及び吸収体5にある液が凸部3内部からは裏面疎水部35によって液戻りが遮断されている。一方、親水性の底部43で液戻りが生じても、肌から離れた位置での液戻りであり、肌との接触も抑えられる。たとえ親水性の壁部18から頂部31へと排泄液が上昇しても表面疎水部38で肌との接触は遮断され、再び親水性の底部43へと移行し裏面側へ透過される(
図3の矢印V4)。その際、長めの裏面疎水部35が前述のとおり液の底部43への移行を促進する(
図3の矢印V3)。
【0030】
このように、裏面疎水部35及び表面疎水部38の相互作用により、排泄液は肌との接触を断たれ、液流れも液残りもなく速やかに非肌当接面側へと透過される。また加圧時にも肌に触れるような液戻りが防止される。すなわち、裏面及び表面疎水部35及び38によって、表面での液流れの防止と肌への液戻り防止とが両立して達成される。これにより失禁パッド10を装着した着用者の肌のドライ感を実現し、良好な装着感が得られる。
【0031】
上記の肌のドライ感の実現の観点から、表面疎水部38は、少なくとも凸面37の頂部表面31Aに配されることが好ましい。また頂部表面31Aを中心にそこから放射線状に拡がって配設されていることが好ましい。なお、凹凸面全体において、表面疎水部38が全ての凸面37に同じ配置とされている場合に限らず、凸面37ごとに不均一であってもよい。前記作用を奏するよう、少なくとも表面シート1の排泄部対応領域Cにおいて、全凸部3うち50%以上の凸部3の凸面37で、表面疎水部38が頂部表面31Aに配され、また頂部表面31Aを中心にそこから放射線状に拡がって配設されていればよい。またその拡がった形状が円形であることがこのましい。前記「放射線状」の拡がりとは、頂部表面31Aを中心した360°の方向などの拡がる方向性を意味しており、全ての方向で表面疎水部38の拡がり方(長さ)が均一でなくてもよい。
【0032】
上記の表面疎水部38と表面親水部39とは、構成繊維の親水度の高低によって定義することができる。この親水度の高低は、繊維に対する液の接触角の大小で示される。すなわち、接触角が大きいほど親水度が低く、疎水度が高い。表面疎水部38の繊維の接触角(α)は表面親水部39の繊維の接触角(β)よりも高くされている。この表面疎水部38の繊維の接触角(α)と表面親水部39の繊維の接触角(β)との差(α―β)は、5度以上が好ましく、10度以上がより好ましく、20度以上がさらに好ましい。また、表面疎水部38における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角(α)は、80度以上が好ましく、100度以上がより好ましい。表面親水部39における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角(β)は、30度以上100度未満が好ましく、60度以下がより好ましい。
【0033】
(凸面37における接触角の測定方法)
凸面37における表面疎水部38及び表面親水部39の繊維1本を取り出し、前述のアーチ面34における接触角の測定方法と同様の方法で測定できる。
【0034】
表面疎水部38は、凸部3を通る断面(縦断面)視の長さ(L1)として見ると、底部表面43A−頂部表面31A−底部表面43Aを繋ぐ凸面37の周長全体の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。これにより、肌当接面上での液流れを防止できる。一方、その下限は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。これにより、肌への液の付着を防ぐことができる。
従来は、表面側と裏面側とで疎水部の長さが同じ(L1=L2)ものしかなく、その長さを異ならせる手段も知られていなかった。そのため、液戻りの効果を出すためには、裏面疎水部35の長さに合わせ、表面疎水部38は凸面37の周長全長の50%より大きくしなければならず、表面側での液流れが生じかねなかった。このように従来は、液流れ防止と液戻り防止の両立を意識して両面の長さを変えたものはなかった。これに対し、本発明では、裏面側と比べて表面側の疎水長さを短くする構成であるため、液が入りやすく、入った液は表面へ戻りにくいことを両立できる。
【0035】
また、表面疎水部38の断面長さ(L1)の裏面疎水部35の断面長さ(L2)に対する割合(L1/L2)は、1以下であり、4/5以下が好ましく、3/5以下がより好ましく、2/5以下がさらに好ましい。これにより、肌当接面側での排泄液の液流れ防止と液戻り防止を両立できる。一方、その下限は、1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましく、3/10以上がさらに好ましい。これにより、肌への液の付着を防ぐことができる。
【0036】
また、表面疎水部38の配置面積(S1)は、肌当接面側シート部11の肌当接面全体の40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい。その下限は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。これより、液と接する親水部分を増やすことで、表面での液流れを防ぐことが出来る。
なお、凹凸面全体において、表面疎水部38が全ての凸面37に上記の数値範囲の配置とされている場合に限らず、凸面37ごとに不均一であってもよい。前記作用を奏するよう、少なくとも表面シート1の排泄部対応領域Cにおいて、全凸部3うち50%以上の凸部3の凸面37で上記の数値範囲の配置とされていればよい。
【0037】
(表面疎水部38の面積率の測定方法)
この測定には、キーエンス厚み解析計(KS−1100)を用いることができる。まず、表面シートの肌当接面側を無荷重状態で、前記解析計で表面シートの肌当接面側の全表面積(S)を測定する。次いで、疎水部81が完全に隠れる荷重(5kPa超)の透明プレートを置き、親水部82の面積(S2)を測定する。全表面積(S)から親水部82の面積(S2)を引くことで疎水部81の面積(S1)を求める。これらの値から、「S1/S×100」の値を算出し、これを疎水部81の面積率とする。該解析計のレーザー光で試料の表面をなぞることによって、立体的な形状の表面積を測定することが出来る。
【0038】
この裏面疎水部35と表面疎水部38との間にある凸部3の構成繊維は、疎水性であっても親水性であってもよい。しかし、排泄液の液流れや液残りを防止する観点から、前記構成繊維は疎水性であることがより好ましい。
【0039】
一方、凹部4の底部43は、吸収体5ないし内部空間13への液透過性の観点から、親水性である。つまり、底部43の構成繊維が親水性であり、底部表面43Aが前述した表面親水部36とされ、底部43Bが裏面親水部39とされている。この親水性の底部43には、その表面積を大きくする隆起部(図示せず)があることが好ましい。この表面積の拡大により表面シート1の液透過性が高まり、底部43での排泄液の捕捉性が向上する。これにより表面シート1の肌当接面上での液流れ防止性がさらに高まる。この隆起部は、底部43の排泄液の受け皿としての機能を阻害しない程度の隆起であることが好ましい。
同様に、表面シート1の液透過性の向上の観点から、底部43に貫通した孔が配設されていてもよい(図示せず)。すなわち、孔部分には繊維による通液抵抗がないため、液透過性が高められる。また、この孔は、凹部4の離間空間14の底である底部43に形成されるため、従来の表面シートとは異なって、液戻りでも肌との接触が抑えられている。
【0040】
また、底部43には、隆起部の周囲にエンボス部が配されていることが好ましい。これにより、圧密化されたエンボス部が隆起部や凸部3の基底部分となって形状を支え、潰れ難くすることができる。またエンボス部は圧密化で液の高い引き込み性を有し、隆起部と協働して液流れ防止性をさらに高める。あるいは、エンボス部の代わりにその位置に孔が配されていてもよい(図示せず)。凹部の孔により、凸部から移行した液が速やかに吸収体へ運ばれる。多量の尿が排泄された場合でも、凹部で溢れることなく吸収体に運ばれるため、肌への液の付着を防ぐことが出来る。
【0041】
以上のような裏面疎水部35及び表面疎水部38を有する凸部3を備えた表面シート1としては、
図3のように2層構造の場合に限らず、
図4のように1層構造であってもよい。また、3層以上の複数層構造であってもよい。1層の場合は、凸部3の内部空間13は、表面シート1単体としては非肌当接面側に開放された空間であるが、
図1の失禁パッド10などの吸収性物品に組み込まれた状態では、吸収体5との間で閉じた中空部となる。また、吸収体3と表面シート1とは直接積層される場合に限らず、前記両部材の間に液拡散性の中間シート(図示せず)等が介在配置されていてもよい。この場合、表面シート1と中間シート等との間で内部空間13が中空部となる。
【0042】
次に、表面シート1の製造方法について、その好ましい一実施形態(第1実施形態)の要部の概要を
図5〜8を参照しながら説明する。
【0043】
まず
図3に示す肌当接面側シート部11及び非肌当接面側シート部12の2層からなる表面シートの製造方法について説明する。
疎水性繊維を親水化油剤によって親水化し、これを肌当接面側シート部連続体110とする。肌当接面側シート部連続体110は、
図5(A)に示されるように、繊維間距離が互いに異なる2層からなる。具体的には、表面側の層110Aは裏面側の層110Bよりも繊維間が広くされている。
【0044】
前記繊維間距離とは、シートの所定領域における平均繊維間距離をいい、不織布の厚さ、目付け、及び構成ウェブの繊維構成によって算出されるもので、下記の式で定義される。
【0046】
ここで、tは不織布の厚さ[mm]、wは不織布の目付[g/m
2]、dは繊維ウェブを構成する繊維の繊度[デニール]である。
表面側の層110Aの繊維間距離(P1)は、50μm以上が好ましく、70μm以上がより好ましい。その上限は、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。裏面側の層110Bの繊維間距離(P2)は、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。その上限は、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましい。両者の繊維間距離の差(P1−P2)は、拡散面積の差を増大させる観点から、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。その上限は、厚み方向の浸透を阻害しない観点から、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。
【0047】
(繊維間距離の測定方法)
不織布の厚さtは、光学顕微鏡(キーエンス社製 VHZ20UR)にて不織布断面を観察し、厚みを測る(N=5)。不織布の目付wは、不織布を50mm四方に切り取り、重量を測定して計算する(N=5)。各層それぞれ分けて行う。繊維の繊度dは、まず走査型電子顕微鏡(JEOL社製 JCM−5100)にて繊維断面を観察し、繊維の直径を測る(N=10)。その値から繊度を計算する。その後、得られた3つの値を前記式(1)に代入することで平均繊維間距離を求める。
【0048】
この肌当接面側シート部連続体110を、裏面側の層110Bを下にして
図6に示す裏面疎水部35及び表面疎水部38の形成工程(疎水剤の塗布工程)へと搬送する。
図6に示されるように、疎水剤の塗布工程では、上方の凹凸のない平坦ロール91と下方の凹凸ロール92と凹凸ロール92が接触する疎水剤の入った容器93とを有する。肌当接面側シート部連続体110を平坦ロール91と凹凸ロール92との間に搬送すると、容器93で疎水剤を付着させた凹凸ロール92の凸部分(図示せず)が肌当接面側シート部連続体110の裏面側の層110Bに当接し疎水剤が塗布される。疎水剤は凸面の配置にしたがって間欠的に塗布されるので、凸面の配置を肌当接面側シート部11の凸部3の配置に一致させておく。すなわち、後述する凹凸賦形のための第2ロール52の凸部52aの位置に裏面疎水部35の中央部分が重なるよう、凹凸ロール92の凸部分を配置しておく。
疎水剤が塗布された裏面側の層110Bでは繊維間距離の短さで毛管力が働き、疎水剤が塗布面積に対して拡がりを持って厚み方向に浸透していく。この疎水剤が厚み方向に浸透し表面側の層110Aに至ると、繊維間距離が広く裏面側の層110Bよりも毛管力が弱いため、疎水剤は裏面側の層110B程には拡散しない。そのため、疎水剤は限られた範囲で厚み方向に浸透する。このようにして、
図5(B)に示されるように、裏面側の層110Bに面積の大きい裏面疎水部35、表面側の層110Aに面積の小さい表面疎水部38が形成される。
【0049】
次いで、肌当接面側シート部連続体110を凹凸に賦形し、これを別の親水化処理された非肌当接面側シート部連続体120と一体化する。この賦形工程と一体化工程について
図7を参照して説明する。
【0050】
図7に示されるように、疎水剤を塗布された肌当接面側シート部連続体110を、周面が凹凸形状となっている第1ロール51と、その凹凸形状と噛み合い形状となっている凹凸形状を周面に有する第2ロール52との噛み合わせ部P
1に噛み込ませて肌当接面側シート部連続体110を凹凸賦形する。その際、肌当接面側シート部連続体110の裏面側の層110Bが第2ロール52に当接する向きで両ロール間に導入し賦形する。これにより裏面側の層110Bの裏面疎水部35及びその周辺が押し上げられてアーチ面34を形成し、表面側の層110Aの表面疎水部38及びその周辺が隆起して凸面37を形成する。このようにして内部空間13を内包する凸部3が形成される。そして、これと噛み合わされた第1ロール51の凸部51aによる賦形で凹部4が形成される。
【0051】
第1ロール51における各歯車の歯溝部には吸引孔(図示せず)が形成されていることが好ましい。この歯溝部は、第1ロール51の周面における凹凸形状のうちの凹部に相当するものである。吸引孔は、ブロワや真空ポンプなどの吸引源(図示せず)に通じ、第1ロール51(回転方向:矢印d
5)と第2ロール52(回転方向:矢印d
7)との噛み合い部P
1から肌当接面側シート部連続体110と非肌当接面側シート部連続体120とを接合した表面シート連続体を送り出す部分P
3に至るまで吸引されるように制御されていることが好ましい。これにより、第1ロールと第2ロールとの噛み合いによって凹凸賦形された肌当接面側シート部連続体110は、吸引孔による吸引力によって第1ロール51周面に密着したまま、その凹凸賦形された状態が保持される。
【0052】
合流部P
2では、肌当接面側シート部連続体110を第1ロール51の周面に吸引密着させた状態で、別に供給されている非肌当接面側シート部連続体120と積層する。ここで両シートを第1ロール51と第3ロール53とで挟圧することが好ましい。第3ロール53としては凹凸を有しないアンビルロールを用いることが好ましく、第3ロール53のみを所定温度に加熱しておくことが好ましい。これによって、第1ロール51の歯車の凸部先端に位置する肌当接面側シート部連続体110と非肌当接面側シート部連続体120とが熱融着によって接合される。すなわち、肌当接面側シート部連続体110は凹部4で非肌当接面側シート部連続体120と接合される。一方、凸部3では、両シート部連続体の熱融着が起こらず、中空の内部空間13が保持される。すなわち、本実施態様においては第1ロール51と第2ロール52とによるシート賦形において圧熱加工はしていないため、凸部3の頂部において柔らかさが保たれる。したがって表面シートとして用いたときに、凹部4となる部分においては加熱狭圧され不織布繊維が熱溶融し多少硬化していても、凸部3は柔らかく突出しているため、硬い部分が直接肌に当接することなく良好な触感が実現される。この表面シートを常法により吸収体の肌当接面側に配置し、吸収性物品を得る。
【0053】
第1実施態様の製造方法においては、肌当接面側シート部連続体110と非肌当接面側シート部連続体120とが貼り合わされた複合シートが、第1ロール51及び第4ロール54によって挟まれた部分P
3で加熱挟圧される。このとき第4ロール54は第3ロール53と同様に外周に凹凸を有さないアンビルロールであることが好ましく、所定の温度に加熱されていることが好ましい。このようにして、しっかりと固定された接合部が形成され、凸部の形状安定性が維持される。
【0054】
次に、第1実施形態の製造方法の別の態様として、
図4に示す肌当接面側シート部11のみからなる表面シートの製造方法について説明する。この場合も親水化処理された繊維からなる肌当接面側シート部連続体110を用い、
図5に示すような疎水剤塗布工程によって、裏面疎水部35及び表面疎水部38を形成する。次いで、この肌当接面側シート部連続体110を凹凸賦形して
図4の表面シートとする。この工程で形成された表面シートの非肌当接面を他のシートに接合して、前述のとおり内部空間13が中空部となる。表面シートを他のシートに接合する手段は、熱エンボスやホットメルト等を用いるが、特に限定せずに一般的な手段を用いることができる。前記他のシートの種類も特に限定せず、繊維シートやパルプシート等の一般的な材料を用いる。
図4の表面シートを形成する工程について
図8を参照して以下に説明する。
【0055】
図8に示すように、第1〜第4のロール(51,52,53,54)を用いる点で上記の
図7に示した実施態様と共通する。しかし、
図8に示した実施態様においては非肌当接面側シート部連続体120を用いず、肌当接面側シート部連続体110のみが用いられており、この肌当接面側シート部連続体110に凸部3と凹部4とが賦形される。したがって、凹部4において他のシートと接合されていないが、第1ロール51と第3ロール53もしくは第4ロール54とで加熱狭圧され、不織布繊維が熱溶融され硬化した状態にされている。このようにして単に凹凸形状に屈曲させられているだけでなく、上述した表面シートとしたときに特定の機能を示す凸部3及び凹部4となるよう賦形される。その他、第1ロール51と第2ロール52との歯の噛み込みによるシート賦形及び第1ロール51によるP
1〜P
3にかけての吸引は、
図7に示した実施態様と同様である。
【0056】
次に、表面シート1の好ましい製造方法の別の好ましい一実施形態(第2実施形態)について
図9を参照して説明する。この第2実施形態は、親水化処理されていない疎水性繊維を用い親水剤を塗布する点で、
図5に示される第1実施形態と相違する。
図9(A)に示されるように、疎水性繊維からなる肌当接面側シート部連続体110は、表面側の層110Aとこれよりも繊維間が広い裏面側の層110Bとの2層からなる。この肌当接面側シート部連続体110を、表面側の層110Aを下にして裏面疎水部35及び表面疎水部38の形成工程(親水剤の塗布工程)へと搬送する。第2実施形態においては、
図6に示される容器93に親水剤が入っており、凹凸ロール92で親水剤が肌当接面側シート部連続体110の表面側の層110Aに塗布される。
【0057】
図6に示されるように、疎水性の肌当接面側シート部連続体110を平坦ロール91と凹凸ロール92との間に搬送すると、容器93で親水剤を付着させた凹凸ロール92の凸部分が肌当接面側シート部連続体110の表面側の層110Aに当接し親水剤が塗布される。親水剤は凹凸ロール92の凸部分の配置にしたがって間欠的に塗布されるので、この配置を肌当接面側シート部11の凹部4の底部43の配置に一致させておく。すなわち、後述する凹凸賦形のための第2ロール52の凸部52a間の窪み(あるいは第1ロール51の凸部51aの位置)に親水性の底部43が入るよう、凹凸ロール92の凸部分を配置しておく。
親水剤が塗布された表面側の層110Aでは繊維間距離の短さで毛管力が働き、塗布面積に対して拡がりを持って厚み方向に浸透していく。すなわち、表面側で疎水性の部分が狭められる。この親水剤が厚み方向に浸透し裏面側の層110Bに至ると、繊維間距離が広く表面側の層110Aよりも毛管力が弱いため、親水剤は表面側の層110A程には拡散しない。そのため、親水剤は限られた範囲で厚み方向に浸透する。すなわち、裏面側の疎水性の部分は表面側よりも広い範囲で残っている。このようにして、
図9(B)に示されるように、裏面側の層110Bに面積の大きい裏面疎水部35、表面側の層110Aに面積の小さい表面疎水部38が形成される。
【0058】
その後は、第1実施形態と同様にして、
図7に示す凹凸賦形工程、一体化工程を経て、肌当接面側シート11及び非肌当接面側シート部12からなる表面シートとなる。あるいは、
図8に示す凹凸賦形工程を経て、肌当接面側シート部11のみからなる表面シートとなる。次いで、この表面シートを常法により他のシートと接合し吸収体の肌当接面側に配置して、吸収性物品を得る。
図7及び8の凹凸賦形工程においては、第2ロール52に肌当接面側シート部連続体110の裏面疎水部35の配された裏面側の層110Bを当接させて行う。
【0059】
この表面シートの製造方法のさらに別の好ましい一実施形態としては、裏面疎水部35及び表面疎水部38の形成工程を
図7及び
図8の凹凸賦形工程で同時におこなう形態が挙げられる(図示せず)。この場合、裏面疎水部35及び表面疎水部38の位置決め精度が上がって好ましい。また別の好ましい一実施形態としては、裏面疎水部35及び表面疎水部38の形成工程を
図7及び
図8の凹凸賦形工程の後に行う形態であってもよい。この場合、疎水剤ないし親水剤の浸透時間を十分確保することができる。
また別の好ましい一実施形態としては、肌当接面側シート部連続体110を繊維間距離が実質同じ1層からなるものとしてもよい。この場合、肌当接面側シート部連続体110の、肌当接面及び非肌当接面となる面に疎水剤ないし親水剤を所望の範囲に塗布して裏面疎水部35及び表面疎水部38を形成する。
【0060】
表面シート1、裏面シート2、吸収体5及びサイドシート6の形成材料としては、この種の物品に採用されるものを特に制限なく用いることができる。
【0061】
例えば、表面シート1(肌当接面側シート部11及び非肌当接面側シート部12)は、不織布を用いることが好ましい。この不織布としてはカード法により製造されたエアースルー不織布やヒートボンド不織布、その他にスパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、及びニードルパンチ不織布等の種々の不織布が挙げられる。また、前述のエンボス部を設けるため、前記不織布に熱融着繊維が含まれることが好ましい。熱融着繊維としては、PET/PE、PP/PEなどの芯鞘構造のものが好ましい。また、前記不織布には、界面活性剤等を用いた親水化処理を施すことが好ましい。表面シート1の構成繊維の種類のうち、好ましい組み合わせはPET/PE繊維どうしの組み合わせである。中でも、本発明においては所定方向における破断伸度(脱力状態にある不織布の元の長さをL1とし、伸長した時の長さをL2としたとき、特定の方向に不織布を伸長して破断させたときの伸長率((L2−L1)/L1))が50%以上である不織布を用いることが好ましい。このような不織布を用いることにより、賦形形状が均一な表面シートが得られる。
【0062】
表面シート1の裏面疎水部35及び表面疎水部38を形成する疎水剤としては、具体的にシリコーン系オリゴマー、フッ素系オリゴマー等が挙げられる。シリコーンオリゴマーは鎖状のポリジメチルシリコーンが代表的で、このメチル基の一部をフェニル基やトリフルオロプロピル基にかえたポリメチルフェニルシリコーン、ポリフルオロシリコーン等がある。フッ素オリゴマーは、撥水撥油剤としてはパーフルオロアルキル基を含むアルコールのアクリル酸エステルのポリマーあるいはリン酸エステル等が用いられている。シリコーン系撥水剤の特徴は、撥水性と共に柔軟性に優れ、肌に直接接触する表面剤の処理に好適である。フッ素系の撥水剤は、当該域で最も優れた撥水性を示し、特に親水性化の為の界面活性剤を接触していても撥水性を維持出来る利点を有する。
【0063】
また、親水剤としては、各種公知のものを特に制限なく使用することができ、例えば、親水性の油剤が用いられる。親水性の油剤としては、アニオン性、カチオン性、両性あるいはノニオン性の界面活性剤が一般的であるが、特にこれらに限定されるものではない。これらは所定濃度の水溶液や乳化液等にして用いることもできる。好ましい親水化剤としては、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルりん酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリエチレングリコール、アルキルアミン塩、アルキルベタイン等を挙げることができる。
【0064】
裏面シート2としては、防水性があり透湿性を有していれば特に限定されないが、例えば、疎水性の熱可塑性樹脂と、炭酸カルシウム等からなる微小な無機フィラー又は相溶性のない有機高分子等とを溶融混練してフィルムを形成し、該フィルムを一軸又は二軸延伸して得られる多孔性フィルムが挙げられる。前記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンが挙げられる。該ポリオレフィンとしては、高〜低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられ、これらを単独で又は混合して用いることができる。
【0065】
吸収体5としては、液保持性を有するものであれば、この種の物品に用いられる様々の態様ものを広く採用できる。例えば、パルプ繊維をコアラップシートで被覆したものや、エアレイド不織を用いたシート状のものや、高吸水性ポリマーを繊維シートで挟持してなるシート状のものなど様々ある。前記パルプ繊維としては、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ等の木材パルプや木綿パルプ、ワラパルプ等の非木材パルプ等の天然セルロース繊維などが挙げられる。その他、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオフィレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等の合成樹脂からなる単繊維、これらの樹脂を2種以上含む複合繊維、アセテートやレーヨンなどの半合成繊維を一部に含んでもよい。また、前記高吸水性ポリマーとしては、この種の物品に通常使用されている各種のポリマー材料を用いることがでる。吸水性ポリマー32は、自重の20倍以上の水又は生理食塩水を吸収し保持し得る性能を有するような超吸収性高分子化合物であることが好ましい。
また被覆シートは、親水性の部材であり、例えば、親水性のティッシュペーパー等の薄手の紙(薄葉紙)、クレープ紙、コットンやレーヨンなどの親水性繊維からなる不織布、合成樹脂の繊維に親水化処理を施してなる不織布、例えばエアースルー不織布、ポイントボンド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布等からなるものを用いることができる。
【0066】
サイドシート6としては、撥水性の不織布が好ましく、カード法により製造された不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、ヒートロール不織布、ニードルパンチ不織布等の中から撥水性の物、または撥水処理した種々の不織布を用いることができる。特に好ましくは、例えば、スパンボンド不織布、スパンボンド−メルトブローン(SM)不織布、スパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布等が用いられる。
【0067】
本発明の吸収性物品は、上記の実施形態の失禁パッドに制限されるものではなく、例えば生理用ナプキンやパンティライナ、使い捨ておむつ、尿とりパッド等に適応することができる。なお吸収性物品の構成部材として、表面シート1、吸収体5、裏面シート2の他にも用途や機能に合わせ適宜部材を組み込んでもよい。
【0068】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の吸収性物品及びその製造方法を開示する。
【0069】
<1>凸部と凹部とを配した凹凸面を肌当接面側に有し、該凸部は該凹部に周囲を囲まれている吸収性物品用の表面シートであって、
前記凸部は非肌当接面側に内部空間を有し、該内部空間に面する前記凸部の非肌当接面の一部に裏面疎水部が配設されており、
前記凸部の肌当接面の一部に、表面疎水部が、前記凸部の頂部を通りかつ平面視して最も短い対角線における断面視で、前記裏面疎水部よりも短い長さで配設されている吸収性物品用の表面シート。
【0070】
<2>前記凹凸面は、少なくとも排泄部対応領域の着用者の排泄ポイント周辺に当接するよう配されている前記<1>に記載の吸収性物品用の表面シート。
<3>前記内部空間には直径0.6mm以上の円形空間がある前記<1>又は<2>に記載の吸収性物品用の表面シート。
<4>前記裏面疎水部は、前記凸部を通る断面視において、該凸部の非肌当接面をなす、底部裏面−頂部裏面−底部裏面を繋ぐアーチ面の周長全体に対して、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましい、前記<1>〜<3>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<5>前記裏面疎水部は、前記凸部を通る断面視において、該凸部の非肌当接面をなす、底部裏面−頂部裏面−底部裏面を繋ぐアーチ面の周長全体に対して、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましい、前記<1>〜<4>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<6>少なくとも表面シートの排泄部対応領域において、全凸部うち50%以上の凸部の凸面で、前記表面疎水部が前記凸部の頂部表面に配されている前記<1>〜<5>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<7>前記表面シートの肌当接面及び非肌当接面のうち少なくとも一方において、疎水部以外の部分を親水部とし、該疎水部の繊維の接触角αと前記親水部の繊維の接触角βとの差 α―β は、5度以上が好ましく、10度以上がより好ましく、20度以上がさらに好ましい、前記<1>〜<6>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<8>前記疎水部における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角αは、80度以上が好ましく、100度以上がより好ましい、前記<7>に記載の吸収性物品用の表面シート。
<9>前記親水部における表面張力72dyne/cmでの繊維の接触角βは、30度以上100度未満が好ましく、60度以下がより好ましい、前記<7>又は<8>に記載の吸収性物品用の表面シート。
<10>前記表面疎水部は、前記凸部を通る断面視において、該凸部の肌当接面をなす、底部表面−頂部表面−底部表面を繋ぐ凸面の周長全体に対して、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい、前記<1>〜<9>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<11>前記表面疎水部は、前記凸部を通る断面視において、該凸部の肌当接面をなす、底部表面−頂部表面−底部表面を繋ぐ凸面の周長全体に対して、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい、前記<1>〜<10>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<12>前記凸部を通る断面視において、前記表面疎水部の断面長さL1の前記裏面疎水部の断面長さL2に対する割合 L1/L2 は、1以下であり、4/5以下が好ましく、3/5以下がより好ましく、2/5以下がさらに好ましい、前記<1>〜<11>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<13>前記凸部を通る断面視において、前記表面疎水部の断面長さL1の前記裏面疎水部の断面長さL2に対する割合 L1/L2 は、1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましく、3/10以上がさらに好ましい、前記<1>〜<12>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<14>前記表面疎水部の配置面積は、肌当接面全体の40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましい、前記<1>〜<13>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<15>前記表面疎水部の配置面積は、肌当接面全体の5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい、前記<1>〜<14>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
【0071】
<16>前記裏面疎水部は、前記凸部の頂部から放射線状に拡がって配設されている前記<1>〜<15>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<17>前記表面疎水部は、前記凸部の頂部から放射線状に拡がって配設されている前記<1>〜<16>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<18>前記凹部の底部には、肌当接面側に隆起した隆起部が配されている前記<1>〜<17>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<19>前記凹部の底部に孔が配設されている前記<1>〜<18>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<20>前記凹部の底部には、肌当接面側に隆起した隆起部が周囲をエンボスで囲まれて配設されている前記<1>〜<19>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<21>前記表面疎水部の前記凹凸面全体に対する面積率が50%以下である前記<1>〜<20>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<22>前記表面シートは、凹凸面を有する肌当接面側シート部と両面が平坦な非肌当接面側シート部とからなる前記<1>〜<21>のいずれか1に記載の吸収性物品用の表面シート。
<23>前記<1>〜<22>のいずれか1に記載の表面シートを用いた吸収性物品。
【0072】
<24>繊維間距離が異なる2層の親水処理された繊維シートに対し、繊維間距離が短い方の層側から疎水剤を塗布して、肌当接面側となる面と非肌当接面側となる面との疎水剤の広がりを調節して表面疎水部及び裏面疎水部を形成する工程と、互いに噛み合う一対の凹凸ロールを用いて前記裏面疎水部及び表面疎水部が凸部に配されるように前記繊維シートを凹凸賦形する工程とを有する前記<1>〜<23>のいずれか1に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
<25>前記疎水剤の塗布工程では、上方の凹凸のない平坦ロールと下方の凹凸ロールと該凹凸ロールが接触する疎水剤の入った容器とを用い、前記繊維シートを前記平坦ロールと前記凹凸ロールとの間に搬送すると、前記容器で疎水剤を付着させた凹凸ロールの凸部分が前記繊維シートの裏面側の層に当接し疎水剤が塗布される、前記<24>に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
<26>繊維間距離が異なる2層の疎水性の繊維シートに対し、繊維間距離が短い方の層側から親水剤を塗布して、肌当接面側となる面と非肌当接面側となる面との親水剤の広がりを調節して裏面疎水部及び表面疎水部を形成する工程と、互いに噛み合う一対の凹凸ロールを用いて前記表面疎水部及び裏面疎水部が凸部に配されるように前記繊維シートを凹凸賦形する工程とを有する前記<1>〜<23>のいずれか1に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
<27>前記親水剤の塗布工程では、上方の凹凸のない平坦ロールと下方の凹凸ロールと該凹凸ロールが接触する疎水剤の入った容器とを用い、前記繊維シートを前記平坦ロールと前記凹凸ロールとの間に搬送すると、前記容器で親水剤を付着させた凹凸ロールの凸部分が前記繊維シートの裏面側の層に当接し親水剤が塗布される、前記<26>に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
<28>前記裏面疎水部及び表面疎水部の形成工程を、前記繊維シートを凹凸賦形する工程で同時におこなう、前記<24>〜<27>のいずれか1に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
<29>前記裏面疎水部及び表面疎水部の形成工程を、前記繊維シートを凹凸賦形する工程の後に行う、前記<24>〜<27>のいずれか1に記載の吸収性物品又は吸収性物品用の表面シートの製造方法。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0074】
(実施例1)
疎水性繊維を親水化処理した繊維から成り、上層と下層で繊維間距離の異なる繊維シートを用いて
図7に示す凹凸賦形工程及び一体化工程の後、
図6に示すように凸部の頂部のみに疎水剤を塗布する工程を経て表面シートを得た。このとき、凹凸面は表面シートの全面に形成されており、凸部の頂部を中心として放射線状に裏面疎水部及び表面疎水部が形成されていた。凸部をとおる断面(
図1におけるX方向断面)において、表面疎水部38の配置長さ(L1)は441μm、裏面疎水部35の配置長さ(L2)は589μmであり、表面疎水部38の方が裏面疎水部35よりも配置長さが短くされていた。また、表面疎水部は、表面シートの肌当接面全体の面積の40%の面積率(S1)で形成されていた。表面疎水部の面積は裏面疎水部の面積よりも小さくされていた。この面積率は、前述の(表面疎水部35の面積率の測定方法)に基づいて測定した。
この表面シートを花王株式会社製「ロリエ フリーデイ 吸水ナプキン 安心中量用(〜80cc)」の表面シート1と交換し、実施例1のサンプルP1とした。
【0075】
(比較例1)
表面シートの凸部において、表面疎水部38の配置長さ(L1)を616μm、面積率(S1)を60%とし、裏面疎水部35の配置長さを552μmとした以外は、実施例と同様にして、比較例1のサンプルC1を得た。
【0076】
(比較例2)
表面シートの凸部において、表面疎水部38の配置長さ(L1)を452μm、面積率を40%とし、裏面疎水部35の配置長さを408μmとした以外は、実施例と同様にして、比較例2のサンプルC2を得た。
【0077】
(比較例3)
表面シートの凸部において、表面疎水部38の配置長さ(L1)を164μm、面積率(S1)を15%とし、裏面疎水部35の配置長さ(L2)を152μmとした以外は、実施例と同様にして、比較例3のサンプルC3を得た。
【0078】
(液戻り量の測定方法)
各サンプル品の表面シート側を表側に向け平坦面上に置き、サンプルの中央部分に漏斗を用いて、人工尿(尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.7954質量%、硫酸マグネシウム(七水和物)0.11058質量%、塩化カルシウム(二水和物)0.06208質量%、硫酸カリウム0.19788質量%、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.0035質量%及びイオン交換水(残量))を1cmの高さから5g/secの速度で注入した。注入完了後、5秒間放置した。次いで、各サンプルの表面シート上にろ紙(東洋濾紙株式会社製5C150mm)を15枚重ねて載置し、サンプルを覆う大きさのアクリル板上に2kgの錘を載せ、95kg/m
2の圧力を5秒間かけた。その後、ろ紙を取り出して、研精工業株式会社製の電磁式はかりGX−4000の装置により測定前後のろ紙の重量の差を求めることでろ紙が吸収した液量を測定し、これを液戻り量とした。
【0079】
(表面液流れ長さの測定方法)
吸水ナプキンを、その表面シート側を上方に向けて、45度に傾斜した板上に固定した。吸水ナプキンの中央部(排尿ポイント)の位置に、表面シートより10mmの高さにマイクロチューブ(内径3mm)をセットし、赤色2号で着色した水道水を4g/minの流速で滴下させた。最初に表面シートが濡れた地点から水道水が吸収体に初めて吸収された地点までの距離を測定し、その吸水ナプキンの液流れ長さの値とした。
【0080】
上記の方法により測定した液戻り量(mg)及び表面液流れ長さ(mm)の結果を下記の表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
上記の表1が示すとおり、実施例1は液戻り量及び表面液流れ長さの両方を低い数値に抑えられていた。したがって、実施例1は、比較例1〜3では達成できない液戻り防止及び表面液流れ防止の両立を実現できたことが分かった。